俺の毎日を平凡にしてくれ   作:イソギンチャク

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至って平凡じゃない呼称

「あなたが、薫の王子様ねっ!」

 

 お日様がさんさん照るある日のこと。俺が街を歩いていると謎の金髪の女の子が俺に声をかけて来た。

 

 薫、ってことは瀬田のことかな? え、でも、王子様は瀬田の方じゃない? どう考えても薫の王子様って俺ではないと思うんだけど……

 

「ごめんね、お嬢さん、その人きっと人違いじゃないかな……」

 

「あら? あなたが翔真じゃないの?」

 

「あ、はい、朝霧翔真デス」

 

「それなら人違いじゃないわ! あたしが探してたのは翔真、あなただもの!」

 

 いや全然普通に俺だったわ。金髪の女の子はどうやら俺を探していたみたいで、俺の目を見つめると嬉しそうに笑う。

 

 が、そんなほっこりした時間もすぐ終わり。彼女は、俺の手を握ると。

 

「それじゃあ、行きましょう!」

 

「え、どこに?」

 

「あなたがハッピーになれる場所よっ!さあ、行きましょう!」

 

「え、あ、ちょ、ま……!」

 

 

「ほんっっっとうにすみませんうちのこころが……いきなり連れてこられてびっくりしましたよね……」

 

「まあびっくりはしたけど……いいんだよ、気にしないで。誰かにこう巻き込まれるのは慣れてる、って言うか最近慣れたから……」

 

「……でも、薫さんが話してたのって、あなたのことだったんですね。なんだか優しそうな人で安心しました」

 

「……君は瀬田のことを知ってるの? 奥沢さん」

 

 そんなこんなで道端出会った金髪の女の子……こころちゃんに連れられて、俺は彼女の家にやって来ていた。いや、家って言っても豪邸すぎてマジで何が何だかわからないんだけど。

 

 どうやらこころちゃんのお家には友達も一緒にいたようで、その中のひとりの奥沢さんが俺にめちゃくちゃ謝ってきた。大変だね、君も。

 

「そうですね、知ってるも何も薫さんは私たちハロハピのメンバーでギターをやってるんですよ」

 

「えっギターもできんの瀬田!?」

 

「そうだよー! 薫くんのギター、すっごいんだから!」

 

「嘘だろ……俺瀬田にステータスで何もかも負けてるじゃん……」

 

 え、嘘でしょ、つまるところ瀬田ってイケメンで演技できてギターも弾ける……やばい、俺、女の子に男としていろいろ負けてる。

 

 俺はひっそりと落ち込みながら、ここに連れて来た張本人であるこころちゃんにとある質問をする。

 

「それでさ、こころちゃん。どうしてこころちゃんは俺をここに連れて来たの?」

 

「だって、薫はあなたのことが好きなんでしょう? そんなあなたを連れて来たら薫がハッピーになると思ってあなたを呼んだのよ!」

 

「……え?」

 

 いや瀬田さんこころちゃんたちに俺が好きな話してんのかい。

 

 びっくりする俺の隣では奥沢さんと水色の髪をした女の子が会話をしていて。

 

「ああ、花音さん方向音痴ですからね……ちゃんと迷わないようにし」

 

「俺も方向音痴なんです!」

 

「ふぇぇ!?」

 

 急に話しかけたことによって水色の髪の女の子をびっくりさせてしまったが、でも俺は彼女と話したい。

 

 ……彼女とは、数少ない方向音痴仲間になれる気がするからだ。

 

 

「そ、そうだよね、やっぱり迷うよね! 私だけかと思ってた〜……」

 

「いやいや俺も全然普通に迷いますよ! 誰かの補助かナビがなきゃ即座に迷宮入り! いやぁ、花音さんに出会えてよかった! 方向音痴同士仲良くしましょうね!」

 

「うん、もちろんだよ〜!」

 

 結果、俺たちは意気投合した。花音さんは俺の盟友だ。

 

 いーな、花音さん! 優しいしかわいいし方向音痴仲間だしもう好きになっちゃいそう! 俺がそう思った時、後ろに誰かの存在を感じる。

 

「……翔真」

 

「……ど、どうも、瀬田」

 

「あ、薫さん! 今ね、朝霧くんとお互い道によく迷うよね〜、って話してたんだ〜」

 

「そうなんだね、花音。フフ、二人が楽しそうで私も嬉しいよ」

 

 その存在の正体は、まさかの瀬田で。

 

 どうしよう、きっと瀬田は好きだと告白した相手が他の女の子にデレデレしていたのを見て楽しいとは思わないだろう。このまま修羅場か? と思ったけど、瀬田は別に怒っていないようで。

 

「ただ、翔真が私以外の女の子とそうやって楽しそうに話すのは少しだけ妬けてしまうな」

 

「悪かったよ……でもさ、俺と花音さんがどうこうとかは絶対ないから」

 

「うん!」

 

「まあそうやってすぐさま肯定されたらされたで結構心にクるけどね!」

 

 ああ、花音さん、俺、そういう素直なところも好きだよ……これからも友達として仲良くしようね……

 

 そんな少しだけ切ない気持ちの俺に、花音さんはこう言ってくる。

 

「大丈夫だよ、私は薫さんと朝霧くんの恋を邪魔したりなんてしないもん。二人の恋、私にも応援させて!」

 

「いや、俺まだ瀬田のこと好きとは言ってないんですけど……」

 

「まだ、ってことはいつかは薫のことを好きになるのね! その時はあたしたちにもお祝いさせて欲しいわ!」

 

「いやだからなんでそうなるのこころちゃん!」

 

 まだ好きじゃない、って言ってるだけで時間が経てば必ず好きになるとは言ってないのに! いや、でも……

 

 ……もしかしたら、本当にもしかしたら、そうなるのかもだけど。

 

「そ、それじゃあ俺はもう行こうかな! みんな今日はありがとう! 北沢さん、コロッケありがとうね!」

 

「ううん、しょーま先輩が喜んでくれたらいいの! 今度はうちにコロッケ買いにきてね!」

 

「うん、絶対買いに行く!」

 

「……その時は私もお供しても構わないかな? はぐみ。それじゃあ行こうか、翔真」

 

 そうそう、実は俺さっき北沢さんからコロッケたくさんもらっちゃって! 一人暮らしだから食べ物をこうやってもらえるのは本当にありがたい。自炊できないタイプだし俺。

 

 っていうかあれ? なんか後ろに瀬田がついて来てるけどどうしてだろうな?

 

「いや、なんで瀬田がついてくんの?」

 

「だって、誰かが近くにいないと君は迷うだろう……?」

 

「そうっすね」

 

「薫さんとの帰り道、楽しんでね!」

 

 そうだね、俺はひとりじゃ何にもできない非力なモーニングフォグだね。

 

 にっこり笑顔で手を振ってくれてる松原さんに手を振り返すと、俺は瀬田と共に弦巻さんの家を出た。

 

 

「あのー、瀬田さん?」

 

「……むぅ」

 

「さっきからその……なんか不機嫌そうですけど俺何かしました?」

 

 そんな一日の終わりの帰り道。どうしてか俺の隣を歩く瀬田はご機嫌斜めで。

 

 俺がどうしてか理由を聞くと、瀬田は少しだけむすっとした顔でこう答えたのだ。

 

「翔真は、君は、他の女の子の名前は呼ぶのに私の名前を呼んでくれないな、と思ったんだ」

 

「いやいや、呼んでるよ? 瀬田って」

 

「違うよ、下の名前で呼んでくれないなって」

 

「え、つまり俺が瀬田のことを薫、って呼んでないなー、ってこと?」

 

 俺がそう聞くと、瀬田はもっともらしくコクリと頷く。

 

 いや、でも、今まで瀬田で呼び慣れてるのにいきなり薫呼びはハードル高いかなぁ。そう思った俺は、瀬田にこう言った。

 

「いやいや、瀬田は瀬田だよ。むしろ薫! って呼ぶ方がしっくり来ないっていうか」

 

「……花音やこころ、リサのことは名前で呼ぶのに?」

 

「げっ」

 

「そんなに私の名前を呼ぶのが嫌かい?」

 

 そう悲しそうに聞いてくる瀬田の瞳は、不安そうに揺れていて。

 

 もうそんな目されたらダメじゃん、呼んであげたくなるじゃん。瀬田って、そういうとこずるいよな。

 

「呼び方を変えるのは嫌じゃないよ。ただ、その、いきなり呼び方を変えるのが恥ずかしいってだけで……」

 

「そうなのかい? それなら恥ずかしがることはないよ! さあ、私を好きに呼びたまえ!」

 

「そうだね……とりあえずかおちゃん、とかあだ名から始めちゃダメ?」

 

「かおちゃんだけはやめてくれ」

 

 俺が瀬田のことをかおちゃん、と呼ぶと途端に慌てだす彼女。

 

 え、どうして? かわいいじゃんかおちゃん。俺はいいと思ったんだけどなあ。

 

「その呼び方は恥ずかしい……から……」

 

「そっか、それじゃあ普通に薫、でいいのかな?」

 

「そうしてもらえると助かるよ……」

 

「あーはいはい、わかったよ、薫」

 

 俺が普通に薫、と呼び捨てにすると瀬田……薫は安心したようで、ホッとしたような表情をする。

 

 そのまま会話は一旦終わり、歩くこと数十分。突然薫がちょんちょん、と俺の肩をつついてきて。

 

「そ、その……もう一度だけ呼んでもらってもいいかな?」

 

「かおちゃんって?」

 

「……からかうのはよしてくれないか」

 

「ごめんごめん、薫だよな」

 

 自分の名前を呼んでほしい、と頼んできたのだ。

 

 俺に自分の名前が呼ばれたのがそんなに楽しかったのかなんなのかはわからないが、薫はキラキラした目でこっちを見てくる。

 

「薫」

 

「もう一回呼んでくれ」

 

「薫っ!」

 

「もっと!」

 

 薫、薫、薫、薫、薫──

 

 俺がどこのヤンデレかよ、ってレベルで薫の名前を言い続けること数分。ようやく彼女は満足してくれたようで。

 

「……ふふっ」

 

「これで満足ですか?」

 

「ああ、満足だとも。ありがとう、翔真」

 

「はいはい、よかったよかった」

 

 嬉しそうにニコニコしながらありがとう、と言ってくる。そんな彼女の笑顔を見ていると、俺たち二人は俺の家の前に着いていることに気がつく。

 

 俺は薫に手を振ると、そのまま家に帰った。

 

 

 また別の日。溜まっていたソシャゲの周回でもしようと近くのベンチに座ると。

 

 そんな俺に話しかけてくるこころちゃんとはまた違った金髪の女の子。その金髪の女の子は、俺を見るなり笑顔でこう言った。

 

「あなたがモーニングフォグくん?」

 

 ──途端、俺は椅子から転げ落ちた。




今回も読んでいただきありがとうございます!
次回も楽しみに待っていてくださると嬉しいです。
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