ようこそ享楽至上主義の教室へ   作:アネモネ

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Day1
Discussion1
13:00~14:00
Discussion2
20:00~21:00
.
Day2
Discussion3
13:00~14:00
Discussion4
20:00~21:00
.
Day3
Rest
13:00~14:00
Discussion2
20:00~21:00
.
Day4
Discussion5
13:00~14:00
Discussion6
20:00~21:00



あああああああああ
あああああああああ
ああああああああ
あああああああああ
ああああああああ
ああああああああ
ああああああああ
ああああああああ



天才は平均的な知性よりは、むしろ狂気に近い。

 まるまる一日のゆったりとしたお休みも終わり。試験最終日となった。

 

 残す話し合いの時間もあと2回。されどAクラスはやはり黙ったままである。

 

 Kちゃんと真鍋さんでの町田君の取り合いも起きるかと思いきや、今日はなかった。真鍋さんもこころなしか静かだし、平田君が上手くやったんだろう。「僕は……軽井沢さんのためだったらなんだってする!だから、どうか、彼女を傷つけないで欲しいんだ……!」とか言ったのかな。あの完璧イケメン、心までイケメンだもんな。あれ、そういえばこの2人カレカノなのに名字呼びだね。ま、カップルの形も色々あるか。

 

 また何か起これば今度は私が「もう……やめてよっ。そんなんじゃ平田君が……平田君が、あまりに可哀想だよっ」と平田君を慕うあまりにKちゃんの町田君への擦り寄りが許せない女生徒にでもなって参戦するつもりだったのだが、みんな落ち着いてしまったようでちょっと残念だ。

 

 今回の試験でも皆話し合いはできず、ただ遊ぶだけになってしまっている。

 

「キーパー、目星します」

 

「了解。他の人も振りたければ振っていいよー」

 

「私は60! 普通に成功!」g0

 

「俺も成功だ……」d3

 

「クリティカルでござる!」a1

 

「おっ、初期値で成功した」b5

 

「みんな、申し訳ない……100ファン……しましたっ!」a0

 

「あー、じゃあクリティカルとファンブルで打ち消しあったってことで処理しようか」

 

 クトゥルフ神話の世界観を体験するテーブルトークRPGの簡単なセッションでSAN値チェックをプレゼントしたりしてると、ちょうどいい感じに1時間が経過した。

 

 いつも通りAクラスはさっさと立ち去り、真鍋さんたちもパタパタと急ぎ足で続く。ダイスや小道具などを片付けている中、不意に幸村君が呟いた。

 

「このままでいいのか……?」

 

「どうかしたの?」

 

 暗い。そんなにセッションで失敗したことを悔やんでいるのだろうか。大丈夫だよ、7割が外れるのはみんな通る道だから。

 

「……このまま試験終了を迎えていいのか京楽さん、一之瀬さん。このグループの手綱を握れるのは悔しいが君たちだ。どちらかが、あるいは協力して町田たちとも対話にできる状況にすると思っていたが」

 

「ククリでいいよー。そうだな、私は正直みんなで参加できる雰囲気作りは頑張ったから、これ以上はちょっと無理だったかな!」

 

「うん、本気で勝ちを望むなら誰かに託すんじゃなくて幸村くん自身の力でやるべきだった。そう感じちゃうなぁ」

 

「……その通りだ。君たちが正しい。そう、分かってはいるんだ……」

 

 暗い。 (ほぞ)を噛むという感じだ。SAN値がピンチ? 幸村君のどんよりオーラにつられて部屋の雰囲気もどんどん暗くなっていく。 

 

「ま、流石に次は最後だからこう遊ぶってわけにもいかないし、Aクラスも多少は話し合いに参加してくれそうだもん。試験はまだ終わってはないんだしさ、精一杯頑張ろうピョン☆」

 

 次回の話の流れはどうなるのか。一之瀬さんとカピバラ麻呂はどうするのか。きちんと見ておこう。私はにっこりと笑顔を振りまいた。

 

 

 

 

 最終回だし、早めに行こう。ククリちゃんは偉いので30分くらい前に部屋に到着していた。澪はぎりぎりに来るらしい。また何かたっつーに言われてるのだろうか。お疲れ様です。

 

 まだ人はいないだろうしノックはなしでいいね。そっとドアを開ける。

 

「Oh……」

 

 まるで眠り姫のようにスヤスヤとコーナーソファの上でお休み中の一之瀬さん。そこへジリジリと近づこうとするカピバラ麻呂。よし、現行犯ですな。

 

 支給された携帯端末には、最初から学校の先生のアドレスが入っている。私は迷いなく坂上先生に通報することにした。えっと、Dクラスの綾小路清隆君がBクラスの一之瀬帆波(ほなみ)さんに襲いかかろうと────

 

「違う。誤解だ。だから止めてくれ」

 

 静かに素早くこちらへと近づいたカピバラ麻呂は小声で弁明した。

 

「スカートの中見ようとかしてなかった?」

 

「目を奪われたのは認める。正直男心(おとこごころ)をくすぐられた……だけど指一本触れてない」

 

 うむ、(いさぎよ)し。許そう。

 

 とりあえず2人で椅子に座って無言で端末をいじる。起こすのも可哀想だからね。次に人が来るまでは寝かしてやろう。

 

 10分ほど経ったところでポップな音楽が鳴り響いた。自分かカピバラ麻呂かと不思議に思ったが、違う。一之瀬さんのほうからだ。彼女は後頭部に手を伸ばし端末を掴むと画面を操作して音楽を止めた。目覚ましをかけてたんですな。偉い。

 

 一之瀬さんは眠たそうに上半身を起こし、(まばた)きしつつちょっと首を振ってからこちらを向いた。

 

「おーはよーククリちゃん、綾小路くん。ごめんね、アラームうるさかったよね」

 

「ボンソワール、一之瀬さん」

「そうでもなかったぞ。気にしないでくれ」 

 

「あははは、ソファを占領しちゃってて申し訳ないな。にしても2人とも随分早いね」

 

「ククリちゃんは偉い子だから!」

 

 えっへんと胸を張ったら、あははと苦笑される。一之瀬さんはそのまま立ち上がり軽く手ぐしで髪を整えると、私の隣に腰を下ろした。

 

「そういう一之瀬はいつ来たんだ?」

 

「1時間前くらいだよ。自室だと友達が出入りして騒がしいし、ちょっと静かに過ごしたいなって」

 

 確かに一之瀬さんの部屋にはよく人が訪れるらしい。流石にBクラス生徒だけだったそうだけど。他クラスと接触してたら大変たいへん☆ ただ、まあこれが嘘で普通にこの部屋に来てぼんやりしてたら寝ちゃっただけの可能性もあるな。一之瀬さんは意外と抜けてるところもあるから。そこがまた可愛らしいところだと思う。

 

「1人だと頭の整理なんかもしやすいしね。戦い方だったり、最後の詰めのことだとか」

 

「その成果はどうだ?」

 

「二兎を追う者は一兎をも得ず、かな」

 

 にこにこと笑う一之瀬さん。Bクラスにはまだ策があるのだろうか。楽しみだ。

 

「ところで、2人に聞いてみたかったことがあるの。ディスカッションまでまだ20分くらいあるし、少し話でもしない?」

 

 コクリと頷く。

 

「ありがと。実は、神崎くんとか男子も含めたクラスメイト全員にはもう質問したことなんだけど、他クラスの子に聞いたことはないからちょっと気になっててね。ククリちゃんと綾小路くんも、やっぱりAクラスに上がりたいって気持ちはあるよね?」

 

「うむ、そりゃあ上がれるならそれに越したことはないかな」

 

 A(エー)クラスってクラス名の響きは、C(シー)クラスより好きだ。

 

「そっかそっか。綾小路くんは?」

 

「オレも同じだ、Aクラスに上がりたいと思ってる。いや……Aクラスを目指したいというより、Aクラスを目指さざるを得ない、が正しいかも知れないが」

 

 おお、意外に堅実というか何というか。

 

「うんうん、Aクラスの特権として進学や就職先の保証があるから、だよね」

 

 Aクラスへのみの保証制度となると進学・就職率99.9%の看板に偽りありというか、詐欺っぽさがあるのだが、パンフレットをもう一度よく見てみるとそこらへんは濁されてたんだよね。日本語の曖昧な表現って美しくもあるけど、こういう時は面倒だとつくづく実感したものだ。

 

「一之瀬さんはAクラスに上がりたいって思いは強いの?」

 

「もちろん! 私もAクラスで卒業して、叶えたい夢があるからね」

 

「おおー、すごい。私なんかと違ってちゃんと考えてる……!」

 

 すごいなあ、一之瀬さんは。

 

「にゃはは、何だか照れるな……でも学校の制度は嬉しいものな反面、Aクラスで卒業できなかった場合を考えると怖いよね。勝ち上がる実力がなかった生徒としてマイナスに影響しちゃうこともありそうで」

 

「BCDクラスは劣等生、か。でもAクラスに個人で上がる方法もあるよね」

 

「個人で2000万ポイントを貯めることかな?」

 

 私はコクコク頷いた。

 

「前例はないらしいが、そういうウルトラCもあるよな」

 

「え、できた人いないの?」

 

 なんかたっつーが2000万ずつ合計8億ポイントでAクラスに行けるとか考えてたし、卒業前にBCDクラスで合算すれば出来そうだしでてっきり1人くらいは達成したことあると思ってたのに。ほへ〜となってる私をよそに、カピバラ麻呂は意味ありげに一之瀬さんのほうを見て、一之瀬さんも意味ありげに微笑んでわかりあってる感じになっていた。仲間外れにしないで欲しい。悲しくなっちゃうのじゃ。

 

「茶柱先生曰く3年ほど前に1200万ポイントを稼いだ生徒がいたそうだが、詐欺行為によって得たポイントだったから結局退学処分を受けただとか」

 

「およ、詐欺かあ……それでも2000万には届かなかったとは。難しいねえ」

 

「ああ。試験で上手くポイントを貯めたところで、届くかは怪しいな」

 

「そうなっちゃうよね。すごく節約しても、その半分だって貯められるかどうか……だからこその価格設定なんだろうけどね」

 

 一之瀬さんの言葉に私もカピバラ麻呂も深い賛同を示した。個人が2000万ポイントを貯めるというのは、他者からどうにか搾取しない限り不可能だろう。

 

「だな。特にDクラスにいると余計にそう思う。堀北が頑張ってくれた成果である無人島試験のポイントも、振り込みは9月だ。嫌な想像になるが、この試験でそれすら失う可能性だってあるしな」

 

 ふむふむ。クラスポイントは毎月推移するのが厄介よね。

 

「今の各クラスのポイント状況ってどんな感じだっけ? 中間や期末、あと生活態度とかも色々と増減があってよくわかんない感じになってた気がする」

 

 夏休み中もきちんとお振込みはあったけど、あんまり詳しく覚えてないや。

 

「8月のクラスポイントは……Aクラスが1004、Bクラスが663、Cクラスが492、Dクラスが87、だったな」

 

「そうだね。それで無人島の試験での結果を足すと、Aクラスが1124、Bクラスが803、Cクラスが542、Dクラスが312になるのかな」

 

「ありがとう! うーん、未だにやっぱAクラスは強いのう……」

 

 Bクラスと約300クラスポイントも差がある。つまり月3万円だ3万円。うう、3万円あればいっぱい色々できる……いいなあ、お金持ち。むむ、やっぱりキャロルについたほうがお金もらえたかなあ。でも要らなくなったらはいポイーってされちゃいそうだしな。ククリちゃんはそこまで自分の能力を過信できない。

 

「だからこそ、こんな作戦に出ているんだろう」

 

「ですな。でもやっぱりね、お金を節約するには食費からだと思うの。山菜定食山菜抜きは強いんだよ!」

 

 パタパタと興奮してその魅力を話すと、一之瀬さんに頭を撫でられた。えへへ……じゃない、立派なレディーなのに! 失礼しちゃうわ。プンプン。ウサ耳つけちゃうぞー。

 

「……興味本位で聞きたいんだが、ククリは龍園に対してどう思っているんだ?」

 

「友達。あれでいいところもあるんだよ、旅の思い出にアルバムを作ってくれてたりとか」

 

「本当? それ、想像つかないな」

 

 そういえばあんまり船内では写真を撮っていなかったな。うむむ、あと少しだけど頑張って撮ろーっと。

 

「だったら龍園と遊びに行ったりもしてるのか?」

 

「んー、クラスみんなでカラオケ、とかであればこの船上でもやったけど……」

 

「いいね、そういうの。綾小路くんたちDクラスはどう? 全員で一緒に遊んだりした?」

 

「いや、おそらく今までもクラス全体で、というのは無かったな。Bクラスはそういった経験も豊富そうだが」

 

「うん、皆で週に1回くらい集まったりね。こないだはケヤキモールで焼肉パーティーしたな。広々してて設備も豪華で、すごく楽しかったよ」

 

 おー、いいな、焼肉。うちのクラスでやったらどうなるだろう……たっつーに肉が献上されそうだな。というか無人島でのバーベキューもわりとそんな感じだったしね。

 

「それで、ククリたちはこれからの話し合いで何かやる予定はあるのか?」

 

「特にないや。みんなにお任せだよ」

 

 ただだら~んと聞いてるだけのつもりでせう。2人とも頑張れ〜。

 

「じゃあ一之瀬はどうだ? 勝利への方程式、みたいなものは見つけられたか」

 

「ヒントくらいは、ね」

 

「とすると……AとB、どちらに勝利の女神が微笑むかということになりそうだな」

 

 ふむ。古代ローマの詩人ウェルギリウスは “Aspirat primo Fortuna labori(運命の女神は我々の最初の努力に微笑む).” と記した。さあて、誰がどう仕掛けるのかな。

 

 カチャリ、とドアが開く。Aクラスの面々はいつも通りコーナーソファに直行。その次に来たのは村村コンビだった。

 

「来ていたのか綾小路。道理で姿が見えなかったわけだ」

 

「一之瀬殿と京楽殿と座るとは。両手に花でござるな」

 

 えへへーと笑いつつ、それぞれクラスメイトと隣合うために一之瀬さんとカピバラ麻呂との仲良し3人組は解散する。ちょっとさみしい。

 

 開始の時間も近づき、続々と椅子が埋まっていった。Aクラスはいつも通り黙秘。Bクラスはどこかのんびりした感じ。私たちCクラスも試験なぞもう関係ないわーという余裕がある。Dクラスは幸村君を筆頭に諦めてしょんぼりという様子。ただカピバラ麻呂の表情は読めない。省エネ系男子だからなあ。

 

『ではこれより6回目のグループディスカッションを開始します』

 

 放送が鳴る。6回目。最終回、泣いても笑ってもこれでエンディングだ。

 

今晩(こんばん)は、それじゃ始めようか」

 

 一之瀬さんの挨拶の後に、慌てて口を開いた男どもがいた。Bクラスの浜口君と、毎度おなじみカピバラ麻呂だ。

 

「皆さん少しよろしいでしょうか───」

「オレから話したいことがあるんだが───」

 

「これは失礼。綾小路くん、どうぞお先に」

 

「いや、浜口が先に言ってくれ。オレは後で大丈夫だ」

 

 譲り合いの精神。うむうむ、日本人チックですな。

 

「ではお言葉に甘えさせていただきます。さて、僕はこの3日間。いえ、昨日の休日を含めれば4日間でしょうか。ともかく、結果1にする(すべ)をずっと思案していました」

 

 誇張表現だろうけど、何かちょっと申し訳なくなってしまった。ごめん、私は試験なんてほぼ忘れて遊び呆けてたよ。

 

「おかげである結論にたどり着きました。そう、メンバー全員で結果1を勝ち取れる手段があったんです」

 

 えっ? 今からでも入れる保険があるんですか!

 

「本当か、浜口」

 

「勿論です幸村くん。この案で優待者を(しぼ)り込むことができると、僕は確信しています」

 

 そこに口を挟むのはもちろん町田君。

 

「絞り込み? 今更、どうやって? 不可能だ」

 

「……Aクラスは話し合いに参加しないんでしょ? とりあえず浜口君の話をちゃんと聞こうよ」

 

 都合のいい時だけ参加する、よくない。私は君たちが謎解きに参加してくれなかったことをちょっぴり根に持っているのだ。

 

「ありがとうございます、京楽さん。さて、僕は自分の端末に届いた学校からのメールを皆さんにお見せします。このメールを不正に改ざんする等の行為は禁止されていますから、これさえ(さら)してしまえば優待者かどうかは一目瞭然でしょう。全員が参加してくれれば直ぐに済む話ですし、優待者サイド以外にとって試験終了が近い今はリスキーにもならないはずのこの行為に参加しない人物がいれば、そこから絞り込みが可能です」

 

 ダウト。なるほど、Bクラスの作戦はこれか。よしよし、乗ってやろうじゃあないか。

 

「いいね! じゃあ私は見せるよ」

 

「え? そ、その、りゅう、じゃない、私たちには何のメリットもないと思うんだけど……」

 

 恐る恐るという感じで告げる真鍋さん。『自分は優待者でない』という情報を出すのもダメ、とたっつーから言われてたのが気になっているんだろう。だが端末の入れ替え作戦が実行可能となった以上は真実の証明たり得ないこのメールの見せ合いっこはただの騙し合いであり、参加しても問題ない。個々の裁量に委ねられている。

 

 メリットはあるのだ。結果1となり一人50万手に入る可能性。誰かが裏切って間違えて結果4となり他クラスが50クラスポイント減らしてくれる可能性。そして何より一之瀬さんとカピバラ麻呂がどう動くかを楽しめる。うん、お得お得。

 

 ヘルプを求めて澪のほうを見ると、無事に伝わったようで応じてくれた。

 

「私もククリに賛成。優待者のいないクラスは、ここで優待者を暴いとかないと何も得られないし」

 

「でも───」

 

「そんな食い下がるって、あんたが優待者なわけ?」

 

 澪の言葉に真鍋さんは勢いよく首を左右に振った。そうだね、優待者はKちゃんだもんね。

 

 大丈夫だからと促せばわかってもらえたらしく、Cクラス全員がメールを見せる。もちろんみんな優待者ではない。何の小細工もない。さて、ABDクラスはどうする? 

 

「ありがとうございます、Cクラスの皆さん。ではもちろん僕も」

 

 言い出しっぺの浜口君が端末を開く。彼も白。優待者ではない。

 

「ああ、浜口くんたちに賛同する。俺も見せるよ」

 

 続くはBクラスの別府君。彼もメール文を公開した。優待者ではないと示すそれを。となると──

 

「うんうん、じゃあ、私も」

 

 明るい笑顔を見せる一之瀬さんはそのままスカートの右ポケットに手を入れ、携帯端末を取り出そうとしている。

 

「ただ、あのね、迷ってはいたんだけど……皆の話を聞いて決めてたの。実は、ずっと言い出せなかったんだけどね──」

 

 口ぶりからしてBクラス内の優待者、もう試験の終わったお猿さんグループか牛さんグループの人から端末を借りていて、それを披露することで優待者だと名乗り出ようとしているのだろう。これで本当の優待者が慌てたり嘘を指摘してくれば炙り出し成功。単純に一之瀬さんを他クラスの誰かが優待者だと信じ込めば裏切り者のミス、結果4で試験が終わるもんね。

 

 彼女が端末を手にしてメールを開示する前に。その言葉を遮って、カピバラ麻呂が携帯端末を差し出して語りだした。およよ? 

 

「一之瀬も、か。オレも決めたよ。おまえたちの作戦に乗らせてもらう」

 

「勝手なことをするな綾小路、俺は反対だぞ! おまえは口車に乗せられているだけだっ」

 

 止めようとする幸村君。しかしカピバラ麻呂はあっさりとメール文を見せた。ああ(もろ)くも崩れ去る友情よ。

 

「うん、確認したよ。綾小路くんも優待者じゃない、か」

 

 流れに乗ってKちゃんもストラップの付いた携帯端末を取り出し、全員の前に差し出した。おお、勝負に出ましたね。

 

「綾小路のみならず……軽井沢、おまえはその行動の意味を理解しているのか?」

 

「そんなの知らない。あたしだってプライベートポイントが欲しいってだけ」

 

 端末には優待者ではないと書かれたメール。なるほど、DクラスもBクラスと似た作戦に出ているのか。さてさて本当は優待者である彼女の本来の端末は誰が持っているのだろう。

 

「うう……ここは拙者も、でござるな」

 

 端末を取り出そうとする外村君の腕がピタリと止まる。幸村君だ。彼が腕を掴んで、必死になって止めているのだ。

 

「いいのか? メールを見せれば万事(ばんじ)上手くいくと、本気で思っているのか?」

 

「さっきからあんた、クラスメイトを止めてばっかだけど。なに、もしかして優待者だからびくついてるの?」

 

 澪の言葉に明らかに動揺する幸村君。おうおう、演技頑張ってるねえ。

 

 こうなると真鍋さんたちも懐疑的な視線をビシバシと突き刺す。それが幸村君たちの狙いなんだから当然といえば当然か。

 

「うわ、反応が露骨〜」

 

「待ってくれ、幸村は違う。前のことにはなるが、優待者ではないとオレに告げたんだ」

 

「そんなの嘘つかれたってだけじゃないの?」

 

 我らCクラスの名アシストにより茶番劇が繰り広げられている。どうしよう、私も入るべきかな。

 

「決めつけるのは良くないよ。幸村くんの話をちゃんと聞いてからでないと、性急かな」

 

 そう言って一之瀬さんは改めて右──ではなく左ポケットから端末を取り出した。

 

「さて、遅くなっちゃったけど。私も違うよ」

 

 見せられたメールには、優待者ではないとある。なるほど、左ポケットには優待者ではない自分自身の端末を。右ポケットには自身が優待者と偽るための端末を。それぞれ用意してきていたらしい。あったまいいー!

 

 先ほど言いかけたことは何かと町田くんから突っ込まれるも、一之瀬さんは適当に誤魔化していた。

 

 さて、残るは幸村君とAクラス3人だけ。彼は難しい顔で黙り込んでいる。

 

「幸村君?」

 

「………………」

 

 皆の注目を一身に浴びながら、彼は携帯端末を手に取った。

 

「分かった、だが約束してくれ。告発することはないと」

 

 それは自白も同然の台詞。部屋の空気が明らかに変わった。

 

「特にAクラスは……いや、全員だ。全員が端末を出して目の前に置いてほしい」

 

 んー、あんま意味ないと思うんだけどなあ、これ。まあいいか、と端末をテーブルに乗せる。Aクラスは文句をつけたが、やがてみんなきっちり端末から手を離した。

 

 幸村君は悲痛な顔で端末に6桁のパスワードを入力。ロックを解除する。

 

「……嘘を()いていてすまなかった綾小路。俺が……俺は、優待者だ……!」

 

【厳正なる調整の結果、あなたは優待者として選出されました。以降、本情報の取り扱いはあなたの意志に一任されます。試験開始は本日午後1時より、また、本試験は本日より3日間行われます。2階の部屋の扉にあるプレートの中から自分のグループの名前が書かれたものを見つけ、その部屋に集まってください。】

 

 見覚えのある文面。しかし違うところがある。優待者に選ばれました、か。わかりやすい一文、決定的な証拠だ。本来ならば。

 

「メールは本物、他の個人メールも全て幸村のものっぽいな」

 

 町田君は移動して無断で幸村君の端末を色々と見ていた。そういうとこ人間性が出るぞ。

 

 そして。幸村君の名前を試験後に送信して、誰も裏切らずみんなで結果1にしようと部屋の雰囲気がまとまりつつある中。

 

 幸村君の端末に。着信が、来た。慌てた彼は端末を拾い上げようとするも落としてしまう。それはまるでバーのカウンターでツーっとワイングラスを滑らせるが如く、私たちのほうへと転がってきた。

 

「? どうした、一之瀬。幸村に電話なんてかけて」

 

 一之瀬さんは耳に当てた端末を下ろし、通話を切る。

 

「試験内容についてのメールは、コピーや転送、改変も禁止。だから学校のアドレスから送信されてる以上、そこに偽りはない。でも、携帯端末自体に細工をすることへの言及は無かった。つまり禁止事項に含まれてないんだね。ここまで話せば分かるかな?」

 

 端末を拾い上げた一之瀬さんはカピバラ麻呂へと差し出してきた。

 

「この端末の持ち主、本当の優待者は綾小路くんだよね? 今、私が電話をかけた相手は綾小路くんだし、そもそも幸村くんの番号はまだ知らないし」

 

 それからの一之瀬さんの話はほぼほぼ一昨日のたっつーの話と同じだった。ただ1つ、『SIMロックの解除をポイントで行える』ため、携帯番号の入れ替えも可能だということは伏せてるけど。なるほど、どうやら彼女はAクラスか我らCクラスに裏切らせて優待者の名前を『綾小路清隆』と間違えさせ、結果4にしたいらしい。それができず結果2になるのが次善策、といったところか。

 

『ディスカッション終了5分前です。あと5分以内にグループを解散し、自室へ戻るようにしてください』

 

 淡々としたアナウンスが響いた。

 

「くそっ! 最悪だ……」

 

 悔しそうに幸村君が吐き捨てる。演技ならばすごい。でもたぶんカピバラ麻呂に騙されてるんでしょうな。人が悪いねえ、君も。

 

 カピバラ麻呂が行ったことは単純。まず優待者であるKちゃんと自分の端末を入れ替える。ストラップやらの外見からアプリとか履歴はもちろんSIMカード、つまり電話番号も。そんでそのあと幸村君に自分が優待者と偽って、端末を入れ替えてもらう。こちらはSIMカード入れ替えはなしの不完全な入れ替え。だからさっき一之瀬さんがカピバラ麻呂の番号へ電話したのに、幸村君の持つ端末にかかった。二段構えの作戦というわけだ。うんうん、面白いですな。

 

「ま、おまえらにしちゃ頑張ってたよ」

 

 Aクラス3人は幸村君たちDクラスをバカにする感じでニヤニヤと笑っている。性格わるーい。頭わるーい。私もたっつーに聞いてなけりゃ騙されてただろうから人のことは言えんけども。

 

「ともかく、優待者は綾小路くんって判明したわけだ。町田くん、これは結果1を勝ち取るためにやったんだってこと、ちゃんと覚えてるよね?」

 

 カピバラ麻呂の名前を送信しても不正解だから結果1にも3にもならない。結果2か4になるだろうに、それをわかっていてこう話す一之瀬さんはなかなかの食わせ者だ。やっぱりクラスを率いるリーダー、ということなのだろう。いいですな、姫騎士という感じですな。でもこの後のBクラスの結果もわりと悲惨なんだよね。恨むならロックを恨んでおくんなまし。Bクラスはあいつのとばっちりを受けてるんすよー。

 

「そっちこそ忘れたのか? 俺たちは葛城さんからの指令に無いことはしないさ。葛城さんの性格は知ってるだろ? じゃあな」

 

 サクッと部屋を出るAクラスの3人。ふむ、慎重な葛城君のことだ、万が一外したらと考えて結果1を選ぶだろう。よっぽど判断力が鈍ってなければ。そして葛城派()、それに従うだろう。

 

「信じる者は救われる。私たちは絶対に裏切らない。だから、ククリちゃんたちも約束してほしいの」

 

「うん、合点承知之助! ()()()()メールを送ることはないから。それじゃ、楽しかったよ。ありがとうね。お疲れ様ー!」

 

 真鍋さんに藪さんと山下さん、澪も軽く頷く。そして私たちは退室した。少し歩いた後、小声で話しかけられる。

 

「あの、いいの? 本当に裏切りメールを送らなくて」

 

「うん、むしろ送っちゃダメ。指示がなければ何もしないで」

 

 真鍋さんたちに何かされるとむしろ困る。一之瀬さんが結果1にする気がない以上、私たちにできることはない。後は自室でのんびりだ。くれぐれもメールするなと念押しして別れる。

 

 エレベーターが混んでいるので非常階段で上がっていく。そういえば真鍋さんたちにKちゃんのこと聞きそびれたな。まあいいや。

 

 そして。唐突に、4回。端末から連続した着信音が鳴り響いた。

 

「何!?」

 

「大丈夫大丈夫。部屋帰ってから見よ、澪」

 

 自室に入り。備え付けの冷蔵庫からミルクティーを取り出す。

 

 ちびちび飲みつつソファに腰掛け端末を操作した。

 

【鼠グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ちください。】

【馬グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ちください。】

【鳥グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ちください。】

【猪グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ちください。】

 

 うむ。どうやら無事に終わったらしい。と、思ったらもう一つ来た。

 

【兎グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ちください。】

 

 マジか。裏切ったのか、Aクラスの人。手のひらの上でコロコロ転がされて可哀想に。

 

 

 

 

 

 

 

 午後11時になると一斉に着信音が鳴る。メールが一通、部屋の皆のところへ届いたのだ。

 

 

 子(鼠) ───裏切り者の正解により結果3とする

 丑(牛) ───裏切り者の正解により結果3とする

 寅(虎) ───優待者の存在が守り通されたため結果2とする

 卯(兎) ───裏切り者の回答ミスにより結果4とする

 辰(竜) ───試験終了後グループ全員の正解により結果1とする

 巳(蛇) ───優待者の存在が守り通されたため結果2とする

 午(馬) ───裏切り者の正解により結果3とする

 未(羊) ───優待者の存在が守り通されたため結果2とする

 申(猿) ───裏切り者の正解により結果3とする

 酉(鳥) ───裏切り者の正解により結果3とする

 戌(犬) ───優待者の存在が守り通されたため結果2とする

 亥(猪) ───裏切り者の正解により結果3とする

 

 上記の結果から、本試験におけるクラス及びプライベートポイントの増減は以下の通りとする。

 

 Aクラス……マイナス200クラスポイント

      プラス200万プライベートポイント

 Bクラス……マイナス100クラスポイント

      プラス200万プライベートポイント

 Cクラス……プラス250クラスポイント

      プラス600万プライベートポイント  

 Dクラス……プラス50クラスポイント

      プラス300万プライベートポイント  

 

 

 ふむふむ。結局、うちの兎さんグループ以外は最後の30分で騙されて不正解の裏切りメールとか出してくれなかったんだあ。うーん、騙されたうちのグループのAクラスの人がバカなのか、それ以外の人が慎重だったのか。

 

 ともかく無人島と合わせてAクラスが924、Bクラスが703、Cクラスが792、Dクラスが362。うん? 

 

 およ、Bクラスに勝っちゃった。ってことはあれか、夏休み明けから私たちがBクラスになるのか。なんか変な気分。というかあれね、Cって響きに結構慣れてきてしまった。

 

 んん、クラスねえ。担任の先生の名前とか。うちだったら坂上先生のクラス。うんうん、先生は変わらないわけだしそれでいいんじゃあないだろうか。あとは……あだ名とか? 

 

 Aクラスはキャロルクラス。

 

 Bクラスは……えーっと、一之瀬さん、一之瀬さんだから、よし、イッチークラス。

 

 Cクラスはたっつークラス。

 

 Dクラスは……平田君と桔梗ちゃんがまとめてるから田田(でんでん)クラスなんてどうだろう。まあ櫛田桔梗さんはうちのクラスのスパイに就任されたわけだけど。そうなるとリンリンクラスのほうがいいのかな? うーん、でもなあ。どう考えても平田君がDクラスの顔役だよね。じゃあやっぱ田田クラスか。

 

 クラスのグルチャが歓喜の声で溢れる中、私はのんびりとこのあと残りの夏休みはどう楽しもうかなあ、と考えていた。この部屋の他の3人もあまりこういうのには興味なく、メールを見ても反応が薄い。夜だし眠いのもあるのかもしれないけど。

 

「やったねー」

 

「はい、よかったです」

 

「龍園くん、さまさまね……」

 

「じゃ、電気消すよ」

 

「うん、おやすみ」

 

 澪が電気を消してくれて。暗闇の中、ゆったりと眠りの世界に誘われる。あー、この豪華客船から降りたくないなあ。明日の朝ごはんは……やっぱビュッフェを堪能して……でもマスターにもお別れを言わないと……むにゃむにゃ──────

 







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