オーディオプレーヤーから音楽を流しながら、仕込み刀を入れたステッキを一度抜いて、感覚を確かめる。杖の柄を引いて、顔を出す白刃はキラリと輝いて、私の顔を反射した。
白くなった髪の毛を撫でつけ、これから起こす戦いに向けて準備を進める。戦いに必要な準備は3つ。心構えと装備の確認、そしてドレスコードだ。
IS学園にはいくつか仕込みをしたことで、向うの行動や状況は手に取るようにわかる。わざわざ、派手に学園の校舎や施設を破壊したのも、不慮から来るものではない。
諜報はテロ組織の基本だ。基本的に兵器や兵士の練度、兵力で負ける以上は地元民との連絡を密にするなどして、先手を取ることが肝心だ。
そういう意味で、若かったころの教訓は良く生きていると言えた。
ステッキにしまい込み、次にトランクの中から、スチェッキンとVSSを取り出し、拡張領域に格納し、品のいいダークスーツに身を包む。
そうしていると、電話が鳴り出した。型落ち気味のスマホを手にして、通話ボタンを押すと、耳に女の声が聞こえた。ハープの奏でる優雅さがうかがえる声だった。
「何の用かね? スコール」
『間に合ってよかったわスパルタク。また勝手に出撃する気でしょう? 貴方』
いつの間にか私の行動が知られていたことに特に驚きもせずに、私は彼女と言葉を交わす。
「勘かね? 全く君やオータムといい、私は余程信用がないのだな」
『信用がないのも信用でしょう? 私達の出会いからして、そうでしょう?』
私は彼女の言葉に笑った。思い出すのは二年ほど前のことだ。当時の私は彼女を暗殺するために近づき、彼女はそれを待ち構えていた。
クライエントが彼女の戦力を教えなかったというのもあったが、私は依頼を完ぺきにすべく、あらゆる手を使い、彼女の寝室に忍び込み、刀剣を突き刺したはずだった。
しかし、そこで出てきたのはスコールだけでなく、オータムとの二人だった。白兵戦では私に分があると思ったが、二人の戦闘力は想像をはるかに超えて、また彼女の部下は精強であり、足止めに用意した五倍以上の傭兵は短時間のうちに殲滅されて、敗北した。
そこからは、私も彼女の猟犬の一匹となった。思えば、忌々しい思い出の一つだが同時に魅了されたのも事実だ。
そんな過去を懐かしみながら、私は彼女と話し続ける。
「では、どうする? 私を止めるかね?」
挑発気味に聞いてみたが、彼女は薄く笑うのみだ。
『いえ、手伝おうと思うわ。そのための彼女なのだから』
私はステッキから刀身を抜き出して、後ろの人物に突き付けた。横目で睨み付けると、後ろに姿を見せた少女はニコニコと無邪気そうな笑いを見せていた。
「化け物も連れていくのか?」
『貴方、前菜も楽しむような人じゃないでしょう?』
「確かにな」
要は本音を連れて行かせるのは私の露払いのためだと言うのだ。メインのみを狙う身としては確かにありがたい提案だが、その役目を行うのが本音という事に私は若干の不満を覚えた。
仕事を第一とするトカレフやオータムのような職人気質とも違い、幼いユーリのように絶対の忠誠を持つ兵士でもない彼女を後ろに控えるのはあまり望ましい事ではない。
たとえ、私と同じように扱うにしても、彼女の行動原理が不可解であるため、ソレも難しい。
その上で、もう一人の人物を思い出した。まだ、彼女の方が信頼がおける気がした。
「マドカは使ってはいけないのかね? 私としてはあちらの方が信用できるのだが」
『ダメよ。だって、仇を前におあずけを二回もするのは流石に可哀想でしょう。それに、フランスの子とのお付き合いもあるわ。お友達に悲しい思いはさせたくないわ』
私はチラリと、一足先に睡眠をとっているマドカの寝室を見て、訊いた。
「老婆心かね?」
『大人の思いやりよ。だから、本音をつけてあげるわ……どうしたの? 喜んでくれてもいいのよ?』
そう聞いて、コレはスコールによるささやかな嫌がらせの一種なのだと確信した。
彼女なりの悪戯心という訳だ。私は声を上げて笑い、彼女に答えを述べた。
「感謝する、スコール。これで私の研究の証人ができたというものだ」
私が生涯をかけて掴むと決めたたった一つの真実、それを嘘か真か、見届ける人物が来たと思えばいい。私はそう自分を納得させた。
『貴方の研究……私は気に入ってるのよ。中々ロマンチックで』
「ありがとう、スコール。 後は好きにやらせてもらう……世話になったな」
私は最後の一言にだけ本心から込めた礼を言った。私に機会を与えてくれた人間に対して、礼を言わないわけにもいかなかった。
彼女は私に、道具と時間をくれた。そして、上手くいけば今日ないし、明日にはそれが叶う。夢と言うほど綺麗なものではない私の野望は完遂に近づいたのだ。
『そうね。貴方の野望が達成されることを祈るわ……一足自由になる兵士に祝福を』
電話が切れた。女神からの祝福を受けて、私は携帯を電子レンジに入れて、スイッチを入れた。スパークが一瞬走って、携帯は真黒な姿に成り果てデータを含むすべての機能を失った。
そんな私に本音が近づいて背中に張り付いた。高校生の女子にしては発育の良い体を彼女は恥ずかしげもなく押し付けた。彼女もまた、スコールと同じ茶目っ気がある人間だった。
「何の真似だ?」
「ねえねえ、野望って何? スパ爺~」
本音の甘い声が耳に届いた。私は3歩分だけ彼女から離れて、ステッキの切っ先を向けた。彼女は相変わらず、ニタニタと笑うだけだが。
この少女が何を思っているかはわからない。五十を超え、人生の峠を乗り越えた私でも彼女の真意を測ることはできない。それも当然と言えば、当然だ。人間でもない、化け物の心理を人間がどうして解せると言うのか。
人は別種の物を理解などできない。スラム街の人間と王族の人間が互いを理解できないのと同じだ。
しかし、だからこそ私はこの化け物に私の野望を教えることでどういった反応を示すか興味がわいた。また、これから背中を預ける人間に何も話さないと言うのも失礼になるだろう、と感じた。
「聞きたいかね?」
今一度問うと彼女は二回大きく頷いた。それを見て私は話す気になり、それを話した。
「私の祖国はソ連だ……1980年ごろに私はアフガンへと飛んだ。当時の私は新任の士官で、祖国の望みに適うべく働いた。資本主義との争いに向けて精強な兵士を作ると言う目的をな」
当時、まだ二十代の少尉の私には祖国愛が確かに存在していた。そして、耐えざる訓練の連続と幾多の戦場の経験がソレを叶えると信じていた。
そのためには感情をできるだけ殺し、機械の如き正確さで命令を実行することこそが理想の兵士である。その信念の元私は部隊を指揮し、大勢の新兵を歴戦の猛者へと変化させていくことに喜びを感じていた。
「今思えば恥ずかしい限りだが、機械の如き兵士が理想だと信じていた。感情を持った兵士などはゴミだと疑わなかった」
本音に過去の写真を見せた。古い写真に写る私の顔は油と煤、砂で汚れており、手にはAK74自動小銃を手にしている。その後ろには幾つもの戦場をかけた部下たちが並んでいる。
「でも、違ったんだね~。それに気づいたのはどうして?」
「……ある日の事だ」
ありふれた村落つぶし。アフガンゲリラに苦しむソ連軍もベトナム戦争の米軍のように虱潰しにゲリラを狩っていた。
そのために幾人かの無辜の民に犠牲になって貰ったことも少なくはない。その日も私は分隊を率いて、小さな村に侵入した。AK自動小銃、ドラグノフ狙撃銃を装備した歴戦の兵士たちが続き、家屋一つ一つを調べて言った。
もっとも、この村にいたとされるゲリラも以前の攻撃でほとんど壊滅。戦力などないに等しく、簡単な任務のはずだった。だが、その日に起こったのは理不尽な現象だった。
銃声が数発か鳴り響き、仲間の悲鳴が聞こえた。その声は一つ、また一つと聞こえては消えていった。
誰かが潜んでいる。猛者がどこかに潜んでいて、我々を狩る気でいる。そう感じた我々は円陣を組み、状況に備えた。部下たちは呼吸を荒くし、かつてない緊張感に喉を鳴らした。
神経を研ぎ澄まし、聴覚を頼りに敵の気配を探した。そして、土を踏む音が微かになったのを聞いて、膝をついてAKをフルオートにして壁越しの誰かを貫いた。
仕留めた、そう確信を持って息を吐いた。三十発全てを撃ち切ったマガジンを交換し、確認しようとし、立ち上がった時、男の雄たけび、いや絶叫が起こった。壁越しの誰かが姿を表し、十数発の弾丸を浴びたはずの体を動かしたのだ。
銃身の歪んだPKM軽機関銃を構えたその男は全ての弾丸をロクに照準もつけずに乱射した。部下たちは倒れながらも反撃をした。
ドラグノフやAKなどの弾丸も男を貫いたが、男は倒れずに乱射し続けた。死兵と化した男は痛覚を完全に遮断し、命が尽きるその時まで銃を撃ちつづけた。
全てが終わったとき、奇跡的に生き残った私が捉えた、その男の姿は信じられない物だった。その男の肉体は訓練された兵士とは程遠く、死んで固まった表情は安らぎを得たものだった。
男はただの山羊飼いにすぎなかった。ゲリラでもない、胸に家族との写真を仕舞っていた唯の父親に過ぎなかったのだ。男は家族が逃げる時間稼ぎをした、そう判断した。
我々、屈強な兵隊は唯一人の父親の家族を守ると言う愛情の前に壊滅した。受けた弾丸は大きいものから小さいものまで、二十を超えていた。
その姿は私のそれまでの確信を壊すのに充分だった。
そして、私は一人その場で大笑いをした。狂ったわけでもなく、部下を失った悲しみからでもなかった。
ただ、世の理不尽によって、崩された私の理想を何と下らないものだったのか、と滑稽に思いらだひたすら笑った。
「愛の力、こんなものが私達を破った……私は知りたくなった。感情と言う力が人間に信じられない力を授ける物なのか、そしてソレを使いこなせるのなら、それこそが優れた真の兵士ではないかと」
そこからの私はひたすら研究に没頭した。KGBやスぺツナズに入隊し、己を律する一方で、機械的な兵士と感情を持つ人間的な兵士の差を観察し、特異なケースを徹底的に調べつくした。
そして、最高の兵士は普通の人間では作ることはできないと察した。感情を持てば、良心の攻めに苦しみ、機械になれば、感情の力を発揮できないからだ。
だから、特殊な人間、それもまだ道徳を知らない幼子で、将来肉体的に恵まれるという見込みがある子供が必要だった。それがユーリなのだ。
彼は私の望み通り、戦場で苦しむことなく、戦友や恋人の為に力を発揮する、都合のよい人間へとなった。後は最後のテストを行うだけだ。
「悪趣味だね~」
本音は一言感想を述べて、その続きを述べた。
「そのために、ユーリを当たり前の人間にするために、野に放した。友達と恋人を作らせて、その力の原動力を作らせたんだね~。酷いな~、人でなしの外道爺~」
ひとしきり笑顔で罵った後、表情に陰を作って見せた。目から恐ろしい眼光を覗きかせた。
「ホントはスパ爺も化け物だって気づかないの~? 普通はそのために半生つぎ込もうなんてしないんじゃ無いかな~。形もないあやふやな力を付加した兵隊さんなんて、ロマン過ぎるよ」
本音の顔を見て、私は笑顔を作った。この化け物じみた女子が言うには至極まっとうな事で滑稽に思えたからだ。化け物の割に真面目な事を言うのだから、笑いをこらえるなどできようがなかった。
「貴様が言うか、本音。幸せなどと言う、異なる価値観の代物を貴様の大切な者すべてに与えるという貴様が」
誰が何と言おうと、私の研究が変わることは無い。以前、人は酒と似ていると言ったが、今回はその言葉が正しい表現だと言えた。
材料は揃っている。決してPTSDにならない最高の適性を持つユーリ、彼を取り巻く、仲間、恋人、組織。それら全てを混ぜた一杯のカクテルの味を確かめようと言うのだ。
戦闘技術を全て叩き込んだ最高の兵士であるユーリが感情と言うままならない物を力に変えた時、どれ程の物になるのか。
機械ではない、人間の兵士のみが出せる力を手にした奴と戦い、あの時をより最高の状態で再現する。それが私の望む最高の兵士の創造だ。
「私は最高の兵士を創造した。それが間違いか、どうか、今日わかるのだ。それを見届けてくれるかね?本音」
そう懇願すると本音は薄く笑って答えた。
「いいよ~。でも、スパ爺……全部はスパ爺の望みどおりにはならないよ。だって、かんちゃんが好きになった子だから」
「ほお、自信があるようだな」
私は称賛する口調で彼女に言った。本音はニコリと薄気味悪く笑って答えた。
「私はかんちゃん達の幸せを望む、貴方に協力するのはそれがつながるからだよ~、スパ爺。スパ爺こそ、頑張ってね~ 私達の為に」
IS学園の校舎の時計塔のように高い塔の上にEOSを起動したままで、立ち見下ろす。こうしてユーリが普段学園生活を楽しんでいるであろう校舎を見下ろすのは中々感慨深いものがあった。
言うなれば、一人息子の学校なのだからその思いも当然だった。この成長を喜ばない親はどこにもいない、と言う教育者の言葉は間違っていないのかもしれない。
この学園が彼に新たな力を吹き込んだ、それだけでも感謝を感じざるを得ない。
今なら、この学園に対して讃美歌を歌ってもいい、そんな事すら思い、夜の月を見上げた。
今日は星々から、何まで私を祝福しているに違いない。
満月と星のみが明るいこの場所で私は一振りのブレードを取り出し、月の加護を受けさせるかのように月光に照らしていた。
すると、EOSのセンサーが急速に近づくISを捉えた。速度は常時瞬時加速をかけたかのような速さだが、飛び方に芸がなく真っ直ぐこちらに突っ込んでくると言うだけだった。
その機体は私の目の前に現れて、校舎の屋上に着地させた。髪の毛を後ろで縛り、尻尾のように垂らしている日本人の少女。彼女を纏う赤い装甲と二つのブレードを見て、唯一の第四世代機 紅椿と篠ノ之箒であると確信を得た。
サムライの心と言うのか、速度を利用して背後をついたりしないのが不思議に思えた。それとも、自信の機体と腕に余程自信があるのだろうか
少女は右手の刀の切っ先を向けて、警告を発した。
「今すぐ、この場から立ち去れ。でなければ、その刀ごと、貴様を斬る」
「ユーリはどこかね? ホウキとやら」
私は彼女の警告など聞く耳を持たずに質問した。私はメインにのみ興味があって、それ以外は基本どうでもいいのだから、この手のもてなしは不要だった。
「貴様に言うと思うか?」
「なら結構」
一語だけ返して、足をバネにしてブレードで少女の頭を狙い、突きを繰り出した。少女は反応し、それを二つの刀で受け止めた。
その反応速度は高かった。少女の反射神経だけでなく、機体の追随性も非凡なものだと、察するには難しくなかった。
「貴様……!」
紅椿の足に力が入り、右手の刀に僅かに力が込められた。そして、左手の刀剣でEOSの両手持ちの剣を押し出して見せた。通常出力では勝つことはできないと判断した。
パワーではこちらが負けているようだった。だが、焦る必要は全くなかった。私は彼女の横薙ぎに払われた右手の剣を左手のガントレットでいなし、その場で右足を軸に回転し柄の部分を右手の甲に叩きつけた。右手の刀が一瞬手を離れ、彼女の顔に焦りが見えた。
箒は機体を前に出して、一度離した刀を掴みとった。その無防備な背中に振り下ろしたが、紅椿の旋回速度が速く、何とか左の剣で防いだ。
剣に心得があるらしく、日本刀型のブレードをいなして、刃の状態に気を配っていることから相当鍛錬を繰り返したと見える。
EOSで五歩分バックして、中段で構えて少女を見る。
「お見事」
「黙れ!」
スラスターを一気に吹かし、音速の突撃と二本の刀を十字に構え、飛びかかって来た。一撃目の突撃を弾くと、右手の刺突が迫り、更に横薙ぎ、袈裟懸けとつづける。左手は線、右手は点と、攻撃を続ける。
弾き、いなし、受け止める、と防御に回る。敵機は片手でこちらの両手持ちと同じパワーを発揮する。斬撃も突きも鋭く、熟練された手つきであろう。
そこで、刀剣を手放し、落としたふりをする。ブレードが宙を舞い、はるか後方に突き刺さった。武器を失い、少女の顔に勝ったと確信を表した。
「ここまでだな」
そのセリフを言ったのは彼女ではなく、私だった。一歩彼女のブレードの内側にスルリと入り込み、正拳突きを腹部に撃ちこんだ。
少女が苦悶の声を吐き出した。髪の毛が上下に揺れて、瞳孔が左右に揺れ動く。
左手を掴み、スラスターで上昇し彼女の後ろに回り込んで捻り上げた。
空いた左手にナイフを展開し腎臓の箇所に一突き、二突き、と攻撃を加える。短い悲鳴とナイフが装甲を穿つ音が奏でられ他後に紅椿はパワーを全開にして拘束から離れた。
離れながらも、振り向きざまに刀を振るう。その一撃が届く前にEOSの靴底に仕込んだナイフで首を斬りつけ、顎を最大出力で蹴り飛ばす。ISを纏った彼女は校舎の屋上にバウンドし、校舎への入り口部分へと激突した。
空いた右手にロングマガジンをつけたマシンピストルを取り出して、フルオートで土煙が上がる場所へと連射する。
絶対防御を発動させること、三回。それに加えて小口径弾とはいえ、フルオートマチックのピストル射撃、普通なら撃破されているはずだ。
しかし、次に起こったのは発光現象だった。金色の光が視界に入り込んで、センサーにISの高エネルギー反応が示された。敵シールドエネルギーの回復を捉え、私は目を細めた。
面倒な物を積み込んでいる、そう感じざるを得ない。さらにもう二つのエネルギー反応が迫った。一つは光学兵器、もう一つはISそのものだった。
「箒!」
後ろから白いのが一機、上段からも振り下ろし、右からは青い光弾、前からは回復した紅椿、三方向の攻撃、回避は絶望的に見えるが、そうでもない。
「歳のせいで体がついていかんのだがね」
ナイフを逆手に持ち、振り返って白式の一撃を反らし、同時に若者のやるブレイクダンスのように逆立ちから足を広げて、つま先の刃を紅椿の脚部に当てて足払いをし、バランスを崩し、前のめりにさせる。
崩れたバランスを整えようとする、篠ノ之がいるのはさっきまで私がいた空間、つまり、ブルーティアーズの射線上に位置することなり、光弾が彼女の脇に直撃する。
吹き飛ぶ篠ノ之に目を向けた織斑に、間髪入れずに、スラスターを起動し、その場で独楽のように回転して刀身にハイキックをぶつけ、よろめいた白式にマシンピストルを全弾撃って後退し、腕からワイヤーアンカーと呼ばれる、特殊ワイヤを射出し、自信のブレードに巻き付け、白式に鎖鎌のように刃を叩きつけた。
後退する織斑に向かい、ブレードの柄を握り、跳躍とスラスターの合わせ技で宙へと舞い上がり、体の陰になるように刀を構えをすれ違い、織斑の後ろで一瞬振り返って、校舎の庭へと着地する。
何が起こったのかわからない織斑の顔だったが、呆けた顔が次の瞬間、大絶叫を上げた。
胸に位置する装甲がスライスされ、後ろの天使を思わせるような白い羽根型のスラスターが根元から切り取られて、エネルギーに引火し暴発。
白い機体は瞬時に黒へと染まり、血の代わりに粒子をまき散らして地へと堕ちてゆく。
姿勢保持のためのスラスターを利用し、回転をかけた特殊な瞬時加速。
多少機動に自信があれば、誰でもできる技を多少早く行い、人間で言う心臓と喉を斬り、とどめに背中に振り下ろすというだけの技。
技術的に下の下のものをISのセンサーに捉えきれない程度に行うだけの簡単なものだ。
織斑の撃墜に怒りの感情を宿したのか、青い光弾を放つスナイパーが連射を繰り返す。
どの射撃も正確だが、連射しているため僅かばかりに精度を落としていることに気付いていない。そして、光学兵器の欠点である、射手の位置の露見のしやすさにも。
ダガーナイフを抜き取って、射手に向けて投擲し、ナイフが光弾に三発ほど耐えて溶解する間に空いた手の内にVSS型の消音狙撃砲を取り出して、溶鉱炉で解けたかのように赤く光った液状のカーボンブレードの先に見える青い雫を狙撃する。
ダブルタップの二連続の連射でライフルと射手本人を穿ち、その成果をスコープ越しに確認する。追撃の為にもう二回行って、戦闘能力を奪う事も忘れない。
これで、撃破は二機、そう思ったが、敵は老人の私に優しくは無く、もう三機の反応を示す。
月光をバックに姿を現した一機目は重装甲に身を包んだグレイイーグルであった。最大速度で突進し、マニュピレータ―に握られたマチェットを振るった。一歩分後ろに下がって、金属の刃による殴打を回避するとともにライフルを背中にマウントする。
パワーは紅椿程ではないが、凄まじく地面を大きくえぐった。そして、後方から線の細いモノアイのハヤブサ長いライフルの先に着けた銃剣で心臓目がけて突く。上半身だけの動きで全て避け、肘鉄で頭部を殴りつけ、回転の遠心力を利用したブレードの斬撃を背部へと直撃させた。
一瞬の判断でハヤブサはライフルの銃床を盾にした。ブレードが銃床に深く食い込み、ハヤブサへの斬撃は浅くされてしまった。直撃を防いだが衝撃のエネルギーを操作し出来ず、グレイイーグルと激突する。
本来得意である面制圧力のための飽和攻撃と狙撃を封じ込められた二機に同情を僅かに覚えたが、そんな二機とは違い、得意の得物が残っているラプターが頭上から降ってきた。
猛禽類のような唸り声を上げるスラスターの音を聞きながら、ブレードではなく、二本目のナイフでレーザーソードを刹那の時間の内だけに受け止めて、バックステップを二回行って距離を取る。
特殊なカーボンの素材でできたブレードと違いナイフは一回の触れ合いで根元まで溶断され、赤熱していた。
地面に降り立ったラプターは地面を二回ほど蹴って加速に利用し、再びX状のウイングスラスターから爆発的な火を噴きださせて、右手にレーザーブレードを、左手にヒートナイフを握り、急接近する。
スラスターを使い後方へと下がりつつ、高度を取り、消音狙撃砲を背中から取り出し、ラプターを狙い、ダブルタップの二度撃ちで迎撃する。
左、右へとラプターはランダムに回避行動を行いつつ、私の下に潜り込んで急上昇して、レーザーソードを振り上げてきたのを回避し、その場でクルリと向きを変えての刺突をガントレットの裏拳で向きを反らして躱す。
ラプターが背を向けて距離を取ったのを見て、狙撃砲を構えた時下部から二つの火線がきらめき、狙撃砲を損傷させた。
カメラアイを動かして犯人を見ると、ハヤブサとグレイイーグルが7.62mm弾、5.56mm弾の小型バルカンを胴体に持っていたらしく、僅かな火力でライフルを狙い撃ったのだ。
狙撃砲を破壊した時点で弾切れとなったが、私は「ほう」と感嘆の声を上げ、バック、左手のライフルを投棄して、目の前の援護の隙から十分な加速距離を得たラプターを見た。
瞬時加速を超えた加速力を発揮したラプターはまず右手のレーザーソード―で刺突を行った。私はタイミングを見計らってEOSを右わきへと潜り込ませ。刺突を回避したが、その頭部に逆手に持ったヒートナイフの赤い刃が迫った。
本命はナイフで、レーザーソードに注意を引きつけさせたのだ。とっさにブレードの柄の部分で弾いて、ナイフが宙を舞った。スローモーに舞うナイフをラプターは躊躇もせずにレーザーソードと持ち替えて、逆手のまま、胴体に突き立てようとする。
金属のぶつかる不協和音が轟いた。そして、半秒もしないうちに大地へとラプターが衝突して、無様に転がった。
ヒートナイフが届く前に繰り出した掌底が間に合い、この結果が彼らの目の前に展開されたという訳だ。全部装甲が一部解けたチョコレートのようにただれ、強度が多少ダウンしたが、戦闘に支障はない。
乗り手が気絶したのか地面に転がったままのラプターに追撃を仕掛け、ブレードを逆手に持ち、とどめを刺すために急降下した。
だが、刃がラプターの全面装甲を突き破る前にハヤブサが前に躍り出て、ナイフのように持った銃剣で無謀に受け止めた。
黒染めの銃剣はあっという間にひしゃげてハヤブサの胴体装甲に切れ込みが生じた。返す刀で両断しようとしたが、ハヤブサは両手でブレードを掴みとった。
背部からグレイイーグルがワイヤアンカーを飛ばし、EOSを拘束しだした。
そして、機体が次の瞬間に見えない腕に絡まれたか、金縛りに会ったかのように動かなくなった。
空を見上げるとドイツの機体、シュヴァルツェア・レーゲンの姿がみえ幼い少女の姿をした機械人形の如き人間が手をかざして私の動きを封じていた。
黒機体の後ろから中国の甲龍、紅椿と続き、この瞬間に全火力を放って、私を撃破する魂胆のようだ。
「これで!」
ドイツ人の少女が叫んだ時、私は奥の手を使用した。EOSを肩部から信号弾を放った。炸裂した信号弾は白く花火のように発光し、ドイツ人の視界をホワイトアウトさせた。
停止結界が解けた瞬間に脚部をグレイイーグルのワイヤーに巻き付けて、仕込みナイフで切断し、ブレードから手を離し拘束するハヤブサをさっきのグレイイーグルがしたようにワイヤーを巻き付けて、最大パワーを発揮させたEOSの腕で、ハヤブサを宙高くへと舞い上がらせてハンマー代わりに甲龍へと衝突させる。
衝突と同時に地面へと落下するブレードを掴みとり、すれ違いざまに紅椿を居合で一閃し、戦闘能力を一時的にせよ奪い取る。
高度を取って、あまりの事態にまだ状況が呑み込めてないグレイイーグルに振り返って体をバネにして、ブレードを投擲する。
ブレードがグレイイーグルの戦車のような前面装甲に突き刺さり、そこへEOSを滑り込ませ、三本目のナイフで左脚部関節を破壊し、重心のバランスを失ったグレイイーグルが沈み膝をついた鷲からブレードを抜き取って、頸動脈の場所をブレードで切断した。
カメラアイが光を失い、首からどす黒いオイルを飛び散らせたイーグルはモーターのギアの悲鳴を辺りにまきちらしながら、倒れこんだ。
その首根っこを掴み、ブレードの刃を首もとに添えて、後方から接近しようとしていたラファールとレーゲン、宙に浮かぶ甲龍とハヤブサ、そして再び回復した紅椿に警告した。
外部音声をオンにして、私は声を大にして、要求した。
「歳には勝てんな、諸君。さて、まだ戦いを望むのなら、続けてもいいが私の技を知らず、まして得意の得物が使えん君らでどこまで持つかな? 数時間か? 数十分か、それとも数秒か?」
動けなくなり、歯噛みをする少年、少女、に私は低く笑った。すると、中国の代表候補生
凰 鈴音が髪の毛を激しく揺らし、叫んで訊いた
「どこまでもやってやるわ! 糞爺! アンタの目的はユーリでしょうけど、やらせると思ったら……!」
「違う」
私は静かに否定して答えた。そして、全員を見て、宣言した。
「必要なのは二人だ。更識簪とユーリ。 二人を連れて来るのだ。それが私の要求だ。お嬢さん」
「簪……? 何のために?!」
そう問い返す少女に私は応えた。
「落ち込んだ息子を立ち直らせなくてはな、何、そんな顔をするな。親の務めであるからして。」
庭園の中央でグレイイーグルの喉元にブレードを更に近づけ、脅していると、校舎からもう一つの爆炎が起こった。何事かとカメラアイの身を動かしてみると、そこには三人の少女がいた。
一人は布仏本音で、傍らに透明な卵の殻のようなシールドに包まれた更識簪がいて、その彼女に鬼気迫る顔で半壊したミステリアス・レイディを纏う更識楯無がいた。
「楯無か……初めましてだな」
そう挨拶を告げる私に彼女は黒焦げたランスを向けた。
「スパルタク!……これ以上は許さない!!」
傷ついたレイディは気品を無くすことなく空を舞った。妹、学園、仇のためと戦う一人の少女に向かって私は再び彼女に理不尽を与えるためにブレードを握りしめた。
「お姉さんが……守るって決めたんだから!」
少女の叫びに天は応えるか、それは数秒も経てばわかる話だ。
今回は非常に疲れました。
願わくば、上手い事書けていることを願います。
気付いたら90万文字近く書いていましたが、後何文字書けばおわるのか、疑問です。
長くて読みづらくて申し訳ありません