ようこそ享楽至上主義の教室へ 作:アネモネ
余談と2年生編序盤にあげていたバンドのお話です。
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3月23日。全学年の特別試験が終わり、卒業式まであと一日といういわば最後の休日。3年生の多くはケヤキモール内のとある場所に集まっていた。
「どういう意図があるんだろうな、南雲の野郎」
「騙し討ちってのも警戒はしてるけどよ。どうだかなぁ」
「すげー今更って感じだしな。まったく何考えてんだか」
現生徒会長、南雲雅。彼が卒業生のための出し物をやるなんて殊勝なことを言っても信じる者などほぼほぼいなかった。日頃の行いのせいである。まごうことなき自業自得であった。
無視しても構わなかったが、気になるのは確かであるし、そもそもケヤキモールに休日向かうのは高育生にとっては当たり前のこと。結果、かなりの賑わいを見せていた。
「マイクテスマイクテス」
どこまでが南雲の狙い通りなのか。どんな嫌がらせが飛び出てくるのか。3年生たちがどうすべきか迷っているところに、アホっぽい声が響く。生徒会役員の一人、京楽菊理の登場に、真面目な催しなのかもしれないと彼らは襟を正した。
「え〜、それでは皆様。本日はお忙しい中私たちサウススパイダーズのライブにお集まりいただき、誠にありがとうございますっ!」
──まずは2,3個ツッコませろ!!
会場の気持ちは一つになった。そもそもバンドとかライブとか完全に初耳である。
「ええと、バンド名についてですが、私は『コロポックラー』を推していたのですがジャンケンで負けたのだと弁明させていただきます」
──そこは聞いてねえよ!
ライブ感がすごい発言に、会場の一体感は留まるところを知らなかった。
「最近あった面白いことなんてのを語って楽しいトークを繰り広げるのがこういう司会のお仕事だと思うのですが。私的にはあれです、和服にビビることがありまして。というのも写真で白いお着物を纏う少女たちがいて、一瞬死に装束かとびっくりしまして。あれっすね、オチは白いレースの着物だったと、それだけです」
流行ってるんですかねああいうの、と締めくくられたところで、楽器を持った生徒たちが配置につく。
「お待たせしました。では1曲目、『新時代』です。どうぞ」
京楽は下がってキーボードのところへ向かった。代わってマイクの前に立つ朝比奈が一つ、深呼吸する。彼女がボーカルらしい。
南雲と溝脇、一之瀬がギターを持ち、桐山がベースを、殿河がドラムを担当。
よく練習したのだろう。軽快な調べは折り重なって重厚な音楽を形作っていく。
流行りの曲だからということなのか、新時代という歌詞に悪意を感じなくもないが、あとは南雲が堀北兄へ向けるドヤ顔がうざいとかそのくらいしか文句のつけようが無かった。
朝比奈の声が会場を震わせる。
「歌上手いな……」
「冬休み生徒会と南雲ガールズでカラオケ行ってたっけ。実はあのあたりから計画してたんだろうか」
「さあ……?」
「ケヤキモールの人たちから南雲に声援が送られてるのは何なんだ……」
「金遣いのいいイケメンだからでは?」
「カモられてるってことかそれは」
「堀北くん、バンドってすごいですね……! 皆さんカッコいいです」
興奮した様子の橘に堀北学は威厳ある様子で頷いた。
「新時代、か」
「革新的な南雲くんらしい選曲かと」
「ああ。先程から何度も目が合うのは偶然ではないだろうな」
「お、偶然だな堀北。ってかこういうの興味あるんだな。意外だ」
「綾小路くんこそ……ああ、ピアノはやっていたとか前に言ってたわね。それでかしら?」
「バンドなんてのとは無縁だったけどな。ククリや一之瀬のようにはとてもじゃないが出来そうにない」
「とはいえ二人とも付け焼き刃に見えるわね」
「他の先輩たちが上手いからだろう。生徒会長のギターとかやばいよな」
「……言っておくけれど、兄さんのピアノは心洗われるような演奏よ」
「堀北兄、ピアノも出来るのか……」
小学生の時全国音楽コンクールで優勝したという嘘もあっさりとバレてそうだ、と綾小路はぼやいた。
「南雲のハモリが上手いの腹立つな……」
「黄色い声援を一身に浴びてるのもムカつく。桐山にも誰か送ってやれ」
「俺達のだと野太い声援になるが……?」
「すげえ。ククリのヤツ、いつ練習してたんだ……一之瀬といい、特別試験のために動きながらもやってた感じか」
「まあ馬鹿な石崎よりは勉強時間も必要ないしね」
「ひでえよ伊吹。最近は俺だって頑張ってるって。なあアルベルト……アルベルト、首を捻らないでくれ」
「2年の先輩たちの特別試験は出来レースみたいなものだとククリちゃんが言っていました。そちらは練習の時間もたっぷりあったのでしょうね」
「へえ。ところで椎名はこういう音楽普段聞くの?」
「多少は、という感じでしょうか。図書館や本屋でかかることもありますし」
「本当に本好きだな椎名は。しかし龍園さんの姿がないのが残念すぎるぜ」
「2年生の人が撮影してるっぽいから後で焼いてもらえば?」
「いいですね、金田くんにも見せてあげたいです」
「That sounds great!」
やがて、演奏が終わると会場は拍手の音で埋め尽くされた。
ついでに、後に学内ですべての彼らが奏でた曲が配信もされたらしい。
匿名希望の方より全身図もいただきました。本当にありがとうございます! ククリちゃんめちゃくちゃ可愛い。