私はあまり人に恵まれなかったと思う。
母はいつも私を貶す。
『遅い』『不細工』『消えろ』
………何度言われたかも分からない。
弟は優秀だ。天才と言って良いほどに。
全てを等しく人並み以上にすることができ、私のような痣もない、綺麗な顔をしていた。
私には勿体無い弟だ。
父は数回しか会ったことがない。
母とはたまに会い、どこかで遊んで帰ってくる。弟が生まれてからは……何もない。
"愛して"ほしかった。愛のある言葉で"叱って"ほしかった。"消えないで"と言ってほしかった。"死ぬな"と言われたかった。私を"見て"ほしかった。
体は治るが心は治らない。
復讐したい。同じ目に合わせて苦しめて惨殺してやろう。蹴られて虐げられた気持ちを教えてあげよう。親が全て支配して良いと思っている腐った根性を切り裂いてぐちゃぐちゃにしてやろう。これからの先を奪ってやろう。
私は放任主義のお陰で自分でバイトをしてお金を稼げて、そして様々な娯楽を買えた。
中でも好きだったのが、あのVRのSplatoonだ。
………まぁ、それも親に捨てられてしまったのだが、結果としては良い方向に進んだと思う。そのお陰で私は殺して死ぬ勇気を得られたのだから。
…いざやってしまえば簡単だった。
台所から長めの包丁を取り出して母のお腹に突進して突き刺して、ぐりんと回して引き抜くだけ。
それだけで……
………ただそれだけで、苦しみが終わった。
────あぁ、もっと早くこうすれば良かった。
と、悲しみなど一つも感じない心を俯瞰しながら考える。
親子としての愛情など、もう消えていた。
弟も殺した。
次はもっと苦しんで死ねるように、画鋲をたっくさん貼り付けた椅子に突き飛ばして縛り上げる。
彼は叫ぶ。
『どうなるか分かっているのか』『こんなことをしてなんになる』『痛い。早く助けろ』『屑如きが』
……まるで自分がさも私を助けていたような口調で話すものだから、つい頭を割ってしまった。
───うん、どうなるか分かってるよ。
"こんなこと"をすると復讐になるの。
助けなかった人は助けられないのが当然だよね。
その屑に殺されているのがあなただよ。
………はは、私の手……汚れちゃったなぁ…
洗わなきゃ──────
「っ─うゔぉえぇ"っ…!!お"ぇえ"っ…!」
……飛び出た脳漿と血溜まりを見て、私はついに我慢できず吐き出してしまった。
目の前に映る嘔吐物の中に混ざっている虫の羽根や脚を見て、さらなる怒りと吐き気が襲う。
「…あぁ、お父さんも…………」
お父さんも、殺さなきゃ……………
…と、言い切る前に、私の視界が揺れる。
直感的に『あ、死ぬな。』と思った。
死にたくない。と思っても体は生命維持の限界を訴えていて、全身の感覚がなくなってきていた。
……本当にこのまま死ぬのか?
最後まで自分がしたいことを貫けなかったのに。
死に方すら、選べないのか。
──────どうせ…死ぬ…、なら……
グシャッ。
残った力を振り絞りベランダから飛び降りた私は、あっけなく死んだ。
だが、神は娯楽か暇潰しか、……救済のためか。
理由など知る由もないけれど、こんな人殺しの失敗作に二度目の生を与えやがった。
はっ。
ここで死なせてくれれば諦めもついたのに。
新たな生を受けた。
私の最推しが居るはずの世界にだ。
………だが、まるで運命のように毒親と弟が今世も居るようだった。
前世のように殺して、死のうと……
そう何度も思ったが、殺せるビジョンは見えないしまた死んだら次も転生できる保証も無い。
自由に生きたいという願いはあるが、私の生きる意味である最推しが居ない世界など意味が無い。
──そうだ、地上へ行こう。
最推しを見つけて、できることなら結婚して、幸せになって………自由を、掴み取ろう。
そのために──
14歳まで絶対に死んでやるものか。
………勿論私なんかがイサキさんと釣り合う番になれるなどといった馬鹿な考えは持っていない。これは……無謀で哀れな妄想だ。
そう。
叶うはずの無い、一人の屑の独り言。
……目が醒めてくる。
懐かしい夢を見た。
寝ている間に相当焦っていたらしく、ベッドは私の寝汗でぐっしょりと濡れている。
"推し"ことイサキさんに嗅がれでもすればいくら強靭なハートを持つ私でも恥ずか死ぬので玄関あたりにあるファ○リーズを少々拝借しシュッシュッと2回トリガーを引く。
「私は生きなければならない。
私は死んではいけない。
私は死ぬならイサキさんを護って死ぬ。」
その後毎朝の習慣である暗示をして、私の一日の活動が始まるのだ。
「………………」
……ふと魔が差す。
『イサキさんの寝顔ってどんなのだろう』と。オタクとしての禁忌であるのは知っているけれど、そんな崇高な考えを持てる理性は寝ぼけていて機能していなかった。
「見に行っちゃおうかなぁ〜…」
思い立ったらすぐ行動するのは良いことだが、この時ばかりはその行動力は悪手だったと思う。ドアを引き廊下に出て、右へと進む。
そして寝起きの私はイサキさんの寝室の部屋のドアノブに手をかけて回し、ドアを静かに、慎重に開いてゆく。
鍛え抜いた脚の筋肉で一瞬で近づき、覆いかぶさっている布団から出ている頭部を覗き込む。
(ア゜ッ面が良いッ)
露わになったのは麗しきご尊顔。
あ^〜まつ毛長い^〜
…………ファッ!!!!????
……え?ぬいぐるみ抱いてない?
天使か?神か?神か。(自明)
………………添い寝、しちゃおうかな。
ここで私の煩悩人格が目を醒ましてきた。
睡眠本能人格から性欲人格へと主導権が奪われ、必死に"禁忌だ"と訴える他の人格達の声は届かなくなっていく。
次の瞬間。
私は気付いたら添い寝してしまっていた。
…が、正気に戻った。
しかし…!!遅い……!!!
なんてことをしてくれたんだ煩悩…!(建前)
良いぞもっとやってくれ……!!(本音)
マ゜ッ〜〜ッ……!!!
自分がしたことに今更意識がはっきりしてきて正常に捉えてきたァ〜ッ…!!
は?何やってんだよお前。
起きてしまったらどうするねんしかもなんで抱いてた人形のところに収まる形で入ったんだよ意味分かんないよどうすればいいんだよとにかく離れようじゃないと私が耐えられな────
「すぅ………すぅ………」
寝息ィィィィィィィイイイッ!!!!(抜群)
おっ、おひひ…おひひひぃっ…ひひゃぃ……
くっ口元が緩んで…き、きもい笑いが……
「うぇ、うぇひひぃっ…ひひぇ…うひっ…」
しあわせぇ……あったかい……
いやだめだめだめ邪魔しちゃんひっ!?♡
布団の外へ這い出るのを躊躇っていたらぎゅおっと私よりも太く逞しい両腕が背中に回ってきて私の体を抱きしめめめめめ
「ぴぇ」
あーもう変な声出たやだ離れたいでもやだ…
多分人形だと思って抱きしめただけだから落ち着け私…お願い私…ちょっ……私ちょっと震えちゃってるし心臓バクバクだしもうかいほうしてくらさいおえがいしあす……
「…………マイ?」
「うぇへへっ…うぇひひひへへぇっ……」
えっ名前わた私のなま名前よよよん呼んででででうぇひひひぃっ………!
……えちょま。
………名前呼んでました?
「へへへぇ………………ミ?」
「……………」
「起っ……起きてま…す…………?」
「…………うん……」
「ぇはっ…、ひはっ………ふぇ………」
…あははぁ〜…おしまいだぁ〜……
きもいの見られたぁ……恥ずかしいぃ……
嫌われたぁ……ははぁ……
「えっ、ちょっ…?なんで泣くの…?」
「ごめんなさぃぃぃ……ごめんなさぃぃぃぃ…
もうしませんもうしませんからぁ…………
もうしませんから許し…ひぅっ許しぃぇぇ……」
「いや、え、ん?え、マジで分からん。
あー?えー、まず落ち着けー?
嫌いじゃないぞ!お前はお気に入りだぞ!
生きてて良いんだぞ俺の仲間だぞ。(ホップ感)」
ひぃっ……
あっトラウマの源泉が止まった音がする。
やっぱり推ししか勝たん。
「ご飯作りますねー!!!」
「俺はお前が心配だよ割とマジで色々と」
心配してくれてる……ありがたい…!
今日の復讐も成功させなきゃ!
「……なんで俺の布団に入ってたの?」
「ぴぇ」
あ、えーと、えーと、あれです。あれ。
ほぼ逝きかけました
「あ、の、確認です!確認です!」
「え…なんの?」
「………匂いのです。」
「予想当たったんだがどうしてくれる。」
考えつかなくってつい嘘を吐いてしまった…
いや……嘘は、今更か。
「あ、えっ!ご飯何食べます!?」
「残ってたハムとほうれん草があった筈だからそれら使ってバター炒めとかじゃん?っていうか俺やるけどなんで今日そんな乗り気…?」
「きょ、今日は料理したい日なんですよ!」
「へぇー。……なら良いけども……」
よし!ごまかせた!!!(ごまかせてない)
私はメシマズ系ではないのでこの点有利!
……まぁイサキさんの方が上手いし美味いけど…
この人が女子力異常に高いだけなのでノーカン。
いつか絶対に上回らないと。
「……今日だな。」
「………あぁ、はい。今日ですね。」
「後悔は無いな?」
……またですか。
もう、何度も答えたでしょうに。
「はい、まったく無いですよ。」
振り向いて、
しっかりと目線を合わせて断言する。
「…………」
すると、イサキさんは私に近付き、頭に手を乗せてきた。どうしたんですかぁ~?私が嬉しくなっちゃうだけですよ~?
「んっ……えへへぇ~…」
「無理しないで、辛かったら言ってくれよ。」
…………あはは。
その声が全部吹き飛ばしてくれるので、大丈夫ですよ。私はどうってことありません。
「分かっていますよ。」
「おう。なら良いけど。」
あぁ……イサキさんの手が離れてゆく。
名残惜しくて、つい手を掴み止めてしまいそうになる。
……でも、駄目だ。
この人の手は、私が触れて良い手じゃない。
他の沢山の人たちを救い、これからも救ってゆく手を。
私が汚していい訳が無い。
さっきベッドへ入り込んでしまったのは、本当に……駄目だ。
汚してしまった。
さらに償う必要がある。
私は、私が死ぬのができる限り最大限の恩返しだと思っているのだがこの人はそうではないらしいので、やはり守って死にたいと切に願う。
………あーあ。
私の気持ちを全て晒せたらどれだけ楽になるんだろうな。全て受け止めてもらえたらどれだけ幸せなんだろうな。想いを寄せてくれたらどれだけ嬉しいんだろうな。
”現実”では無理な分妄想ではせめてと妄想しているが…妄想も禁止なら私はとっくに狂ってしまっていたのだろうと思うと笑いと涙が止まらない。
……まぁ、親をこらしめても何も変わらず推しを推し続けるだけなのでどうという事もないけれど今は断罪に集中しようっと。
んじゃ、さっき意味を成さなかった暗示をもう一回でもやって締めようかな。
せーの。
私は生きなければならない。
私は死んではいけない。
私は死ぬならイサキさんを護って死ぬ。
心臓を捧げよ。
ギャグテイストなマイの転生後の数秒間
(んん…?これはもしや転生では?)
(ッ……!!毛穴が無い!!!!髪が赤い!!!つまり!!!!)
(二次元の中だあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!)
……特に好きな人も居ないこの身だ。
この肉体を奪ってしまったせめてもの償いに、
マイに
マイちゃんは情緒が不安定だし死ぬ間際の色んな出来事のせいで変な方向に人格と思考の基盤がねじ曲がっちゃってるって事で。
きっとこん時グルグル目してたんやろな。
俗に言うヤンデレ分類の中だとするとマイちゃんは崇拝型のヤンデレですかね。
尚マイちゃんのゲソ型は長めだとします。