それでは、よろしくどうぞ。
「ごめんなさい、あなたの二つ名は知っていたのだけれど本名がわからなくて。嫌だったかしら?」
「嫌ですよ絶対! 俺は朝霧翔真って名前があるんです! 俺がモーニングフォグなのは当たっているんですけど……できれば本名の方で呼んでほしいです」
「わかったわ、朝霧くん」
「ほっ……」
出会うなりいきなり俺のことをモーニングフォグ呼びしてきた金髪の女の子は椅子から転げ落ちた俺を必死に介抱してくれた。
でも、どうして俺に話しかけたのか、どうしてモーニングフォグ呼びをしたのか。俺が彼女に聞くと、彼女は。
「私の幼馴染があなたのことが好きなのよ」
「……え、それって薫のことですか?」
「ええ、そうよ。自己紹介が遅れていたわね。私は白鷺千聖。薫の幼馴染で、パスパレのベースをしているわ。それよりもそうね……あの有名子役の白鷺千聖、と言った方がわかりやすいかしら?」
「白鷺……千聖さん?」
白鷺、千聖。その名前を聞いた時、俺の身体に電流が走る。
白鷺千聖、白鷺千聖って……
「誰でしたっけ?」
「あなた私のこと知らないの!?」
「すみません、あんまり俺も俺の両親もテレビ見ないんで知らないっす」
「あなたなかなかいい性格してるわね……」
金髪の女の子……改め白鷺さんは俺が彼女のことを知らない、と言うとびっくりした顔をしてそう聞いてくる。
いや、でも、そうは言われても知らないんだもん。子役だったって白鷺さんは言ってたけど、その時俺家でテレビ見るより外で遊んでばっかだったから。
「まあいいわ。私があなたに聞きたいのは薫のことだから」
「薫のこと、ですか? どうして白鷺さんは薫のことを?」
「正直言って、あなたがあの子のことをどう思ってるのか心配なのよ……あの子、ことごとく男の子と上手くいかないから」
「あーそれは分かる気がします。うちの学校、薫のことが嫌いな有志男子生徒によって結成された瀬田薫をブラジルに飛ばす会、みたいなのもありますし」
俺がそう言うと、まあ確かにそういう団体もありそうね……と白鷺さん。
実は俺も誘われたことあったんだよ、その会に。でも、俺のことを好きと言ってくれた薫のことを考えたらどうしても入る気になれなくて。
そんな俺に、白鷺さんはこう言った。
「でも、こうして見てみたらあなたは大丈夫そうね。安心したわ♪」
「そうですか、それならよかったですけど……」
「それで、もし良かったらあなたが思っている薫のことを聞かせてほしいの」
え、薫のことをいきなり聞かれても別に答えることなんて何もないと思うんだけど……
俺がどうしてそんなことを聞くのか、白鷺さんに聞いてみると。
「そうね……私の個人的な興味かしら♪あの薫があなたとどんな恋をしてるのか、気になるじゃない?」
……なんて楽しそうに答えるものですから。
もうこれは逆らっても無駄だと思い、俺は白鷺さんに今の薫への印象を話す。
「そうですね……薫が翔真、翔真って慕ってくれる姿は正直言ってかわいいと思います。その他にも、たまに見せる表情にドキッとする時もあります」
「あら、そうなのね」
「でも、それが恋なのかは分からないんです。薫のことを恋愛対象として意識したことは、今はないですかね」
「そうね……これは私の一意見だけど」
そう言って少し考え込む白鷺さん。
それから少し経った時、白鷺さんは、俺にこう言った。
「あなたの話や薫から聞くあなたの話を聞く限り、あなたは心のどこかで恋愛対象として薫のことを好きになっていそうな気がするわ」
「そう、ですかね?」
「薫は言ってたわ。翔真が自分のことを抱きしめてくれたり頭を撫でてくれたりしたって。でも、朝霧くん。そんな行為好きな女の子以外にはしないでしょう?」
「え、あ、そう言われればそうかも、ですね」
「ついてきなさい、面白いものを見せてあげる」
そう言った白鷺さんに連れられ、俺は彼女についていく。
とある家の前に着くと、ここで待っていて、と言われ俺は彼女を待つ。
すると、白鷺さんはアルバムを抱えてドアから出てきて、そのアルバムを開くと、俺にそれを見せてくる。
「これ、薫ですか?」
「ええ、可愛らしいでしょう? 今みたいに鬱陶しくなくて」
「あはは……たしかにこんなかわいい子があの儚いちゃんになるって考えたら少し寂しいものがありますよね……」
「本当よ……」
そのアルバムの中の写真に写っていたのは、幼い頃の薫で。今より少し短い肩ぐらいまで伸びた髪を揺らしながら、嬉しそうに笑っていて。
あ、天使っていたんだ。かわいすぎるわ。と思うくらいには小さい頃の薫は可愛かった。とんでもない美少女拝ませてくれてありがとう白鷺さん!
「朝霧くん、あなたはこの写真を見てどう思った?」
「そりゃまあ、かわいいなあ、とか今とは別人だなあ、とか思いましたけど」
「あら、そう」
「でも、薫の根本的なところはきっと変わってないな、とも思ったんです。薫がモーニングフォグって俺を呼んだ時、ああ、この子はあの時のあの子だったんだって、わかりましたから」
……そんな時、こんな質問を俺に投げかけてきた白鷺さん。
その問いに俺はそう答えると、在りし日の薫のことを思い浮かべる。
引っ込み思案で、そんな自分から変わりたいと願っていて、でもどうしていいのかわからずにいた、ひとりの女の子のことを。
「ねえ、朝霧くん」
「なんでしょう、白鷺さん」
「あなたがどれだけ過去を悔いていても、あの時悩んでいた薫の背中を押してくれたのは、紛れもなくあなたよ」
白鷺さんは、俺にそう言うと優しく笑う。その笑顔は、どこか自然体な気がして。
白鷺さんは優しい顔で、続けてこう話す。
「あの時、私はあの子の背中を押してあげることができなかったから。そんな私の代わりに背中を押してくれたお礼を言っておくわね、ありがとう」
「いえいえ、お礼を言われることなんて俺はしてませんよ。それにお礼されるようなことしてても、モーニングフォグは礼は受け取らない主義なんで」
「こんなこと言うのは心苦しいのだけれど……本当にあなた自分に酔ってるのね」
「過去です! 過去の俺ですー! 今の俺はありがたくお礼受け取りますー!」
ちょっとカッコつけただけなのに! 白鷺さんったら辛辣!
そんなことを考えていたら、瀬田がここまでやってくる。
「おや翔真、こんなところにいたのかい? 一体こんなところで君は何を?」
「ああ、白鷺さんと話してたんだよ」
「白鷺……白鷺ということはもしや君は千聖と話していたのかい?」
「ええ、そうよ」
薫がそう聞くと、俺と白鷺さんはそう答えて。
そうだったんだね、と笑う薫に白鷺さんは、とある爆弾発言をしたのだ。
「そうそう、あなたの小さい頃のかわいい写真、あなたの大好きなモーニングフォグくんに見せておいたから。良かったわね、かおちゃん♪」
「な、な、何してるのちーちゃん! それはダメだよ、翔真にだけは、その……」
「あーかおちゃんの由来ってそういう……白鷺さんがつけてたんですね」
「もう、モーニングフォグくんってば!」
うーん、ちーちゃん、かおちゃん、モーニングフォグ呼びだけはやめてほしいナ♪
いや、待てよ? もしや俺のモーニングフォグ呼びって薫のかおちゃん、とか白鷺さんのちーちゃん、みたいな呼び方に値するもの? そうだよねそうだよね!?
でも浮いてるよな。ちーちゃんかおちゃんモーニングフォグ。絶対モーニングフォグだけ悪目立ちしてるや。
「モーニングフォグのところ、しょーちゃんに変えれます?」
「変えないわ♪」
「モーニングフォグくんはモーニングフォグくんだからね……」
「なんで!?」
一番悪目立ちするモーニングフォグをなんとかしてほしいと二人に頼んでも、二人はそれを嫌がる。
もういいや、モーニングフォグでいいや俺。落ち込む俺に、白鷺さんはこう言った。
「ところで薫、あなた朝霧くんのことを探してたってことは彼に話したいことがあるってことよね?」
「あ、ああ、そうなんだ。今日は彼に会いたくて」
「それなら、後は二人で話してちょうだい。私はそろそろ仕事があるから失礼するわね」
「はい、今日はありがとうございました、白鷺さん!」
そう言って去っていく白鷺さんに手を振ると、俺は薫の方を向く。
すると薫は、俺に向かってこう言った。
「少し、歩かないかい?」
今回も読んでくださりありがとうございます!
次回もお楽しみに!