太陽の男 作:ヤマトかわいいよヤマト
「ちょっとヤマト降りてて」
「うん」
そう言って抱えていたヤマトを地面へと下ろす。
ヤマトの目も目の前の大男に向けられていた。
「オメェがカグラとかいう小僧か。俺の城に単独で忍び込んだその胆力だけは褒めてやる。だが……生きては出られねぇぞ」
その迫力に押されそうになる。背中には気持ちの悪い冷や汗。今すぐドロンしたい。
だがまあ、
「上等だよ…!」
友達泣かせたツケは払ってもらわんとこっちも気が済まん。
「クソオヤジが…!」
隣に立つヤマトも目の前の大男、カイドウを睨みつけていた。
「ウォロロロロッ!威勢だけは一丁前にあるみてェだな。だがなァ、んなもんで乗り切れるほどこの世は甘くねェ。俺を倒せると思ってるのか小僧」
十中八九無理。でもまあ、
「やるだけやる、だな」
人は窮地にこそ進化する。負け試合だとしても強さに行き詰った俺にちょうどいい壁だ。……いささか高すぎで分厚すぎる壁だけど。
それこそ
とりあえず、目を開けろ。耳を研ぎ澄ませ。鼻も効かせろ、舌で感じろ。殺気は肌で。五感をフルで活用して攻撃に備えろ。カウンターは狙うな。どうせダメージは通らん。
そうして構えを取ろうと、
「"
「っ!」
次の瞬間俺は空中に飛んでいた。いや、飛ばされていた。
「ゲフ……」
「カグラッ!!」
ヤマトの声が聞こえる。それのおかげで何とか意識を取り戻した俺は地面へと着地した。
「……紙一重で避けたみてェだな。バカ息子が目をかけるだけある」
「はぁ…はぁ…」
っぶねー!掠った。
何とか反応して身をよじって躱したがビミョーに掠った。
てか掠っただけであんな吹っ飛ぶことある!?意識も落ちそうになったんだけど!?
血もダラダラと頭から垂れてくる。鬱陶しいったらありゃしない。
「目は死んでねェな」
「はぁ…はぁ…フゥーーあたぼうよ」
息を深く吐き整える。避け切るのは無理。なら次は、
「ムカつくぜ。その目」
そう言いながら上からそのまま無造作に金棒を振り下ろしてくるカイドウ。
シンプル故に圧倒的な破壊の一撃。
柔をもって剛を制す。左手に武装色を発動。無事に左肘辺りまでが黒く変色した。
振り下ろされる金棒に合わせて左手の甲を添える。
「いっ…!」
しかし、そのスピード、パワーは凄まじくかなりの痛みが走る。しかし、それを無視して体を左側へ左手を右へと移動させながら金棒の軌道をずらした。直後鳴り響く轟音。たまらずその衝撃で体が吹っ飛びそうになるが足に力を込め何とか踏みとどまった。
今のとこ何とかできてる。が、はっきり言って勝てる未来は浮かばない。
ここまでいなせてるのもひとえにカイドウがまだ酒で酔っていて攻撃の精度が甘いおかげだ。
通常時ならもう死んでる。
「……まさかその歳で覇気を扱えるとはなァ」
さすがに気づくか。
「精度は甘いけどな」
「その歳なら十分だろう。だが、確かに俺と殺り合うには足りなさすぎだぜ」
「チッ、わからいでか…!」
そういえば気づけばヤマトがいない。逃げた?違うな。多分、
そんなことを思ってるうちに金棒を構えてるカイドウ。あの構えは、まずいな。
「"
その声とともに感じる圧倒的気配。とんでもない衝撃波が迫ってきていた。
「"武装"」
折れかけの左手に武装色を纏わせる。このまま受ければ死ぬかもしれん。それなら左手差し出してでも生き延びる。
今まで特訓してきた武術の技のひとつ。俺による俺だけの俺のための編み出した武術の一撃。
「"
引き絞った左の掌底を前へと突き出す。その瞬間感じる左の腕がへし折れる感触と大気が揺れる衝撃。
こんなんで止められるとは思ってない。すぐさま俺は後ろへと飛んだ。
衝撃を少しでも減らし流れに逆らわないで受け流す。かなりダメージが入るだろうが死にはしない。と思う。たぶんね!
「グッ……!」
全身から血を吹き出しつつも何とか地面へ着地右手を地面にめり込ませながら勢いを殺す。
何気自分でも驚いてる。自惚れじゃないし、カイドウが本気でもないのはわかってるがそれでもカイドウの攻撃にここまで耐えれてる事実に仰天だ。
だがそろそろきつい。てか痛い。節々が錆びてるように動かなくなってきた。
それでもそんなこと知らんとばかりにゆうゆうと近づいてくるカイドウ。
「やべぇ…」
そんな時、
「カグラから……」
「ぬ!!」
「離れろ!クソオヤジ!!!」
金棒を手にしたヤマトがカイドウに飛びかかっていた。
「ヤマトォ!!!」
それを目にしたカイドウはすかさずヤマトへと金棒を走らせていた。
まずい。今のヤマトに原作ほどの強さはない。あの飛び掛り方を見てもそれは一目瞭然だ。
あのまま受けたらかなりのダメージだ。
俺は、動きづらくなった足を無理やり動かして、
「"剃"」
カイドウへと一瞬で肉薄。ダメージを入れるわけじゃない。まず覇王色が無い俺には無理だ。だから吹っ飛ばす。
右に握りこぶしを作りカイドウの体へと軽く当てる。
イメージは波のない綺麗な水面に水滴が落ちたような波紋。それをカイドウの体に伝える。中に浸透させることをイメージ。
「フッ」
そんな短い息を吐きながら体へと深く押し当てた。その瞬間に弾き飛ばされたように空中に弾き出されるカイドウの体。
「っ!」
「有象無象の一撃だと思って無視してただろ?ダメージが入らないにしても邪魔はできる」
「カグラ!ありがとう!!」
その言葉と共にカイドウの顔面へと振り下ろされるヤマトの金棒。
小気味いい音を響かせながらそれはカイドウのこめかみ辺りへ直撃した。
その後俺の横に着地するヤマト。
俺は土煙に紛れるカイドウに目を向けていた。
「あぁ…ウザったいガキどもだ」
やがて土煙が晴れ見えるようになったカイドウは一切ダメージが通ってる様子はなかった。
「クソっ!」
ヤマトがたまらず悪態をつく。俺は予想はしてたから特に思うことは無いが、でも、
「きちぃな…」
さすがに体はもう限界。10歳のガキンチョにしては頑張った方だろ。
そんな時、
「カイドウ様ぁー!」
廊下の奥の方から聞こえてくる大勢の足音と声。
追いつかれたか。
「カグラ!追っ手が!」
「はぁ…はぁ…」
「……限界みてェだな、小僧」
ああ、そうだよクソッタレ。
無理だ。もう無理。体がマジで動かん。立つのでやっとだ。
しかし、無情にも足音は近づいてくる強力な気配も感じる。大看板とか、飛び六胞とかかな。目も霞んで見えてこない。
「侵入者を捕らえろ!」
もうすぐそこまで来てる。多分囲まれた。
ヤマトかな?俺の体を揺すぶってる。でも疲れた、流石に。
でも流石に周りがうるさい。声がガンガン頭に響く。
だからたまらずこんなことを言ったんだと思う。
「うるせぇ……!頭に響く、口を閉じてろ…!」
その俺の言葉を皮切りに俺の周りの気配の大半が一気に消えた。
なんだろ。何が起きた?分からん。てか頭働かね。
ヤマトが俺に声をかけてるのだけはわかるがそれ以外はもうさっぱり。
そんなヤマトの腕に体重を預けながら俺は気絶した。