IS to family   作:ハナのTV

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中間話です。


ウサギは踊る

地図にも載っていないような小さな島。ここは太平洋のどこか。青い海に砂浜のある美しい風景にニンジンの形をした場違いなオブジェがあった。正確にはオブジェではなく、居住可能な移動式ラボ。平たく言えば空飛ぶトレーラーハウスだ。そこが新たな職場だ。

 

俺はクロエと共にキッチンに立っていた。簡単な料理を教えているのだ。

クロエがフライパンのふたを開けると、そこには端が少し焦げてはいるものの、潰れていない太陽が二つそこにあった。

 

「うまくいったじゃないか」

 

少し微笑んで言葉を口にするとクロエが少し頬を赤くする。照れているようだ。

 

「はいっ。上手くいけました」

 

そう言ってフライ返しで目玉焼きを取って皿に載せた。

 

「でも、こんなものが料理と言うのでしょうか?」

 

クロエが疑問を口にする。少し、世間知らずなためか目玉焼きを料理とは思わなかったようだ。無理もない、クロエは束の話によると試験管ベビーだ。

 

生まれからして普通ではないし、育ちもかなり特殊だ。あれは束と出会って一か月としない日だろうか、束が手を離すことができず、ボツワナでクロエと共に食料の買い出しに行ったことがある。

 

その時、現地の子供に話かけられていた。彼らはクロエの長くて白い綺麗な髪の毛について話しかけていた。どうやったら、そんな綺麗な髪になるのか、とそう聞いていた。

 

クロエは言語能力において話すことはできたが、他人と話したことがあまりないためか、クロエにとって彼らは恐怖の存在の様に思えたようで、何も話さず、束に逃げて来た。

 

俺はそれ以降、束と相談して積極的に外に出すべきと申し出た。束は難色を示したが、後々を考えて了承してくれた。彼女なりにも悩んでいたようだ。

 

束はその才能故に随分と孤独に過ごしたらしく、コミュニケーション能力はかなり限定的である。こうして見ると、このラボの中には普通の人間がいない。

 

天災と人殺し、アルビノ と変わりものだらけだ。

 

「スレートさん?」

 

随分と長いこと考えていたため、返答が遅れてしまった。

 

「いや、すまん。 目玉焼きも料理さ。単純故に難しいしな。」

「そういうモノなのですか?」

「そういうモノだ。」

 

皿をテーブルに置いていると偶然、手が触れ合った。

俺は反射的に手を引っ込めてしまい、皿を落とすところだった。いつもと違って動揺したためか、クロエが首を傾げている。

 

「悪い……束を呼んでくれ。前菜ができたと」

 

一言残してその場を離れる。不意に子供の手を触ると、いつもこうだ。まるで恐れでもしているかのように動揺する。

 

こんな時はいつも酒でアルコールで心を癒すのだが、今はそれもできない。そのことを恨めしく思いながらメインのポトフを作ることにした。

 

 

 

 

 

「スー君、まだぁ?」

 

俺の現在の雇い主の声が聞こえる。カチャカチャと金属音をだし、テーブルを叩く。行儀の悪い子供と同じでジタバタしている。

 

「今できた、待っていろ。」

 

そう言って俺は金属の筒を持って雇い主の前に姿を見せる。

筒を開けて中身を取り出す。中身は先ほど作っていたポトフだ。

雇い主である篠ノ之束とその付き添い人クロエ・クロニクルが深皿によそわれたポトフを口にし各々感想を口にする。

 

「美味しい」

 

素直に喜んでくれたのはクロエだ。多少対人関係に難はあるが素直でいい子だとおもう。

 

「美味しいけど、こんな暑いところでポトフって・・・」

 

だが、その保護者たる束は全くもって違う。基本自分の思った通りでなければ,すかさず文句を言う。

 

「残り物の食材で調理したんだ、感謝の一言ぐらいは欲しいな」

 

文句は言いつつ、束は食べるのはやめない。フォークでじゃがいもをつついて口に運ぶ。

 

「てか、スー君が料理できるってなんか気持ち悪いなぁ。エプロンまで着てるし。三十のオッサンなのに」

「労働環境の改善に手を尽くしているんだ。ありがたく思って欲しいな。なんなら雇い主様の手本を見せてほしいね」

 

鉛玉には、鉛玉を。悪口には悪口を 家訓通りに対応してやる。目玉焼きひとつ作れない束の皮肉を言うと、頭痛が少し起きた。束の仕返しだ。打ち込まれたナノマシンによって俺の身体をコントロールするのだ。

 

それだけなら最悪な物だが、それなりにメリットもある。このナノマシンは毒物などを分解してくれる作用や、美肌などの効果がある。

 

とは言え、これによって、いけ好かない女にこき使われ、アルコールまで分解されて酒を飲む楽しみが消えた。

 

飲んでも酔えないのは何とも興に欠けるものだ。

 

「まあ、いいけどね。スー君のおかげで美味しい料理も食べれるし、掃除もしてくれるしそこいらのごろつき程度は片付けれくれるしね」

「全くだ。クロエに料理を教えろ、だの。野生のマンゴーを取りにいけだの、ピンクのペンギンを見つけてこいだのと仕事に困らなくて、楽しい限りだよ」

 

言い返して、自分でもポトフを食べる。いい塩梅でできていて満足する。

腹に詰め込みながら、俺は束に問う。

 

「ところで聞きたいんだが、何故この島に来たんだ?」

 

チラッと束の顔を見やる。彼女の顔は相変わらず薄気味悪く笑っているが、少し雰囲気が変わったことに俺は気づく。

 

「スー君はせっかちだねえ。そんなに仕事がしたいんだ?」

 

食べ終えた食器をテーブルの隅に追いやり、形のいいヒップがテーブルに乗っかった。

 

「誰だって暑い夏に仕事を持ちこしたくないさ」

 

顎の無精ひげを撫でて、仕事の話をするようせがむ。

 

「いいよー、仕事熱心で。束さんも優秀な奴隷君がいて助かるよ」

 

そう言ってテーブルから立体ヴィジョンを起動する。島の全体像が浮かび、地下に施設があることが見て取れた。

 

「ここは昔、実験場だったんだよ。いろんなものを試験運用してたんだよ。束さんも何回か行ったことがあったなぁ。束さんの発明品もここで試験されてたんだ」

 

かつての実験データが表示される。試験機体の様で名はゴーレムと言うらしい。ビーム兵器を標準装備した異形のIS。驚愕すべきは無人機という事だ。

 

無人のISと言うのは現在どの国も完成できていない。戦闘機などの直線的な機動でもラジコンのように操作する必要があると言うのに、ISなら尚のこと困難だろう。だといのに、この機体は完全自立型AIで動くのだ。

 

「おっかない物作ってたな。こいつを奪いに行くのか?」

「いや、取り返しにね。」

 

 

 

 

 

実験場内に入った俺たちの前に現れたのは、一種の戦闘集団だ。黒一色の装備品に身を包まれた連中と鉢合わせになってしまった。その場で戦闘となり、施設内は戦場となった。

 

ただ、この戦闘は十分と掛からなかった。敵対勢力の主な装備はUMP45などのサブマシンガンと45口径の自動拳銃などだった。対するこちらは、世界最高の頭脳が完成させたISである。

 

勝負は終始圧倒的だった。低出力のレーザーでケプラー繊維ごと肉体を切断して終了。焼けた肉の香りが辺りに立ち込め、その後に鉄くさい匂いが鼻を刺激する。

 

「しばらく『焼き肉とモツは食えないな。』

 

辛うじて生き残っていた連中にも9mm弾で介錯してやっていると、悲鳴が聞こえた。聞こえた方向に首を回すと白衣を着た男女の集団がいた。

 

「アレアレ~、まだ生き残りがいるじゃん。スー君」

「どうやら、お友達のようだぞ」

 

束が物陰から出てきて研究者たちを見やる。

 

「嫌だなー、あんなのと一緒にしないでよ。」

 

無邪気に笑う束。この女にとって赤の他人の死体などはどうでもよいようだ。真っ赤に染まった部屋の中だろうと、彼女に変化はなかった。

 

「あ、あなたは・・・・篠ノ之束?! 何故ここに?!」

 

白衣集団の一人が声を大にして叫ぶ。目の前の光景に怯えながら、状況を把握しようと努力している。

 

「ああ、言ってるが どうする?」

 

一応、雇用主の意見を問う。上司の命令があるまでは手を出さないのが、

「雇われ」の鉄則だ。

 

「ん? ああ、いつも通りで。」

 

了解、と短く答えて9mm弾を撃つ。冷静に判断しようと口を開いた結果が最初の犠牲者として死ぬこととなり、同情する。口は禍の元とは言ったものだ。

 

「やめなさい! あなたは誰を殺そうとしているのか、わかっているのか?! 我々は世界で認められているのですよ! 私たちの存在がなくなれば、世界にどれ程の損害か」

 

女性研究者がヒステリックに口を開いた。権威を盾に、私たちの損失は人類の損失といわんばかりの傲慢なセリフを並び立てたが、可哀想に。目の前の女が誰か正しく理解してなかったようだ。

 

「うるさいんだよ。低能が。人類の損失う? つまり自分たちは貴重な存在だから、殺すな、言う事聞けって事? そう言えば何でも叶うって訳? 成程ね。じゃあ、束さんが命令します! スー君に無残に殺されてください! そうすることでより、より優秀な私がスッキリするから」

 

研究者たちの顔が土色に変わる。彼らは命乞いをする方法と相手を間違えたのだ。俺はオーダーのとおり、無残な姿に彼らを変えてやった。レーザーで頭部を横半分に切り 人類に必要な頭脳とやらをむき出しにする。

 

「さすが、世界的頭脳だ。綺麗なもんだ。」

 

俺が皮肉を言って連中の身ぐるみを探ると、身分証が出てきた。

 

「米国IS調査委員・・・? こんなところにか?」

 

その横で束が一人の死体に近づいて頭を蹴り飛ばす。騒いでいた研究者の頭はカラッポになった。

 

 

 

 

階段を降りると人が三人程横に並べられるほどの狭い一本道に出た。あたりにコンテナが散乱し障害物だらけで視界があまりよくない。

散らばったコンテナを退かしていくと、核シェルターのような頑丈な扉の前にたどり着いた。

 

「さて、愛しのゴーレムちゃんと対面だよ、スー君。拍手!」

 

仕方なく拍手する。普段なら、逆らうこともするが、今は周りを警戒したいために不用意な発言をして束に折檻を喰らうと集中力が下がる。

 

「早いところ、ご対面としてくれ。まだ、連中がいるかもしれないしな」

そう言って左腕だけを展開してISの格納領域と呼ばれる武器等を量子変換して仕舞う便利なポケットからAK47をカスタマイズした物、アンダーにフォアグリップをつけたカスタム銃を手に、周囲を警戒する。

 

「ISがあるんだから、そっち使いなよ。 何で、そんなビンボーな小銃使うかなぁ?」

 

自分の発明品を使わないことに不満を抱いたか、俺に向かって束は愚痴る。

 

「おしゃぶりと同じだ、これがあると落ち着くんだよ。それにこう狭いとISの火力は強すぎて邪魔だ。」

「いい加減、銃離れしまちょうね~ スー君」

「うるさい」

 

赤ちゃん言葉を使われ少しむっとする。

一本道の狭さを見て、俺の所持しているISにとって、これは狭すぎるのだ。機体の特性上仕方ない。

 

「まあ、いいか。 さて行くよー」

 

端末を扉につなぎ、人間離れしたスピードでキーボードを叩きハッキングを行う。次々とロックが解除されていく。

 

「エエエンド オープーン!」

 

ふざけた調子で宣言すると扉が解放された。重く、金属同士がこすれあって嫌な音が響き渡る。ゆっくりと開かれた扉の向こうには上半身と下半身が分かれたゴーレムの残骸が一機横たわっていた。

 

「コイツがお目当てか?」

 

束に聞くと、彼女は無言で横になったゴーレムに駆け寄って調べ始め、扉と同じように端末を繋げた。すると、ゴーレムの胴体から一つの小さな球体が姿を現した。幾何学的な模様をだし、弱弱しく光っている。

 

「コアか?」

「そう、傷ついてるけど。これなら修復できる。」

 

そう言って束は自分の領域にしまった。

立ち上がって周りを見回して言葉を吐きだした。

 

「ゴーレムの数が足りない。ここには三機あったはずなのに・・・二機いない。」

「一機はソイツか」

「そうだよ、どっかのゴミ屑が持って行ったんだよ。 ムカつくな~、護衛役の束さんのゴーレムをこんなにしちゃうし。」

 

抜け殻になった残骸を見やると、相当ひどく損傷していた。特に目が行くのはその傷跡だ。バーナーか何かで焼いて切ったような跡。明らかにレーザーか何かの類だ。

 

さらに部屋を見渡すと、驚いたことに壁に目立った外傷がないのだ。

 

「部屋を見てみると、傷もないから一瞬で組み付いてやられたんだろうねえ。やるねえゴミ屑の割に」

 

束がニタニタと薄気味悪く笑う。

 

「楽しそうだな。」

「まさか」

 

短い言葉の応酬をして部屋を出ることにする。その最中に今後の予定を話し合う事にした。

 

「来ていたのはアメリカ人どもだ。どうする?」

 

早足気味に歩いていると束は振り向かずに答える。

 

「そこまで言うってことはスー君、この後、どうするか分かってるんでしょ?」

「まあな」

 

歩きながら、煙草を取り出し、火を付ける。研究員と部隊から失敬したものだ。

久しぶりの一服は心地いものだ。

 

「タバコなんてやめてよね。臭いし、体に悪いし。クーちゃんのことも考えてやめなよ」

「消し炭ばかり食うよりかはマシさ。それにラボの外ぐらいならいいだろ」

「煙オヤジめー」

 

二人で歩いて外に出ると、ラボが目の前に現れる。重力を完全に制御した機動で静かに着陸する。

 

「お帰りなさい、束様 スレートさん。どうでしたか、結果は?」

 

クロエがラボの扉を開け、成果を聞く。束はクロエに抱き付いて頭を撫でながら報告する。

 

「ただいま!クーちゃん。 コアを一つ手に入れただけだったよ。それと……」

 

束が太平洋の海を見やって言った。

 

「標的が決まったよ。」

 

そこに見せたのは天災として貌だ。美しいくもあるが、恐ろしい束の顔の一つだ。

 

標的はアンクルサム、アメリカ合衆国に決まった。

 

俺は一瞬、何人犠牲になるか、と疑問に思ったが、すぐにやめた。俺にとってどうでもいいことだ。俺にも目的がある。ソレを果たすためには彼女に協力する必要があるのだ。

 

遠い昔に置いてきてしまった、あの子。別れ際に俺の手を引っ張り、アメジストのような瞳を俺に向けれくれた、可哀想な子 もう一度やり直すためには束に協力するしかない。

 

太平洋の海の上でも太陽はあの頃と変わらず、こんな俺に光をもたらしてくれていた。

 

悪党にも太陽は平等なものだ。

 

 




黒幕? な人たちのお話です。
しばらくはこういった間話が多くなるかもしれません
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