俺の毎日を平凡にしてくれ   作:イソギンチャク

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どうも、イソギンチャクです。自分が一番好きな薫ちゃんのカードイラストは儚い名演技の特訓前です。
それでは、よろしくどうぞ。


至って平凡じゃない自分

「えっ、薫にほっぺにキスされた挙句告白された!?」

 

「しーっ、リサさん声が大きい!」

 

「ご、ごめんアサギリくん……でもまさかそうなってたとはアタシも思ってなくて……遠くから見てたからわかんなかったけど、そんなことがあったんだね」

 

「え、見てたんですか? 裏から?」

 

 瀬田に告白とほっぺにチュウをされた日の次の週。

 

 俺は、デートの一件後なんやかんやで仲良くなったリサさんに恋愛相談をしていた。

 

「あ、アハハ……ごめん、二人がどんなデートするのか気になっちゃってさ。でもまさか、薫が告白しちゃうとは思わなかったな」

 

「そうっすよ本当に! 俺、どうしたらいいのかわかんないですし!」

 

「……まあ、でも、ひとつ言えることはね。薫、普段はあんなに誰かと触れ合おうとするタイプじゃないよ。多分、相手がアサギリくん相手だから心を許してるのかも」

 

 ……本当にそうなのかな? リサさんの言葉を聞いて、俺はそう思う。

 

 でも、瀬田の気持ちは瀬田自身にしかわからないから。それに……

 

「……きっとあの子が好きなのは、過去の俺ですよ」

 

「それ、どういうこと?」

 

「昔、会ったことがあって。その時すごく俺に懐いてくれてたんです、瀬田は」

 

「……そう、だったんだね」

 

 きっとあの子が好きなのは、今の俺じゃなくて過去の俺だよ。

 

 もし付き合っても、きっとイメージと違うから幻滅されるんじゃないかな。俺がそう言おうとすると、リサさんはこう言った。

 

「でもさ、アタシは薫の友達だからちゃんとここではっきり言うよ。きっと、そんなことないと思う」

 

「……そうっすかね」

 

「だからこそ、それを確かめるためにちゃんと薫と向き合ってあげて」

 

 ……薫と向き合ってあげて、か。リサさんのその言葉を聞いて、俺は考え込む。

 

 昔出会っていたとはいえ、まだ付き合いの浅い女の子にいきなり告白されても、どうすればいいのかわからないよ。

 

 そうとは口にできないまま、俺はリサさんに別れを告げ、教室へと向かった。

 

 

 リサさんと別れ教室に帰ると、何やら物々しい雰囲気で。

 

 誰かを取り囲むようにクラスメイトが集まっており、俺はその中心に向かってみる。すると、そこには。

 

「ああ、朝霧! 久しぶりだな!」

 

「……どういう経緯でここまで来たんだよ」

 

「あれ? 今日の朝霧は大人しいな。せっかく前の学校の友達が来てやったのに、なんだよ、その反応は」

 

 俺が一番縁を切りたかった、前の学校の男子生徒がいた。

 

 彼は趣味の悪い笑顔を浮かべると、無理やり肩を組んでくる。少なくともお前と俺は、そんな仲じゃなかっただろ。

 

「そうだ、朝霧」

 

「……なんだよ」

 

「今日は久しぶりにお前に会えたから嬉しくってなあ。とっておきのことをしてやったんだ。実はさ、お前のクラスメイトみんなにお前がモーニングフォグ、って名乗ってたことを教えてやったんだよ! 嬉しいだろ? モーニングフォグの名前が知れ渡って!」

 

「……は?」

 

 ……そんな時、こいつが口にしたそんな言葉によって俺は声が出なくなる。

 

 やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ!

 

 そう言いたいのに、喉の筋肉が固まってしまったかのように声が出ない。

 

「なに、睨みつけんなよ。お前の武勇伝を代わりに語ってただけだろ?」

 

「……余計なことすんなよ。今の俺はあんなこと言わない」

 

「ってことは、ようやく自分が痛々しいことに気づいたんだな! お前が馬鹿みたいに自分に酔ってるとこ、痛すぎて見てられなかったんだよ」

 

「……っ!」

 

 今の俺は違う、違うのに。冷たいクラスメイトからの視線が、痛くて仕方がない。

 

 それなのにもかかわらず何も言いかえせない俺にも嫌気がさしてくる。

 

 ……もう、ダメだ。俺がそう思った時、聴きなれた彼女の声が教室に響いた。

 

「それは違うよ」

 

「モーニングフォグくんは、私のヒーローなんだ!」

 

「……瀬田」

 

 瀬田は、俺に向かって笑いかけると男子生徒の方をまっすぐ見つめる。

 

 そんな彼女に対して、男子生徒はこう言った。

 

「……何言ってんの? こいつ、筋金入りの痛々しい厨二病だぞ? ヒーローでもなんでもないだろ」

 

「いつも堂々としていて、優しくて、真っ直ぐで、自分に嘘をつかない、そんな私のヒーローを悪く言わないでくれ!」

 

「……せ、た……」

 

「なんだよ、つまんねーの。なんか面白くないし俺帰るわ」

 

 そう言い残して、帰っていく男子生徒。俺は彼をただ眺めるだけで。

 

 そんな俺に瀬田はこう話しかけてくる。

 

「大丈夫かい? 翔真」

 

「……おかげさまで」

 

「……状況が状況だからね。少し落ち着ける場所に行こうか」

 

「そう、だな」

 

 そう言って、俺はそのまま瀬田に連れられ近くの空き教室に入る。

 

 教室に入るなり、瀬田は申し訳なさそうな顔をして俺にこう言った。

 

「……実は、彼をクラスに招き入れたのは私なんだ。朝霧くんに会いたいからクラスに入れてくれないか、と彼に言われてね。そうしたら、急に彼は朝霧くんの過去の話をし始めて」

 

「……そうだったんだ」

 

「私が止めていれば、今頃こんなことにはならなかったのに。本当にすまない」

 

「いいんだよ、瀬田が悪いわけじゃないし」

 

 俺はそう言って、落ち込む瀬田に笑ってみせる。だいたい、悪いのは俺の過去を勝手に話しやがったあいつだし!

 

 むしろ、それを止めてくれた瀬田には感謝しかないよ。そう思った俺は、彼女にこう伝える。

 

「それよりもさ、ありがとな、瀬田。ああ言ってくれて、すごい嬉しかった」

 

「……本当かい? その……翔真が悪く言われているのをみていたらいてもたってもいられなかったんだ」

 

「そっか、ありがと。だからこそ今の俺は、瀬田が好きな俺じゃないんだろうなって」

 

「……どういうことだい?」

 

 ──あの時俺は、瀬田が俺のことをヒーローだって言ってくれて、嬉しかった。だけど、彼女が言うヒーローは、きっと過去のオレであって俺じゃない。

 

 だからこそ、不思議そうにそう聞いてくる瀬田に、俺は笑ってこう返す。

 

「堂々なんかしてないし、優しくないし、捻くれてるし、挙げ句の果てには自分に嘘つきまくってるしさ。まあ、そんな化けの皮も今日剥がれちゃったけど」

 

「そんなことないよ。翔真は、ずっと翔真のままだ」

 

「いや、あの時は本当どうかしてたんだよ。それはさ、あいつの言う通りだと思う」

 

「翔真……それは違うよ」

 

 ごめんな、お前の理想になれなくて、と笑う俺に、瀬田はそう言った。

 

 一瞬どう言うことか分からなくて、戸惑う俺に瀬田はこう続ける。

 

「ただ、心に傷を負って臆病になってしまっただけで、モーニングフォグくんは今も翔真の中に生きていると私は思っているよ」

 

「あの、やっぱお願いだからモーニングフォグとか言わないで」

 

「いや、今の私は君をそう呼びたいんだ」

 

 せめて昔の俺とかそう言う言い方して、モーニングフォグはやめて、と言ってもその言葉は瀬田には届かない。

 

いや、別にいいんだけどさ。なんかシリアスな空気も台無しになるっていうか、なんていうか。

 

 ……でも、そうだな、瀬田の言う通りあの日、俺はきっと心に傷を負ったんだろうな。

そんな俺を、瀬田はぎゅっと抱きしめてこう言った。

 

「どんな君も、大切な君だよ」

 

「……っ」

 

「あの日私を救ってくれたモーニングフォグくんも、この学校で私と楽しい毎日を過ごしてくれた翔真も、私にとってはどちらも大切な君だ。……本当は、君もそうなんだろう?」

 

「そんなこと……ないし」

 

 ──どんな君も大切な君。瀬田はたしかに、俺にそう言った。

 

 瀬田にとってはそうかもしれないな。そりゃあ、自分を救ってくれた思い出のモーニングフォグくんなんだから。

 

 でも、俺にとってのモーニングフォグは憎むべき過去で、大切なんかじゃない。

 

「君がそう言うのなら、私には何も言えない。けれど……どうか、大切な自分のことを否定しないであげてほしい」

 

 ……大切な自分を否定しないで、か。

 

 でも、そうだ、俺はずっと、後悔していたのかもしれない。

 

 拗らせていた時の物を捨てる時、まるで俺の中の大切な一部を、捨てているような気持ちだった。

 

 厨二病なんて馬鹿みたいだ、って思うたび、胸のどこかがちくりと傷んだ。

 

 ……今だって、自分のことを悪く言うと、まるで過去の自分が泣いているように見えた。

 

 俺は、一体どうしたいんだろう。

 

 俺は、俺は──

 

「朝霧、会いにきたぞ」

 

「……赤尾、クラスのみんな」

 

「お前のことだから落ち込んでんのかな、って思って。だから言いにきたんだよ、俺たちから見たお前を」

 

「……え」

 

 そんな時、赤尾がクラスメイトと連れて俺たちの元にやってくる。

 

 ああ、きっと幻滅されたんだろうなあ。なにせ、至って普通の朝霧くんが拗らせ厨二病のモーニングフォグだったんだから。

 

 きっと、これから俺は嫌われ罵られ無視され……の地獄の学園生活が待ってるんだ。

 

「はっきり言うよ。俺たちさ、お前のこと、平凡とか一回も思ったことないけど?」

 

「「「「「うんうん」」」」」

 

「普通そんなことしないだろ? 言わないだろ? ってことばっかだし」

 

「「「「「うんうん」」」」」

 

 ……と思ったのだが、彼らは俺にまさかのことを言ってきた。

 

 ……え? それ……マジで? 俺、全然普通じゃなかったの?

 

「朝霧翔真だろうがモーニングフィグだろうがどうでもいいよ! どっちにしろ、俺の友人で俺たちのクラスメイトってことに変わりはないんだしさ!」

 

「モーニングフォグな」

 

「ああ、モーニングフォグね! じゃあ今日から朝霧のこと俺モーフォグって呼ぶわ!」

 

「「「「「いーねー!」」」」」

 

 気付けば俺、モーフォグってあだ名つけられてるし。なんなんだよこの人たち。

 

 っていうかさ、それじゃあ俺、なんのために平凡に振る舞ってたんだ。なんの意味も、なかったんじゃん。

 

 ……本当の自分を隠さなくても、みんなはこうして受け入れてくれたのに。

 

「……俺、ありのままでもいいのかな」

 

「いいんだよ、翔真。みんな本当の君を待ってる」

 

「……わかった、それじゃあ三年ぶりのアレ、行っとくか!」

 

 ……瀬田もそう言ってくれてるし、いいのかな。ありのままの俺でいいのかな。

 

 そうだよ、本当はずっとこうしたかった。こうして、みんなの前で本当の自分を曝け出したかった。

 

そうだよ、実際のところ目立ちたがり屋なんだよ、俺は。だからこそ、今ここで注目を集めてやる。

 

 ──そうだよ、もう俺に失うものはない。恐れるものもない。

 

 俺はあの日のようにポーズを決めると、クラスの真ん中でこう叫ぶ。

 

「オレはフォグ……モーニングフォグ! このオレこそがエクストリーム霧魔法の使い手フォグ様さ!」




今回も読んでくださりありがとうございます!
次回もお楽しみに!

ps.実はクリスマスイブにまた今作とは違った世界線の瀬田薫ヒロインの話を投稿しようかと考えています。そちらも楽しみにしていただけたら幸いです!
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