異世界転生昔話   作:EC夕張

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01_空の転生者

 むかしむかしあるところに、暇を持て余した神様がいました。

 神様は次元の壁の向こうの世界を覗くのが大好きで、自らの世界を放ったらかして、ずっと別の世界を見ていました。

 

 そしてある日、神様は自分も次元の壁の向こうの世界のように異世界人で遊びたいと思いました。

 思い立ってからの行動はすぐです。

 神様は自分の力の全てを使って次元の壁に穴を開けると、適当な魂を見つけて自分の世界へと呼び寄せました。

 

 こうして神様の世界に、チート能力を持った異世界転生者が産まれたのです。

 

 神様はひとつ上の世界から魂を選んだので、異世界転生は生まれつき大抵のことは何でもできる力を持っていました。

 

 不死身の身体に、普通の人の何万倍もの身体能力、あらゆる属性を自由自在に操る魔法の力、それら全てを十全に制御できる神経回路。

 いかにもなテンプレ異世界転生者を用意できた神様は、これで自分の世界も面白くなると喜びました。

 

 異世界転生はすくすくと育ち、3歳になるころには親である領主の持つ本を全て読み終わり、5歳で宮廷魔術師から魔法の才を認められ、10歳になると国の騎士団に特例入団となりました。

 

 どこかで見たような展開ですが、神様は飽きることもなくその様子を見て楽しんでいました。

 人がやるのを見るのと、自分でやるのは違うということですね。

 

 

 

 さて、時は流れて異世界転生者も17歳。

 意外なことに彼は、伸び悩んでいました。

 実力がではありません。

 身分がです。

 

 彼の親は領主とはいえ、その領地は僻地の小さな小さなもの。

 領主と言うよりは、村長や町長と言うべきくらいの、吹けば飛ぶような身分です。

 

 なので異世界転生者の身分は、限りなく平民に近い貴族といった程度のもの。

 いくら魔法と武力を認められても、一代では到れる地位に限界があります。

 

 

 そんな彼に、王様は言いました。

 

「魔王を倒せば、そなたを侯爵相当と認めよう」

 

 異世界転生者は即座に動きました。

 彼はどうしても身分を必要としていたからです。

 だって、お姫様に一目惚れをしていたのですから。

 

 恋を叶えるため、異世界転生者は一人旅立ちました。

 野を越え、山を越え、街を越え、超人的な身体能力を使い、あっという間に魔王と呼ばれるものの住まう城にたどり着きます。

 

 何も難しいことはありませんでした。

 彼にはチート能力があるのだから当然です。

 

 

「仕事は済んだ。姫との結婚を認めてほしい」

 

 魔王と呼ばれていた隣国の王の首を置き、異世界転生者はそう言いました。

 

 これに驚いたのは王様です。

 何しろ彼が指名した姫というのが、外見の美しさだけが取り柄の妾腹の姫だったからです。

 王様はてっきり彼が第一王女を欲しがっていると思っていたので、相応の功績を立てて貰わねば示しがつかぬと思い、魔王を倒せと言ったのです。

 

 しかも、倒し方も問題でした。

 一夜にして城に辿り着き、忍び込み、首を捕って帰ってくるというのはただの暗殺であり、表立った功績としては認めにくいものです。

 そもそも「魔王を倒せ」というのは、戦争で功績を立てて相手国を降伏に導けという意味だったのですが、高級貴族的な回りくどい言い回しは彼には通じていなかったのですね。

 

 

 これ以上何かされてはかなわないと、王様はすぐさま妾腹の姫との結婚を認め、彼の実家の領地に豪邸を建ててやり、使用人も送って、異世界転生者が妾腹の姫と悠々自適の隠居生活を送れるようにしてやりました。

 異世界転生者も、周りにチヤホヤされるのに飽きてきていたところだったので、これを快く受け入れ妾腹の姫と二人幸せな生活を始めました。

 

 

 

 妾腹の姫は、たいそう甘え上手でした。

 自らの取り柄が外見しかないと、よくわかっていたのです。

 彼女にとって異世界転生者との結婚は、人生における最大のチャンスでした。 

 

「わたくしを、愛してくださいまし」

 

 そう言って、自らに惚れている異世界転生者を更に深みへと導き、あっという間に3人の子をもうけました。

 産まれた子達は彼女の期待に答えるように強く賢く健康に育っていきます。

 そしてそれと同時に彼女は、異世界転生者との生活に少しずつ少しずつ毒を垂らし始めました。

 

 王様がどんなに酷い父親だったのか。

 母親である妾がどんな扱いをされたのか。

 妾腹の姫という立場がどんなに苦しかったのか。

 

 だから、妾の孫であり妾腹の姫の子という産まれが、こんなにできの良い子どもたちの未来を閉ざしてしまわないか心配だ、と。

 

 最初は心配のしすぎだと言っていた異世界転生者も、日々耳元で囁く愛する妻の声に徐々に不安になってきます。

 その不安を後押しする事実もありました。

 

 王様は、孫が産まれたというのに、祝いの手紙ひとつすら送ってこなかったのです。

 

「わたくしは、不安で不安でたまりません」

 

 もっともそれは、そう言って異世界転生者に泣きつく妾腹の姫その人が全て握りつぶしていたからなのですが。

 それを知らない異世界転生者は、徐々に王様と国に対して疑念を募らせていきました。

 

 

 そうして異世界転生者の心を揺さぶれるだけ揺さぶり、頃合いと見ると、ついに妾腹の姫は自らの命を賭した最後の舞台を始めます。

 

「お父様と直接お話をしようと思います」

 

 一緒に行くと言った異世界転生者に対しては自分を信じてほしいと説得し、子どもたちには「何があっても父についていくように」と告げ、妾腹の姫は一人で王様に対面します。

 

 

 王様は久しぶりに見る娘の顔にほんの僅か顔を綻ばせ歓迎しますが、妾腹の姫は予定通りに王様の頬を張り、本音半分演技半分の罵詈雑言を浴びせます。

 そうして場の空気を煽れるだけ煽ると、これまた予定通りに血の気の多い護衛に切られ、あっさりと命を落としました。

 

 娘の態度に全く心当たりが無かったわけでもない王様は、せめてもの罪滅ぼしと、憤怒の形相で事切れる娘の顔を夫と子に見られぬよう迅速に火葬し、遺骨を持って異世界転生者の元へと向かいました。

 

 

 異世界転生者は、この知らせに我を忘れました。

 無理もありません。突如として早馬が訪れたかと思うと、愛する妻の死が告げられ、しかも既に火葬まで済ませてあるというのですから。

 

 彼は子どもたちに家に居るようにと告げると、風の魔法を使って飛び出し、数刻もせずに妻の葬送の列を見つけて飛び込み、その場で全員を皆殺しにしました。

 王様の言い分を聞くほどの冷静さはありませんでしたし、もし聞いていたとしても無駄だったでしょう。

 この日のために、妾腹の姫は長い時間をかけて準備をしてきたのですから。

 

 滴るほどにたっぷりと毒を染み込まされた異世界転生者の心はまだ止まりません。

 転移魔法で王様の城へと転移すると、妻とその母親に酷い仕打ちをした王妃、王女、王子、その他貴族たちを次々と殺していきます。

 

 国の騎士団や宮廷魔術師たちが妨害しようとしますが、チートの前には無力です。

 

 

 そうして異世界転生者は暴れに暴れ、やがて城や貴族街が瓦礫に変わる頃、異世界転生者の周りには武器を捨てひれ伏した人たちしか居ませんでした。

 逃げようが、立ち向かおうが、チートを持った異世界転生者に逆らうことはできないのです。

 彼ら彼女らにできることは頭を垂れて哀れに許しを請い、生存を認められるのをただ待つことだけでした。

 

 異世界転生者もその頃になると必ず殺すと決めた人物は探知魔法と転移魔法で全員殺し終えていたので、「後は好きににしろ」とだけ告げると転移魔法で自宅へと帰りました。

 

 そして3人の妻の忘れ形見たちを抱きしめると、涙を流し、声を上げて泣き続けました。

 

 

 

 異世界転生者が王都の中心部を破壊してから一ヶ月。

 彼の家を、緊張した面持ちの貴族が訪れていました。

 生き残った貴族の中で最も地位の高い、侯爵家の三男です。

 

「貴方に新王の後見人となっていただきたい」

 

 なぜ自分がと異世界転生者が返す間もなく、その理由が語られました。

 曰く、現在の王位継承権第一位は貴方の長子であると。

 

 異世界転生者の能力に未練のあった王様と、自らの計画に必要だった妾腹の姫の尽力により妾腹の姫の継承権は失われておらず、王族と公爵家が死に絶えた今、唯一王族の血を引き手続上もギリギリ問題のない異世界転生者と妾腹の姫の子が王位継承権第一位となっていたのです。

 そこに残された貴族の保身、一夜にして貴族の大半を失い瀕死となった国の蘇生、隣国からの防衛などの思惑が重なり、異世界転生者の長子を王とする強い流れが生まれていました。

 

 

 必死に頭を下げる侯爵家の三男に根負けし、異世界転生者は自らの長子を王とすることを認めました。

 彼が交換条件として出した、生前の妻が憧れていた王妃のティアラを正式に譲り渡すという条件を即断で呑んだということもあります。

 

 

 

 こうして異世界転生者は、王の後見人として実質的な国の支配者となりました。

 最初は国民も受け入れがたいという姿勢をとっていましたが、見目麗しく密かに人気のあった妾腹の姫の夫であること、好機と見て攻め入ってきた隣国の軍隊を単独で退けたことなどから、徐々に認められていきました。

 

 

 5年が経ち。10年が経ち。

 亡き妻とその子どもたちのためにチート能力を惜しみなく使い、彼の長子が成人して正式に王位に就く頃には、国は未曾有の繁栄を迎えていました。

 

 文化や技術はもちろん、食品や工芸品も世界一。この世の楽園と言って間違いない素晴らしい国となっていたのです。

 チート能力を惜しみなく使ったのだから、当たり前ですね。

 

 しかしその豊かさは、周辺国の貧しさとコインの裏表のような関係でした。

 

 世界一発展し幸せな国があると、それ以外の国はどうなるか。

 世界一のものが自国のものより圧倒的に安く簡単に手に入るのです。

 当然、国内の産業は衰退し、富を吸い上げられ、枯れてやせ細るしかありません。

 

 もちろん周辺国の指導者たちはその対策として、税金やら通行料やら様々な手を採るのですが、その度に商人や官吏が怒り、王の父親である異世界転生者に告げ口をするのです。

 するとすぐさま異世界転生者がその場に飛んでいき、愛する子の国に何をするのかとチート能力をちらつかせるのでした。

 

 

 周辺国、いいえ、世界の国々は限界でした。

 世界のため、彼の国を滅ぼさねばならぬと密かに同盟を結び、異世界転生者を倒すための研究が日夜進められました。

 

 

 10年後。異世界転生者の孫がすくすくと育つ中、その時は来ました。

 国境を侵犯する軍隊が確認され、すぐさま異世界転生者に連絡が入ります。

 異世界転生者は「こういう直接的なのは久しぶりだな」なんて呑気に考えながら、転移魔法で現場へと飛びました。

 

「今だ!」

 

 そう聞こえたかと思うと、異世界転生者の視界を光が覆い尽くします。

 鬱陶しいと振り払おうとして、異世界転生者は気が付きます。身体が動きません。

 

 この日、この時のために作られた強力な封印魔法により、彼は生まれて始めて自由を奪われていました。

 チート能力ですら抗えない強力な魔法です。

 

 それもそのはず。この魔法は、世界中の頭脳と魔力と資源を集めた、人類の努力の結晶なのです。

 世界を一つの魔法陣とし、世界中の魔力を異世界転生者一人を止めるためだけに集中させた究極魔法。

 

 世界から魔法が失われるのと引き換えに、不死身の異世界転生者を完全に封印し、世界は安息を得る……はずでした。

 

 

 1ヶ月後。

 

 異世界転生者を封印し、厳重に封鎖された場所で爆発が起こります。

 そこには、封印を内側から破壊した異世界転生者の姿がありました。

 彼は身体を軽く動かし、その調子を確認すると、即座に転移魔法で自らの国へと戻ります。

 世界から魔法が失われてもなお、チートである彼だけは例外なのでした。

 

 国に戻った異世界転生者が目にしたのは、ありとあらゆるものが汚され、破壊され、奪われ、変わり果てた国の姿でした。

 家や建物は勿論、人も、心も、尊厳さえも何一つ無事なものは残されていません。

 

 もちろん彼の子や孫も例外ではなく、彼ら彼女らがどうなったのかは……残酷すぎるので、このお話で話すことはできません。

 

 ただ一つ言えることは、異世界転生者はこの日全てを失い、深く絶望をしたということです。

 

 

 

 異世界転生者は後先も考えず、世界を破壊することにしました。

 転移魔法で遥か上空、大気圏を飛び越え、衛星軌道の高さまで到達すると、そこから星全体を覆うほどの炎魔法を放ちました。

 転生して以来初めての全力でした。

 たっぷり30秒ほど炙られた惑星は、海は蒸発し、大気は吹き飛ばされ、半球をドロドロのマグマで覆った死の星になりました。

 

 それからずっと、ずーっと、異世界転生者は衛星軌道を漂っていると言います。

 

 これが、50億年前のお話。

 今でも性能の良い望遠鏡なら、衛星軌道に浮かぶ異世界転生者が見えるんですよ。

 

 皆さんも、機会があったら探してみてくださいね。

 

 めでたし。めでたし。

 

 




神様
惑星の意思。
異世界転生者の大暴れに大興奮の日々を送っていたが、いきなり魔法を奪われた上丸焼きにされて涙目になった。

異世界転生者
星を灼いた後、行くあてもないので考えるのを止めた。
不死身なのでまだ生きている。
たれ流しの魔力が可視光線に変化しているので望遠鏡で見える。
どのようにして軌道速度を得て維持をしているのかは謎。
調査研究を求める声もあるが、不用意な刺激は危険と判断され無期限延期となっている。

妾腹の姫
外見だけでなく頭も良かった。
子供が王になるまでシナリオ通り。
唯一の誤算は世界を相手にわがまま放題ができるくらいに異世界転生者が強かったこと。

王様
善人ではないが悪人というほどでもない。
妾腹の姫の冷遇は事実だが、それはそれとして母親譲りの美しい容姿は好きだった。

魔王
魔王だとプロパガンダされていただけの隣の国の王様。
別に悪政を敷いたりはしていない。

侯爵家の三男
貴族の生き残りが集まり、自分が最も身分が高いと気がついた瞬間泡を吹いて倒れた。
その後毛根は死滅したが、復興後の国では一番おいしい思いをしていた。

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