ようこそ享楽至上主義の教室へ   作:アネモネ

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無人島の地図についてはこちらのbookwalker様などの2年生編3巻か4巻の試し読みをぜひご覧ください。

投稿が遅れてしまい申し訳ありません。


無人島試験⑦

 

 試験最終日。綾小路の1回目の指定エリアはH3だった。そして、2回目の移動先はI2。無人島の北東の果てである。

 

 綾小路は知っていた。これが、月城の罠であることを。おそらく自分と同じテーブルのグループたちには、全く違う指定エリアが示されているであろうことを。しかし、それでも行かないという選択肢はない。

 

 何故か? ──対処可能な問題を先送りにするのは、自分の意思に反することだからだ。

 

 I2とI3の境界付近の岩場、その茂みにバックパックを隠し、歩き始めた時。

 

「よう綾小路。偶然だな」

 

 タブレットを持った南雲が南東から現れた。

 

「南雲生徒会長がどうしてこんなところに?」

 

 周辺に他の生徒が存在する様子はない。

 

「安心しろ。ここにいるのは俺とおまえだけだ」

 

 GPSサーチでも使ったのだろう。南雲が断言する。

 

「この近くには課題もありませんけど、どこにいたんですか」

 

「I4の砂浜で遊んでたんだよ。もう無人島生活も終わりだからな」

 

 真実か嘘か。いや、ここで嘘を吐く必要もない。とすれば、南雲は全く得点集めに執着していないことになる。

 

「王者の余裕ってヤツですか」

 

 問いかけに、答えはなかった。

 

「にしても、さっきのセリフはそのまま返すぜ綾小路。指定エリアも課題もないこんな場所に何をしに来た。この先のI2に何がある」

 

「南雲生徒会長には無関係なことです。オレなどに構わず特別試験に集中するべきでは? 高円寺との得点差は肉薄しているはず。あなたが戻らないと着順報酬も得られない。一部の課題にも参加できない状態が続きますよ」

 

「心配するな。この最終日、高円寺は俺が完璧に抑え込んである」

 

 そう、南雲は後ろポケットからトランシーバーを取り出す。指示を出すだけで十分ということらしい。

 

「3年生全体を使った着順の先回りや課題の独占ですね。何故最初からやらなかったんです?」

 

「確かに俺は稼ごうと思えば400点でも500点でも稼げた。だが、それじゃ多少問題もある。それに面白味がないだろ? 2年や1年に勝てるかも知れないって希望を与えてやったのさ。さらに接戦で負けたとなったら、あの高円寺の悔しがる顔が見られるかも知れないしな」

 

「それだけじゃない。10位がずっと3年の黒永(くろなが)グループだったのも南雲生徒会長の仕業ですね?」

 

「ああ、そうだ。アレは俺が10位を維持させていたのさ。見えないところで点数を稼いで逆転を狙うヤツを封殺するためにな」

 

「10位と9位の点差は開く一方で、11位以下は上位を狙うのが日に日に苦しくなっていた。それも全て南雲生徒会長の計画通りだったんですね」

 

 パチパチパチ、と南雲が手を叩く。

 

「おまえは俺の作戦を2つも見抜いた。ずっとおまえに実力があるか疑ってきたが、これで明白になったな。喜べよ、おまえは俺に叩き潰される権利を得たんだ」

 

「欠片も嬉しくはないですね」

 

 綾小路は考える。この先、月城たちからの襲撃が待ち受けている、その場に南雲を連れていけばどうなるかを。

 

 最悪の場合、退学させられる可能性もあるだろう。しかし、そこまで責任を持つ必要があるだろうか。それに、南雲は尊敬すべき部分を持つ先輩だ。何だかんだで乗り越えてしまう気もする。

 

「この先に行くにあたって、条件があります南雲生徒会長」

 

「なんだ?」

 

「得た情報を漏らさないこと。この先で何があっても、口をつぐんでください」

 

「……その程度なら、まあいいだろう」

 

 ここで、トランシーバーが鳴った。

 

『上手く行ったぞ南雲、これで3回連続高円寺の課題を防いだ。次の指示をくれ』

 

「それと、タブレットとトランシーバーも置いていってください」

 

『おい南雲、おまえが指示しなきゃ上の連中は動かない。高円寺を確実に2位に落とすには試験終了まで攻め続ける必要があるんじゃなかったのか?』

 

 南雲は大人しくトランシーバーをオフにすると、タブレットとともに綾小路と同じように茂みに隠した。

 

「これで終わりか?」

 

「ええ、行きましょう」

 

 南雲の覚悟は確認した。高円寺よりも、特別試験よりも綾小路を優先する、という。ならばこちらもそれに応えるのみだ。

 

「ちょーっと待ってください」

 

 と、おどけた声がした。

 

「困ったなあ、綾小路先輩なら南雲先輩をあしらってくれると期待してたのに」

 

「あ?」

 

 自分を明確に下に見る発言に苛立ちを隠せない南雲。彼が何か言う前に、綾小路が一歩出た。

 

「天沢、おまえはここで監視役を任されているんだな? I2に予定外の、つまりオレ以外の生徒が入り込まないように」

 

「その通りでーす。だからあたしは、南雲先輩を通すわけにはいかないの」

 

 ここで綾小路は、(ひざまず)いた。そして、言い放つ。

 

「天沢。おまえの助けが必要だ。オレの手を、取って欲しい」

 

 姫に助力を請う騎士のように。どこまでもロマンチックに、劇的に、綾小路は(こうべ)を垂れた。

 

「えー、えー、えーっと。つまりあたしが欲しい的な?」

 

「監視役をやめてオレに着いてきて、オレとともに戦って欲しい」

 

 カーっと顔を赤くしてくねくねと喜びを示す天沢。

 

 彼女は少し逡巡した様子だった。しかしすぐに「顔を上げて」と言うと、毅然として口を開く。

 

「そこまで綾小路先輩に言われて断っちゃ、女が(すた)るってもんだしね。いいよ、一緒に行ってあげる」

 

 こうして、綾小路パーティーは3人となった。

 

 

 

 

 

「来ましたか」

 

 何とも似合わないジャージ姿で、月城は立っていた。そして、傍らには司馬と、綾小路の知らない男もいる。

 

「月城理事長代理に、司馬先生に……?」

 

「学校用務員の京楽伏厨(ふしず)だよ南雲生徒会長くん。娘がお世話になってるねえ」

 

 丁寧な礼に、つられて返す南雲。しかし状況の把握はままならなさそうだ。

 

「ククリ先輩のお父さんだけど、義父だからだよ似てないのは」

 

「聞きたいのはそこじゃない。理事長代理に、1年Dクラス担任に、学校用務員がいるのはどういうことだ」

 

「私たち3人ともが綾小路くんの退学を狙っている。そういう話になります」

 

 そう聞いて、南雲はすぐに気がついた。

 

「俺に主催させた綾小路退学特別試験も、ランダムな生徒でなくはじめっから綾小路を狙っていたってことか」

 

「ご名答です」

 

「だが、何故……?」

 

 その答えを、南雲だけが持っていない。しかし、説明する暇もなさそうだった。

 

 視界の端に映る小型船には、操縦者1人のみ。一見戦闘に加わるとは思えないが、油断は出来ない。

 

「南雲生徒会長。オレと戦いたいんですよね?」

 

「ああ、勿論だ」

 

「じゃあ諸々(もろもろ)は一旦忘れてください。とりあえず、そこの船でオレは拉致されようとしています。抵抗するので、助けてください」

 

 拉致、と驚く南雲。だがすぐに切り替えたらしくキリッと言い放つ。

 

「後でおまえの事情を聞かせろ。それが条件だ」

 

「良いですよ、お安い御用です」

 

 軽口を叩く綾小路だったが、その眼は鋭く前方を見据えていた。

 

「しかし天沢さん。あなたが『裏切り者』であることには気づいていましたが、ここまで盛大に寝返るとは予想外でした。まったく、綾小路くんを連れ戻すべく選ばれた人材でありながら連れ戻す気など最初からなかったようですし」

 

「ごめんなさーい」

 

 ペロッと舌を出し反省の様子など欠片も見せない天沢。しかしその眼光は綾小路と同じく鋭利だ。大人たち3人を明らかな脅威と見ている証拠。

 

 その3人はといえば、子どもたちの様子など関係ないとばかりにただゆったりと佇んでいた。

 

「では、始めましょうか」

 

 月城はそのまま天沢の前に立つ。

 

「司馬先生は南雲くんを、京楽さんは綾小路くんをお願いします」

 

「承りました」

「合点承知の助!」

 

 謎の敬礼ポーズをした京楽伏厨が、綾小路に向き直る。

 

「いやー、君と会うのは楽しみにしていたんだよね」

 

「それは、どういう意味でしょうか」

 

「そのうち分かるさ」

 

 そう話しつつ、京楽伏厨は裏拳を綾小路に叩き込──もうとした。華麗なステップで避ける綾小路へと京楽伏厨は尚も語り続ける。

 

「『有利になるとは分かりつつも、自分からは仕掛けられない』らしいからねえ君は。私からやらせてもらったよ」

 

 ホワイトルームに関する教育方針を細かく知っているであろう月城による分析だろうか。ともかく、正解である。

 

「さあ、次は君の番だ。来なよ」

 

 クイクイっと手を動かし挑発する京楽伏厨に、綾小路は乗っかった。ジャブを放つもこちらも避けられて終わる結果に。

 

 綾小路は今、好奇心のままに動いている。この大人がいったいどのくらいの実力を有するのか。どのくらい強いのか。そんな、好奇心。

 

 未知の実力を持つ大人、それもエージェント級。そう評した綾小路はチラと南雲と天沢のほうも見る。あちらもエージェント級の実力者たちを相手に、よく頑張っていた。

 

「よそ見かい? 余裕だねえ」

 

 そうは言いつつも、攻撃を仕掛けてこない京楽伏厨。それを不思議には思いつつも、綾小路は自身の手を緩めない。

 

 柔道。通用しない。空手。通用しない。合気道。通用しない。テコンドー。通用しない。ボクシング。通用しない。

 

 目潰し。通用しない。右から殴る。通用しない。左からキック。通用しない。

 

 通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。通用しない。

 

 ──強い。

 

 ただただひたすらに。そう、綾小路は感じた。

 

 ────勝てない。()()

 

 そんな風にも、考えた。それほどに圧倒的な差だった。

 

 毎日鍛えていたホワイトルーム時代からは身体も衰えている。そんな要因もあるだろう。

 

 されど、全てを塗り替えるくらい。美しいまでに、その男は。京楽伏厨は、強かった。

 

「君の目的はもう達成されているのかな? 時間稼ぎ……といったところかな」

 

「よく分かりましたね」

 

 そして、その時間稼ぎによく付き合ってくれた。疑問に思う綾小路に構わず、京楽伏厨は続ける。

 

「目が死んでいない。私には分かるんだ、そういうのが。おかげで策があるってバレバレさ。大丈夫、月城理事長代理には内緒にしておくよ。最終兵器を使われちゃ君もたまったもんじゃないだろう?」

 

 その質問に答える前に。綾小路の作戦が、動きを見せた。

 

 小型船が発進する。月城たちを残して。明らかな異常事態。その理由が、迫って来る。

 

 海上からやって来るもう一つの小型船。

 

「驚いたなあ。月城理事長代理も君が万が一学校側を頼っても止めるように根回ししていたんだけど」

 

 まったく驚いていない様子で、京楽伏厨は呟く。

 

「ああ、真嶋先生と茶柱先生か」

 

 船に乗っている2人の姿に、彼も察したようだ。真嶋と茶柱と綾小路が協力関係にあることは気づかれていたらしい。彼らが月城を警戒する態度などで悟られたのだろう、と綾小路は考察する。

 

「誰かが2年Aクラスと2年Dクラスの生徒がI2で倒れていて危険な状態と報告すれば、とても簡単にもみ消せる話じゃないでしょう?」

 

「救護に駆け付ける人選には担任が含まれるからねえ。本人たちが希望すればなおさら、か。君のことだ、腕時計が壊れていると報告させたね? そうすればGPS反応が無くても確認には向かわなければならない」

 

「その通りです」

 

 ちゃらんぽらんな態度とは裏腹に、頭も回るようだった。

 

「これはこれは。やられましたねぇ」

「月城理事長代理、強かったー」

 

 月城と天沢の戦いも終わったらしい。強制的に中断させた、というべきだろう。真嶋と茶柱が来た以上、当然のこと。もちろん月城たちには暴力で彼らを排除するということもできる。だが、それをやってしまえば暴力事件に発展することは必至。新聞の一面でも飾ることになるだろう。

 

 綾小路と天沢に遠慮なく暴力を振るってきたのは、ホワイトルームのことは口外しないしどうせ連れ戻せばいいから。南雲の場合は勝手が違うので、相当手加減されるだろうという打算もあった。

 

「ありがとう天沢、助かった」

 

「いいんですよ〜。先輩のためならたとえ火の中水の中」

 

 そんな天沢を少し眩しそうに見る月城。

 

「天沢さん。命令に背き続けた君は失格の烙印を押される。戻るべき場所はもうないでしょう。この学校に留まり続けるも去るも、好きにしなさい」

 

「あたしは、綾小路先輩と拓也と一緒にこの学校にいたいかな〜って」

 

「そうですか。そして、恋愛に夢中になってしまった八神拓也にも失格の烙印が押されるでしょう。同じように伝えておいてください」

 

「拓也のは恋愛ってより尊敬だけどね。オッケー、言っておきまーす」

 

 おそらくは八神もまたククリとともにいる道を、つまりこの学校にいることを選ぶだろう。生徒会の仲間でもあることだし。

 

 その会長の南雲は、と見れば、ぐったりとして意識を失っていた。

 

「司馬先生、手加減は出来なかったのですか?」

 

「申し訳ありません。手加減が難しいほどの実力でして、つい腹部に殴打を……」

 

 普通に抑え込むのは厳しい腕の持ち主だったというわけだ。おそらくは何度も粘り強く戦い抗ったのだろう。オールマイティな南雲に綾小路は心の中で拍手を送った。

 

 ここで、上陸した真嶋たちが近づいてくる。

 

「何があったのですか?」

 

「ここでは何もありませんでした。私たちは単なる雑談をしたにすぎません。ああ、そうそう南雲くんが転んで腹部を強打してしまったようなので運んであげましょうか」

 

「それで済むとお思いですか」

 

「済むも済まないも、決定事項です。あなたがた教師には抗いようがありません」

 

 南雲の怪我の件があるのに月城が強気なのは、綾小路が南雲へ口止め済みなのを察しているからだろう。ホワイトルーム関連のことを、月城から狙われていることを喋られるなんて許容するわけにはいかない。その心理を予測している。

 

 それでいい、と頷いた綾小路を見た真嶋も引き下がった。

 

「……分かりました」

 

「では引き上げましょうか。まだ生徒たちの特別試験は終わっていませんから」

 

 確かに、南雲のリタイアはあったとはいえこの無人島試験は続いている。

 

 燦々(さんさん)と照る太陽は、夏がまだまだ続くと叫んでいるようだった。

 

 

 

 

 

 §§§

 

 

 

 

 

 

 試験6日目。GPSサーチが解禁となったこの深夜、綾小路のテントには来客があった。

 

「可愛い可愛いホワイトルーム生の一夏ちゃんが、綾小路先輩のところに遊びに来たよ〜?」

 

「ホワイトルーム生である証拠は?」

 

「先輩が10歳の時に受けていたカリキュラムはプロジェクト5に基づいた構築理論。11歳の時に受けていたのはプロジェクト7に基づいた相対性理論。あたしも両方受けたからしっかり覚えてる」

 

 正確には、学んだ年齢が異なる。しかし一般的なスパルタ教育の限界はそのくらいだとすれば、天沢の言っていることも妥当だ。おそらく彼女は綾小路よりはるかに劣るカリキュラムを受けていたのだろう。

 

「室内も、廊下も、自分自身に与えられた部屋も、何もかもが真っ白な世界」

 

 ここまで深夜にもかかわらず移動してこられた実力や、言動からしてホワイトルーム生なことはほぼ間違いない。しかし疑問も残る。

 

「どうしてククリは八神とともにおまえの名を挙げなかったんだ?」

 

「それはね、先輩。あたしがククリ先輩に頼んだの。正体を明かす時は自分で明かしたいって」

 

「それが、今なのか?」

 

「そうそ、あたし綾小路先輩に伝えに来たの。ククリ先輩と拓也(たくや)が襲撃してくるのは7日目のD3北部。午前7時の指定エリアはC3で、9時の指定エリアはE2だから、その移動の間に仕掛けてくる」

 

 すぅと息を吸う天沢。

 

「月城理事長代理と司馬先生は最終日にI2で襲撃してくる。午前9時の先輩の指定エリアだけI2にするって形でね」

 

「そこまで伝えてしまっていいのか?」

 

「いいのいいの。あたし、先輩に味方するって決めたから。……襲撃の時はノータッチだけどね」

 

 これらが本当であれば、有益な情報だ。

 

「しかし何故、オレに味方を?」

 

「あたしは内心綾小路先輩に憧れを抱いてるだけの乙女だからって理由じゃダメかニャー?」

 

「だとすると、最初に宝泉と組んで退学させようとしてきたのが不可解だが」

 

「だって、いくら憧れを抱いてるって言ってもそれは想像の中の話じゃない。直接会って、話して、ああこの人に憧れて良かったと思うのには時間が必要だからね」

 

 つまり天沢は綾小路が憧れの人として合格かどうか測っていたということ。辻褄(つじつま)は合う話だ。

 

「綾小路先輩にはククリ先輩が張り付いてるからね。こういう深夜じゃなきゃ話せないって思ったの」

 

「ありがとう天沢。このままスタート地点まで戻ろうと思うが、着いてこれるか?」

 

「深夜のうちにってこと? 凄いな〜綾小路先輩。あたしじゃなきゃ着いて行けないよ」

 

 敵の作戦が割れた以上、話すべき人物がいた。坂柳だ。

 

 スタート地点の港には、多くのテントがあった。その中からGPSサーチで坂柳のものを探しあてる。

 

「天沢、行ってくれないか?」

 

「このために呼んだってわけね。はいほいっと」

 

 天沢に起こされた坂柳は、眠そうにしながらも笑みを隠しきれていなかった。

 

「夜這いでしょうか綾小路くん。それにしては女連れ、という点がマイナスポイントですけれども」

 

「襲撃の日時が割れた。龍園にも伝えておいて欲しい」

 

「それはそれは。承知しました」

 

 神妙な表情になり、綾小路から話を聞く坂柳。ただし、天沢がホワイトルーム生というのは聞き捨てならなかったようだ。

 

「信用できるのですか?」

 

「あれー、有栖(ありす)先輩疑ってる? あたし悲しいなぁ」

 

「オレに今、嘘の日時を教えるメリットはあまり無い」

 

 それもそうですね、と納得はする坂柳。でもその顔はやはり険しいままだ。

 

「綾小路くん以外のホワイトルーム生、八神くんと天沢さん、ですか」

 

「『偽りの天才は葬る』というヤツか?」

 

「ええ、ええ、ですが今は特別試験が先決。真嶋先生にお話があるのですよね? 今もいらっしゃるか分かりませんが、行ってみましょう」

 

 売買の受付をしていた真嶋先生は、幸いなことに今も担当だったようで、こんな時間でも商品を並べて来るはずもない生徒を待っていた。

 

「綾小路に坂柳? こんな深夜に、どうした。月城理事長代理のことか?」

 

「はい、綾小路くんが聞きたいことがあると」

 

「月城理事長代理に最終日の正午あたり、I2で襲撃されることになりまして。そこで質問なんですが、2年Aクラスの生徒とDクラスの生徒が腕時計も壊れてI2で倒れていて危険な状態だと報告すれば、救護に駆け付けるのは真嶋先生と茶柱先生になりますか?」

 

「それは……そうだな。その通りだ。しかし全生徒のGPSをチェックされたらどうする」

 

 その質問は綾小路も想定済みだった。

 

「坂柳に頼んであります。2年AクラスとDクラスの生徒から1人ずつ誰か選んで丁度いいタイミングで腕時計を壊すように、と。これならGPS反応が消えていてむしろ信憑性が増すんじゃないでしょうか」

 

「よくそんな方法を思いついたな。素直に感服する」

 

「ありがとうございます、真嶋先生。では、お願いします」

 

 そして、試験6日目の朝。綾小路は何食わぬ顔でテントに戻っていたのだった。

 






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