ようこそ享楽至上主義の教室へ 作:アネモネ
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そして翌日。あ、昨日の放課後の一之瀬さん主催の交流会は私たちBクラスは残念ながら参加しなかった。ただ、特別試験が始まったその日、全部で22組のパートナーが決定したようだ。
「あれ? 宝泉君と七瀬さん?」
お昼休み、食堂から帰った私は廊下で後輩2人を発見した。昨日の昼休みと放課後も会ったメンバーだ。
この学校の制服のバリエーションは豊かで、夏服が購入可能なのはもちろんのことシャツやカーディガン、ベストなんかも自由に変えられる(ケヤキモールの制服を専門に扱う店にて、もちろん有料)。パーカーを羽織るなんてことも出来るのだ。で、七瀬さんのほうは新入生らしく真新しい制服をピシッと崩さず来てるんだけど、宝泉君は既にシャツを黒シャツに変えてるんだよね。うーむ、実はオシャレさんだったり?
1年生のフロアは、前に私たちが使っていたところ。2年生のいるここまで来るなんて何の用があるんだか。
ど真ん中を闊歩する彼らに生徒たちは驚きつつも場所を譲っていた。そしてそれは野次馬を形成していく。2人はそこに交じったカピバラ麻呂に視線を寄せてから、こちらを向いた。
「こんにちは、京楽先輩。それに──」
七瀬さんが端末を操作し始める。ひゃっほう、お揃いのパイナップル柄ケースが光ってるぜ!
後ろを向けばそこにはリンリンと
「
紹介は聞こえたであろうにもかかわらず後輩たちは端末でおそらくOAAを確認していた。信用されてないのだろうか。しくしく。いや、まあ単に成績を見たかったに違いない。
「学力はA-に……ハッ、E+か」
学力……たったのE+か……ゴミめ……みたいな笑いを受かべる宝泉君。スカウターごっこに憧れるお年頃なのだろうか。
「はぁ? テメエもどうせ似たようなもんだろうが」
「んー、須藤君。あのね、宝泉君の学力はB+なんだよ」
リンリンのA-よりは低いけど、須藤某のE+に比べずっと高い。
「分かったかバカが。身をわきまえとけ」
「はいはい、ピピーッ。暴言禁止。それでそれで、宝泉君は何の御用でこっちのフロアにまで来たのかな?」
「出向いてやっただけだ。頭を下げたくてたまらないだろうからなぁ」
「頭を?」
どういう意味じゃとなる私とは違って、リンリンは何かハッとした様子だった。ん〜?
「何が言いたいのか分からないわね」
しかしリンリンはとぼけるような発言をする。宝泉君の口角が上がった。
「さっさと組ませてくださいっつって頼みこめや。落ちこぼれ集団のDクラスにはそれしか道が無いだろ」
え、自虐ネタ……?
「Dクラスがという話ならお互い同じ条件なんじゃないかな。ともかく、宝泉君はDクラス同士で組もうって提案しに来たってこと?」
「お願いされに来た、だ。1年と2年の立場は違え」
今回の特別試験での1年生と2年生の違い。なるほど、ペナルティの問題か。
2年生は501点以上でなければ退学なのに対して1年生はプライベートポイントの供給停止のみ。3ヶ月だから、おそらく多くても24万ポイントだ。(今年の1年生への最初の支給は、私たちの月10万ポイントと違って月8万ポイントなのである。)
ならば点数を強引に下げるリスクも小さい。もちろんわざと手を抜けば退学だが、例えば時間切れによるランダムなパートナー確定で総合点から5%のマイナスを受ける、だとかやりようはある。
「確かに先輩と後輩って立場は違うけれども。ともかく、こんな衆人環視の中じゃお返事も難しいだろうし、また場所を改めて話したらどうかな?」
「あー? おまえに指図されるいわれはねえだろ。部外者がしゃしゃり出るな」
ガーン。完全に舐められとる、私……。
「むー。でもでも、生徒会役員としてこの状況は見逃せないかも。一触即発っていうか、ちょっと目を離すとすぐ宝泉君と須藤君あたりで取っ組み合いが始まっちゃいそうだもん」
それはそれで楽しそうなんだけど、こんな人目のあるところで見逃すのはNG。暴力行為を未然に防ぐことも出来ない無能とレッテルを貼られるのは避けたいのだ。
「タッパがデカいだけのバカとは遊ぶ気になんねぇな。龍園でも出してくれりゃ話は別だぜ?」
「おい、1年坊主が生意気言うんじゃねえよ」
ほら〜やっぱ喧嘩になる〜。
七瀬さんも血の気の多い会話に困り顔だ。もー、やだよねえ男子のこういうとこって。
私はパンと手を叩いた。……シンバル持った猿のおもちゃとか今度買ってみようかな。
「はいはい、やめー。宝泉君、ここは私の面目のために引いてくれないかな?」
「んなもん一銭にもならねえな」
ガメついなこの子。意外と貯金とかする堅実なタイプだったりするのかしら。それともギャンブルで荒稼ぎしたり? ……うーん、すごく似合うな。
「『アレ』、バラされちゃあまずいでしょ?」
抽象的に言ったが、昨日のことだとわかってくれたらしい。宝泉君は退屈そうに顔をしかめた。逆に七瀬さんは止めてくださりありがとうございますと目礼してくれる。
「興醒めだ、今日のところはこれで引いてやるよ。目的は果たしたしな」
完ぺき悪役の捨て台詞を吐いて、宝泉君は視線を移す。
「こそこそ見物して、ネズミかおまえは」
睨まれようと八神君は怯むことなく爽やかな笑みを浮かべていた。実は彼もずっと私たちを見守っていたのだ。ええと、彼のOAAはどんな感じだったかなと。ちょっと開いてみる。
うん、身体能力以外軒並み高い数値。その身体能力にしたってCなわけだから、特別低いわけでもないし、やっぱ優秀だ。
「ただ見物していたわけではありません。ククリ先輩に何かあればいつでも飛び出す準備は出来ていました」
「女の趣味が悪いなおまえ」
私の胸元を凝視しながら宝泉君は言った。セクハラでしょっぴくぞオメー。確かに君の隣にいる七瀬さんとは比ぶべくもないけど!
「ククリ先輩は素晴らしい方ですよ」
「ありがとうだけどちょっと恥ずかしいかな八神君……そして宝泉君、用が済んだならもう帰った帰った。これ以上酷いこと言うのはナッシングですよ!」
端末を掲げ振れば意味を察したのだろう。宝泉君はくるりと背を向ける。
「ぶりっ子パイセン、似合わねえからやめた方がいいぜ」
「むむ、普通にククリって呼んでほしいんだけどな」
礼は忘れても侮辱は忘れずに残していくらしい。宝泉君はふてぶてしくポケットに両手を入れた。
「またな堀北」
お騒がせしました、と七瀬さんは綺麗なお辞儀を見せてくれた。あなたが謝ることじゃないのよ……!
これで終わりと見たのか人が散っていく中、八神君はこちらへ駆け寄る。
「大丈夫でしたか? ククリ先輩」
頷けば、リンリンが怪訝な目をこちらに向けた。
「随分と親しそうね」
「ククリ先輩は顔の広い方ですから。それに、入学前から僕が一方的に知っていた形ではあるんです」
「一方的に?」
八神君の言葉にリンリンは首を捻る。まあ別に私は有名人とかではないからね。何故、と思うのはわかる。
「通学の際電車で度々顔を合わせていたんです。ククリ先輩の中学は有名なお嬢様学校でしたので、制服も目立っていて。よく目で追いかけてしまっていました」
「そーゆーことらしいのです」
うむうむと私は肯定した。うちの中学の制服は可愛いと評判だし、中古品が高値で取引されると聞いたこともある。もちろん私は売ってないというか、制服なんてのは保護者の男に大切に保管されているはずだ。あの男は私の成長保存記録を作ることに余念がないのである。
と、ここで、私と八神君の間に割り込んでくる人影があった。
「待てククリ」
石崎君だった。何か文句があるっぽい顔である。
「そこの八神って奴とは仲が良いのか……?」
「うん」
私の首肯に八神君の表情がパッと華やいだ。反対に石崎君はズーンと重く肩を落とす。
「でも今回パートナーを組む気は無いから……あ、そうだ、せっかくだし石崎君が組んでもらう?」
「ククリ先輩の頼みでしたら、僕は構いませんよ」
「わぁ、ありがとう! 良かったね、石崎君」
しかしこんな良い申し出にもかかわらず彼はますます落ち込んでいるようだった。何故に。
「龍園さんは……」
「うん?」
「龍園さんはどうなるんだよ……!」
どうなるって言われましても。
「自分でペアくらい決めるんじゃあないかな?」
「違えんだよ」
石崎君は頭を抱えた。もう、何なんじゃい。
「ああ、もちろんパートナー申請の前に龍園君へ確認とってもらって大丈夫だよ? ね、八神君」
「はい、勿論です」
懐の深い八神君は優しく微笑んでくれた。今年もイケメンランキングなんてものがあるなら上位入賞間違いなしの笑顔だ。周囲からもスパッとパートナーが決定した石崎君を羨む声と、修羅場かと面白がる声が聞こえる。え? どのあたりが修羅場なんだか、まったく。
「問題ねえよ。この場で手続きしとけ、石崎」
現れたたっつーが即承認する。なるほど、奴の登場で修羅場と囁かれたのか? 確かにリンリンや須藤某との戦いは連想しやすい。
それに宝泉君とも──
「やっぱ知ってたりする? 宝泉君のこと」
「地元じゃちょっとした有名人だったからな」
それでもギャラリーとして遠巻きに見ていたのは喧嘩する気が起きなかったからなのだろう。つまり、宝泉君のほうが強い、のかな? うーむ、そういうのククリちゃんよくわからない。それこそスカウターで戦闘力を測りたいくらいだよ。
「知ってるヤツだったんですか龍園さん」
「ああ。ついでにこいつも、な」
「世間って狭いねえ」
石崎君は考えが追いつかなかったようでしばし硬直する。ポクポクチーン。やがてぎこちなく動き出した。
「え、え、まさか、ククリも龍園さんと地元が一緒……?」
「小学校が同じだったよ〜」
「え、え、えええええええええ!?」
「っるせーな石崎」
本当にうるさかった。鼓膜に響く。OAAの申請は終わったらしく、八神君も端末片手に苦笑していた。
でもそうか、そういえば石崎君には言ってなかったかも。そこは素直に申し訳なかったや。
「それって……もう、運命ってヤツじゃん」
「単なる偶然だよ」
確かにヤンキー漫画の法則でたっつーと宝泉君は運命的に惹かれ合ったのかもしれないけど、私は無関係だ。
陽気に笑った石崎君は落ち込むなよ、と八神君に肩ポンしてた。まあ、ペア(確定)で仲良くなったなら何よりです。
「幼なじみ、か。鈴音にもいたりすんのか」
「あなたに答える義理は無いわね」
後ろではラブコメが繰り広げられていた。リンリン、塩対応……頑張るんだぞ、須藤某!
放課後、電話が鳴る。見覚えのない番号だった。
「はーい、京楽菊理です」
「もしもし〜。1年Cクラス、
宇都宮君と同じクラスの女子生徒。ふむ、どんな用件かな。そして今年の1年には意図的に電話番号は教えないようにしてたのだけど、どこから知ったのやら。
「先輩でしょ? あの数学の問題を貼り出したのは」
本題は唐突に切り出された。
「あの?」
「踊り場とかにあったやつ。解いてみれば電話番号ぽい数字が答えになって、かけたらつながったのが先輩だった。つまり、出題者ってこと」
とぼけてみたものの、効果はなかったらしい。
そう、これが私の作戦。数学での勝負と決まっているのだからその科目が得意な生徒を探せばいい。だから坂上先生に協力をお願いしてかなり難しい数学の問題を用意して、解けたら景品を出すと書いて貼り付けた。連絡先も何も出題者の情報は載せていないから、解答出来た人間しか私の電話番号を知ることは出来ない。勿論、新入生以外がかけてくる可能性はあるんだけどね。
OAA上で学力が低くとも数学だけ得意なケースは有り得る。私が考えていたのは最初からそういう1年生だった。
「パンパカラッパッパーン、正解。椿ちゃんには景品としてプライベートポイントが授与されます」
「いえ〜い?」
ノリよく声を上げてくれた椿ちゃんに私は語りかける。声のトーンを落として、ゆっくりと。
「たっのもしい後輩ちゃんがいてくれてよかったよ。つーかこんな短期間で解いてくれるとはね。いい意味で予想外だよ。るんるん気分って感じ?」
「いいえ。まあ数学は得意で。すっきりしましたこうして解けて」
ちょっと区切るように返された言葉。ふむ……。
OAAを聞いてみると、こんな感じだった。
学力はC-と理想的な数値だ。
「それで、椿ちゃんはパートナー決めてたりする? もしいなかったら私なんてどうかな」
「いいですよ〜。じゃ、組みましょ」
と、いうことで。私のパートナーはあっさりと決定した。
2−B 龍園 翔(りゅうえん かける)
1年次成績
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学力 ────── C+(56) 身体能力 ──────. B (71)
機転思考力 ────── B (74) 社会貢献性 ──────. E- (5)
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総合:C+(58)
2−B 椎名 ひより(しいな ひより)
1年次成績
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学力 ────── A (88) 身体能力 ──────. D (28)
機転思考力 ────── D+(40) 社会貢献性 ──────. B (74)
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総合:C(55)