「当然、冗談に決まってんじゃん?」   作:にゃんこぱん

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シニア級
定期的に担当トレーナーに襲い掛かるウマ娘たち


 

 

 

 練習を終えてトレーナー室に報告に来たジョーダンは、嬉しそうな様子で歩いていく。

 

 今日の練習の後、明日原がデートに連れて行ってくれる約束があるためだ。行き先は秘密とされたが、どこに行くのか──そんなエスコートに期待して、ジョーダンは階段を登っていく。

 

「あっすー! 練習終わったよ、どこ連れてってくれんの!?」

 

「……ああ」

 

 明日原は散らかったデスクから顔を上げてそう呟いた。

 

「そういえば、そうでしたっけ」

 

 明日原は──どうでも良さそうな表情で、そう呟いた。

 

 そのあり得ない反応が信じられず、ジョーダンは戸惑う。

 

「え?」

 

「すっかり忘れていました。今日でしたか」

 

 どうでもいいような、興味もないような、つまらなさそうな──いや、それを表にも出さない。

 

「いいですよ。食事にでも行きましょう。マクドナルドでいいですよね?」

 

 極端な拒否はしない。適当に流すように、波風立てない適当な対応──拒否ではなく、肯定でもなく、適当な付き合いという風に流されたのがもっとも心を抉った。拒否もされないような、そんな冷たい距離感が何よりもショックだった。

 

 ジョーダンは何も言えない。

 

 億劫そうに立ち上がり、コートを羽織る明日原はジョーダンのことなど見ていない。

 

 そこで、後ろから女の声がする。

 

「景悟さん、素敵なフレンチを見つけたんです。一緒に行きましょう?」

 

 ジョーダンは振り向く。嫌に艶やかな桐生院葵がいて、ジョーダンのことなど眼中にないが如く明日原を見ている。

 

「──葵さん! もちろん喜んでご一緒しますよ。すぐに出発しますか? 車を出しますから、一緒に行きましょう」

 

 たまらず口を開いた。

 

「ま、待てし。先約はこっちでしょ!? ダメだって、あっすー!?」

 

「ジョーダン、聞いての通り僕は葵さんと食事に行くので。君は適当にしていてください」

 

 そう言って、明日原は打って変わってにこやかな笑顔で歩き出した──桐生院と手を繋いで、呆然としたままのジョーダンなどには目もくれず。

 

「待ってよ」

 

 声は届かない。

 

 2人は幸せそうに去っていく。

 

「待って」

 

 手を伸ばしても、声を出しても、そう望んでも──

 

「やめて、戻ってきてよ」

 

 振り向きもしない姿に──視界が滲む。世界が水に浸される。

 

「あたしの横にいてよ、明日原ぁ……っ!」

 

 ドアが閉じる──

 

「やだ、いやだ、行かないでよ側にいてよ、あたしの横に居てくれるって言ったじゃん、あたしのトレーナーで居てくれるって、支えてくれるって言ったじゃん、やめてよ。行かないでよ。行かないで、行かないで、行かないで──」

 

 立っている大地すらあやふやになって、落下しているみたいな不安定さがジョーダンを襲う。それが怖くて、恐ろしくて──

 

「やだ」

 

「嫌ぁぁぁぁあああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアァァァ──ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ああああああああああああああッ!!?」

 

 最初に感じたのは震える息遣いと、エアコンの効いた暖かな室内の空気。

 

 ジョーダンは自室のベッドの上で、毛布を掴んで飛び上がっていた──なんだ。

 

「……なんだ、夢か──」

 

 心臓はまだバクシンしている。服に張り付いた汗が気持ち悪い。12月なのに汗でびっしょりとか本当に意味が分からないが、考えうる限り最悪の事態はただの夢だったと理解して、ジョーダンは安堵のため息を吐いた。

 

 悪い冗談だったが、所詮冗談だった。所詮想像ならいい夢を見させて欲しいところだった。

 

「夢じゃないよ」

 

 突然聞こえた声に体を強張らせた──振り向くとアケノが隣のベッドに座っている。

 

 同時に、アケノとの相部屋にいたことに気がつく。自分のベッドに寝ていたらしい。それよりも重要な発言──。

 

「残念だけど……たぶん、悪夢ですらないと思う。現実」

 

「……説明、よろ」

 

 まだ緊張の解けない体から力を抜こうと深呼吸をしながら、苦い顔をしているアケノを見た。

 

「倒れたジョーダンをナビが運んできたんだ。やり過ぎちゃいましたとか言いながら……。事情は一応聞いた。すごいことになってんね……」

 

「…………じゃあ、夢じゃないの?」

 

 現実を信じたくないジョーダンは縋るような気持ちでそう聞くが、アケノはゆっくりと頷くだけだった。それを見てジョーダンは顔を伏せる──。

 

 ──ジョーダンが有記念を勝てばよかったのだ。

 

 そうすれば、何の問題も無いはずだった。だが知らなかった──もしも知っていれば勝てたかと言われれば即答も断言も出来ないが、ジョーダンは何も知らなかった。明日原の隠し事がこれだったことにようやく気がついた。結果論で語るなら、あの時に問い詰めておくべきだった。

 

「シジョーサイアクの大晦日なんですけど……」

 

 一周回って現状に呆れてきたジョーダンが呟くと、アケノが苦笑いしながら答えた。

 

「ごめん、もう明けてる」

 

「……は?」

 

「もう新年になってるんだ……ジョーダン、一日中寝てたんだよ」

 

「…………は?」

 

 何を言っているのか分からなかった。いや、言語として理解出来たからこそ訳が分からなかった。窓の外は明るい──麗かな日差しが心地よく照っている。冬の澄んだ光だ。

 

「……じゃあ、何? さっきの、初夢……ってこと?」

 

「どんな夢だったのかは分からないけど、多分そう──」

 

 頭を抱えても仕方がない。そんなことある?

 

 アケノの気の毒そうな顔を見て、ジョーダンはようやく理解した。夢だけど夢じゃなかった現実、そして明日原が掻っ攫われてしまったということを──。

 

「……初詣、行く?」

 

「行けるかよ、こんな気分で……」

 

「そっかぁ……」

 

 アケノがサッとホットココアを作って、ジョーダンにマグカップを渡した。それを受け取って、一度口をつけると熱くて優しい味がした。だからなのか分からないが、唐突に涙がこぼれた。

 

「……っ、うぇ、っ、……あ、アケノぉ……っ、やだ、やだよぉ……っ! あたし、あたし……やだ、やだぁ……っ!」

 

「ジョーダン──」

 

 ボロボロ泣くジョーダンの姿に少し驚いた後、アケノは黙ってその震える肩に両手を回した。

 

「やだ、やだ、やだ、やだぁ、やだ、取られちゃった、いやだよぉ……っ、ひぐっ、うぇぇん、やだぁ……っ!」

 

 声を押し殺すような途切れ途切れの泣き声に、アケノは何かを考え込むような表情のままジョーダンを抱き締めている。その胸に縋り付いて悲しみを吐き出すジョーダンは悲痛な姿だった。

 

 どう声を掛けていいのか分からず、アケノはジョーダンが落ち着くまで胸を貸していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャワーを浴びて来たジョーダンは、さっきよりかは落ち着いた様子で座っていた。だが普段ならいつもいじっているスマホを一瞥もせず、ただぼんやりと天井を眺めている姿はどこか虚しく不安定だった。

 

「ごめん、お待たせ」

 

 アケノが部屋に戻ってきて、虚なジョーダンを見下ろして顔を曇らせる。そしてその元凶となったクソボケを微かに呪って、同じくジョーダンの対面、自身のベッドの横に腰を下ろした。

 

「それで……どうするの?」

 

「……」

 

「正月だし……そうだ、一回くらい実家に帰ったらどうかな。休むのがいいと思う」

 

「……」

 

 ジョーダンは果たして聞いているのかいないのか曖昧なまま黙っている。アケノは少しだけ苦笑いした。

 

「お昼ご飯作るけど、食べる?」

 

「……食べる」

 

 そう、ぽつりと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー ー ー 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 信じ難い事に、目の前にURAの重鎮がいる──それも、1人の男としてではない。

 

 1人の父親として、品定めをするように腕組みをしてじっと明日原を見据えている──

 

(嘘だろ……)

 

 古く、がっしりとした屋敷──それこそ、大河ドラマに出て来そうな感じの蔵座敷。すーっと襖が開いて、柔らかな顔付きの女性がお盆に6個の湯呑みを乗せて入ってきた。

 

「どうぞ、景悟さん。遠慮なさらないでくださいね」

 

「いえ……はい、ありがとうございます、頂きます──」

 

 まさか飲めるはずがなかった。湯気の立っている湯呑みを少し見下ろして、明日原は物音ひとつ立てることすら許されない重圧に耐え忍んでいた。

 

「よく来てくださいました、ほらお父さんもいつまでもそんな顰めっ面してないで。ちょっとはいいとこ見せなきゃ、見捨てられちゃったらいけないんですから」

 

 柔らかな雰囲気の女性──母親だ。

 

 誰の? 決まっている──

 

「お父さん、もう腕組むのやめてよ……怖い顔しなくていいから」

 

「そーですよおとーさん! こちら義理の息子予定(仮)なんですから柔らかく行きましょう!」

 

「いえーい……」

 

 ──いや、多くないか。

 

 多くないか?

 

 ──ここは東京郊外、桐生院家。現状の明日原の交際相手である桐生院葵の実家だ。別名を魔王城という。

 

 明日原が正座している横には桐生院(娘)が慣れた様子で座っているし、みかんが積まれている机を囲む形でハッピーミークとブエナビスタがまるで実家のような感じで座っている。そして明日原の対面には桐生院(父)が相変わらず腕組みをしていた。

 

「……それで、葵と交際している……だったかね。名前は」

 

 まるで巌のような低い声が、そう歓迎しているとは思えない表情と共に放たれた。ひたすらに居心地が悪かったし、今すぐにでも逃げ出したかった──が、ニヤついた表情のブエナビスタ達がそれを許すはずがない。内心を表に出さないよう努めて、まっすぐと桐生院(父)を見据える。

 

「……はい。娘さんと……交際をさせて、頂いております……明日原と申します──」

 

「誰がお義父さんだッ!?」

 

 言ってない。

 

「それにしてもかっこいいわねぇ〜……。景悟さん、何にもない家ですけど、ゆっくりしていってくださいね。あ、泊まっていったらどうかしら? お父さんもこんなんだけど内心は喜んでると思うわよ、前々からトレーナーとしても興味があったようだから」

 

「ないッ! 娘は渡さんッ!」

 

「はいっ! アオイは渡しません!」

 

 桐生院(娘)が父と担当の有様にそれはもう深いため息を吐く横で明日原は帰りたかった。正月くらい実家に帰ろうと思っていたらこれだ。連行──どうしてこうなったのか、回想は必要だろうか?

 

 →いる

  いらない

 

 →いらない

 

「そういち。娘離れの時……だよ」

 

「しかしミークちゃんッ、こんなスカした男に娘はやれん! 君とて──」

 

「あおいの意志が1番大切、です」

 

 明日原はこの情報量の多い会話を聞きながら、胃が捻じ切れそうになるのを必死に堪えていた。いや、堪えてどうにかなるものではないのだが、ともかく何かに耐えていた。時間が過ぎ去ることを必死で望んでいた。

 

「そうでしょ、あすはら」

 

「えー……その。まだ、結婚までは──」

 

「えっ……"まだ"ってことは、その。いずれは……ってこと、ですか……? こ、心の準備が……」

 

 ──お願いだから、今だけは口を閉じていて欲しかった。桐生院(母)があらあらとか言っている。針の(むしろ)(直喩)だ。

 

 何をトチ狂ったのか分からないが、明日原はこの元旦の朝っぱらから桐生院家に文字通り縛って連れて来られていた。下手人ははっきりしている。まさか桐生院(娘)はそんな暴挙には走らない──その担当2人はどうだか分からないが。

 

「明日原ァ! 男ならはっきり言ったらどうですかァ!? 責任取るっていえァ──!」

 

「……腹、切れェ……」

 

(せめて腹括れでしょう──切ったら終わりですけど。いやもうこんな状況じゃ切っても切らなくても大して変わらないでしょうけども)

 

 そんなことを考えながら、嫌いな食べ物を前にした時のような引き攣った顔で明日原は横をチラリと見た。ブエナビスタとハッピーミークがいる。そして明日原の反対の方の隣には柔らかな私服に身を包んだ桐生院が頬をほんのりと染めて俯いていた。

 

 対角方向には腕組みを解かない巌のような壮年の男性。今しがたその横に座った柔らかな雰囲気のおばはん。目元なんかそっくりだ。

 

「えーっと、こんな日はなんて言えばいいのかしらねぇ? 新年明けましておめでとうございます、今年からよろしくお願いしますかしら。うふふっ」

 

「お、お母さんっ!」

 

「ほんと、葵ってば唐突ねぇ。景悟さん、この子ったら前々からあなたのこといっぱい話してくれていたんですよ。ずーっと聞いてたもんだから、こっちはもう知った気でいるくらいで、それが突然付き合いました、一緒に帰りますなんて連絡が来たもんだからほんと、びっくりして心臓止まっちゃうかと思ったのよ。写真で見るよりイケメンよね〜、おまけに優秀なトレーナーだなんて……葵、愛想尽かされないようにちゃんとするのよ? 部屋も片付けておいたから、いつもみたいに散らかしたりしないこと」

 

「お母さんっ!」

 

 思わず桐生院(娘)の方を見た明日原の視線から逃れるように、桐生院は耳まで真っ赤になった顔を俯かせている。ブエナビスタがぴゅう、と口笛を吹いた。それが最高に癪に触った。

 

「それで、いつまで家に居るの? 景悟さんも一緒に泊まっていくでしょう?」

 

「三ヶ日過ぎるまでは、居るつもり……ごめんなさい景悟さん、巻き込んじゃって」

 

 申し訳なさでいっぱいな桐生院(娘)の声に、明日原は静かに息を吐いて眉毛を下ろし、優しげな表情を作った。

 

「いえ……ご厚意に甘えさせて頂きます。何か家のことで手伝えることがあれば、何でも言ってください」

 

「ん? 今なんでもするって言いました?」

 

 なんでもするとは言ってない。

 

 一切合切訳が分からない。何が起こっているのか理解出来ない。

 

(墓、東京で作るんですかね──)

 

 そういうことを現実逃避気味に考えながら、明日原はただ冷や汗を掻いて、自らが悪魔城の王座に完全拘束された状態で転がっている現実を前にただ立ち尽くしていた。

 

 (色んな意味で)どうしようもなかった。逃げられるのなら逃げたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー ー ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ジョーダンはさ、どうしたいの?」

 

 アケノが少しだけ遠慮気味に尋ねた。素朴な味付けの昼食をつつきながら、エアコンの効いた暖かい談話室──元旦の昼。

 

 暗い表情のままで、ジョーダンは顔を上げた。

 

「辛いことがあった直後で、大変だとは思うけど……時間は待ってくれない。ナビのことだから……時間が経てば経つほど、取り返しのつかない状況まで持っていかれると思う。そうなってからじゃ遅いんだよ」

 

 優しい口調だったが、それでも今のジョーダンには酷な言葉──否応なく現実を直視させる、厳しくて優しい言葉だった。

 

「ジョーダンはどうなって欲しいの? 明日原さんとどうなりたいの?」

 

 ──ある種、いい機会だった。

 

 夏合宿でのファーストキッス事件以来、ジョーダンと明日原の関係は言わば宙ぶらりんで、何も言わずトレーナーを続けてくれる明日原の優しさに甘え続けてきた。

 

「……なんにも、なりたくなかった」

 

 かちゃん、と食器の音がした。

 

「横に居てくれたら……それ以上なんにもいらなかった。でも……スカーレット先輩とか、きりゅーさんとかが……なんか、あっすーにいろいろやるから、仕方なくて」

 

 アケノは黙ったまま聴いている。わずかに驚いているようにも見えたが口は挟まなかった。

 

「……別に、付き合いたいとか……もっと仲良くなりたいとか、変わりたいとか……そんなのいらないし、どうなるかとか分からんし、好きになってほしいとか……思ってないの。あたしのことちゃんと見ててくれれば、あとは何にもいらないって──」

 

 ──抱えてきた本心。

 

 変わらないままでいい。ジョーダンの望みはそれだけだった。だがアケノが言ったとおり、時間は待ってはくれないし、歳を取っていく以上人は変わっていく。

 

 ジョーダンは知っていた。夏合宿を通して、想いも関係もいずれ変わっていくものだと知った。

 

 それでも、変わらなくていいと望んでいた。

 

「夏合宿のあの時、アケノ言ってたじゃん。あっすーがあたしを選んだのなんて、ただの運だって──そうだよ。そう……偶然出会っただけで、あたしは運が良かっただけ。ほんと、あたしは恵まれてるし、一生分の運を使ったんじゃないかって時々思ってる。だから……それ以上を欲しいって思うの、止めてる」

 

 ──そうすると、きっとバチが当たると思う。

 

 ジョーダンはそう呟いた。

 

「欲しがり過ぎると、きっとダメなんだ。あたしは走ることしか出来ないのに、その分でもらえる以上のことをもらってる。あっすーはあたしのトレーナーでいてくれてる、それはあたしが走ったぶんだけそうしてくれてる。だから……それで満足しなきゃダメなの。あたしが告ったりしても、あっすーはなんだかんだで受け入れてくれると思う、困った顔で笑いながら──」

 

 それでもいいかな、と思ったことがあることを否定できない。

 

 押しに弱い明日原のことだ、押し切ってしまえと思ったことは一度ではない。

 

「……でも、そんなことしたら……あたし、なんか自分のことキライになりそうで、許せなくなりそうで……そうやって手に入れたそれは、なんか違くねって、なんか間違ってねって」

 

 一緒に笑い合う表情の下では、もう1人の自分が言うのだ。

 

 それは本当に正しいのか、と。

 

 それを言葉や文字で表現することは難しい。複雑に絡まり合った感情は、ジョーダン自身ですら理解しきれないものだ。

 

 明日原には、自分が個人であるという意識が薄い。献身的で自分を捧げることを厭わないし、頼まれごとを断ることはほとんどない。自分のために何かをするということはほとんどないし、いつでも担当のために行動し、担当のために仕事をしている。

 

 ジョーダンにはそれがどうしてももどかしくて、苦しい気持ちになる時がある。

 

「……あたし、走ることしか出来ねーし、バカだから──」

 

 色々考えた結果、ジョーダンは何もしないことにした。

 

 何もしないことを望み、何も変わらないことを望んでいる。

 

 だが。

 

「でも──あっすーがスカーレット先輩とか、きりゅーさんとかと付き合ったり、結婚したりしてるとこ想像すると苦しくて、嫌で──」

 

 関わらないようにしようとした。本当だ。明日原がそれを望んでいるのなら、それで明日原が幸せになるのならただ見ていようと思った。

 

 本当だ。

 

 本当なんだ。

 

「あたし……どうしていいか、分からなくて、でも……」

 

 その声に嗚咽が混ざる。

 

「あいつの横に誰かが居るの、嫌だよ……っ」

 

 ──抑えて捨てようとした気持ちは、いくら捨ててもずっと沸き上がって来る。

 

 3年間が終わったらさよならすると、心のどこかで決めていた。だからその3年間だけは横にいさせて欲しかった。だから別にいいはずだった。

 

 ぐちゃぐちゃになって、どうしようもなかった。

 

「そっか」

 

 アケノは優しい表情で答えを告げた。

 

「恋をしてるんだね、ジョーダン。明日原さんのこと、好きで好きでしょうがないんだ」

 

 その感情に名前を付けてしまうと、きっともう戻れなくなると分かっていた。何だったらずっと前から知っていた。知っていたから知らないフリをした。

 

「……っ!」

 

 だから、まるで悪いことが見つかったみたいな表情で怯えている。

 

「わかんないよ、あたしどうすればいいのか分かんないよっ! どうすればいいの、あたしどうすれば良かったの!? 分かんないよ、全然分かんない、これからどうすればいいの!? どうやって──」

 

「ジョーダンに何が足りないのか、私は知ってるよ」

 

「え……?」

 

 言葉を遮ったアケノを、思わず見る。

 

「勇気。変わっていく自分とか、変わっていく現実を受け入れる勇気」

 

 アケノはもうそれを知っている。誰もが直面し、そして向き合わなければならない真実を知っている。

 

「奪い返さなきゃダメだよ」

 

 そう言われた時、ジョーダンは数秒間ほど何も言えずに固まっていた。

 

「欲しいものがあるなら、戦って手に入れるんだ。戦いもせずに負けを認めるなんて、ジョーダンらしくないよ」

 

 ──それが、代価。

 

「これ、読んで」

 

 ぱさりと、机の上にアケノが放り投げたのは一冊の変な手書きのノート。表題にはもちろん、作戦指令:いちゃらぶドキドキ大作戦とデカデカと恥ずかしげもなく書かれている。

 

「な──なに……これ」

 

「方法ならここにある。あと必要なのは勇気だけ」

 

 つーっ、と冷や汗が頬を伝っていった。ジョーダンは唾を飲み込んでページを開く。

 

「うわっ眩し……──これ……アケノ、これって」

 

「そう。始めよ、反撃戦。ジョーダンをこんな目に合わせたナビを懲らしめてやらなきゃ」

 

 こくりとアケノは頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー ー ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「事情は分かったわ。あんたが有で負けたせいでこんなことになってるってのも含めて、ね」

 

 凍りつくような瞳の中で炎が燃えている。しかし人でも殺しかねないような猛禽類の瞳だ。

 

「いいわ。乗ってあげるわよ、共同戦線──あの卑しいヒトミミから、明日原を奪い返す。どんな手段を使ってでも

 

 ダイワスカーレット、推参──もしかしたら本当に、1人くらいなら殺してしまうかもしれない。

 

「それで、作戦名は?」

 

「……まあ、アレで」

 

「ふーん……。さ、行くわよ。足引っ張ったら殺すから」

 

「……上等っすよ。パイセンこそ無駄にデカい乳引き摺ってんだから、重くてついてこれないなんてことねーよーによろぴってことで」

 

「あんまデカい口叩くんじゃないわよ。てか明日原、実は巨乳派だから」

 

「ウソぉ!?」

 

 

 

 

 

 

いちゃらぶドキドキ大作戦〜死滅回遊編〜

 

始動。

 




競馬でクッソ金溶かしたんで投稿ペースのんびりでやっていきます
無料10連とかいう課金への道
キタちゃん、どうして来ないの
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