IS to family   作:ハナのTV

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アイスクリームは魔法の鍵

「全く、アンタ達と付き合っていると命がいくつあっても足りないわ」

 

頬に絆創膏を貼った鈴がグラスに入ったメロンソーダと氷をからからと音を立てながら、かき混ぜる。食堂での集いは揃いも揃って、傷だらけで俺は頭に包帯を巻いている。

 

アカネもヴィンセントも、腕や足に巻き付けており、鈴の発言に同調して見せ、即座に

「アンタらの事よ」と鈴にツッコミを入れられていた。

 

傷だらけなのは俺たちに限った話でなく、学園は一部の教室完全に機能できなくなり、授業カリキュラムに大きな支障が出るのではないかと言う話が持ち上がるほどだ。

 

そんな事は正直な話どうでもいいことだったが、そのせいで俺達がやはり白い目をみられるのである。

 

「働けど働けど、下っ端暇なし。僕らも散々戦ったなのに、給料が増えるどころか、感謝の一言も無しだ。今日の織斑先生のありがたい言葉を聞いたかい?」

 

ヴィンセントが頬杖をつきながら訊くと、アカネと俺がため息交じりに応えた。仕草も似せて、腕を組み鋭そうな目を作って言う。

 

「『撃破はよくやった。だが、今後は勝手な行動を避け、的確な指示を待つこと』でしょ?」

「ああ、憎らしさまでそっくりだ」

 

そう言ってヴィンセントはレモネードをストローで一気に吸い上げた。レモネードが無くなって氷が浮力を失って重力に従って、涼しげな音を鳴らした。

 

最近の織斑先生の態度はあからさまだった。俺たちにイラつくのは確かに理解できるが、ソレにしたって、あそこまで露骨に嫌味な事をいうモノだろうか。

 

「それにしても、どうして千冬さんは一度も出撃しないんだろ?」

 

そこで鈴がとある疑問を持ち出した。言われてみれば、最もな疑問だった。それに対してアカネがハッとした顔になって、身を少し乗り出した。

 

「そう言えば、そうですね。頑なに出撃しないのは何故なんでしょうかね?」

「ISが無いとかか?」

 

俺はなんとなく思い付きで言ったが、すぐに大場先生や山田先生たちを思い出して、それはない、と首を振った。

 

「指揮官だから、勝手に動くことが出来ないからだろう」

「あれで指揮って言うのなら、私でもできますけどね」

 

ヴィンセントの冗談めいた言葉にアカネが鼻で笑って、答えた。仮にも軍事教練をしてきた身としては、織斑先生は指揮官としては有能とは言えないだろう。

 

だが。ISの乗り手としては抜群の腕前があるのは間違いない。ほぼ二回のブリュンヒルデ獲得者である先生ならこの学園で、下手をすれば世界で最強クラスのはずだ。

 

名選手が名監督になるとは限らない、の好例ともいえるだろう。だが、その名選手は何の訳があるかは知らないが、出撃をしない。

 

そのせいで、大勢が傷ついたりしている現状は先生はどう見ているのだろうか

 

「今回だって、いや、その前からあの人が出撃してくれれば……そう思わない?」

 

鈴の疑問の前に俺達は黙った。沈黙の中、不可視の悪魔が俺たちに、怒れと囁いている気もした。怒る権利はあるはずだ。これだけ、戦闘を繰り広げて、本人は涼しい顔をして、戦闘後のダメ出しを行い、反省文やらの提出を求めるのだ。

 

過去、戦場で上官が部下に秘密裏に処理されるという話があったそうだが、今になると彼らの気持ちがわからないでもない。それとも、死ねと命令してこないだけでも幸運と思うべきか、そう思考を張り巡らせていると二人の人影が近づいてきたのに気付いた。

 

片方の大きい男の影が鈴の後ろに聳え立ち、彼女に言い放った。

 

「そんなものを気にしても、俺達の現状は変わらん」

 

鈴はビクリと驚いて振り返った。後ろに音もなく、近づく190cm越えの巨人に気付けば当然の反応と言えた。そして、その横には簪もいた。彼女は以前よりずっと明るい顔を見せていた。

 

「音もなく近づかないでよ! 驚くでしょうが!」

「すまない。癖でな」

「ごめんね、鈴」

 

簪が謝罪を加えて、鈴は毛が逆立った猫のような慌てぶりを落ち着かせて、二人が座れるように少しどけた。

 

「もう大丈夫なのか?」

 

席に着いたユーリに俺が問いかけた。あの時見せた涙には皆驚いたし、それほどショックだったと言うことが明らかだった。

 

「ああ、更識の拘束も解かれ、ようやく釈放された。その分、色々とあったが……」

 

スパルタク、俺はこの男がどんな男だったのか、細かくは知らないが、ユーリにとってはたった一人の親代わりだったはずだ。そんな存在を失って、まだ三日と経ったばかりだと言うのに、彼は戻って来た。

 

ソレに素直に喜べるはずもなかった。

 

「心配をかけてすまない。だが、俺はこの通りだ」

 

ユーリはいたって健康そうな顔を見せた。鉄仮面なのは相変わらずだったが、再会した時に見せた無精ひげもそってあり、髪も短く切りそろえられていた。

 

「ですが……彼は、父親だったのでしょう?」

 

そこで、アカネがメガネを外して聞いた。彼女の顔にはユーリに同情するものがあった。

 

「何故、そうも聞くのだ?」

「言ったはずですよ、ユーリ。私にも親代わりの人が居たと。その人はスパルタクとは違い、普通の、海兵隊崩れの州兵でしたが私にはその人が父でした」

 

それはトーナメントの時に言っていた事だった。彼女の原点、自分をかつて拾ってくれた兵隊さん。彼女もまた、ユーリと境遇が少しだけ似ていて、今や、彼女もユーリも親を失った者同士だ。だから、彼女は気にかけた。似ていたからだ。

 

「他人でも父でした。だからこそ、貴方が変に気丈に振る舞ってないか心配なんですよ」

 

その心配にユーリは表情一つ変えないで答えた。

 

「振る舞ってなどいない。俺は奴との絆を果たした。俺にできることは奴の理想に則て、自分で生きるだけだ。それが奴への供養になり、俺の為にもなる」

 

ユーリはそう言った。そして、左手の甲に簪の手が置かれているのに気付いた。その様子から彼女が彼を助けてくれたのだろうと想像できた。

 

「お前が兵士にもう一度栄光を与えることを夢とするように、俺は奴の理想を実証したい、と願った。俺自身で、それを証明する……それが俺の夢で奴との繋がりだ」

 

繋がり、想い。スパルタクと言う男はそれこそが力になり、感情を制御できる兵士にそれが加われば理想の兵士となると言った。

 

ユーリはそれを自身で証明し、亡き師であり、亡き父の研究を証明することを夢に決めたそうだ。それはある意味で、簪との関係をより深くするという意味でもあった。

 

思えば、この男があの場に来たのは俺の叫びを聞いたからだと言っていたが、本当は簪の言葉に反応したのではないだろうか。彼女の叫びを聞いたからこそ、彼は目覚めたのだとしたら、見かけに見合わない純情ぶりだ。

 

「義理堅いことだな。君のそういう所は長所だけど、短所でもある お分かりかい?」

「忠告は聞いておこう」

「また、消えたりしたら困るからな」

 

俺もヴィンセントの言葉に続いて、そう言うと簪がユーリの袖を引っ張った。ユーリは簪の方へと顔を向けた。

 

「どうした? 簪」

「……もう、いなくならないでね」

 

静かに、だがハッキリと言われた言葉に俺達は一斉に固まった。簪の頬は熟したリンゴのように赤く、メガネのレンズの奥の瞳が少しうるんでいた。

 

可憐、ただその一言が今の彼女に当てはまった、その彼女に対して、ユーリはいつも通り答える。

 

「ああ」

「私、今度は待つから……消えるようなマネはしないで……どんなことがあっても、帰って来てね」

「……ああ」

 

殺し文句と言うのはこういうモノだろうか。簪自身は自分に自信がないと言っていたが、あの顔でこうも情に訴えかけるセリフを言われれば、誰だって頷くだろう。

 

無論、ユーリなら頷くだけでなく、実行もするだろうが。その二人を見て、ヴィンセントが口鵺を鳴らした。そのヴィンセントの口笛に対して、鈴がヴィンセントの頬をつねった。

 

「いい所なんだから、やめなさいよ」

「ブラックコーヒーを砂糖たっぷりの甘さにされたら、冗談や悪戯の一つで誤魔化したくなるさ。ハリーなら44マグナム持ち込んで抗議しているところさ」

 

そう、冗談を言うヴィンセントに鈴が呆れ半分で言い返す。

 

「アンタは冗談とかが下手なんだから、少し黙ってなさいよ。だから、友達も少ないのよ?」

 

二人は小声でそう言いあっていた。こっちもこっちで軽口を叩きあえる仲なのだから、流石だ。ちなみに、隣ではアカネが簪を目を輝かせて可愛い、と称賛している。

 

「お前も十分に可愛いよ」

「……釈然としない言い方ですねぇ」

 

俺の言質に対して、アカネが少し頬を膨らませた。目の前の女子二名に可愛さで負けていることに拗ね、俺のほめ方に不満を抱いたようだった。

 

「あとで、アイス買うからさ、機嫌直してよ。な?」

「……ストロベリーとクラシックバニラなら」

「……了解」

 

俺は頬を掻いて、彼女のつんとした顔を見て、後で甘いものを買ってあげることを誓い、全員に聞こえるような声で言った。

 

「ま、何はともあれだ。ユーリと簪は帰って来た、皆も傷だらけだが、五体満足で生きてる。不平不満もあるかもしれないけど、言うべき言葉は一つ」

 

俺の言葉に皆が注意を傾けて、俺はグラスを片手にユーリに向かって言った。

 

「お帰り、ユーリ」

 

そう述べると、全員がユーリに向かって同じ言葉を言った。祝うべきは再会と勝利。傷も多く、苦労も労ってくれる人間も少ないが、せめて自分たち自信で祝う権利くらいは主張しても罰は当たらないはずだ。

 

そんな俺たちにユーリは口元を僅かに緩ませて、静かに言った。

 

「ああ、ありがとう」

 

たった一言の礼だったが、皆は笑顔でソレを迎え、グラスを掲げて乾杯をした。そして、ユーリは簪の名前を口にして、彼女に小さな箱を差し出した。

 

中にはいつか俺に見せてくれた銀色の美しい装飾付きの短剣が入っていた。彫刻は文字で、

前野とは違い、想いを込めて、と書かれていた。

 

「ありがとう」

 

その言葉は同時に、しかも双方が口にした。

 

 

 

 

 

 

購買でアイスクリームをいくつか買って、適当に紙袋に詰めて自室への道を歩く。隣のアカネは二つどころか、4つもアイスクリームを手に入れてご満悦だ。鼻歌を歌い、時折紙袋の中を覗いては、もう後五分も経たない後に訪れる幸せの時間に微笑む。

 

「上機嫌だな」

「アイスクリームですから。これが嫌いな人間はいませんよ」

 

胸を張って、彼女はそう主張した。その言葉には一利あると俺も同意した。確かにこれが嫌いな人間はそういないだろう。少なくとも十代のうら若き乙女なら嫌いとハッキリ言えるものは極めて少数だろう。

 

つまり、アカネもそう言う面では普通と何ら変わらない女の子という事だ。たとえ、m14ライフルを振り回し、実は制服よりもBDUなどの迷彩服の方が似合うとしても、だ。

 

俺達に対する評価はよろしくないのは事実だが、それは実際を知らないためではないだろうか。会った当初はユーリが泣くなど信じられず、アカネが甘いものが好きだという事も知らなかった。

 

世の中はそんなものなのかもしれない。

 

「ホント、意外だよな」

「何がですか?」

「いや、いつも凛々しい顔でライフルを構えているアカネがさ、甘いもの好きって言うのも、今思うと意外だなって」

 

アカネが目をぱちくりとした。俺はその反応に顔を一瞬赤くした。そんな俺を見て、アカネがにやけ顔を見せる。

 

「まあ、確かに好きそうだ、と言われたことは無いですね。普通の女の子はライフルなんて振り回しませんから」

「誤解を生みやすいわけだ」

「そうです」

 

アカネは一拍開けて言葉を発する。

 

「Rインダストリーに入るまで、一緒にアイスクリームを食べてくれる友達はひとりしかいませんでした。いつも気味悪がられてましたよ。ライフルケースを背負って、暇を持て余した親父たちの間でシューティングレンジに行ってましたから」

 

理解されなかった、と そう語るアカネだが、俺には容易に想像できた。きっとライフルを撃ち終わった後に、気のいい大人の男たちと甘いものをつついていたのだろう。

 

彼女が普段、丁寧な口調で話すのもそこがルーツであろう。そこまで、彼らに憧れていたのだ、大好きな大人たちの世界がその頃の彼女の居場所だったのだろう。

 

「ほんの少しの切掛けで知り合えれば、もっと違う道もあったのかもしれませんけど、私は今の環境を気に入っていますので、心配は要らないですよ」

「分かってるよ。俺もこの環境が気に入っている」

 

そう自分で言うが、その裏の事も話した。

 

「けど、もっと知り合えれば、と考えると一夏たちとも上手くやれてたんじゃないかって思うんだよ、時々」

 

誰だって友達は失いたくない。俺もその一人だ。俺と一夏はかつては親友であったはずだ。今は完全に絶交したという訳ではないが、前ほど話すことも無ければ、遊ぶことも無い。

 

互いに理解し合う努力が足りなかったのか、それとも互いに忙しすぎただけなのか、それはわからない。ハッキリしているのはISに関わるようになってからこうなってしまったというだけだ。

 

「難しいですね……そもそも私達と彼らは違いすぎます」

「わかってるよ、悪党の背中から撃てるか、で揉めているようなもんだ」

 

悪党の背中を撃つ。それは危険性の排除という意味では間違ってはいない。むしろ、未来に予想される災厄を排除するのだから、正しいと言えるかもしれない。

 

しかし、それは同時に悪党の真似事でもある。卑怯で陰湿な方法であるだけでなく、こちらに気付いてすらいない相手を倒すのは良心が邪魔をする。それが普通で人として正しいのは間違いなく後者の方だ。

 

俺達と一夏たちの違いはそこにある、一番いい例で言うと、アカネとセシリアだ。

二人とも細かい分類こそ違うが、狙撃手である。その運用方法は真っ向から違う。

 

例えば、どこかの暴漢が誰かを人質に取り、人質に銃を突き付けているとする。この時、セシリアなら犯人も殺さないために自身の狙撃技術を用いるに違いない。恐らく、犯人の利き腕や、肩を正確に打ち抜いて両方を助ける。そうすることで、犯人には更生ないし、裁きの場に立たせ、人質も救う。

 

反対にアカネなら犯人の頭か、心臓、つまり即死部位を狙う。もし犯人が自暴自棄に出た場合、人質に危険が及ぶ、反撃のリスクがある、と考えて一撃で仕留めに行くだろう。

この時、人質の命の身を優先するので、犯人の事情や人質などはお構いなしだろう。

 

どちらも間違ってはいないが、彼女ら二人が互いに相容れることは無い。

 

自分の技術の使い方ひとつで恐らくこれ程大きく差が出るだろう事は間違いない。セシリアは警察向き、アカネは軍人向き、たったそれだけの違いだが、それが俺たちに埋めようがない溝を生み出している。

 

目的同じでも手段が俺達の仲を引き裂いているのだ。

 

「分かり合う、たったそれだけの事が何で難しいかねぇ」

「思想の自由の弊害ってやつですね」

 

 

アカネはヴィンセントの口調を真似て言った。紙袋から一つアイスクリームを取り出して、俺に手渡した。

 

「ですから、理解し合うのならこれみたいに万人に好かれるものを使うといいかもしれません」

「アイスクリームは友達作りの鍵、か?」

「ええ、それで実際私はミサキと一緒に……」

 

そこまで言って、俺達の頭の中に何かが浮かんできた。何故か、わからないがミサキと言う単語を聞いた瞬間に喉に言葉が引っかかったような感触に見舞われたが、俺も彼女もその違和感を口にしなかった。

 

そんな事を話していると、後ろから俺達の名前を呼ぶ声がした。振り返ると、癒子と静寐だった。彼女たちは少し駆け足で来た。

 

「癒子に静寐じゃないですか。どうしたんですか?」

「ちょっと、話がしたくてね」

「話?」

 

俺が訊きかえすと、癒子は頷いた。顔は真剣そうだから、真面目な話なのかもしれない。

 

「あの、ユーリ君が戻って来たって聞いたんだけど」

「ああ、戻ってきたさ。それが?」

 

癒子と静寐は互いに顔を見合った。少し言うべきかどうか迷ってるようだったが、彼女は意を決して言った。

 

「……その、ユーリ君には何も変化はない? 少し人が変わったとか」

「何もないぞ。どうしたんだ? 一体」

 

質問の意図が掴めずに俺が訊くと、彼女はおずおずと答えた。

 

「あのね、こんなこと言うのも難だけど、ちょっと怖かったから」

「ユーリがか?」

 

彼女たちは小さく頷いた。その訳を聞くとソレは、ユーリが捕まった時の事に起因していた。あの時のユーリの一連の行動に彼女たちは恐怖したのだ。

 

スタングレネードで意識が朦朧とする中、一人敵部隊に立ち向かい楯無の首にナイフを添えた躊躇のない動きは確かに恐ろしく見えるだろう。

 

「アレが間違いで、ユーリ君も抵抗したのも理解できないって訳じゃないんだけど、怖かったからさ。それで、最近の彼がどんな様子かだけでも知っておきたくて」

 

そう静寐が言って、癒子が続けた。

 

「それに、彼の過去を聞かれた時の顔もね……彼、ユーリ君は本当に」

 

そこまで言いかけたところで、俺はアカネから手渡されたアイスクリームを癒子に渡した。

彼女は目を丸くして、そのアイスクリームのラベルをマジマジと見つめた。

 

「心配ないよ。アイツは大丈夫だ。君らに酷いこともしないし、力の扱い方ってのを一番理解している。大場先生やイヴァナ先生と一緒さ」

「先生達と?」

 

そう訊きかえす静寐に俺は「そうだ」と答えて、説明する。

 

「二人とも怒るとおっかないけど普段は優しい。最初はどうだった?戦車砲を撃つイヴァナ先生に、自衛隊で不愛想な大場先生、近寄りがたかったろう?」

「……そう言われてみれば、そうかも」

 

二人は大きく頷いて、肯定した。

 

「だからさ、それと同じだよ。ユーリは意外と甘い物を食べる。よかったら、それを持っていて奴と話しみてくれ」

 

アカネの話を事前に聞いておいたおかげで俺はスムーズにそう話せた。アイスクリームは魔法の鍵となるかどうかはわからないが、切掛けは作るべきだ。

 

分かり合う切掛けさえあれば、俺は奴への誤解は解ける、と信じられた。それがユーリへの信頼の表れでもあったし、彼女たちの柔軟さへの甘えでもあった。

 

彼女たち、通称レジスタンス達は教師たちと良好なコミュニケーションが取れている。不愛想で、軍人気質な大場先生、頼りなさげでも優しく接しようと努める山田先生に、好き嫌いが激しく、一見身勝手なイヴァナ先生と、だ。

 

俺から見れば。この三者三様の教師全員と付き合っていられるのだから、脱帽物だ。教え方も戦闘スタンスもバラバラだと言うのに、彼女たちはそれらを吸収して見せている。

 

基本的な空中での機動戦から、各種銃器の扱い、足技から時には色気すらトリックに使う応用術、よく覚えられるものだ。

 

それ程の彼女たちならきっと、切掛けさえあれば、何とかなると思えた。

 

「……わかった。じゃあ、試してみるわ」

「ぜひ、そうしてくれ」

 

二人は笑みを作って、そう答えてくれた。アイスクリームを受け取って、ユーリと簪の部屋へ行こうとしているようだった。

俺とアカネは二人の考えが変わることを祈りつつ、また同時に変わると信じて見送って自室へ戻ろうとした。

 

そして、去り際にこんな事を残して言った。

 

「あ、そうそう! 暗い話ばかりじゃないんだ! 言い忘れたけど、今度のキャノンボールファストだけど、あのミサキ・ホーキンスが来るんだって!」

 

そこで、俺達は凍り付いたかのように止まった。衝撃の事実、という訳ではない、思い出したのだ。そう言えば、ユーリを連れ出すプランで彼女に依頼したままであった。

 

「忘れてた……!」

 

ミサキ・ホーキンス。その名前はRインダストリーのおひざ元、シンシティだけでなく、世界的にも知られた歌手の名前であるが、もう一つシンシテイで知る人ぞ知る名前がある。

 

災厄の姫、女王、歩く人間台風。要するにあちこちに不幸を振りまく存在なのだ。夏休みに見せた、そのトラブルメーカーは初対面の俺を震撼させるのに、そう時間はかからなかった。

 

RPG7の不発弾をロケット花火と称しライターであぶり、彼女が泣けば、ISの荷電粒子砲並の雷神の鉄槌が辺り一面を破壊する。そのくせ、本人には不幸が降りかかることは無い。それどころか、本人は何もわかっていないのだ。

 

後に調べたことだが、こんなエピソードがある。ある時、彼女を「アイドルといいことをしたい」という桃色の妄想を持って招待した某国独裁者がいたという。

 

その男は見事ミサキを自分の寝室へと誘い込み、さあ、これからと意気込んだとき、奇跡が起こった。

 

彼が所持していた金のデザートイーグルが謎の暴発を起こして、男の象徴が再起不能になり、その弾丸の一部が偶然周辺軍施設への連絡機構を停止させ、クーデターが勃発。

 

マネージャーはクーデター側に参加する羽目になり、三度戦車隊に突撃を竹やり一本で一人で実行し、現地で英雄になっていたり、周辺国家も国連もミサキの来国でお祭り騒ぎをしていると勘違いし、微笑ましく思っていたり、とあらゆる奇跡を起こしたという。

 

 

彼女がビロード張りのベットでスヤスヤと寝息を立てている間に、国は民主主義へと変わり、彼女の歌はその国の国歌となったと言う。

 

ちなみに当の本人はこう述べている

 

『皆! 応援ありがとう! 旗まで作ってくれて、私感動しちゃった!』

 

反省の色どころか、気付きすらしない。

 

そんな存在が来ることを知った今、俺たちにできることは何か、それすなわち、マイクの元へと走り、対策を練ることだ。

 

アカネはアイスクリームは魔法の鍵と言った。なるほど、かの魔女も友達になるのだから、その効果は確かなものだ、と確信した。

 

 

 




次回から、シリアスとコメディの割合がフルハウス並にする予定です。
あまりコメディは上手くないですが、頑張っていきたいと思います。

息抜き程度に楽しめてもらえれば、幸いです。
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