ようこそ享楽至上主義の教室へ 作:アネモネ
▧▨(SS:とある組織のとある暗躍)▧▨
「突然だが、諸君に問おう」
薄暗い部屋の中。怪しい頭巾を被った男たちが集結していた。その様子はどこぞの秘密結社のようですらある。
いや、実際に彼らの存在は隠されており、メンバーである彼ら自身と坂柳理事長しか知らないことを考えると、秘密結社と名乗っても過言ではないだろう。
「人は平等であるか」
ゆっくりと投げかけられた言葉に、一度場が静まり返る。そして。
「「「「「否! 否! 否!」」」」」
彼らの心の奥底に溜まった不満を爆発させるかの如く、全員が一斉に叫んだ。
ここ、高度育成高等学校にはAからDの4つのクラスが存在し、入学時の振り分けも実力順であれば卒業時も実力が問われる。Aクラスに在籍した状態で卒業を迎えた生徒は望みのままに進学や就職を叶えることができるのだ。
まさに実力至上主義。
だが、彼らはクラスも学年も関係なく、ある
「そうだ。人は生まれながらにして平等ではない。平等という言葉は嘘偽りだらけだ」
この集団の長らしき男はリオデジャネイロのキリスト像のようなポーズを保ったまま演説を続ける。その野太い声に皆は力強く頷いた。
「福沢諭吉は著書の中でこう述べている」
──天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず──
有名な一節だ。しかし彼は平等を説いたわけではない。この一節には続きがある、というよりむしろそちらがメインの主張だ。
「しかし生じてしまう差を埋めるには、学問に励むべきである。つまり勉強しろ、というわけだ。『学問のすゝめ』だもんな」
学生の本分は勉強。そこに関しては彼らも異議を唱えるつもりはない。
だが────
「言わせてもらおう。確かに人は平等になれる。『※ただしイケメンに限る』がなあっ!!!!!」
魂からの叫びに呼応するように、男たちはコールを始めた。
「イケメンは!」
「「「「「滅べ!」」」」」
「カップルは!」
「「「「「爆発しろ!」」」」」
「とりあえずモテる奴は!」
「「「「「全員敵だ!」」」」」
無駄に揃った唱和から、彼らが幾度となくこの集会を繰り返してきたことがわかる。
そう、彼らはある志──すなわち、リア充撲滅のために集まっていた。
他人の幸福は自分の不幸、他人の不幸は自分の幸福。そんな感じに性根が腐っている連中である。
幸せそうなカップルが憎い。イチャイチャしてるカップルが憎い。モテモテのハーレム男が憎い。チャラいイケメンとか大嫌いだ。
当然、南雲雅とかいう男は敵も敵、不倶戴天の敵である。文武両道の金髪イケメン、生徒会長な上に元サッカー部とかいうモテ要素満載の奴が彼らと相容れるはずもない。生徒会メンバーに関しても南雲のハーレムメンバーなのではと疑っているのだ。
堀北元生徒会長が男女両方から慕われる指導者だとしたら、南雲は男子からかなり嫌われるタイプの人間である。
「知ってるか? 南雲の奴、生徒会女子全員に香水なんて洒落たもん贈りやがったんだぜ」
「生徒会メンバーはみんな俺の女とでも主張してるつもりかよ」
「憎しみで人を殺せたら……!」
「くそっ、俺達の力が足りないばかりに!」
「どうしてこう無力なんだっ」
「皆、皆、気持ちは同じですよ……」
いい感じに言っているが単にみんなバレンタインデーやホワイトデーに贈り物なんてこともできなければ南雲に逆らうこともできないヘタレなだけであった。彼らは集まって互いの不満を吐き出すだけのわりと無害かつまとまりのない男たちなのだ。
一番彼らがその攻撃性を発揮するのは裏切り者の処刑の時、すなわち内ゲバの時であることからもそれはわかるだろう。どっからどう考えても完全に非生産的な集団だ。たぶん解散したほうが彼女ができる確率は高くなると思われるのだが、何だかんだで結構前から細々と引き継がれてる無駄に歴史のある団体であり、メンバーも未だに増え続けている。
「諸君、落ち着くんだ。俺に良い案がある」
集団の長らしき男は語りだした。
「香水をつける人が少ないから彼女たちのことがどうしても目立ってしまうんだ。だったら俺らも香水をつければいい」
「なるほど! そしたら南雲の香水の匂いのこともあんま気にしなくなるし、丁度いいな」
「しかもいい香りがすれば俺たちもひょっとするとモテるかもしれねえ!」
「さっすがリーダー。天才の発想だぜ」
「よせやい。照れるじゃないか」
ガバガバの理論だが、ノリとか勢いとか諸々でみんな盛り上がっていた。
「みな! 俺達は、南雲に一矢報いるため──香水を、つけよう!!」
「「「「「おー!」」」」」
別にそれ、南雲には何のダメージも入らないのでは? そう突っ込む人は、残念ながらこの場には存在しなかった。
この案に全員が賛成。無事、可決された。されてしまったのである。みんな頭巾を被っているという怪しさ満点の見た目の割にはノリがよく適当に流される男どもの集まりであった。
なお、彼らが香水を買ったことによって学校にブームが到来。そのおかげで香水を贈りあうラブラブカップルが増えたりと、完全に裏目に出るのだが──それはまた、別の話である。
▤▥(SS:真冬の夜の……)▤▥
茹だるような熱気が籠もるそこは、男だけの世界だった。
『固い、な』
遠慮なく撫でてくる手の感触に綾小路はその能面のような無表情を少しばかり崩す。
『そっちこそ』
綾小路の言葉に、男は──堀北元生徒会長は眼鏡の位置を整えてからフッと笑った。
2人とも、いわゆる脱ぐとすごいタイプ。見事な筋肉である。
ケヤキモールの、銭湯のサウナ。そこに2人は座っていた。
『いい筋密度だ』
大胸筋。僧帽筋。三角筋。広背筋。上腕二頭筋……。
互いの筋肉を見つめ合うそこには、確かな称賛の色が含まれていた。
筋肉に貴賤はない。下級生だろうが、Dクラスだろうが関係はない。人間の本質を見て、優秀ならば評価する。堀北
『妹のことはいいのか?』
『ああ。おまえなら鈴音を安心して任せられる』
そう言って堀北元生徒会長は綾小路の前腕筋群に目をやる。おまえの腕を頼りにすると、そういうことなのだろうか。
『昔、鈴音は体脂肪率まで俺に合わせようとしてきた。だが……今のあいつならば。おまえとともに成長していけるだろう』
そこには、筋肉への厚い信頼があった。
『握手してもらえるか』
『ああ』
力強く握られた手。サウナの熱さだけではない。熱い思いが伝わってくる。
そして、2人は──────
「いや、暑苦しっ。色々と暑苦しいわっ!」
ガバっと目覚めたククリがさっそくツッコミを入れる。これが自室でなければかなり怪訝な目で見られていたことだろう。
「何でこんな奇っ怪な夢を……」
そう、呟いてから彼女は気づいた。テーブルの上に置いてある存在に。
「これ読んだせいか、うん」
その視線の先にあるものはコピー本。林間学校で同じグループになったAクラスの女子からもらった品である。
描かれているのはクール眼鏡な生徒会長と、地味系イケメンというどこかで見覚えのある組み合わせのお話。流石に名前などの細部は変えてあるが、モデルが誰であるかは明らかだった。
ではなぜ筋肉が出てきたか、という疑問の答えは単純だ。某究極のサバイバルアタック番組を見たせいだろう。睡眠中の脳は記憶の整理などを行っており、夢の内容はその記憶がランダムに再生されたものと言われている。よってコピー本と番組の2つが脳内で混ざり合って謎の展開を生み出したのだろう。
──片しとくかあ。
部屋をよく出入りする伊吹や椎名が見てはいけないと、机の上からコピー本を移動させようとする。
こういうののお約束はベッドの下とか……と少し考えて、首を振る。ベッドの近くだとまた夢に出てきそうだった。
結局、教科書の間に挟んで本棚に突っ込むという何とも雑な隠し方に落ち着いた。これ以上こういった薄い本が増えるのならまた違ったやり方を考える必要があるのだろうが、とりあえず一冊しか所蔵してないしいいやと思ったのである。
────これでよし、と!
満足げにククリは頷いた。
この時の彼女は知る由もなかった。隠し場所をすっかり忘れて教科書ごと学校に持っていってしまうというハプニングから、ひと騒動が起きてしまうことを。
クラスメイトの女子の1人に腐っていると認識され、石崎×アルベルトの可能性についてそれはそれは力説されたりすることを────知る由もなかったのである。
ククリのアイコン出すとしたらどんな感じかと色々考えてみました……。