ようこそ享楽至上主義の教室へ 作:アネモネ
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良いお年を!
5月1日、朝。
Aクラス 1358ポイント Bクラス 1086ポイント Cクラス 0556ポイント Dクラス 0268ポイント
発表されたクラスポイントから分かるのは、特別試験の1位が坂柳率いるAクラス、2位が龍園率いるBクラス、3位が堀北率いるDクラスで4位が一之瀬率いるCクラスであることだ。
一之瀬たちが最下位なのは、学力下位の生徒が集まる交流会を開いたことからも分かる通り1年生の救済を目的に動いていたからだろう。何ら不思議ではない。堀北たちは1年Dクラスと組んだ結果。
一方、龍園と坂柳はマネーゲームを仕掛けあっていた。龍園たちが行ったのは、坂柳たちが声をかけている生徒のところへ、Aクラスの誘いを蹴ったら無条件で1万ポイントを掴ませるという提案。はたまた、2年Bクラスと組んだら前金で10万。試験で501点以上取れたことの確認が取れた後で、更に10万の計20万プライベートポイントを提供するという条件。その後も、前金に10万、試験後に20万出すとまで言ったりした。
しかし龍園が狙っていたのはこの特別試験の1位ではない。重要なのは、1年生を見極めること。天井知らずにポイントを要求してくる者と今回組むつもりは無かった。大金さえ流せば協力する生徒は、本当に協力させたい時に金を出せばそれで済む。
(1年の連中に、俺が坂柳より上であることの理解ができるかを審査した。結果は上々ってところか)
この特別試験の結果に、龍園は何の不満も無かった。強いて言えばククリの介入によって八神が呼びかけた結果1年Bクラスの上位層がいくらか釣れたが、予想外はそのくらい。
そして6限目。
「これから特別試験のテスト結果を発表します。黒板にも表示しますが、手元のタブレットでも一斉表示を行います」
1位・2年Aクラス 平均725点 2位・2年Bクラス 平均683点 3位・2年Dクラス 平均630点 4位・2年Cクラス 平均621点
画面が切り替わると、龍園はタブレットでまず退学者がいないかを確認。念の為だ。案の定、退学者は0。最初に見せてきた、学力に応じた予測点数表は意図的に低く見せていただけらしい。実際のテストはおおむねそこまでの難易度ではなかった。ただし100点のうち残りの10点ほどは完全に1年の内容の範囲外、相当な難度だったが。そんな不意打ちの高難度問題を放り込んだ分、低レベルな問題もいくつか交ぜられていて、満点こそ取れないが低い点数も取らないよう調整されていた。
「うえっ!?」
ククリの声が上がる。
数学のペアの項目で並び替えを行い、点数の高い生徒から順に表示する。結果はすぐに出た。
「ま、負けちゃった……?」
龍園とククリの戦いは龍園の勝ちという形であっさり幕を閉じた。学力A生徒と組んだ龍園に対し、ククリが組んだのは学力Cの椿桜子。数学でもその評価通りの成績を出した結果、龍園に軍配が上がった。ククリの計算が甘かったというわけではない。龍園の罠に引っかかった、それだけの話だ。
ククリが狙っていたもの。それはOAA上の学力は低めでも数学に特化した才能を持つ生徒を見つける、ということだ。そのために彼女は数学の懸賞問題を作成し踊り場に掲示していた。龍園はこれを利用することにしたのだ。数学の問題自体は解けなくとも、逆算して答えを導き出すことは可能。掲示されていた紙には問題の作成者は勿論、解答を得たあとどうすればいいかの指示が記載されていなかった。おそらくイタズラでの連絡やククリの名を出して龍園が気づくことを防ぎたかったのだろう。これがヒントとなった。
すなわち問題の答えはククリの名前や連絡先。そうでなければ正解者とコンタクトが取れないからだ。しかし数字で表せるものとくれば電話番号でほぼほぼ間違いない。念の為確認してみれば、案の定ククリは今年の1年に対し不自然なまでに電話番号を渡さずにいた。
椿を選んだのは、ペアを組んだ男子──石上から綾小路退学試験のことと、彼女もそのメンバーである(正確にはメンバーである宇都宮のブレインらしい)のを知らされていたためだ。断られればどう脅そうかと考えていただけにあっさりと了承されたのは拍子抜けだったが、「今回協力すれば綾小路退学に手を貸してやる」とささやいたのが効果的だったのかもしれない。
口約束など破るためにしている龍園は履行する気などさらさら無いが。たとえ録音していたとしても綾小路退学という特殊な試験を教員連中にバラすことも出来ない以上、泣き寝入りする羽目になることを龍園は知っている。
(さて、何を命令しようか)
龍園はほくそ笑んだ。
「クシュンッ」
たっつーが高笑いでもしているのかね、とククリはつぶやく。その余裕な様子はとても敗者のものとは思えない。
校舎裏には3人の影があった。
「それで、私の予想はどうだったかな」
「完璧でした。ククリ先輩」
合格と言うように、指で丸を作る椿。
「たっつーの筋書きでは椿桜子の裏切りに怒った私は彼女と決別ってとこかな」
「本来であればそうなったと思うけど。初めから私たちが手を組んでいるとは考えてもなかったでしょ〜ね」
椿がそう答えると、傍らの宇都宮も頷きを添えた。
「カピバラ麻呂退学試験について1年全体で協力しようって話、まっ先に賛成してくれて嬉しかったよ」
Dクラスは反発。BクラスはOK。Aクラスは静観だ。
「Dクラスの先制攻撃は失敗に終わってる。次はあっちも協調してくれそうだし、そうなればAクラスも参加せざるを得なくなってくる。1年全体とカピバラ麻呂の対決になってくるわけだ」
「今回はそれと悟らせないために動いたんですよね?」
「そう。たっつーに私と後輩ちゃんズが手を組んでることがバレないようにね。というわけで勝ちを譲ってやったのさ。龍園君はカピバラ麻呂に教えちゃうだろうからねえ。ネタバレ厳禁、だよ!」
「でも、それだけのために命令権一つ渡したんじゃ、試合に勝って勝負に負けたようなものでは〜?」
「……」
沈黙。やがて、
「い、いいんだよ全然! 全部計算通りなんだから!」
慌てた声が響いた。
なお、この算段がガラガラと崩れ落ちるのは同時刻のことである。
茶柱に話しかけられ、月城から呼ばれていると伝えられた綾小路は応接室に入った。
「わざわざご足労いただきましてありがとうございます、綾小路くん」
「担任の先生を使ってまでどういうつもりですか? 不審がってましたよ」
自分たちの側に
「理事長代理である私が教室まで出向くわけにもいきませんからねえ」
席を勧められるもそのまま立つ綾小路。長居する気は無かった。
「もう5月に入りましたし、送り込んだ生徒が誰なのか掴めましたか? その確認だけはしておかなければならないと思いましてね」
「4月の内にホワイトルーム生を見つければ、手を引くとおっしゃっていた件のことですか」
「ええ」
その件ならば、返答は決まっている。
「ホワイトルーム出身者は八神拓也ですね。ククリがそう、教えてくれました」
京楽菊理は
「
「ホワイトルーム生は2人以上いましたか」
特に驚きもない。綾小路の呟きに、月城は満足げな表情を浮かべる。
「いいでしょう。私が手を引くことはしない。代わりに、1年生に出した綾小路くんを退学させる特別試験を取り下げて差し上げます。それがホワイトルーム生を1名当てた報酬です」
「伝聞ですけどね」
「構いませんよ。あの子がそうと認めたのでしょうから」
「……親しいんですか? ククリと」
純粋な疑問に、月城は笑顔で答える。
「いいえ、データ上の付き合いですよ。君と同じでね。そうですね、綾小路くんは入学当初は随分と苦労したようだ。言葉遣いや態度、考え方、過ごし方。そのどれにも多くの不自然さがあった」
「一般的な高校生の実態が、空想上のイメージでしかありませんでしたから」
「そうでしょうね。さて、綾小路くんを退学させる試験についてですが、取り止める理由が何か欲しい。案はありませんかね?」
「宝泉和臣がナイフを取り出して来たから、というのはいかがでしょう」
それはそれは、とわざとらしく驚いた仕草を見せる月城。
「いい理由になりそうですね。では、下がってくれて構いません」
応接室の扉に手をかけたところで、呼び止められる。
「綾小路くん、
「そうですか」
失礼しました、と綾小路は大人しく退室した。
「つれないですねえ、まったく」
月城はひっそりとため息を吐いた。
「やっほー、神崎君、橋本君。やっぱカピバラ麻呂の100点が気になる感じ?」
2年Dクラスの外には3人の姿があった。ククリ、神崎、橋本。3人ともがクラスの幹部である。それだけ衝撃的だったのが、綾小路の数学の満点だ。
「カピバラ……麻呂……?」
「あー、神崎。深く気にしなくていい。綾小路のあだ名だあだ名」
今回のテストは他クラスの成績も見ることができる。坂柳も一之瀬も取れなかった100点。その他の科目は大体70点前後とはいえ、綾小路の満点は注目に値する出来事だ。2年生でたった1人の点数。例えば数学でDクラスでは2位が堀北の87点、3位が幸村の84点である。
「1年前みたいに過去問と全く同じ問題というわけでもない。どうしてそんな点数が取れたのか不思議だよねえ」
「ああ。不正をした……というわけでも無いんだろうな」
神崎は、少なくともその程度には綾小路を信用していた。
「うちの姫さんだって数学で91点だぜ? 他の科目も似たような点数なのは流石だけどな」
数学学年2位の坂柳が91点。9点差という、大きな差を作り出していた綾小路を探るべく、こうして3人は廊下に集まったわけだ。
教室では堀北鈴音がクラスに残った運動部以外の半数以上の生徒たちに綾小路の数学の満点について説明をしている真っ最中だった。3人は聞き漏らしがないよう、黙り始める。盗み聞きといった行為に忌避感のある神崎だったが、自クラスの現状を憂えばとぐっと堪えそこに踏みとどまった。
「ふーん、なるほど」
Dクラスが解散の雰囲気になると3人もその場を後にする。自然とともに帰ることとなった。
「リンリンは1年生のときカピバラ麻呂の隣の席だった」
「リンリン……?」
「堀北のことだ、慣れろ神崎」
なだめるように橋本は肩に手を置く。
「そこで、カピバラ麻呂が自分以上に勉強が出来る人だと知った」
「学校の仕組みに4月から疑問を抱いていた堀北は、テストで手を抜いて欲しいとお願いした」
「クラスの足を引っ張らない程度に。それが綾小路の学力C判定であり、戦力の温存だったと」
スラスラと先ほどの内容を答え合わせのように埋めていく3人。
「数学に関しては学年一かもしれない存在は他クラスにとっても邪魔になる。排除しようとしてくるかもしれない」
「だから綾小路の実力を隠させた、と」
「1年前と違い、今のDクラスなら綾小路が誰かに狙われても協力し合って守ることが出来る、か」
ある程度納得のいく説明だった。
「その上でカピバラ麻呂の実力が全て発揮されているかは隠していく」
「具体的なステータスの見えない相手は不気味だよな」
「クラスメイトすら本当の情報を知らないのだから、調べても意味がない……なるほど、見事な戦略だ」
堀北を手放しで褒める神崎。しかし、その表情はとても険しかった。
「高校生で習う範囲じゃない問題を解けるのは数学だけなのか、体育祭で見せた脚力だけが実力なのか。いやー、難しいねえ」
本当のところを知っているククリだったが、ここはあえてとぼける。男2人もそれに気づいた様子は無かった。
2年Bクラス。その教室には、王の姿しか無かった。すなわち──龍園翔。彼一人のみが、ポツリと佇んでいた。考えるのは、京楽菊理のこと。
「あいつは自分の天運を信じている」
だから今回、数学の懸賞問題を出すという運任せな作戦を打ち出した。そして、それを逆手に取って失敗させたのが龍園だ。
「あいつの直感は、鋭い」
今回数学で満点を取ったカピバラ麻呂──綾小路清隆の実力すらも、無意識に察知していたのだろう。だからこその、あだ名呼び。
「本当に、あいつは負けたのか?」
答えの無い問い。しかし。応える声が、あった。
「少しは考えているじゃあないか」
突如。男が、現れる。元々この場にいたのか、たった今入ってきたのか。それすらも龍園には分からなかった。
しかし驚きはない。『あの男は何処にでもいて、誰にでもなれる』と、ククリが言っていた通りだからだ。
「京楽
「やだなあ、気軽に
昔一度だけ名乗られた名前。それを龍園は忘れたことがなかった。当然だ、自身に死の恐怖を与えた相手なのだから。
黒髪黒目の、一見すればどこにでもいそうな男。だがこの男の本性がそんな生っちょろいものではないことを、龍園はよくよく知っていた。
「
「
「搾りかすみたいな運でもそれなのさ。本来なら、分かりやすく言えばサイコロを振って全部6の目が出たり、マークシートで全問正解するだけの天運を持ち合わせているよ」
確かに、
「話を戻そうか」
パンと男が手を叩く。
「君の疑問は正しい。
「飽いた、だと?」
龍園は顔をしかめる。それは、最も危惧すべきことの一つだった。
「そうさ! 彼女は飢えているのさ刺激に!!」
演技がかった仕草で男は語りかける。
「だから君への興味が薄れて、命令一つされようとどうでもよくなった。そんな理屈だ」
「
振り向かないなら、振り向かせればいい。
「薄れた興味なんざぶち壊してやるよ」
「おー、すごいすごい。でも
「卑怯なやり方が俺の
龍園翔の、新たな戦いが幕を開ける。
2−B 葛城 康平(かつらぎ こうへい)
1年次成績
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学力 ────── A (89) 身体能力 ──────. C+(58)
機転思考力 ────── B (70) 社会貢献性 ──────. B+(77)
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総合:B(73)
2−B 石崎 大地(いしざき だいち)
1年次成績
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学力 ────── D-(23) 身体能力 ──────. C+(60)
機転思考力 ────── C (52) 社会貢献性 ──────. D+(40)
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総合:C-(44)