「当然、冗談に決まってんじゃん?」   作:にゃんこぱん

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夏合宿(サイドA):オルフェーヴルの長い夏休み -2

 

 

「……それで、あー。ロードカナロア、でいいのか? ウチでトレーニングしたい……いや、オルフェと一緒にトレーニングがしたいって話か?」

 

「カナロアとお呼びください! カワイイでしょ! ね!」

 

「あー……」

 

 加賀はガジガジと頭を掻いた──。

 

「お前さんのとこのトレーナー、誰だっけ」

 

空木(うつぎ)ちゃんですけども」

 

「あー……。空木ちゃんかぁー……。そういう指示とかするタイプじゃねぇと思ってたが……」

 

「あっ、私のわがままなので、空木ちゃんは関係ないですよ?」

 

「はぁ。ったく、別に構いやしねぇが……なんだ、オルフェと同じトレーニングっつーことでいいのか?」

 

「それで構わない……というか、カナロアちゃんはそれがしたいのですなー」

 

「そうかい。で、オルフェ。お前さんはいいのか?」

 

 砂浜に設置されたパラソルと椅子。まるっきりリゾート気分だが、せめてこのぐらいのものがないと普通に熱中症で倒れる。ちなみにこういったアウトドアグッズはトレーナー陣の持ち込みだ。

 

 オルフェーヴルは砂浜に座り込んで、現実逃避気味にぼーっとしてたが、慌てて顔を上げた。

 

「はいっ?」

 

「こいつが横にいても集中できるかってことだ。誰かと()るの慣れてねえだろ」

 

「あっ……いや、それは……」

 

 オルフェーヴルは基本的にぼっちだ。ジョーダンやナカヤマとたまに一緒に走ることはあるが、他のウマ娘と走ることは滅多にない。そもそも多人数で一緒にトレーニングすることが苦手なのだ。

 

 が──。

 

「いやいやぁ、私とオルフェちゃんは仲良しだもん! 大丈夫だよ────ね?」

 

(笑顔の圧が強い……!)

 

 オルフェーヴルは押しと脅迫に弱い。頷く他になかった。

 

「ったく。分かった分かった、好きにすりゃぁいい。けど確か、お前さんは短距離がメインだったはずだろ? オルフェのトレーニングは中長距離──菊花賞を想定してる。へばっててもいちいち中断なんざしねぇ。分かってるな?」

 

「もっちろんですとも! 迷惑はかけないのです!」

 

 そうしてトレーニングが始まった。夏合宿、三日も経たない頃の出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前中、ランニング。15km近くを約1時間かけて踏破。山を登り坂を降り砂浜を踏み締めて、カラカラに乾く喉と流れる汗が染みる。

 

「はぁ、はぁ──ッ、っし、もう少しっ──っスよ! が、頑張って!」

 

「っ……! う、うぐぐ……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 必死の気力を振り絞ってという感じのロードカナロアと並んで、多少余裕のあるオルフェーヴルが彼女を気遣いながら走る。

 

「はっ、はぁ、ムリ、マジでムリなんですけどぉっ、マジでムリ、終わってる……っ!」

 

「もう少しっス! で、出来るっス!」

 

「っ、ああ、もー……っ!! 屈辱だよー!!」

 

 何が屈辱なのか分からないが、ともかく気合を入れ直したらしいロードカナロア。一見してもう明らかにやばそうな顔色で、ふらふらの足で走っていった。

 

 

 

 

 

 

 日陰で倒れているロードカナロアと、心配そうにそこの横に座っているオルフェーヴル。

 

「おっと、お客さんか?」

 

「あぁ。しばらくオルフェに付き合いたいそうだ」

 

「へぇ? 変わってるねぇ……」

 

 トレーニングに一区切りつけたナカヤマフェスタが戻って来ていた。凱旋門賞を目標に定めてこっち、ナカヤマは真面目にトレーニングをするようになった。正直不気味だ。

 

「へばってンなァ」

 

「そりゃあな。倒れてる方はスプリンターだ。オルフェの長距離向けのトレーニングとはスタミナの重要度がまるっきり違う。へばって当然だろうさ」

 

「ふーん……。一体何を探しに来てるんだか」

 

「さぁてな。思春期なんざ、みんな自分探しばっかりしてるもんなんじゃねえかね──」

 

 軽く一息ついてから、加賀は流れる汗を掌で拭った。

 

 

 

 

 

 

 

「お……落ち着いたっスか?」

 

「っぷー、あー。マジムリ、死ぬかと思ったよぅ。うえー、こんなん毎日してんのぉ?」

 

「き、今日のは……割と、キツい方、っスけど……」

 

 午前のトレーニングはスタミナに重点を置いている。やることは単純で、ひたすら走るだけだ。古典的だが、これほど分かりやすく、そして効果的なトレーニングもない。

 

 実はオルフェーヴルはいつものペースを落としていた。ロードカナロアに付き合うためにペースを落としてランニングした結果、いつもならば疲労困憊で倒れているところなので、こっそりロードカナロアには感謝している。

 

 当然加賀はオルフェーヴルが手を抜いていたことには気づいているが、とりあえず放っておくことにしたようだ。気分的には、娘の友達が出来るか出来ないかを見守る親のような心境らしい。

 

「ご……午後からは、ランニングはないっスよ」

 

「ごご。ごご……ゴゴゴゴゴ──午後もあるんだった。あー……今日はもう終わりじゃない? 終わりかなぁ。終わりなような気がするよ。ね?」

 

「い、いやー……それは、どうっスかね……」

 

「あーあ、お腹減った、減ったー、へったかたったったー……あれ。オルフェちゃん? どこ行くの?」

 

「アタシはもう一周行ってくるっス。まだ体力残ってるんで──」

 

「へっ!? ま、マジっスかー……」

 

「ま……マジっス、けど──」

 

 ロードカナロアは驚愕の表情を浮かべた後、頭を抱えてうーとかあーとか唸り出した。そして10秒ほど黙ると突然立ち上がった。

 

「はーい。カナロアちゃん発進しまぁす」

 

「えっ?」

 

「私もゴーイング787って感じでマイウェイボーイング。雨天決行」

 

「でも……へ、ヘロヘロっスよ。あの……倒れるかも、ちゃんと休まないと」

 

 止めるオルフェーヴルをよそにロードカナロアが一歩踏み出してドリンクをかっこむように飲み込んだ。

 

「あのねぇ。今度は私に合わせなくていいから。てか合わせないで欲しい、ホントに」

 

「うえっ?」

 

「カナロアは負けず嫌い。私はねぇ、オルフェーヴル。キミだけには負けたくないの」

 

(えっ、怖……なんで……?)

 

「さぁて、お昼までには帰ってこないと。ご飯無くなっちゃったらイヤだもん。ね」

 

 すぐさま走り出したカナロアを追って、慌ててオルフェーヴルも走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー ー ー

 

 

 

 

 

 

 

 

「もぐっ、もぐ、はふ、もぐぐぐ、もぐもぐ、はふっ、もぐもぐもぐもぐ」

 

「……」

 

 昼食時。いつもは1人で食べているオルフェーヴルだが、隣に誰かいるのは珍しい。隣で特盛カレーをかっこむのは、当然ロードカナロアである。

 

「よ……よく、そんなたくさん食べれるっスね……?」

 

「いやいやいや、逆になんできみはそれだけなの?」

 

 気の小ささは食事の小ささとは言うが(言わない)、オルフェーヴルの少食は今に始まった事ではない。ウマ娘の平均どころか、同世代(人間)の平均と比較しても少ない。

 

「じ──自分は、その……」

 

「自分?」

 

「あっ、アタシはっ! あの、アレ……っス。あの……」

 

「なぁに? 言いづらいことがある? あるのかな? あるんだね」

 

「一回、頑張って、いっぱい食べて……トレーニングしたら、その……ちょっと、お花畑が……」

 

「お花畑。……あっ、もしかしてゲロった?」

 

 かなり恥ずかしそうに顔を逸らしたオルフェーヴルの表情が質問の正否を物語っていた。

 

「あれまぁー。ダメだねぇ、花の乙女がお花畑なんてねぇ」

 

 ニヤニヤと楽しみながら揶揄うロードカナロア。オルフェーヴルは完全に俯いてしまった。

 

「はー、これは恥ずかしいねぇ。天下の二冠ウマ娘がやっちゃったなんてねぇ。噂になるねぇ、評判になるよぉ?」

 

「ひ……ひどい、っス。アンタだって……」

 

「えー? 私ぃー? 私はあり得ないよぉ、カワイイカナロアちゃんがゲロなんてするわけないじゃん〜」

 

「う、うぅ。ほ、他の人には、黙ってて欲しいっス……」

 

「えぇぇぇ? どうしよっかなぁ〜。喋っちゃおうかなぁ〜?」

 

 完全に弱みを握ってウキウキのロードカナロアだが、午後になるとそんなことも言ってられなくなった。

 

 

 

 

 

 

 午後、砂浜。

 

 クソデカいタイヤ(2t)を腰にくくりつけたロープで引っ張っていたり、海で遠泳していたり、クイズ大会をやっていたり賑やかな砂浜──トレーニングが個性的すぎる──は今日も騒がしい。

 

 そんな中、オルフェーヴルと言えば──

 

(規制音)

 

 ロードカナロアの背中を摩りながら、彼女のことを心配そうに眺めていた。

 

「だ、大丈夫っスかぁ〜……?」

 

(nice boat.)

 

 ちょっと音がアレだ。というか年頃の少女が生み出していい音ではない。

 

「だ、だから言ったのに……。ムリするのは、良くないっス」

 

(nice boat.)

 

「うぅ、大丈夫っスよ〜……。全部出しちゃえば、ラクになるっスから……」

 

(nice boat.)

 

「み、みんな通る道っス。ジョーダンセンパイも、よく吐いてたって言ってたし……」

 

 そんな慰めの言葉を掛け続け、ロードカナロアは何とは言わないが出し続け、ようやく落ち着いてきた。

 

「……げほっ、げほ。う"、う"ぅ"……のど、熱いよぉ……」

 

「み、水──戻れば、水あるっス……た、立てるっスか?」

 

「…………ゲロの臭いしない? みんなに臭いって思われない?」

 

「そ、それは……」

 

 すっかり憔悴しきったロードカナロアの絶望的な表情を見て、流石のオルフェーヴルも空気を読んだ。

 

「……し、しないっスよ。大丈夫っス、大丈夫っスよ……」

 

 ウマ娘の嗅覚は鋭い。よしんばトレーナーは気づかなくても、ウマ娘なら普通に気がつくだろうが、それは黙っておいた。と言うかトイレから出てきてこんな顔してれば察するだろう。

 

「か、肩……貸すっス、ほら……」

 

「うぅ……。ありがと、オルフェちゃん……」

 

 かつて昼飯だったものを流し、オルフェーヴルは完全に気力の無くなったロードカナロアの世話をあれこれと焼いた。

 

 そしてある程度落ち着いたロードカナロアを日陰で休ませているのが今。

 

「うぅ、何から何までありがとうぅ……。自分が情けないよぉ、もうカワイイ大魔神名乗るのやめますぅ……」

 

「え、えと……」

 

「もうなんだろ、泣きたくなってきたよぉ。私何してんだろ、散々オルフェちゃんに意地悪しといて、それで迷惑かけて介抱してもらってさぁ〜……。ミニマム自分、小さなハート、踊る自尊心……」

 

 どうやら本当にそう思っているらしく、弱々しいくて微妙によくわからない弱音的なものが吐き出された。

 

 やっぱり物理的なものが吐き出されると精神的なものも吐き出されるのかなぁ。オルフェーヴルはなんとなくそう思った。

 

「あのねぇ、実は私、選抜レース、オルフェちゃんと一緒だったんだよ」

 

「えっ?」

 

「そりゃ覚えてないよねぇ、覚えてないか。覚えてるわけないよね。もう一年以上前のことだし、私はボロ負けしたし。まああの時はオルフェちゃんもボロ負けしてたけどねぇ。暴走して」

 

 確か、1600mだったはずだ。

 

 あれはそう、選抜レースの中でもかなり長い部類で、新入生にとっては走るのも難しい距離。ましてロードカナロアはスプリンターだ。

 

 距離適正と言うものは先天的なものだ。走りたい距離が走れるのは選ばれた側のウマ娘だけだ。1600mと言うのは、オルフェーヴルにとっては短すぎる距離だが、ロードカナロアにとっては長すぎる距離だ。

 

「私ねぇ、ホントは長距離やりたかったんだぁ。皐月賞とか、有記念とか。みんな憧れるでしょ? そんなの。でも私、中長距離(クラシックディスタンス)ムリなんだ、って。トレセンに来て初めてそれが分かってねぇ〜……」

 

「……」

 

「まあ短距離も楽しいよぉ? 憧れの先輩とも出会えたしさぁ。けどねぇ、知ってる? 短距離のクラシック路線にGⅠはナッシング。そもそも短距離GⅠは高松宮記念とスプリンターズS(ステークス)だけ。あとはまあ、盛り上がるやつと言えばサマースプリントぐらいなのです」

 

 クラシック三冠は中長距離路線。故に距離適正というものは残酷だ。

 

 短距離のクラシック路線、つまり短距離のクラシック級王者決定戦というものはGⅠに存在しない。実質的にその位置に存在するのはOP(オープン)葵ステークスだ。(現在ではGⅢに昇格)。そしてNHKマイルカップというものが存在していることで、この現状はさらに曖昧になる。

 

「だからさぁ、オルフェちゃんのこと羨ましかったの。色々特集されたり、みんなが注目してて、レースも凄かったし……輝いててさぁー。短距離はあんまり注目ないもん、特にクラシック世代(わたしたち)

 

 しょんぼりしているロードカナロアに、オルフェーヴルは何も言うことは出来ず、また言える言葉もない。そして少しだけロードカナロあのことを理解出来た気がした。

 

 合宿所の段差に腰掛けて、砂浜の上を走るウマ娘たちを見ていた。もしかしたら、自分は選ばれた側のウマ娘なんじゃないのか──この時、オルフェーヴルは初めてそれを自覚する。

 

「あ──アタシのせいで、嫌な想い……した、っスか……?」

 

「え? いやいやいやぁ、キミのせいとか、これはそういう話じゃない。これは私の問題じゃない? そうだよね、そうだよ」

 

「……けど、じゃぁ、どうして……その話を、アタシにしたっスか……?」

 

「さぁ、なんでかなぁ。分かんないけどしたいことってあるよね、あるやん、あるのよ。ね」

 

「はぁ……」

 

 諦めたかったのかもしれない。オルフェーヴルのトレーニングは完全に長距離向けにチューニングされている。それはロードカナロアにとっては厳しいものだ。

 

「と、とにかく。そろそろ、アタシはトレーニングに戻るっス。あんまムリしない方がいいっスよ……ロードカナロア、さん」

 

「むぅ。いやだなぁ、さん付けなんて。カナロアでいいよ」

 

「え──────?」

 

「代わりに、こっちもオルフェでいーい?」

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

「あ──あの。あの、あの、その、えと、その、つ、つつつつつつつまり、そ、そそそそれって──」

 

「えっなになになに?」

 

「と──とも、だちって……コト……っスか!?」

 

「えっなにこわ。こんなの全然フツーだよ。そうじゃない?」

 

 オルフェーヴルは生来、友達というものを作れた試しがない。そのため、友達というものに強く憧れていたのだ。キョドるのも仕方がないと言えよう。

 

「あッ、アタシにとっては、フツーじゃなくて、なんて言うか、とてもッ!」

 

「えっえっ」

 

「だ──大事なこと、っス、だから──かッ、カナロア!」

 

「えっ、あ、うん」

 

「これから……と、友達として、よろしくお願いするっスッ!!」

 

「えっ、はい。よろしく……?」

 

 流石に困惑するロードカナロア。普段からカワイイを心がけているが、この時は素で困惑した。

 

 ──オルフェーヴルの夢。友達100人できるかな:進捗率1%。

 

 

 

 

 

 

 ー ー ー

 

 

 

 

 

 

 

 事件が起きたのはその日の夜だ。

 

「……チッ、何だこりゃ」

 

 トレーニングから食事に直行し、入浴のための着替えを取りに行くために、ウマ娘たちは一度部屋に戻る。最初に扉を開けたのはウインバリアシオンだ。

 

「荒らされてやがる」

 

 似たようなタイミングで戻ってきたロードカナロアとオルフェーヴルが、ウインバリアシオンのイラついた表情を見て、とりあえず部屋を覗き込む。

 

 台風でも通り過ぎた後のような惨状が広がっていた。持ってきた着替えや日用品がぐしゃぐしゃになって放り散らかされている。もうどれが誰のものかも分からない。

 

「オイ。オルフェーヴル、テメェ……鍵掛けてなかったなァ?」

 

「えっ……か、鍵っスか?」

 

「開いてやがった。この部屋最後に出たのテメェだろ」

 

「……あっ」

 

 コミュニティーにおいて信用し合うということは大事だ。しかし部屋の鍵をかけないということとはまた別の話であり、こういった事態が発生しないようにするためには大切なことだ。

 

「オイ……」

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃすみませんんんんんんん!!! わッ、わざとじゃないんですぅうぅぅぅぅぅ!!」

 

「ったりめェだボケがッ!! テメェマジでぶっ殺すぞッ!」

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃ!! 殺さないでぇぇぇぇぇぇぇ! まだ死にたくないっスぅぅぅぅ!!!」

 

 ある意味で平常運転なオルフェーヴルたちを放っておいて、カナロアが部屋を覗き込んで苦い顔をした。

 

「でもなにこれぇ? 誰がやったのかなぁ」

 

「鍵開いてたんなら誰でも出来る。ってことはオレら以外の全員が容疑者だ。まず片付けるぞ……チッ、かったりぃ」

 

 空き巣? それとも単なるイタズラの可能性もある。とりあえず片付けるべきはとっ散らかった衣服などを分けて片付けるところからだ。

 

「あ、あれぇ? な……なんか、アタシのやつだけ荒らされ方酷くないっすかぁ……?」

 

「? え、なぁに?」

 

「こ──このシャツ、破かれてるっス……」

 

「うわっ、なにそれ、ほんとじゃん」

 

 オルフェーヴルのパジャマ代わりの白いTシャツだが、どうやら腕力に任せて真っ二つに千切られていた。明らかな悪意の見える犯行だ。

 

「ひ、ひどいっス……。お気に入りだったのに、これ……」

 

「うーん──これはちょっと問題だよね。どうするの?」

 

「どうするのって……ど、どうすれば……」

 

 部屋が荒らされていた──これは大きな問題だ。夏合宿のコミュニティーは狭いコミュニティーだ。憶測や噂話になると悪影響が出る可能性が高い。

 

「チッ、相変わらず鈍い野郎だ。つまりトレーナーに言うか、言わねェかってことだよ。こいつを表に出して問題にするか、しねェか。どっちでも大した違いじゃねェがな。見たとこ、こいつのターゲットはテメェらしいぞ?」

 

「えっ?」

 

「荒らされ方見ろ。テメェのモンだけやけにぐちゃぐちゃになってんじゃねェか。恨みでも買ってんじゃねェか?」

 

 ウインバリアシオンのいう通り、部屋を荒らすにしても何処かオルフェーヴルに対する悪意が見え隠れしているように感じる。いくつかの衣服は破られ、そのほかの生活用具もより一層荒々しく荒らされている。

 

「犯人に心当たりぐらいあンだろ?」

 

「ないっスよ!! あ、アタシなんかに恨みって、なんでぇ!?」

 

「犯人の方はともかく、何でこんなことをするのかはだいたい想像つくけどねぇ。私も気持ちぐらいは分かるけど、この方法を選んだのはよくない。ぜんぜんカワイくないや」

 

「な──なんスか? 理由……?」

 

「うーん。オルフェさぁ、ちょっと鈍すぎる。鈍すぎない?」

 

「え……?」

 

「──嫉妬だよ」

 

 嫉妬。

 

 オルフェーヴルが勝つということは、それ以外の誰かは負けるということだ。特にその天才的な強さは努力で追いつける範囲を明確に超えている。有り体に言えば、オルフェーヴルはこの世代の中で強すぎるのだ。

 

 それがどれほどのウマ娘の心をへし折ったのか、オルフェーヴルには分かっていなかったのである。

 

「ま、一部の子には嫌われる性格してるよ。あんだけ圧勝しといて"アタシなんて〜"、とか。言われる方の気持ちあんまり想像出来ないんだなーって」

 

「あッ……アタシは、そんなつもりじゃ……」

 

「まぁ、そうなんだろうけどね。負けた側としては、せめてもうちょい堂々としといて欲しいって思うよ? そうじゃなきゃ、まるでこっちが無価値みたいで惨め、的な?」

 

「……」

 

 オルフェーヴルは少し泣きそうになった。そんなこと言われても、どうしろと言うのだ。

 

「ちょーっと考える時間は必要だよね。今は──とりあえず、お風呂に行こう!」

 

 そう締めくくって、ロードカナロアは着替えをまとめ始めた。ウインバリアシオンも立ち尽くしたままのオルフェーヴルを一瞥すると同じように風呂道具をまとめると部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

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