ようこそ享楽至上主義の教室へ 作:アネモネ
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そして始業式、入学式から数日後。1時間目の授業の時間を使ってOAA(
「これより、特別試験の概要を説明します」
坂上先生はそう、厳かに告げた。スクリーンにパッと文字が映し出される。
ふむ。既に月城理事長代理から聞いた話だね。とはいえ周りの生徒たちは結構驚いているようだ。林間学校以外では他学年との接触なんてほぼほぼ無かったしね。
「今の段階で1年と話せばポロッと不都合なことを口にするヤツもいるんじゃねえのか? そもそもクラスポイントだのプライベートポイントだのこの試験の報酬等について喋ろうとするだけで新入生にヒントを教えることになっちまうが」
たっつーの疑問はあまりに妥当な話であり、言われてみればとクラスがざわつく。昨年4月の私たちはSシステムの仕組みを知らされずにクラスポイントを減らされていった。今年度も同じことをするならば、私たちに
しかし前から予想はしていたとはいえ気づくのが早い。もしかしたら既に1年と接触してその落ち着きぶりを知っているのかもしれない。え、マジで情報を売りに行ったのかな? それで相手にされなかったとかだったら笑っちゃうんだけど。
新入生たちの間でもうリーダーは決まってるっぽいからなあ。それで南雲会長が1年の各クラス代表者1名か2名が今日の昼休みに生徒会室へ内密に来るよう連絡したもん。
「……誰に何を話しても個人の自由でありこちらが咎めることはない、と言っておこう」
「待てよ。つまり学校側の人間が、新入生に対してある程度学校の仕組みを話してるってことか?」
既に私が話していることだ。わかってはいるのだろう。ただの確認と、周囲への告知と、教師への嫌がらせも兼ねているに違いない。
しかし坂上先生は慣れた様子でやれやれと眼鏡を指で押し上げる。
「君の推測が正しいかどうかは1年生に聞けば済むことだ。これ以上その話題に関する質問には答えられない。では、試験説明を続けます」
ペーパーシャッフルでクラスメイトとペアを組んでいたのが1年とのものになったと考えるのが分かりやすいでしょう、と告げられる。またスクリーンが切り替わった。
試験の近さに戸惑いが広がる中、淡々と坂上先生は黒板に指をかざす。
ふむふむ。つまりクラスメイトとそのパートナーたちの平均点で得られるクラスポイントが、パートナー同士の合計点でプライベートポイントをゲットできるかが決まるわけだね。
「点数操作を強要されてようが、実行すれば容赦なく退学か?」
「その通り。手を抜くと脅してプライベートポイントを要求する、といった不正を防ぐためには必要なルールだからな。厳格な対処が求められる」
合計点数が501点より下であれば2年生は退学。つまり1年生に1点は取ってもらわないといけないわけだ。ただ、彼らへのペナルティはプライベートポイントの剥奪のみと緩い。だからこその措置だろう。
また、今回の試験で下される退学処分はクラスポイントとプライベートポイントで回避することも出来ないらしい。テストの点数をプライベートポイントで購入することも不可能だと。
にゃるほど、カピバラ麻呂の退学のための試験、か。1年生が1点も取らなければ彼はあっけなく退学になってしまうことだろう。
「坂上。点数操作はどう判別するんだ」
「OAAを用いる。試験は学力判定がE付近の生徒でも予習なしで150点以上は、数日勉強すれば200点は取れるように作られている」
「これらはあくまでも目安であり、きちんと予習をした場合の点数です。当然勉強しなければこれ以下の点になることもあるでしょうが……」
「そうなれば手を抜いたと判別される可能性が出てくるってことか」
「ああ、そうなる。よって、くれぐれも予習は欠かさないように。テスト範囲は基本的に1年生で習った範囲であり、ただ非常に難しい問題も多い。学力Aの生徒が400点前後となってるように、今回の試験では各教科90点を超えるような生徒は出てこないでしょうね」
学力Aの生徒でも平均点は80点あたりと予想されている。つまりどの教科も20点は落とすと思われているのだ。そこに難しい問題が詰まっているんだろう。
「さて、ではパートナーに話を戻しましょう。互いの了承で成立し、OAA内で登録すれば完了となります。今日この瞬間から申請は可能ですが、一度パートナーになった場合、如何なる理由があろうとも解除することは出来ませんのでご注意を」
うーん、しかしOAA大活躍だなこりゃ。私は正直組むペアには困らなさそうなんだけど……たっつーとの点数勝負があるんだよねえ。数学の。そのへんでなにか言ってきそうってのがあるかな、うん。
以上で説明を終わります、との言葉に立ち上がる音があった。静かな教室に、こちらのほうへ歩く足音が響く。
ドン、と。いつものようにたっつーは教卓に座り──はせずに、普通に教壇に立った。まさか、クラスポイントの減少の可能性を考えたんだろうか。え、えらい進歩だ……!
「すべてのペアの決定権は俺にある」
たっつーの言葉に異論など出なかった。そのまま指をちょいちょいとされ呼ばれたので立ち上がる。
「なに〜?」
耳元に唇が寄せられた。
「テメエとの勝負、覚えてるな?」
「勿論だよ」
こしょこしょ話で返しつつ、えっへんと胸を張る。ちゃ~んとククリちゃんの優秀な脳細胞には記憶されてますとも! 数学での点数勝負。私の苦手科目をつついてくるたっつーのいやらしい手口だ。
「無論、こうなればペアでの点数勝負だよなぁ」
確かに、パートナーがいる以上そっちの点数を考慮することはおかしくない。どのみち、私もたっつーも両方学力Aの生徒と組めば条件はほぼ同じになる。そして私には既に1年生の知り合いもいるし、頭のいい子にも心当たりがあるのだ。
「え〜? うーん、まあいいけど」
しかし私は忘れていたのだ。ついさっきの台詞を。
すべてのペアは俺が決定する、と。
「じゃ、テメエのパートナーも俺が決めるからな」
「……え、ちょ、それはないでしょ流石に。卑怯すぎるし!」
「安心しろ。学力D程度を見繕ってやる。Eにまではしねえよ」
坂上先生のお話では学力Bは350点前後、Dは200〜250点。つまり1科目70点と40〜50点、計120点くらい。対して学力Cは250〜300点、Aは400点前後で50〜60点と80点だから140点くらいになる。うん、たっつーが学力Aと組めばふつーに数学勝負も負けちゃうんですけど!!
「鬼! 悪魔! 鬼畜!
「うるせえ」
どうでもよさそうにたっつーは指を耳に突っ込む。貴様……!
「まあいい、ならテメエにもチャンスをくれてやるよ。好きに組めばいい。ただし、下位連中を片付けた後でな」
そこまで言うと、たっつーはいつも通り教卓に座った。おい、それはやめたんじゃなかったんかい。
奴は堂々とクラス中に語りかけた。
「成績下位のザコどもはククリを頼れ。お優しいこいつは、自分のことも顧みず救済として学力の高い1年を紹介してくれるだろう。なあ?」
うっ……学力面に不安のある生徒たちのキラキラした視線の集中砲火を受ける。まずは自分が学力Aと組みたい、とはとても言い出せない雰囲気だ。
うん、
「これでも私が学力Aと組んだらどうするつもりなの?」
「テメエがそこまでの小物というだけの話だ。よく考えてみろ。俺はクラスの指揮も取る必要があるが、お前にはない。少しのハンデくらい必要だと思わないか? それとも、お前はそこまで俺を恐れているのか?」
「少しじゃないもん……」
やれやれとため息をつく。
「学力B以下の生徒で妥協してあげるよ、じゃあ」
さて、どこまで上手くいくものかな。
生徒会室はお昼休みの今、ちょっとした逆ハーレム状態になっていた。
エントリーナンバー1、俺様チャラ男生徒会長! 南雲
エントリーナンバー2、イケオジ理事長代理! 月城
エントリーナンバー3、コミュ強下の名呼び男子! 1年Aクラス
エントリーナンバー4、クール系ハーフアップ×
エントリーナンバー5、可愛い系優等生! 1年Bクラス
エントリーナンバー6、フィジカルつよつよ系男子! 1年Cクラス
A〜Cはまだ明確なリーダーは決まっておらず、とりあえず代表格という感じで4人は来たことだったり、Aクラスの
「失礼します」
南雲会長の目配せを受けて扉を開けば、現れたのはサラサラなストレートロングが綺麗な美少女。私の逆ハーレムはこれであえなく崩壊となった。そして、その後ろには大柄な男子生徒。身長は須藤某とほぼ同じくらいに見えるが、彼より一回り体格が大きい。
私は急いで端末を操作する。OAAで顔写真から探して、と。ええと──
「ようこそ、
「んなもん見りゃ分かるだろ」
宝泉君は見た目の通りガラが悪かった。逆に七瀬さんはすごく真面目な子らしく、めっちゃペコペコしてくれている。
OAAも優秀。なんでDクラスにって感じの人材だ。まあ今年のDクラスが私たちと同じ基準で集められたかどうかは不明とはいえ、この宝泉君を見る限りでは──
ん? 学力 B+(76)?
え、え、え!? 嘘でしょ。私のB-(63)より、さらには七瀬さんのB(74)より高いよ!?
…………うーん、見なかったことにしよっ。
「念のための確認です。それでは、時間になりましたので始めさせていただきたいと思います」
まずは生徒会役員である私の自己紹介を改めて。それから南雲生徒会長の紹介と、立会人である理事長代理の説明もする。
「さて、今年からこの学校はより実力主義にしていく。そのために自由な形を作っていく」
南雲会長はそう語り出した。
「手始めに一つ特別試験を実施しようと思ってな。だからこうして1年生の代表者数名を集めたんだ」
「特別試験……ですか。ですが、今も僕たちと2年生の先輩方は参加中のはずでは?」
八神君の疑問に、南雲会長は胡散臭い爽やかな笑みを浮かべる。ギャラリーがいればキャーキャーと黄色い声が湧いてきそうな微笑みだが、あいにくと私はもう慣れてるし、七瀬さんも欠片も興味なしという感じだ。南雲会長は顔面だけは本当に芸能人と戦っても負けないレベルなのに……恋愛に関心がないのか、好きな人がいるとかなのか、単にタイプじゃないのか。ちょっと気になる。
「こっちの期限は2学期が始まるまでと長い。ゆったり取り組めばいいさ。ただ、それでは他の奴らに先を越されるかもしれないがな」
「付け加えますと、こちらの特別試験は参加するもしないも自由になっています。強制ではありません」
私の補足に会長は軽く頷いた。そして、続ける。
「内容は単純だ。2年Dクラスの綾小路清隆、この人物を手段は問わず退学させた生徒には2000万プライベートポイントが支払われる」
この言葉に、宝泉君は不気味に白い歯を見せた。
「手段を問わずってのは……喧嘩が勃発、なんてのもありかよ」
「ああ。多少の喧嘩は学生にはつきもの、去年のように厳しい審判を下すことはない。約束しよう」
堀北先輩みたく暴力事件で退学の可能性が出るなんてことはないらしい。たっつーが聞けば平気で悪用してきそうだなあ。
「それだと龍園君あたりの行動が心配ですが……」
「龍園だと?」
なんと、宝泉君がワード・たっつーに反応を示した。なになに、不良センサーでも働いたの? 果たし状送っちゃうの?
「ええ、私と同じクラスの龍園翔君が──」
「おいおい、まさかの巡り合わせだぜ。龍園の噂は嫌ってほど聞いてたが、進学先が被るとはな」
人の台詞を遮るな! オッホン、ともかくどうやらたっつーと宝泉君は知り合いらしい。つっても会ったことはなさそうだけど。
宝泉君の口の端がますます吊り上がっていた。かなりテンション上がってるんだろう。後輩から人気で良かったね、たっつー。
「その話をしたいなら後でククリとやれ、宝泉。そして忠告しておく。この特別試験については他言しないように。公平な形にすべく、八神と宇都宮はクラスメイトから1人選び話しても構わない」
特に他言した場合のペナルティは設けない。そうさせた月城理事長代理の狙いは……表立ってはダメだけどこっそりバラして1年の優秀な生徒全員で頑張ってねってことなのかな。人海戦術的な。
「質問はあるか」
「その綾小路という先輩は何か不祥事を起こし、選ばれたということなのですか?」
宇都宮君が重い口を開く。うんうん、そこは気になるポイントだよね。何でカピバラ麻呂が退学対象なのかって。
「いや、2年の中から完全にランダムに選んだ。ただしこいつはタダモノじゃない。心してかかれよ」
「それでは、この先同じく俺たち1年生からランダムに選出され、先輩たちから退学を狙われる特別試験が実施される可能性もあるのでしょうか」
長身のハーフアップお団子イケメンに視線が集まる。彼、石上君も須藤某と同じか少し低いくらいの身長。だけど鍛えている様子はなく、実際OAAの身体能力値も低い。その分学力が高いのはどこか底の見えない雰囲気からしても納得だ。
「今のところその予定はないな。他に質問は? ……よし、じゃあ最後に俺のポイント数を見せておこう」
南雲会長でなく月城理事長代理発案の特別試験である以上、この先似たようなことがあるかは分かりっこないのだ。
会長のポイント数に驚いている1年生を尻目に、私は月城理事長代理へと視線を向ける。彼はいつも通り、柔和な微笑を貼り付けていた。何か喋ってみようかと口を開きかけたそのとき、端末が動きを見せる。
『本日午後4時から5時まで、体育館で1年生と2年生の交流会を行う許可をもらいました。時間に余裕のある生徒は是非集まってください』
一之瀬さんの書き込み。アプリ内に用意されている全体チャットに対してで、ダイレクトメールでの質問も受け付けているとある。
私が『体育館って第一? 第二?』と送ると、すぐに第二体育館と書き込みが追加された。仕事がはやい。しかし、うちのクラスって参加するのかしらこれに……。
うーむと皆悩んでいるような空気の中、宝泉君だけは何か違うような表情をしていたのが印象に残った。
2−B 京楽 菊理(きょうらく くくり)
1年次成績
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学力 ────── B-(63) 身体能力 ──────. C (54)
機転思考力 ────── B (69) 社会貢献性 ──────. A (93)
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総合:B(66)
2−B 伊吹 澪(いぶき みお)
1年次成績
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学力 ────── C (53) 身体能力 ──────. B (66)
機転思考力 ────── D+(36) 社会貢献性 ──────. C-(43)
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総合:C(50)