『こんばんわ。イブニングニュースの時間です。寒い季節に入ろうとしていますが、ここでホットなニュースが入りました』
『世界的アイドル ミサキ・ホーキンスさんが突然の来日。目的は何とIS学園のイベントでのライブという事です』
『いやあ、日本に来てくれるとは何と嬉しい事でしょう。私の孫なんかはファンでして、この幸運に……』
幸せそうなオヤジのインタビューを放送していたTVは次の瞬間7.62mm弾の鉄槌を受けて沈黙した。射手である彼女はライフルを仕舞い、椅子にドカッと乱暴に座った。
マイクとヴィンセントの部屋に集められたレジスタンス達と鈴や簪、マイク達に、そして俺達は本社と連絡を取っているヴィンセントが戻ってくるのをひたすらに待った。
机に広げられる書類の数々を睨み付けるアカネの眼光は鋭く、またその身を纏う雰囲気は悪魔も裸足で逃げ出すほどだった。腕を組んで手には二本の三色ボールペンが握られており、ギシギシと音を立てている。
「なんか、アカネちゃん怖いね?」
さやかが俺に小声で聞いてきたのに俺は小さく頷いた。一人悪鬼になっている自分の彼女を見て、俺はヴィンセントからの報告が吉報であることを願った。
そして、その時はついに来た。厚い扉を開けてヴィンセントが入って来て、その詳細を話し始めた。
「ミサキ・ホーキンスの来日は確実だ。ミサキは既にヨーロッパでのツアーを終えて、完全にフリー、スケジュールを詰めてまで、ここに来るつもりだろう」
話されたのは、逃げようがない事実だった。世界的に有名な歌手でこの間までツアーをしていたそうだったが、それも終わり、彼女は此処にやってくることは間違いない。
レジスタンスの女子たちと簪がわあ、と喜びの色を見せた。本物のスターに会える、彼女たちはそんな夢みたいな体験に心を躍らせていた。それと対照的にアカネは渋い顔を見せて、書類を見つつ、現状を打破しようと努める。
「……ですがIS学園は警備上の不備があるはずです。それを理由にすれば、当日以外は災厄を避けれるはずです」
その言葉にヴィンセントは口を開けかけた。一瞬話すかどうか迷っているようだった。目は泳いでおり、冷汗を流して苦笑いをしている。
「アカネ……その」
そう迷っているヴィンセントが後ろに隠していたプリントを鈴がもぎ取り、それを呼んだ。ヴィンセントが必死に止めようとしたが、手遅れだった。
「何々? 『ピースメンバーは彼女を学園へと招き入れ、護衛と付き添いをすること。彼女は本番二週間前から滞在するので楽しく過ごすこと。 アルフレッド』」
「逃げ場はないという事か」
鈴の言葉にユーリが続いた。一瞬飛び上りそうなほどの歓喜を見せたレジスタンス達だったが、アカネの怒気がソレを制した。重苦しい沈黙が流れる中、アカネは震える手でメガネを外していた。手の震えでメガネのフレームがカチカチと音を立ており、爆弾のタイマーに思えた。
彼女は相当、頭に来ているようだ。
「……四人残ってください。ヴィンセント、弾、静寐、マイク 残りは解散」
アカネの言葉に従い、呼ばれた四人は残り、他はぞろぞろと列を作って部屋の外へと出る、というより退避した。
これから来るであろう、嵐のような噴火から。
「おかしいでしょうが!」
机を拳で殴り、鈍い音が木霊した。音に肩をビクリト反応して、俺達は目の前の怒れるマークスマンに注意を向ける。
「ミサキの学園お泊りなんて聞いてねえよ!」
口調すら、統一できないレベルになったアカネはマシンガンのように次々と怒りの言葉を発する。
「大体、アイドルが学園に来るって何ですか?! しかも泊りがけとか訳わかんねーよ!!……オマケに楽しくやれ、だとォ?」
一瞬トーンダウンしたかに見えたが、すぐに元の勢いに戻って、周りの四人に向かって、八つ当たり、自暴自棄気味に叫びまくる。
「本社の野郎どもと来たら、あの娘がどんな存在か知っているくせに、無能、ずさん、臆病者、卑怯者と来てる! 目の前のお前らに至っては苦笑いするだけで、何もしない!むしろ喜んでいる奴すらいやがる! この際言っときますが、そんなお前らが大きっらいだ!」
それに対して反論を行ったのはリーダー、静寐だった。彼女は純粋にアイドル、ミサキが来ることを心待ちにしているようだ。今こうして反論するときですら目をキラキラと輝かせている。
「アイドルが来るんだからいいじゃない!喜んだって! しかも、アカネちゃん、彼女の親友でしょ!」
「その笑顔をやめないか! この無知女、バーカ!!」
荒れに荒れた彼女はセミロングの髪の毛も乱れに乱れ、最早キャラの崩壊すら許している様だ。相当、取り乱していると見た。
「そんな言い方しなくたっていいじゃない! 本当は嬉しいくせに!」
「ああ、そうですよ。嬉しすぎて、ストレスで胃がマッハで溶けているんですよ!!」
三食ボールペンを剛腕で机に叩きつけ、彼女は「畜生めが!!」、と大絶叫を放つ。哀れボールペンは真っ二つに割れ、俺達は今反論すれば、あのボールペンと同じ末路をたどるであろうことを想像し、背筋をぴしりと伸ばした。
その様は皆一緒に一点に視線を向けるプレーリードッグのごとくだった。
「そもそも、何でも学園でやろうとするからこうなるんですよ! リアルのへったくれもない事ばかりしやがって! 都合が悪くなりゃ言い訳ばかりか!ええ?!」
「おいやめろ」
マイクがそう言ったが、アカネが気にすることはない。机をバンバンと連続して叩き、周りを威圧しながら、叫び続ける。
「あの子との交流で死にかけるってことを知ってるくせに、厄介ごとを押し付けて生き残ろうってんですよ、あのアルフレッドのタヌキ野郎!学校で学んだ事はナイフとフォークの使い方ぐらいだろ! 一々大物ぶりやがってぇ」
そこまで言って、アカネは息切れを起こしたのか、肩で息をして、過呼吸気味になっていた。ぐったりと椅子にもたれかかり、先ほどまでの剣幕がようやく、落ち着きをみせた。
その時、扉の隙間から鈴の顔が見えて彼女は俺に対し、口パクで「アンタの彼女でしょ、何とかしなさいよ」と語りかけてきた。
俺が手でソレを払っていると、アカネが鈴の方を睨んだ。「ニャッ」と変な悲鳴をあげて彼女は脱兎のごとく逃げて行った。
確かにアカネの言う通り裏切り者と臆病者だらけかもしれない。俺はこめかみに青筋を浮かべて、そんな事を考えた。
アカネは深いため息を吐いて、天井を見上げた。乾いた双ぼうには一筋の涙が伝っていた。
「まあ、でもミサキは親友、たしかにそれは変わりない。私の胃袋は鋼鉄製じゃありませんが、こんな体験は何度となくやってきました」
ぷつり、と何かが吹っ切れたアカネを照明の明かりが照らす。それは、これから天に召されるようにも見えた。
「アカネ、俺達もついているからさ、そう絶望的な顔をするなよ」
俺がそう言うと隣のヴィンセントがコチラに顔を向け、腕でバッテンを作った。その瞬間、彼は先ほどのボールペンよろしく、悪鬼のごとくアカネによって体を折られた。
声にならない悲鳴の後、残ったのはプラチナブロンドのエビが後ろに飛ぶ姿を思い浮かばせる、くの字型の変死体の彼だった。
「そうですね……そうすれば、皆幸せになるかもしれませんね」
既に不幸に見舞われた物を横目で見たが、俺は無言を貫き通した。
「皆、頑張りま……」
その瞬間、不幸が発動した。
とてつもない爆発音と、衝撃に揺れ、照明が落ちてきて、アカネの頭頂部に直撃し、彼女は意識を手放した。
ソレは奴が来たことの狼煙でもあった。部屋にユーリが入って来て、意識を失っている二人を運び出していた。俺はアカネを背負い、せめてもの慰めに今日はキャンデイバーを奢ってあげようと誓った。
同時に自らの安全も。
人生において自分がいかに不幸を語るとき、人は何を基準とするか。
ある人は量だと答える。今日はツイテいない、朝から妻はヒス、息子は反抗期で、娘は語尾に必ずキモイを着けてくる。通勤ラッシュで隣のOLに睨まれ、仕事では部下のミスが見つかって残業、苦行、難行、と三ぎょう苦。その人はこれこそが不幸だと言う。
ある人は質だと言う。妻の浮気、借金地獄、幼馴染が暴力的、姉がアッパラパー、と語るだろう。
だが、俺はこう語りたい。これから始まるアイドルとの共同生活であると
爆発音の原因を探り、学校の校門に着くと、そこには無邪気に笑う小柄な女の子のミサキ・ホーキンスに、顔面蒼白になって謝り続けるマネージャーのオットーさん、そして黒こげになって倒れている山田先生と大場先生だ。
「何があったんだ?」
「あ、あの女よ」
声のした方へと振り向くと木の陰に隠れて震えているイヴァナ先生がいた。
「あの女って、ミサキさんが?」
「お、恐ろしいわ、あの子」
イヴァナ先生は語りだす。事の成り行きをというものを。学校に到着した三人組の出迎えとして寄越された先生たちは最初に挨拶を交した。何の変哲のないコミュニケーションの基本を取った後、ミサキは大場先生にお土産と言って、リボンで包装されたテディベアと球状の物体を差し上げた。
可愛らしく飾られた贈り物に山田先生は喜んだが、大場先生は悲鳴を上げて、それを宙高く放り投げようとした。だが、ミサキはそれを嫌がった。
「何するのー?!せっかくテディベアまで付けたのにィ!」
「大場先生何してるんですか?!」
抗議する二人に大場先生はその正体を教えた。
「こいつはクラスター爆弾だぞ! どっから持ってきた?!」
「土に埋まってたのをトランクに飾ってたの!」
一体彼女がどのような手法を使って、飛行機のチェックをすり抜け、いやそれどころか今まで爆発もさせずに、持ってきたのか。それは謎だった。山田先生と大場先生は二人で彼女から奪い取ろうと動き、私は一目散に逃げた。
あわあわと慌てる山田先生、涙声になりつつある大場先生を捨てて、私は逃げた。
そんな感じで、三人が取り合いしている時、ミサキが頬を膨らませて、とんでもない行動に出たのだ。
「そんなに欲しいなら、いいよもう! あげちゃう!」
そう言って、二人に爆弾を押し付けカチリと音が鳴った。彼女の手を離れた瞬間に眠っていた信管が目覚め機能し、起爆した。
幸い、火薬古かったのか、それとも黒色火薬を使っていたのか、派手な爆発が起こったように見えたが、彼女ら二人を気絶させて真黒にしたのみで、奇跡的に彼女らは無傷だ。
むろん、心のダメージは知らない。
「イヴァナ先生、最低じゃないですか。一人逃げて」
俺が率直な感想を述べるが、彼女は卑屈な笑みすら浮かべて、言い訳を述べた。
「い、いいのよ! 二人は私の為に倒れた! それでこれはお終い! それに、悪いのは彼女で私じゃないわ!」
腕をぶんぶんと振り回して、反論した。そこへ、ミサキが俺の方を見て、気付いたらしく、駆け寄って来た。俺は硬直し、イヴァナ先生は俺と言う生徒を捨てて、全力で逃げた。
「弾君だ。こんにちわ」
「ど、どうも」
「顔色悪いよ? テディベアあげよっか? 心が弾けるよ」
「い、いやだ。弾けたくない」
ミサキは首を傾げた。まるで、変わった人間でも見るかのようだ。先ほど弾かせた二人のことなど頭から消えているようだ。
「そうなの? さっきの先生も急に真黒になって眠ったみたいだし、皆疲れてるのかな?」
「それは、アンタが……」
突っ込もうとすると、後ろから手を掴まれた。ゴツゴツとした男の手が俺の腕を握っており、凄い力で絞められた。横目で見ると、マネージャのオットーさんだった。
彼は涙声で俺に頼み込んで来た。
「頼む、彼女に怒らないでくれ」
「言わないと、わかんないでしょ?」
「言ってみろ、次の瞬間雷神の鉄槌を受けて君は灰に還る」
俺は夏休みの惨劇を脳裏に思い浮かべて、冷汗をかいた。ミサキには守護神がダース単位でついているらしく、彼女が泣けば神の怒りが頭上から降ってくるのだ。
きっと、幸運の女神と疫病神の寵児で、雷神が保護者になっているのだろう。恐ろしく迷惑なアイドルだ。
そして、そのお目付け役がマネージャーのオットーの役目だが、彼は大場先生を助けなかった。
「何故、助けなかった?」
「僕も命が惜しい。そして、僕だけが不幸に会うのは理不尽だ。皆、僕の為に死ね」
「……最低野郎」
「何とでも言え」
ニヒルな笑みを浮かべて悪者顔をする彼であったが、気付けばミサキが彼の袖を引っ張り子供のごとく純真な顔で訊いてきた。
「オットーこれ何?」
「えっ」
間抜けな声がしたと思った時には、彼はバチンと音を鳴らして地に伏せた。ミサキの身長は150cmは無いほどで、オットーは2m近く、しゃがみこんだミサキの手に握られていたのはテイザーガンでそれが彼の尻に直撃した。
どうやら、大場先生の持っていた物らしく本物の銃と間違えないように鮮やかな黄色に塗られていて玩具だと思ったそうだ。これはもう、復讐の女神もついているかもしれない。
「また寝ちゃった。皆お休み~」
「と、とりあえず。学校に入らないか?三人は運んでおくからさ」
これ以上彼女の自由にさせるわけにはいかない。そう判断し、彼女にそう持ちかけると、ミサキは元気いっぱいの返事を返した。
この他人を不幸のどん底に陥れるところさえなければ、天使ともいえる可愛らしさなのに。
アカネがこの子を気に入っているのは分からないでもないが、俺は内心恐怖の真っただ中で背中は汗びっしょりだった。
「あ、ISだ」
彼女はアリーナ上空に見える青い機体に訓練機の群れを指さした。同時に青い機体、恐らくブルーティアーズに雷撃が走り直撃し、黒煙を掃き出し、地上へと降下していったのが見えた。
それに続くように訓練機もフラフラと地上へと落ちて行った。
「いなくなっちゃった……」
彼女の災厄は遠距離にも対応しているらしい。俺は逃げたい心の衝動を必死にかき消して、彼女を案内しようとした。
「いやあ、少年じゃないか。久しぶりだね」
そこへ、聞き覚えのある紳士然とした声が聞こえた。俺はその場でフリーズした。なぜこの場に彼がいるのか、髪は俺を見捨てたのか、様々な疑問や憶測、果ては陰謀論すら頭に思い浮かび、俺はその姿を見た。
「元気にしていたかね?」
「ダグラスさん、遅いよー。どこに行ってたの?」
ミサキが尋ねるとダグラスさんは薄く笑い、メガネのずれを直しながら答えた。
「いえ、ちょっとね。ハンバーガー店でマナーの悪い学生たちがいたもんですから、ホットドッグを奢ってあげましてね」
俺にはその光景が目の前に浮かんだ。二、三人の学生が騒いでると、そこに新市街やって来て、最初は優しいことに調子に乗って、挑発しまくり。段々、怒りのボルテージが貯まり、決壊したダムのごとく、学生たちはその口に熱々のホットドッグをねじ込まれ、日本伝統のおでんによる拷問よろしく、火傷とダグラスさんの説教に倒れただろう。
「これから、よろしくね!」
「よろしく、少年」
アカネは何時か言っていた。ミサキは周りに不幸を呼び寄せると。よりによって、俺の人生最大クラスのトラウマを持ち出されては俺も何を言っていいかわからない。
空にさす夕焼けの光は赤く血のようだった。
消毒液とイージーリスニングな穏やかな音楽流れる保健室。ここの雰囲気はアタシは好きでない。どことなく、歯医者のそれと似ている気がして、ドリルの音が聞こえてくるようだからだ。
「奴が……来る」
目の前で寝ているアカネは別の物を感じ取っているらしく、うなされている。ちょっと前までの勢いは今は無く、その姿は絶望的状況に立たされた兵士のソレだ。
「何がそんなに怖いんだろう?」
私の向かいに座り、リンゴの皮を器用に向く簪がそんな言葉を発した。
「あ~、アレよ。誰だって苦手な人はいるでしょう?」
「ミサキちゃんってそうなのかな?」
「知らないけどね」
背もたれに寄り掛かり、アカネを見る。悪夢に過去のトラウマをブツブツと口にし、既にPTSDの域に入っていた。
口元に呟かれる体験談に耳を傾けると、さらに意味が不明だった。ポン刀を持った若かりし頃のハゲ男がやたら名前の長い子供に際悩まされながら、ナカトミ=サンビルから隕石へと跳び、ぶっ壊して、その隕石が自分に降って来て、と。
「何言ってるのかしらね?この子」
「多分、洋画かな?」
そうしていると、突然笑いだしたりして、最早収集がつかなくなってきたので、口に水を流し込んであげた。すると、彼女はむせて、ベッドから飛び起きて目を覚ました。
「気分は?」
「大丈夫です。助かりました、鈴」
「キャラが戻った」
肩で息をするアカネはシーツを握りしめて、空いた左手頭を抱えていた。一体何が彼女をそんなに苦しめるのか、アタシは疑問に思って仕方なかった。
そこへ、保健室に担架がゾロゾロと列をなして入って来た。最初は黒くなった大場先生と山田先生で、次に尻を抑えて、泣き叫ぶスーツの男が入り、最後に白目をむいて倒れているセシリアから、三年生たちだった。
「何アレ?」
アタシがアカネに尋ねると、彼女は消えるような声で、その名を呼んだ。
「ミサキだ。間違いない、アイツがやって来たんだ」
そう語るアカネをアタシは怪訝そうに見つめていると、扉が勢いよく開かれて、私より背が小さい可愛らしさに全力でステータスを振った女子が姿を見せた。
「アカネー! 久しぶりー!」
勢いよく彼女にダイブして、抱き付いた。その余波がコチラに来て、彼女の右足がアタシの顎にクリーンヒットし、アタシは倒れた。
後頭部を抑えて、もんどりを売っている私に気付くことも無く彼女はアカネに頬をすりすりと擦り付けていた。
「ア、 アンタねえ、人を倒しておいて、それは」
抗議しようと立ち上がったが、ミサキがコチラを向いてニコッと笑った瞬間、何故かその気も失せた。端的に言うと魅入られた。
「鈴ちゃんでしょ? アカネからメールで聞いたよ! そのツインテール可愛いね、今度メアド交換しよう?」
「……あ、うん。いいわよ、モチロン」
抗議するはずが、彼女の雰囲気にのまれていることに気付き、アタシはゾっとした。このアタシが出会って三秒もしないうちに懐柔されていたからだ。
「あ、あの私も」
「簪ちゃん? いいよ~」
簪もソレにのかってしまっていた。それを見てアカネが悪夢だ、と呟いていた。
「ちょっと、よろしくて?」
そこへ、聞いたことのある声がした。ミサキがそちらへ振り向くと、そこにはセシリアがいた。
「何? 誰? アカネちゃん、この人お友達?」
「私は違います! それよりも何ですの?! さっきの攻撃は?」
アタシ達は一斉に首を傾げた。攻撃とは何のことか、言っている意味がさっぱりだったからだ。
「とぼけないでくださいまし!私のブルーティアーズがしっかりと捉えましたわ! 貴方の指から、高出力の雷撃を検知し、その後私を撃墜したではありませんか!」
腕を振り回し、怒り心頭にテールライトのごとく顔を真っ赤にしたセシリアに続き、他の三年生たちも彼女に倣い、抗議をしてきた。
その様子から本当のように聞こえ、アタシは、まさか、と否定しつつもアカネの慌てぶりを思い出して冷汗が流れた。
そんな彼女たちを見て、ミサキは可愛らしい笑顔から一転し哀れみを持った目で彼女たちを見て言った。
「え? そんなことあるわけないじゃん。疲れてるの?……飴食べる?」
ぷぷっと笑う声が続き、彼女はアカネに小声で訊いた。
「ねえ、アカネちゃん。ひょっとしてこの人達お馬鹿さんなの? 人から雷なんて有り得ないよね?」
「……ソウデスネ」
「やっぱり、この学園の人は皆疲れてるんだね。可哀想に」
アカネは片言で答えて、ミサキが再び彼女たちに振り返る。
「ダイジョーブだよ。皆まだ全然平気な所にいるから。そんなことより、私と友達にならない? 心の疲れも歌を聞けば一発だよ」
最早、話を理解することを放棄し、彼女ら被害者一同を可哀想な人でまとめだした彼女にセシリアは歯ぎしりをして、彼女の提案をはねのけた。
「お断りですわ! 誰が貴女みたいな……」
「友達にならないの?」
その時、セシリアに青い閃光が走り一瞬で気絶した。何が起こったかわからない、頭の理解が追いつかない状況下でアタシ達は沈黙した。
「……雷だ」
その答えを簪が答えた。どうやら、人を気絶させる程度の雷が快晴の今日この日に起きて、セシリアをピンポイントに狙い撃ったようだった。
非科学的だが、事実だった。自分でも何を言っているのかさっぱりわからないが、とにかくそれは起こった。
アタシ達がミサキの方を無言で見た。彼女はセシリアのことなどすっかり頭から切り離し、アカネに抱き付いて甘えている。
アカネはストレスを感じ取って白目をむいて、青ざめた顔になっている。隣の人物はそれに気づいているだろうか。
「ねえねえ、アカネ? 今回のコンサート、ISとか演出に使えるのかな? アカネも一緒に飛んでくれるの?」
可愛らしい大きな目を輝かせて、彼女を知らぬものなら癒しのソプラノボイスとなるであろう声を発して彼女はアカネを揺らす。
「ねえ、アカネェ。お空飛ぶってどんな気持ち? ねえ? ねえ?」
「……今みたいな気持ちです。 どこへでも飛べそうな気持ちです」
「凄い!」
天真爛漫、そんな笑顔を振りまき、彼女は喜んでいた。アカネの回答を聞き、アタシたちは飛ぶのは誰で、どのように、また何人が犠牲名になるのかを想像し、アカネ一人を置いて、コソコソと保健室から出て行った。
彼女はミサキ・ホーキンス。IS撃墜記録更新中の世界的アイドルである。
コメディは難しいですね。
コレは面白いのか、どうか判断が尽きませんね。
コメディが得意な作者様は本当にすごいです。