「当然、冗談に決まってんじゃん?」   作:にゃんこぱん

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花火

 仲直り記念ということで有記念を見に来ていた。

 

 年末の中山に大観衆が集う。その数およそ10万──ホープフルステークスも大概だったが、こっちは流石にグランプリだ。人が多すぎる。

 

 まあともかく日曜日だ。色々あったホープフルステークスも終わって、雨降って地固まるという訳ではないが、ともかくトーセンジョーダンは明日原とお出かけ出来ると聞いてウキウキで準備してきた──が。

 

「な、ん、で……このちんちくりんが居んのよ、明日原ぁ!?」

 

 こっちの台詞だった。現地でスカーレットと合流とか聞いてないんですけど。は? ぶっ殺すぞ。

 

「別に二人きりとは言っていないでしょう。レースはみんなで応援した方が楽しいですよ、スカーレット」

 

「……まあ、そうなんじゃねって思ってたぜ。いいじゃねえかスカーレット、んなかっかすんなって」

 

「あんたはいいわよね、加賀もいるんだし気楽なもんだわ」

 

 ──明日原は思わず加賀を見た。俺はやってないと目で訴えていた。温泉旅行から生還した男には基本的に説得力がない。連れて行かれた時点で『終わり』……それが温泉旅行。

 

「気楽つってよ、オレだって大変なんだぜ。進路とかさー」

 

「ちゃんと考えなさいよ、自分のことでしょ?」

 

「わーってるよ。なあ、お前が通ってるとこって名前なんだっけ」

 

「うちの大学に来る気なの? 言っとくけど、あんたの頭じゃ絶対無理ね」

 

「んなこと言わずに教えてくれよ、べんきょー」

 

 ウオダスはジャパンカップ以来こんな調子で仲がいい。和解したトムとジェリーみたいな感じて時々喧嘩しつつ、基本的には空いた時間でよく会っているようだった。

 

「全く……あんまり変わらねえな、あいつら。なあ明日原、そうだろ?」

 

「ええ。それにしても加賀さんとは少し久しぶりですね。ご無事で何よりです」

 

「けっ、黙って見捨てた野郎がぬけぬけと良く言うぜ」

 

 加賀とウオッカがどこまで行ったのかは定かではない。ウオッカは来年で20歳になるし、子供ではない。苦しみを乗り越えた一人前のウマ娘である。そのため──場合によっては、より難しいことになる場合も多い。

 

「だがお前っつー前例が合って助かったよ。スカーレットを引き合いに出してなんとか──なんとかなったような気がする。そういうことにしてぇ」

 

「男気に欠けますね。独身生活を卒業すれば気が楽でしょうに」

 

「お前にだけは言われたくねぇ。いや、マジでお前にだけは言われたくねぇ」

 

 明日原、第一回中央トレーナーブーメラン大会七兆点、優勝。

 

 ここでトラップカードオープン。あんなことを言った翌日に速攻で期待を裏切られ、さらに微妙に居心地の悪い先輩方の存在に不満が溜まったジョーダン、明日原と加賀が話している隣に来て、そっと明日原の腕を取った。

 

「……あたし、あんたの"今の担当"なんですけど。あたしの存在忘れてね。とりま有罪っとく系なわけ?」

 

 ジョーダン、拗ねた。不機嫌そうに尻尾を揺らしつつ、しかし左腕を明日原の右手に絡める。

 

 少し離れた場所で話していたウオッカがそれに気が付き、にやっと笑った。

 

「なあスカーレット、後ろから追ってくるヤツってのは怖えな?」

 

「はぁ? 何の話よ」

 

「見てみろって」

 

 ウオッカの視線の先を見て──。

 

「……。殺すか」

 

 静かにそう呟いた。

 

 ズンズンとジョーダンに詰め寄っていくスカーレットに気がついて、ジョーダンは──

 

「……ふっ」

 

 嘲笑した。

 

「なんだァ? てめェ……」

 

 スカーレット、キレた!

 

 それに対してトーセンジョーダン、あくまで見下す形だ。腕を解いてずんずんと進んでくるスカーレットに向き直って、嘲笑は崩さないままの体勢。ものすごい目で睨むスカーレットの視線を真っ向から受け止める形。

 

「おい」

 

 クッソ低い声でスカーレットが威圧した。三年間担当していて聞いたことないけどその声。どっから出てんの。

 

「何すか?」

 

 ジョーダンの方は普段通り──いや、なんか鬼が見える。

 

 火花が散っていた。うっかりすると爆弾に引火して爆発しかねないところだったがここで、明日原鋼の意思を発動。具体的には──

 

「いやあ、しかし誰が勝ちますかね」

 

 明日原、あえてここで渾身の見ないフリ! 

 

 意識を有記念に戻し、努めて明るい声でそう言った。加賀が"マジかこいつ"みたいな目でドン引きしている。しかし加賀も加賀で巻き込まれたくないのは同意だった。触らぬ神に祟りなし。正直なところ他人のフリをして逃げたかったが、明日原の作戦に乗っかってやることにした。下手に動くと余計ヤバいことになる予感がしたのである。

 

「そりゃあ三女神様のみぞ知るってやつだろ」

 

 加賀が握っている変な券には4ー5ー7とか印刷されている。一方明日原には5とか書かれている。少なくともどちらかは負けることが確定していた。

 

「ま、俺はマツリダゴッホに期待だな。2年前の有をもう一度、ってやつで──それにラストランだ。6年っつー長い長い祭りの終わりなんだぜ。期待もするさ」

 

 2年前の有と言えばスカーレット2着、ウオッカ11着のやつだった。マツリダゴッホは一度優勝経験がある。ただし能力は当時のままではない。だが2番人気というのは、彼女の実力をある程度裏付けている。

 

「お前は?」

 

「答えるまでもありません。──今もまだ走り続けている夢の旅路に、僕の分の夢も乗せてもらうことにしました」

 

「はっ、ロマンチストめ」

 

「あなたも大概ですよ」

 

 そこにウオッカが割り込んでくる。無論、後ろでいまだに無言の戦いを繰り広げている二人は放ったままだ。

 

「ダメ人間どもが何か言ってんなぁ。確かにあいつはなんかやるかもしれねぇって思わせる何かはあるけど、勝ち切れるかどうかは分かんねえぜ」

 

 未成年故に券は買えないウオッカ、経験者ヅラをして参戦。実はこっそりそういう大人の会話に憧れている。

 

「同期として応援はしないのですか?」

 

「まあ同期だけどよ。諦めの悪りぃヤツだ、応援なんてしなくても、勝手にあいつはあいつ自身のために走るだろ」

 

 そう語るウオッカは懐かしんでいるように見えた。ウオッカはジャパンカップで抜けたが、彼女はまだ走り続けている。ウオッカはそれに呆れているようで、嬉しがっているようで。

 

「まあオレが出てりゃ、絶対オレが勝ってたけどよ」

 

「おっ、今からでもゲートに行くか? そうなりゃ面白そうだ」

 

「冗談だって。オレの戦いは終わったんだ、そこに自分で泥塗ってちゃ世話ねえよ」

 

 やはりウオッカは大人になった。ふとした時に加賀はそう思う。

 

「知らなかったなぁ。純粋にレースを観んのって、結構楽しいんだな」

 

 現役の頃はレースを見ても、どうしても選手としての意識が混ざった。自分ならどうするか、自分ならどう走るのか。何か参考になるレースはないか、ライバルとして戦った時どうするか──とか。ウオッカの物語は終わった。では彼女たちの物語はどうだろうか?

 

 始まりと終わりを告げるファンファーレが高らかに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女たちは走り続ける。

 

 その結末を迎えるまで、走り続ける。

 

 果てに何が待っていようが、お構いなしに前を目指す。最果てを目指して駆ける。

 

 形而上の夢、ロゴスの実現。それは一筋の光。

 

『ジャーニーだ! ジャーニーが来る! 夢への旅路だ! ドリームジャーニー先頭に立った! ドリームジャーニーだぁあああああッ!』

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」

 

「うわああああああああああああああッ!」

 

 ひらひらと宙を舞う変な券。冬の空に舞う幾多の夢。敗れた道、祭りの終わり。新しい夢の始まりで、古い夢の終わり。

 

 今年の終わりに相応しい旅。それは紛れもなく黄金色に輝いていた。

 

 第54回有記念。それは彼女が描いた黄金の夢路、その道の断片。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

    *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当に珍しく、穏やかな日だ。前にもこんな出だしがあったような気もするし、その時は本当に酷い目に遭ったが今回は違う。

 

 本当にいい朝だ。今日ばかりは明日原も丸一日の休日を取っていた。何せ年越しである、今日ばかりは仕事を休んでのんびりしていい。

 

 プライベートという単語が辞書から消滅してから4年が経つが、クソうるさいアラームを鳴らさないで済むのはいいことだ。ただ染み付いた習慣ゆえか、冬の寒さでも6時には起きてしまう。

 

 明日原はトレーナー寮に住んでいる。福利厚生の充実したトレセン学園のトレーナー寮は快適で、時々隣の部屋のドアが破壊されていたり壁に穴が開いていたりすることを除けばかなり良い。通勤も楽だし色々と融通が効く。

 

 手軽なシリアルで朝食を済ませて、いつも通りにスーツに着替えようとして──今日はその必要がないことをようやく思い出す。もうすっかり染み付いた習慣だった。

 

 まともに片付けもしていない家はスーパー汚く、今日は年末の大掃除でもしようとふと決めた明日原。すぐに空のカップ麺のゴミ捨てに手をつける。まともに使ったことのないキッチンをきれいに吹き上げて、フローリングに掃除機をかけて、気がつけばもう昼だ。

 

 夜はどうやって年を越そうか。スカーレットはウオッカと一緒に過ごすそうだし、加賀でも捕まえて飲みに行こうか──とか考えていると、インターホンが鳴る。

 

「はい、どちら様で」

 

 ドアを開ける。

 

「……寒い。さっさと入れろし」

 

 寒さで鼻を赤くしたジョーダンが立っていた。

 

「ジョーダン?」

 

「寒いつってんじゃん、開けろや」

 

 まあ取り敢えず入ってもらうことにした。ドアチェーンを外して(ウマ娘が相手だといざというときあまり意味がないが)完全に扉を開く。

 

 ジョーダンは使っている途中の掃除道具と、まだ微妙に散らかってる部屋を見て事情を察した。そこらじゅうに散らばったボロボロのA4ノート、しおりの挟まったままの小説──へー、こんな部屋なんだ。

 

「……なんか。あんたの家って感じがするわ」

 

 意外にも、明日原がスーツではなくただの私服を着ているのを見るのは初めてだ。無地のトレーナーとスウェット──トレーナーだけにってか。やかましいわ。

 

「てかなに、掃除中だった?」

 

「ええ、まあ……」

 

 新年を迎えるのなら、部屋は綺麗にしておきたい。そういう謎の日本人意識が明日原にも存在していて、進行率としては7割程度だった。

 

「あっそ」

 

 ジョーダンは分厚い上着を脱いで勝手にハンガーに掛けると、腕をまくって雑巾を絞った。

 

「じゃ、さっさと終わらせっぞー。今どこまで終わったん?」

 

 ポカンとしていた明日原だったが、その意図に気がついて驚いたまま問いかけた。

 

「手伝ってくれる……ん、ですか?」

 

「だけど」

 

 失礼な話だが、ジョーダンには家庭的なイメージがない。うっかりすると米を洗剤で洗いそうな怖さがあった。そんな失礼の気配を察知してジョーダンが不機嫌な顔をした。

 

「掃除くらい出来っし、ばかちん」

 

 と、言っているので取り敢えず任せることにした。どういうつもりまでかは分からないが、手伝ってくれるのはありがたい。

 

 慣れた手つきで拭き上げをしていくジョーダンに感心しつつ、明日原も掃除を進めていき、一時間も経たないうちに大掃除は終了した。時刻は13時を回っている。

 

「終わりました、ありがとうございます」

 

「ん……ねえ、腹減った。なんか食わせろ」

 

 と言っても、明日原は料理など出来ない。トレーナー業などやっていれば、基本的に誰でも3食コンビニ飯生活が待っている。フライパンもない。

 

 それにしてもずっとむすっとしたままのジョーダンに苦笑いした。

 

「外へ出ましょうか。年末です、少し豪華なものでも食べましょう」

 

 

 

 

 

 

 ──と、意気込んだはいいものの。

 

 年末の飲食店は予約でもしてなければ席がない。特に高級店ならば尚更で、明日原の当たっていった場所は全て満席。

 

「申し訳ない」

 

「いーよ別に。しょーじきどこでもよかったし、今日のメインは夜じゃん?」

 

 結局マック(パクパクではない方だ)に落ち着いた。いい加減明日原も空腹だった。

 

「メイン?」

 

「ったりめーじゃん? 年末なんてブチ上げイベント逃すとか有り得んだろじぇーけー」

 

 じぇーけー。JK? あれか、一昔前に流行ったスラングだろうか?

 

「っぱ渋谷よ。つかクラブ行きてー。ねえあっすー、連れてってよ」

 

「未成年でしょうが……」

 

「じゃあディズニー」

 

「人混みに殺されますよ」

 

「はぁ? 知らんし。掃除手伝だってやったんだから連れてけよ。それかパーハイ」

 

「どこですか……。パーハイ?」

 

「パークハイアットに決まってんでしょ。知っとけし」

 

 どこだよ知らんわ、と言いたいところではあった。今日のジョーダンはどうにも読めない。なんかずっとむすっとしている割には掃除もてきぱきと手伝ってくれたし、やけにネイルの光沢もいい。

 

 ジョーダンは不機嫌なのか、肘をついて混み合う店内を眺めていた。それを見ていると、ふと目があった。ぱちっ、と瞬きをした後にじっと明日原を眺めている。何がしたいんだ。

 

「……僕の顔に何かついてます?」

 

「別に。居るなーって」

 

「それは居るでしょう」

 

「ん」

 

 今日のジョーダンはおかしい。様子が変というか、読めない。普段はもう少し分かりやすいと思っていたのだが勘違いのようだ。

 

「……っし、けってー。あっすー、ディズニー行くべさ」

 

「はいぃ?」

 

 思わず杉下右京さんみたいな驚き方になってしまった明日原を放って、ジョーダンは立ち上がってケースを片付けに行った。すぐに戻ってくる。

 

「何驚いてんの、ウケんぞ? てか立った立った、早よ準備して行かんと入れんくなるじゃん」

 

「マジですか。というかあの、チケットとか──」

 

 年末ディズニーなどものすごい混み合うだろう。当然チケットの確保など出来るはずもない──ジョーダンがごそごそとショルダーポーチを漁った。

 

「……ほら。倍率10倍、乗り越えてやったわ」

 

 二枚のチケットが、トーセンジョーダンの手元にはあった。何を隠そう、オンライン抽選の確率の壁を乗り越えて見せたのである。

 

「………………」

 

 明日原は絶句するしかなかった。

 

 そうしていると、ジョーダンの不機嫌そうな顔がだんだんと変化していく。

 

「……なに。あたしとは行きたくないってか」

 

 少し不安そうな、それでいて不機嫌な──あんなことを言ったのに、自分とディズニーは嫌なのか。

 

「いえ。驚いただけです」

 

 簡単な事実だ。

 

 単にジョーダンは、明日原を誘いに来たのだった。

 

「僕で良ければご一緒しましょう」

 

「最初からそう言えし……ばーか」

 

 最後の一言だけは小さく口の中で呟いて、ジョーダンはほんの少しだけほっとしたように口元を緩めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 人。

 

 人、人。

 

 人、人、人。

 

 人人人人人人人人人人人人人人人──ゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。内臓まで冷え切りそうな寒天の中で、熱気と湿度が異常に高い。

 

 せっかくのディズニーだというのに、ジョーダンも明日原も疲れ切っていた。気力を使い果たして空を見上げる。

 

「つ、疲れた。ありえん。何これ。やべーわ……」

 

 休めるところなど何もなかった。行列の後の行列。最初からはしゃぐ余裕もない。

 

 ディズニーは修羅場だ。特に年末はヤバい。ジョーダンの学びに新しくその一文が追加された。というかマジで寒い。

 

「……なんか、違ったわ。ごめん」

 

「いえ」

 

 誘ってもらった手前、明日原はそう言うがしっかり疲れていた。ここから帰宅しなければならないのかと思うと気が重い。

 

「あーあ……。こんなんアリかよー……」

 

 控え目に見積りすぎた。ネットの記事でも警告はされていたが、正直そうでもないっしょ? と油断していた。それよりもジョーダンにとっては、どうやって誘おうかというその一点だけが重要で、気が回っていなかった。

 

 全く釣り合わない。上手くいかない。せっかく抽選を通って手に入れたチケットだったのに、まさかこんな酷い目に遭うなんて思ってもなかった。

 

「この調子だと帰んのもだるくね……?」

 

 駅のホームでも行列が出来るだろう。気が重すぎる。どうしてこんな目に……。

 

「そう気を落とさないよう。ほら──」

 

 ──空に花。

 

 半年振りに見る、綺麗な花火が打ち上がって咲いていた。

 

「……花火」

 

「ええ。なんだか懐かしいですね、半年前の夏を思い出します」

 

 あの時はこんな疲れなかった。明日原が絶好のスポットまで連れて行ってくれたおかげで、特等席で花火を鑑賞できたし──楽しかった。

 

 でもこっちは上手く行かなかった。自分なりに色々考えて、予算との兼ね合いに頭を悩まして、やっと明日原の元へ戻って。

 

 行き当たりばったりだ。ほとんど願掛けのように申し込んだチケットも、あの時はまだ桐生院の元に居たのに。もしかしたら一人で来ることになっていたかもしれなかったのに。

 

 明日原のようには、自分では上手くやれなかった。その事実に落ち込んで、ぼんやりと花火を見上げた。

 

「綺麗ですね。いつ見ても」

 

 ──それが。

 

 その言葉が、花火に向けられたものであると分かっていた。分かっていたけど。

 

 明日原を見ていたことに気が付かれて目が合った。苦笑いをして言葉を続ける。

 

「こんなに疲れた年末は初めてですよ。君はどうにも忙しいですね」

 

 明日原の初めて──いや、褒め言葉ではないだろう。こんなに不名誉なことがあってたまるか。

 

「正直に言わせてもらいますが、結構疲れました。僕もそろそろお兄さんじゃ厳しい年ですから」

 

 明日原25歳。なんとなく身体の衰えの兆しを感じ取る。10代の頃のような無尽蔵のバイタリティーはすでに失われて久しい。

 

 ジョーダンはしゅんと顔を落とす。文句を言われても仕方がない。自分の責任なのだ。

 

「けど、君が誘ってくれて嬉しかった」

 

 また花火に視線を戻した。冷たい石畳に座り込んだまま、そう言った。

 

 雑踏の中。周囲には自分と同じような疲れた顔をした人々の群れ。一人一人の会話が積み重なって雑音の山。星も見えない東京の空、ディズニー城のネオンライト。横には明日原がいる。

 

 ジョーダンはふとアイフォンを取り出してカメラを起動して、その景色をパシャパシャと撮影した。次にビデオを起動して、ぐるりと一周させて、花火を撮影して最後に明日原にレンズを向ける。

 

「……どうかしましたか?」

 

 不思議そうな顔をした明日原を画角に収めてから、最後に自分を写して、ピースを写す。そしてビデオを終了させた。

 

「ううん」

 

 酷い年末だ。ホープフルステークスからの連続で、すっかり疲れ切っていたことは否定しない。有記念も、てっきり二人きりで見るのだと勘違いした──いやこれは明日原が悪いだろう。絶対にそうだ。

 

 そして極め付けはこのディズニー。過去最低の年越しであると断言できる。だけど──

 

「覚えておきたいなって。いつか、あたしが大人になっても」

 

 こんな1日があった。こんなことがあった。忘れていても、きっとこの動画を見れば思い出す。

 

「あんたと過ごしたこんな1日があったってことを、ちゃんと思い出せるように」

 

 あっという間に一年が終わった。瞬く間に過ぎ去った。これからずっとそうなんだろう。走って、走って、走って、走って、そんなことをしているときっと直ぐに終わっていく。この打ち上がる花火のような、儚く短い日々。輝くような光。

 

「……君は」

 

 何かに気がついたように目を丸くして明日原が呟く。

 

「そうやって少しずつ、大人になっていくんですね」

 

 それを言われてジョーダンはちょっと沈黙した後、にかっと笑った。

 

「当たり前じゃん? あたし、でっかくなるんで!」

 

 花火が上がっていた。いずれ終わるけど、今この瞬間は確かに上がっていた。胸が苦しくなるくらいに綺麗な今が終わりに近づいていく。いつかこの気持ちも過去になる日が来るのかもしれない。でも少なくともそれは今ではない。この気持ちは。

 

「……だから、ちゃんと見ててよ」

 

 少しだけ大人の表情になったトーセンジョーダンという少女が、綺麗な空を眺めた。

 

「ええ。見届けますよ、最後まで」

 

 今年が終わる。来年が来る。周囲のざわめきが大きくなっていくのは──カウントダウンだ。

 

 10、9、8、7──

 

「……今年も終わりますね」

 

 6、5、4、3──

 

 きっと本質的には、年が変わろうがどうでもいいことなのだ。ただ時間が過ぎていくだけ、それを勝手に盛り上げているだけで、勝手に盛り上がっているだけなんだと思う。

 

 時間は過ぎていくだけだ。

 

 2、1──

 

「来年もよろしくね。明日原」

 

 過ぎていく時間の中で、トーセンジョーダンは誰よりも大切な人にそう言った。

 




 ここまでの登場人物紹介

・トーセンジョーダン
 この作品において主人公が誰かは正直決めてませんが、多分この娘だと思われます。ちな私は持ってません。出ろや
 オタクに優しいギャルなのかどうかは諸説ありますが、間違いなく光のギャルの一角。なんならオタクには優しくない方が解釈が一致する。ウルトラかわいい。
 
・明日原(あすはら)
 話が進むごとにクズ度が進行していく25歳独身。実家は福島、トレーナー4年目→5年目に突入。こいつの設定ガチ目で何も考えてないので、思いつきで設定が追加されていった結果ゴミ野郎になりました。トレーナーとしての腕は優秀なんじゃね(適当)
 下の名前がなんなのかは不明だし、ビジュアルも考えていませんでしたが、見た目くらいは分かっていた方が書きやすいわと思ってイラスト作成メーカー使って作ったらめっちゃイケメンが生まれてしまいました。まあこんなムーブイケメンじゃないと許されんでしょ。作ったビジュアルは要望があれば載せますが、基本的にはどうでもいい設定なので出しません

・ダイワスカーレット
 掛かっていますね(実況)
 ツインテをやめています。デッッッッ

・ウオッカ
 スカーレットと加賀の両方を手に入れる方法を考えている。

・加賀
 アラサー独身。ヒゲとか生やしてそう(偏見)
 秒読み(何がとは言わないが)

・桐生院
 明日原とは同期。元々が優秀であるスーパーすごい人のはずがやたらとネタキャラにされる可哀想な人。担当はブエナビスタ。

・ブエナビスタ
 実装して♡
 ナカヤマフェスタSSR絵に背中だけ見えてるのでもはや実質実装されたのでは?

・ハッピーミーク
 ダイワスカーレットの同期。
 温泉旅館に親でも殺されたんか?
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