太陽の男 作:ヤマトかわいいよヤマト
「ヤマトーパス」
「よ……いしょ!」
「ぐああぁぁぁああ!」
敵をヤマトに投げつけ、ヤマトが金棒で後ろへと吹っ飛ばす。
蟻が象を噛むほどのものだと思うが、追ってくるカイドウたちの多少の邪魔になっているとは思っておきたいものだ。
「カグラ!こっからどうする!?」
「……んーどうしようね」
「ノープラン!カグラらしいね!」
そう言いつつもなおも増え続ける追っ手たち。
このままじゃジリ貧だ。
……やってみるか。覇王色も纏えた今なら出来るはず。
「ヤマト」
「ん?」
「止まるなよ……シィーーーー」
独特な呼吸法により氣を練る。これは覇気とは違う。武術において重要とされる力の流れだ。
なにか纏う訳じゃなく筋肉の躍動によって生まれる力。それにより生まれる気配。それの操作のようなものだ。
「……"
そうつぶやくと同時に速度を上げ駆け出す。と思ったら速度をいきなり落とす。そしてまた間髪入れずに速度を上げる。
足の力みはいらない。脱力からの筋肉を張る、その差で生まれる爆発力を利用して雑兵の中を駆け巡る。
そして、
「"
雑兵全てにすれ違いざまに掌底をぶちあてる。全て水月にクリーンヒット。フッ…決まったぜ。
雑兵は肺から息がほぼ吐き出され声も上げられずに地面に崩れ落ちた。
「カグラすっご!」
「でしょ?俺すげーの」
目をキラキラと輝かせるヤマト。
まあ、1番びっくりしてるのは俺だけどね。こんな上手く決まるとは思ってなかった。
やっぱり薄々思ってたけど多分今の俺はスポーツのアスリートで言うゾーンに入ってる。驚異的な集中力。
今だから出来たんだろうな。逆に言えば今じゃなきゃ出来ないって訳だ。
「今のってなに!?ねぇ、なに!?」
隣を走るヤマトがそんな感じで声をかけてくる。
ねぇ、すごい楽しそうだね?今状況わかってる?後ろ見てみ?地獄が近づいてきてるよ?
「……特殊な歩法と特殊な呼吸法を合わせることで自身の気配を消すってだけだよ。なんて言うか透明人間化?する技みたいなもん」
「僕にも後で教えて!」
「やだ」
因みにとある中国武術師の人の技を参考にしました。ありがとうねほんと。前世やってたゲームで推しのおじいちゃんでした。渋カッコイイんですよねほんと。
「っ!?」
瞬間脳内によぎるひとつの光景。
「ヤマト!」
「え?」
咄嗟に俺はヤマトの腕を掴み全力で前方へぶん投げた。と同時に地面へと伏せる。
瞬間、頭上で雷のようなゴロゴロ音が響いた。
伏せた顔を前に向けるとそこには巨大な影。
「チッ!めんどくさいなお前…」
「そいつァ、俺のセリフだ…!」
カイドウが俺を睨みつけていた。
雷鳴八卦。名前に負けぬ、まさに雷鳴の如きスピードで距離を詰め覇王色を纏った金棒でぶん殴る単純、しかして強力な一撃の技。
それを使って一気に追いついてきたか。
「まずいな…」
前にはカイドウ。後ろからは大看板。
まさに、"前門の虎後門の狼"だな。
後ろをちらりと見てみる。
空を飛翔する黒い影を先頭に首が異様に長い巨体、鼻が異様に長い巨体の影が見えた。
こうなったら、
「フゥ……スゥーーフンッ!"
「小僧が……何もさせねぇぞ!!」
思いっきり足を踏み込み腰を落とす。辺りが地震が来たように揺れるがそれをフル無視でカイドウはこちらに向かってくる。
「ヤマト!横に飛んで壁壊せ!」
「分かった!」
変にこちらに助太刀しようとせず俺の指示で即動くヤマト。信頼されてるのか見放されてるのか……前者であって欲しいね。
そんなことはさておきだ。カイドウは今にも俺を殺さんばかりの形相で金棒を構えてる。
さっさとやるか。
そうして俺は相撲の始まり、腰を落とし両手の握りこぶしを地面につける姿勢をとる。
「俺と力比べでもしようってか!?」
「"
「!」
「"
そうして一気にカイドウの懐へ潜り込み両手を思いっきり体へと押付ける。俺の手とカイドウの体の間にできる空間。それを無理やり押し込み続けて圧縮し、そして、
「ぬぅッ!!!」
「うらあぁぁあ!!」
圧縮が解放され吹っ飛んでいくカイドウ。
今のうちだ。
「ヤマト!」
「空いたよ!こっち!」
「ナイス!」
2人でその出来た穴の中へと飛び入る。
「大分吹っ飛んでったな」
「まあな。でもダメージは無い。吹っ飛ばす、距離開けること優先でやったからな。それでも時間は稼げるでしょ」
そんな会話をしつつだだっ広い和室を抜けていく。
凄い。我ながら凄い。命がかかるとここまで頭は冴えるものなのかと驚いていた。
まずいな。ヤマトはこれでもなかなかの戦闘狂だ。光月おでん。彼のことで強くなることになかなかこだわってる。
そんなやつと関わってきたからなのだろうか。
……ちょっと楽しいと感じてしまってる自分が怖い。……変な癖がついたな。
「一旦どこか隠れる?」
ちょっと自己嫌悪に陥っていたところにヤマトからそんな声がかかる。
走りつつ顎に手を当て考える。
「……ありっちゃありか」
さすがに後ろが多すぎる。一旦身を隠して撒きたいのは事実だ。
「でもどこに隠れるよ?」
「そうだなぁ……どこにしよう?」
「お前、俺に似てきたよな」
「じゃあ!とりあえずあっち!」
「適当か」
とは言うもののいい案も浮かばんのも事実で。
とりあえずヤマトの先導の下俺も後を追う。
「そこの部屋に行こう!」
「おっけ」
隠れる場所が決まったのなら一旦追っ手の目を塞ぐ必要もある。
俺は少しジャンプして畳の端っこの方、そこを思いっきり強く踏みしめた。
すると剥がれ上がる畳。この邸の畳とかも特大サイズだからなかなかの大きさでいい壁だ。
それをそのまま追っ手の方へ押し蹴る。
うわあああああ!なんて声が聞こえたから成功であるだろう。そう願いたい。
その隙に2人で目的の部屋へ逃げ込む。
扉を開け中へ、すぐに閉め。そして、
「「はぁーー」」
2人で束の間の安堵を手に入れた。と思っていたら。
「あら?こんなところに珍しい人達が来たのね。ここも戦場になったりするの?やだねぇ」
後ろからそんな声が。
見てみると6m程の巨躯。だからと言って筋骨隆々な男というわけじゃない。原作でも見た事のある妖艶な巨大な女。
「マジかよ…」
「まさかここって…遊郭…」
ヤマトの声で確信した。
こいつは、
「ところでカグラだったかしら。お前さんは私の事……好き?」