「当然、冗談に決まってんじゃん?」   作:にゃんこぱん

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ブチ上げで

「……てかさ」

 

 穏やかな昼下がりを破ったのは、ネイルを爪に散らしたカラフルなウマ娘、トーセンジョーダンである。

 

「あんた、普段何してるわけ?」

 

「僕ですか」

 

 答えたのは明日原。真面目なように見えて結構ぶっ飛んだところもあるトレーナーだ。昼休憩になんとなく寄ってみたトレーナー室で、パソコンをカタカタ叩いていた明日原のあまりのイメージ通りさに不満を抱き、そう聞いた。

 

「仕事……でしょうか」

 

「仕事って?」

 

「そうですね──ああ、では一つ例を挙げましょう。僕たちトレーナーの仕事というのは、担当ウマ娘が十全の力を発揮できるようサポートすることも含まれます」

 

「……どゆこと?」

 

「例えば取材──インタビューです。2日前の選抜レースに記者が来てたらしく、取材の申し込みが来ています」

 

「え、マジ!? 取材って、インタビューってこと!?」

 

「ええ、そういうことになります」

 

「え、いつ!? いつ来んの!? 雑誌に載る!?」

 

「……まあ、意欲は非常にある、と。君の意向次第では断ることも考えていましたが、まあ受けてみましょうか」

 

「断るなんて勿体無いって! あっすー、今度また取材とかあったらすぐ教えろし、ぜってー受けっから!」

 

「はい、了解しました。では記者には今日の放課後にでも来るよう伝えておきます」

 

「え、マジで!? 今日!?」

 

「そう珍しくはないことですし、これから珍しくなくなるでしょう」

 

「いいじゃん……ヤバっ。え、なんて聞かれんだろ。ねー、やっぱキメてった方がいーよね!?」

 

「お任せしますが、あまり期待しない方がいいです」

 

「え、何それ。どーゆーイミ?」

 

「……言葉通り、とだけ」

 

 その意味が分かったのは、放課後になってからだった。

 

 ウキウキでトレーナーから指示された場所に向かったジョーダンが出会ったのは、なんというか……変な人だった。

 

「──あなたがトーセンジョーダンさんですね! 先日のレース拝見しておりました! ほんっっとうに迫力ある末脚で、素晴らしいレースでした! あれはやはり作戦だったのでしょうか!?」

 

「……えっ?」

 

「あっ、申し遅れました! 私──月間トゥインクルの記者をしております乙名史(おとなし)と申します! 本日の取材へのご協力、誠にありがとうございます! それでは早速インタビューに入ってもよろしいですか!?」

 

「……えっ、はい、え。あ、あっすー……?」

 

 珍しく頭を押さえている明日原に助けを求めると、それに応じたのか明日原が口を開いた。

 

「乙名史さん」

 

「明日原トレーナーも壮健そうで何よりです! 一時期は大変だったそうですが──トーセンジョーダンさんのトレーナーが明日原トレーナーだと聞いた時にはもう、本当に! また運命を感じずにはいられませんでしたっ!」

 

「……乙名史さん」

 

「ええ、ええ! 分かっていますよ、もちろん私には全て分かっていますとも! 溢れ出さんほどの情熱を持って、担当ウマ娘に全てを捧げる覚悟は出来ていると! もう一度中央に嵐を作り出さんとする野望は潰えてなどいないのだと!」

 

「…………乙名史さん」

 

「それで、それで!? 今後の路線はどちらですか!? ティアラですか、それともクラシック三冠ですか!? 距離適性はどのようになっているのでしょうか! やはり三冠ですか、史上八人目のクラシック三冠を狙っていると!?」

 

「………………乙名史記者。少々、落ち着いて頂きたい」

 

 明日原がもうすでに疲れた様な様子で言った。乙名史記者の勢いに慣れているのかはわからないが、初対面ではなさそうだ。

 

 さっきからものすごい早口で喋っている。最初会った時は結構美人じゃんと思ったがそのイメージはひっくり返った。残念美人、という単語を連想した。

 

「ジョーダン。一応言っておきますが、全ての記者がこんな感じではありません。誤解しないよう」

 

「こんな感じってなんですか! 私の使命はウマ娘とその担当トレーナーが紡ぐ物語を世間へと知らしめること! そのためならば何を惜しむことなどないというだけです!」

 

「……はぁ。ジョーダン、月間トゥインクルという雑誌は知っていますか」

 

「え、うん……なんか、レースの記事組んでるヤツっしょ。読んだことないけど……」

 

「ええ。残念なことに、月間トゥインクルはそれなりに有力な雑誌です。……しばらく乙名史記者に付き合ってくれますか」

 

「あ、うん……取材、ね。まあ……うん。よろしく、お願いします……?」

 

「ええ、こちらこそよろしくお願いします!」

 

 乙名史は小型のICレコーダーを取り出してスイッチを入れた。

 

「これから喋る内容は月間トゥインクルでの記事になる予定です。そのため録音させて頂きます。もしもオフレコにしたい部分があったら遠慮なく仰ってくださいね」

 

 あ、そういうところはちゃんとしてるんだ、とジョーダンは思った。

 

「ジョーダン。月間トゥインクルはそれなりに信用のある雑誌です。基本的に君が思ったことをそのまま話せば問題ありません」

 

「あ、うん……。分かった。えっと、記者さん? まあなんでも聞いてちょ!」

 

 明日原のフォローと、乙名史のインパクトのある初対面の衝撃で、初取材というものの緊張は完全に取り除かれていた。

 

 当然乙名史にはこれがトーセンジョーダンにとっての初取材であることは伝えてある。そのため慣れてないジョーダンのために、あえて変人らしく振る舞った──その可能性を、リラックスした状態で話すジョーダンを見て明日原は考慮した。

 

 だとすればやり手だ。緊張は基本的にはマイナスでしかないため、それを取り除くための熟練した手腕であり、やり手の記者だと見直した。

 

「素晴らしいです! トレーナーと信頼し合い、見果てぬ夢を目指すその姿──例え天が裂け地が割れようとも揺るがぬ決意っ! 感激致しました……っ!」

 

 ……いや、やっぱりただの変態かもしれない。明日原はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、あの変態記者のせいで気を取られましたが──今後の予定の話でもしましょうか。正式に君のトレーナーになって、ちょっと慌しかったので……少し遅くなってしまいました。すみません」

 

「いーよ別に。取材もそれなりに楽しかったし、次の月間トゥインクル出んの楽しみだし。……で、なんだっけ?」

 

「目標の話です。まあひとまずは──デビュー戦です」

 

「……!」

 

「7月の前半。つまり約二ヶ月後……まずは、そこで勝つことからです。そこで勝てなければ、重賞は当然のこと、プレオープンにも出られません。君の適性から考えて……芝2000m。まずはそこに焦点を定めてトレーニングを行いましょう」

 

「……りょ!」

 

「最も気をつけるべきは故障と怪我です。選抜レースの後も爪、もしくは膝関節や足首に異常は発生していませんね?」

 

「ん、じょぶじょぶ〜。なんかあったらすぐ言うって」

 

「ええ。僕も気をつけていきますが、爪への負担は避けられない場合もあります。注意して練習を行わねばなりませんが、そればかりに気を取られていては意味がありません。その辺りの切り替えはしっかりしていきましょう」

 

「おけまる〜」

 

 本当に一回一回の喋る量が違う明日原とジョーダンだったが、不思議と噛み合っていた。ジョーダンも言葉こそ軽いが、それらを軽んじる様子はなく真剣だ。

 

「さて、次にトレーニングの方針についてです。理想を言うのであれば、体力の限界まで追い込みたいところではあります。君は根性ありますし、そういう泥臭いトレーニングは案外合っていると思います、が」

 

「が?」

 

「しかし、トレーニングだけが生活の全てではないはず。君はまだ若く、遊び盛りです。トレーニング漬けでは精神にも悪い。つまり基本的な方針としては……メリハリを付けて、密度の濃いトレーニングを行っていこう、と。まあそんなところになります」

 

「うん。いいじゃん」

 

「頑張る日は思いっきり頑張ってもらいますし、勉強も必要になる場面があります。というか学生の身分で勉強を避けては通れません」

 

「……そこは、ほら。なんかあっすーからセンセー方に言ってもらって……」

 

「無理です」

 

「……ホントに無理?」

 

「ええ」

 

 可愛らしく頼んでみてもダメだった。そこは本当にしょうがないことだ。必要最低限の学力や教養はURAが掲げていることだ。年頃の少女をエンターテイメントの餌食にしようってんだから、それ以外の部分ではきちんと健全さを保たなければならない。当たり前だった。

 

「さて、質問がないのならトレーニングへ向かいましょう。今日は筋トレです」

 

「……はーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー ー ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──日々が過ぎていく。

 

 過ぎて、過ぎて──メイクデビューの日になった。

 

「……。……、……。……」

 

 トーセンジョーダンはそわそわしていた。落ち着かない様子は尻尾にも遭われていて、そわそわと休みなく動いている。

 

 控え室でスマホを触ってはすぐに切って、また触ってはすぐに切ってを繰り返していた。

 

「入りますよ、ジョーダン」

 

 ノックとともに入ってきたのはトレーナーだった。手にはゼッケンを持っている。いつも通りの様子に、ジョーダンは不安そうな目を向けた。

 

「……あっすー」

 

「君のゼッケンです。それと出走時間が確定しました。30分後の13時25分です。準備は……あまり、出来ていなさそうですね」

 

「や、てか……うん、マジで……」

 

「今しがた第5レースが終了しました」

 

 そう言いながら、明日原も腰を下ろした。のろのろとゼッケンを身につけるジョーダンを見ながら言う。

 

「それと、先ほどゴールドシチーを見かけました」

 

「え!? ウソ、来てんの!?」

 

「ええ。聞いてなかったのですか?」

 

「や……来てたんなら言ってよマジ、あーもう! 余計に緊張してきたじゃん! なんであっすーはそんな余裕そうなの!?」

 

「余裕そうに見えますか」

 

 ふっと明日原は笑って、今朝からずっと微かに笑っている膝を撫でた。なんのことはない、明日原も緊張していた。ただ表に出ていないだけで、二人ともかなり緊張していたのである。

 

「何度経験しても慣れませんし、余裕などありません。ただ、君の相手となるウマ娘も君と同じで緊張していますし、何よりも出来ることは全てやりました。トレーナーならば、後は君を信じるだけでいいのでいくらか楽なものです」

 

「他人事だと思いやがって〜……!」

 

「他人事なものですか。君が負ければ、それは僕の責任です。なまじ側にいられない分、緊張だけの度合いで言えば負けていないと思いますよ」

 

 実際、明日原は朝食から喉を通らなかったし、昼食もまともに食べられなかった。それでも空腹を感じる余裕もない。張り詰めていたのは二人とも一緒である。

 

「それに、君の友人たちも──」

 

 コンコン。控え室のドアを叩く音がした。ジョーダンは驚いてそっちを見て、明日原もそれを見ながら続けた。

 

「来たようですね。どうぞ」

 

 扉の外へ向かって言うと、それに従ってドアが開いた。入ってきたのはゴールドシチーとダイタクヘリオスの二人だ。

 

「おいっす〜☆、緊張してるかーっ!」

 

「サプラーイズ……ってね。調子はどう?」

 

「シチー、ヘリオスまで!? マジで勘弁して、もうほんと勘弁!」

 

「いやいやー、そんな弱腰じゃあ勝てる戦も勝てまへんがな〜! チョーシ上げてけー!」

 

「そうだよ、あんたなら出来るって」

 

 口調こそ変わらないが、本心から言っていることが態度から分かる。優しく見守る二人の視線にやられたのか、ジョーダンは頭を抱えた。

 

「うぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……」

 

「だいじょぶだいじょぶ〜! カチアゲ天国未来行きー☆! 勝って帰ってパーティーじゃー!」

 

「……わかった、わかった分かったって! あーもー分かった、やってやりゃーいーんでしょ!? やったる、やったるかんな!? ガチでやったるかんな!?」

 

 方向性を若干間違えた開き直りモードを発動したジョーダンが叫んだ。緊張は相変わらず解けてくれないし、不安とか焦りとかそういうもので胸は一杯だ。もうどうにでもなれ。

 

「そーそーその調子! やっぱ開き直ったジョーダンがサイキョーだし! 自分を信じてゴーイングマイウェイって感じでウェーイ!」

 

「うぇい。そろそろパドックでしょ? 行きなよ」

 

「ううう嘘でしょ!? あー! えー!? あー!!!」

 

 ぐわんぐわんと頭を振る奇行に走り始めたジョーダンに明日原が声を掛けた。

 

「行きましょう、ジョーダン。それと……」

 

「それと何!? さっさと言えし!」

 

「ゼッケン、裏返しになってます」

 

「さっさと言えしーっ!!!」

 

 すごい速度でゼッケンを着直したトーセンジョーダンはずんずんと控え室を出て行った。苦笑いしながらその後に続く明日原の背に、ゴールドシチーが言った。

 

「あいつのこと、頼んだよ。あっすーさん」

 

「言われるまでもありません。それとあっすーで結構です。明日原でも構いませんが」

 

「うぇいうぇい、あっすーさん頼もしーっ! じゃあ行ってらー!」

 

 なんだあっすーさんって、と明日原は思った。微妙な表情をしながら丁寧にジョーダンの友人たちに礼を言う。友達のためにわざわざ見にきてくれるとは、いい友達を持ったなと思いながら。

 

「……ええ。わざわざ京都まで来ていただき、ありがとうございました。彼女の姿を見届けましょう」

 

 レースが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さて、京都2000mメイクデビュー第6レースです。このレースでの1番人気は4番トーセンジョーダン。5月に行われたトレセン学園での選抜レースにて1着という記録を残しています』

 

『月間トゥインクルにも記事が載っていましたね。何せあの明日原トレーナーの担当ウマ娘と言うことでして、注目が集まるのも当然でしょうか?』

 

『ええ、個人的にも注目しています。脚質は先行ということでしたが、選抜レースの結果を見る限りでは差しの適性もありそうです。ジュニア級での他の注目株と比べても見劣りしない仕上がりです』

 

『しかし2番人気には8番ロジユニヴァースが居ますからね。数多いメイクデビューのこの第5レースにこれほどのジュニア級が鉢合わせるとは、これまた運命的と言いますか……』

 

『ええ、かなり目が離せないレースになりそうです。ロジユニヴァースは先行する可能性が高いでしょうから、それに対してトーセンジョーダンがどうするのかどうか……。お互いに絶対に勝ちたい一戦です。さて京都レース場第5レース、メイクデビュー戦芝2000m。出走の準備が整い──スタートしました!』

 

『さあまず飛び出したのは1番アレイキャット、続く8番ロジユニヴァース、4番トーセンジョーダンも好スタートで追走します』

 

『すぐに第一コーナーに差し掛かります先頭は1番アレイキャット、続いて4番トーセンジョーダン、すぐ外に8番ロジユニヴァースがつけている。その内6番パステルパレット、少し開いて7番ラッキーステップ、おっと早くも2番リードシールが押してきた。先頭集団が並んだまま第二コーナーに差し掛かります。後方6番手には3番スペクトラム、1バ身離れてシンガリは5番クライシンダー、向こう正面に入ります』

 

『8番ロジユニヴァースが抜け出した。2番手にはアレイキャット、だが激しい先行争いだ。内側を行くパステルパレット、そのすぐ横トーセンジョーダン、短く纏まった展開。残り1000mを切りました、第三コーナーを回ります』

 

『1000mは1分14秒、3番スペクトラムがじわじわと上がって来ています。あとにリードシール。800mを通過しました、最後のコーナーを回ります。先頭は依然ロジユニヴァース、続いて4番アレイキャット、その外並んで4番トーセンジョーダン。残り600、さあ最後の直線に差し掛かっていく──ここで抜け出したのはトーセンジョーダンだ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(いける。いい展開じゃん、このまま逃げ切ってやる……!)

 

 ──理想的な展開だ。残り600m、ここからが本当の勝負となる。

 

 トーセンジョーダン抜け出した。だが後続も続く──とか言わせない。絶対絶対言わせない。

 

『2バ身離れてロジユニヴァース! 内からパステルパレット追走、400の看板を通り越してロジユニヴァースが追い縋る! 距離を詰めていくぞ!』

 

 足音が来る。ターフを叩き割るような蹄鉄の音、それが──真横から聞こえて、トーセンジョーダンは目を見開いた。

 

(ウソでしょ!? マジで言ってんの!?)

 

 風を切り裂いて真横を走るのはロジユニヴァース、明日原からも要注意と言われていたウマ娘だった。信じられない──この速さに、着いて来れるどころか……まずい。

 

(抜かれる!? ヤバい、このままじゃ──)

 

 刹那駆け巡った嫌な想像。負ける? このまま差し切られればもう取り戻せないかもしれない。歓声の中でもジョーダンは歯を食いしばりながら走っていた。

 

(ジョーダンじゃない、こちとらここは絶対勝つって決めてんだけど!? でもウソ、速すぎ──)

 

『並んでいる並んでいる! 二人が並んでいるぞ! 先頭は二人の競り合い、200mを通過! ロジユニヴァース抜きん出るか!』

 

(負けるか負けるか負けるか! 絶対負けるか! アタシはここ勝って夏合宿を迎えるって決めきてんだ! 勝ちたいから必死に頑張ってんだ!)

 

「──ッ、はっ、はっ、はっ……っ!」

 

 隣を駆けるロジユニヴァースだかの息の声が聞こえる。力を振り絞って走っているんだ。そうだ、気がついた。

 

(そっか。あんたも勝ちたいのは一緒か。だからそんな必死に走ってんだね)

 

 力が抜ける。勝負で高まったアドレナリンによる興奮が少し収まった気がする。しかし減速はしない、むしろより柔らかいフォームで──。

 

 パドックに向かう前に言われた明日原の言葉を思い出した。

 

 "一つアドバイスを送りましょう、ジョーダン"

 

 よくよく聞いてみると、声が細かく震えていることがわかった。それがちょっと面白くて笑った。

 

 "もし、最後の瀬戸際、追い抜かれそうになったら──"

 

 思い出した。さっきまで完全に頭から吹っ飛んでいたが、思い出したぞ。そうだ、確かに納得したのだ。悪くないと。

 

「私が勝つっ、私が……ッ!」

 

 ロジユニヴァースが走っている。全く馬鹿げた末脚だ、どうかしてる。レース運びも上手だと思う。走ってる時も本当にすげーって思った。

 

 明日原は言った。

 

 "そういうピンチの時こそ、テンションブチ上げでいきましょう"

 

「やったらぁぁぁああああああ────ッ!」

 

「──ッ!?」

 

『トーセンジョーダンだ! トーセンジョーダンが差し返した! なんという根性だ! 躱した躱した! 後ろからパステルパレットも追い上げる! しかしまだ差がある! トーセンジョーダンが速い! 後方からは3バ身のリード! ロジユニヴァース追いつくか!』

 

 足が熱い、もう沸騰しそうなくらいに熱い。熱い分速く動いてくれる、これまでにないほど速く走れる。楽しい、楽しいぞ。レースは──こんなにも楽しい!

 

 速くなれる、速くなれる。もっと速くなれる、だから走れ、だから前へ進め。そうだ、レースを走るのは楽しい。レースが好きなんだ。だから厳しいトレーニングもこなしてきた。たくさんガマンしてきた、努力だってしたしベンキョーもした。

 

 この道の果てに何かがあると信じて──。

 

『トーセンジョーダンが突き放した! 二番手はロジユニヴァース、パステルパレットが外から追い上げている!』

 

(おい、見てるか)

 

『2バ身、いや3バ身! 突き放してデビュー勝ち、トーセンジョーダンゴールイン!』

 

 歓声が爆発した。テンションが上がって何か叫んでいるヘリオスの声が聞こえた気がする。この歓声の中に明日原の叫びが混ざっていると思うと面白かった。

 

 太陽の光が眩しい。気分がいい。この世界はきっと、今だけはあたしだけのためにある。

 

(勝ったぞ)

 

 その右手を振り上げて、ガッツポーズを掲げた。

 

 




※この作品は史実から外れたオリ展開が含まれます。ロジユニヴァースくんすまん……
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