元ヒトのインクリング : 旧   作:ノリと勢い

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"ヒーロー"

 

 

 

 

 

 監視カメラの映像を少しだけ覗き見るなどして辿り着いたのは、そこそこでかめの廃ビルだった。

 成程、色々と合点がいく。上空へ向かわせたクリオネの視覚カメラを見ても司令に共有された地図と完全に同一。間違いは無い。

 という事で心置きなくぶっ潰しますってことで。

 

 

 

「…………っ"……、っ"…っ"………

 っが……っはっ"…はっ"…………!!!」

 

 

「頭が居る部屋への道は?」

 

 

 

 門番の死角から口を塞いだ後、粘度が特別高いインクを生成しこいつの口と鼻にぶちこむ。

あとは簡単、水責めと同じ様な感じ。

 拷問っていうのはやりやすいものでもだいぶ効果があるもので、さほど死線を潜っていない奴なら数十分で吐いてくれる。勿論情報をね?嘔吐もするけど。

 

 …ちなみに(見張りの交代時間の情報とか)ないです。拷問中に訪問されても困るけど、そしたら訪問してきた方もご案内すればいいからだいじょぶだいじょぶ。

 

 

「お、教え……ね…え"……っ"は、っ"…は…!!」

 

 

「そっかぁ…」

 

 

 多分こいつは話さないんだろうなぁ。

組織人としては何より。優秀な人材も居るもんだ。

 まぁこんな仕事してるのが俺にバレた時点で二度とシャバの空気吸えるとは思わないでほしいけど。

 用済みなのでドゴン、と壁に投げつける。

 気絶した様で何より。

 

 

 

「お前はどう?」

 

 

仕方がないのでもう1人の方向へ振り返る。

屈強な身体つきをした男をいたぶる趣味はないので知ってるなら早く言って楽になってほしいんだけど。

 

 

「………ぃ、し、知ってます、知ってます。ころ、こ、殺さないでください、おしえ、教えます。」

 

 

 良かった。こっちは賢かったらしい。

にしても臭いけど。成人男性の失禁なんぞに需要はないので勘弁してほしい。あーきったね。

 

 ふむふむ、なるほど〜………?

よし、あらかた聞いた。

お礼にサービスしてあげよう。

 

 

「クリオネ。」

 

《YES》

 

 

ずぶしゅっとな☆

 

 

「い"、ぁ"、何"だ、こ、の"針ッ……ィ…!!!」

 

「麻痺毒。死なないから安心せい。」

 

 

ほんとクリオネ優秀だわ。

将軍さまさま。ありがとうございますね。

 

 

「あとは………………掃討戦かなぁ………」

 

 

まぁ、死角を獲ってから窒息させていけば苦も無く制圧できるだろう。拍子抜け感はあるけども、これに関しては俺の隠密力が高すぎる故…………

ユルシテクレタマエ。テルマエ・ロマエ。(激寒)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ふーむ。敵が多くなってきたなぁ………

勿論見つかるなんてヘマはしていないけれど、いっくらなんでもちょっとした小部屋に10人入っているとかは異常じゃないか?

 見回りだけ最初に全員溺れさせたあと拘束して外に放り投げといたし、監視カメラもない廊下だけ通ってきたし、ほんとに見つかってないハズなんだけど………

 

 っていうか、入口の見張りが言ってたボス部屋行ったのにボス居ないんだけど?どうなってんのこれ。

 

 下っ端本人達に聞いても『知らん』しか出てこないしな。やっぱ溺水だけだとパンチに欠けるか………?

まぁ豚箱の中で聞けばいいや。

 

 

………ん、声が聞こえるなぁ。場所はぁ……

 

 

 

 

 

 地下かぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………どいつもこいつも、俺の言う事だけ聞いときゃ良いのによ。」

 

 

 

 クソッ…………"ヒーロー"は本当に居やがるのにどうして信じねえ………どうして危険視しねえ………!!

 

『曰く、千体のタコの軍勢を返り討ちにした』

 

『曰く、この街の犯罪を尽く潰しまわっている』

 

 ……証拠も何も無い、荒唐無稽な、出どころが何処かも分からない虚言。確かに信じられない。

 俺だって実際に見てみるまでは信じられなかった。

 

 どうしても寝付きの悪い夜に路地裏の深部までわざわざ行って、寝る場所も無いタコ共を騙してアジトに連れていき薬漬け。

 ヤって捨てるもそのまま殺すもモノ好きに売り払って稼ぐも自由な、まさに天国だった。

 いつからか始めていた。

 その時から続けてきた。

 その時から育ててきてここまでデカくなった組織だ。

 

 

 でも、ある夜に見た。見ちまった。

 

 馬鹿みたいにデカいオオデンチナマズを、"ヒーロー"は片手で持ってビルの上を跳んでいた。

 

 

「っ……………」

 

 

 震えが止まらなかった。クラゲなんかと比べれば、そりゃあイングリングは力が強い。ある程度鍛えている奴ならバイクくらい片手で持てる。

 

 でも、違う。奴は───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────奴は。

 

 

 

 

「ッッッ……クソ、クソッッ!!!!!」

 

 

 思い出すだけで鳥肌が立つ。暗闇の中で、見えないはずの奴の目が俺に向いている気がした。

 今だって、背後から…………………

 

 

「クソがァ"ァ"ァ"ァッッッ!!!!!」

 

 恐怖を振り払うため衝動的に拳を床に打ちつければ、瞬く間に亀裂が広がる。良い威力だ。まともな奴が食らえばひとたまりもないだろう。

 

 ……………まともな奴が食らえば。

 

 そう、まともな奴なら。

 

 拳を見れば血が滴っている。どうせ1分も経てば治るというのに、それが自分の脆さを掻き立てるようで気に入らない。

 腹が立って仕方がない。他人の血を見なければ落ち着かない。だってそうすれば、俺は強いと分かるのだから。

 

 今ボコボコにした馬鹿な部下から顔を上げて視線を横へやれば、目に映るのは数々の鋼鉄の扉と手下。

 監禁部屋は全部で20部屋。つい一昨日一掃したばかりだから、埋まっているのはその内の1部屋だけだ。

 

 

「おい。」

 

「っ!?!?はい…………!!!!」

 

 

 あの1部屋の扉を見張っている手下に声を掛ける。

………良い、良い顔だ。

そう、俺は強い。俺が恐ろしいだろう。そうだろう。

 

 

「そん中に居る奴、出して来い。」

 

「えっ…………?い、いや、でも、なん……」

「つべこべ言うなァ"!!!!!」

 

「はい…………っ!!!」

 

 

 さっきぶち込んだ女。顔も身体も醜い上に性器すら使い物にならないが、形自体は良く整っている。

 どうせ二束三文だ。ここで死んでも損はない。

 手下を殴るのに使ったばかりのサックを取り出し装着する。あとは手下があの女を連れて来るだけだ………

 

 そうしたら!!!!

 

 

「俺の強さを、証明…できるぅ……!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………くっそ…なんでこんなのを俺が……」

 

 

 

 …………部屋にぶち込まれたばかりなのに、なぜかまたすぐに部屋から出されようとしている。髪ゲソを引っ張るな。痛覚が無い訳じゃないんだぞ。

 

 誰かが助けに来てくれて、私を引っ張っているこいつを脅して扉を開けた、とかだったら良かったんだけど、その考えに及ぶには状況証拠が足りなすぎる。

 

 ……もう到着か。

 

 

「…連れてきました」

 

「……ああ。………お前は戻っていろ。」

 

 

 手下らしき奴は気だるそうに、乱雑に私を放り投げた。仰向けで転がされ、本来ならば私が望んだ相手にしか見せてはいけない恥部が全て見られる。

 下品な笑いを見せつけるのはボスらしき男。救いの王子様とは酷い差だ。天と地でも足りないくらいに。

 

 

「………楽に殺して。」

 

 

 …………声が震える。肺が苦しい。

こいつにやられなくても、どのみち死んでたか。

 

 

「そんな勿体ねえことはしねえよ。」

 

 

「…………………くそったれ。」

 

 

 

 奴が拳をこちらへ構える。結局最後までこんなのだ。

 

 

 

 

 

 ………はぁ…………………

 

 

 ……でも、どうしても諦めきれない。私の生きる希望が居るかもしれないのだから。彼が、ヒーローが。己の道を進み、決して折れず、屈さず、周りを照らし、茨を燃やし尽くすあの輝きに目を灼かれてしまったのだから。

 もう一度転生できたらどうしよう?保証もないのに信じられない。2度続いて地獄だし。死ぬのは想像よりも痛いんだ。

 諦めきれない。彼なら諦めないから。私は彼ではないけれど、今の私は四肢すらないけれど、それでも彼なら諦めないから。

 

………………彼。

 

 

 願わくば、この愛が届くように。

 

 

 願わくば、この声が届くように。

 

 

 願わくば、この手が届くように。

 

 

 延々と言い続けた、呪いを呟く。

 

 

 

「タ ス ケ テ、"ヒ ー ロ ー"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッがァ"ッ"ッ"………!!!」

 

 

 静寂に、悲鳴と轟音が響いた。

 

 

 首を起こすとボスの股の間越しに見えるのは、吹き飛ばされたらしき手下とひしゃげた鋼鉄の扉。

 地上への階段とここを隔離する扉だった。

 

 

「……………ッ…っっ………っ……!!!!!」

 

 

 振り返ったボスが見るからに絶望している。

そう、だって。あれは。私の。私たちの。

 

 

 

「ヒ「ヒーロー。」

 

 

 

 ………ボス野郎にかき消された。

 

 

 

「………会いたかったぜ。お前は俺のことなんて一度も見たことねえと思うけどよ。」

 

「ああ。確かにお前みたいに弱そうな悪人は覚えておくだけ記憶の無駄だけど、要件は?」

 

「ッッッ………てめぇ……………!!!!!!」

 

「それよりさぁ、その後ろに居る子をさ?

 ……はよ、こっちに渡そうや?

 

「っ………………!!!!!………ぁ……っ……あ"ァ"!?

 調子乗ってん、じゃ」

 

「そういうのいいから。あとは署でね。」

 

 

 ふと空気が揺らいだ。

 ……………見えない。文字通りの一瞬だった。

とてつもない気迫が出たと思えば、ボス野郎が怯んで、それで、瞬きをしたら…………さっきまでボス野郎が居た場所に"ヒーロー"が居て、こっちを向いていた。

 右に視線を向けると、壁に叩きつけられて全身がひしゃげているボス野郎が目に映る。

 

 

「…………あっ…あぁー……やりすぎたぁ…か?……もしもーしぃー……?」

 

 

 常人だったら、きっと少なからず恐怖するだろう。

でも。私はこの光景を見て…………………

どこまでも深い彼の瞳を見て…………

 

 

 

 どうしようもなくっ……興奮していた……!!

 

 

 

 

 

 

「……………やっと、見れた。」

 

 

 

 

 

 

 私の生涯にはもう、ひとつの悔いも残ってない。

 私は絶頂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………【人体の欠損】。

 前世………人間の場合、本体から切り離された途端に血液と神経がどんどん出遅れとなっていき、数十分経っただけで繋ぐことが困難になってくる。本体も出血によっては死ぬ。それほど重篤な状態だ。

 

 しかしインクリング、オクトリングは違う。持ち前の回復能力が作用してかは知らないが、切り離されても雨で溶けても『元の身体を構成していたインク』が保存されている限りは、それを利用すれば時間も必要ではあるがいくらでも治る。

 

 要するに原型が無くなるまでドロドロになったとしてもアイスみたいな型を手の形で作って本体に良い感じにくっつけて元の体のインク流し込めば固まって復活する。

 

 そんな化け物なのである。残骸はクリオネに回収しておいたのである程度気にしなくてもいい。…良かったんだが………ついボスっぽい奴を本気で殴り飛ばしてしまったのだ。

 いや、重罪犯した奴なら死んでも問題無いやろって思うじゃん?でも死んだら死ぬより苦しい事を味あわせられなくなってしまうじゃん?

 そして殴り飛ばした体を見れば壁に胴体がめり込んでいるし、乱回転で吹っ飛んだからか四肢の向きもぐちゃぐちゃ…

 

 ………いくらインクリングが頑丈にできているとはいえ本格的に生きてるか怪しいな?

 近寄ってこいつの口に手をかざして呼吸を測る…

生きてる!!!!!ヨシ!!!!!!!!(確信)

 

 そしてそれとはまた別の問題がある。目の前のこの女子は裸なのである。しかも達磨状態。

 いやいや、正直前世でも今世でも色々あったし今更達磨とかのグロ方面じゃ心は何も動かない。動かないんだがぁ………

 

 …不謹慎だけど言う。えっっっっどい。

 

 …いや、だって俺肉体年齢的にはバキバキの青年ですし。そりゃ無理ないでしょう。なんでもかんでもエロに結びつくってのに同じ年頃の女子のは…はだ、裸て………

 

 エッチなのは駄目!!!死刑!!!!!!

 

 今この子殺されそうになってたから死刑は冗談じゃ済まねえんだよちゃんと考えて発言しろ。ほんまごめん。それはいいとして…いや良くないけど良いんだよ。

 

 いいとしてね?この子の服どうしよ。クリオネ?残念ながらあいつは半透明なので普通に見えるんですよね。

 

 俺の服を被せる?そうだなそうしよう。

 

 

 

「っよ……ほっ………」

 

 

 早脱ぎのスキルがこんなところで役に立つとは。

ほら君。新しい服よー……………………

 

 

「っ……………ぁっ…ァ……ッ…ァッ…ァァ…」

 

 

 …………緊張が解けたのかなぁ。

なんか………その……オブラートに包んで言うが…

失禁してるこの人…………(恐怖)

 

 とりあえず即座に後ろを向いた。さっきボスっぽいやつを殴り飛ばした時よりも速く動けた自信がある。

 まぁ普通に考えて四肢もげたらそりゃ怖いだろう。さぞかし不安だっただろう。決してこの場合の失禁は恥ずかしいことではないだろうと俺は思う。と擁護しておく。

 

 ッさぁー。こっからどうするかだな。うん。

まずはこの子の保護者に連絡…はしなくていいや。地上に上がってきたタコは大体訳アリだし。うちに匿う…いや流石に連れ込むのは気が引ける。だからといって置き去りにするのも中途半端に面倒見てから投げ出すのもな……

 

 

 ………………おかしい。背中越しに聞こえていた音が全て消えている………おやなんで倒れているんです?

 

 

「………あ…あのぉー………?」

 

 

 やべ、動揺してヒーローロール抜けた。

というかこの子がやばい。気を失ったっぽい?

息は………してる!!!とりあえずはOK!!!

白目は向いてるけどしっかり息はある…脈も……少し早めだけど正常……えっと……えと……

 

 

 そうだ!!この近くにカンブリアームズがある!そこにまずは行こう!!!!困ったらブキチに相談だ!!

 

 

 っ……いや待て待て焦るな。捕縛もしなきゃ。

とりあえずこの地下に乗り込む直前に通報はしといたからそろそろ警察も来るとは思う。

 

 …まぁ今まで倒した奴らも今倒した奴らもとびきり粘度の高いインクで鼻以外覆ってるから大丈夫か。

 とにかく今はもしもの為にも時間が掛けられない。

 

 

 

 

「俺がここまでしたのに死んでくれるなよぉ…?」

 

 

 

 

 いや、ほんとマジで………!

 

 

 

 

 

 








もうちっとだけ(継ぎ足し編集は)続くんじゃ。
次話もぜってえ見てくれよな!








目次からリメイクのほうにも飛べるんでぜひ見てください(懇願)


高評価感想オナシャス!





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