ようこそ享楽至上主義の教室へ 作:アネモネ
石上が去ってから、明るい声が耳に入る。
「あらあら〜いつも通り楽しそうな笑顔ね、京楽さん」
「はい。いつも楽しくニコニコがククリちゃんのモットーですから!」
現れたのは星之宮。この場に姿を見せるのは珍しい。
受け持ちしているクラスの神崎と話していたらしく、ククリとは目が合った。
「二日酔いですか、また。それとも船酔い?」
壁に手をついている星之宮にククリが問う。
「その2つがミックスしちゃってさ〜。それより、さっきのカッコいい子って……えーっと、誰だっけ〜。どっかで見たことある気がするんだけどな」
「1年Aクラスの石上です」
ククリの答えよりはやく、神崎が口を開いた。
「え? 1年生? って、まぁ2年生や3年生なら知ってて当然なんだけど……」
不思議そうに首を傾げる星之宮へと、ククリは聞いてみた。
「何かあるんですか?」
「うーん、なんか結構前に一度学校で見かけた気がするんだけどなあ……見間違いかも。ってごめん京楽さん、私ダメみたいっ!」
おぼつかない足取りでデッキまで駆け出す星之宮に、ククリと神崎も再び目を合わせる。
「これは……」
「ああ」
分かり合った2人は、ちょっと死んだ目で後を追う。
「オロオロオロオロ!!」
そこには、デッキの手すりをつかみアニメなどだと虹色にでも光りそうな嘔吐物を強い海風に飛ばせている星之宮の姿があった。
「先生、お加減大丈夫ですか?」
「もう無理かも、ごべんね京楽さ────オロロロロ!」
「先生ーっ!!」
コミカルに叫ぶククリ。
「ごめん、私やっぱ部屋に戻って寝まぁす……。神崎くん話の途中なのにごめんねぇ」
「気にしないでください、また声をかけさせていただきます」
「それから京楽さんも変なの見せてごめん〜……うぷ!」
バイバイとでも言うように手を振るも、すぐに口元を押さえ船内へと急ぐ星之宮だった。
「大丈夫かね、あの様子は」
「朝のホームルームでは3回ほどああいったものを見せられているが、その後はピンピンしている。問題ないだろう」
「それならよかった」
ここで、神崎から話を振られる。
「京楽、石上とはどういう関係だ?」
「関係も何も……生徒会の仕事上知り合う機会があったってだけだよ」
綾小路退学特別試験のことは言えないため、そう答えるククリへと神崎は追撃を仕掛けた。
「アイツと話していたのは、どんな内容なんだ?」
「プライベートプールの予約の件だよ〜。ところで神崎君は、彼の何がそんなに気になるのかな」
「少しばかり事情があってな……」
考え込む様子の神崎へと今度はククリがアタックする。
「元から知り合い、だったり?」
「2年進級直後の特別試験で、1年生とは接点を持つ機会が多かっただけだ」
「それは嘘でしょ神崎君。石上君は早々に龍園君と組んで、その後は表舞台に顔を見せなかった。高橋
不敵に笑うククリへと、降参と言わんばかりに神崎は手を挙げた。
「隠し事はするものじゃないな。ああ、俺と石上は昔からの知り合いだ」
「学校だったり塾が一緒だったり? 石上君も神崎君も成績いいよね〜。身体能力も高い神崎君と違って石上君の身体能力は低いけど」
と、石上のOAAを見ながら言うククリ。
「鋭いな。石上とは同じ塾に通っていた」
「へ〜。もしかしてだけど、石上君も財界人だったりするの?」
「…………本当に鋭いな。石上京は石上グループ会長の息子だ。俺のことは坂柳から聞いたのか?」
「うん、神崎エンジニアの御曹司だってね」
林間学校の夜、ククリは神崎の情報を坂柳から得ていた。
「御曹司、と言われると恥ずかしいものがあるな……」
「事実でしょ。それでそれで、石上君は神崎君的に見てどう?」
「石上は優秀で情に厚く実行力もある。一之瀬と坂柳の良いところを抜き出した男、という表現が一番伝わりやすいかも知れないな」
帆波ちゃんとキャロルのいいとこ取りとは。それはそれは、優秀だ。
「頼もしい仲間だね」
「ただし、それはあくまで味方に対してだけだ。仲間を脅かす存在に対してはその限りじゃない。恐らく容赦なく牙を剥くタイプだろう」
「あれれ、石上君いろいろと温厚そうだったのに。意外意外〜」
それじゃあ、とククリは甘い甘いホットケーキのような声で尋ねる。
「敵でも味方でもなければ?」
「敵でも味方でもないのなら、奴にとってそれは無関心だ」
「神崎君みたく優秀な人も無関心グループだったりしちゃうの? その口振りだと」
図星を突かれたらしく、動きが止まる神崎。
「……ああ。自分にとって意味をなさない存在として、気にも留めていないはずだ」
「なるほどね〜。あ、そういえば」
ふと思い出したようにククリが手を叩く。
「キャロル……坂柳さんと神崎君は知り合いなんだよね?」
「その通りだ」
「じゃあ石上君と坂柳さんは?」
「当然、家同士の付き合いがあるな」
さらりと上流階級の事情を述べる神崎へと、ククリは問いの矢を放つ。
「じゃあじゃあ、カピバラ麻呂……綾小路君と石上君は?」
ククリは知っていた。綾小路清隆の父、綾小路篤臣がホワイトルームの創始者であることを。そして、政治家であることを。
素直に坂柳へと関係性を聞いても良かったのだが、ここは敵に塩を送るようなつもりで神崎に尋ねてみた。
「いいや。何故そう思────いや、待てよ。綾小路、まさか……」
「やっぱりか」
神崎と綾小路篤臣、石上の関係性。
「綾小路先生。綾小路がその息子だというのか」
「綾小路先生って?」
無邪気に問うてみると、神崎はハッとした様子になった。
「ああ、政治家の綾小路篤臣先生。恐らく綾小路清隆の父親で、俺や坂柳、石上の父親とも関わりが深い」
ラインが一本に繋がった。そんな感覚だった。
────あとでキャロルにも、石上君について聞かないとな。
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