ようこそ享楽至上主義の教室へ   作:アネモネ

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無人島の地図についてはこちらのbookwalker様などの2年生編3巻か4巻の試し読みをぜひご覧ください。


無人島試験⑤

 

 3日目の幕開け。朝7時の指定エリア、H7をスルーすることに決めた私たちは午前9時の直前、I8の南東に。

 

「とりあえずJ9まで移動する」

 

「I8だとH7の斜め後ろのマスだから指定エリアに入っちゃうかもってことだよね」

 

「ああ」

 

 8時57分、J9に到達。ちょっぴり休憩。

 

 9時になる。タブレットをじっと見ていると、画面が切り替わった。

 

「お、次はJ5かあ。ランダム指定だね」

 

「このまま海に向かって東へ行き、あとは砂浜を北上すればいいな」

 

「よーし、いっくぞ〜!」

 

 1時間ほどでJ5に到達、カピバラ麻呂は1位を獲得した。おめでとう! 

 

「あとはJ6エリアでビーチフラッグス対決に参加、だね」

 

 先ほどの道中、課題を設置してるのが見えたのだ。

 

「ああ、だが……」

 

 急いでJ6エリアに引き返すも、さっきは誰もいなかったところに人、人、人の列。グループごとに1人ずつの単独参加による男子8名女子8名の募集ということだけど、どうなるか……。

 

 しかし見たところ3年生しかいない。これは、課題の独占か……? 

 

 やはりと言うべきか、直前まで雑談していた桐山副会長がこちらに気づき慌てて担当者へ話しかけに行く。カピバラ麻呂も向かうも、無情にももう締め切りと伝えられる。

 

「じゃ、行こっかカピバラ麻呂。定員に達したなら仕方ない」

 

「いや、女子は1枠空きがある。参加してくるといい」

 

「えー、でも申し訳ないよ、待たせるの」

 

「少し休憩したかったし構わない。罪悪感があるなら言い方を変えよう。オレはおまえの水着姿が見たい、ククリ」

 

「ド直球! もう、変態さんめ、仕方ないなあ」

 

 私のために言ってくれてるであろう言葉に従うことにした。カピバラ麻呂って優しいんだから〜。

 

 登録をし、簡易更衣室に向かう私。水着は男女ともにサイズや種類もいくつか用意されていた。私が選ぶ水着は……これだぁ! 

 

 着替え終わると、男子の戦いの真っ最中だった。それが終わるまでは自由待機らしい。

 

 男子はみんなよくあるハーフパンツタイプの水着だった。対して女子は8人中5人が普通のスクール水着。えー、せっかくのビーチフラッグスなのにもったいない。

 

「何で星条旗ビキニなんだ……というか何で用意されてるんだ星条旗ビキニが」

 

 思わずといった様子でツッコむカピバラ麻呂。

 

「え、だってビーチフラッグスってアメリカンじゃない?」

 

「ビーチフラッグスはオーストラリア発祥だ。ついでに言えばオーストラリアの国技がそうしたライフセービングでもある」

 

「マジか。恥ずかしいっ」

 

 星条旗ビキニの一部のように赤くなる私。

 

 男子の部では、桐山副会長が見事優勝を飾っていた。八百長、などではなくとても真剣なバトルだった。ふむ……。

 

 続いて第一試合で私の名が呼ばれる。

 

「まあ、なんだ。頑張ってこいよ」

 

 そう、おざなりに励まされた私はこの羞恥心をビーチフラッグスにぶつけることにした。うぉぉおお〜! 

 

 私は、一陣の風となった。1回戦、2回戦、3回戦と勝ち進む。

 

「ククリちゃん大勝利〜!」

 

「おめでとう、ククリ」

 

 1位の報酬は6点。プラスして、数点の中から選べる景品がある。私は携帯食を選択。あと、参加賞として500mlの水を1本ゲットした。余は満足じゃ。

 

「あ、桐山副会長も、おめでとうございます」

 

「ありがとう。おまえもやるようだな」

 

 近づいてきた桐山副会長は、そのままこそっとカピバラ麻呂と会話を始めた。あ、怪しい……。

 

 2人の視線のほうを見れば南雲会長が海で遊んでいた。こちらに手招きする。わーい、行ってみよう。

 

「南雲会長、朝比奈(あさひな)先輩、こんにちはっ」

 

 南雲会長、朝比奈先輩含め数名の3年生たちは水着を借りボールを借り優雅に海を楽しんでいた。

 

「見てたぜククリ。おまえ、反射神経と走力があるんだな。OAAは飾りか?」

 

「まっさかぁ。たまたま、ビーチフラッグスに慣れてただけですよ。ほら、去年の無人島試験でも遊んでたので」

 

「ククリたち無人島試験で遊んでたの!? 凄いね」

 

「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。すっごい余裕そうですね」

 

 ここで、カピバラ麻呂が桐山副会長との話を終えやって来る。すると、南雲会長は「ククリは着替えてこい」と追い払うように言った。ぶー。

 

 

 

 

 

 3つ目の指定エリアはH5。歩きながら、私たちは話す。

 

「カピバラ麻呂。答え合わせしない?」

 

「桐山たちの件だな」

 

 こいつ、桐山副会長も呼び捨てにしとるんかい! まあ堀北元会長へもタメ口だったし、今さらか。

 

「なぜ桐山副会長はカピバラ麻呂が来てから慌てて登録したのか」

 

「何故、南雲は近くの海で遊んでいたのか」

 

「2つを合わせてみると自ずと答えが出るよね」

 

 つまり──

 

「桐山たちは南雲のため、あえてビーチフラッグスの枠を残していた」

 

「そこにカピバラ麻呂が到着しちゃったため、仕方なく空いたメンバーをエントリーさせた」

 

「南雲はのんびり遊びながら桐山たちの課題が終わるのを待っていたということ」

 

「うーん、別にあそこで遊ばなければこうしてバレることも無かったのにね。ま、そこは南雲会長の余裕ってやつ?」

 

 本当にポイントの浪費だし無駄な遊びだったと思う、うん。それでも1位はとれるって余裕なんだろうけど。

 

「南雲たちに協力しているグループは、その中で競わされているとみるべきだな。1位さえ譲ってしまえば、2位3位は誰が取っても同じ」

 

「だから桐山副会長たちは本気で争っていた、と。南雲会長は独自のルールを敷いている。自分への貢献度が高ければ2000万ポイントをあげるよ〜ってやつだね」

 

「詳しいな。誰から聞いたんだ?」

 

「鬼龍院先輩」

 

「ああ、あの人か」

 

 カピバラ麻呂も知ってるのか。意外。ふーん、彼女に興味を持たれたのかな。

 

「南雲会長が独自に制定した得点を集めれば、クラス確定の前日に2000万を渡されるんだって」

 

「であれば今回の試験で上位を狙う必要もない。BからDクラスで構成された南雲をバックアップするグループは複数あると思われるが、どのグループも最低1人は指定エリアを踏むため動いているだろうな」

 

「最低限得点を重ね、戦略を見破られないようにしてるんだね」

 

 明日からは上位と下位グループ、その点数も発表される。0点のグループがいくつもあれば、明らかに3年生は何かしているとわかってしまう。だから少しの得点は持たせておく。

 

「ああ。そして時に下位の中でも入れ替わったり点数が離れたりすれば、まるでこの特別試験に本気で向き合っているように装うことが出来る」

 

 課題の1位は南雲会長で固定、後は争わせる。これで点数も取れたり取れなかったりで順位変動が起きるわけだ。

 

「これから、3年生の間では特定生徒を妨害することで南雲会長独自の点数がもらえるなんて特別試験みたいなことが起きるかもね」

 

「上位10位以内の生徒だな」

 

「あとは、この引き立て役のグループの先輩たちは最終日に余裕のあるグループと合体させて救済するのかしら。退学はしたくないもんねえ」

 

 そんな予定なんだろう、たぶん。

 

「ところで、ククリのグループの得点はどうなんだ?」

 

「順調だと思うよ。少なくとも下位には沈んでないはず」

 

 澪も金田君も、頑張ってくれているみたいだ。

 

 

 

 

 午後2時5分前。私たちは告知されたエリアH5に到着した。

 

「課題へ向かうぞ」

 

 言葉少なに、カピバラ麻呂は急ぐ。途中で人がいたので、ルートを変えて走る。結構なスピードだ。こいつ、まだ余力を残していたか……。森の中でも遠慮のない速度に内心拍手していると、課題のもとへ。えっと『歴史』の学力テストか。うえ~。

 

「受付できますか」

 

「出来ます。6組目ですね」

 

「受付お願いします」

 

「はい、7組目です」

 

 ここで、先ほど見たバットジャスティス(橋本正義)たちが登場。すごいかけっこ状態だ。

 

「受付は?」

 

「君で最後ですが──」

 

 2番手は神室(かむろ)さん、3から5番手は1年生。6番手に二宮(にのみや)さん、といった具合。

 

「参加するのは俺と彼女です」

 

 二宮さんを切り捨て神室さんとエントリーするバットジャスティス。これで参加できなくなった1年生たちはがっくりきていた。不参加となった二宮さんは謝るが、2人は気にしていない様子だ。

 

「お疲れ様橋本(はしもと)君、神室さん、二宮さん」

 

「おお京楽ちゃん。え、綾小路と行動してるのか?」

 

 驚くバットジャスティスに、神室さんも呼吸を整えながらも同じ気持ちなよう。

 

「あんた……八神って……ヤツとは……?」

 

「特別試験上の戦略と、色恋とは別物だからね〜」

 

「ま、そりゃそうか。で、どうよ綾小路は」

 

「脚力と体力あるね、くらい? あとは自分で探ってください」

 

「体力、ね。単独で参加してるくらいだもんな。しかしこれが数学じゃなくて良かったぜ。数学の天才には勝ち目がないからな」

 

「それではこれより課題を始めます」

 

「もう、しー、だね」

 

 お口はチャック。課題が始まる。

 

 歴史問題は全20問。普通に難しい。ちなみに学力テストは勿論学年ごとに違う問題が出ているらしい。でも内容のレベルは統一されているんだとか。うーん、作成者さんたち、お疲れ様です。

 

 解いて、少しして結果が出る。1位は100点のカピバラ麻呂、2位が80点の3年生グループ、3位は70点のバットジャスティスと神室さん。私は60点である。ちょっとおしい。ってか基本的にテストの問題は全て4択とはいえ、実力隠す気あるのかカピバラ麻呂。

 

「次は『化学』だ。行くぞ」

 

「アイアイサー」

 

 ここでバットジャスティスが歩き出す私たちを追ってきた。

 

「参ったねどうも。歴史問題も得意だったなんてな」

 

「4択だから、運もあったんじゃない?」

 

 そう擁護してあげると、視線が交錯する。バットジャスティスは信じられないとでも言いたげに笑った。

 

「俺たちは別の課題に行く。またな」

 

 カピバラ麻呂と同じ『化学』に行けば点数を取られると思ったのだろう。いい判断だ。

 

 そして、化学のテストでもカピバラ麻呂は1位を取った。だから隠す気あるのかって。

 

 

 

 

 午後3時、最後の指定エリアはI4。

 

「体力は問題ないか?」

 

「ぜーんぜん。ってか麻呂君、実力隠す気ある? 大丈夫?」

 

「ククリこそ、オレにずっと着いてきてる時点でおかしいことに気づいているか?」

 

 言い返された。うーむ、まあそこは気合いで頑張ったということで。

 

「飲み水がちょっと心配じゃない?」

 

 話を変えると、ついてきてくれた。

 

「非常時にはスタート地点に戻るつもりでいる」

 

 スタート地点ではいつでも水が飲めるって、ことは。

 

「あー、まさか。午後5時から朝の7時までは自由時間なことを利用して……?」

 

「ああ、GPSがあれば夜の移動も問題ないからな」

 

「ホワイトルーム生ずるい〜。チートじゃんっ」

 

 ホワイトルームでは夜戦の訓練もしてるんだろう、きっと。

 

「私には無理なんですけどそれ」

 

「……『競争』の課題の法則性に気づいているか?」

 

「あー、うん。だってあれ簡単じゃん? みんな気づいてるんじゃない?」

 

 課題『競争』では、ポイントに到着した順番で競い得点は1位に3点、2位に2点、3位に1点だが、水が1位に2リットル、2位に1.5リットル、3位に1リットル、4から30番目までにたどり着いた生徒は500mlもらえる。

 

「1日目10時D1、11時E1、12時F1、13時C2、14時D2、15時E2、16時F2、16時30分G2の8回。2日目が7時30分H2、8時30分I2、9時30分A3、10時30分B3から16時30分H3の計10回。3日目が7時30分I3、8時30分A4、9時30分B4から14時30分G4となれば」

 

「15時30分にはH4、だね」

 

 要は、出現できるエリアに左上から順にポップしてる課題。

 

「分かりづらくなっているのは他の課題ともごっちゃになっているからだろうな。参加するだけで参加点と食料がもらえる課題なんかも紛れ込むし、大抵の人間は課題に法則性があるとは思っていない」

 

「ん、じゃあH4に行くってわけだ」

 

「ああ」

 

 歩くことしばし。H4の中央あたりで坂上先生を発見。設営を行っているようだ。

 

「どうも」

 

「む……綾小路に……京楽さん、ですか」

 

 読み通りだね、とカピバラ麻呂とこっそり頷き合う。数分後、午後3時30分。

 

「ではこれより課題の受付を開始する」

 

「参加します」

 

「同じく、参加します」

 

 タブレットで登録すれば、2点が付与されていた。やったね。水も1.5リットルもらう。

 

「運も実力のうち、と言いますが……いえ、まさか」

 

「それでは、坂上先生さようなら」

 

 私たちは格好良く去っていった。ちょっと勘づいた様子だったけど、カピバラ麻呂の実力までは悟っていないだろう。メイビー。

 

 I4へ急ぐも、着順報酬は得られなかった私たち。課題にも参加できず、5時を迎える。とりあえず川辺でキャンプすることにし、歩くこと20分。森を抜け川へと到着した。

 

「この辺でキャンプするか」

 

「は〜い」

 

 と、ここで、声が響く。

 

「おーい! 綾小路ー!」

 

 見れば、川の向こう側に池君の姿が。陸続きになったH4の南側で合流した私たちは、自分たちの最後の指定エリアが同じI4だったことを知る。

 

「一緒にキャンプしますか」

 

「だな!」

 

 そういうことになった。

 

 晩ごはんには池君が釣ってきた魚をご馳走してくれることに。

 

「なんか良い匂いするんだけどー」

 

 焼き魚の匂いにつられてか、登場したグループは──

 

「あっ!」

 

「どうしたの軽井沢(かるいざわ)さん」

 

「あ、ううん。ククリちゃんいるなーって」

 

 私がダシに使われたが、たぶんカピバラ麻呂にびっくりしたのだろう。Kちゃんと、Aクラスの島崎(しまざき)君に福山(ふくやま)さんの3人グループだ。

 

「ハロー、Kちゃんに島崎君、福山さん」

 

「こんばんはじゃないのもう? ね、それより一緒にキャンプしない?」

 

 顔を見合わせる私たち。池君が露骨に嫌そうな表情を浮かべる。

 

「キャンプって、おまえ焼き魚狙いだろ!」

 

「分かっちゃった? あたしも焼き魚食べたーい。池くんおごっておごって」

 

「断る!」

 

 しかし、そんな池君も須藤某に篠原さんの情報を知ってるかもしれないぜと言われるところっと豹変。

 

「しゃ、しゃーねーなあ! おまえらの分も用意してやるよ!」

 

「ホント? ありがと池くん〜」

 

 その後、焼き魚が出来るまでめいめいで過ごす私たち。Kちゃんとカピバラ麻呂が時間差でこそっと森へ行って、ちょっと赤くなったKちゃんが戻って来たのが印象的だった。さては、接吻(せっぷん)でもしたな! このラブラブカップルめ! 

 

 

 

 

 午前6時頃。人の声で目覚めた私はテントを出る。

 

「あ、ごめん起こしちゃった……って、ククリちゃん!?」

 

「おはよう木下(きのした)さん。大丈夫だよ別に」

 

 カピバラ麻呂も起きたらしい。のそのそと現れた。

 

「小宮君に、篠原さんもおはよう……あのさ、今急いでる?」

 

「いや、森も抜けたしな。ちょっとくらいなら大丈夫だぜ。なあ?」

 

 私はカピバラ麻呂にアイコンタクトする。すぐ察してくれた彼は、池君たちを起こしに行った。

 

「調子はどう?」

 

「いやー、昨日2回連続で指定エリアに辿り着けなくてさ。焦ってこの早朝に距離を詰めてるところだ」

 

「なるほど。それは大変だ」

 

 ここで、池君登場。篠原さんたちも勿論気づく。

 

「あ、池……」

 

 少し気まずい雰囲気になる2人。池、いけー、頑張れ〜。

 

「篠原、ごめん。俺、実はおまえと組みたかったのに、あんな態度とって」

 

 おお。言えたじゃないか。

 

「池……? いきなり、何よ。シュンとしちゃって」

 

「ほんっっと悪い。この通りだ!」

 

 深々と頭を下げる池君。しかしこの2人の交流を良しとしない者がいた。

 

「そろそろいいか? 行こうぜさつき」

 

 そう、小宮君である。まあ実際時間に余裕が無いからってのもあるんだろうけど。

 

「っ、ま────」

 

 池君はスーッと息を吸い、吐いた。そして。

 

「篠原! 俺は、おまえのことが好きだっ!」

 

 思わず横の木下さんとキャーと手を取り合うくらい、素敵な告白だった。しかしここで黙っていられないのが小宮君だ。

 

「な、────っ、さつき。実は俺もおまえのことが、ずっと好きなんだ」

 

 またキャーと盛り上がる私たち。ロマンチックな告白×2だ。

 

「え、ちょ、待ってよ2人とも」

 

 まんざらでも無さそうな篠原さんは、どっちかのことは確実に好きなのだろう。たぶん。

 

「返事は無人島試験の後でいい」

 

「勿論、俺もだ」

 

 男らしい2人の告白に、篠原さんがどう応えるのか。無人島試験の後が、楽しみだった。

 

 

 

 

 

「私たち、スタート地点に向かってるんだよね」

 

「ああ」

 

 翌日、試験5日目の朝7時前。私たちはD4からD5へと川沿いに歩いていた。前日4日目は篠原さんへの告白を聞いたあと、G3の指定エリアを踏み、その後のH4、H6、I7と3連続スルー。

 

「次の指定エリアがランダムで偶然進行方向に出現、とかなってくれるといいだけどね〜」

 

「あいにくと無理だったようだな」

 

 カピバラ麻呂が見せてきたタブレットにはI8とある。ランダム指定にはならなかったらしい。

 

「あ、あれはもしかして葛城君?」

 

 遠くの岩場で釣りをしている影を発見。ということは、たっつーもそばにいるのかな。

 

「龍園と話したい。ついてきてくれるか?」

 

「もっちろんだよ!」

 

 釣りの邪魔をしないようそろーっと近づく。

 

「久しいな、京楽」

 

 気づかれちゃったらしい。むむっ、気配は消していたはずなのに……。まだまだ私も修行不足か。

 

「お久しぶりだね葛城君」

 

 実に5日ぶりだ。と、ここで、声に反応したのだろう。たっつーがテントから出てきた。

 

「クク、軽井沢と八神はどうした」

 

「Kちゃんなら一昨日キャンプしたよ〜。八神君にはまだ会ってないな」

 

「そういう意味じゃねえよ」

 

 私は八神君と、カピバラ麻呂は推定Kちゃんと付き合ってるんだ。まあたっつーにしては真っ当なツッコミだろう。

 

「2人は、10位おめでとう! それで、麻呂君から話があるんだって」

 

 昨日から解禁されたランキング。下位には勿論私たちは入っていなかったが、上位ギリの10位にこの2人のグループは入っているのだ。2人グループでこれは快挙だよ! まあ、単独参加のロック(高円寺六助)が4位だけどね。

 

「2年生全体で『一部』だけ協力し合って、特定の課題をクリアしないか」

 

「一部、というのはどういうことだ綾小路」

 

「南雲会長は課題を独占して自分たちが1位になるように仕向けている。それと似たようなものってことだよね麻呂君」

 

 ただ、3年生のようにトップ争いをしている面々にみすみす点数をくれてやることは出来ないだろう。2年生は2年生で競い合っている。

 

「たとえば2年Dクラスで結成された須藤のグループの上限人数を解放する手伝いをする代わりに、2年Bクラスで結成されたグループの上限人数の解放の手伝いをするといったものだ。龍園も、おそらく坂柳もクラスメイトの編成したいくつかのグループには不安を覚えているだろ?」

 

「互いにフォローし合う対等な関係、というやつだね」

 

「予期せぬリタイア者が出る恐れもあるからな。保険は多いほうがいいだろう」

 

 ここで、カピバラ麻呂は私に視線を移した。何かあればおまえをリタイアさせるという強い意志に、私はフッと微笑み、あなたを退学させると無言で返す。

 

 一瞬の沈黙。やがて、

 

「クク、いいぜ乗った。ただし坂柳にはテメエが話をつけろよ」

 

「当然だ。それと、もし一之瀬に会ったら、同じ話を頼めるか?」

 

「分かった、引き受けたぞ綾小路」

 

 葛城君も賛成派だったみたいで、たっつーの答えにホッとしてるようだ。

 

「だが解せねえな綾小路。この戦略は時間と労力が必要、動くなら早いほうがいい。テメエなら学校にいた時点で提案してもおかしくはないはずだが」

 

「3年の桐山はオレの前では南雲に反抗している様子を見せていた。それが完全に屈しているとは、予想外だった。これで南雲は3年のほぼ全てを掌握していることになる。対抗するにはこちらも固まらなければと判断したのはつい最近のことだ」

 

「予想外、か。テメエには似合わねえ言葉だな」

 

 一応納得したらしく引き下がるたっつー。私の予想としては、カピバラ麻呂が動いたのはランキング下位に長谷部(はせべ)さん、佐倉(さくら)さん、三宅(みやけ)君の3人グループが沈んでいるのを見たからだと思っている。その救済のためだろう。優しいね。

 

 2人に別れを告げ、南下する──と思いきやC5の山頂付近に出た課題を取りに行くことに。

 

「あれー、ロックじゃん」

 

 課題の内容は男女別での1対1の綱引き。対戦相手がロック(高円寺六助)なら、カピバラ麻呂は苦労しそうだが……。

 

「あぁ……水も(したた)る良い男。1年前よりも更に私自身パワーアップしてるようだ」

 

 ペットボトルの水を一口だけ飲んで後は被るという贅沢なことをするロック。というか手荷物がミネラルウォーター1本(もう空)のみって、タブレットのGPS無しにここまで来たってこと? すごっ。

 

 カピバラ麻呂と2人で課題の登録を済ませる。少しして、課題の受付が終了すると私は不戦勝に。

 

「私の相手は、どうやら君のようだねぇ綾小路ボーイ」

 

「棄権します」

 

「判断はやっ」

 

 爆速でロックも不戦勝となった。参加賞で5点だ。勝てば10点もらえるけど、そこはロックに譲るらしい。

 

 しかし一体全体何でロックはやる気を出してるんだか。気まぐれか、そうか。

 

「君はつまらない男だねぇ綾小路ボーイ」

 

「高円寺君ほどおもしれー男に言われるなら綾小路君も本望じゃないかな……」

 

「フフ、男女別で無ければ君とやり合いたかったよパワフルガール」

 

「ご指名ありがとう。でも私の指名料は高いぞ?」

 

 それで満足したのか、ロックは去っていった。

 

 

 

 

 

 スタート地点D9にたどり着いた私たちは課題『オープンウォータースイミング』に登録しようとするも、またビーチフラッグスのように女子の1枠だけ残っている状態。私は参加辞退しようとするも、「ククリの水着姿がまた見たい」という優しい発言によってエントリーすることに。

 

 男子の部では圧倒的1位をロックがもぎ取っていった。あそこからここまで私たちより速く移動してこれって、すごい。一方私は2位。1位はDクラスの小野寺(おのでら)さんに取られた。水泳部なんだもん、仕方ないよねっ。あ、ちなみに今回は流石にみんな普通のスクール水着だったよ。

 

 休憩することしばし。午後1時、3回目のエリア告知だ。

 

「B6へのランダム指定かあ」

 

「森を抜けるとなれば一苦労だ。だが、D8C8を浜辺から抜けてB8の浜辺に出る。そこから北上すれば迷うことなくB6エリアだ」

 

「森の中へGo!だね」

 

 港から森へと入る私たち。さようなら綺麗に管理されたトイレ、さようならシャワー、さようなら無料で飲める水。物資の追加購入はしなかったけど、あそこにいたのは真嶋先生だったか。キャロルが港にとどまっているから、なのかなあ。

 

「キャロルとの話し合いはどうだった?」

 

「坂柳の協力も取り付けることに成功した」

 

「よかったね。キャロルなら無線機で情報網を張り巡らせてるだろうからリンリンや帆波ちゃんにもすぐ伝わるでしょうし、となると4クラスの足並みがそろうか」

 

 ここで、ちょっと踏み込んでみることにした。

 

「麻呂君の作戦は後半にピークを持ってくること、だよね。具体的には上位下位のランキング表示が終わる13日目以降」

 

「そこまで読まれていたか」

 

「うん。目立たない10位より少し下で、南雲会長やロックがぶつかって得点を落とせば逆転も狙える位置にいるんだよね?」

 

「その通りだ」

 

 カピバラ麻呂の作戦は上手くいかない気がするんだけど……まあいいか、わざわざ否定しなくても。どのみち、その前にカピバラ麻呂は退学させる。ゆっくりとそのことを考えながら、私は歩いて行った。

 

 

 

「B5、着いたね」

 

「今日はここでキャンプだな」

 

 本日最後の指定エリアはB6の真上のB5だった。周辺を探すと、開けたいいスペースに到着するも、先客がいた。

 

浜口(はまぐち)君」

 

 帆波ちゃんたちCクラスの浜口君だ。船上試験ではわりと率先して話していた、クラスの参謀的存在の一人。

 

「ククリさん、綾小路くん。良かったら寄っていかない?」

 

「寄っていかないって、お店みたく言うね浜口君」

 

「似たようなものかな。今日の夕飯くらいはご提供させてもらうよ」

 

 そんな、驚きの発言をぶちかます。ここで、南方(みなみかた)さんと安藤(あんどう)さんもテントから出てきた。

 

「ねえお二方、夕飯をご馳走してくれるって浜口君が言ってくれてるんだけど、本当にいいの?」

 

「勿論だよ」

 

「私たちは3人ともが1.5倍のポイントでスタートしてるから、食料に余裕あるしね」

 

 うちのクラスにも同じような台所番がいるが、そっちは生肉をジャーキーにして大量生産する係だ。こっちはバーベキューコンロと、クラスごとに特色があって面白いな。食料を共有、供給しているグループが各クラス1グループはあるのだろう。……Dクラスはないかもだけど。

 

「気にしないでいいよ。今日、たまたま課題の報酬で牛肉が手に入ってね。どの道長くは持たないから僕らで消費しなきゃいけなかったんだ」

 

「でも……何で私たちを?」

 

「それは、綾小路くんがいるから、かな」

 

 まさか浜口君、そんなご趣味が!?とまあ冗談はさておき、帆波ちゃんクラスがカピバラ麻呂を気にするとなるとアレかな。

 

「帆波ちゃんの好きな相手があや────」

「わーわーわー。直球すぎるよククリちゃん」

 

 南方さんに怒られる。ごめんよ。でも当の本人はKちゃんと付き合ってるんだよなあ。

 

「ククリちゃんはそういう関係……じゃないよね。八神くんがいるし」

 

「はい、特別試験上の戦略で〜す」

 

 この試験中何度も口にした言い訳を述べる。実際は退学させたいからつきまとってるだけなんだけどね。

 

「で、帆波ちゃんと綾小路君はどう?」

 

「何の進展もないかな。私の知る限りでは」

 

「うそー。友達以上恋人未満くらいにはなってると思ってたのに」

 

「もう付き合っちゃいなよYou」

 

 ノリノリの2人。カピバラ麻呂は心なしか困惑顔だ。

 

「3人の勘違い──」

「ではないよ、イケメンランキング5位さん」

 

「あーそれ懐かしー。1位が里中(さとなか)くんのヤツ」

 

「でもすぐに風化したよね」

 

「綾小路君は昔は人と話すのが得意じゃなかったからねえ」

 

 友達の作り方とかを聞いてきたあの頃を思い出す。うんうん、懐かしいな。

 

 女三人寄れば(かしま)しいとは言うが、その後もカピバラ麻呂がたじたじになるまで追求は続いたのだった。






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