ようこそ享楽至上主義の教室へ   作:アネモネ

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豪華客船、サン・ヴィーナス号⑪

 椎名ひよりは歩いていた。図書室までの道。それはいつも通り、代わり映えのしないものになる…………はずだった。

 

「あら」

 

 ばったりと人に出くわす。鈴を転がすような声だった。

 

 その人物は、さらに言葉を連ねる。

 

「こんにちは、椎名さん」

 

 こちらが返事をすると、その人──坂柳有栖はゆったりと微笑んだ。

 

「前々からあなたとはお話してみたいと思っていたんですよ」

 

 それはどういう意味なのか。ひよりが問う前に、言葉が重ねられる。

 

「ククリさんのお友達であるあなたとは」

 

 確かに、ひよりとククリは友人関係にある。だが有栖が言いたいのはそれだけではないようで。

 

「坂柳さんも、ククリちゃんとお友達でしょう?」

 

「ええ。そうですね、残念ながら」

 

 有栖は無邪気に続ける。

 

「もっと深い仲になることを、私は期待しているんです。切望していると言っても良いかも知れません」

 

「親友、ということでしょうか」

 

「ふふふ、さてどうでしょうね」

 

 こちらをからかうように有栖は笑う。だがその雰囲気に流されるようなひよりではなかった。

 

「それにしてはひどい仕打ちだと思いますが」

 

「はて。何のことでしょう」

 

「私は、ククリちゃんの無人島試験でのリタイアにあなたか綾小路くん、もしくはその両方が関わっていると思っています」

 

 ひよりの推測は単純な理由によるものだ。龍園1人ではククリをどうこうすることは難しい。また、リタイアさせる理由にも乏しい。ならば何らかの外的要因……ククリをやり込めるような実力者がいたと踏んだ。

 

「なるほど。確かにそれが本当であればひどい仕打ちですね。しかし証拠はないのでしょう?」

 

「はい。けれど私はあなたの関与を確信しました」

 

 今のやり取りで、と。伝えれば、思いもよらぬリアクションが返って来た。

 

「ああ、あなたも綾小路くんを好いている方の一人なんですね」

 

「え…………?」

 

 唐突な語句に、反応が遅れる。

 

 綾小路くんはただの読書友達で、と。しかしその言葉は喉にへばりついたかのように出てこなかった。

 

 流れる沈黙。有栖は不敵な笑みを浮かべたままだ。

 

 救いが現れたのはその時だった。

 

「あー、ひよりんいた〜! 私も図書室、行くよ!!」

 

 ククリの声に、ひよりはとてつもない安堵を覚える。

 

「って、キャロルも。珍しい組み合わせだね」

 

 そう話すククリの後ろからは神室も登場した。

 

「確かに。あんた達、何の話してたわけ?」

 

「ちょっとした恋バナ、といったところでしょうか。ところで真澄さんはどの男性がタイプですか? ゴリゴリ筋肉マッチョで男気ある宝泉くん? 童顔で頭脳明晰な八神くん? 細マッチョでクールな宇都宮くん?」

 

「どれもタイプじゃないけど……しいて言うなら宇都宮?」

 

「えー、宇都宮君のクールさは女子にモテたいゆえだと思うなあ」

 

 何故有栖はその3人の1年生の名を挙げたのか。ひよりが分析しようとする間にも会話は続けられる。

 

「ってかあんたの元カレ含まれてたけど、いいわけ?」

 

「八神君はモテるからね」

 

「答えになってない」

 

 神室が呆れとともにため息を吐く。そのコミカルなやり取りに安心して。ひよりは自身をじっと観察する視線に見て見ぬふりをした。






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