ようこそ享楽至上主義の教室へ   作:アネモネ

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無人島の地図についてはこちらのbookwalker様などの2年生編3巻か4巻の試し読みをぜひご覧ください。


無人島試験⑥

 

 

 試験6日目はGPSサーチ解禁の日。この日は、指定エリアを追ったりして何事もなく過ぎていった。崖登りをする場面もあったけど、「ファイト・一発!」で乗り切った私たち。

 

 そして試験7日目の朝、午前7時。

 

「指定エリアはC3。近場だねっ」

 

「しかし空が暗いな。今にも降り出しそうだ」

 

「予報では午前中に降り出す、とのことだね。どこまで持つか」

 

 ここで、学校側からメッセージが。生徒間ではタブレットでのやり取りはできず無線機を使うしか無いんだけど、学校側とはメッセージの送受信が出来るって話だったよね。

 

【天候の状況次第では基本移動、課題を休止する可能性が出て参りました。定期的にタブレットを確認するようにしてください】

 

 ふーむ、私たちの計画に影響が出る恐れがあるな。天候が崩れる前に決行できればいいんだけど……。

 

 C3ではカピバラ麻呂が着順1位を獲得。近場の課題もなく、のんびり過ごすことに。

 

 そして────午前9時となり、表示された指定エリアはE2。ランダム指定だ。

 

「D2D3の山越えをしようっ」

 

 同行者にすぎない私が提案したのには理由がある。D3北部。そこでカピバラ麻呂を迎え撃つつもりだからだ。ただ、天候であったり、カピバラ麻呂の返事次第では最終日のI2での襲撃に加わることになるかもしれない。

 

「降り出すと足元は一気に崩れる。かなり危険だぞ」

 

「麻呂君がやる気でないのは昨日ちょっと疲れてたのと関係がある?」

 

「いや、昨日疲れてたかオレは? 自分では全然気づいていなかったが、疲労がたまっていたんだろう」

 

「そっか。ともかく、私は1人でも行くよ」

 

 八神君と落ち合って、今後の計画を練らないといけない。

 

「分かった。ククリがその覚悟ならオレも山越えに付き合おう」

 

「ありがとう麻呂君。大好きっ」

 

「おいおいククリ、八神に怒られるぞ」

 

 私たちが恋愛関係に達していないであろうことを知ってなお、そうからかってくるカピバラ麻呂。

 

「ルートが決まったなら、即行動だ」

 

 タブレットを持って先導してくれるカピバラ麻呂を見ながら、考える。私は、この人を退学にさせなければならない。でも、ふとこうも思う。彼をホワイトルームに戻して、それで正解なのかと。

 

 ブンブン首を振る。駄目だな、雑念を入れるのは。今は集中集中。

 

「D3マスに入ったぞ」

 

 そうアナウンスしてくれるカピバラ麻呂。傾斜のきつい道だ。風も強くなってきている。

 

「バックパックを持とうか?」

 

「ううん、大丈夫。ありがとう」

 

 突然見せてきた優しさに戸惑うも、すぐに断る。何か勘づいたのか? いや、不審な様子は見せていないはずだが……ここに連れてきた経緯自体が、強引ではあった。荷物を取り上げておいて不安感が拭えるというなら、従うべきか? でも、荷物を持ち逃げされても困る。ここはやはり、拒絶一択だろう。

 

「気遣ってくれたのに、ごめんね?」

 

「いや、問題ないならそれで良い」

 

 ますます空は暗く、風は強くなっていた。

 

 傾斜のきつい道が終わり、あとは少し平坦な道を進み下っていけば終わりのところ。このポイントだ。森の中、後ろから八神君がGPSサーチも使いながら追跡してくれているはず。あとは、合流して戦うだけ。

 

「ねえ、麻呂君。ちょっと休憩しない?」

 

「この悪天候の中か?」

 

 私は、バックパックを下ろし近くにあった大きな木に立てかける。

 

「入学してから、色々なことがあったね麻呂君」

 

「まるで会うのが最後みたいな言い方だな」

 

「その通りだよ。今日、この地点で私はあなたを退学させる」

 

 宣言に、驚きは無かった。

 

「オレは『無効』のカードを持っている。リタイアしても、退学することはない」

 

「知ってるよ。でも、カピバラ麻呂」

 

 ふわりと私は微笑む。

 

「ここであなたを気絶させて、月城理事長代理の船まで持っていく。そうすればあら不思議、綾小路清隆は本島まで運ばれることになってるの」

 

「誘拐か」

 

「大丈夫だよ。カピバラ麻呂の筆跡の退学届も準備してあるから」

 

「本来1隻だけ用意されるはずだった小型船が2隻用意されていたのはそのためだったんだな」

 

「よく知ってるね。情報源は真嶋先生かな?」

 

 元々、緊急を要する怪我をした際には小型船かヘリで救出に向かう準備を学校側は整えていた。その小型船を理事長代理が1隻増やしたという話。

 

 今は天候が悪いが、そこはカピバラ麻呂を拘束しておけば問題ないだろう。流石の彼も魔法使いではない。種も仕掛けもないところで脱出マジックなんてのは出来ないはずだ。

 

「荷物を置いて逃げ出してもいいんだよ麻呂君」

 

「その場合、オレの荷物はおそらく海にでも投げ捨てられる。タブレットも何もかもを失えば、あとはリタイアするしかない」

 

「その通りだね。カピバラ麻呂は退学することは無いけれど、2年生からクラスポイントを失わせた生徒として記憶される」

 

 そんな間抜けな生徒として名を残すなんて目立つ真似をカピバラ麻呂が許容するはずもない。

 

 と、ここで、八神君が到着した。

 

「八神か。このD3北部で落ち合う予定だったんだな?」

 

「綾小路清隆。僕は、おまえに、勝つ」

 

 素早く荷物を下ろした八神君がファイティングポーズを取る。

 

 だが。しかし。何故か。こともあろうに。

 

 カピバラ麻呂は、逃げ出した。荷物を持ったまま。すぐに追いつかれることくらいわかるだろうに。

 

「はぁ!?」

 

「追いましょう」

 

 そこで。

 

「おっと、行かせねえぜ」

 

 声が、した。その影が、現れた。想定外の、姿が。

 

「龍園翔? 何でこんな、雑魚が」

 

「雑魚とは随分な言いようだな八神。優等生面のメッキが剥げてるぜ?」

 

「片付けますか?」

 

「冷静になって八神君。まだいる」

 

 私も興奮していたみたいだ。こんな、人の気配に気づかないとは。

 

「いるんだよねバーティ、石崎君。GPSを消してても無駄だよ」

 

 木々の隙間の死角。そこに隠れるようにして彼らはいた。

 

「いいぜ。気づかれちまった以上は仕方ない。出てこい2人とも」

 

「山田アルベルトに石崎大地……申し訳ありませんククリ先輩。こんなヤツらに、気づかないなんて」

 

「お互い様ってやつだよ八神君」

 

 私も、ちゃんと落ち着くまでは気づいていなかった。腕時計を壊してGPSも無効にしているのだろう。

 

 2人対3人。しかし数は問題ではない。八神君というホワイトルーム生と、私とがいればそれでオールオッケーだ。

 

「なあ、ククリ。嘘だと言ってくれよ。そんなヤツと付き合ってるなんて…………」

 

 もうカピバラ麻呂は遠くに逃げているだろう。I2での襲撃に切り替えることを八神君にアイコンタクトし、向き直る。

 

「少なくとも石崎君に口出しする権利はないかな」

 

「うっ……でもよ、龍園さんが……!」

 

「龍園君が、何?」

 

 これ以上お喋りに付き合うのも無駄かな。立ち去ろうと荷物へ視線をやる私に、たっつーが口を開く。

 

「命令権だ、京楽菊理」

 

「春の特別試験の勝負のヤツ? まさか、それでリタイアしろなんてつまんないこと言うつもり?」

 

 4月のパートナー式の筆記試験の特別試験のとき、私とたっつーは数学の点数勝負をしていた。負けたら勝ったほうの命令を一つ聞く、という条件で。そして、私は一応負けた。

 

「ククク、まさか」

 

 たっつーは悪どく笑った。さて、ではこの状況でどんな命令を出すのかな。

 

「キスしてみろよ」

 

 たっつーの言葉に、目が点になる私と八神君。てんてんてんと沈黙が降りる。

 

「Pardon?」

 

 思わず英語になる。キスって、魚の(きす)じゃあないよね。

 

「付き合ってるって話、どうもウソくさくてな。この目の前で見せてもらおうってだけだ」

 

 好き合っている2人なら簡単な挨拶だろうと、清々しいまでの悪人笑いを見せるたっつー。ふむ、私は別に構わないけれど……八神君の方を見ればリンゴのように顔を赤くしてカチンコチンに固まっていた。ダメだこりゃ。

 

「おいおいどうした。この程度で動揺するのか」

 

「む、人前でとなるとキンチョーしちゃうのは仕方ないでしょ」

 

 やれやれと私はため息をつく。さて、どうしたものかな。たっつーのお察しの通り、私と八神君の関係はカレカノとは程遠い。教祖と信者というのが一番近いだろうか。口づけをしてしまえば変質しちゃう可能性もある。

 

 でも、私は知りたかった。好き合う2人はキス、接吻(せっぷん)をする。ならばキスをすれば私は『好き』という感情を知れるんだろうか。その感情を知ったとき、私は何を思うんだろうか。どう行動するんだろうか。どう変化するんだろうか。進化、するんだろうか。真価は発揮出来るんだろうか。

 

 嗚呼、知りたくてたまらない。直感が否定していても尚、好奇心が抑えきれない。

 

「え、ちょ、龍園さん!?」

 

「黙ってろ石崎。ほらどうした八神、ククリ。本当に付き合ってるのならこの程度余裕だろ?」

 

「そうだね」

 

 私は、アワアワと生娘(きむすめ)のような反応をする八神君に近づいた。そして、チュッと軽い口づけを交わす。

 

「お子様みてえなキスだな」

 

 鼻で笑われたんだけど。すごくムカついた。

 

「あ、あ、あ、あ、あのククリ先輩。い、い、い、い、今のは???」

 

「ごめんね八神君。嫌だった?」

 

「いえ、そんなことは毛頭も! これぽっちもありませんけど!!」

 

 そう、会話しているとだ。

 

「……目的は達した」

 

「え、どういう意味?」

 

 突然たっつーが何かいい出した。え、何、目的って。

 

「まさか」

 

 ハッと八神君が何かに気づいたように視線をさまよわせた。やがて、茂みの1つへと急速に接近する。

 

「ほへ、山村(やまむら)さん?」

 

 そこに隠れていたのはAクラスの影うすい系優等生山村美紀(みき)氏であった。ぜーんぜん、本当に全然近くに潜んでいるのがわからなかったんだけど。ステルス能力高すぎやしないかな!? 

 

「石崎もアルベルトもフェイク。本命はそこの女だよ」

 

 タブレットを大事そうに持つ山村さんを見て、私はようやく理解できた。石崎君やバーティを来させたのは、隠れているのが彼らだけと思わせるため。彼女がタブレットによって撮影していることに気づかせないように。そして、たっつーの狙い、それは──

 

「不純異性交遊によるペナルティか。やられたなあ」

 

 この学校は不純異性交遊を禁じている。建前上の話であって実際はコンビニでゴム、つまり避妊具を生徒が買っても見て見ぬふりらしいが、証拠を提出されれば話は別だ。例えば私と八神君のキスの動画、といった。

 

 タブレットを今取り上げても意味はないだろう。生徒間でメール等のやり取りは出来ないものの、学校とならOK。あちらからお知らせメッセージが送られてくるように、こっちも告発などをしたければ学校側へ送信可能。要はもう動画を送付していること間違いナシだ。手遅れ、なのである。

 

「無人島試験のリタイアくらいかな、ペナルティは」

 

「それが妥当だろうよ」

 

 プライベートポイントも差っ引かれるかもしれないが、そのくらいか。少なくともこの試験を私と八神君が続行できないことは確実だ。男女の関係については気をつけるよう釘を差されてたしね。

 

「にしても山村さんすごいねえ。全然気づかなかったよ」

 

 八神君が見つけられたのも、気配を察知したというよりは動画を撮るのに適した場所を探した結果なのだろう。素直に称賛に値するステルス力だ。

 

「い、いえ、そんな……私なんて……」

 

「ホントすごいよ。でも、もう()()()。次はないよ」

 

 私の気迫にヒュッと息を呑む山村さん。

 

 次はない、と言ったのは本当のことだ。気配を完全に覚えた。これからは、気づかないことはない。

 

「石崎、アルベルト、行くぞ。もう用はない」

 

「龍園さん、でもククリが……」

 

「己の敗北を認めない女じゃねえよ」

 

「石崎君、──────────」

 

 耳打ちしてやると、しんなりしてたのが途端に元気になった。現金なヤツめ。

 

 

 

 §

 

 

 

「失敗しましたか」

 

「はい、申し訳ありません」

 

 私たちを迎えに来たのは、当然と言うべきか月城理事長代理と司馬先生だった。そのまま豪華客船へと収監される。

 

「司馬先生」

 

「はい」

 

 こちらにやって来る司馬先生は、どう見ても険しい表情をしていた。殴る気かな、私たちへの制裁に。体罰を辞さないホワイトルームの考え方だねえ。

 

 私を庇おうとする八神君を制し、私が矢面に立つ。

 

「2発、私にどうぞ司馬先生。それでチャラにしましょう」

 

 いいですかと目で問う司馬先生に対し、構いませんと頷く月城理事長代理。

 

「では」

 

 腹部への何十回もの衝撃。痛みは、無い。手加減されたとか、そんな話ではない。ただ、私の身体がそう『ある』と、それだけだ。っていうか2発って言ったのに手厳しくない!?

 

 ケロッとしてる私へ不気味そうな視線を隠しもしない司馬先生。ひどい、花の乙女に対して。

 

「I2での襲撃には参加されますか?」

 

「いえ、私は完膚なきまでにやられました。ここで敗者復活するのはおかしいでしょう。だから、静観しています。八神君は?」

 

「僕は、ククリ先輩に従います」

 

 そうですか、と言い大人2人は去っていった。残された私と八神君。

 

「ククリ先輩。大丈夫でしたか?」

 

 とても心配そうな瞳で、うるうると言われる。まるで小型犬だ。

 

「あ〜この程度全然無問題(モウマンタイ)って。それより八神君は抵抗しようとしなかったけど、どうして?」

 

「1度追い返したら倍になって返って来るだけ。そんなことは小さい頃に学びました」

 

「つらい、環境だったんだね」

 

 ぎゅっと抱きしめると恐る恐るながら手が回された。しばらくの静寂。

 

 さて、八神君は気づいているだろうか。()()()()()()()()()()()彼が好きな私が、ホワイトルームの環境に同情を寄せているという矛盾に。ただ単に、八神君をコントロールするための言葉だということに。

 

 私は彼に好感を持っている。1番、好感度が高い。でも、だからこそ、依存させたからには制御下に置く。それが支配者としての責務だと思う。

 

「龍園の策略に気づけず、申し訳ありません」

 

「あはは、アレはやられたよねえ。でも謝る必要はないよ。どっちかっていうと私の責任のほうが大きいし」

 

 たっつーの作戦はお見事と言うしかない。私の性格も読んだ、完璧な一撃。Aクラスの山村さんも協力していたのは、キャロルの口添えあってのことだろう。おそらく、私をリタイアさせるためにカピバラ麻呂、たっつー、キャロルの3人ははじめから組んでいた。

 

 私の宣戦布告に、カピバラ麻呂は見事対処してみせた。今回は完敗だ今回は。

 

「それと、襲撃の場所と日時を伝えたのは一夏でしょう。よろしいのですか?」

 

 襲撃に完璧に対応してきたのは場所と日時がバレていたからというのもあるだろう。たっつーだけなら私たちのGPS反応を追ってきたとしても不思議ではないが、山村さんにはちょっとキツいはず。襲撃場所と日時がカピバラ麻呂たち側に漏れていたとしたなら納得がいく。そして、その最有力容疑者は天沢さんだ。

 

「体罰を受けちゃうのも可哀想だしね。黙っておこうか」

 

「承りました」

 

 I2での襲撃もバレてるのかもしれないが……いや、むしろわかってるからこそ行くのかもしれない。どうなるのか、楽しみだ。

 

「それと八神君、別れよっか」

 

「はい。…………はい?」

 

 軽く言われた言葉に、軽く答えようとして詰まる八神君。

 

「今回のリタイアの責任を取るって名目でさ。ああ、勿論私と八神君の本当の関係は変わらないよ? ただ、他の人からの呼び方がちょっと変わるだけ」

 

 これは、確認だ。八神君が変質していないかの。狂信から、恋愛へと変貌していないかの、確認。

 

 私は変わらなかった。キスをしても、『好き』という感情はわからないままだった。だから、でもある。

 

「はい、分かりました。でしたら別れましょう」

 

 するりと吐いてくれた台詞。うん、これだったら再教育しなくて大丈夫かな。

 

「私の1番は八神君。それは、変わらない」

 

 毒を染み込ませるように、甘い言葉を囁いていく。

 

「僕のすべては、ククリ先輩です」

 

 その科白に、何の感慨も湧かない。これも、変わらない。

 

「そうそう、私たちをリタイアさせたのはたっつーってのも広めていくから」

 

「それは……いえ、何でもありません」

 

 八神君が言いかけたのは何なのか、私にはわからなかった。

 

 

 

 

 §§§

 

 

 

 

 

 7月上旬。カラオケにて、とある3人が集まっていた。2人はクラスのリーダー。もう1人はそうでないにもかかわらず、無表情でそこに溶け込んでいた。

 

「呼び出して悪いな」

 

「まったくだぜ」

 

「大丈夫ですよ、綾小路くん。それでは、何のご用件でしょうか」

 

 2年Aクラスのリーダー、坂柳。2年Bクラスのリーダー、龍園。そしてDクラスの綾小路。呼び出し人は、この綾小路であるらしい。

 

「ククリが敵に回った。そこで、知恵を借りたい」

 

「ククク、テメエの退学試験のことかよ」

 

「ククリさんが綾小路くんの敵に? 綾小路くんの退学試験? 失礼ですが、どういうことでしょうか」

 

「天下のAクラスのトップ様にしちゃ耳が遅いな」

 

 クク、と再び笑う龍園。この情報に関しては、彼のほうが有利であるらしかった。

 

「綾小路清隆を退学させれば2000万ポイントやる。そう、南雲生徒会長サマが1年どもの一部へ言ったんだとよ」

 

「その特別試験だが、龍園。一応撤回されたらしい。故に、警戒するのはククリだけで問題ない」

 

 他のホワイトルーム生については、相手にならないのだからこれまた問題ないと綾小路は評していた。

 

「しかし、ククリさんが綾小路くんを?」

 

「あいつの悪いクセだ。要はゲームのようなものだな。オレを退学に出来るか、出来ないか。そんな遊びを見出(みいだ)したらしい」

 

 ホワイトルーム生の八神の影響については、龍園もいるこの場で言うのは(はばか)られた。

 

「次の無人島試験でククリは仕掛けてくるだろう」

 

「もう、龍園くんがククリさんを満足させられないからこんなことに」

 

 プリプリと怒り出す坂柳に「あ?」と返す龍園。両者の雰囲気はいつも通り悪かった。

 

「それで、私が『無効』のカードを綾小路くんの『試練』のカードとトレードして差し上げればよろしいのですね?」

 

 無効のカードの持ち主はAクラスの矢野(やの)小春(こはる)。その効力はペナルティ時に払うプライベートポイントを0にする、つまりカードの所有者は下位5組に入っても退学しないということ。綾小路の退学を防ぐには、坂柳が命令を出して交換させればいいという簡単な話だった。

 

「ああ、感謝する。だが、それだけでは足りない」

 

「それが俺を呼んだ理由ってヤツかよ」

 

「その通りだ。ククリをリタイアさせる案をともに練って欲しい」

 

「はっ、同じクラスのヤツに言う言葉かよ」

 

 ククリがリタイアすれば当然、龍園クラスも被害を受ける。

 

「龍園にも報酬は用意している。オレは、ククリをリタイアさせるが、他のグループメンバーには手出ししないと約束しよう」

 

「邪魔者は退学させたいが、それを我慢してやるってか」

 

 ククリのグループ全員がリタイアすれば、ククリは自然と退学になるだろう。だが、それはグループメンバーも同じく退学になることを意味する。ククリのグループの面子は龍園クラスの人間。被る損害は甚大だ。

 

 綾小路がグループメンバーをリタイアさせられるだけの実力を持っていることに、疑いは出なかった。坂柳も龍園もそこは承知している。

 

「いいぜ。俺もあいつに一泡吹かせてやりたかったからな。取引成立だ」

 

「私も、リタイアさせるだけならば構いませんが」

 

「ありがとう2人とも。して、いい案はあるか」

 

「あるにはあるが……」

 

 言い淀む龍園。

 

「何だ?」

 

「4月のパートナー筆記試験での点数勝負で俺はあいつに命令権を得た。それを使ってリタイアさせることは可能だ。だがやりたくはねえな」

 

「何故だ?」

 

「やったが最後、永遠にあいつの眼中から外れちまうからだよ」

 

 なるほど、と理解を示す坂柳に対し、綾小路は明らかに疑問な様子だった。

 

「綾小路くん、龍園くんはククリさんの視界に入っていたいんですよ」

 

「気色悪い言い方すんじゃねえ。クラス統治に影響があるってだけだ」

 

「視界に?」

 

 龍園の複雑な心情は、綾小路にはまったく分からないらしい。視界に入りたいのなら目の前を歩けばいいとでも言いたげだった。

 

「ともかく、保険があるのは良いことだ。それで、次の無人島試験の説明が終わったらまたこうして集まってもらいたい」

 

「確かに、作戦を考えるにしても今はまだ特別試験についての情報が不足していますからね。後に回すのも致し方ないでしょう」

 

「それと、半減のカードを持っている生徒とウチのクラスで便乗を持っている生徒のカードを交換してくれないか?」

 

「構わねえぜ」

 

 プライベートポイントを求める姿勢の龍園にとって、好都合な取引。葛城あたりのカードを交換させるかと算段をつけていた。

 

「軽井沢さん、ですか」

 

「ああ。(けい)も狙われる可能性があるからな。用心するに越したことはない」

 

 綾小路は、軽井沢に半減のカードと100万ポイントを渡すことを決めていた。

 

 

 

 

 そして。豪華客船『サン・ヴィーナス号』カラオケにて。無人島試験の説明会の、後。同じ3人が集結していた。

 

「こういうのはどうだ」

 

 そう、自信満々に話し始めた龍園。

 

「今回はタブレットで録画が出来る。学校側にメッセージの送信も出来る。そこで、だ。不純異性交遊の証拠を送りつける」

 

 ニヤニヤと笑いながら、龍園は続ける。

 

「命令権で八神とククリをキスさせる。その様子を録画すりゃいい。あとは不純異性交遊のペナルティでリタイアって寸法さ」

 

「キス……ですか。まあ、まあ、いいでしょう。仕方がないです。それで、録画は誰がするのですか」

 

 とは言いつつもかなり不満げな様子で坂柳は問う。

 

「問題はそこだ。ククリのヤツに気づかれねえような人間……心当たりはないか?」

 

 ククリの直感はかなり鋭い。少なくともクラスの連中が隠れた程度ではすぐバレるだろうと、龍園は睨んでいた。

 

「一人、心当たりがあります」

 

「誰だ?」

 

「山村さんです。彼女の諜報能力は学年でも、いえ、学校でも随一でしょう」

 

 坂柳がそこまで太鼓判を押す相手だ。綾小路としては、不満はなかった。

 

「クク、そんな伏せ札があったとはな」

 

「ククリさん相手に駒の出し惜しみをしても仕方ありませんから」

 

「ありがとう坂柳、龍園。これでククリのリタイアが(かな)う」

 

 2人が協力してくれない場合の算段も立てていたとはいえ、助かることもまた事実だった。

 






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