IS to family   作:ハナのTV

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突然の発表、世界を揺るがす世紀の兵器を目の前にして、観客もTVを見ている大衆も大混乱のさなかにあるだろう。

 

絶対と謳われた兵器、ISを打倒するための逆転のカード、それはこの十年間の世界の努力を全て水泡に帰すものだ。

 

優遇制度、女性のためだけの政党、思想、宗教、それらをまとめて、無へと返す逆転のピースだ。

 

 

今まで、不要と決めて切り捨てた者達を世界はどう見るのか。必要と判断した女たちを彼らがどう扱うか、そんな先の事は俺には分からなかった。

 

そんな事は政治家の領分であり、一学生でパイロットに過ぎない俺にできるのは精々が今日生きるという事だ。そして、それを決定するであろうアルフレッドは会場に自らの声を響かせた。

 

「この兵器はISの軍事的地位を奪うでしょう! 我々はその為に作り上げた! 女性にしか使えず、歪んだ価値観を生んだ忌むべき兵器は今日この日から消え去り、ISは新たな姿へと生まれ変わるでしょう!」

 

アルフレッドの声に皆が圧倒される。大胆不敵すぎる発言に誰もかれもが信じられないでいた。ある物は驚き、ある物は嘲笑した。

 

しかし、アルフレッドが揺らぐことは無い。むしろ、それらの反応を無知な大衆の愚かさであるとし、嗤うようであった。

 

『皆様の反応も理解できます。しかし、現に我々は既にそれを証明しうるだけの成果を出しているのです。その為の機体であり、これこそが世界を改変するピースなのです』

 

世界を変える、と白騎士事件をひっくり返し、かつての時代へと逆行させる。それは一部の者には恩恵で、一部の者には耐えがたい行為だった。

 

「ふざけるな!」

 

そうアルフレッドに叫んだのは一夏だった。彼は白式を装備した状態でアルフレッドを指さして避難した。

 

「いきなり、現れて何だよ! 訳の分かんないことばかり言って! それにISは兵器じゃねえ! 大切な者を守るための力だ! お前たちのそんな機体に負けはしない!」

 

その言葉に会場の何割かは同調し、アルフレッドに野次を飛ばす。だが、アルフレッドはにこやかに一夏に反論して見せた。

 

「君は織斑君だったね。成程噂に聞くほどの正義漢ぶりだ。しかし、君たちは既に負けているのだよ」

「何の証拠があって?!」

 

そう反論する一夏を前にして、アルフレッドは指を鳴らして、ライブ用の立体映像にある映像を見せた。その映像を見て俺達は驚いた。

 

「おい、ありゃ……!」

 

俺の驚きの声と同じくして俺達ピースはその画面に食いつくように見た。それは俺達の今までの戦闘記録。模擬戦からラウラの暴走、福音、学園祭襲撃に至るまで、全てがそこに映っていた。

 

ラプター、マーダー、グレイイーグル、ハヤブサ、誰もかれもが戦った全てが投影された。

 

機密なども関係ない。ISとIS学園の不祥事を発表し、権威そのものを徹底的に貶める気だ。

 

「これが証拠だよ。君たちがISと信じたものは全て我々の実験機に過ぎない。これらは全てがそこのバルドイーグルのための試験機。君らが笑うISモドキの一種に過ぎない。これでも君はまだ、嘘というかね?」

 

ソレは完成されたロジックだった。大人のずる賢い頭脳で作られた反論すら許さない論理に一夏は言葉を詰まらせた。

 

全てはこの発表のための前座と言っても過言ではない。俺達の戦闘は全て、あのバルドイーグルのための養分となっていた。戦闘データとして、また有用性の証明のための土壌だったと言える。

 

グレイイーグル、ヴィンセントは鈴と一夏を倒し、アカネは暴走機やブルーティアーズの二号機相手に互角の戦闘をしている。マーダーは小型でありながら、何機ものISを屠っている。

 

そして、何よりの例が俺だった。

 

『特にわが社の五反田弾少年を見てみましょう。彼の経験は半年ほど、最初はわが社も専用機を持たせることが出来なませんでしたが、彼はわが社の製品の元、代表候補生を訓練機で倒せるほどの成長を見せたのです。これでも、我々が非力と言うのでしょうか? 皆様に私は問いかけます』

 

個人の素質という者があったにせよ、俺は確かに結果を出した。セシリアの撃破、暴走機相手の足止め、アラクネと呼ばれる敵ISとの戦闘、濃すぎる半年間の激戦を生き抜いたとは言え、確かに俺は特筆すべき例であった。

 

だが、俺はその時拳を強く固く握りしめた。それを一夏に言う事で、この後何が起こるのか、容易に想像できたからだ。

 

「そんなのやって見なきゃ分からないだろ!」

 

それでも、一夏は反論する。実戦をしなければ、何もわからない。稚拙な反論に見えるが、理には適っていた。その反論にアルフレッドはニヤリと口角を吊り上げた。

 

「乗せられてる……」

 

ヴィンセントがそう呟いた。全てがアルフレッドの手の中の内だった。俺達もあのバルドイーグルも一夏たちも観衆も皆が彼の思惑が作り出したステージの上で踊っているのだ。

 

「よろしい。では検証と行こう!」

「ああ。いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」

 

俺はその様子を見て、聞こえるはずのない場所から叫んでいた。

 

「よせ、一夏!」

 

ここまで、大きく発表し挑発をしてきたという事は、勝つ見込みがあるからに違いならない。企業は利益が出るときに動く、つまりアルフレッドたちは勝率がかなり高いとみているのだ。

 

実際、俺達の戦闘データを彼らが発表しているという事は一夏たちのデータも獲得していることとなるのだ。

 

一見すれば、どうなるか分からない勝負に見えるが、実際は圧倒的にインダストリー側が有利となっている。戦争は準備段階から勝てるようにするのが上策、という基本に彼らは従っているのだ。

 

そこで、ユーリーがその場でマーダーを装備し、バルドイーグルのスペックを概算しだした。そして、ユーリはそのスペックを口にした。

 

「出力予想がグレイイーグルより15%上だと?……推力もラプターに近い。シールド防御も来より高い。完全に俺達の上位互換だぞ」

 

ソレは俺達の機体の集合体だった。俺達の機体はいわば、突出した性能をもつ第二世代機であり、目の前の機体は平均的な性能を持つ第三世代型ISと言えた。

 

マーダーによって得られた各パーツの小型化、グレイイーグルの装甲とパワー。ハヤブサの射撃性能と機動性、ラプターの柔軟性、全てを凝縮した機体なのだ。

 

特徴が無く、誰でも扱える高性能機、まさしく兵器のあるべき姿だった。

 

その兵器たちが各々ライフルを取り出して、一夏たちの前に立ちはだかった。ライフルはオーソドックスなM16を模した形で、PMC達が扱い慣れた形に作ることで射撃に難が出ないように注意が払われていることがわかる。

 

対するは一夏や箒、セシリア、ラウラであり、鈴や簪、シャルロットはどうしていいか迷っているようだった。

 

4対4。数的優位性は無い正々堂々の戦闘が行われようとしており、アリーナの観客席にシールドが張られ、そしてアリーナの中央にも張られた。

 

何故、と思った時、その答えを教えるものがマイクを握った。ミサキだった。彼女は観衆に呼びかけた。

 

『皆! 待ちに待ったISバトルだよ! でも、ただのバトルじゃないよ!』

「ミサキ?」

 

アカネの訝しがる声がして、ミサキはとんでもないことを口にした。

 

『どこであろうと歌は止まらない! バトルをショーに! 演出にして! 私の歌を響かせる!』

 

戸惑う観客たち、俺達も唖然とした顔で彼女を見た。

 

彼女のバンドメンバーが各々で楽器を弾きだした。彼女はあの中央で歌うつもりなのだ。一発でもシールドを貫通すれば、彼女はたちまち消えてなくなると言うのに、彼女はこの戦いを世紀の大ショーにして見せようと言うのだ。

 

彼女はアカネの為にこのショーに参加したものだとばかりだと思っていた。それは正しいが、欠けていた。彼女はこの戦闘を自分のコンサートに組み込むことを条件にしたのだ。

 

ギターが鳴り、ドラムがリズムを刻む。それに合わせて、バルドイーグルの群れが巨大な足でそのリズムに乗り出した。

 

鉄の足が訊かせるリズムに一夏たちは顔をこわばらせ、アルフレッドが舞台から姿を消す。

 

ミサキの衣装が変化し、米軍の白い礼服をアレンジした物へと変わった。そして彼女は世界中の人々を嘲笑するかのように、カウントした。

 

「3、2、1 let's jump!」

 

その瞬間、対峙する二つの部隊が飛んだ。その瞬間、観客たちは嘘のように一瞬静まり返り、やがて大爆発を起こしたかのように歓声を大にしてあげた。

 

大歓声の中、上がったのは花火のように飛び交うエネルギー弾と青いパルスライフルの高速弾。それらが、ライブのレーザーとはけた違いの暴力性を伴った光と音をまき散らし、大勢をハイにした。

 

ミサキの背後に戦闘を中継するスクリーンが移され、その中央で踊り、歌い狂うミサキは誰よりも興奮しているようで、赤く火照った顔を見せつける。

 

彼女の歌は戦意高揚のためのドラッグのごとくで、まるで、戦場を支配する女王のように、戦え、戦えと彼らを扇動し、傷つき倒れていく様を楽しんでいるようなサディスティックな笑みをする。

 

シールドに砲弾やライフル弾が命中し、中にいる彼女を揺らしても彼女はひるむことなく、むしろ燃え上がるかのように熱を帯びていく。

 

宙を見上げれば、バルドイーグルの編隊に対し、一夏と箒が突貫し、それをラウラとセシリアが援護すると言う風に戦闘が展開されていた。

 

だが、バルドイーグルの動きは洗練されていた。白式と紅椿というISでもかなりの高速を誇る機体に対し、正確に射撃を行いつつ、セシリア達をけん制する。

 

まず、手始めにギャンブル機が後退し、一夏を引きつける。一夏は開いた距離が縮まないことに業を煮やし、荷電粒子砲を放つがかすりもしない。

 

ギャンブルは三点バーストで三セット繰り返し、一夏の回避機動を絞り、その後方でメロウ機がDMR9を構えスコープを覗き、誘導された一夏へと連射する。

 

貫通力に特化したパルスライフル弾ではなく、巨大な質量を持ち、ストッピングパワーに優れたDMR9の75mm弾が白式に二発命中し、一夏の機動が大いに乱れる。

 

速度が激減するたびに、容赦なくDMR9とM16型パルスライフルが降り注ぐ。倒れた者にこそ、弾丸を浴びせるのは確実なキルを目的とした兵士の冷酷さを物語っていた。

 

「一夏!」

 

箒がエネルギー刃を飛ばして、二機に襲い掛かるが、二機は散開して別れ、コレを回避、それを見た一夏が箒と呼応するように、二機に突貫し、二人は隊列の乱れた二人を一撃で葬り去ろうと動いた。

 

しかし、二人の動きは一瞬で変化した。素早い姿勢制御を行い、二人は背中合わせになり、ギャンブル機はその一瞬でパルスライフルに銃剣を装着して一夏の急襲を防ぎ、メロウ機がDMR9を箒に五発直撃させた。

 

「何!?」

 

一夏が驚く間も置かせずに、ギャンブルは銃剣術で雪片弐型を絡め取って、ガードを上にあげて、フルオートで胴体に直撃させたのちに回転蹴りを放って地面へと叩きつけた。

 

飛び散った薬きょうの数は12個。青く、清廉な光を放つパルスライフル弾の粒子の残滓がバルドイーグルの無機質なカメラアイを妖しく光らせた。

 

人間性の欠片すら見られないカメラアイに映るのはかつての兵達の荒んだ目であったようだ。

 

一夏が地面に激突する頃にはギャンブルは再装填を完了し、ボルトキャッチを押し、薬室に初弾を送り込む。何千、何万としてきたであろう、その動作に迷いなどない。

 

倒れた一夏にとどめを刺そうと引き金に力が入る瞬間、そのライフルに青い閃光が走り、パルスライフルの銃身を融解させた。

 

「させませんこと! 偽物などに!」

 

セシリアが高速機動を行いつつ、狙撃をしてブルーティアーズを展開する。回避行動をとりつつのビット操作。それは彼女の成長の証であった。

 

「踊りなさい! 私とブルーティアーズの奏でる鎮魂歌で!」

 

そう叫び、ギャンブル機に襲い掛かった。ギャンブル機は空中でバックステップをするように最初の二つを回避し、マガジンと初弾を銃から抜いて、後方からのビット攻撃を空のライフルで防いだ。

 

「そこですわ!」

 

回避行動をとり続け、粘るギャンブルにセシリアは渾身の攻撃。フレキシブルと言う偏光射撃をして迫った。彼女の意志が形となった曲がりくねる青い閃光がギャンブルを貫くと思われた時、セシリアの上方からバルドイーグルが奇襲を仕掛けた。

 

二本のマチェットの刃が彼女の肢体を切り刻んだ。飛び上る悲鳴に、装甲が飛び散って名の通り青い雫となる。

 

セシリアがギャンブルに注意を向けている隙に残った二機の内、一機はラウラを足止めし、もう一機は面倒な狙撃手の排除に入ったのだ。

 

スピンとロールを合わせて、荒れ狂う竜巻のようにマチェットを振るうバルドイーグル野刀捌きは暴力的かつ、効率的にセシリアにダメージを確実に与える。

 

ビットを操作しつつの射撃、回避ができても、どれ程優秀なレーダーやセンサーがあっても人の注意を四方に密に張り巡らすのは不可能だ。

 

「是小姑娘!」

 

マチェットを振るう一機の外部スピーカーからそんな叫びが聞こえた。復讐の刃をセシリアは四撃目で短刀で受け止め、格闘戦へと持ち込まれた。

 

武骨な巨人と青い甲冑を纏った少女の織りなすダンスに観衆は盛り上がり、ステージの中央でシールドに守られているとはいえ、弾丸が飛び交う中で歌い続けるミサキの声にさらにのめりこんでいく。

 

スリルの中毒患者となった大衆とそれを届ける一夏たちや、ギャンブル達のPMC、そしてミサキと言うアイドル。

 

エンターテイナーと化した三者が見せる顔はそれぞれで違う。怒り、喜び、興奮。三つの感情が入り乱れた戦場で一夏たちが叫ぶ。

 

「こんなの……おかしいだろ!」

 

ソレは誰に対して言っているのだろうか。疑問は尽きなかった。

 

「俺達の力を否定して! それで、間違っているはずの力に負けるなんて!」

 

ラウラがそれに呼応する。

 

「そうだ! 私達は決して負けない……!力は守るためにある! 貴様らなどに! 負けることは無い!」

 

セシリアも箒もソレに応えて、反撃しようともがく。彼女たちには負けられない理由があった。一夏にとっては信念が、セシリアやラウラにとっては積み重ねた努力の結晶と生まれてきた理由など。

 

女子たちに共通していたのは一夏のためであったろう。俺達は一夏が何をしようとしているかが理解できた。夢や信念を守ろうと動く、その姿は俺達の見せたものと同じだった。

 

ただ、叫んで力を振るう姿に嘘偽りはない。皆を守るための力、その為のIS、その考えに俺達は反発してきたし、今でも彼が完全に正しいとは思っていない。

 

だけど、それは正しい行為だった。全員を救うために力を振るう単純だが、実現は困難な夢、だけどそれ故に俺達にとっては眩しいものだった。

 

だが、そんな叫びを一つの声がかき消した。マーダーが捉えた。ギャンブルの声だった。

 

「うるせえ」

 

マーダーが捉えた絶対零度のささやき、それは一切の慈悲もない、冷徹な殺戮のためのマシーンと化した人間の物だった。

 

スパルタクとは違い、道楽と冷酷さが同居しているわけではないが、純粋な殺意はそれだけで周辺を凍り付かせるほどの冷気を纏っていた。

 

ギャンブルはラウラの後ろに回り込んで、アリーナ―の壁面へと押し付けた。押し返そうとするラウラを抑えて、その小さな少女の体に大型の電磁式パイルバンカーを向ける。

 

「負けるわけにはいかないんだよ。 一足先に戦ったガキどもの為にも」 

 

パイルバンカーの銀色の杭がレーゲンを貫いた。飛び散るオイルがギャンブル機を汚した。返り血を浴びた巨人が真っ赤に染まったフェイスマスクから赤いカメラアイがラウラを射抜いた。

 

まだ少しだけ残っていたシールドエネルギーを利用し立ち上がろうとしたラウラに一夏や箒、セシリアを振り切った三機が各々のライフルでレーゲンに集中砲火を加えた。

 

二度と立ち上がらせないための一斉射に観客の一部は悲鳴を上げ、大勢は興奮の色に染まった声を出す。

 

本来なら、目を覆いたくなるはずの蛮行をミサキの歌がエンターテイメントと変化させている。激烈な銃火に倒れる銀髪の少女を悲痛なものではなく、まるでヒロイックな物へと見せるように歌詞を歌うミサキに誰もが、我を忘れて熱狂する。

 

滴る赤黒い液体に身を染めて、一人の少女の叫びをかき消したギャンブル機は勝利宣言をするかのように天高くパイルバンカーを掲げて、天を衝いた。

 

沸き起こった狂騒の声を耳にしながら、俺はある音を聞いた。一つは新しい世界が出来上がると言う産声で、もう一つは芽生えかけた和解の機会が失われたことを表す、親友の叫び声だった。

 

「畜生! 畜生! 何だよコレ! こんなことが……!」

 

想いは力になる、かつてそう言った敵がいた。では、目の前に展開されている光景は何だろうか。ギャンブル達の想いの方が強いからなのか、それとも技量で勝っているからか、とにかく一夏は叫び、突貫し、箒もソレに追随する。

 

その二人に、バルドイーグルは肩部ハッチを開いて、マイクロミサイルとパルスライフルによる激烈な迎撃を彼らに浴びせた。

 

 

パルス弾、ミサイル、曳光弾と、青と赤の光が混ざり、閃光がほとばしって、黒煙が広がる。その真下で歌うミサキがフィニッシュを決め、世紀の大スぺクタルショーは終了した。

 

俺のかつての友情と親友の想いを壊しきって

 

 

 

 

 

 

電話のコール音が鳴り響く。コール音からして長距離の秘匿通信の者だと判断し、私は熱水を浴びて、体を洗うのを中断し、蛇口を閉める。

 

長く前に垂れた髪の毛を後ろへと送り、オールバックのようにしてバスローブを纏って部屋へと歩いて行く。寝室へたどり着くとベッドでスヤスヤと寝息を立てて、シーツ一枚のみを身にまとったオータムが私がベッドに腰掛けたのに気付いて、スリスリと寄ってくるのを撫でて、レトロ基調のデザインの電話に出た。

 

「はい。どなたかしら?」

『……私だ』

 

会話の相手を知って、私は出そうになったため息を抑えた。予想していたとはいえ、出たくもない詰まらない会話相手に私は肩をすくめた。

 

「アラ、どうかなさったの?」

『とぼけるな! あれは何だ?! あのISもどきは?!』

 

私は受話器のコードを指で弄りつつ、相槌を打ち、その話をする。

 

「え? ただの兵器よ。 ISを模した最高レベルの兵器。名はバルドイーグルⅡ、学園の子供たちに取らせたデータを基にして作られた完成品よ。スペックはラファールを超えるわ」

『そんな事を聞いているんじゃない!』

「怖い怖い。そう怒鳴っても、何も変わらなくてよ?」

 

心にもない事を述べて、私は相手をからかってみると、受話器の向こう側で物を破壊する音が続き、動物園の猿相手に電話している気分になった。

 

癇癪を起して、八つ当たりをし、計画を練ろうとする。しかも、その計画に私という猛毒を引き込んでいることに気が付いておらず、それどころか制御可能だとすら考えている節がある。

 

いくら、もう少しの付き合いとは言え、猿芝居に付き合うことほど嫌な仕事はない。これも良質な果実をもぎ取るための試練だと思わなければ到底ヤル気など出ようはずもなかった。

 

『計画を忘れるな! 世界は変わるべきだが、それは私達のテデ行うのだからな! わかったら、さっさとアノISもどきを潰すなりしろ!』

「実行はしてもいいわよ? 暇があれば。ただ、ちょっといいかしら?」

『何だ?!』

 

私は声音を低くして、向う側に言葉を送る。

 

「私のベッドタイムを邪魔しない事。楽しみを中断させられることほど、癇に障ることはないわ。では、ごきげんよう」

 

電話を切って、私はフウと息をつけると、オータムが私の太ももに頬を摺り寄せた。

 

「また、アイツか? スコール」

「ええ、またよ」

 

じゃれついてくるオータムの頭を撫でて、可愛がると彼女は満更でもない顔を浮かべる。彼女に尻尾でもあれば、盛んに振っていたことだろう。

 

「どうせ最後に一発、芸をさせてサヨナラだろ? そんな事より、メインディッシュに集中した方がいいんじゃないのか?」

 

オータムのいう事には一理あった。所詮、電話の相手は食い尽くした料理だ。しかも、その味は二流程度。楽しめないことは無いが、満足はしない。

 

そんなものより、良いメインはこの艦内と学園にいるのだから、これ以上付き合うことは無いと彼女は言う。

 

ソレは私を気遣っての言葉でもあり、もう一つの意味があるのを私は理解していた。

クスリと笑って、彼女に言う。

 

「待たせたのは謝るわ」

「……別にそう言う訳じゃ」

 

図星だったのか、彼女は顔を反らして赤面した。そんなものより、自分に構って欲しいと彼女は思っていたのだ。そして彼女はもう一つの理由を述べる

 

「私は唯、スコールの……楽しんでる顔が好きなだけだよ……」

 

気恥ずかしそうに言うオータムは顔の半分をシーツに埋めた。可愛い彼女だ、と思わざるを得ない。そんな事を言う割に、スレートや弾君に私が熱中するとやきもちを焼くのだから、たまらないのだ。

 

「いっそ、メインだけ食っちまえば」

「一口じゃつまらないわ」

 

私はオータムの顔を手で包んで、口元に唇を押し当てた。柔らかい感触と彼女の体温が粘膜越しに伝わり、離すと彼女はとろけ切った顔になった。

 

「ゆっくりと楽しみましょう、オータム」

 

ソレは今と未来に向けての言葉だった。

その後に聞こえたのは、彼女の甘い声だった。




此処からは駆け足になるかもです。
ようやく、長い道のりも半分を超えて、後は下るだけになります。

よろしければ、お付き合いください
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