ようこそ享楽至上主義の教室へ 作:アネモネ
6月も中旬が近づいてきた。朝のHRにて。出欠を確認した坂上先生はいつもよりやや緊張している様子だった。これは──
「皆さん揃っていますね」
先生がしばらくタブレットの操作をすると、モニターは真っ白い画面に切り替わった。
「8月3日から10日までの7泊8日間、皆さんには豪華客船でのバカンスが約束されています。自由に施設等を楽しめますし、船上で特別試験を行うなんてことは絶対に起こりません」
豪華客船の船外、そして船内の写真が映し出される。去年よりさらにグレードアップしている気がする。うーむ、バカンスは楽しみだけど絶対なんか裏があるよねこれ。たぶん皆がそう思っていると映像が途切れ画面が真っ黒になった。
「ただし、その前に皆さんはある特別試験を終えなければなりません」
はーい。うう、来たよいつもの上げて落としてくるやつぅ!
「夏休み中に行われる試験、それは『無人島サバイバル』です」
うーん知ってた。ただ、生徒会でも詳しい内容は教えられていない。全学年で実施ということのほかに、去年とどう違ったものになるんだろうか。
「昼休みまでにはタブレットで特別試験用マニュアルが確認できるようになるため、メモは不要です」
終業式が7月16日だから、その3日後からか。試験はなんと2週間という長さ。しかしこれでは船上クルージングを入れても夏休みが25日程度になっちゃうけど、まあそこは仕方ないってことかな。
戸惑う生徒たちに坂上先生は説明する。例えば4月1日生まれの生徒は早生まれの生徒と同じ扱いになるので、4月2日生まれの生徒と同学年でも1年の差が生まれている、と。要はどんな試験も完全な平等は不可能だと。
「1年生へのアドバイスも3年生へ意見を聞くのも自由です。学年別のハンディキャップ、さらに低学年になるにつれ受け取れる報酬は増え、受けるペナルティは少なくなります」
前の特別試験でも合計500点以下で2年生は退学、1年生はプライベートポイント支給の一時停止だったよね。そういう差を設けるってことなんだろう。
「ではこれより無人島サバイバルのルールの『一部』を説明します。現時点で全てを明らかにすることは許されていませんので──」
1年生は4人までOKというのがハンデの一つか。なるほど、2年と3年はとりあえず3人組を作るのが基本となりそうだ。
小グループが大グループになるには、3人グループが2つでも2人グループが3つでも、1人グループが6つでも構わないらしい。ただ、グループを組むには条件も存在する。
ふむふむ。小グループでは『男子1人、女子1人』『男子2人、女子1人』は駄目ということか。男女問わずソロで挑むことは許されている、と。
「次の特別試験の内容は教えることが出来ません。しかし伝えることが出来ることもあります。それは、必要とされる能力について」
今回の特殊な試験ではルールの本当に一部しか教えてもらえないらしい。ククリちゃんしょんぼり。
「今年は『全ての能力』が必要とされます。学力、体力、精神力、コミュニケーション能力、これら以外にも様々な能力が発揮できるでしょう。適材適所を考えてグループを作ることをお勧めします」
仲が良い、それだけで組むのはオススメできないってわけですな。まあだからといってほぼ初対面のグループが上手く回るかというのも難しい。連携が問われることがあるかもなんだし、バランス感覚が求められるだろう。
「試験には脱落方式を採用しているルールが存在します。では、龍園くんが1人で挑んだ場合と山田くん、石崎くんと3人グループを作った場合とで考えていきましょう」
仲良し3人組ということなのかしら。こういう例でたっつーが出されるのは新鮮で、ちょっと面白い。坂上先生はタブレットに何か打ち込んでいたので即興なんだろう。
「特別試験の最中、何らかのアクシデントにより龍園くんがリタイアしたとしましょうか。こうなると当然彼は失格、そしてペナルティが科されることとなります」
たっつーの名前の枠が赤く染まる。失格ということらしい。
「一方、3人グループを作っていたとしたら。龍園くんがこの状態でリタイアすると──」
たっつーの名前は赤いけれど、バーティと石崎君は青いまま。連座で失格にはならない、ということか。
「龍園くんには船内へ戻ってもらうことになりますが、あとの2人はそのまま試験を続けることが出来ます。また、もしこのグループが1位となれば、龍園くんも1位としての扱いを受けます」
つまりグループは重要、ソロはかなり不利と。
「次に報酬について説明しましょう」
ふむ。つまり4クラス合同グループが1位を取ればクラスポイントは75ポイントずつしかもらえず、1クラスだけのグループが取れば300ポイント総取り出来る、と。でもあれ?
「先生、プロテクトポイントとプライベートポイントについては各個人に配られるんですか?」
「ありがとうございます京楽さん、いい質問ですね。プライベートポイントに関してはその通りです。ただし、プロテクトポイントは1年生の場合グループメンバー全員への配布となりますが、2年生が1位ですとランダムで1人への付与となってしまいます。3年生の場合はプロテクトポイント報酬自体がありません」
ああ、学年ごとで報酬に差があるってやつか。上の学年になるほど減る感じなんですな。むー、悲しい。
「上位3グループに与えられるクラスポイントは下位3グループに沈んだ学年から均等に徴収します。1位の分は最下位の学年、2位の分は下位から2番目、3位の分は下位から3番目の学年が対象となり、各クラスからクラスポイントが回収されます。そして、この上位と下位のグループが同学年だった場合は、最下位グループに含まれたクラスは100、下位から2番目は66、3番目は33のクラスポイントを上位に支払ってもらいます」
ほほう。対応する上位下位が同学年で最下位のグループが単独クラスで占められていればクラスポイントの額が足りないかもだけど、そこは学校側が補填するらしい。ええと、うーむ。
先生、と手を挙げる。どうぞと指されたので起立した。
「もし3組ともグループ全員リタイアでの最下位になれば、順位はどうなるんですか?」
「その場合は最後に脱落した生徒の順番で決まります。1番最初にその生徒がリタイアしたグループが最下位、2番目が最下位から2番目、といった具合です」
また、と先生は話を続ける。
「4クラス混合のグループが下位になった場合、徴収するのは最下位が75ポイント、下位から2番目は50ポイント、下位から3番目は25ポイントと決まっています」
だよね。そうじゃないと、同学年が上位下位のとき、4クラス混合のグループのときだけ本来必要な分より多めに徴収されて生徒側の損になっちゃうもん。
「さらに、下位5グループになってしまった生徒には退学していただくことになってしまいます」
6人グループを組んで全員100万ポイントを持っておくのが理想。しかし試験本番中に希望する大グループを作る難易度は非常に高いという。
3人グループを組んだものの試験が始まってから大グループには出来なかった、そうなる可能性が高いと学校側は見越しているようだ。となれば1人200万ポイント持っておきたいわけだけど、そんな大金を容易に用意できるはずもない。どうにも厳しい戦いになりそうだ。
「皆さん、お疲れ様でした。最後にカードの説明をいたします」
ふーん。先行の試験開始時に使えるポイントというのが気になるな。去年の無人島サバイバルでいえば、食料だったり道具だったりを買うための専用ポイントがクラスごとで発行されたけど、同じようなものなんだろうか。
「生徒はそれぞれこの8種の中から1枚をランダムに獲得します。ただし、特殊カード3種は各学年ごとに1枚ずつしか配布されません。こちらもランダムのため、1つのクラスが偶然3枚とも所有することも起こり得るでしょう」
これだと、プライベートポイントでカードの買い取り、なんてのもやりそうだな。たっつーとかたっつーとかたっつーとかが。しかし……他学年とのやり取りは出来ないとな。非常に残念だ。
「以上で説明を終了します」
と、ここで手が挙がった。たっつーだ。
「単身の体調不良者が出た場合は?」
「昨年は大量に体調不良のリタイアを出したのだったな、このクラスは……。残念ながら今年はそれが通用しない。特殊な措置が取られることもなく、ペナルティを受けることとなる」
わかりきったことを聞く意味はあるのか。ともかく、それで納得したようでたっつーは引き下がった。
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