IS to family   作:ハナのTV

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you can fly

第五格納庫、私達レジスタンスと五反田君たち、インダストリー組のたまり場である。いつもは溶接工のゴツイヘルメット被った人たちに、コーラのボトルが入った小さな冷蔵庫の傍でパソコンとにらめっこするマイクさんが居て、やかましく音が鳴り響いているのに、今日は静かだった。

 

来て観ると、いつもの場所でマイクさんがパイプいすに全体重を任せて座り込んで、一人瓶コーラをラッパ飲みしている。

 

その近くに理子とティナが同じようにコーラを飲んでいた。

 

「マイクさん!ティナ! 理子!」

 

名前を呼びかけると、彼らはコーラを飲むのをやめて、笑顔で手を振ってこたえた。

 

「よう、静寐。どうしたよ?」

「ヤッホー、静寐」

 

アメリカ国籍の二人が気楽そうに話しかけて来た。そのこと自体がおかしくも思えた。いつもなら、もっと近くに行かないと、声なんて聞こえないのだから。

 

「どうしたのって……こっちの台詞ですよ、マイクさん。どうしたんですか、今日は?」

 

休みなく働く、見かけによらない勤勉さで働く彼らが何もしていないと言うのが驚きでならなかった。マイクさんはサングラスをかけたまま、一つ息を吐いて答えた。

 

「……今日から休業さ」

「どういう意味ですか?」

 

休業、何となくだけど、雰囲気から何を言いたいのか察しがついてきたが、ハッキリ聞くべく聞くと彼はいったんコーラを飲んで、答えた。

 

「俺達は……インダストリー組は学園から去る」

「去るって……じゃあ、五反田君達は退学するという事に?」

「……ああ」

 

マイクさんの言葉にティナは目線を明後日の方向へと反らし、理子が憤慨した口調でマイクさんに問い詰めた。

 

「そんなのってアリですか? いくら企業の社員だからって、まだ15歳。高校生なんですよ? ソレを……」

 

15歳。そう、私達はまだ子供だ。たとえ、ISを持って空を飛ぼうと高校生であることには変わりない。そして、この時期が人生で大きな意味を持つ期間となるのは言うまでもなく事実だ。

 

この時期は勉強に、恋や部活と言った青春、とにかく楽しくも苦しい大切な時期なはずだ。それを彼らに捨てさせるのは酷に思えた。

 

「……本来なら、もっとゆっくり、穏やかに発表するつもりだったんだよ」

 

マイクさんはゆっくりと話した。決していい訳ではない、むしろ自分の無力さを此処にはいない彼らに謝罪している素振りすらあった。

 

「察していると思うが、俺達がここに来たのはデータ取得のためだ。ISとの戦闘データとシミュレータによる訓練が実戦にどこまで通用するかを確認するためだった」

 

私達も使ったシミュレーターのことを指しているのだろう。恐らくは私達の成果も考慮に入れられているだろう。

 

機体を動かすのにはそれなりの時間と人員が必要だ。訓練を実機でするという事は、それなり以上に時間がかかる。だから、彼らはシミュレーターによるヴァーチャル訓練を確実にする必要があった。

 

そして、イーグルのデータ。秘密裏に動かなければ、周りから圧力を受けかねないのを懸念し、灯台下暗し。堂々と白昼の元に五反田君たちを配置して見せたのだ。

 

そして、事実ほとんど気づく人間はいなかった。Rインダストリーが通常兵器をも未だに売り続けていることから、二重フレームや全身装甲、カメラによる視界確保にも誰も疑問に思わなかった。

 

皆が古い発想で作った機体と思い込んだという訳だ。

 

「そして、結果は大成功だった。弾はセシリアを撃破し、ヴィンセント達も各々ISを倒した。嬢ちゃんたちもシミュレーターで格段と腕を上げたのも報告している。だが、ある意味でソレがいけなかった」

 

度重なる成功が裏目に出てしまった。確かに理解できなくはなかった。

 

「俺の上司の上司、ソイツが急に発表を早めやがったんだ……本来は二か月先だった、もっと穏便にするつもりが、コレだ……おかげで俺達下っ端が割を食う羽目になっちまった」

「何か」

 

乾く口を唾液で湿らせて、改めて言った。

 

「何とかならないんですか?」

「なったら、世話ねえよ。俺達は所詮、兵隊と変わらねえんだ。命令には従うしかねえ。それにな、学園の方からも言われてるんだよ、さっさと失せろって」

 

ISに乗れないなら、この学園にいる資格はない。しかし、イーグル系列であろう、あの機体もISによく似ている、何より同じ子供として見てはくれないだろうか、と思う。

 

「酷い話だね」

「ティナ?」

「皆、データ取りだのしているのに、彼らだけは許されないってさ。何で、仲良くできないかな?」

 

ティナの呆れた顔を見て理子は訊いた。

 

「ティナはイーグルは否定しないの?」

「銃社会の国の人間に{兵器だから悪い}、なんて理屈は首を傾げる話題よ。イーグルもISも大して差はないしね」

 

空を飛び、人より少し大きなサイズのパワードスーツの一種であるのは二つとも変わらない。ティナにとっては些細な事なのだろう。だからこそ、五反田君達への処罰は不適当と考えている。

 

「でも、ISは天使みたいに言われてるしね……悪者と一緒にされちゃたまらないんだろうね」

 

この二つの唯一の違い。それは片方が神聖不可侵の領域にいると思われている節があると言う所が関係しているのだろう。

 

力にそのものに綺麗も汚いもない、使用者の問題と言うのなら、今回がそうだろう。

 

そして、それをRインダストリーの人たちは考慮しなかった。だから、割にある人達が出てきたのだ。

 

心に渦巻いたのは憤りだった。今まで前線で頑張って来た彼らにもう少し配慮してもいいはずだと、思わざるを得ない。たとえ、それが子供っぽいエゴだとしても高校生、子供としての人生を諦めさせることに比べれば、小さいものだ。

 

マイクさんは声を大にしてその場で言い放った。

 

「そうさ、ティナの言う通りさ。だが、それをわかる奴が少なく、よりによって、俺の上司もソレを考えないで、このザマだ!」

 

コーラ瓶を宙へと放り投げて、ゴミ箱へと投げ捨てる。乱暴な大きな音を立てて、空き瓶がゴミ箱の中で砕け散った。

 

「この先、ロクな事は起きねえぞ。ISだけじゃない、きっと俺達にも、いや世界中の誰もが不幸に見舞われるだろうよ。予言してもいい! 絶対に何かが起こる!」

 

マイクさんは肩で息をして、怒鳴った。大人の本気の怒りだった。子供に損な役をさせて、大人が笑う。考えてみれば、最近はずっとそんな気がする。

 

もし、全ての大人が私達の事を考えてくれているのなら、きっと学園祭の時に迎撃に参加することなんて無かったろう。

 

何だか、急に世界が酷い物に思えた。どうしてマイクさんの様な大人は少なくて、泣かなきゃならない子供が増えるんだろう。

 

いや、もっと言うと、泣いている大人の人を私は知っている。イーグルが、世界を混乱させる白頭鷲の出現によって、私達はどうなるのだろう。

 

いや、皆どうなってしまのだろう。

 

「どうなるのかな? ねえ、静寐……?」

 

理子はそう訊いた。

答えてくれる人はどこにも居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

職員用の休憩室、香るのはインスタントの安いコーヒーと、パックのレモンティー。心を落ち着かせるために飲んでいるわけだが、ほとんど効果が無い。

 

目の前のイヴァナ先生も神妙な顔をしてカップに入った紅茶をおいしくも、まずそうにもせずに飲んでいる。

 

「何の味もしないわね」

「ええ、そうですね」

 

美味しくもなんともない飲み物をテーブルへと置いて、ため息を一つ零す。こうなっているのは学園全体に蔓延する空気の影響だろう。

 

連日放送されるTVの内容はイーグルの事ばかり、マスコミも手のひらを反して、女尊男卑を放棄してまで、称賛する局すら出ている。視聴率と彼らの給料のためとは言え、それがこの学園に悪い雰囲気を作り出す元凶となれば、頭に来る。

 

「大場先生も、静寐さん達も、弾君達も、皆バラバラになっていって、私どうすればいいんでしょうか?」

 

それに対するイヴァナ先生の表情は固く、何も答えられないでいた。

その感情はどんなものなのか、目の前の女性一人の感情を掌握できるほど、私の観察眼は鋭くなかった。

 

「情けないですよね。大人なのに、生徒さんに……子供に何一つできることが無くて……ただ、笑顔を取り繕って頑張れ、としか言えないだなんて」

「言うだけ、立派よ。しかも貴女は手ほどきまでしているわ」

 

彼女はテーブルの上のTVのリモコンを取って、チャンネルを回す。映し出されるものはアニメを放映する一局だけを除き、ほぼ同じだった。

 

「あんな風に諦めろ、と頭ごなしに言ってくる連中もいるのよ? その中で貴女みたいに、周りを励まして、普通に授業を行おうとするなんて、普通出来ないわ」

「そうでしょうか?」

「そうよ」

 

イヴァナ先生は強くいった。もしかしたら、彼女の苦難の日々がそう言った認識を生んでいるのかもしれない。戦車砲にデリンジャーと言う嫌がらせを超えた装備を渡された彼女だ。

 

大人の悪意という物には敏感なのかもしれない。もっとも、自分も彼女もいわゆる大人であるのだが。

 

「私には無理よ、嫌いな奴にはつい言っちゃうもの……だけど、せめてあの子たちには報われて欲しいわ。今までの頑張りが無駄だなんてあの子たちには言いたくない」

「それは同感です」

「そのためには大場……」

 

イヴァナ先生の切れ長の目が瞬き、この場に居ない者の名前を口にしようとしたが、止めた。彼女は表情を暗くし、レモンティーを飲んで、職員室の空席をちらりと見た。

 

あの荒れていた先生の後を追ったイヴァナ先生にとっては思う所があるのだろう。私もあの生徒たちも皆がそう思っているはずだ。

 

「……何やってるのかしらね,あの先生。早く戻ってきなさいよ」

 

全ての始まり。私達に奇跡を見せたあの人が居ないことで、皆がバラバラになっていくのに出会ってまだ、一か月の彼女が言って見せた。

 

その彼女が待つ人物は未だに姿を見せていない。私も待っているあの人は帰ってこないのだ。

 

思えば、最初は事務的なこと以外で話すことなんてなかった。この学園に来た頃の彼女は織斑先生よりも鋭い目をしていて、その後のトラブルで、無気力になった、とても教師なんて呼ぶには相応しくなかったはずの人だった。

 

その彼女が今年になって見せた軌跡はあらゆる変化を生んだ。訓練機で戦術と技術の向上で専用機に対抗できるという奇跡。

 

代表候補生でもない一般生徒でも夢を追えると言う事、そして大人として、真っ先に戦場に立ち、守ろうと懸命に走る姿は彼女の理想そのものだった。

 

女性として、ではなく人としてISを駆る彼女こそがきっと、本来のIS乗りの在り方では、とすら思った。

 

だからこそ、今この時に必要なのだ。皆が迷う時にあの人の一言が必要なのだ。私の頼りなさでは生まれない、イヴァナ先生の短さでは生まれない、あの強い言葉が必要だ。

 

誰かを照らす光や、誰かを束ねる王の様なモノとは違う。彼女はそこまで、カリスマがあるという訳ではない。それは彼女が最初に赴任したクラスでの問題が証明している。

 

彼女は一人の高名な騎士なのだ。馬に乗り、分厚い鎧と剣を携えて、難関を乗り越えて、私達を指揮し、導く。その両手が届く範囲で全力で挑み続ける。

 

「もう、ダメなのかしら……?」

 

だけど、今その人は傷ついて、この場に居ない。長く戦い続けて来た彼女を絶望させるに至るものとは何なのだろうか。湧き上がる疑問に私は嫌な予感すら覚えた。

 

ソレを知って、もしソレが私たち全員にも関わることだったとした時、跳ねのけることが出来るのか。そして、今度こそ頭上から振り下ろされる絶望に私達は立っていられるだろうか、と。

 

「それでも」

 

私は自然と口を動かしていた。

 

そうだ。それでも、だ。世の中の理不尽を嘆いても何も変わりなどしない。いつだって、動いた物が変えると、身を持って示したのは誰か、言うまでもない。

 

弾君も、インダストリーの人々も動いた。大場先生もだ。私達ばかりが変化を待ってはダメなのだ。

 

変わらない世の中が変わってしまったのなら、私達も変わらなくてはならない。一かけらの可能性でもいい、ISはまだ飛べるのだと、私達にはまだ希望があると示さなくてはならない。

 

パンドラの箱があけられたのなら、箱の中を調べればいい。土地が渇いたのなら、井戸を掘って潤せばいい。

 

「イヴァナ先生、皆を集めてください。やる事があります。至急、急いで!」

 

救われたのなら、今度は私達が救う番のはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酒臭い部屋の中、皺だらけになったシャツのまま、私は目覚めた。時刻は22時を回っていたことに腕時計を見て気付いた。あれからどれくらい経ったことだろう。

 

もう、何日此処にこもっているか分からない。

 

つけぱなっしにされていたTVのスピーカーからはニュースキャスターの聞き取りやすい声が流れていたが、倦怠と無気力が体を支配して、消す気にもなれなかった。

 

もしかしたら、たいして時間は経ってないのかもしれないが、私にとっては永すぎる時間を過ごしたように思えた。

 

また新しい酒を、と手を動かしていくが、掴むのはラベルが張り付いた空き瓶ばかり。かすかに残った酒の残り香が発せられるだけだ。

 

締め切ったカーテンの向こうから月明かりが覗いていた。差し込んだ光が照らすのは、荒れ果てた私の顔だ。

 

よく、フィクションでは光を救いの手だと例えるときがあるが、私にはそれは無かった。現実では何の役にも立たない。光さえあれば、職を失った身に、夢を失った身に生きる気力が戻ると言うことなどありえないからだ。

 

砕け散った夢の前に私は倒れた。最早動く気などしなかった。首を僅かに動かして、TVの方へと目をやった。

 

画面にハワイのアリゾナ記念館が写っており、現地の取材班がに急きょ予定されたイベントに関してのインタビューを現地人に行っていた。

 

気になって見てみると、ここ最近低迷しているISの人気取りのための式典を行うと同時に、インダストリーから購入したイーグル数機のお披露目、並びにそのテストパイロットによる説明等を行うとのことだ。

 

参加するISの数は40を超え、米国の全ISの2分の一に相当するそう大規模な式典になるとされているらしい。

 

「馬鹿な奴らだ」

 

吐き捨てるように言って、画面に映る必死になっているIS信者やら、乗り手やらを嘲笑した。手軽な力に頼り切って、それが崩されるのを慌てて防ごうとしているのだ。

 

決壊した堤防にいくら土嚢を積もうが無駄な話だと言うのに、ご苦労な事だ。崩されないように最初から補強なりするべきだったろうに。

 

そう思って、初めて自分の愚かさにも言えることだと気づく。人なら誰しも思うであろう、自らの過去の可能性。過去のIFという、無意味な自己の愛撫。私も今そんな事を頭の中で行っていた。

 

自衛隊でISという力にも固執せずに私は訓練に励み、他の幹部候補生と共に過ごしてきた。女尊男卑の風潮で、後ろ指を指されることもあったが、私は防大を卒業し、夢へとたどり着いたはずだった。

 

しかし、務めて二年も経ち、上官から告げられたのは私にIS学園への赴任を命じるものだった。そこからは今日までの日へとつながるのだが、私はあの時、断固として拒否すべきだったと後悔している。

 

イーグルの発表後に楯無に聞かされた話。それは私を単純に更識へのけん制として使ったという聞きたくもない事実だった。

 

IS適性Bプラスで自衛隊然とした女性士官なら誰でも良かったというのだ。能力でも、実績でもない。ただくじ引きに負けただけだった。

 

それだけならまだしも、私は最早道が無いのだと、聞かされたのだ。

 

その後で駒込二尉と話した。私に対するこれまでの扱いと更識に対して私に無断で措置を行ったことに関して問い詰めた。

 

だが、二尉は非を認めることなどせず、功として誇った。そして、彼は語った。

その話は今でも鮮明に思い出せる。たとえ、アルコールとニコチン不足で痛む頭でも。

 

『大場元二尉、ハッキリと言いますが貴女は組織では害悪なのですよ』

 

その事務的な口調に私は受話器を握りしめていた。

 

『貴女はいわばカルト教団のリーダーだ。波長の合うものを引き寄せ、独自の組織を作り上げる。さらに貴女は自身の正義でしか動かない。組織に置いて、これほど厄介な人間はいません』

 

駒込は歯噛みして口の端から血を流している私を直接見ているのか、鼻で笑い、続けた。

 

『結局、貴女は自衛隊でも、学園でも弾かれ者なのですよ。組織の正義に従わない、無能ならともかく、貴女は困ったことに有能の部類だ。これから自衛隊はイーグルを手にし、その力を増すでしょう。その時にIS乗りとしての貴女は非常に都合が悪い』

「そんな都合など知るか!」

 

そう叫び返したが、虚しい響きだった。彼はアタシを元二尉と呼ぶ。つまり、私には最早自衛隊に戻ることすら許されないことを示していた。

 

 

派閥を作られては困る。アタシが神輿にされた場合を想定し、彼は、彼らは私を切り捨てると言ったのだ。

 

今までの成果を彼らは成果とは見ず、逆に脅威と見ていたのだ。アタシの持てる術を教えた彼女たちを見て、彼らは警戒し、握りつぶすと決めたのだ。

 

『……貴女はISと共に消えるべきだ。その学園と共に消えるべきだ。IS学園に最早価値は無い。いずれ沈む船でしかない場所で消えていただきます』

「ふざけるなよ」

 

その時のアタシの言葉には力が無かった。涙をこらえていたはずだ。受話器があった場所の方向を見ると、涙を瞳から零しそうにしつつ、鬼の形相をしている過去の自分がドッペルゲンガーか、ともかく幻のように網膜に投射されていた。

 

「この私が……貴様らの都合で……踊らされていたと言うのか?」

『そうは言いませんが……まあ、そうかもしれません』

 

冷徹なまでに変わらない口調で宣告されて私は胸の奥でシャボン玉がパチンとはじけるような感覚が走った。

 

『貴女は自己満足で動いただけだ。どれだけ、自衛隊として、教師として、振る舞おうが、結局、貴女はどちらでもない。わがままな子供なのですよ』

 

ソレを最後にアタシは受話器を叩きつけて破壊した。どうしようもない怒りが最初に来て、次に襲ったのは無気力と亡失感だった。

 

アタシのこの一年は、いや、この半生は誰かの手のひらで回っていただけに過ぎなかったのだ。道化でしかなかった。今年になってから、少し調子に乗って、教師面をしたが、結局はごっこ遊びに等しかったという訳か。

 

そうだ、その通りかもしれない。ラウラが暴走した時もそうだ。あの時、私は一人で彼女を止めようと動いたが、普通に考えれば別に止めることも無かった。

 

さっさと逃げて、他の教師同様に隅で震えてもよかった。でしゃばった結果、どうなったか。

 

福音事件では、山田先生の手を汚させ、守ると言ったはずの生徒たちも結局は出撃させている。やるのなら、人を巻き込まずに自分だけですべきだと言うのに、だ。

 

学園祭の時の鷹月たちに戦闘をさせる切っ掛けも私が作ったようなものだ。私の姿を見て、彼女らは私の在り方を正しいと誤認したのだ。

 

その結果、彼女らは銃のグリップを握りしめて、想像を絶する敵機の集団を銃火を交えた。

戦う必要などなかったはずの彼女たちを戦いに巻き込んだのは自分ではないか。

 

生徒を守ると言いつつも、なんというザマだ。何一つ成し遂げられていないではないか。

自分の顔を瓶のガラスに移して、私はその人物に向かって言葉を吐いた。

 

「馬鹿な女」

 

そこいらのISに乗せられていた女と何ら変わりがないと気づく。だが、それももう遅い。例え、ISの生みの親である束博士でさえ、過去に戻って、その修正はできないように、こんな人間にできることと言えば、後悔しかない。

 

私はあの織斑と何ら変わりがない。守るという言葉に酔っていた愚か者だ。自衛隊の御旗でもかがれば、守護者にでもなれるとでも思っていたのだろうか。

 

制服の代わりにスーツを着れば、教師になれるなど妄想を抱いていた阿呆だ。いっそピエロの格好をする方がお似合いという物だ。

 

「死んだ方がマシだな……」

 

ベッドの下に隠している89式小銃に似せたカスタムFN FNCを思い出し、その気になれば、銃口でも口にくわえるか、などと思いつつ瞳を閉じようとした。

 

 

 

 

 

 

だが、その時予想もしなかった音が聴覚を刺激した。

 

床に伏せて眠りにつこうと考えた時、鼓膜に独特の飛行音が聞こえた。打鉄の飛行音だ、と気づけたのは今までの成果と言えた。あの機体はラファールのスマートなシルエットとは違い、肩に浮遊ユニットである実体シールドを所持しているので、翼が空を切るのとは違う、空気抵抗でこすれる音が起こるのだ。

 

「……こんな時間にか?」

 

先ほどの時刻は夜十時。こんな時間にISを借りることなどもできないし、専用機持ちだって空を飛ぶことはしないだろう。

 

夜間飛行と言う言葉はあるが、そんなカリキュラムなど、IS学園には存在しない。正直、必要ないからだ。IS学園の生徒が突然、夜に飛ばなくてはならない理由などどこにもないからだ。

 

窓の向こうから聞こえる音を気にして、気だるい体を動かして、窓辺へとたどり着く。カーテンの隙間からチラチラと、青い閃光が覗かせている。

 

アタシはそれが何なのか、確かめようとカーテンに手をかけて開いた。すると、そこには打鉄を身にまとったヘアピンでとめた髪型が可愛らしい少女、鷹月がそこに居た。

 

「鷹月?」

 

そう呟いて、窓を開くと彼女がニコリとほほ笑んだ。

 

「何をしている? こんな時間に……処分を喰らうぞ」

「……待っていましたよ、大場先生」

 

警告する私に彼女はそう答えた。彼女の瞳にはうっすらと水滴がついていたように思えたが、彼女は器用にそれをマニピュレーターで拭い、私に話しかけた。

 

「先生、この一週間、私達の前に出てくれなくて、寂しかったんですよ? 皆、山田先生もイヴァナ先生だけじゃなく、五反田君達も待ってたんですよ?」

 

彼女は優しく言ってのけた。十代の少女の見せる純粋な瞳にのぞかれて、私は今の自分の姿を恥じつつも、聞いた。

 

「待ってた、だと?」

「はい、皆今までのお礼をしようって、皆で大場先生を待ってました」

 

その言葉を聞いて、胸に温かいものが込み上げて来た。それが負の感情ではなく、むしろ求めていた物であると理解できたが、心では拒絶しようとした。

 

今までの事を思い出せ、受け取る資格などあるのか、と自らに問いただしたからだ。

 

「……そんな物、アタシには、受け取る資格なんて無い。 ないんだよ、鷹月」

 

アタシはいつの間にか、嗚咽交じりに話していた。

 

「アタシはどうしようもない人間だ。お前たちを守ると言いつつも何もできなかった。教師ごっこに自衛隊ごっこに興じていた子供にすぎん。そんな私に……」

「そんなことない」

 

初めは小さい声だったが、二言目には大きくなっていた。

 

「そんなことない!」

 

鷹月は精一杯大きな声で叫んで見せた。それは彼女にとって譲れない何かであったノアだろうか。強い瞳で私を射抜いた。

 

「私達が此処にいるのは貴方のおかげで、五反田君達がいるのも貴方が戦ったからでしょう! 誰も、大人が戦わない中。先生たちが戦ってくれた……それをごっこ遊びだなんて言わないでください!」

 

鷹月は言葉を紡いでいく。

 

「何をされたのか。何を言われたのも知りません! でも、今ここにいる皆は……」

 

彼女は私に何かを投げ渡した。受け取って見ると、それはタブレットだった。通信とどこかの機体のカメラを受信しているようだ。

 

彼女はゆっくりと後退し、空へと駆け上がった。

 

『貴女の作った結果! そこに嘘なんてない!』

 

スラスターを吹かし、鷹月の期待が闇夜の空に光の尾を描き出した。そして、それに惹かれて集まるように何機ものISが空へと飛び出して行く。

 

中心の一機がそれらを引き連れるように加速していく。機体の数は十機か、その程度の数だ。

 

その編隊は螺旋を描きつつ、上昇していく。その軌道はとても高度なものだ、とすぐに理解できた。螺旋、つまり円軌道を正確に行わなければ、あのように美しい形にはならない。

 

少しものずれを許せば、円は歪み、それが大きくなって、やがて破綻してしまう。だが、彼女たちはそれを起こさずに見事に描いて見せた。

 

一人ではなく、複数人によって作られるパフォーマンス。スラスターの色から打鉄やラファール、更にはグレイイーグルやラプターなども混ざっているのが見えた。

 

推進剤に特殊な加工を施しているのか、出来上がった螺旋は虹色で七色のスラスターによる残光が徐々に縮まっていく。

 

そして、それが最少になったとき、円の中心に一発の砲弾が放たれた。砲声からイヴァナ先生のチャレンジャーライフルの物だと分かった。

 

そして、砲弾が音を放って空へと飛び、螺旋の中心で炸裂し、信号弾の白い光を宙へと起こし、その瞬間、螺旋を作っていた機体が四方へとバラバラにとんだ。

 

すると、タブレットに現れたのは幻想的というより、神々しさすら感じ取れる美しい、1秒のみ開花する、虹の花を咲かせて見せた。

 

大きく、美しく、気高いその花に名前は無い。たった一秒の間だけ姿を晒し、その後、粒子となって消えて行った。桜の花びらの如く、咲いて散る様はまさしく、この一瞬の歓喜の為に作られた努力の結晶だった。

 

タイミング、訓練、腕前、全てを計算して作られた花に私は魅入られていた。窓から見ると、キラキラと宝石の滝が生成されているのにも気づき、私はその光景をじっと見ていた。

 

「綺麗……」

 

たった一つの言葉を呟き、その光景に酔いしれた。そして、そこに一つの可能性を見出した。もしかしたら、まだアタシには道はのこされているのか、と。

 

それは彼女たちが作り出した希望の花。私に残された唯一の道でもあった。

 

 

全てのわだかまりが消えたわけではない、だが、この光景とコレを作り出した者達の想いに嘘はないと信じられた。

 

レシーバーから聞こえる彼女たちの歓喜の声を聞いた。それは福音にも思えた。

乾いた心に指す光、それは現実の光であったが、救いになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その時、私の背後で中継されていたTVに不穏な影が映っていたことにこの時、アタシは気づかなかった。

 




レジスタンス&教師の話はこんな感じです。
偶には救いがある話をかくのもいいですね。

次回はヒャッハーな回だったりします。
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