太陽の男 作:ヤマトかわいいよヤマト
今俺は猛烈に逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
まずひとつ覚えて欲しいのは俺は転生者だ。
何番煎じだよなんて思いは置いておいてこの状況はまずい。ヒジョーにまずい。
俺が生まれ落ちたのは江戸の街……のような場所。
最初は過去にタイムリープかな?的なことを思ったとも。でもここで暮らしていくうちに見たことある顔らしき人物を見かけるようになった。
初めは気にも止めてなかった。でも、今俺の隣に座る"1人の幼女"と先程まで見ていた"とある光景"によりここがあの世界だということを理解した。
「ひっぐ…えっぐ…」
ひとまずどうしよう。隣の幼女が一向に泣き止みそうにない。
ここはひとつ明るいギャグを、と思ったが"あれの後"にそれは酷だなと断念。
ひとまず声をかけよう。うん、そうしよう。
「そろそろ泣き止んでもらえないかな、"ヤマト"くん」
ヤマト、男のような名前だがれっきとした少女の名だ。
「だって……だって……えぐ、ひっぐ……」
そんなしゃくり声を上げながら仕切りなしに目から溢れる液体を手で腕で乱暴に拭いている。
なんでこんなことに、それは数時間前に遡る。
それはとある町の笑われ者…いや、笑われ者になってしまった男の公開処刑があった。
なんやかんやで街はパニック。男の処刑後ちょっとしたいざこざが起きとある城にて大男がとある小さな子供を最上階から落とそうとしていた。
隣で泣くヤマトはその男の子を助けようとその場に向かったが何も出来ずに見ていることしか出来なかった。結果的にその子供は落とされることは無かったが燃える城へと放り込まれ生存は絶望的。そんな光景を目の当たりにし、自身の無力さに涙を流しているというわけだ。
なんとまあ優しいやつだ。お前のせいじゃない。気に病むことは無い。
かけたい言葉は山ほどあるが傷口に唾をつける程の効果もないだろう。
そういう奴だ。
だからここでかける言葉はこれしかない。
「強く…なろうな?」
ヤマトの方は見ない。ただ真っ直ぐ破壊された街に目を向ける。
隣では何度も首を縦に頷きながら泣きじゃくる1人のか弱い少女がいた。
俺はワンピースの世界、ワノ国に生まれていた。
◆◆◆
あれから3年くらい経った。
俺はあれから体をちょくちょく鍛え、覇気の習得に勤しんでいた。
覇王色までとはいかないまでも武装色、見聞色くらいは身につけておきたい。そんな気持ちから始めたマイペースな特訓だが安定して使えるかと言われれば微妙だが、ある程度感覚は掴めてきた。
「うし」
今日は調子がいい。昨日よりも感覚が研ぎ澄まされているような不思議な感覚がある。この調子で何とか完璧に物にしていきたい。
そんなことをしていると、
「あ、見つけた!」
「ん?あぁ…ヤマト…」
「む?なんだその反応は?僕が来て嬉しくないのか?」
「いや、まあ、うるさいし」
「なんだとぉ!」
あれから暇があれば俺に会いに来るヤマトくん。
あの日が初対面だったというのになかなかに懐かれてしまったみたいだ。
ちなみに言うとこの頃にはヤマトくんは覇王色の片鱗を見せていたりする。俺もほすぃ…。
「それにしても君の型って綺麗だよね」
俺の動きを見たヤマトがそんなことを言う。
前世から色んな武術かじってたし、この街でもそういうことに関する本とかはあるわけで自衛手段として覚えた古今東西のあらゆる武術を組み合わせて作った俺による俺だけの俺のための武術の型を練習している。
意外と氣が研ぎ澄まされるから覇気の習得にはもってこいなんですわ。
「これくらいしか取り柄ないしな」
「僕にも教えてー!」
「やだ」
そんな会話をしつつ時間は過ぎていった。
◆◆◆
ある日のこと。
「僕は光月おでんになる!」
何を言っているんだコイツは?と普通はなるだろう。だが俺は転生者。ちゃんと分かってます。……いやまあよく分からないけどね。うん。
「あ、はーい。頑張ってくださーい」
「…なんか適当じゃないか?まあいいさ。つまりはだな僕がおでんになって君は僕の家臣になるということで━━」
「おいおいおいおい?」
なんと言ったこいつ?俺が家臣?
「いやだわー」
そういう俺の顔は渋い顔をしていたと思う。
俺は平和に生きたい。首を突っ込まなくていい問題には突っ込みたくない。この世界で生きてくならなるべく目立ちたくない。故にこいつに付き合ってられない。
「いいじゃないか〜。頼むよ〜」
「引っ付いてくるな…!」
そう言いつつ顔を押し返してはいるが……いかんせんパワーが強い!
流石は四皇カイドウの娘……息子?
あとこの歳になってくるとあんた色々成長してるのよ。まずいよ?ワシの息子スタンダップするよ?
そうやって粘り続け何とか離れてもらった。
「僕より年下なくせに生意気…」
「……関係なくね?」
あとお前の方が生意気じゃね?
ちなみに俺は今8歳、ヤマトは11歳だ。3歳差だね。
「じゃあ今から決闘だ!僕が勝ったら家臣ね!」
「いやでーす」
そう言って走り出す。
「あ、コラ待て!」
「……『剃』」
六式の1つ剃を使いその場から離脱。練習したらできたんだよね。まあ実践ではまだ無理レベルだけど。
そんな中ほうけた顔をしていたヤマトは逃げられたことに憤慨していたようだ。
「ずるいぞー!カグラー!」
これはそんな俺の物語。