中央歴1585年。
南北戦争においてムー帝国の科学文明に触れたレオナードは同じく駐在武官として観戦を行った武官のだれかを代表に科学研究部隊を作ることを思いついた。
「と、いうことでマータル君。少し師団を一つ率いるつもりはないか?」
「…どういう風の吹き回しで?」
レオナードは南北戦争後にムーの軍隊の装備を手に入れており、むろん私的に研究することもできる。
しかし、研究したところで活かす場がないし、そもそもパーパルディアのためにもならずに下手したら反逆の疑いをかけられてしまう。
レオナードの目的は自らの栄華よりもパーパルディアの栄華なのだ。
「受けるのならば、後日最高司令から詳細を聞いてもらいたい。」
「つまり拒否権がない、と。…受けるしかないではありませんか。」
そうして、その話から数日後に『パーパルディア皇国皇軍第一補給師団』が編成。
その師団内には通常の兵科ではない特殊兵科が大量に含まれ、工業都市デュロ近郊の駐屯地から本隊が一切動くことがないことから、周辺国や勢力を拡大し続けるパーパルディアを警戒する列強諸国は陸軍内の
…実験部隊という評価はあながち間違いではない。確かに第一補給師団は正しい意味で
―――
デュロ近郊。
第一補給師団の補給物資を運ぶ馬車の御者はいつものように駐屯地内の物資集積所に物資を運ぶ。
「あぁ、いつもご苦労。」
士官と思しき人物が兵士に木箱を運ばせながら挨拶をする。
しかし、御者は応えない。彼は皇軍の一兵士に過ぎないが、本能がこう言っているのだ。
『ここは
だから、相手が気を損ねないなら階級が上であろうと返事もしないし何かうめくような声のする木箱の中身も気にしない。
彼のような一般兵士にとってここはあくまで陸軍内の窓際部署に過ぎないのだ。
気にするようなものなど存在するはずがない。
彼は震える足のまま馬車でデュロへと戻っていった。
「…いや、すばらしい。あれほど空気が読める兵士は初めて見たぞ?」
そして、士官が彼を気に入った結果、補給師団で士官の部下になってしまうのはまた別の話である。
閑話休題。
士官はもともと諜報局の人間であったが、様々な経緯で補給師団の防諜を一手に握る存在となっている。
しかし、そんな彼でも木箱の中身しか知らない。
「ふむ。どうだ?木箱の中では苦しいだろうが、もう少しの辛抱だ。おめでとう。君は補給師団の情報を知れるぞ?」
木箱の中身は猿轡のせいでろくな声を出せずうめき声しか上げられない哀れな子羊、もとい彼の故郷であるレイフォル王国の情報機関に所属していたスパイである。
実をいうと第一補給師団に潜入できた諜報員はほとんどがこの士官率いる憲兵大隊にしょっ引かれてこの男のような運命をたどっている。…ちなみにしょっ引かれなかった運のいい諜報員は表の顔の窓際部署に配属され暇を持て余している。
「…今日はここか。よし、運び入れるぞ。」
木箱を運ぶ兵士たちは黙々と『第一補給師団 防疫給水部本部』と看板に書かれた建築物の中に
憲兵大隊は何をしているか知らないし、知ろうとも思わないだろう。
師団長すら何をしているか知らない様子だ。どうせろくなことではない。振り返った士官の目に映る薄暗い建築物の中には、底知れぬ闇がうごめいていた。
「次の仕事は技術部化学班に
パーパルディアが12か国連合軍に会戦で
___
パーパルディア皇国皇軍第一補給師団
中央歴1585年に設立された
師団長のマータルが内実を把握していない部隊があり、防疫給水部や技術部化学班がその代表格である。
表向きは補給物資の集積・管理を目的とした予備師団だが、ミリシアルやムーは科学と魔術の双方を用いた第二文明圏の技術をパクるための部隊だということまではわかっている。
…この世界にはハーグ陸戦条約などないのだ。
敗北フラグをしっかり回収するパーパルディアの鑑。
(追記)中央歴1595年に設立された→中央歴1585年に設立された
間違えてました。