「当然、冗談に決まってんじゃん?」   作:にゃんこぱん

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Orfevre : 1/3

 

 

 

 

 

 

 この日が来る。今年も開催される。

 

 皐月賞。始まりのGⅠ。いつもレースの歴史はここから始まる。それではまず、映えある1番人気の紹介から。

 

 1番人気はサダムパテック。東京スポーツ杯ジュニアSと報知杯弥生賞の2つを制したクラシック級の筆頭候補。朝日杯FS(フューチェリティーステークス)こそグランプリボスに譲ったものの、ジュニア級の時点で重賞を2つ獲っているのは圧倒的な実力の裏付け。

 

 2番人気、ナカヤマナイト。共同通信杯を制覇してこの舞台──重賞にたどり着くまでに惜敗を繰り返し、これまでにジュニア級としてはかなり多い7レースに出場。経験の多さが栄光までの道を作るか。

 

 3番人気ベルシャザール。重賞制覇経験こそないものの、安定した戦歴が評価に繋がったか。スプリングS(ステークス)2着。幅広い脚質からレース当日の戦略が読めない。

 

「オルフェはーっと……4番人気? え、でも前のレースじゃ3番人気のヤツに勝ってんじゃん。なんでー?」

 

「彼女はやらかしがありましたからね。ムラっ気があると思われたのでしょう」

 

 オルフェーヴルは京王杯ジュニアS(ステークス)を1番人気で出走、10着で終えている。その事実がある以上不安も最も。しかし勝利したレースではどれも上がり3F(ハロン)は最速を叩き出している。

 

「実力はあるが、メンタルにおいては不安……まあ、妥当と言えば、妥当な評価と言えますが」

 

「みんなわかってねーなー、オルフェのこと」

 

「オルフェーヴルが勝つと?」

 

「ったり前じゃん。まーでも、ラーもいるしなー……」

 

「確か従姉妹でしたか、トーセンラー」

 

「んー……。ビビったわマジ、ラーがトレセンに来てるって聞いたのちょっと前だったし。なんかあたしを驚かせたかったんだから、皐月賞までは秘密にしてたって言われてさー、流石になんも言えんくなったわ。気づかなかったあたしもあたしだし……」

 

 意外なところで世間の狭さを感じていた──と、にわかにざわつきが収まったのを感じる。

 

「……時間のようです」

 

 スターターが赤旗を振り上げた。ファンファーレの軽快な吹奏、晴れ渡った空に雲はなし。時計の針は3と半分ほど。東京レース場に詰めかけた人々がひしめいていた──その中には当然、ウインバリアシオンも居た。

 

 間もなく最初の判決が下る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実際のところ、オルフェーヴルに対して"強い"とか、"速い"という印象など持っていなかった。少なくとも彼女のクラスメイトはそうだったし、そして彼女自身もそうだっただろう。

 

 内気な性格──内気というか臆病──口数は少なく、そして迂闊に近づくと逃げる。猫のようだ。そして授業中もこっそり寝ていることにほとんどのクラスメイトは気がついているし、トレセンの特盛ご飯が苦手なことも周知の事実だ。それに小さい。

 

 だから──

 

「──抜け出したの、オルフェ──……オルフェーヴル!?」

 

 4コーナーを通過した後の直線コース、その僅か10秒にも満たない黄金の瞬間──横に広がったバ群の中から一歩抜きん出る。

 

 ──それがどれだけ難しいことなのか知っている。

 

 2000mのラスト600m。1400mを時速約60kmで走った後のその勝負の時間。走るだけなら出来る、走り切ることならそれこそ誰だって出来る。だがそこから加速するということの意味は大きく、そして苦しい。

 

 トレーニングで鍛えられる範囲には限界がある。

 

 神様に選ばれたウマ娘というものはおそらく存在する。

 

『オルフェーヴル抜けた! オルフェーヴル抜けて200を切って1バ身半のリード! 2番手にはダノンバラード、内からようやくサダムパテック追い込んで来るが!』

 

 マスクをつけたままの表情が見えない。

 

 後ろにつけた17人のウマ娘を置き去りにして翔ぶような姿。靡く髪の毛の影は神秘的ですらあった。本能に訴えてくるのだ。あのウマ娘の強さを──

 

「……つっよ」

 

 かろうじて呟いた言葉だけが全て。作戦とか技能(スキル)とか、そんな細かいモノなんか関係ない。本当に強いウマ娘というものは──ちょうど、こういうことを言うのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(──初めて、普通に走った)

 

 意識があるままレースを走ること──こんな表現はオルフェーヴル以外には使わないだろう。みんなこの殺気が飛び交うターフの上に慣れている。

 

 レースに出るみんなのことを、怖いと思っていた。

 

 コーナーで寄せてくる気配や、僅かにぶつかりそうな体、瞳の中にこもった強い感情。そんなに勝ちたいのなら、自分なんかが邪魔をしてはいけない。そう思って怯えていた。

 

(こんな景色、初めて見る)

 

 走って競うというごく当たり前のことに勇気が必要だった。だから勇気を出した。

 

 ──ワアアアアアアアアアアアア!!!

 

 背中だけを見て走っていたそれまでの視界が開けた──前に誰もいない。前に誰もいない、前には誰もいない!

 

 この道の先に誰もいない。

 

(変わっていいのか──決めて良いのが、自分なら)

 

 ──弱い自分が嫌いだった。

 

 ちゃんと決められない自分が嫌いだった。

 

(自分は──)

 

 風を切るこの体が向かう。

 

「強くなるって、決めたんだぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァアアアアア──!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日、日本は彼女の存在を知った。

 

『圧勝だ! 圧勝──オルフェーヴルゴールインッ!』

 

 フロック(まぐれ)などではない。3バ身差をまぐれとは呼ばない。

 

 誰が疑う。誰が認めぬ。それは作戦勝ちとか、小細工とか、そういうものではない。抜け出せるウマ娘──1歩を踏み出したその力を、その強さを──誰が知る。

 

 この勝利は序章だ。これから始まる伝説の──最初の一幕。

 

 その裏側で、新たな物語が動き出そうとしていた。

 

 皐月賞の後、東京12R(レース)──シニア級以上OP(オープン)、メトロポリタンS(ステークス)

 

  一見して大したレースではない。皐月賞の後だ、世代最高のレースの後ではそこまで人目を引くものでもなし。

 

「──来たのね」

 

 レースを終えたウマ娘たちは控え室に繋がる地下道を通って帰っていく。走り終えてすぐのウマ娘に会いたければそこで待っているといい。すぐに会える──そんなわけで、ある会話があった。

 

「……懲りないねェ、アンタ」

 

「嬉しいわ。戻ってきてくれて……付け損ねた決着(ケリ)を、ようやく迎えに行くことが出来るもの」

 

 ナカヤマフェスタはこのメトロポリタンS(ステークス)で1着を飾った──勝利という結果と共にレースに復帰した。

 

「しかし随分私を買ってるらしい。何がアンタのお眼鏡に適ったんだか」

 

「何故──なぜかしらね」

 

 ライバルに因縁をつけるのはトレセンではそう珍しくもないが、たった一度レースで戦っただけというのは理由に欠ける。

 

「オイオイ……」

 

「言葉には出来ない。ただそう囁くのよ、このアーネストリーの(ゴースト)が」

 

 アーネストリーはクラシック期も、シニア1年目も振るわなかった──。しかしシニア2年目にしてようやく光を浴びる。今年に入って2勝、GⅡアルゼンチン共和国杯では2着と好走。春シーズンでも注目されている選手だ。

 

「オカルトを信じたことァねえな」

 

迷信(オカルト)ではない。精神(スピリット)の話──アーネストリーがそう呟いている」

 

「一人称が紛らわしいぜ──」

 

「余計なお世話ね。ともかく、貴方(アナタ)とは何かの因縁を感じるの」

 

 ──"なんかよくわからんが、気になる"。

 

 トレセンではなんかよく分からんけどよくあることだ。たぶん前世の運命とかじゃないかな。

 

「──舞台が必要なのよ」

 

「……ああ?」

 

「アーネストリーはいつだって、自分を表現できる場所を探している。それは貴方(アナタ)も同じ……でしょう? 賭博師(アリター)

 

「自分を表現できる場所、ね」

 

「調べたわ。貴方(アナタ)のこと。灰の舞う場所へ出入りしていたようね」

 

「……ンな時期もあったか」

 

 東京には色々な人がいて、色々な場所がある。そんな火花散る場所をうろついていた時期はあったのは事実だが、今ではそういうことをすることも無くなった。

 

「白と黒──明白にするべきよ。灰色ではいけない。2つのモノがあるなら、どちらが黒でどちらが白なのかはっきりするし、そうするべきよ」

 

 ちょっと口調が香ばしいのはさておき、アーネストリーの要件は単純──とても単純(シンプル)

 

「いずれその(とき)が来るわ。また会いましょう」

 

 勝負の約束。いずれその時が来るだろう──。

 

 

 

 

 

 

 ー ー ー

 

 

 

 

「おいオルフェーヴル、焼きそばパン買ってこいよ〜!」

 

 ──こんなのだったのが。

 

「お、オルフェーヴル。これ、授業のプリント……ど、どうぞ」

 

 ──こんなになって。

 

「あの、オルフェさん。その、これ、焼きそばパンです」

 

 ──最終的には、こんな風になった。

 

 皐月賞は世代トップの象徴だ。トレセンがレースを根幹に置いている以上、少なくともオルフェーヴルは、事実上ヒエラルキーのトップに立ったということになる。

 

 友達の少ないオルフェーヴルは、一言で言えば浮いていた──。

 

「ほら、あの子──あのウマ娘だよ。あの机で寝てる……」

 

「あれが……確か、眠りを邪魔するとキレてぶん殴られるんだったよね……」

 

「小さい体だけどすごい力なんだよ。自分のトレーナーでさえ、気に入らなかったら掴み上げるって」

 

「うわ、オーラ出てる気がする。怖いし強そう……」

 

(……ど、どうしてこんなことに)

 

 寝たふりをしながら冷や汗。嫌なヒソヒソ声が途切れない。他のクラスからも入れ替わり立ち替わり、王者の姿を見ようと廊下から視線がする。

 

 無論、クラスメイトはオルフェーヴルがどんな性格をしているのか多少は知っている。しかし実際のところ、あまりというか全然会話がないのでわからない。根っからの人見知りが継続しているし、それに新学期が始まってクラス替えの直後だ。彼女を知らない者も多い──。

 

 皐月賞翌日。オルフェーヴルは色々な意味で、最も注目されている生徒だった。

 

 そんなウマ娘たちを掻き分けてやってきたウマ娘に、人混みがさっと分かれた。上級生というものは割と顔つきや体格からそうと分かるものであり、ましてや有名人だ。

 

「いや人多ッ……オルフェ、オルフェー。ちょいいいー?」

 

 トーセンジョーダンの呼ぶ声に顔を上げた。寝た振りをしていたので、自然に起きた風に演技までしていたところが少し滑稽だった。

 

 ともかく、机から立ち上がって扉の方へ。

 

「ちょい話? っつーか、なんか話があるってさー」

 

 ジョーダンの言葉に首を傾げながらも、とりあえずついていくことにした。

 

「ジョーダン先輩だ……。やっぱり舎弟だって噂は本当なんだ」

 

「先輩に失礼なこと言ったりした人、オルフェーヴルに噛みつかれたんだって噂もあるよ──」

 

「あの子が哺乳類の中で認めてるのはジョーダン先輩だけで、他は肉袋だって思ってそう……」

 

「親とかトレーナーの言うことすら聞かないオルフェーヴルさんが唯一認めたギャル──」

 

 まさかとは思うが、こっちには聞こえないとか思っているのか? 

 

(全部違うっスよぉ……)

 

 堂々と廊下の中心を歩くジョーダンの後ろを、小さくなりながら猫背で歩くオルフェーヴル。他のウマ娘たちがそれを見送りながら好き勝手なことを言っていた。

 

「あんたたちー、噂話は好きなだけすればいいけどさー。そーゆーのは聞こえないとこでやれし。じゃなきゃこっちのオルフェがぁ──ガブっ! とか、やりにいっちゃうけど〜?」

 

「ひぃ──! ごめんなさい、食べないでくださいーっ!」

 

 ジョーダンは大袈裟に肉食獣のモノマネなどをしながらおどかした──効果は覿面で、蜘蛛の子を散らすようにウマ娘たちが逃げていく。それを見てオルフェがまた情けない声を漏らした。

 

「じ、ジョーダンセンパイ〜……」

 

「あははははは〜。草」

 

「草じゃなくてっ! ほっ、ホントだと思われたらどうスんスかぁ〜!」

 

「ホントに食べちゃえばいいじゃん」

 

「た、食べ……っ!?」

 

 思わず想像してしまったのだろう。オルフェーヴルの顔が見る見る青く染まっていった。

 

「おもろ、ウケる〜。カワイい〜なおまえな〜」

 

「からかわないでくださいよぉ……」

 

「じょーだんじょーだん。でもちょっとは人見知りもどうにかした方がい〜ぞ〜? いつまでもアタシとかが居るわけじゃないんだしさ」

 

 おそらくジョーダンはさほど意識したわけではないのだろう。だけどオルフェーヴルにとっては違った。トーセンジョーダンは高等部3年生──あと1年もしないうちに卒業する。

 

 無論、高等部3年生を過ぎてもレースを希望するウマ娘たちのために、特別在学課程という措置はあるものの。

 

「その──センパイも、卒業するんスか……?」

 

「誰だってするだろ。いつかはあんたもね」

 

「それは、そう……っスけど、そういうことじゃなくて」

 

 現役世代のうち、高等部3年、つまりは18歳で卒業することを選ぶ生徒は約半数。何しろ区切りとしては丁度いい──成果を出せなかった生徒にも、成果を出せた生徒にも。

 

「あたしが今年度で卒るかってことでしょ? するよ」

 

「す、するんスか!? センパイ、レースでも結果出してるし、その、まだまだこれからじゃないっスか!」

 

「震災で分かった気がしたの。楽しいだけの今はずっと続くわけじゃない……これはあたしなりのケジメ」

 

「ケジメ?」

 

「そう」

 

 その言葉の先が気になったが、ジョーダンは言う気がないのかそこで言葉を区切った──元々会話の苦手なオルフェーヴルに、その先を聞く勇気はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと──ここだわ」

 

 ジョーダンが足を止めたのは応接室──トレセンにはその特性上、メディアの出入りが激しい。新聞、雑誌、テレビ──校舎に訪れる関係者のために、専用の部屋が設けられたのは必然だった。

 

「あ、あの。なんか嫌な予感するっス……」

 

 第1応接室と表記されている、中の見えないドアの先には──

 

「おう。来たか、オルフェ」

 

 トレーナーである加賀と、知らないスーツの人がいた。

 

「こんにちは、初めましてオルフェーヴルさん。XXテレビの者です──」

 

「あっ……は、はい。はじっ、初めまして…………テレビっ!?」

 

「待て逃げんな! ジョーダン!」

 

 すかさずオルフェーヴルの襟首を掴んだジョーダン。ぐえ、とカエルのような呻き声が飛び出す。

 

「……まあ座れや。お前さんにひとつテレビ案件が来ててなぁ──」

 

 オルフェーヴルにとってはものすごく聞きたくない事案が語られ始めた。曰く──最速インタビュー、とのこと。明日朝7時の生放送だそうだ。その時点でもう1回逃走を試みたが失敗。

 

「いい機会だと思ってな。お前さんはメディア露出がマジで少ないし、ファンの皆さんにとっちゃあ謎が多いっつーか、お前さんのことを知ってもらうには丁度いい」

 

「……」

 

「難しく考えることじゃねえさ。普段通りに質問に答えたり喋ったりするだけだ。10分くらいの短いコーナーにする予定だし、まあ事故ってもそれはそれでって感じだしな」

 

「………………」

 

「……聞いてんのか?」

 

「……わァ…………ぁ…………」

 

「──泣いちゃった!! ちょ、泣くことないじゃん!」

 

 これにはテレビ局の人もびっくり。ちょっと苦笑いしている。

 

「加賀さん、こちらからお願いしておいて申し訳ないんですが、やはり今回の話は無かったことにした方が……」

 

「……いや。話を進めてくれ」

 

「ぁ……ァ……わァ…………」

 

 可愛い子には旅をさせよ、と言う(ことわざ)がある。

 

 ちいかわみたいになってしまったオルフェーヴルを可愛い子と呼ぶのは少しどうかとも思うが、しかしこれは必要なこと──。

 

「やだぁ……ぁ……わァ…………」

 

「本当に……いいんです?」

 

 沈黙の中でちいかわの不憫そうな泣き声が嫌にコミカルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・朝7時『突撃! トゥインクル・シリーズ』のコーナー

 

 

 

 

 

 

 

『おはようございます、突撃トゥインクル・コーナーです! さあ本日はスペシャルな方に来ていただいております、それもなんとスタジオに!』

 

『その方は今日本で最もホットと言っても言い過ぎではないというくらい、レース好きの方であれば誰しも気になっているであろうそのウマ娘──第70回皐月賞覇者、オルフェーヴルさんです! どうぞ!』

 

(カメラが回る)

 

『こ、こっ、ここここんばんは!』

 

『あ、えっと……朝です!』

 

『ひゃァいっ! おはようございまァすっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……。大丈夫です? これ〜……」

 

「……まあ、なるようになんじゃね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

『えーっと、じゃあ早速インタビューに入りますね〜!』

 

『ぃよ、よろしくおねがいしますぅッ!』

 

『う〜ん、緊張が伝わってきます。えーっと、それでは早速ですけど、先日行われた皐月賞は圧勝でしたが、感想はどうでしょうか!』

 

『はいっ! あ、あのえっと、じ、じじじじ自分は、その──』

 

(そっとポケットからメモ帳を取り出すオルフェーヴル)

 

『……き、強敵たちに勝てて、嬉しかった、です』

 

『あれ、セリフ考えてきてます?』

 

 

 

 

 

 

「う〜ん、これ大丈夫かー……?」

 

「まー……なるようになるんじゃないですかね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

『えーっと、実は今回のインタビューはですね、オルフェーヴルさんのことを、もっともっと知りたい! というような企画なので、ちょっと色々聞いていきたいと思います!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぅ、上手いこと切り替えましたねニュースのお姉さん。プロだ」

 

「うーん頼むぞ〜……」

 

 

 

 

 

 

 

 

『えー、それではそもそも、どうしてレースを志したのか! その辺りからお話を聞きたいですね』

 

『うえぇっ!? あ、ああああの、め、メモに書いてないことは聞かないで欲しいっス!』

 

(スタジオの笑い声)

 

『あはは、ごめんなさい。え〜っと、どうしても答えられないですか〜?』

 

『あ、あの、いや、そういう訳じゃ、ないっスけど……』

 

『気になっているファンの方、多いと思いますよ!』

 

『なんで自分が、トレセンに来たか……え、ええっと、自分は……小さい頃から、ビビりだったんで、その……そんな自分を、変えたくて──』

 

(ぎこちなくインタビューに答えるオルフェーヴルの姿が続く)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー ー ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 加賀のトレーナー室。だいたい3人掛けのソファーの上でオルフェーヴルが土下座をしていた。いや、謝っているわけではないが、そのぐらい項垂れていた。

 

「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」

 

「まーまーごめんって、でも良かったと思うわ。正直事故るんじゃないかって思ってたくらいだし、ちゃんと受け答えできただけでもじゅーぶんだって。まー事故っちゃ事故だったけど」

 

「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん、うわぁぁぁぁぁぁぁぁん、びゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

 ぽんぽんと猫の背中でも撫でるような仕草で慰めるジョーダン──。そこで扉が開いて入ってきたのがナカヤマ。顔を出すなり目に入った珍妙な光景──。

 

「……また賑やかじゃないか。廊下にまで聞こえてるぜ、声」

 

「あ、ナカヤマ。おっす」

 

「あァ……で、なんだコイツ?」

 

「今朝のニュース見てない? 突撃トゥインクルシリーズ」

 

「見てねェが……」

 

 説明のためにジョーダンが部屋備え付けのテレビのリモコンを操作した。録画された映像が流れ始める。

 

「はん、なるほどねェ……」

 

 事情を把握して腕組み。少し面白がっている。

 

『れ、練習はきちゅいっスけど──』

 

「きちゅい」

 

「きちゅいっつったな」

 

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

 客観的に見るとすごく面白い映像だ。テレビの中のオルフェーヴルの緊張の度合いといったら酷いもので、視線の泳ぎ方からして尋常ではないし、言葉も噛みまくっている。あと言葉も時々変な時があった。

 

『なるほど。では最後に、日本ダービーへの意気込みをお願いします!』

 

『ひょわっ!? は、はいぃ……えっと、あ、あの……が、ががが──』

 

『が?』

 

『が、がんばるっス……』

 

「いや普通かっ!」

 

 インタビューは大体こんな感じだ──全体を通すと、皐月賞覇者という称号に似合わないような性格のオルフェーヴルがよく分かる。ニュースのお姉さんのフォローが上手く、それが無かったら本当に放送事故になっていただろう。

 

「ふっ、ククク、ふっ、はは、はは……!」

 

 ナカヤマは笑いを堪えるのに必死だ。漏れ出た笑い声を聞いて、ついにオルフェーヴルに限界が来た。

 

「な、何笑ってんスかァ!? 自分だって頑張ったんスよォ!」

 

「いやいや、悪い悪ぃ……っははは!」

 

「笑わないで欲しいっス! 必死だったんスよ、それを笑うとか……人の心ないんスかァ!?」

 

「ウマ娘だからな」

 

「……このっ! このぉ〜っ!」

 

「っハハハ。どすこいどすこい……」

 

 ポカポカ叩いてくるオルフェをあしらいながら録画を見て、ナカヤマはニヤつきを抑えられないらしい。少し録画を巻き戻し──。

 

『これまでのレースではマスクを外していたと思うんですけど、皐月賞では着けたまま走っていましたよね? やっぱり何か意味があるんですか? っていうか息苦しいと思うんですがー……』

 

『あ、えぇっとぉ──い……一身上の都合、っス』

 

『?』

 

 こんなのが全国で放送されていたと思うと頭がおかしくなりそうだ。

 

「まー、ガンバっただけはあんじゃね? これ見てみ?」

 

 ジョーダンのスマホが写したのはあるSNSのアカウント。そのフォロワー数は実に67万人をマークしていた。

 

「……結構人気みたいだが、誰のだ?」

 

「オルフェの」

 

「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 どうして本人がびっくりしているのかは分からないが──少なくとも、これでインフルエンサー程度にはなってしまった。SNS全盛と言えどもマスメディアの影響力は大きい。だがそれ以上にこの数字を伸ばしたのはオルフェーヴルのあのインタビューがあってこそだろう。

 

「な、ななななな……知らなかったスよ! 自分ツイッターなんてやらないし、大体このアカウントだってジョーダンセンパイがほぼ勝手に作ったみたいなもんじゃないっスか!」

 

「うん」

 

「うん、じゃないっスよッ!」

 

 通知を切っていたのが仇になったか、さっぱり気が付かなかったらしい。というかそんなところにまで気が回らなかったというべきか。

 

「な、なんでぇ!? ろ、ろくじゅうなな……うわ増えたっスよ、はちになったっス! なんでぇえええ!?」

 

 世の中の多くの人種がこの数字を増やそうと試行錯誤する中で、オルフェーヴルは少しも嬉しそうではない。恐ろしいものを見るような目でスマホを睨みながら冷や汗をダラダラ流している。

 

「んー、思ったよか少ない。まあダービー獲れば100万は行くかなぁ」

 

「行かなくていいですッ! てか何さらっとダービー勝つこと前提なんスか!?」

 

「え、何? 勝つ気でいろよ」

 

「う……」

 

 それは正論ではあるのだが、そんな自信満々な気持ちになれるはずもない。

 

「いいじゃん。結構好評っぽいよ? こう……想像以上にキャラ濃かったとか、テンパってるオルフェが面白かったとか可愛かったとか」

 

「余計なお世話っスよッ!」

 

 実際かなり好評だったらしい。あの全く自信のなさげなキャラが逆にウケたというか、レースでの迫力とのギャップが生まれたとか。

 

『つまり、自信を付けるためにトレセンに入ったんですね〜……。えー、そして見事! 皐月賞を制しましたが、どうですか。自信は付きました?』

 

『え、ええっと、それは、』

 

 録画の先が流れることはなかった。いい加減自分の醜態をこれ以上見ていられなかったオルフェがリモコンを押したのだ。そして大きなため息をついた。

 

「付くわけ無いっス、自信なんて……──」

 

 これでもまだこんなことを言っている小さな肩。ナカヤマとジョーダンは顔を見合わせた──。

 

「キリがねぇ。オルフェ、オマエはンな気の長いこと言ってるが、じゃあいつになったらその自信ってヤツが付く?」

 

「それは……」

 

「あんたの気持ちはちょっと分かるけどね。レースに勝ったって、自分自身が変わってるワケじゃねーし。でもそろそろ認めてやんなよ、自分のこと。あんたが認めないと、これまで頑張ってきたあんたが可哀想じゃん」

 

 世間が彼女を認め始めた。今度は彼女が、彼女自信を認める番──と、そうなるかならないかは、まだ彼女の問題だ。

 

 それはそれとして、オルフェーヴルはしばらく好奇の視線に晒されることになる。

 

 

 

 

 




当たり前のようにヴァルゴ杯惨敗したおれが通りますよっと……
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