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──目が覚めると、見知らぬ天井だった。
あ、俺、あの時ショックすぎて気、失ったんだ。そのまま、どっか変なとこまで来ちゃったんだ。
もしかして今ここ、現世じゃない? にしては、布団の感覚がリアルだけど。ああ、もしかしたらここは異世界転生ルーム?
それこそ、今から女神様が俺を起こしに来てあなたは勇者になるために転生してもらいます、とか言ってくれて……いや、厨二病は封印するって決めただろ。
そんなことを考えていると、誰かの足音が聞こえる。もしかして、これって女神様──
「大丈夫かい? 朝霧くん」
ではなく瀬田だった。でも、なんで瀬田もここに?
もしかして瀬田も一緒に転生するのか? 仮にそうだとしたら学園の王子様と転生しちゃった件、みたいな感じになるのだろうか。
「君の目が覚めて本当によかったよ。いきなり倒れてしまうからとても心配したんだ」
「心配かけてごめん……でもおかげですっかり回復したよ」
「そうかい? でも、病み上がりにすぐ動くのも危ないね。しばらくは私の部屋でゆっくりするといい」
「へぇそっか、ってことは瀬田の家に連れてきてくれたんだな……って瀬田の家!?」
瀬田が口にしたまさかの言葉に慌てて俺はあたりを見渡す。
うわ、やべ、よく見たら確かにここ人が住んでる部屋じゃん! 今まで天井しか見てこなかったからわからなかったけど!
肝心の俺をここに連れて来た瀬田本人はそうだよ瀬田の家だよ、とニコニコしているが瀬田みたいな年頃の女の子が俺みたいな男をホイホイ家に上げていいものなのだろうか。
いや、それよりもまずやばくない? このこと瀬田ファンの女の子にバレたら俺の命なくない? それこそ転生の危機に瀕するぞ俺。
「ところでモーニ」
「モーニングフォグはやめろ」
「も……朝霧くん、どうして君はいきなり倒れてしまったんだい? 何か、具合でも悪かったのかな?」
「ああ、それは……」
……なんていうか、ナチュラルにモーニングフォグ呼びしようとしてくるなこの子。
っていうか、今の俺がモーニングフォグとか呼ばれて嬉しいわけないし。俺はもうあの日々を思い出したくなんかないんだよ。
だからこそ、俺は強い口調で瀬田にこう言った。
「掘り起こしてほしくない俺の過去を瀬田が掘り起こしたからだよ」
「……え」
「モーニングフォグとかなんとか、アレは俺の黒歴史、忘れたい記憶なの。まあ、瀬田にとっては違うのかもだけど、少なくとも俺はそうだからさ」
「……そう、なのかい?」
俺の口から出た意外な言葉に、びっくりした様子の瀬田。
まあ、そうだよな、恩人に会えて嬉しいって言ってくれてるのに、その恩人はそんな自分のことが嫌いなんだから。
「瀬田、俺もう帰るよ」
「待ってくれ、君はどうしてそう思うんだい? 私はあの頃の真っ直ぐな朝霧くんが好きで……」
「助けてもらっておいてこんなことを言うのも心苦しいけどさ……これから金輪際モーニングフォグとか俺の過去の話するの禁止、それでいて俺に積極的に関わるのも禁止。俺は、あの散々笑われた日々とは違う平凡な毎日が過ごしたいんだよ! あの時の俺と、今の俺は違うんだ!」
「……っ」
俺がそう言うと、瀬田はひどく悲しそうな顔をして俯く。
……俺だってさ、好きで瀬田にこんな顔させたいわけじゃないよ。でも、それよりも。今の生活が崩れることの方が嫌なんだ。
「……すまなかった、朝霧くん」
「わかってくれれば、それでいいから」
俺はその言葉を最後に、瀬田の家を出て。瀬田はそんな俺を名残惜しそうな、少し寂しそうな顔で見送って、そのまま扉を閉じる。
そんな瀬田を見て少し胸が苦しくなるが、もういいや、全部忘れちゃおう。過去のことも、今のことも。そう思いながら歩くこと数分。
──あれ、ここ、どこだっけ。
〜
「……朝霧くん?」
「ナンデスカ」
「もしかして……迷っているのかい?」
「イヤチガイマスネ」
……あ、やべ、迷った。と確信してから歩き回ること数分。なんとお買い物中の瀬田とばったり会ってしまった。
瀬田は俺の荷物や姿を見て、迷っているのかい? と聞いてくるがそれを認めることは俺のプライドが許さない。
「確か君はあの日会った時も帰り道に困っていたような……」
「だから過去の話禁止って言っただろ! ただここら辺散策してただけだよ!」
「……嘘はよくないよ」
「……そうだよ、方向音痴で悪い?」
でも、俺がどんなに否定しようが迷子ってバレるよな。どうあがいても迷子だってバレちゃうよな。
瀬田はそんな俺を見て、真剣な顔でこう言った。
「でも、君がここで見つかってよかった。君に謝りたかったんだ」
「……そう」
「さっきは……君を傷つけてしまって本当にすまなかった。さっきまでの私は、昔の君の話ばかりをして今の君を否定するかのようになってしまった。……本当にすまない」
「わかってんなら、別にいいよ。それじゃあ、俺はもう行くから」
そう言って俺が立ち去ろうとした瞬間、待ってくれ、と言って俺の腕を掴む瀬田。
瀬田は朝霧くん、と俺の名前を呼ぶと腕を掴んでいた手を離して、その手で今度は俺の手をそっと握ってくる。
「だからこそ、私は今の君と仲良くなりたいんだ!」
「そうは言われても、嫌なものは嫌だし」
「……君と、もう一度話したいんだ」
「だーかーら、なんでそんなに俺ばっかに構うんだよ! 俺なんかよりも構う価値のある相手なんてたくさんいるだろ! 例えば赤尾とか!」
そうだよ、俺がいくら迷っていた瀬田を導いた恩人だからって、そんな必要以上に構うことがあるのかな?
それに、彼女を傷つけるようなひどいことをたくさん言ったのはこっちの方なのに。彼女はそれを怒るわけでもなく、それでも俺と話したいなんて言うもんだから。
「……君のことが好きだから」
「……なんて?」
「ああ、いや、なんでも。でも、私はやっぱり君と仲良くなりたい。せっかくまた二人出会えたんだ、それなのに何も話さないのは少し寂しいな」
「なんでそんなに俺のこと思ってくれてるのか知らないけどさ、俺はもうあの頃みたいに目立ちたくない、平凡でいたいんだよ。だからこそ、目立つお前と一緒にいたくない。わかる?」
でも、その気持ちは嬉しいけれど俺にとっては迷惑なだけだ。ただでさえ俺は瀬田のファンの反感を買っているのに、このままお友達になったりなんてしたら何をされるかわからない。
……でも、瀬田薫様はそんな俺の気持ちさえもお構いなしのようだ。
「決めたよ、朝霧くん……いや、翔真。それでも私は君に会いに行く。君とは仲良くなりたいからね」
「随分と身勝手な宣言されてますけど……俺絶対嫌だからな! 絶対仲良くとかしないから!」
「フフ、素直じゃない王子様か……それもまた儚いね。大丈夫さ、そんな君も瀬田薫の虜にして見せよう」
「……またなーんでそうなるのか……」
嫌がる俺をよそに、なんか勝手によくわからん宣言されてるし。
──でも、どうしてだろうか。どうしてかそれが嫌ではない俺がいるのも確かであった。
「ところで翔真、家には帰れそうかい?送ろうか?」
「余計なお世話ですぅー!別に一人で帰れますぅー!」
「翔真、私にはもう一人方向音痴の友人がいてね。どうしてだろうか、君をこのまま放っておくと君も彼女のように迷ってしまう気がして……」
「……じゃあ道案内お願いします」
いやでもそれは別として瀬田に家まで送り届けてもらうとかかっこ悪すぎだろ、俺。
今回も読んでいただきありがとうございます!
これから毎週火曜日を目処に更新していくつもりなので、次回までまったりと待ってくださると嬉しいです。
次回もお楽しみに!