この話の重要な部分ですので、頑張って作りました。
あくまで、この作品独自の設定です。
潜水艦フィラデルフィア、連中はこの艦をそう呼んでいた。大型の潜水艦だけあって、士官用の部屋だろうか、個室にクロエと二人放り込まれて、束が目を覚ますまで、このデスクとベッド、食事をするためのテーブルだけがある部屋に押し込まれている。
偶に誰かが暇つぶしに話に来るだけで、俺達が何のために来たのか、具体的な話は一切聞けなかった。
「スレートさん、束様は無事でしょうか?」
白い雪のような髪を揺らすクロエは俺にそう訊いてきた。俺は彼女を満足させるような答えを持ち合わせておらず、背中を向けたまま「無事だろう」と慰めにもならない言葉を放ったのみだ。
今の俺には武器も何もなかった。ジャンクラビットは当然の事、カスタマイズを施したAK小銃にグロック、一本のナイフすらない身だ。
食事の時に運ばれるナイフを手にすることはあっても、部屋の前に立つ構成員二人の影がちらついている以上動けなかった。
仮に俺一人なら、二人は倒せるかもしれないが、クロエもいる中では、それもできない。そもそも、束を人質に取られているのと同じ現状では大人しくするほかなかった。
無為な時間ばかりが過ぎて、胸の内に湧くのは無力感と焦燥だ。世界最悪のテロリスト、スレートも結局は唯の一人の人間なのだと、悪魔が見れば笑うことだろう。
ベッドに腰掛けて、無言でいること数十分、扉がノックされて開けられた。食事の時間ではないと思って振り返ると、そこには俺の苦手とする二人の女が姿を見せていた。
スコールとオータム。狂犬と飼い主の二人が揃いも揃って俺達の前に現れたのだ。
一人は笑みを浮かべて、赤い瞳を妖しく光らせる。もう一人は高圧的に俺を睨んだが、クロエが俺の後ろに隠れるのを見ると、少しその圧を緩めた。
「会えて嬉しいわ、スレート。少し顔色が良くなったのではないの?」
「話ってのは暇つぶしのための世間話か?」
「いえ、ちゃんと用があるのよ」
スコールが目線を廊下の方へ向けると、見たことのある部下二人に連れられた束が姿を見せた。後ろで腕を固められていて、目が血走っている。
「お前ら、離せよ! 離せぇ! スコールゥゥ!」
暴れて離れようとするが、まるで力などないかの様に、構成員二人は何ら苦も感じられずに束を抑えている。彼女は見かけによらずの怪力に体術の使い手だったはずだ。
初めて俺と会ったときはそうだったはずだ。
「ナノマシンで強化した体も形無しだな。なけりゃ、ただの女以下の力だ」
オータムが束の顔を指でつつき、弄る。束はオータムの顔に唾を吐いた。それに対してオータムは鼻を鳴らして、彼女を平手打ちした。
「束様に乱暴しないで!」
クロエがオータムに叫んだ。オータムはニヤリと笑って、彼女のいう通りに従った。どうやら、可愛らしい少女には弱いらしい。流石は変態な趣味を持つだけはある
「オイタはしすぎちゃダメよ、オータム。これからの話に必要なキャストなのだから」
「キャスト?」
俺が問うとスコールは頷いて見せた。この女のいう余興だとか、ショーにはロクなことは無いと俺は知っていた。その余興の一環で俺は職を失い、あまつさえ彼女の楽しみの玩具にされかけた。
「ええ、でも場所が相応しくないわ。ステージはちゃんと揃えているわ。行きましょう、兎さん達。まずは種明かしと行きましょう」
彼女の言葉が響いた後、構成員の一人が部屋に入り俺に手錠をはめて、後頭部にFAL自動小銃の銃口を突きつける。ご丁寧に大口径のライフルにしてまで、警戒しているらしい。
「久しぶりだな、スレート。 兎と一緒によろしくしてたのか?」
「トカレフ……下品なのは名前だけにしておけ。ところで、スパルタクの爺はどうした? 俺の事を忘れてくれたか?」
「死んださ、飛び切り満足げにな。お前もじきそうなるさ」
俺が薄く笑ってやると、トカレフは銃口をコツリと頭に当てて、前に進めと無言の内に命令した。
「スレートさん……」
「心配するな、クロエ。飼い主が言わなかければ、なにもできんさ」
そう言うと、オータムが近づき、俺の腹に一発いいものを当てた。女とは思えない怪力のなす拳がめり込み、俺は咳き込んだ。
「姉御、やりすぎだぜ」
「ああ、手加減して二発にしてやりゃ良かった」
クロエが声にならない悲鳴を上げたが、オータムもスコールも構成員もにやけるだけだ。
そうして俺達はステージとやらに連れていかれた。鉄でできた床にいくつかの足音が鳴り出し、彼女のいう種明かしとやらの場へと連れていかれた。
長くはない廊下をわたり、巨大な扉が目の前に現れた分厚い金属で作られた扉は城の縄文のように見え、その表面にはご丁寧に彫刻が施されている。
「何の場所だ?」
「言ったでしょう? ふさわしい場所と」
彼女がそう言って、扉を開いた。重い音を響かせて、俺達が足をその中へと運ぶと、視界に映ったのはこの艦内のほとんどの人員が歓声を上げて、クラッカーを鳴らす姿だった。
男も女も整備員と思わしき連中も含めて、全員が満面の笑顔で向かいいれて来た。所々に鎮座しているISもどきの機体が見え、此処が格納庫であることが分かった。
「何の真似だ?」
「お祭りよ? せっかくの機会なんだから。ワインはいかが? ロマネコンティもそろえたのよ?」
「ふざけるな!」
叫び声を上げたのは束だった。彼女の目はスコールを一点で睨んでおり、その形相は激しいものであった。ここまで怒りを見せる理由は俺やクロエも知らなかったが、彼女の怒りの大きさが波ではないのが分かった。
「ショーだって?! 悪趣味な人モドキが! そんな風に言って全てを狂わせて、楽しいのか?!」
「ええ、楽しいわ」
スコールは悪びれもせずに、微笑み。束の顎に手をやり、クイ、と持ち上げたと思うと、口づけをした。束の目が見開かれて、スコールにかみつこうとしたが、外れた。
「アラ、危ない」
「お前ぇ!」
ふん、と鼻を鳴らして、全員に聞こえる声で彼女はステージの中央に立ち、全員に催しの開始を発表した。
「さて、お集まりの紳士淑女の皆さん。長らく待った機会がようやくやって来た。我々が待っていたピースがようやく姿を露わにした!」
すると、照明が暗くなり、ステージの後ろに現れたスクリーンに映像が現れた。それはニュース番組で世界中のソレが画面に映っている。
どのニュースも誰でも使えるIS、バルドイーグルという機体について熱狂的に報道していた。歓迎をする者もいれば、その逆もまた然り。専門家と名乗る爺様、婆様の論争に国会の中継と忙しく世界が動いているのが、わかった。
束が福音事件の時、Rインダストリー社の者と話して、愉快そうにしていたが、これがその答えなのだろう。
確かに、ISに変わる兵器が出たとすれば、世界が動き出すのは確実な事だ。ちょうど、ヒロシマに核爆弾が投下された時のように、白騎士事件の時のように、世界に大きなショックを与えるに違いなかった。
そして、それはあらゆる災厄の始まりでもある。
「ISが倒れる時、世界は変わる。虐げるものと虐げられるものが逆転し、復讐の甘い毒が世界に蔓延する」
世間の男たちは正当な権利を主張して、思い上がった女とやらに復讐するだろう。ISの乗り手も肩身が狭くなり、軍も政府も何もかもが変化を強いられる。
望む望むまいと、世界が変わり、そのたびに血が流れるだろう。
「しかし、ただの復讐劇の一体何が楽しいと言うのかしら? 一方的に蹂躙されるだけの世界。右に傾けば、右へ、左なら左。そんな世界はとても単純で面白みがない」
スコールはそう述べて見せた。愚かしいほど、揺れる世界に飽きた、と彼女は告げて、構成員の何人かが同調の声を上げる。
「だから、私は計画した。十年前から」
そのセリフに俺は驚きを隠せずスコールを見た。十年前からの策略、彼女の脚本はとっくに始まっていたという事だ。
ソレを知っているのか、束は更に唸り声を上げて彼女を威嚇する。そこに至る真実を彼女は知っているのだ。
「では、彼女にその始まりを語ってもらいましょう。皆にわかりやすく、ストーリーを開設しなくてはならないのだから」
オータムが束の首根っこを掴み、ステージの中央へと引きずり出した。その手つきは荒っぽく、手錠をはめたまま、スコールの傍へと連れて来た。
「では、どうぞ。可愛い兎さん」
「黙れよ! ちーちゃんをそそのかして、あの人の全てを奪ったお前なんかのいう通りにするもんか!」
「なら、クロエでもスレートでも痛めつけても構わないの? ソレにあの人とは誰の事?」
あの人、その単語は何度も聞いたことのある物だった。束がついぞ口にする、その人物の正体を俺は知らなかった。俺にジャンクラビットを預けたらしい、その男。長らく名を知らなかったその名前を束は口にした。
「織斑一真! 私の先生で、ちーちゃんといっくんのお父さんだ!」
その名前は織斑とついた。そして、束は間違いなく、織斑一夏と織斑千冬の父だと答えた。たった一言で俺達、いやこの場にいる者達の世界に対する見方がガラリと変わった。
今までの世界がまるで、茶番劇のように思えてならなくなった。織斑千冬、突然現れた世界一のIS操縦者、ブリュンヒルデ、その名がつけられるのに、俺達はある意味で納得した気がした。
これまでの現実はマッチポンプの出来レースの中でできたという事なのだろうか。その真実の一端を知る束にスコールは問いかける。
「そう、織斑一真。彼が今の世の中を作り出した元凶ともいえる。もっと言えば、私達の組織がそうね」
俺はそれを聞いて、悪の親玉たる女に訊いた。
「亡国が……ISの原点だってか?」
「そうよ」
拍手をして、俺の推論の鋭さをたたえる。実に愉快で、たまらなく不快な姿の彼女は美しいがのように思えた。
「さて、お話ししましょうか。亡国と、そしてISの始まりと 秘密について」
亡国機業。発祥は第二次世界大戦と言われており、その秘密結社は世界の裏で暗躍して来た。ナチスドイツのV2ロケット、パンツァーファウスト。英米の対潜ソナー等の技術の元はこの組織から来ているという都市伝説が存在する。
確かに、この世界の一つ先の技術を持った組織だが、実際は裏で活躍するいわゆる悪の組織ではない。実際は純粋に、科学のみを探求する組織でしかなかった。
WW2のこれらの技術も戦争を長引かせるためでも、終わらせるためでもない。単純な好奇心から生まれた物であった。彼らの組織のルーツをたどっていくと、8世紀ごろのイスラム錬金術が最古の記録であり、彼らの大本は此処から始まったと言っていい。
元々は発明や探求によって神とのコミュニケーションする、という宗教団体に近かったとされている。人間のみが持つ創造性、独創性の発揮こそが神から与えられた肉体を生かす最大の徳であり、この発現によって神と話し、神の国へと導かれると言う。
言ってしまえば、自分たちの趣味を神格化しただけの変人の集まりなのだが、これが亡国の本来の姿である。
そんな組織の構成員、幹部の一人が織斑一真、織斑千冬と織斑一夏の父親だった。彼の経歴は一見すれば、学歴が凄まじいだけの一般人に過ぎない。MIT、ハーバード、東京大学、あらゆる分野において主席をほしいままにした神童だっただけの男。
だが、その正体はIS開発に携わっていた一人であり、その才華を認められていたのは言うまでもない。では、ここで一つの疑問が起こる。どのようにして、この亡国に織斑家でもない束が入れたのか。
それは推薦だった。束は唯一の友達であった千冬と知り合う前までは孤独な存在だった。他人と知性、感性が違いすぎる彼女にとって、周りは明らかに退屈で理解できない存在だった。
何をするにしても、スローモーな彼らと自分。九九を必死に覚えている傍らで、彼女はすでに大学レベルを超えた数学に手を出しており、その差は歴然だった。例えるなら、ゴーカートとF1を一緒に走らせるものだ。
能ある鷹は爪を隠す、という言葉もあるが、束にそんな事をするほど器用な人格は供えられてなかった。人格と才覚はときに反比例すると言うが、彼女はその典型的例だった。
ある意味障碍者としても言われていた彼女に目を付けたのが織斑一真だった。束の才覚に魅了されて、彼女の親にも黙って亡国に招き入れたのが事の始まりだった。
束によってISコアに必要とされるレアメタルの加工法、量子分解を利用した拡張領域、シールドによる防御と、ISの基礎となる技術を作り上げていった。
これらが宇宙開発に必要な技術だった。ISの持つコアのエネルギーは現代のように兵器転用されて、その稼働時間が制限されているが。実際の所、火器に関してのエネルギーを使わなければ、十分な稼働時間を得られる。
シールドや拡張領域による装備の収納は機体そのものの重量を大幅に軽減し、大気圏への突入、デブリなどの破損の危険性を限りなくゼロに近づけ、打ち上げ時のコストの激減など、必要な措置だったという。
束にとって、この時期が人生の絶頂期に思えたという。理解者溢れる組織の者達、一真によって千冬や一夏と言う友人を会得し、何度も聞かされた宇宙への探求、それだけが束を動かした。
中学生と言う年頃で得た膨大な知識、富、そして理解者、世界はこれだけで回っており、彼女が俺と会ったときに見せた、あの人格が出来上がったのだ。
これが、ただの中学生であった彼女がISの開発をしたという事実だ。どれだけ頭にブラックボックスが詰まっていようと、資材も資金もない所でISを一から作るのは不可能。
彼女がどれだけハッキングに長けていようと、14歳か、そこいらの年頃では巨万の富を生かしきれない。
科学の専門でも、彼女は資金運用の達人ではない。これこそが、彼女のIS開発の裏話。彼女も亡国であったのだ。
「だが、俺が入ったときには亡国は既に暴力装置の一つと化していた。どこで、そうなった?」
「こいつ等だよ。スー君」
束は此処にいるすべての者を見て、言った。口の端から血がにじみ出ている。
「白騎士事件の後、大規模な反逆が起こったんだ。ISをどのように世に発表するかでもめにもめた結果でね……そこの女は一方に協力して一真さんを殺して、その後で裏切って、全て自分の物にした!」
そう糾弾した束に対して、スコールは優雅にワインを一口飲んでいた。束の怒りすら余興にしている様は俺の中でも怒りが生まれるのに充分だった。
「そう、怒っても何も出ないわよ? 束。全ては十年近く前に終わった話。それに貴方に私を責める権利があるとでも?」
「何?!」
スコールは束の顔をまっすぐ見て、狡猾さをむき出しにした蛇のような目でにらんだ。束は一瞬それに怯んだが、すぐに睨み返す。だが、スコールの口から流れる毒は強烈の日事だった。
「貴方は他人や大衆が分からない。いえ、わかろうともしなかった。ISという今の人類の精神が追いつかない発明品を出せば、どうなるか想像もせず、ただ一真と共に夢を叶えようとした賢しいだけの子供。その貴女が一方的に私を責めるのはナンセンスよね?」
一瞬言葉に詰まった束。ISの開発、その圧倒的すぎる発明品が内乱を誘発したとすれば、確かに彼女に全く罪がないとは言えない。束もソレを自覚しているのか、拳を握りしめた。そんな彼女を見て、反論したのは白髪の少女、クロエだった。
「でも、束様を理解しようとされた方も少なかったはずです! 誰かがほんの少しでも束様に優しくしていれば、こうならなかったかもしれない。 そうではありませんか?!」
「優しいのね、クロエちゃん。でも、それはIFの話。ここでは何の意味を持たないわ」
厳しい反論にクロエも押し黙った。そこで俺も口を挟んだ。
「意味ならあるさ」
俺の言葉が響き、スコールが面白そうに俺を見た。
「俺達が過ごした数か月でソレは証明できたはずだ。たとえ、IFだろうが、束なら絶対に理解できたはずだ」
俺の回答を聞いてスコールは感嘆の声を上げる。
「成程。貴方も優しくなったのね、スレート。感動すら覚えるわ。ギラついていた貴方も素敵だったけど、今はもっと素敵よ」
「よせ」
俺の否定に言葉が会場に響き渡った。構成員の何人かは俺に対して野次を飛ばすが、スコールがソレを手で抑えることで止めた。
「さて、これで一つ目の謎。次に二つ目。ISの秘密とは、ね。コレは私ではなく、彼の口から言ってもらいましょう……ドクター!」
その名前を呼ぶと、ステージに、禿げ上がった頭に度のキツそうなメガネを掛けた好々爺がタキシードの身を包んでゆっくりと現れた。
「とっとと話せ! 爺! トロいぞ!」
周りから笑い声があふれて、ドクターがうるさい、と怒鳴る。ここにいる連中は誰もかれもが楽しんでいる。宴会のメインイベント。そんな感覚だった。
「久しぶりですね、束君」
「ドクター……お前まで!」
「申し訳ないが、私は宇宙ではなく、兵器に興味がありまして……一真には悪いことをした」
形だけの謝罪をして、彼は壇上へと上がり、語った。ISの秘密。それが束の言っていたISの軍事的価値の喪失にどうつながるのか。
「で、ドクター。ISの秘密とは?」
「率直に言いましょう」
彼は上ずった声で、それを述べた。
「ISは現在、量産と性能のアップグレードが不可能なのです。もし機会があるとすれば、その確率は天文学的確率でしょう。何故なら」
彼はトーンを上げて言った。
「そもそも、ISのコアは一個しかなかったからです」
その言葉に俺は耳を疑った。
まず、ISのコアが何故467個なのか、そして十年という月日が経った中で、何故白騎士に相当する超兵器が誕生し得ないのか。確かに銀の福音に代表される高性能機は存在し、ISもリミッターを解除すれば、相当の性能を発揮されるとされている。
だが、リミッターの話で言うならば、劇的な上昇はしない。どうあがいても全体の性能の25%上昇が限界であり、いわゆる小国の戦力になるにはとてもではないが、足りない。
このリミッターは学園襲撃時に強奪したISのコアを徹底的に分析したうえで出て来た数値であり、確度はかなり高い。
だが、ここで妙な矛盾の存在が起こる。では、ジャンクラビットの存在はどうなるのか。この機体は通常のISと比べて2.5倍の出力を持つイレギュラーだ。他のISの性能に対しオーバーな数値であり、これでは調査結果と矛盾する。
束の仕業と言えば、誰もがうなずくだろう。束ならやれる。ISの開発者にして天災、彼女なら仕方ないと誰もが考えるだろう。
しかし、数値とコアは嘘をつかない。ラビットはコアネットワークが使えない機体であり、出力が通常の2.5倍。
そして、この機体を渡したのは一真である。束ではなく、この機体の生みの親は一真なのだ。つまり、束程の独創性は無い機体となる。
つここから導き出されたのは一つ、このコアは特殊だが、それはコアの素材などが特殊なのではなく、2.5台分のコアであると考えられるのだ。
そうすれば、ラビットが他の機体より出力が高いことに納得がいくのだ。詰まるとところ、ダイアモンドのカットだ。どれ程の大きさに作ったか、という事だ。では、この単純な方程式をあるISに組み込んでみると、どうなるか。
そのISこそが白騎士。かの十年前の衝撃的なデビューを見せた機体である。2341発以上のミサイルが日本へ向けて発射されるも、その約半数をIS「白騎士」が迎撃した上、それを見て「白騎士」を捕獲もしくは撃破しようと国連軍が送り込んだ大量の戦闘機や戦闘艦などを大半を無力化した性能を発揮するための出力数と現在のISのコアの数は大よそ合致する。
つまり、今のISのコアは白騎士のコアをカットして作られたものであるのだ。当然、カットされたもので白騎士を再現するなど、不可能だ。
一カラットのダイヤを100個集めても、100カラットのダイヤモンド一個の価値にそうとするとは言いにくい。
まして、たった一個のそれで100に勝てると思う方がどうかしている。そして、この説明はコアネットワークについても合点がいく。
元々一つだったモノがバラバラにし、それを繋げるネットワークを構築するのはそう難しくない。ラビットは恐らく、白騎士とは別の原石から作られたのだ。だから、番外で、白騎士の子供達と会話ができないのだ。
ちょうど、ローカルネットワークやプライベートチャットに他人が申請もなしに参加することが出来ないのと同じだ。
では、量産の方は何故不可能になるのだろうか。
答えは意外にもRインダストリー社のバルドイーグルのコアに隠されている。バルドイーグルのコアは地球の地下奥深くに存在する特殊なレアメタルであり、長い間地球の地殻エネルギーをため込んだモノである。
実はISもコレと似ている素材を原石としているのだ。だが、イーグルに使われてる者とは違う。イーグルでは光学兵器を積んで高速戦闘をするには出力が足りない。
だがISはそれが可能である。それは何故か。ISに使われているコアは地球外からの物だからだ。
コレを理由にRインダストリーは実弾中心のラファールを危惧し、デュノア社を潰したのだ。類似品は必要ない、たったそれだけの理由があった。
隕石かどうか調べるのと同じで、コアの素材を詳しく調査ができる。ISを開発した亡国なら、不可能な話ではない。長い間わからなったが、それが何なのか判明しなかった鍵がイーグルだった。
地球外の物質を含むイーグルの物とよく似たコアの原石は地球外の物。地球より遥かに長く存在し、その欠片がこの地球に落ちてきたに過ぎない。
これがISの軍事的価値を喪失する理由なのだ。量産も、白騎士の複製もできない。つまり、戦略兵器とはなりえない上に戦術兵器としても数をそろえることが出来ないのだ。
もちろん、ISには自己進化機能があり、基礎スペックが向上していくのは事実である。しかし、この仕組みは操縦者を変えるごとにリセットが必要であるのだ。
だから、兵器としては不適切なのだ。
米国はこの事実に気づき、束の抹殺を計ったのだ。ISの有用性の消失、約束された勝利が無為の物と知れ渡れば、大規模な暴動どころではない。
ただでさ、ISの威が存在する現時点で、帰還兵、職を失った男たちの自暴自棄の凶悪な事件が多発し、社会の不満も収まらない中で、これが証明されれば、間違いなく秩序を失う。
男だけではなくIS適性のない女性も同様だ。果たして一体いくらの人間が暴走するか、想像もつかない。
少なくとも現政権は倒れ、決して少量とは言えない流血が起こるであろう。
ではイーグルと同じ物を使えば、と言う意見もあるが、ソレも最早手遅れだ。イーグルの素材で作ったものはISではない。
必要なのはISであって誰でも使えるイーグルではない。まだ白騎士の性能を発揮できるという嘘が続いている限り、最悪の事態は避けられる。
ISは決して劣っていないと言えるだけの事実を国民が信じている今こそが重要なのだ。
ソレに単体でのスペックならISの方が優っているのだから、と彼らは思っているのだ。
「では、束様を狙ったのは……その事実の公表を恐れたからですか?」
「恐らくは、そうでしょうね」
ドクターの回答にクロエは憤りを感じていた。それだけの為に束が殺されなくてはならない。何と身勝手で、愚かな選択をするのか、と思わざるを得ない。
「だが、待て。束は確か、福音事件の時、織斑一夏には白騎士がついていると言ったはずだ。あれはどういう意味だ?」
俺はそうドクターに訊いた。織斑一夏の機体。アレが白騎士だとすれば、彼らの話と矛盾する。だが、ドクターはあっさりとその回答を答えた。
「織斑君ののはいわば、OS。ソフトウェアなのですよ、スレート君。白騎士と言うオーバースペックを使うには操縦者の保護は他より厳重にしなくてはならない。生存を最優先し、操縦者に効率的な動作を無意識化で送り込む。つまり、彼は五反田君のようにシミュレーターを無意識に行っており、白騎士の生存プログラムによって、オータムの銃撃から助かった」
その事実にオータムが苦い顔をした。嫌な記憶だったらしい。
「そして、ISは進化する。つまり織斑一夏が生き続け、望み続ければ、いつかは白騎士になるかもしれませんね。あと何回進化すればいいのかは気が遠くなりそうですが」
ドクターは知的好奇心から来る笑いを出して、その光景を空想していたようだった。
恐ろしい話でもあった。本人ですら自覚がない中で習得される技術、そして彼の望みに応えることでスペックを上げて、元の白騎士に近づこうとするのだ。
たとえ、それが何万年かかっても。
「無論、彼の非凡な才能と身体能力があってこそのシステムです。他の者ではきっと、体と精神がついて行かないでしょう。そういう意味では彼は非常に興味深い。もしかしたら、不死の存在になるやもしれませんしね」
ドクターは手を叩き、絞めをした。
「以上で、私の発表は終わります。ご静聴ありがとう」
われんばかりの拍手と喝さいが起こり、彼は壇上から降りた。照れながら降りる姿は俺にとっては不快だった。
「素晴らしい発表だったわ。ありがとう、ドクター。では、次のお話ね」
「……これ以上、何を話そうって言うの?」
束が心底疲れたかのような声を出した。怒りに身を焦がし、目の前に仇たちが居ても何もできない彼女に多大なストレスがかかっているのだ。
「大事な話よ……そのためのゲストも呼んだわ」
スコールがそう言うと、向うの扉が開いた。厚い扉から出てきたのは、可愛らしいピンクのフリルがついた服を纏った俺の教え子だった女だった。
「マドカ?」
「……久しぶりだな。スレート」
彼女が姿を現すと周りが彼女を囃し立てた。面白がって、マドッちと呼ぶものもいて、女も男も茶化していた。
「では、マドカ……話しなさいな。貴女の話を」
スコールがそう言って、マドカは乱暴な手つきでマイクを奪い取って、話した。そして、それを束が驚きの顔で見ていた。
「マドカ……? どういう事?」
「それでは、話をしよう」
マドカの感情のこもった声が会場に響いた。
「織斑一真、私の父の死の真相を」
ISの秘密、亡国のルーツ頑張ってみました。
気に入っていただけると嬉しいですが、心配でもあります。
次回は、織斑一夏の謎とマドカの話です。