ようこそ享楽至上主義の教室へ 作:アネモネ
評価、ご感想、ここすき、お気に入り、誤字報告、誠にありがとうございます。
と、まあ教えてもらった作戦はこんな感じだった。
宝泉君自傷作戦☆の実行は今日。ゴミ出しの日じゃないから、ということらしい。実行場所は1年生の寮の裏手。ゴミ出しの時のみ通る暗く人気のないところだ。
カラオケが閉まる頃には来てるだろうということだったけど、とりあえず念のため夜はやくから待機しておく。
「……ポップコーンとか持ってくるべきだったのかな?」
「いいですね。今からでも買ってきましょうか?」
「うーん、でも八神君がケヤキモールに行ってる間に宝泉君たちが来ると悪いしなあ。あっちもたぶん今カラオケにいるんだしすれ違っちゃうかも」
よーし、暇だから宇都宮君のOAAでも見てみるか。えっと──
「うーん、宇都宮君優秀だね。学力も身体能力も高い」
「僕だって……」
「うん? ごめん八神君、何か言ったかな?」
「いえ、何でもないです」
そうこう会話しながら待っていると、暗闇から御一行の姿があった。
宝泉君、七瀬さん、カピバラ麻呂、リンリン、須藤某。聞いた通りのメンバーだ。手を振れば、全員驚いたような表情を浮かべた。
「どうしてそこにいるのかしら京楽さん」
「ちょっと夜のお散歩にね」
うそぶいてみれば、リンリンは呆れたようにため息をついた。
「そう。ともかく、他の人もいる場で交渉は出来ないわ。宝泉くん、残念だけれど無かったことにしてちょうだい」
「まあ待て、俺は構わねえぜ。話を続けさせろよ」
そう言って宝泉君は三本の指を立てた。
「300万だ。それで組んでやる」
Dクラス同士でパートナーを作り合うには300万プライベートポイントを宝泉君に渡さなければならないらしい。うーん、ふっかけてるぅ。
完全に交渉が決裂したところで、リンリンがこの場を去ろうとする。
そして──そこを、宝泉君が攻撃した。いや、正確にはしかけた。須藤某が彼女を庇い、そのまま彼らの喧嘩が繰り広げられる。
「止めなくていいのか? 生徒会役員」
「ん、怖くて、腰が抜けちゃった。手が震えて端末も持てないの」
カピバラ麻呂の指摘に怯えた顔で応じれば、胡散臭いと呟かれた。私の完ぺきな演技にケチを付けるとは、まったく贅沢者め。
「八神も同じか?」
「はい、情けないことに僕も……動けません」
名演技パート2は、そうかと頷いて受け止められた。えっ、カピバラ麻呂の対応の差は一体……?
結局須藤某は粘るが倒され、リンリンも吹き飛ばされる。男女平等に痛めつけるのが宝泉君のやり方らしい。
「京楽先輩は、いいんですかこれで」
七瀬さんは静かに問うた。
「綾小路先輩が狙われることになって」
……錯乱している? いや、見た感じ冷静だな彼女は。しかしそれでは何故ここでカピバラ麻呂を庇うような発言をするのかわからない。
「八神くんも、このままではDクラスが潤沢な資金を得ることになってしまいます」
カピバラ麻呂が狙われる。潤沢な資金。まさか、七瀬さんはカピバラ麻呂へ賞金首になっているとの情報をさり気なく伝えようとしていたりするんだろうか。
七瀬さんはカピバラ麻呂を助けようとしている? 今更正義感が湧いたのか。
このまま状況を放置していればわかることだが、それは出来ない話だ。
「従わねえってんならこれで綾小路を刺す」
宝泉君はさや付きのナイフを取り出すとサラリと抜──こうとしたところで。
「あ?」
八神君が素早く止めた。勿論宝泉君は手を動かそうと試みているだろうが、握力の差というのは時に残酷だ。ピクリともしていない。
ここからは連携プレー。彼が掴んでいる腕からさっとナイフを奪い取り、ボキボキボキッと折る。うん、お仕事かーんりょっ。丁度ゴミ捨て場が近いし、ゴミの日だったら捨てられたのだけど……不燃ゴミって何曜日だっけか。
「おいおい、どういうことだ……!」
宝泉君はギロリとこちらを睨んでくる。荒々しい目つきは、殺意すら感じるほどのものだ。さっき実際にナイフ持ってたしね、あんま洒落にならんわ。
「もう作戦は綾小路君にバレてるっぽいし、むしろ助けてもらったと思って欲しいかも」
宝泉君に殴りかかってこられる前に手短に説明を終えよう。
「べらべら色々と喋ってたけど、録音されてることとか考慮してなかったでしょ?」
カピバラ麻呂に視線を移すと、コクリと頷かれた。やっぱりな。何か仕掛けてくると予想がつくなら、録音の一つや二つしてるに決まってる。なのに宝泉君は完ぺき悪役ムーブをしていた。あれではカピバラ麻呂が刺した、という状況に持っていくのはちょっと難しい。咄嗟の録画が成功したりすれば一発アウトだ。
「ところでその無惨にも折られたペティナイフ、3000ポイント近くしたんだが──」
「綾小路君綾小路君、ほら、宝泉君にどこまで掴んでるかちゃんと説明してあげて!」
無駄な出費を防ぐべく私は全力でノイズキャンセルをした。ククリちゃん聞ーこえなーい。
「……まずそこのゴミと化してしまったナイフはオレが買ったものだ。部屋からは天沢が持ち出したんだな? 元々彼女が自分専用にしろと言っていたものだ、消えても早々には気づかれない」
むー。地味に根に持っておるな、貴様。
「おかしいと思ったのは購入時の行動だ。天沢は初めて来たはずの店にもかかわらず迷わずそのナイフを選んだ」
「綾小路君のために下見に行ってたとかかもしれないよ?」
「その可能性もあった。しかし違和感を放っておくことは出来ない。店員に確認したところで昨日の時点で売れたのは1つだけ、つまりオレが購入したのみだが、買おうとした人間はいた」
「それが宝泉くんだった、とおっしゃるのですね」
痕跡を放置しておいて気づかせる。それが天沢さんのやり方ということか。うーん、とすれば情報をもらっておきながら手出ししたのはちょっと申し訳なかったかも。
「ああ。しかしそこで天沢が声をかけ、購入を取りやめさせた。店員が目撃していたぞ。本来のお前の作戦では自らナイフを買って刺そうとしていたんだろうが、天沢がそこに待ったをかけた形だな。オレ自身にナイフを購入させることで、より完璧な計画へ仕上げた」
「待って。どういうことなの? 天沢さんは宝泉くんと手を組んでいたということ? 何のために?」
「この場所までおびき出し、強引に喧嘩へと発展させる。須藤と堀北を痛めつけられ逆上したオレが非常時に備え隠し持っていたナイフで宝泉を刺し、退学──そんな滅茶苦茶な筋書きを描いていたんだ」
「綾小路くんを退学させる? 確かに、ナイフを持ち出したとなれば退学、いえ刑事事件にも発展しそうだけれど」
リンリンの疑問にカピバラ麻呂はどんどん答えていく。
「『オレを退学にさせること』で莫大な報酬を得られる特別な試験のようなものが動いているんだ。そうだよな、ククリ?」
「そのとーり、前に警告したことだね」
パチパチと拍手する音が静寂に響いた。八神君も続いてくれるも、他の人は難しい顔をしているだけだ。むー、ノリが悪いな。
「カピバラ麻呂は現在2000万プライベートポイントの賞金首になっているんだよ」
「そんな理不尽で愚かなことがまかり通っているというの? 私には理解できないわ」
なってるもんはなってるんだもん。ぶー、仕方ないじゃん。
「天沢、七瀬、宝泉。この3人以外にオレを退学させようとした生徒はいなかった。気づいた限りではな。そしてククリ、八神もこの件を知っている。ここからするに、1年生の一部の生徒に共有されていて、生徒会がそれを伝えた……ここまでがオレの推測だ」
その上で、とカピバラ麻呂は宝泉君へ向き直る。
「取り引きがしたい」
「取り引きだ?」
「一つは、堀北とDクラス同士の対等な協力関係を結んでもらうこと。もう一つは、今度の特別試験でオレのパートナーになること。この二つの条件を飲んでもらう」
宝泉君とペアを組みたいとは……まあ成績は良いから、人格面を除けばいいパートナーではあるけれども。たった今ナイフを取り出した危険人物への申し出としては異質すぎて、何言ってんだこいつ的な雰囲気が漂った。
それは宝泉君も同じで正気かと目ん玉をかっぴろげている。が、すぐに獰猛に笑った。
「ちっ、言っておくがな。録音なんてのは取り引き材料にならないぜ? こうして……現物を奪えばいいんだからよ!」
速い。宝泉君が狂犬のようにカピバラ麻呂へ襲い掛かる。
んー、まあ彼なら問題なく対処できるしいいでしょう。それより、茶柱先生とこのポチなどワンちゃんたちは狂犬病予防接種とかどうしてるんだろうか。毎年獣医さんに来てもらったりしてるのかなあ、と考えていると、案の定宝泉君が投げ飛ばされていた。殴りかかった勢いを逆に利用されたらしい。カピバラ麻呂も武術の心得があったのか、そういえば。
「喧嘩、
須藤某が呆然と呟く。ここで「だったらはじめっから加勢しとけ」と言い出さないあたり、彼の成長なのだろう。昔の須藤某なら間違いなくそう怒り出した。
一方、リンリンはカピバラ麻呂の強さに動じていない様子。まあ前に屋上でたっつーに勝ったって話とかもしたしね。
「まだ続けるのか?」
「いや、割に合わねえな。テメエと遊んでいるうちに今度はそこの誰かが教師に泣きつきにでも行くんだろ? それまでに倒せる確証がない以上、取り引きした方がマシだ」
宝泉君は冷静にそろばんを弾いたらしい。ここまで言うということは、さっきの攻防でカピバラ麻呂が須藤某を超える喧嘩の腕前の持ち主だと悟ったのだろう。
録音データが学校に提出されれば、喧嘩両成敗になったとしても宝泉君側に大きなデメリットがある。それはカピバラ麻呂退学試験のことだ。月城理事長代理が頑張って揉み消すかもしれないが、一般教師に知られてしまえばそのままあの話はナシ、と手を引かれてしまう可能性も高い。
それは一般生徒の場合も同様で、録音データを掲示板にでも貼り付け拡散されてしまえばおそらくカピバラ麻呂退学試験は闇に葬られるだろう。ついでに言えば宝泉君の失態も
ま、私はカピバラ麻呂がそんなことしないってわかってるけどね。絶対不用意に目立つの嫌だ系男子だもん。
「オレの退学試験の件は伏せておくし、録音も消そう。その代わり先程の二つの条件を実行してくれ」
「いいぜ。今回は譲ってやるよ綾小路センパイ。次はぶち殺してやるから楽しみにしとけや」
誰も楽しみにしないと思うんだけど……。まあいいか。
「いや〜平和的に交渉が終わってよかったよかった」
「おまえもだぜ京楽センパイ。八神ともども俺の邪魔をしたこと、きっちり後悔させてやる」
「んー、すぐに忘れてくれるとありがたいかな」
「天沢もだ。あいつが情報を漏らしたから今日ここに来たんだろ? よく知りもしねぇ女に協力させたのは失敗だったぜ」
私が紹介した少女だ、そこから彼の作戦がバレたというのは自明の理。宝泉君も試験の主催者側である私が裏切ってくるのは、というか八神君の強さが想定外だったんだろう。ああも簡単に動きを封じられるとは思っていなかったはずだ。
「まあ、今度ゆっくり説明するよ」
こちらにも色々と事情があるんだよね。
「あいにく聞く耳は切らしてんだ」
そして宝泉君と七瀬さんは寮へと去っていった。是非とも聞く耳を、次に会うまでに再入荷していて欲しいものだ。
§
七瀬と宝泉が場をあとにしてから、堀北と須藤も八神に付き添われ退出した。綾小路とククリ、2人のみの空間となる。
「ありがとう、ククリ。八神もそうだが、オレを助けてくれて」
「ううん、お礼はいいよ。だって、
優雅にコロコロと彼女は笑う。
「
まるで舞台の上のように、そこだけスポットライトが当たっているかのように語り始める少女の姿を、綾小路は黙って見つめていた。
「私はね、決めたんだよカピバラ麻呂」
クルリと彼女はこちらに向き直り、ポーズを決める。
「可憐に、華麗に、大胆不敵に宣言しよう──」
好戦的な笑みだった。芝居かかった口調だった。
「綾小路清隆。私は私の意志で、あなたの敵になる」
そして。唐突な宣戦布告だった。
「前とはだいぶ方針転換したようだが」
「乙女心は気まぐれなんだよ」
ふわりとククリは微笑む。
「勿論、麻呂君のことは好きだよ。だからこうして、こそこそせずに直接言ってるんだ。容赦なく屠ると」
想定の範疇ではあった。京楽菊理は綾小路清隆自身への好意というよりは、ホワイトルームへの好意が強いように思われる。とすれば、綾小路以外のホワイトルーム生が現れればそちらにつく、と。その可能性は考えていた。
「友情、は破棄されたのか」
適当に述べてみるも、彼女の心に響きはしないようだ。
「散り際の桜を尊ぶように、儚いものこそ美しいとする精神があるでしょ? 友情も愛情も、崩れ去るからこそのものだと思うんだよね」
龍園のことも坂柳のことも、彼女の中では関係ないのだろう。どこまでもわがままで、自分本位に一直線だ。
「あ、でも、私はカピバラ麻呂のことお友達と思っているよ、うん。その上で、だから」
「直接対決がしたいのか?」
「あくまでも私は脇役、添え物、付け合せだよ。主役は別にいるさ」
夜空をうつしたかのような瞳に星を躍らせ、ククリはあっさりと告げた。
「
「なるほど。宝泉を止めた時の動き、只者じゃないとは思っていたが……」
「そういえばその宝泉君、どうしてホワイトルーム生じゃないって思ったの?」
ホワイトルーム生ならば間違いなく0点を取って綾小路を退学にさせる。宝泉がそんなことをしないと確信していたからこそ、綾小路は堀北と交渉がまとまらなければ個別に接触し条件を引き出すことも視野に入れていた。
「学校側は生徒の情報を握っているが、完璧ではない。この学校には宝泉と同郷の龍園、三宅、ククリがいる。たまたま3人ともが面識は無かったものの、学校側が把握していないところで出会っていてもおかしくないだろ? それに、宝泉本人からその過去の全てを聞き出した偽物だったとしても、本人が知らないところで目撃されていた可能性がある。そんな博打じみた真似をホワイトルーム生はまずしない。だから宝泉が偽物である可能性は低いと睨んでいた」
「え、三宅君も地元同じだったの? 初耳なんだけど」
今度話してみよう、と愉快そうにつぶやく。
そして。ひとまずはこれで幕引きとでも言うように、彼女は見事なカーテシーを披露した。
「君たちの健闘を楽しみにしているね」
どこまでも享楽的な姿勢を崩さないククリに対し。綾小路の無表情もまた、崩されることはなかった。
「敵対するなら、黙っていればいいものを」
「浪漫だよ麻呂君。怪盗が予告状を出すように、探偵が謎を解くように、ね」
にこにことククリはいつも通りの柔和な表情を浮かべる。
「こういうのは派手にやらないと、つまらないでしょう?」
ただ
「はっ、言い忘れてた。『宝泉和臣がやられたようだな……』『フフフ……奴は
「雰囲気が台無しだな」
「そんなことないもんっ。ところで、私たちが止めなければどうやって宝泉君を封じようとしていたの?」
「ナイフを受け止めていた。そうすればこちらに『刺された』という事実が残る以上、裏で明らかに異様な事件があったとなれば、月城も即退学には追い込めないだろう」
「おー怖。やっぱ止めといて正解だったな」
2−B 金田 悟(かねだ さとる)
1年次成績
✧✦┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈✦✧
学力 ────── A-(82) 身体能力 ──────. D (29)
機転思考力 ────── B-(62) 社会貢献性 ──────. A-(81)
✦✧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈✧✦
総合:B-(61)
2−B 山田 アルベルト(やまだ あるべると)
1年次成績
✧✦┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈✦✧
学力 ────── C (48) 身体能力 ──────. A (90)
機転思考力 ────── C+(57) 社会貢献性 ──────. C (53)
✦✧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈✧✦
総合:B-(63)