ようこそ享楽至上主義の教室へ 作:アネモネ
椎名ひよりは歩いていた。図書室までの道。それはいつも通り、代わり映えのしないものになる…………はずだった。
「あら」
ばったりと人に出くわす。鈴を転がすような声だった。
その人物は、さらに言葉を連ねる。
「こんにちは、椎名さん」
こちらが返事をすると、その人──坂柳有栖はゆったりと微笑んだ。
「前々からあなたとはお話してみたいと思っていたんですよ」
それはどういう意味なのか。ひよりが問う前に、言葉が重ねられる。
「ククリさんのお友達であるあなたとは」
確かに、ひよりとククリは友人関係にある。だが有栖が言いたいのはそれだけではないようで。
「坂柳さんも、ククリちゃんとお友達でしょう?」
「ええ。そうですね、残念ながら」
有栖は無邪気に続ける。
「もっと深い仲になることを、私は期待しているんです。切望していると言っても良いかも知れません」
「親友、ということでしょうか」
「ふふふ、さてどうでしょうね」
こちらをからかうように有栖は笑う。だがその雰囲気に流されるようなひよりではなかった。
「それにしてはひどい仕打ちだと思いますが」
「はて。何のことでしょう」
「私は、ククリちゃんの無人島試験でのリタイアにあなたか綾小路くん、もしくはその両方が関わっていると思っています」
ひよりの推測は単純な理由によるものだ。龍園1人ではククリをどうこうすることは難しい。また、リタイアさせる理由にも乏しい。ならば何らかの外的要因……ククリをやり込めるような実力者がいたと踏んだ。
「なるほど。確かにそれが本当であればひどい仕打ちですね。しかし証拠はないのでしょう?」
「はい。けれど私はあなたの関与を確信しました」
今のやり取りで、と。伝えれば、思いもよらぬリアクションが返って来た。
「ああ、あなたも綾小路くんを好いている方の一人なんですね」
「え…………?」
唐突な語句に、反応が遅れる。
綾小路くんはただの読書友達で、と。しかしその言葉は喉にへばりついたかのように出てこなかった。
流れる沈黙。有栖は不敵な笑みを浮かべたままだ。
救いが現れたのはその時だった。
「あー、ひよりんいた〜! 私も図書室、行くよ!!」
ククリの声に、ひよりはとてつもない安堵を覚える。
「って、キャロルも。珍しい組み合わせだね」
そう話すククリの後ろからは神室も登場した。
「確かに。あんた達、何の話してたわけ?」
「ちょっとした恋バナ、といったところでしょうか。ところで真澄さんはどの男性がタイプですか? ゴリゴリ筋肉マッチョで男気ある宝泉くん? 童顔で頭脳明晰な八神くん? 細マッチョでクールな宇都宮くん?」
「どれもタイプじゃないけど……しいて言うなら宇都宮?」
「えー、宇都宮君のクールさは女子にモテたいゆえだと思うなあ」
何故有栖はその3人の1年生の名を挙げたのか。ひよりが分析しようとする間にも会話は続けられる。
「ってかあんたの元カレ含まれてたけど、いいわけ?」
「八神君はモテるからね」
「答えになってない」
神室が呆れとともにため息を吐く。そのコミカルなやり取りに安心して。ひよりは自身をじっと観察する視線に見て見ぬふりをした。
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