「当然、冗談に決まってんじゃん?」   作:にゃんこぱん

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凱旋門賞お疲れ様でした!!!!!
楽しい時間をありがとう!!!!!!!!!!!
また来年!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


↑↓↑

 

 

 

 

 

 

 ──6ヶ月前。去年の12月。

 

 まだ寒い冬、この日は珍しく雨が降った。極度に冷え込む外気が肌を刺す。水蒸気の一つひとつまでもが針みたいになって、厚着の上からでも容赦なく体温を奪っていく。

 

 ザ、ザァ、ザ──。ザ、ザ──ザ、ァ──────

 

 墓地。弔いの場、雨で洗われる墓石。暗い空に光はない。とても寂しい場所だ。

 

 ナカヤマフェスタはこの極寒の中、傘も差さずに立ち尽くしていた。ある墓の前だ。

 

 "出水家之墓"、その中に彼女の大切な人が眠っている。その人物は彼女の恩師であり、よき友人であり、そして母親でもあった。

 

 ナカヤマフェスタは傘を持たない主義だ。片手が塞がる。

 

『────』

 

 ナカヤマフェスタは傘を持たない主義だ。自らを守るものは要らない。

 

『先生』

 

 ナカヤマフェスタは傘を持たない主義だ。涙が流れても雨が誤魔化してくれる。

 

『せん、せい』

 

 結局のところ、ナカヤマフェスタにはいざという時に他人を救える力がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー ー ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう熱心でもないファンならば、レースの存在を意識し始めるのは早くてもその1週間ほど前だろうが、当事者たちにとってはそうはいかない。特にGⅠはその規模が故に、多くの人がレースに関わる。具体的にはレースのPRだ──。

 

 広告は町中の至る所に貼られ、SNS、テレビを問わずCMは流れ続ける。当然、広告費用は膨大なものとなる。GⅠクラスになれば億を超えることは当たり前で、そしてこのレースに関してはさらに頭ひとつ飛び出ることになる。その広告費用は20億とも30億とも言われ、更に上乗せされることもあるという。

 

 宝塚記念。

 

 上半期の実力No1を決めるグランプリである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『えー、お茶の間の皆さんこんにちはこんばんはー。あなたの日常にささやかなエンタメをお届けするご存じ日曜日のヒーロー、ブエナビスタでごんす!』

 

『えーっと、なんでしたっけ……あ、あれです、宝塚です! あのー、宝塚記念出たいのでファン投票よろしくお願いしまーす!』

 

『え? これはあくまで宝塚記念の広報……あーはいはい。わっかりまーしーたーよー。えー、宝塚記念は今月末の6月27日開催予定でーす。みんな応援してくださーい!』

 

『関連グッズとか関連イベントとか色々やってるみたいなので、日常が退屈なそこのあなたは今すぐ公式サイトをチェックです! えー、抽選でなんと出場選手のサイン付きの……えっーと、なんでしたっけ。なんかTシャツとかだったと思うんですけど、なんかやってるんでファン投票をしましょう! あなたの愛バは誰ですか? 私って言えーい!』

 

『そんなわけで、皆様のご来場お待ちしておりまーす! 退屈はさせないと約束しましょう!』

 

『以上、ブエナビスタでしたー。ばいばーい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、なにこれ」

 

「何って……cm? え、ナビってばこんなの出てたんだ。知らなかったんだけど」

 

 カフェテリアに設置されているテレビから流れたそのコマーシャル。その張本人といえば、いつも通り山盛り定食をもぐもぐ頬張っている。

 

「へー、はへれふへ、ひふんへひふと──」

 

「飲み込んでから喋りなよ」

 

 ゴクン。

 

「自分で見ると結構恥ずかしいですね、あれ」

 

「うん。なんか私まで恥ずかしい」

 

「あんなもんテレビで流していいの?」

 

 散々な言われようだ。しかしブエナビスタのキャラを全面的に押し出したこのcmはまあまあ効果があったとかなかったとか──。

 

「まったく。ガラじゃないことはやるもんじゃありませんね」

 

「ガラじゃないって言っても、バラエティーに出たこともあったでしょ。ナビが1番テレビ出てんじゃん」

 

「まあそうでしょうけども。ジョーダンだってもっと出てくださいよ。オファー来てるでしょ」

 

「あんた程じゃねーよ。あーあ、あたしもあーゆーのやりたかったし」

 

「ケガなんかするからだよ。それがなければ──」

 

「あーヤダヤダ。もしもの話はしなくていーの」

 

 カフェテリアは今日も賑やか。昼飯時は特に、そこかしらで昭和みたいな山盛りご飯が散見されるのだ。普通に胃袋より大きいと思うのだが、ブエナビスタが箸を休める気配はない。

 

「あーあ。ジョーダンとの決着はまた年末行きです。つまんないですよー」

 

「またそんなこと言って……。春シーズンはまだしも、秋になったらそんなこと言ってられなくなるよ?」

 

「? どういう意味です、アケノ?」

 

「ライバルは横だけじゃないってこと。"4人目"と"7人目"──」

 

「ケッ! 聞きたくない聞きたくないですー。あーあー聞こえなーい」

 

「ふふ。今度はちゃんと三冠達成してくれるかもね、ジョーダンとナビの代わりに」

 

「あたしも!? やめろし、答えづれーだろ!」

 

「あーあーあー! 聞こえなーい聞こえなーい!」

 

 ここ数年のティアラ路線は話題に事欠かない。

 

「だいたいあんなのアリですか。同着て、同着!」

 

「ハナ先1mmだって一緒だったじゃん。後輩に嫉妬は見苦しいよ?」

 

「だァれが嫉妬なんかしますかい! あんな小娘1人! 擦りゴマみたいに粉々にしたらァ!」

 

「──あら。流石に口だけは大きいのね、先輩」

 

 ちょうどブエナビスタの後ろを通りがかったあるウマ娘が、そう口を挟んだ。空のトレーを持っていく途中だったようだ。

 

「あァ!? 誰ですかァ!?」

 

「ご機嫌よう。擦りゴマみたいにしてやる、と仰っていたかしら?」

 

 ちょうどブエナビスタが当たり散らかしていたウマ娘。アパパネが怖い顔をしてブエナビスタを見下ろしている。

 

「あ──……あ、あはは……ご、ごめんね。ナビだって他意はないんだよ。ただ単に、ちょっと虫の居所が悪かっただけで……」

 

「御託は結構よ。ブエナビスタ先輩、ひとつその小娘からお言葉を差し上げてもいいかしら?」

 

「ちっ。なんでも言いやがれぃ」

 

「では遠慮なく──世界への挑戦、見届けたわ。立派な姿だった。その上で、ひとつ。先輩にはもう、GⅠで勝ち切るために必要な何かが、決定的に欠けているんじゃないかしら?」

 

「──ぐはァッ!」

 

 血反吐を吐いて(吐いてない)ブエナビスタが平伏した。

 

「えぇ? でもヴィクトリアマイルとか──」

 

「甘いわね。甘すぎるわ。甘々……セブンの生チョコアイスより甘い──」

 

 ヴィクトリアマイルは代々、ティアラ路線を行ったウマ娘たちが出場するレースだ。そのため、勝負の格として他のGⅠから劣ると見做されがちである。過去の実績、つまりは出場してきたウマ娘たちの強さからもなんとなくその傾向が見えている。

 

「ヴィクトリアマイルなど、四天王の中では最弱……。先輩は所詮、ファン人気だけで持っているだけの、ただの芸人なんじゃないかしら?」

 

「い──言わせておけば小娘がぁ! 自分の人気がないからって僻んでんじゃないですよォ!」

 

「──はうッ!?」

 

「よーく分かったでしょうね! 愛嬌のない真面目ちゃんがよォ! インスタの投稿見せてみろってんですよ! あんッなおもんないインスタ、フォロワー数も納得ですよねェ!」

 

「う、うぐ……!」

 

 まあ同期であるオルフェーヴルのキャラが強すぎるのもあるだろうが、アパパネは──確かに人気がなかった。悲しいかな、アパパネは真面目だった。早い話あんまり面白くなかった。

 

「たっ……確かにっ! そうかもしれないけれど! そうかもしれないけど!! わ、私だって……!」

 

「へっ! ファンの作り方もきっちりお勉強しとくンですねェ!」

 

「うっ……うわぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 叫んで走り去っていったアパパネ。その時にこぼれた涙の一筋が輝いていた──。

 

「……いや大人げなっ! 最低かよ!」

 

 カフェテリアにいたすべてのウマ娘の思いを代弁してジョーダンが言った。表現しにくい表情を浮かべて、ブエナビスタは乱暴な手つきで昼食を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー ー ー

 

 

 

 

 

 

 

 宝塚記念を巡るトレセン情勢は複雑だ。実力と人気はある程度は比例するものだろうが、どんなものにも例外はある。

 

 宝塚記念ファン投票、中間発表。

 

 1位は堂々のブエナビスタ。2位にはレッドディザイア、3位トーセンジョーダン。4位──ロジユニヴァース。

 

「……わ、私が、4位? 冗談だろう……?」 

 

「え、まさか1位取れると思ってたん?」

 

「そんなわけあるか! 宝塚なんて、意識もしていなかった──」

 

「ええ!? 出ないの!? 出ろよ!」

 

「え、いや……しかし、私が出てもいいのか……?」

 

「いや出るの出ないのって……ファン投票じゃん。なんだかんだ望まれてんじゃね、あんたもさ」

 

 ダービーウマ娘の称号は伊達ではない。ロジユニヴァースの復活を望む声は未だ大きい──それがいいにしろ悪いにしろ、確かに世間に望まれてはいた。

 

「それは……だが、別に私は世間の評価を求めてない。それに……イメージが湧かないんだよ、自分の中で」

 

「イメージ?」

 

 お馴染みのマクドナルド──。

 

 友達の少ないロジユニヴァースだが、去年ほどとっつきにくい感じが無くなっていた。特にジョーダンは彼女のことを気にかけていて、何かにつけてこうやってお喋りに誘っていた。

 

「去年のダービーの頃までは、ずっとイメージしていた。ターフの上で、ダービーを1着でゴールする自分の姿。その時の体の感覚とか、踏み出す足の感触とか、そういうの……隅から隅まで、完全に想像できるようになるまで」

 

「へー……イメージトレーニングってやつ?」

 

「そう……だな。今思えば、きっとそうだったんだろう」

 

 ロジユニヴァースが大勢の空間を苦手としていることはすぐに分かった。特にこうやってただたわいもない話をするような、ジョーダンにとっては日常的なそれがロジユニヴァースにとってはそうでない。

 

「トレーナーに言われたとか、そういうわけじゃない。小学生の頃からやってたんだ。ずっと……」

 

「え、すご。へー……確かに効果ありそうだわそれ。で、今はもうしてないん?」

 

「やり方が分からなくなった。足の調子が悪くなって、ずっとレースから離れていたからな。復帰戦もあのザマだ」

 

「別にそんな悪くなかったと思うけど。あたしも復帰戦の時とかだいたいプレッシャーエグかったし」

 

「……ファンの期待とか、柄にもなく意識した結果かもな」

 

「え、あたしのこと言ってる?」

 

「いや……私のことだ」

 

 ──日経賞6着。約10ヶ月振りの出場。結果としてそうなった。

 

「迷いもあったが……今は、あれで良かったと思う」

 

「まぁ……うん。そうかも」

 

 ほんの少し懐かしいような、穏やかな表情でジョーダンは答えた──。

 

「それで、結局どうすんの? 宝塚」

 

「……分からない。出た方がいいと思うか?」

 

「えー……。あたしに聞くの? それ」

 

「お前だったら、出るのか?」

 

「そりゃ出たいに決まってんだろ! 爪やっちまったからムリだけど……」

 

「それは、何の為だ?」

 

「え?」

 

 ロジユニヴァースの中にあった棘のようなものは、今はもう無くなっていた。その必要がなくなったためだ。その後に残ったものは、ある種の純粋な心。

 

「……そりゃ、なんだろ。えー、マジな質問やめろし……」

 

「答えにくいことなら、別にいいんだが」

 

「いや、答えにくいとかじゃないんだよ。何つーかな、昔はただみんなを見返してやろうとか、自分の凄さを示したいとか、そういうことばっかりだったんだけど」

 

「……今は、もう違うのか?」

 

「まあ……あーダメだ。真面目な話とかあたしには似合わんし。やめやめ! とにかくロジ、あんた一回出てみればいいじゃん。そうすれば分かるよ、たぶん」

 

「たぶん、か──」

 

 ──結局、ロジユニヴァースは宝塚記念への出走を表明した。ダービーウマ娘、その復活に期待がかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

『なぁ、お前さん──夢はあるか?』

 

『……夢?』

 

『そうだ』

 

 つくづく人は矛盾した存在だ。

 

 サラリーマンだと自分を定義したはずの加賀が、そんなことを語る。

 

『夢ってのは人生の軸だ。そいつがないと、お前さんみたいにふらふらと危なっかしくなっちまう』

 

『……ほぉ?』

 

 いつだったか。

 

『見たとこまだトレーナーもついてないんだろ。俺は加賀、学園のトレーナーやってる。お前さんは、俺んとこで預ってやる』

 

『やだね』

 

 ──速攻で断った。

 

『なっ……待て、ナカヤマフェスタ!』

 

『どこのウマの骨かも知らねェ野郎に手綱なんざ渡すかよ。どうしても私のトレーナーをやりたいってんなら、少しは上等な口説き文句を用意しとかなきゃな。例えば、夢……クク、そうだな、せっかくなら聞かせてもらおうか』

 

 当時、まだ後ろ暗いところに出入りしていた。入学してすぐの頃──非合法の賭場。黒スーツの男が警備をしているような場所を未成年が出入りするのは、どう考えたって危険だった。

 

『アンタの夢はなんだ?』

 

 偉そうに説教しようとしたんだから、少しはマシな答えを頼むよ。ナカヤマフェスタはそう付け加えた。

 

『……俺の夢はな──』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー ー ー

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ──このアーネストリーが、26位……!? う、うそ……そ、そんなはず……!?」

 

 アーネストリー、シニア級2年目。足元の怪我でクラシックへの出場が叶わなかった時もここまで絶望した表情は見せていなかった。

 

「さ、サトー!? この順位は一体何を意味しているというの!? まさか、封じられし神の意志(ウィルズ)が、この道を塞ぐつもり!?」

 

 グランプリへの出場権はファン投票で上から順番に与えられる。18名の定員が埋まればそこで打ち切りだ。24位は出走すら危うい──というわけでもないのだが、それはそれとしてアーネストリーは焦った。

 

「──心配無用」

 

「へ?」

 

「出場可能」

 

「……! そ、そうなの?」

 

「肯定」

 

 サトー、もとい佐藤が答えた。彼は会話の文字数が少ない。

 

「……」

 

「サトー……。そうね、貴方の言う通りだわ。これはあくまでファン投票で、実際に出走する演者(アクター)のリストではない。クラシック級も混ざる投票結果を見て騒ぎ過ぎたとということね。アーネストリーもまだまだ精神(スピリトゥス)が未熟ということの証拠」

 

「……」

 

 全体的に不遇だったこれまでの選手人生、いやウマ生だったアーネストリーだが、ここへきて晩成の気配が見え始めていた。去年の12月にやっと重賞を捉え、そこから金鯱賞を連勝。春の上がりウマの筆頭。その集大成としてグランプリを狙う──。

 

 グランプリを勝つにあたって、ライバルは多い。出場は出来るにしても、集う強豪は皆これまでとは比べ物にならないほど強い。GⅠウマ娘が多く集まっているのだ。その筆頭が女傑ブエナビスタ──。

 

「あるいは、ここが"分かれ目"かもしれない、と……サトー! 賭博師(トリッカー)の情報は?」

 

「……」

 

「ナカヤマフェスタのことよ! アーネストリーの相棒ならば把握しておきなさい! ……それで、彼女はどうなの?」

 

「……」

 

「分からないの? いいわ、自分で調べる……って、え、よ……48位──サトー、これ……だ、大丈夫なの?」

 

「……」

 

「いいえ、分かっているわ。ただ……この舞台を除いて、他にふさわしい戦場も見当たらない。アーネストリーはいつだって決着を望んでいる。そして(もたら)される勝利をも」

 

 ナカヤマフェスタをライバル視しているアーネストリーだが、肝心のライバルが宝塚記念に出走するかどうかはまだ分からない。レースの登録が始まるまであと少しあるためだ。

 

「……」

 

「ええ、分かっているわ。聞けばいいのでしょうけど、アーネストリーは彼女の連絡先とか知らないし。直接訪ねに行くのはなんかこう、我が闇の心が疼くというか。なんか恥ずかしいし」

 

「……」

 

「あーもう! サトー、貴方の方から確認とか出来ないの?」

 

「……」

 

「全く。分かったわよ、自分で聞けってことね。はぁ、アーネストリーは了承したわ、とりあえずロードワーク出てくるから」

 

「……」

 

 ──何も答えてない。中央トレーナーサトーは無口だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー ー ー

 

 

 

 

 

 

 ファン投票上位10名に優先出走権が与えられる──。

 

 それ以下のウマ娘はこれまでの獲得賞金順に出走することが可能。過去の実績が大きいほど出走しやすくなる。つまりは結局実力上位が集まるということになる。このファン投票は全てのウマ娘を対象にして行う以上、距離適正や芝適正などは考慮されていない。

 

 ある程度の実績があるなら、運も関係するが、ファン投票の結果に左右されずとも出走は可能だ。最もそれは彼女には関係がない──。

 

「……何? 呑気に敵情視察なんて、女王様は呑気でいいわね」

 

「ねーディザイアー。カラオケ行きませんかー?」

 

「殺されたいの?」

 

「何言ってんです? そんな訳ないですよ」

 

 レッドディザイア。ヴィクトリアマイルにてブエナビスタに負けた彼女は、またもや執念を燃やしてトレーニングに励んでいた。

 

 年頃の遊びたい気持ちや、輝く青春を謳歌したいという欲などまるでないように見える。流れる汗を乱暴に拭っている姿は、ある種の美しさを持っていた。

 

「ねーねー行きましょうよー。おねがいですからー」

 

「1人で行ってきなさいッ! 行く訳ないでしょッ!?」

 

「おーねーがーいーでーすーよー! ディザイアと行きたいんですよー! ねぇー!」

 

「アンタ単純に邪魔しに来たの!? いつまでそんな余裕が持つか……今までのようには行かない。王座にあぐらかいて座ってるといいわ、引き摺り下ろしてやるから……!」

 

「だーかーらー! カーラーオーケー! ライブの練習しましょうよー!」

 

「ライブ練習なら校内でも出来るッ! いいからどっか行きなさい、ほら!」

 

 ものすごい邪険にするレッドディザイアと、それでも全く人懐っこい笑顔が崩れないブエナビスタ。話しているだけで楽しそうだ。

 

「でもでもー、やっぱ要るんじゃないですか? センターの練習もしとかないと、勝てた時に上手く踊れないですよー」

 

「はぁ?」

 

「2着の振り付けから卒業したいんですよね? だったらこういうところからやってかないとー」

 

「な、何様!? ……まさかアンタ、宝塚に出ないつもりじゃぁ──」

 

 妙に親身なアドバイスの裏側を疑うレッドディザイア。ブエナビスタはあっけらかんと言った。

 

「え? 普通に出ますよ。てか今回もディザイアちゃんはどうせ2着以下なので意味ないですけど」

 

「アンタ何しに来たのッ!?」

 

 ──残念ながら、トレーニングをしなくても強いウマ娘は強い。それは確かな現実としてある。それにブエナビスタとてトレーニングをしていないわけではないが、少なくともレッドディザイアからはそうは見えなかった。

 

「気合を入れてやろうと思いまして。ライバルは私だけではないですからね」

 

「チッ……アンタに言われるまでもない。春の覇者さんもいることだし」

 

 ──宝塚記念、目下の注目選手の1人がジャガーメイル。初の重賞制覇がGⅠというなかなかないパターンだ。

 

「アンタこそ、ジャガーメイル先輩に一回勝ってるからって油断しないことね。上を狙っているのは私だけじゃない──私以外に負けるアンタなんて、絶対認めないから」

 

「でへへ。このツンデレめ」

 

「ツンデレじゃないッ!」

 

 ──今日も賑やか。

 

 ともかく、学園は宝塚記念というお祭りへの期待と興奮で盛り上がっていた。これらの選手たちに感化され、一層走りに力を入れるウマ娘たち──。

 

「ナ〜ビ〜? こんなとこで、なーにをしてるのかなぁー……?」

 

「……」

 

 背後から音もなく近寄った明るくて怖い声が、ブエナビスタを凍り付かせた。

 

「私ぃ、言ったよねぇ……今日は、美化委員の集会があるから、放課後は教室に残ってね……って。前も、その前も、その前も……それだけならまだしも、ディザイアさんの邪魔までして……」

 

 この学園唯一の天敵にして親友、アケノオールライトが釈迦のようないい笑顔を浮かべていた──。

 

「……here is 事情、友情重ねて暴走、疾走、Yo、ho」

 

「ダメだよねぇ。真剣に頑張ってる人を邪魔したりするのはさぁ」

 

「──これにてドロン。Yeah」

 

「逃すかーッ!」

 

 アケノオールライト、脚質は差し──その光景を、ポカンとしながら1人見送った。なんなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

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