ようこそ享楽至上主義の教室へ   作:アネモネ

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無人島試験②

 

 グループ決め締め切りの7月16日の翌日。17日、ククリの部屋には客人の姿があった。

 

「ククリ先輩、お待たせしました」

 

 ホワイトルーム生、八神拓也。そしてもう一人。

 

「ほんっと、女子を待たせるもんじゃないよ〜拓也」

 

 同じくホワイトルーム生、天沢一夏。二人は同じ5期生、幼なじみといって過言ではない仲であった。もっとも、その内実は普通のそれとは異なるだろうが。

 

「一夏がはやく着いただけだろう」

 

「はい減点。仮にもククリ先輩の彼氏なんだから、もっとスマートに言うべきでしょ」

 

「一夏以外の前ではそうしてるさ」

 

 幼なじみの軽い応酬を笑顔で眺めているククリ。そこに、天沢が水を向けてきた。

 

「ところで二人は不純異性交遊……エッチなこととかしてないんですかぁ?」

 

「え、エッチなことって一夏、何を言い出すんだ!?」

 

「あはは、校則で禁止されてるでしょ、まずもって」

 

「校則違反なんて単なるお飾りじゃないですか。露骨に付き合ってイチャイチャしてるカップルなんて学校中にわんさかいるし。コンビニに行けば避妊具だって置いてる。実際に買おうとしてみたけど、店員さんは見て見ぬ振りだったし? まあ、何もかも禁止禁止にした状態で若者が暴走……果てに妊娠なんてしたら、それこそ大問題だし?」

 

「買おうとしてみたんだ……」

 

 ツッコむククリに嫣然と微笑む天沢。

 

「あたしはいわゆる試験管ベビー。まあ最近は体外受精児なんて呼んだりするらしいけど。だからエッチなことには関心が強いんですよ」

 

「おおう、ちょっと納得。でもそんなセリフ、外で男子に言っちゃ駄目だぞ?」

 

「言わないですよ。先輩にしか」

 

「やだ、私口説かれてる……?」

 

 おどけるククリに、真面目な顔で八神が口を挟む。

 

「一夏、ククリ先輩に手を出そうとしても無駄だよ。僕が阻むから」

 

「八神君もイケメン……」

 

 トゥンクと胸を押さえる仕草をするククリ。そこに追撃をかけてくる天沢。

 

「あたし強い女の子って大好き。だから先輩のことも大好きですよー」

 

「ありがとっ。私も一夏ちゃんのこと、大好きだよ〜」

 

 ひしっと抱き合う二人に、どうしたものかと天を仰ぐ八神。この三人の今の力関係はおおむね決まっていた。本来であれば5期生ナンバーワンの八神がナンバーツーの天沢を上回るところを、天沢はククリのことでからかうことで翻弄しているのだ。

 

「今の拓也は彼氏(仮)なんだから。(仮)が外れるように頑張りなよ〜?」

 

 いわゆるお試し期間みたいなもの、とククリは天沢に説明している。本交際でないのはククリがそう望んだからで、八神もそれに従った形だ。

 

「わかってるよ。うるさいな一夏は」

 

 そもそも、八神にククリへの恋愛感情はない。あるのはただただ敬慕の念。ただし、ククリに自分以外の男が近づくのを快く思っていない以上、その隣に自分が立つことは喜んで引き受けたのだった。

 

「それで、1年生の特別試験のほうはどうかな? といっても、5月末にあった試験じゃなくて今回の無人島試験についてだけれど」

 

 1年生は5月末に二度目の特別試験があり、それを退学者0で通過したことは皆の耳に入っている。

 

「はい。僕たち1年生は一丸となって試験に取り組むことで早期に合意しました。宝泉をククリ先輩が先に抑えたことがやはり効きましたね」

 

「あの宝泉くんを拓也がこてんぱんにしたんだって? 見たかったなーあたしも」

 

「宝泉君には一之瀬さんがよく効くからね。上位3組に入れば一之瀬さんの連絡先教えるよって言ったらすぐ食いついてきたよ」

 

「だからあたしと、七瀬ちゃんとグループを組んだわけだ宝泉くんは」

 

 八神とククリは勝者として宝泉に命令を下していた。それは、無人島試験で大人しく他の1年生とも協力すること。これはククリが単にそのくらいしないと2,3年生と渡り合えないだろうと配慮した結果だ。

 

「1年生は主力のグループを何個か作成しています。僕は入りませんでしたけれどね」

 

「八神君には別のお仕事があるからねー。ごめんね、無人島試験を満喫させてあげられなくて」

 

「いいんです! 綾小路清隆の退学、それこそが僕の望むことですから」

 

 話し合いの際、1年生で作った主力のグループに入ることを八神は言葉巧みに拒んだ。綾小路退学のために動くので、試験どころじゃないことが予想されるのである。

 

「2年生はどうなの?」

 

「私たちはねー、まずキャロル率いるAクラスと帆波ちゃん率いるCクラスが手を組んでる。たぶんキャロルから資金提供があったんじゃないかな、退学回避のための。そんで『増員』カードもそこが手にしてるんだよね〜」

 

 そ・し・て、とククリがことさらに怒りを噴出させた。プンスカと口を開く。

 

「カピバラ麻呂が『試練』のカードと『無効』のカードのトレードを成功させた」

 

「つまり綾小路先輩の退学は無効になるんですね、リタイアしても」

 

「そういうこと」

 

「まあ、そこは気が進まないですが月城を利用しましょう」

 

 月城、と八神が呼び捨てた中には、邪魔な男という響きが交じっていた。

 

「そうだね。それしかないかー」

 

「まあ1年生の中にもまだ綾小路先輩を退学させようとしてる人がいたかも知れないし? そう考えるとラッキーでもあるんじゃないんですかぁ」

 

「確かに、余計な虫けらどもの介入を避けられたのは喜ぶべきことだね」

 

「こら八神君。同級生を虫けらとか言わない」

 

 申し訳ありません、と頭を下げる八神。

 

「でもこれで『試練』と『増員』のカードをキャロルたちが手にしたわけだから……いやー、怖いね」

 

「有栖先輩は『半リタイア』枠での参加でしたっけ」

 

「そうそ。足が不自由だから島を自由に歩き回ることは出来ないけど、スタート地点に留まり皆と同じようにルール内で戦う権利。意見を求められれば答えることも出来るし、難題に対してともに取り組むことも可能。ま、連絡を取り合う手段が必要になっちゃうけどそこらへんは去年と同様用意してくれそうだし。あとはキャロルがグループの最後の一人になったらその時点でグループの敗退が決定するって」

 

「試験だけで見れば有栖先輩も強敵でしょ。不参加だと思ってた人たちかわいそー」

 

 それでも、自分たちの敵ではない。三者三様にそう思い、笑った。






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