IS to family   作:ハナのTV

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幕間劇を入れるのを忘れておりました。
次回から本編です


番外 他愛のない話

スノーボール、雪玉というフザケタ名前の店に今私は来ていた。窓の外では肌寒くなった季節に合わせて薄手のコートを着るサラリーマンから、カーデガンを制服の上に重ねた学生たちが歩いている。

 

その学生たちは恐らく私と同年代であろうか、無邪気そうな笑顔を振りまきながら、街を列をなして歩いている。

 

いい気なものだ、と思いながら私は頼んだココアを一口飲む。ミルクと砂糖がたっぷりと入った優しい味だが、今の私にはもう少し苦めの物が必要だった。

 

伊達眼鏡をかけて、待ち人を待っている間に他の客からの視線が私に集中しているからだ。理由は至極単純、この顔が姉さんによく似ているからだ。

 

織斑千冬、私の人生をガラリと変貌させた女で仇でもある。腹立たしいことに奴と私の遺伝子はほぼ同じで、私が年を重ねるたびに奴と顔がよく似通っていくのだ。

 

ドッペルゲンガーという言葉がまさにそれだ。自分とうり二つの存在がいる。そのことに生理的嫌悪を抱かないの方が不自然というものだ。

 

実の姉妹でも家族でもない者と顔から声までそっくりだとするなら、それはもう気色の悪いの一言だ。にもかかわらず、周りの人間は似ている、とその一点で私を好奇の目で見るのだ。

 

亡国の連中のように、整形したのか、と馴れ馴れしく聞いてくるよりはマシだが、それでも不愉快きわまる。

 

そう考えていると、出入口の扉が開き、中性的な顔、金髪を後ろに束ねた美男子とも美少女とも見える女子が入って店の入り口で周りを見渡している。

 

待ち人来る、シャルロットが店に入ったのだとみて、薄めのピンクのスカートにトレンチコートとこじゃれた服装で現れた彼女に、私は席を立ちあがって姿を見せた。

 

彼女は私を見ると、笑みを作りこちらに歩いてきた。

 

「お待たせ」

 

そう言って、彼女は席に着き紅茶とイチゴのタルトを注文した。私がチラリと彼女に目をやると、ニコリと笑みを返す。私としてはこの女も何を好き好んで私と付き合いたがるのか、と疑問に思った。

 

前回の襲撃で顔はばれている可能性が高い。あの時、敵側にいた高機動タイプの機体のスナイパーにヘッドギアを破壊されていたのだから、見られている可能性は大いにある。

 

だが、彼女とこうして会うのはあれ以来これが初めてという訳ではない。これで、もう三回目だ。実は気づいていないのか、それともスパイでもしているのか、と疑問がもたげてくるわけだが、その割に彼女のとる行動は理にかなわない。

 

不思議なことに、お茶を飲んで他愛のない話をするだけだ。

 

「どうしたの?」

 

そう問いかけてきた彼女に私は少し面食らったが、平静を作り答える。

 

「いや、なんでもない……一つ訊いていいか?」

「何かな?」

「……私といて、楽しいか?」

 

私は何を訊いているのか、と即座に思った。シャルロットの顔を見ると、何故かわからないが自分が思った言葉とは違う事を言ってしまう。

 

まるで、あの学園祭の時に私の脳裏に聞こえた、悪魔のささやきのごとく、理に合わない行動、言葉を発してしまう。

 

「楽しいよ」

 

シャルロットはそう答えた。さも当然と言う風にさらりと言ってのけた。

 

「何故だ?」

「友達だからかな。君を見ていると面白くて」

「……面白い?」

 

うん、と頷いて、彼女は今の私が手に持っているカップに視線を移して、その訳の一つを言った。

 

「この前までコーヒーだったのに、いつの間にか、ココアになっていて。それで、クールそうに甘いココアを飲んでいるのを見ていると、なんだか可愛くて」

 

私はムッとした。この私に向かって可愛いと言う彼女の言葉に反応してしまった。そのことに気付き、自分の不甲斐なさを感じてならなかったが、何故か悪い気はしない自分もいる。

 

この女と居ると、何故か私はかき乱される。私は復讐のために生きると誓ったはずなのに、優しさに触れていたいと願ってしまう。

 

「私が可愛いだと?馬鹿な……」

 

そう反論してカップに口をつけるが、カップの中身がコーヒーではなく、ココアなままであるのを思い出して、赤面した。

 

ソレを見て、彼女はクスリと笑う。そこいらの女子がするような物とは違う。太陽の眩しさを連想させるソレは私をどうしようもなく、乱す。

 

そこへ、店員がイチゴのタルトと紅茶、それにフォークやナイフが入ったバスケットを置きに来た。琥珀色の液体が注がれた紅茶とイチゴ香る赤い宝石が乗ったかのようなタルトは見るからに一級品と言える代物だった。

 

「ボクはね、こうしてお茶を一緒にできる友達がちょっと前までいなかったからさ……もちろん今はたくさんいるよ。学園にね、ラウラっていう子がいてね……」

「……ドイツのアドバヴァンスドか」

 

私がそう言うと、彼女は一瞬表情が曇った気がしたが、すぐに元に戻った。

 

「そんな言い方はしちゃダメだよ。ラウラは普通の女の子だよ。可愛いものが好きで、ちょっと天然な女の子だよ」

「奴は戦いの為に作られた存在だ」

 

私は間髪入れずにそう告げた。ドイツの犬にも劣る畜生共が作り上げた異形の人間。それが私のアドヴァンスドに対する認識だ。スパルタクに言わせれば、戦場に出たことない学者どもの自慰行為に過ぎないとのことだが。

 

「だから、ヤツはあの年齢で少佐だ。私の言っていることは間違っているか?」

 

私は持論を述べたが、シャルロットは困ったような笑顔になっていて、紅茶を一口飲んだ。

ソレを見て、私は胸のあたりがチクリと痛んだ。

 

「……違うよ。生まれとか、組織にいるからって、その人を決めるのは間違っているよ。君だってそうだよ。君は優しい一人の女の子じゃないか」

「……何を根拠に」

 

私は彼女に問いかけた。それは私が組織にいるという事と自分が優しいという事について、両方の意味を含めていた。すると、彼女は胸に下げているラファールⅡを握りしめて答えた。

 

「この間の学園祭、皆を狙撃したISの乗り手って……君だよね?」

「……何の話だ」

 

私はとぼけたことを口にして、彼女の反応を伺った。スコールたちからはバレてはいけないとは言われてないが、私は彼女の手元付近に見えるナイフを横目で見た。

 

「肯定しなくていいんだ。でも、君はボクを外して撃ったんだよね?」

「……そんな甘さなどあるものか」

 

あの時の事がフラッシュバックとしてよみがえり、自身の記憶に舌打ちをした。あの甘さに私は憤慨する以外の術を持たない。

 

スナイパーとしての矜持など私にはない。私はただ相手を殺すための技術の一つとしてしか見ていない。だが、甘さは殺す物にとって、最大の隙となる。そんなものを持っている様で、姉さんを殺せるものか。

 

自分を黒く塗りつぶせない者に修羅の道など歩めるわけがないのだから。殺意と怒りで己を黒く染め上げて、復讐の御旗を掲げ、寸分の狂いも無くトリガーを引き絞る。

 

それが私の目的ではないか。そのために亡国などという組織に身を売って生きてきたのではないか。なのに、私はこの目の前の少女一人に対して、ミスを犯してゼフィルスを損傷させた。そして、今少女一人に問い詰められているのを許している。下手をすれば、姉さんに気付かれるというのに、これも私の甘さのせいだ。

 

「偶然に過ぎない」

「それは嘘だね」

 

シャルロットは確信を持って言った

 

「あれほどの腕で外すわけがないもの。ボクだってリヴァイブの乗り手だ。それくらいはわかるよ」

「黙れ」

 

冷たく言い放ったが、シャルロットの口が閉じることは無い。さらに熱を帯びて、私の事を述べる。

 

「君は……二回しか話していないボクを助けたんだ。ボクがあのまま、行けばきっと、あのエースにやられていたから、だからスラスターだけを狙い撃ったんだ」

 

私はテーブルの表面を爪で引っ掻いた。感情を押さえつけようと努めるが、心に溜まるどす黒い物に私は身を任せてしまいそうになる。

 

「君はボクだから撃ったんだ。ボクを助けるために撃った。だから」

 

私はとっさに彼女の手元にあったナイフを手に取り、彼女の喉元に滑らせた。頭のイメージでは彼女は鮮血に海の中に沈んだはずだった。一撃結殺の暗殺剣、それを彼女に浴びせかけたつもりだった。

 

しかし、目の前に映ったのは自分の手の甲を突き刺していた光景だった。安全装置でも働いたかのように体が勝手に動いたのだ。

 

左手の甲から赤い血が流れ、じわじわと痛みが神経に伝わった。それを見てシャルロットは慌てて、バッグからハンカチを取り出した。

 

「大変!」

 

シャルロットは慣れた手つきで自分のハンカチで私の手の甲を止血した。ふれた手のひらは温かく、柔らかい手に私は不覚にも安らぎを覚えた。

 

「大丈夫? 止血はしたけど……」

「いや……」

 

私は脱力気味に椅子に腰かけ、彼女の献身的ともいえる看護に頭を抱えた。なぜ、彼女は私に優しくするのか。そして、何故怖がらない。私は今お前を衝動的に殺そうとしたのだ、だというのに私を気遣い、高級そうなハンカチすら出す。

 

そして、自分もそうだ。この女の前では何もかも、意思に反するような行動を見せてしまう。ますます、自分と彼女が分からなくなってきた。

 

優しくされる度に、自分が自分でない気がしてならないのだ。

 

「……何故、お前こそ私に優しくするんだ?」

 

シャルロットに私は訊いた。亡国のテロリストだと知り、織斑千冬と同じ顔をしている女。おぞましく、気味の悪い私に何故彼女は優しく接してくれるのか。

 

「お前は自分で言っているはずだ。私はテロリストの尖兵だと。それに、この顔を見て何とも思わないのか? この気色の悪い顔を見て、嫌悪を抱かないのか?」

 

かつて、お前の母親を捨てた男、スレートと同じ類の人間なのだというのに。

だが、シャルロットの答えは決まっていたようで、彼女は私のハンカチのまかれた手を優しく握って言った。

 

「君が友達だからだ。私を二度も助けてくれて、こうしてお話をしてくれる君が好きだからだよ」

 

途端に心が溶けるような感覚が走った。凍てつかせたはずの心に春風の如き、心地の良い温かな風が私の体内に吹いた。

 

私はそんな自分に赤面した。破廉恥だ。復讐のための私だというのに、こんな言葉に揺るがされるとは、なんとか弱いのだろうか。

 

優しくされる度に、私は辛くなる。好きだと言われて、嬉しく感じた私が憎い。私は孤独になる道を選択したのに、何故今更になって揺らぐのか。

 

「私はスレートと同じなのだぞ」

 

シャルロットを突き放すためにそんな人名すら出した。自分を守るために私は精一杯になった私の出せる唯一のカードだった。

 

「所詮、お前と私の生きる場所は違う。私は復讐に生きると決めたんだ。頼む、優しくするな。お前がいると私はどうしようもなく、かき乱されるんだ」

「マドカ……」

「その優しい口調をやめろ!」

 

思わず、強くいってしまい、店内の客や店員が何事かと、こちらに視線を集めた。私は八となり、彼女の顔を見た。

 

彼女の目じりには涙が少し見えた。悲しい顔だった。涙をこらえるかのように、顔を一旦、下を向いて、人差指で涙を拭って無理に笑顔を作った。

 

「……ごめんね、勝手なこと言って謝るよ」

 

胸がズキリと痛んだ。とてつもなく大きな罪悪感が沸き起こり、私は胸に手をやった。そして、もう一度シャルロットを見た。

 

傷ついたのに、それを隠して相手に心配をかけないように努める姿は私を辛くさせた。今まで、大勢の人間を殺してきたが、罪悪感も何も感じなかったはずだ。

 

だが、今はどうしてか、たった一人の同世代の少女一人の涙に私は大きく動揺している。

気にするな、こんな感情は要らない、と自分に言い聞かせるが、私はいつの間にか体を動かして、彼女の目元に自分の手を持っていき、涙をぬぐっていた。

 

「すまない……」

 

そんな事を言って、彼女の頬に手が触れた。もう、自分が何をしたいのか分からなくなり、

居ても立っても居られなくなり、席を立ちあがった。

 

「……今日はもう帰らせてくれ」

そう言って店を出て行く。彼女と私の注文した分の金をレジに出して、自動扉を潜り抜けて、店を出た。

 

何秒か、そこで立ち尽くしたが、首を左右に振って帰ろうとした時、私の手を誰かが握った。

 

「待ってよ、マドカ」

 

振り返るとシャルロットがいて、私を透き通った綺麗なアメジストの瞳で見つめていた。

そして、彼女は口を開いて、こんな事を言い出した。

 

「今日も……お話してくれてありがとう」

 

私は目を丸くして彼女を見た。そんな事を私に言うために私を止めたのか。場所が場所なら、尾行者として殺されてもおかしくはないのだ。まして、先ほどの身勝手な私を見ても彼女は笑顔を見せる。

 

その顔はあまりに眩しすぎた。決してキレイではない私にとってはあまりに眩しかった。

 

「また、今度話せるかな?」

 

その問いに私は小さく「ああ」と答えてしまった。手に巻かれたハンカチを固く握りしめながら。

 

 

 

 

 

数日後

 

 

 

 

ホテルの部屋では、片づけを行う私と菓子類を大量に鞄に詰める布仏本音しかいない。

昨日の夜、スパルタクが戦死した。彼のいう理想の兵士とやらと最高の戦いを繰り広げて死んだ、と言う。

 

一足先に望みを果たした老兵の為に、亡国、もといいスコールは追悼式を行うそうだ。それに合わせて、一時私達も撤退することとなった。

 

保護者として部屋に宿泊していたというのもあるが、何より近々ヨーロッパで大きな作戦を行うので、全戦力を集結させているというのだ。

 

「マドッチ~。何だか寂しそうだね?」

 

そんな思考を脳内で回していると、本音の耳障りな声が聞こえた。私は舌打ちをして、本音を睨み付けた。

 

「黙れ、化け物が。私は織斑千冬を殺せずに……」

「本当に~? 愛しのシャルロットちゃんとかじゃなくて?」

 

煽るような口が聞こえて、奥歯を噛みしめた。とっさに腰のナイフに手を回すが、本音は瞬時に私の背後に回って、耳もとに口をそっと近づけた。

 

「大当たりッだね~。素直になろうよ~マドッチ。可愛いよ~、マドッチ」

「お前は……人を煽って楽しいのか?!」

 

ナイフを振るが、空振り。いつの間にかカウンターに腰かけて、キャンディーバーを口にしている彼女がニコニコと笑う。

 

「違うよ~。本当に望んでるものを教えてあげてるだ~け。私は皆に幸せを配りたいだけだよ~」

 

舌打ちを大きくして、荷物の積もったカバンを持ち上げる。付き合ってられない、そう判断して、ドアへと向かう。

 

「傷も治っているんだから、そのハンカチ外せばいいじゃない~?」

 

私の背中に放たれた彼女の一言に私はピタリと足を止めた。左手を見つめると、水色のハンカチに赤いしみが出来たまま、巻かれていた。

 

血は完全に乾いており、放っておけば茶色く変色するだろう。止血と言う役目を終えたハンカチに何の価値もないはずだが、唐突に脳裏にシャルロットの顔が思い浮かんだ。

凍てついた心さえ、溶かしてしまう彼女の笑顔が浮かび、このハンカチが急に愛おしく思えた。

 

その思いを振り払おうとしたが、彼女のほほ笑みとマドカと名前で呼ぶ声が聞こえて、できなかった。

 

「……お前には関係のない事だ」

 

私は振り向かずに行って、扉を開けた。しばらくは日本には戻ってこれないことを思うと、二つの私が強く感情を抱いているように思えた。

 

織斑千冬を殺せなかったという黒い自分とシャルロットにしばらく会えないと囁く自分。

私の本性は一体、どちらなのだろうか。

 

スパルタクはかつて、私の感情を恋だと言った。そんな感情を私が宿すわけはない、そう強く思ったが、何故か決定的に自信が持てないでいた。

 

彼女のハンカチがまかれた左手を見た。私は何がしたくて、どうなりたいのだろう。

 




短めの話ですが、亡国の動きも見せたかったので書きました。
それと、前回の話等で見せた話など、ストーリーやキャラについて、聞きたいのですが、何か改善点等ありましたら教えてほしいです。

このままで行くべきなのか、と少し疑問に思ったので教えてくれると助かります。
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