個人的に「シル・ヴ・プレジデント」のカバーが大晦日にガルパに追加されたのが嬉しくてその曲をたくさんプレイしています。ハロハピちゃんカバーなのも嬉しいですしこころちゃんと彩ちゃんとましろちゃんの歌声かわいいですし歌詞に共感しますね!
それでは、よろしくどうぞ。
「なーんだ、彼氏じゃないのかぁ。つまんないのー」
「いやいや、つまらないことこそが俺のとってのモットー。俺の生きる意味っていうかなんて言うか、つまり……そういうことですよ」
「ごめんあたしよくわかんない。でも、君ってたしか噂のモーフォグくんじゃなかったっけ? あたしが思ったのとなんか違う!」
「嫌な略し方しないでくださいモーニングフォグを!」
少し前、俺が瀬田の彼氏だと言う盛大な勘違いをしてきた生徒会長、氷川日菜さん。
俺が瀬田の彼氏ではないと否定すると、会長は途端に退屈そうな顔になってしまった。
「まあ、彼氏じゃなくてもきっと薫くんは君のこと好きだよね。どうして付き合わないの?」
「どうしてって……それはまだ俺が瀬田のことを知らないからですよ。何も知らないのに付き合って、彼女を傷つけたくないんです」
「そっかぁ……それならね、あたしが二人の仲を取り持ってあげる!」
いやいや、仲を取り持つって言われてもどう取り持つんだこの人!?
そう疑問を抱く俺に、彼女はこう言った。
「ってわけで、モーフォグくんには一ヶ月後のオープンキャンパスで劇をやって欲しいの!」
「オープンキャンパスの劇……?」
「多分モーフォグくんも知ってるだろうけど、うちの演劇部、女の子の部員しかいないんだー。だけどさ、うちの学校には男の子もいるのに女の子だけの劇だとこれから入ろうとしてる男の子が恐縮しちゃうかなー、って思って。だからお願い! 未来の後輩男子のために頑張って!」
「いやいや、それなら瀬田薫っていうプロの男役いるじゃないですか」
劇、ねぇ……昔の俺ならそれはもうノリノリでやります! って言ってただろうけど今の俺は違うからなあ。
男役を男に頼まなくても女の子でそれを演りきれる人材がいるんだから、彼女に任せればいいことだと思うけど。
「……まあそうかもだけど……でもそうだね、未来の後輩男子のためって言うのは実際建前で、ほんとはあたしが薫くんとモーフォグくんの劇を見たいだけなんだよねー♪なんかさ、るんっ♪って来そうじゃない?」
「それが魂胆ですか……!」
「あれ、モーフォグくんはやりたくないの?」
「そりゃあやりたくないっすよそんな悪目立ち前提の劇とか! ただでさえモーニングフォグとか言う二つ名が出回ってる以上もうこれ以上やらかしたくはないんです」
そうですよ未経験なのに経験者の瀬田と舞台とか断固お断りですよ!
絶対俺の演技がクソって言われまくるんだ。それに、オープンキャンパスに来てくれた子たちだって俺みたいなトーシロの演技なんて誰も見たくないに決まってるさ。
「あたし、天文部の用語辞典モーフォグくんにあげようと思ったんだけどなあ。きっと、モーフォグくんが好きなかっこいい単語がたくさん載ってたはずなのに悲しいなあ。しゅん……」
「やります」
「ほんとー? ありがと!」
もーしょーがないなー! そんなこと言われたらさ、やるしかないじゃん! なんか楽しみになってきた! ワクワク!
……だがしかし、そんなワクワクはすぐ打ち砕かれることになる。その日の放課後、初稽古にて。
〜
「声が小さい、滑舌もダメ、セリフに感情が乗ってるわけでもないし、動きにリアリティもない。あなた、ほんとに舞台に向いてないのね」
「……ふぇ」
──頑張って演じた俺の演技は先生にボロカスに言われた。
いや、別に自信があったわけじゃないけど大根すぎるわけでもないと思っていた。なのに、なのに。
「翔真……」
「朝霧さん……」
瀬田と大和さんも、なんかすごい気まずそうな顔してるし。
でもまあ? 経験を積めば俺だって変われるはずだ。今日は帰って、いっぱい練習しよう。そうしたらきっと明日には。
〜
「全然ダメね。氷川さんの推薦だから急遽あなたをキャストに入れたけどこれじゃあ降板間違いなしかしら」
──いや、明日には。
〜
「あなた、本当にやる気ある? あなたの演技、一向に上達してないんだけど」
──違う、来週には。
〜
「もうダメね。次ダメだったらあなた降板だから。いいわね」
……変われる、はずだったんだ。
どんなに俺が必死に演技しても、どんなに俺が必死に練習しても、一向に変わらない先生の評価。
でもこの先生、そのくせ瀬田のことはベタ褒めするんだよ。すごいわね瀬田さん! さすがね瀬田さんって!
そりゃあ瀬田は役に入り込む天才だし、声も出てるし滑舌もすごいし。俺とは天と地の差ってことだって、わかってる。わかってるけど。
この先生は俺のことがそんなに嫌いかよ。悪かったですね、演技が下手で!
「……わかりましたよ、もういいです」
もういい、こんな思いするなら、演劇なんてしなくていい。
俺、演技とか演劇は、もっと楽しいものだと思ってたよ。もっと褒めてもらえるものだと思ってたよ。でも、それは違うんだな。俺が見てた、夢だったんだな。
最後に俺は精一杯の笑顔を作ってそう言うと、演劇部を去った。
〜
──帰り道。俺はムカムカする気持ちが収まらないまま、歩いていた。
っていうかさ、だいたいどうして演劇未経験の俺に瀬田レベルのクオリティを求めるんだよ! そこの時点で間違ってるでしょ!
出来ないなら出来ないなりのメニューとか考えてくれてもよかったのに。どうして、同一視できるんだか。
でも、本当は。
「俺なりに頑張ったんだからさ……ちょっとぐらい褒めてくれたってよかったじゃん」
……少しぐらい、俺のことを褒めて欲しかった。
俺なりに頑張ったのに。俺なりに演技したのに。どうしてそれを認めずに、全部否定するんだろう。
ああ、あそこ、俺が演劇を必死に練習していた河川敷だ。
「練習だって俺なりにしたのにさ、まるで練習してないかのように扱っちゃって、ひどいや」
俺、なんのために頑張ってたんだろうな。なんのために、ネットで調べた大きな声を出す練習とか、ネットで調べた滑舌を良くする練習とか必死こいてしてたんだろう。
……はぁ、悲しいな。悲しくて、なんか泣けてくるや。
「やあ」
「……瀬田、あのさ」
「……なんだい? 子猫ちゃん」
「……俺と比べて瀬田はさ、演技が上手ですごいね」
そんな時、俺の元に瀬田がやってくる。きっと、彼女は調子がおかしい俺のことを気にかけてくれたんだろうな。
……すごいな、瀬田は。イケメンで、演技ができて、俺みたいな困ってる人も気にかけることができて。
「本当、羨ましいよ。俺も瀬田みたいになれたらよかったのに。瀬田みたいだったら、褒めてもらえたのに」
「翔真は、そう思っているんだね」
「そうだよ、俺じゃダメなんだ。俺には、演劇なんて向いてないんだよ」
「……翔真」
……だからこそ、自分が惨めになる。
あーあ、こんなことで自尊心ボコボコになるなら、演劇をやるなんて言わなきゃよかったな。
せっかく俺に期待してくれた会長には悪いけど、うまく断りを入れて、早く辞めちゃおう、こんなの。
「だからさ、もう俺演劇やめる。瀬田のことは観客席で応援してるから、頑張ってな」
「……翔真がそうだと思っているのなら、私にそれを否定する権利はないさ。だけど……それが、君の本当にやりたいことかい?」
「……瀬田」
そんな時、瀬田が俺にこう聞いてくる。
本当にやりたいこと、か。そんなこと言われたって、もう今更どうしようもないよ。でも、でも。
「俺は……俺だって、好きで演技がしたくないわけじゃないよ。先生からは散々言われたけどさ、言われっぱなしじゃやっぱ悔しいじゃん」
「そうなんだね。それじゃあ、君はどうしたい?」
「そりゃあ……やり遂げてみたいよ」
「……そうか」
……そうだよ、こんな俺だけどさ、まだ諦めたくない。ダメだって、投げ出したくなんてない。
そうだ、そうだ、そうだ。俺は、俺は──
「そうだよ、こんなところでこのモーニングフォグ様がくじけるもんか! 絶対、最高の舞台にしてやるーッ!」
それからと言うもの、俺は一心不乱に練習を始めた。
精一杯大きな声を出して、なおかつ滑舌にも気をつけて、思いっきり心を込めて、ひとつひとつのセリフを読んだ。
そんな様子を、瀬田は何も言わず見守ってくれた。
瀬田は俺の演技をただ見守るだけでここがダメとか、なんも言ってこなかったし。逆にここが良かった、とかも言ってくれないし。
でも、俺はそれが心地よかった。ひとりじゃない、と思うと前よりもっと頑張れた。
練習は続き、暗い時間になると俺と瀬田は別れてそれぞれの家に帰る。
──決戦は、明日だ。
〜
「え、俺が……主役?」
「ええ、そうよ朝霧くん。あなたの演技は目を見張るものがあったわ。だからこそ、厳しいことを言ったの。まあ瀬田さんには劣るけれど……」
「……そ、そうだったんすかー!なーんだ、そういうことなら早く言ってくれればよかったのに〜!」
「そんな風に調子に乗って台無しにしそうだから言わなかったのよ……」
……その日の放課後、俺は今までの練習の成果を込めて演技をした。全力で、演技をした。
そんな俺の演技を見ていた先生は……何故か笑っていて。笑った先生は俺にこう言った。今回の劇は朝霧くんが主役、だと。
「それでヒロインは……瀬田さん、お願いできるかしら?」
「私……ですか?」
「聞いたわよ? 落ち込んでいた彼を支えてあげていたそうじゃない。その姿がまるでヒロインみたいだったって、後輩の女の子が言ってたわよ」
「そうだったの? でもまあ、よろしくな、瀬田!」
俺がそう言うと、瀬田はこちらこそよろしく、と笑う。
……なんか本番が楽しみになって来たな。頑張って、練習しないと。
〜
そうしてついにやって来たオープンキャンパス当日。そろそろ次が俺たちの出番になった時。
──俺はガチガチに緊張していた。
「ヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒト……」
「……緊張しているのかい?」
「いやいや、普通緊張しない方がおかしいじゃん? 俺、主役だしさ、悪目立ちしたら絶対嫌だし、もーどうしよ、俺どうしよ……」
左右にガタガタ揺れながら手に人を書きまくる俺に、話しかけてくる瀬田。
そんな俺に、瀬田は。
「……大丈夫だよ、翔真。私がついてる」
「……瀬田」
そう言って、笑いかけてくれた。その笑顔がとても可愛らしくて、思わずドキッとしてしまう。
い、いや、俺瀬田相手に何ドキッとしてんの!? この子、ハグしてもらうために不法侵入してくるような子だぞ!?
「その様子だと、大丈夫そうだね。さあ、行こうか翔真」
「わかったよ、瀬田。よっし、いっちょやってやりますか!」
まあ、でも、瀬田が俺に笑いかけてくれたおかげで緊張も抜けたよ。
それじゃあ行こうか、俺たちの舞台へ──
〜
「見てたよー、二人とも! 二人の演技、あたしすっごくるんっ♪ってきたー! 楽しい劇をありがと!」
「いえいえ、会長が喜んでくださったのなら何よりです。この度は俺を舞台に推薦してくださってありがとうございました」
「ううん、あたしが見たかっただけだからいのー! ……たださ、最後の挨拶の時、モーフォグくん盛大に名前噛んでたよね?」
「ギクッ」
……劇の公演後、俺は氷川会長と話していた。感想と忘れたいことを同時に述べてくる彼女は鬼か何かなのだろうか。
ああ、それで、肝心の舞台は、何のアクシデントもなく無事に終わり。
ただ、その……ね?
『あしゃぎりしょうまでしゅ』
俺が最後の挨拶で名前噛んじゃったこと以外は、無事に終わったんだ。俺のこれで観客全員大爆笑してたからなほんと。
でもまあ、終わったからいいのか、大丈夫なのか。そう思って友達のもとに向かう会長を見送り、会長と入れ替わるようにやって来た瀬田と話す。
「あのさ、瀬田。あの時は本当ありがと」
「……私は何もしていないよ。頑張ったのは君だからね」
「またそうやってとぼけてさ」
俺があの時背中を押してくれたお礼を伝えても、瀬田は何もしていない、なんてとぼけるばかり。
こうなれば仕方ない、秘密兵器を使うしかないな。
俺は、瀬田の前髪をかきあげそのおでこにそっとキスをすると。
「……デートの時のお返し」
「……あ、あ……」
その頭を、優しく撫でてみせる。すると瀬田の顔はみるみるうちに赤くなり、今や耳まで真っ赤に染まってしまった。
なんて言うか、瀬田が照れる顔ってなんか新鮮だな。なんかいつも涼しい顔で歯が浮くようなこと言ってるイメージしかなかったから余計に。
……なんか、その、すっごいかわいいかも。瀬田の照れた顔。
「か、薫先輩が照れてる……!? あ、あの人何者なの巴……!?」
「え、あの瀬田先輩が!? 嘘だろひまり!」
「ふっふー、薫を笑顔にしている男の子はあの子ね!」
「……へぇ、あの男の子が、ね。意外だわ」
そんなことを考えていると、聞こえてくる周りの声。なーんか嫌な予感もするようなしないような気もするけど。
でも、新鮮な瀬田の顔が見られて、なんだか嬉しい俺なのだった。
今回も読んでくださりありがとうございます!
それではまた次回!