太陽の男 作:ヤマトかわいいよヤマト
あれからだいぶ経った。多分1ヶ月くらい。
「クッ…」
小さなうめき声を出しつつ俺の攻撃を避けるヤマト。
もちろん目隠しはあり。掠ることは多くあれど、そんな状態で俺の攻撃を9割8分は避けられるようになっていた。
ちなみに左腕の治りも上々。念の為あと三日くらいは様子みるがほぼ治ってきていた。
「よしおっけ」
「ふぅ」
俺がそう合図すると同時に後ろへ倒れ込むヤマト。
「つ、疲れるね」
「それだけ集中できてるってことだ」
とりあえず見聞色の覇気はスタートラインから一歩踏み出せた段階には来れたかな?取っ掛りさえ掴めればこいつの才能ならすぐに実践レベルにまで鍛えられるだろう。
「見聞色の覇気の特訓はここら辺でいいかな」
「!じゃあ」
「うん。武装色の覇気の特訓に入ってこか」
これは感覚だけどどちらかと言えば見聞色の覇気より武装色の覇気の習得の方が難しいと思ってる。
見聞色の覇気は相手の気配を察する、言わば第六感みたいなものだ。だから五感を封じた状態で特訓すれば自然と身についたりする。が、武装色の覇気に関しては自分の覇気を自覚しなくちゃいけない。自覚した状態で纏う。難しいねぇ。
「次は何をするんだ?」
横になり目隠しはそのままで俺の方を向きながらそう聞いてくるヤマト。
「まずは纏う感覚を掴まにゃ何も始まらん。だから最初はすごいシンプルだ」
そう言いつつ、はい立ってと急かす。
よいせ、なんて年寄り臭い言葉を口にしつつヤマトは立ち上がり伸びをした。
「まあ言ってしまえば……力め」
「え?」
「筋肉に力込めて思いっきり力め。ただ、何も考えずに力むんじゃなくて内側から鎧を着ていくことをイメージしながらな?覇気をひり出してけ」
「な、なるほどぉ…」
困惑してる。まあ、そうだろうね。難しいしね。俺も最初そうだったし。
「はい、スタート」
「え……」
呆ける顔をするヤマト。目隠ししてるからなかなか面白い絵面だった。
「ほら、ぼさっとしない」
「あたっ」
いつもの脳天チョップが炸裂した。
◆◆◆
あれから3日。俺の左腕も治りヤマトも三日三晩、ふんぬぬぬぬぬ!と力み続けていた。
「ぷはぁ、ダメだぁ……」
「まず自分の中にある覇気を自覚だ。それを外に出して纏うんだよ。見聞色の覇気が出来るなら自覚くらいならできる。落ち着いていけー」
そういうと手のひらを見ながら何かを考えているヤマト。
そしてその場に座り坐禅を組み始めた。
「何しとん?」
「君がよくやっていたこと。何か分かるかもって」
なるほど。確かに氣を高めるとは覇気を知覚しやすいからな。だがまあ、
「集中が甘い」
「あいた!」
「あと坐禅はこう」
「いた!いたたたた!」
こいつ体が硬ぇなと思いつつ足を無理やり組ませる。
痛がってるがこの痛みを無視できるほどの集中が出来たら瞑想になるわけだ。
「……お前今日から寝る前に柔軟な?」
「わ、わかった!わかったから!あ……いたたたたた!」
パワー型戦闘スタイルのやつの特徴。柔軟が苦手。
◆◆◆
あれから1日が経ち、
「頑張れ頑張れ出来る出来る絶対出来る頑張れもっとやれるってやれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだそこで諦めんな絶対に頑張れもっと積極的にポジティブに頑張れ頑張れ」
「ぐぐぐぅぅぅぅうう!!」
いつものように特訓していた。
額に青筋が立つヤマトの顔だったがそれでもなお綺麗な顔なのはなんだか腹が立つ。
そんなことを思ってると、
「ん?」
「ぷはぁ!はぁ…はぁ…ダメだあ!」
「いや、いけてた」
「え?」
今一瞬だったが痣のような黒い点がヤマトの白い肌に出ていた。
「さっきのやつでもう1回。GO」
「う、うん。すぅーー、ふん!」
額に青筋、腕には隆起した筋肉。
そうしてそのまま力み続けること数十秒。
「お?」
手首あたりから黒い色が浮き上がり少しづつ、すこーしづつ指先の方へと侵食していった。
「おー!よくやったヤマト」
「え?……やったぁ!あ……」
そう気を抜いた瞬間、消える武装色の覇気。
「……」
「……」
「もっかいな」
「うん」
◆◆◆
「カグラ」
ある日のこと、寝そべりながら俺の名を呼ぶヤマト。
「んー?」
「あれからどれくらい過ぎたかな」
そう聞かれたので壁のとあるところを見てみる。
そこには何かを掘ったあと。
「……2ヶ月と半月くらいだな」
「もうそんなに経ってたんだ」
俺もヤマトと同じ感想だ。こんな何も無い空間で2ヶ月以上過ごしてるとか精神を疑うレベルだ。
だが、別に辛いかと言われればそうでもなかった。
「……初めてだ」
「何が?」
「この場所で過ごして楽しいなって思えたのは」
「……あっそ」
俺もだ。こんな場所でも楽しくなれるものなんだなっと我ながら感心する。
「……カグラ」
「どした」
「3つ目の覇気って何?」
唐突だな。
とりあえず結論を言うと、この2ヶ月とちょっとでヤマトは2つの覇気を身につけることは出来た。実践レベルかと言われれば首を捻るがこの短時間ではなかなかのレベルだ。
それからここ3日目隠しした状態で常に武装色の覇気を発動させた状態で俺と組手していた。
そんな中で聞かれた3つ目の覇気。別に教えてもいいか。
「……覇王色だ」
「覇王色…」
「一部のやつだけが扱える覇気。王の資質を持つやつが持てる覇気だ」
「……その覇気はどういう効果があるんだ?」
どういう効果か…。難しい質問だ。どう言えばいいか。言葉での説明が難しいな。
「……一言で言うならカリスマだな。王としての威厳を相手にぶつける、みたいな?威圧するだけで相手を気絶させられたりする。ちなみにお前も素質があるぞ」
「……じゃあカグラもだな」
「なわけ」
バカにしたように苦笑する俺。
「ううん、クソオヤジと戦ったあの時、カグラ使ってた」
「……は?」
「雰囲気もいつもと全然違ってたし、何より周りの襲おうとしてた人達が倒れた。クソオヤジですら目を見開いてたよ」
マジか。あの時のあの気配の減りようはそういう……。
いやでも俺が覇王色を?妄言にしか聞こえないぞ。
……でも事実なら、
「覇王色は特訓しないのかな?」
考え事をする俺にそんな声をかけるヤマト。
「んあ?ああ、これに関しては特訓でなんとかなるとかじゃないんだよ。戦いの中でレベル上げしてくしかない。特訓しないんじゃなくて出来ないわけ」
そう言うとなるほどと納得するヤマト。
とりあえず俺は今一度自身の覇気を見直すために部屋の隅へ移動し正座で座る。
脛に小石が突き刺さるがそんな痛みは露知らず。背筋を正し手は太ももに。
「カグラ?」
「……」
ヤマトの声もなんだか遠く、耳に微かに入るだけ。
集中だ。周りが気にならないほどの集中。呼吸に使う酸素も最低限に。
隣に何かいる。ヤマトだろう。ヤマトも隣で坐禅を組んだ。見なくても分かる。
それから残りの期間。俺とヤマトはそんな風に過ごしていった。
◆◆◆
「ヤマト、今日か?」
「ああ、昼頃に来るはず」
ついに今日俺たちはここを出る。なかなかに優雅でためになった監禁生活だった。
断食していたこともあり体力低下は仕方ないが不純物が落ちたようなスッキリした気分だ。
「ヤマト。とりあえず迎えが来たらして欲しいことがある」
「分かった。何をすればいい?」
即答だな。まだ要件言っとらんぞ。信頼されてるのは嬉しいけどちょっと心配なるで。
「それはな━━」
そして、
「ヤマト坊ちゃん、そしてそこの痴れ者。カイドウ様がお呼びです。着いてきてください」
そんな声とともに出口が開けられた。
……あと俺の扱いもうちょっと優しくして。