地下を突き破り、たどり着くは学園の庭園。目に優しい緑と色とりどりの花が植えてあるこの場所も今は大地が抉れ、薬きょうと装甲の破片をまき散らし、オイルをぶちまけた平和と戦争の入り混じった混沌の匂いのする場所と成り果てている。
数日ぶりの愛機の感触を確かめるために、マニュピレータ―を握ったり、話したりを繰り返し、ヒートナイフを取り出し、赤い熱を帯びた刃が、風で拭かれた花弁を燃やして輝く。
俺の真上に光る満月が俺を照らしているのを横目で見て、まるで結局戦う事を選んだ俺を祝福しているのか、あるいは嘲笑っているのか、と気になった。
「ユーリ! 来たんだな……」
弾が俺の名を言って、嬉しそうに声を上げた。俺は視線はスパルタクの方へと向いたまま、弾と話した。
「ああ……お前たちの声、聞かせてもらった。自分のためを思うなら戦って死ね、とは随分な言い方だな?弾」
「俺はそんな風に言った覚えはないぞ」
俺は軽く笑って、謝罪の言葉と感謝の言葉を述べる。
「いや、済まない。だが、その通りだ。俺の迷いは消えていない、だが一つ晴れた……俺はコレ以外に芸がない男だ。なら、戦い抜くしかない」
逃げたところで意味はない。俺にはこれ以外に取り柄はない。そして、これ以外に人と関わることはできないだろう。そこから逃げれば、残るのは残骸のような自分のみ。
戦友を捨て、簪から去って手に入れるものがそれだという事に気付いた。それも当然と言えるかもしれない。自己犠牲は尊いものだが、俺の場合は唯責任からの逃避でしかないのだ。
そして、俺の言葉や過去にも関わらず、戦ってくれた者達がいた。誰もが正しいわけではないが、全ては俺と言う一人の男のための戦いを起こしてくれた者達のために、彼らを虚しく終わらせるわけにはいかない。
俺は帰って来た。この場にいる者達と、ただ一人の彼女の為に。
「楯無、後は俺がやる」
後ろで座り込んだ楯無が俺を見て、戸惑いの顔を見せた。無理もない。彼女にとっては解しがたいだろう。俺と彼女は明確な敵同士。互いに相手に対し恨みをもった者同士なのだろう。
「私は……貴方の敵なのよ?」
「だが、守りたい人が同じだ……おかげで簪が助かった」
その事実は変わらない。敵の敵は味方とはよく言ったものだ。守るべきものが同じで、それを害するものも同じなら、まだ話しようがあるというものだ。
この戦闘が無事に終わったとして、その後にまた敵同士となるだろう。だが、この場だけは協力しなくてはならない。生きるためではなく、代えようがない存在の為に。
この場でスパルタクと戦えるのは俺以外にいない。そして、まだ戦える状況を残してくれたのは彼女だ。だからこそ、この場だけでも礼を言って、彼女の代わりに戦うのが俺のできる、せめてもの感謝だ。
「……任せていいのね?」
状況を飲み込み、楯無は確認のために訊いてきた。俺は無言で頷いて見せた。語るに及ばず、することはいつもと同じだ。
「……お願い」
楯無はその場から離れる前に俺に頭を下げて言った。過去の部下の仇と言う俺に対し彼女は頭をたれたのだ。それがどれ程、彼女にとって複雑な心境を発生させることだろうか。
彼女は地位もプライドも過去の因縁も一旦おいて、頼んだ。ただ、簪の為に。敵同士が戦場で協力する、そんな非現実的な出来事に俺は何故か迷うことは無かった。
「簪」
俺はその名を呼んだ。戦闘に備えて、簪の顔を見ることはできない。泣いているのか、それとも喜んでいるのかはわからないが、俺はそれを承知で言った。
「俺の為に戦ったのは褒められん、君のしたことによって大勢が傷つく結果となった……だが、気に病むな」
「ユーリ……」と簪は呟いて、俺は彼女に背を向けたまま、宣言した。簪のしたことは大きな罪となるだろう。この事態を起こすきっかけとなった彼女に咎があるのは明らかだ。
だが、彼女がそう行動したのは誰のためか、俺が楯無に拘束されるのは何のためか、学園にスパルタクが来るのは何故か。
全ては俺に帰るのだ。この一連の事件は俺と言う人間が起こしたと言っても過言ではない。
「すべては俺の責だ。全て、俺の過去に起因することだ。俺が君を背負う」
その時、土煙舞う校舎の瓦礫から、一つの人影が飛び出した。蹴られた右カメラ部分のカバーが損壊し、中身がむき出しとなり、獰猛な肉食動物の見せる眼光を再現し、ブレードを振るう。
マーダーの逆手に持たせたヒートナイフで反射的に上段からの振り下ろしを受け止め、火花が散った。
「ユーリ!」
「君は君でいろ! 障害は俺が排除する!」
義務や任務でもない、誰かの為にナイフをとり、俺は戦闘を開始する。空っぽだったはずの俺に何かが感じられた。熱い溶岩のような物が体内で生成された。そんな昂揚感とも思えるものが体内を駆け巡った。
左手にダガーを取り出し、スパルタクの脇腹めがけて振るう。スパルタクはブレードの柄で受け止めて、一歩分下がり神速の刺突を三度繰り返す。
上体の動きで二回を躱し、最後の三回目を逆手から切り替えたヒートナイフでそらし、一歩踏みでる。
「よく来たな。 息子、同志よ!」
スパルタクの歓喜の声を耳にしつつ、俺は二つの刃を振るう。右のヒートナイフを相手の太ももへと走らせ、受け止められる。前かがみになったスパルタクの顎めがけて左手のダガーを差し込もうとするが。スパルタクは右足を軸にして、回転し回避と同時に背中へと回った。
「その手は食わん!」
スラスターと前転を組み合わせ、前方へと退避し左手の指の隙間にダガーを三本出して、投擲する。敵はガントレットで弾き、最小限の動きで弾く。
その一瞬の視界の阻害の隙にセンサージャックを発動し、後ろへと回り込む。前方に作られた蜃気楼を囮に俺は奴の腎臓部分目がけて、瞬時加速を利用し必殺の一撃を加えんと飛び出した。
「手品などに!」
スパルタクは背を向けていることを利用し、姿勢を低くして自分の体を陰にしブレードを居合のように抜いた。
赤と黒の刀剣がぶつかり合う。どこまでも冷たく鋭いスパルタクのブレードとマーダーの赤熱化した超高温のナイフが再び激しく激突した。
俺はダガーをもう一度取り出そうとしたが、スパルタクはブレードを押し込み、俺の左手を掴み引き寄せて、大地へと叩きつけた。伏せられた俺にブレードを突き立てようと逆手に構えられた黒刃を煌めかせた。
俺は吠えた。まるで、素人のように。スラスターの出力を全開にして、転がり紙一重に頭部への直撃を躱した。
「吠えたな!ユーリ! 今の反応も良い! さあ、もっと力を出せ! 手に持ったその刃で私との繋がりを断ち切って見せろ!」
「繋がりは切らん!」
スパルタクの機体の足から隠しナイフが姿を見せ、腹部目がけて蹴りつけに来る。転がりつつもそれを肘鉄で防ぐと同時に破壊する。
折れた白刃が宙を舞い、地面へと落下するまでのわずかな間に、俺は腕で地面を押し出すようにして空をとび、高度さをつけてからの斬りつけを行う。
刀の弾け合う音がりん、と鳴った。それは美しい音色のように思えた。
俺とヤツが交差し、次の瞬間にお互いに振り向きあった。俺の頭部の頬の部分に薄く切れ込みが入り、ヤツはそれを見て低く笑う。
だが、俺も自らの成果を見て、一言述べる。
「……入ったな」
スパルタクの機体の胴体に新たに傷が追加された。損傷していた装甲が更に傷つき、小さな傷がわずかだが広がった。
見える。少し前まで見えなかったはずの奴の動きが完ぺきに追える。反応も遅れることは無い。俺の脳と肢体はしっかりと奴の動きに追随できていた。
さらにスパルタクが愉快そうに笑う。この男は喜んでいる。俺と言う人間が自分に傷をつけたのに歓喜している。自分の研究が正しかった証拠を発見した、と。
「嬉しいぞ、ユーリ。成長したな……この人間だけが見せる感情の力、そして、そこにお前の腕と理性が加われば、こうも強い」
「ありがたい話だな……スパルタク。だが、俺の感情は貴様にも向けられている」
戦いの中でのしばしの歓談。第三者から見れば、明らかに戦いを楽しむ者のみが共有する時間だろう。まして、俺とスパルタクは殺し屋。騎士道精神なども持ち合わせていない、ただの人殺しだ。
だが。俺達の今までのつながりがその時間を作った。同じ時を過ごした者同士の持つ共感と言うものだ。
ただの自己満足の会話、だがソレに意味があった。何故なら、俺と彼の歪な絆が俺たちを突き動かすからだ。
「ほう、どのような感情かね?」
教師が生徒に質問するような口調だった。その口調には愉悦の響きが入っているのは言うまでもない。
「恩返しだ。俺は貴様に作られた人間だ。そして、同時に俺と弾達や簪に出会うきっかけをくれたと言ってもいい」
俺は事実を述べた。どのような形であれ、俺の育ての親である男に感謝する必要があったのだ。そして、俺自身も俺の過去のことで奴を憎んでいるわけではない、何故なら過去の俺は喜んでいたからだ。たとえ、自らの悦の為に作られたとしても、俺はそれに応えようとしたのだ。
「その感謝がこれかね?」
「そうだ。俺はお前の夢を叶える、貴様の理想としての姿を見せつけ、その上で死なせてやる。最高の悦びを与えてやる」
俺はナイフの刃を向けて言い放った。スパルタクにとって、日常など些末事でしかない。結局戦いに自分を求める男だ。そして、俺も彼と同じ種類の人間だった。
だからこそ、理解できるのだ。彼が求めているものが何かを。かつての俺もソレを叶えようと訓練に耐え、あらゆる仕事をしてきた。
期待に応えようとした自分を知っている。だからこそ、俺は奴に全身全霊の想いを乗せて、刃を交えるのだ。
スパルタクはしばし、笑いを止め。ブレードを構えなおした。左手を切っ先付近に添えて、飛びかかろうとする豹のように身をかがめた。
「それも一興。だが、真に力を発揮する感情はそれではないはずだ」
ただ一言そう問うスパルタクに俺は応えた。
「そうだ」
俺をここまで、人間にしてくれたのは紛れもなく彼女だ。どうにもならないはずの状況で一人抵抗し、自信のない瞳でありながら、戦うと決意した簪と言う名の一人の少女だ。
福音の時も、スパルタクと対峙した時も彼女は逃げなかった。いつだって高貴でいてくれた彼女は俺に様々な事を教えてくれたのだ。
俺と言う空の人間に差し出された砂糖菓子のような優しさを持って接してくれた。誤りではあるが、俺の為に戦った彼女。彼女こそが光だ。
これだけは譲れない、そう気づけた。
「……強くなった」
今まで違う響きで彼はそう言葉を発した。俺はその声に驚きつつ、奴の行動に目を見張った。
脚部に込められた力が解放された敵機体はカタパルトから発進したと見間違うほどの加速を見せつけて、一気に距離を詰めた。右手に握られた音速を遥かに超えた刺突が空を切った。
「なればこそ、死力を尽くせ!」
胴体を捻ることで、直撃を避けた。だが、掠っただけのはずなのに、胴体の装甲に深く切れ込みが刻まれ、音と空気の衝撃が遅れてやって来た。
そして、刃の向きがコチラを向いて、横に払われる。俺はとっさに脚部を前に出して、柄の部分を抑えた。激しい衝撃が機体を揺らしたのと同時にその手を踏み台にして後ろへと回り、首もとへと刃を振るう。
左の裏拳でふさがれたヒートナイフがじりじりと奴の手甲を焦がし、俺はダガーを、ヤツはブレードを狙う場所は同じ。交差したポイントで鈍い音が響き渡り、スパルタクは踵をえして、猛攻に出る。
俺はバックステップをして距離をとろうとするが出力差で追いつかれる。疾風を思わせる怒涛の斬撃の嵐に俺は防戦に回るしかない。
「どうした?! 私を殺して見せろ!」
ブレードの一撃で左腕の装甲が剥離し、続く一撃の首切りの一撃に俺は身を低くして躱すが、すぐさまもう一つ足の隠しブレードが押しかかり。短い刃が胸に突き刺さり、抜かれる。
肺の空気を吐き出しつつ、俺はバック転をして左手に持ち替えられたブレードの払いを薄皮一枚分の距離で避けて、二本ダガーを放るがスパルタクは掴み取り、投げ返す。
一流の狙撃手の如き正確に頸動脈を狙った投擲をヒートナイフの刃で弾き、逆手にクルリと持ち替えて、黒一色の刃を首もとギリギリで止める。
余波で肩の装甲が剥がれ落ちて、逆立った鱗のように無様な姿を晒す。
「想う力が強いと言うのなら! 一歩踏み出すがいい! お前の足腰も、心も、萎えていないはずだろう!」
再び、陰にブレードを隠し放つ居合切りが放たれた。ブリュンヒルデにも劣らない神業的斬撃を感じ取った俺はセンサージャックをもう一度発生させて、蜃気楼を作った。
「これでもか?!」
「まだだ!」
スパルタクは蜃気楼を切り、俺は奴の刀の上にマーダーの両足を乗せた。重みで沈む刀をスパルタクはあっさりと手を離し、右足を軸に、回転。その遠心力と機体のパワー、皿にスラスターの加速と、三つの力を一つにした掌底を俺のヒートナイフの一撃にぶつける。
「これでもか!!?」
「まだ足りん!」
喰らったエネルギーによって、右腕部装甲がはじけ飛び、銀色の骨格とモーターをむき出しにした。スパルタクの機体も右腕部の装甲をスライスされて、機械の骨格ではなく、灰色の筋肉を露わにした。
人口筋肉と思われる筋肉の繊維がいくつか焦げ付き、それを保護する赤黒い液体が両者を染める。
「感情を力に変えろ! 愛情はお前を強くする! 想いを込めろ! その様で夢など叶うものか!」
そして、悪魔の悪戯か。全く同じタイミングで放たれた俺と奴の正拳突きが炸裂した。
「出せ! 出して見せろ! 夢の全てを!」
お互いに吹き飛ばされた瞬間に、スパルタクは両腕のワイヤーアンカー射出し、片方でブレードを回収し、もう片方で俺の左腕をつかみ取る。
「させるかぁ!」
右手のヒートナイフを最大出力で投げつけて、ブレードを弾き飛ばす。二つの得物が空高く飛んだ。俺と奴は赤と黒の得物に目もくれなかった。
スパルタクの左手にマシンピストルが展開された。ドラムマガジンを装着されたそれがマーダーに向けられる。俺は巻き付けられたワイヤーを切ることなく、逆に掴み取り利き手にショートカービンを握る。
お互いがお互いを拘束し、スラスターを俺は右に、ヤツは左に吹かしてワイヤーに結ばれた俺達は回転木馬のように回転し、互いに引き金を引いた。
回避行動を制限させた危険な我慢比べが開始され、銃声とスラスターの轟音が俺たち二人の戦意を呷った。相手を殺すまで撃て、と語りかけていた。
絹を裂くような発砲音が鳴り出して、互いの装甲を鉛の弾丸が食いちぎる。飛び散る薬きょうが落ちるたびに互いのシールドと生命が削られていく。
頭部が穿たれて、シャッター上のカメラアイに亀裂が生じる。歪んだカメラアイに胴体に三発直撃を喰らう敵機の姿が映り、HMDが腹部に四発の直撃を警告する。
次の瞬間に互いの弾丸が尽きた。僅か5秒にも満たない射撃によって互いのダメージは大きくなっていた。黒煙を吐き出す俺と奴を結ぶ一本の鋼線は限界を迎えて、ちぎれ飛んだ。
そして、すぐさま地面を蹴って空を舞った。ホールドオープンして役に立たなくなったマシンピストルを捨てるスパルタクとカービンを仕舞う俺は、落ちてきた二本の得物目がけて機体を全力で加速させた。
「甘い!」
ナイフに注意を向き過ぎていたためか、スパルタクの動きに遅れて、俺は蹴り飛ばされた。
大地へと叩きつけられて、三度転がりながら、体勢を立て直した俺の目に映ったのは得物を二つとも握ったスパルタクの姿だった。
「ユーリ!」
簪の叫ぶ声が聞こえた。続いて弾やヴィンセント達の声も聞こえた。獲物は全て奴の手にある。俺には一つの武器もない。ショートカービンも予備弾薬が無く、ただの置物同然と化している。
ダガーの残りは一本もない。残るのは己自身だけだ。絶望的状況、歯噛みをした俺にと突撃をするスパルタクを捉え、一瞬諦観の心境になりかけた時、確かに聞こえた言葉があった。
「諦めないで!」
その叫びを聞いて、俺の視界はスローモーになった。全てがゆるりと流れる神が下りた瞬間とでもいうのか。武装を探し、HMDを除くと、その望みがあった。
リーパーパック。起動するか否かの文字が表示された。それは学園に戻って来たとき、装備されたパッケージだった。その存在を俺は忘却していたのだ。
「承認だ……!」
すると、マーダーに変化が生じ、視界が赤くなった。左腕の装甲の一部が変形し、レーザーソードを展開した。ラプターの出力を遥かに超えた高出力のブレードが現れた。
それだけでなく、コイルのような突起物が背中から特殊な電波を発した。
たったコンマ2秒の一撃必殺の剣。それがリーパーパックの正体だと思えたが、もう一つの効果があった。
対IS用のEMP。それはスパルタクの攻撃を僅かに狂わせ、たったコンマ2秒の時間に起こった奇跡が俺を死の淵から救い出した。展開されたレーザーと実体剣がつばぜり合いすると、収束しきれなかったエネルギーが爆発的に反応を起こし、その場で爆発を発生させた。
「何と!?」
ここまで、耐えてきたロングブレードがついに折れた。スパルタク唯一の得物の長さが半分になり、彼の左手からヒートナイフが離れた。その赤いナイフは主人の元へと変えるかのようにマーダーの目の前に飛んできた。
「ソイツを取れ! ユーリ!」
弾の叫びを聞き、俺はそのナイフを手にした。先ほどの爆発で完全に機能を停止した左腕に目もくれず、クラウチングスタートの姿勢から瞬時加速をした。
轟と音を出して膨大なエネルギーの元、マーダーはスパルタクの舞う天上へと昇った。
前へ、前へと加速と前進を止めずに俺は咆哮し、逆手に持ったヒートナイフをかつての師に向けた。
「スパルタク!」
「ユーリ!」
互いに名を叫び、再び交差した。一秒、二秒と時間が過ぎた。空中へと昇る俺のマーダーと地へと降り立ったスパルタクの機体。両者は刃を振るった。だが、変化が訪れていないように見えた。
空ぶったのか、それとも、互いに手心を加えたのか、当の俺でもそれがわからなかった。
三秒たとうとした時、俺は場違いにも視界に光が差し込んだのに気付いた。
それは夜明けだった。暗い闇夜があけて、太陽が姿を現したのだ。何の音も聞こえない不思議な時間だった。ただ、無音だった。だが、優しい陽光が作る美しさが垣間見えた時、男の言葉が戦場に響いた。
その男の愛機は影の中に身を置いていた。だが、そんな背中を見せて仁王立ちする姿に陽光が差し込んだ。
「……いい夢を見させてもらった」
その言葉が聞こえた同時に、スパルタクの機体は首と胴体から赤黒い血液のような液体を吹き出した。俺と戦う前から作られた僅かな装甲の亀裂が勝因となっていた。たった一つの小さな傷で彼は敗北し、その血だまりの中に身を沈めた。
闇夜が消え去るのと同じくして、彼は力尽きた。闇夜の中、奮闘を続け、疲労し、傷き、敗北し、最高の悦びを勝ち取った老兵の姿が視界に映った。
闇夜を彷徨い、光を見出し、夜明けに勝利したはずの俺はそれを視界に納め、心に広がる沁みのようなものを感じ取っていた。
勝利がその慰めにはなってはくれなかった。心臓を貫かれる寸前だった傷口をなでることでその感情をそっと慰めた。
だが、慰めだけで感情は収まらなかった、俺は振り返ってスパルタクを見た。
彼の傍らには一本のブレードが天を突くかのように突き刺さっていた。
「これが……貴様の夢か……」
そう独り言のように言って、俺は一つの言葉をつぶやいた
「……отец」
その昔抱き、砕け散った夢の単語を一人つぶやいた。
展開速かったでしょうか?
これにて決着ですが、この後ユーリとスパルタク、簪も交えた会話も考えていたのですが、次の回に加えた方がいいでしょうか?
ご意見があればお聞かせください。
なお、本日発表のリーパーパックなるものは題名37にて名を出しております。ようやく出せてほっと一息です。