太陽の男 作:ヤマトかわいいよヤマト
『不仲の演技?』
ヤマトは首を傾げ俺の言った言葉を反復した。
時間は天の岩戸から出る前のあの時の話。
『そ。まず第一にだ。お前は丸腰だ』
『うん、まあ、そうだね』
『だからお前がここを出たらまずやるべきは武器の金棒を確保するってことだ』
『ふんふん』
正座でそんなふうに相槌を打つヤマト。
それでもなお顔が俺の胸元の高さまであるのはちょっと腹立つ。
マジでおまえらは人間?背高くなりすぎよね?
『てなわけで、カイドウの前からすんなり姿を消してほかの雑兵に不審がられないようにするにゃ不仲になるのが1番』
元々、飯の取り合いで殺し合いをさせようとしてたからね。不仲にさせるのが狙いなら利用するしかないよね。
『わかった。任せて』
「……ちょっと遅いぞヤマト」
「ごめん!見張り全部殺ってた」
「……やるぅ」
カイドウの攻撃を何とか弾き俺の横に着地するヤマト。
凄いな。精度は低いしまだまだ不完全だけど覇王色纏ってたぞ今。
「ヤマト、何でテメェがここに!?」
飯の取り合いという策が成功していたと思っていたカイドウだ。そりゃ驚きもするか。
「はっ!そんなこと教える義理はない!」
そう言って再びぶつかり合う両者の金棒。
だが、やっぱりまだまだ実力が足りない。カイドウに押し返されるヤマトは何とか地面に金棒をめり込ませ勢いを殺し止まる。
「カグラ!動ける!?」
「あと10秒は欲しい」
「分かった!」
そう言って立ち上がるヤマト。
金棒を握る手に力が入っていく。
「おい!
「ぬ!?」
ここで初めてヤマトはカイドウと、呼び捨てにした。
カイドウ自身もそれに驚いているようだった。
「行くぞ!スゥーー」
息を吸い込みつつ金棒を構えるヤマト。
金棒の先から黒い火花のようなものが見えてくる。
「ヤマト!テメ━━」
「"雷鳴八卦"!!!」
それはいつぞや見た、いやさっきも見たカイドウの技。
それをヤマトが使った。
でも、
「カグラ!」
「ん?」
「どうかな!?」
「…んー、63点」
「う……」
完成度は低い。覇王色の覇気を纏えていたしスピードも負けてなかった。
ただやっぱり覇気の質や、素のパワーが低い。
完成系とは言えないだろう。
ただ、それでもなかなかの威力。虚をついたこの攻撃はカイドウに血を流させていた。
「テメェ……」
なんて言いながらヤマトを睨みつけるカイドウ。もう俺の事など無視のようだ。
まあ、いいや。とりあえず体も動かせるようになった。骨が軋む感覚が身体に走るが別段そこまで動きに支障はない。
そして、俺は悠々とカイドウへと近づいていく。
腰を落とし、カイドウの体に狙いを済ませ……。
……今ならやれる。もう何回もカイドウの攻撃はくらった。力の流し方はだいたいわかった。断食していたことで余計な不純物も落ちて体の隅々に至るまで理解出来る。
ヤマトが出来たんなら俺にもできる。あいつの隣に並び続けろ。
集中……集中……、
そんなことを思いつつ左手で狙いを、右手を引き構えを取っているとやがて右手に流れてくる何かの感覚。
そして、
「カイドウさん!」
「っ」
大看板のひとりだろうか、そいつの声で俺に気づくカイドウ。
でももう遅い。
「"
「グッ…はァ…!」
めり込む拳はカイドウの体に触れていなかった。
間に何かあるかのような変な空間。そこに迸る黒い火花。
そうしてカイドウの体は後ろへとふっ飛んでいった。
ヤマトのように金棒で地面を突き刺し勢いを殺し踏みとどまるカイドウ。
その顔は驚きの顔になっていた。
「カグラ!」
「……出来たな」
嬉しそうに笑うヤマトに親指を立ててそんな返しをする。
俺自身もだいぶ驚いてる。自分の覇気じゃないような感じ。多分ヤマトの覇気、他人の覇気に触れてみて知らず知らずで図らずとも俺自身の覇気も練度が増したって感じだろうか?
「さてと……ヤマト」
「?……あ、そうだね」
さてそんなことより、話し合っていたことを早速していこうか。
よし、
「逃げるぞ」
「ああ!」
踵を返し、2人で全力で走り始めた。
「あ?」
後ろからそんな惚けた声が聞こえる。カイドウだろう。
それを意識するだけでだいぶ笑える。
部屋の扉を2人で吹き飛ばしながら廊下へと出る。ヤマトの見張りは全部やった発言はホントらしく、まさに廊下は死屍累々。
「やるやん」
「……えっへん!」
腰を手に、胸を張りドヤ顔のヤマト。後で頭撫でてやろうな。
「でも、きついのはこっからだ」
「分かってるさ」
「気合い入れてけ」
「もちろん!」
見張りを倒したと言っても騒ぎを聞きつけこちらに向かってくる影はある訳で。
だが、
「邪魔」
「フンッ!」
止められるものもいないわけで。
なんてったって、後ろから迫って来る大看板とカイドウに比べたら可愛いもんでしょ。追いつかれたくない一心から凄まじいパワーが引き出されます。
「ヤマト、俺ここの地理はわからんから道案内よろ」
「任せて!」
こうして俺たちの脱出劇は幕を上げた。