IS to family   作:ハナのTV

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アドバンス!

「何をしているか分からねえ奴っているよな? クラウツ」

 

鼻がひん曲がるほどの悪臭と、コールタールを思い起こす、粘ついた黒いヘドロが広がる足元、靴音を響かせて指定の場所へ足を動かせば、ドブネズミたちが鳴き声を上げて、どこかへと逃げていく。

 

時折何かを踏んだと思えば、それは台所に潜むあの黒い虫か、ネズミの一家のどいつかだ。

 

そんな、最低の場所での仕事の最中に同僚のベトナム人、グエンは俺にそんな事を話しかけて来た。

 

「何の話だ?」

「例えばの話だが、ボブスレーの真ん中の奴とかさ」

 

電話線や、インターネットケーブルがあるであろう場所をドリルでこじ開けて、バックパックから取り出した手製のプラスチック爆弾を仕込んでいく。

 

普通、爆発物の仕込みは無言で粛々とするべき仕事であるというのに、この浅黒い男はそんな考えは全くしないで無駄話をする。軍隊なら、折檻どころではないだろう、営倉に入れられても文句はできない。

 

「あのソリの競技で、真ん中は何をするんだろうな? 一番前は前を見るのに必要だ、でもって、一番後ろはゴールの時に欠かせねえ、なら真ん中の仕事って何だ?」

 

何の気なしに、グエンと俺は爆弾のセットを完了させて、次の仕事場へと急ぐ中、俺はため息を吐きつつ、答える。

 

「……ソリを押すんだよ。スタートダッシュの時にな。後は姿勢を低くして空気抵抗を無くすのに徹するはずだ」

「そうなのか?」

「そうだよ」

 

ほお、と感心したような声を上げて、ヤツは顎に手をやって、納得する素振りを見せた。同時に眉をしかめて、首を傾けて訊いてきた。

 

「だったら二人だけでいいんじゃないか?」

「そんなの知るかよ。五輪の偉い奴にでも意見具申しろよ。全く、お前と来たら仕事中はいつも口を開きっぱなしだ」

 

俺はグエンのアジア人特有の彫りの少ない平べったい顔を睨んで、叱った。亡国の連中は愉快な仲間たちと言えるが、その反面愉快すぎて、偶に癪に障ると言う致命的欠陥が存在する。

 

「大体何でボブスレーなんだよ。もう少しマシなのあるだろうが」

「日本の政治家とか、IS学園の教師とかか?」

「お前、俺の事おちょくってないよな?」

 

この男もその一例だ。俺達の上では今頃、旅行に来た家族連れから、南の島で過ごしすぎて頭が蕩けたような顔を晒した阿呆、それにビール瓶片手にハンヴィーを運転する大学生共がエンジョイしているという中で、何故冬のソリの競技の話をしたがるのか。

 

俺をからかい、弄ぶために微妙なチョイスをしているのでは、疑ってしまうほどだ。

 

仕事が終わった後でハワイアンバーでハイネケンを飲もう、もしくはオータムやスコール、我が麗しの亡国の女性構成員の皆様にフラガールの格好をしてもらおう、という話題ではなく、ボブスレーの話をするのだ。

 

感覚がずれ過ぎてて、時たま頭がおかしくなりそうになる。

 

「怒るなよ。俺はただ何をしているか分からない奴の話がしたいだけだ」

「じゃあ、他の奴の話をしろよ」

「なら、IS代表候補生管理官なんてどうだ?」

 

またしても、微妙な職業を持ってくるのに、俺は後頭部をかきむしった。

 

「アイツら、候補生を大量に首にしまくるつもりらしいな。自分の食い扶持潰して何が楽しいんだ? その後は何をするんだ?」

「俺が知るかよ!」

 

そう怒鳴ってもグエンはお喋りを止めずに、呑気な話題を続ける。

 

「特にお前の国と英国。ドイツなんか何をするんだ? ISをくず鉄にしたって、ワーゲン一台作れないだろう? それとも銀髪フレンチメイド喫茶でもするのか?」

「だから、知るかっての!」

 

俺は振り向いて、奴の首根っこを掴んで黙らせる。グエンは微妙な顔をするだけで、それ以外はいたって平静を保っていた。それが余計に腹が立ったが、俺の格闘の腕前は亡国では下の下レベルなのを思い出し、舌打ちをする。

 

「そんなものは予定通りだからいいんだよ! ISを手に入れただけで、優秀な人材を捨てる世界だぞ? 捨てた後は今度はイーグル監視委員会だかでも作るだろうさ!」

「そう言うもんか」

 

ニコリとほほ笑んで奴は納得して満足げにする。そいつの顔面にいっそ、一発お見舞いしてやろうか考えた時、通信機に聞こえ慣れた粗野な口調の女の声が流れた。

 

『クラウツ、うるせぇぞ。 通信機つけっぱで漫才するんじゃねえ』

「……オータムの姉御よ、毎度言うけどもっとマシな相方を寄越せって言ってるだろ?」

 

それに対するオータムの返答は一仕切の笑い声と残酷すぎる言葉のみだった。

 

『だから、毎度違うやつと組ませてるだろ? もう一巡したたけどな』

「クソ! マジかよ?! ホント、ロクなの居ねえ!」

『ご愁傷様だ。で、準備は?』

 

今まで組んだ人間を思い出す。人を縛るのが好きな冷感症な女に、量子変換で自在にワープできるサイコ女子、腕は最高だがアル中の裏切り野郎、どうして、こうも真面目な人間がいないのか。

 

オータムの問いに答えるまで俺は自らの組織の人員の常識、もしくは頭の中身の足りなさに絶望した。その間わずか一秒未満。我らが姉御は他人を待つと言う事を全くしないのだ。

 

ただし、スコールは除くが。

 

「準備は完了だ。後はどこから吹っ飛ばすか、だ。こっちの手勢は何機なんだよ?オータムの姉御」

『ハワイ組と本命組で半々、六十機だ。私も含めてな。計画開始まで十分を切った。回収地点まで後退して待機しろ』

「了解」

 

通信を切って移動を開始しようとした時にグエンが何を思ったのか、俺の通信機を手に取って、オータムと会話しだした。

 

「なあ、一つ訊いていいか? オータム。さっきの話の続きだが」

『私は生憎と職業には詳しくねえぞ。 まあいい、言ってみろ』

 

そこでグエンは珍しく気の利いた事を聞き出した。彼にしては上出来すぎるほどの質問だった。

 

「何をしてるか分からないと言えば……織斑千冬は一体何をしてたんだ?」

 

その質問はあまりに切れ味が良すぎた。いつものグエンなら、先ほどのようにとぼけたことしか言わないと言うのに、どうしてこういう時に一級品のネタを口にするのか。

 

それを聞いた時、オータムの通信機の向こうから男も女も分け隔てなく、笑いが起こった。最初はかみ殺すような笑いだったが、やがて大きくなっていった。

 

風船が膨らむかのように笑いが大きくなりつつも、我慢をする。これからの仕事を想って少しは真面目な態度をしようと彼らは努めたが、たいして持たず。大爆笑がそこで起こった。

 

オータムも含めて俺もその場で笑い転げそうになった。一人わかっていないグエンの顔が間抜けで余計に笑いがこみあげてくる。

 

『何だよ? 聞いてなかったのかよ、グエン。ま、いいや。織斑千冬はな……』

 

そこからの回答にもう一度爆笑が起こるのは目に見えていた。故に誰もが一度黙った。それこそ、一流のコメディアンのトークを良く耳に届かせるために、集中するように。

 

『私達や世界中の連中を利用して、弟を新世界のヒーローにしたいのさ』

 

キレのいい冗句とはホントはこういうことを言うのかもしれない。俺はそう思わざるを得なかった。なにせ、この冗句の笑いどころは多岐に及ぶのだから。

 

まず、行き過ぎたブラコンぶり、次に彼女もその弟もその器かどうか疑問符が付く点だ。ついでに、英雄になることが目標という点も追加せねばならない。

 

だが、一番の笑いどころは、それが他力本願で、しかもよりによって俺達に頼むという点だ。

 

なにせ、手の込んだ自殺と同意語なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

視界に広がるの二つの青。上を見上げれば、点々と存在する雲以外に何もない真っ青な空が広がっている。穏やかな正常な空を見上げれば、誰もが今日という日を不幸に思うものはいないだろう。

 

下を見れば、海水だ。地平線の向こうまで広がる声明を育んで来た海の上を私達が走る。

高速で飛翔することで、空気の流れが出来て海面に轍を作り、白く泡立った後が作られる。・

 

海面すれすれで匍匐飛行と呼ばれる低空でハワイ諸島へと急行するのは一つの赤を入れた黄と黒の毒々しい蜘蛛を模したIS、アラクネを先頭に続く有機的デザインの黒い昆虫と人を合わせたキメラに見える機体群。ハスタティと呼ばれるEOSの部隊だ。

 

EOSの背中にはガル翼の様なウィングスラスターを備え付けた背部ユニットを装備しており、加速力を増加している。

 

特殊塗装とシールドの形を変形させてレーダーなどに映りにくくし、海面近くを飛ぶことでできる限りのステルス性を再現した私達、亡国機業の戦闘集団が現在ISを持ち上げるために式典へと走る。

 

グエンの冗句に大爆笑していた彼らも流石に真面目になったのか、言葉は最小限に抑えられている。

 

その中で私はグエンの冗句を思い出し、アラクネのフェイスマスクの中で小さく笑った。全く持って世の中は皮肉だ。あの女の、織斑千冬のような身勝手すぎる者によっていいように踊っている。

 

「そうさ、連中だって何をしているか分からない奴らだ」

 

世界中の平和主義者たちが愛と平和を説き、どれほど発展途上国や紛争地域に出資をしようと、それらは無為に終わってしまうと言うのに、たった一回の暴力で全てがひっくり返るのだ。

 

無論、暴力を好むのは人間の古来からの性だ。そして、最も同種の生物を信用しない悲しき性分も同時に持っているために、力を欲し続けるのだ。

 

その結果が今私達が向かっているIS式典だと言える。イーグルとISがにらめっこをして、お互いに我こそが強者であると叫び、その上で権益を求める。そんな浅はかな知恵と発想ばかりに囚われて、何一つ正常な判断が出来ないのだ。

 

つまり、グエンの言う人間とは実は世界中の大勢の事でもあるのだ。

 

そして、それら国民に選ばれた選りすぐりのエリートの政治家たちが最も愚かな選択をし続けて来たツケを払う時が今という事だ。

 

誰かがISを採用しないと言えば、こうも歪まなかった。誰かがイーグルとの共存を望めば、恐らく何も起こらなかったろう。

 

「だが、そうでもない人間もいる」

 

そう言ったのがスコールだ。彼女はこんな人間達の世界で正しい歴史を作ろうとしている。決してツケは払い伸ばしにはできないという事の証の為に。

 

そして、誰が本当に歴史を作るのか、という証明のためだ。世界を牛耳っているつもりの国連やらの首脳どもは言ってみれば三流以下の脚本家だ。

 

利益の為に人材や資源を食いつぶす害虫のほかならない。織斑千冬もまた同じと言える。

スコールは許せないのだ。彼女たちの様な者が作る歴史に後世の人間が称賛し、それを真実とするのが許せないのだ。

 

ソレは人間そのものへの侮辱である。そんな茶番劇に一体何の価値があると言うのか。そこには国のために戦った勇士たちの生きざまも無ければ、賢者、愚者の関係なく、野望に燃えた者達の軌跡だってありはしないのだ。

 

誰だってそんな経験があるはずだ。敵機を100機以上叩き落としたエースパイロットに胸を躍らせ、敗北をわかっていながら、生命を投げ出した勇者たちを称える。

 

無謀とも思える野望に身を焦がした為政者や革命家たちの思想と人格を憧れを抱き、そんな者を支えた者達の献身と愛に涙する。

 

その二は国境、人種の差はありはしない。何かの為に全力で生きた者こそが評価される、本当のエンターテイナメントだ。

 

そこに詰まったロマンの塊こそが人間賛歌と言えるのだ。

 

そう、そのロマンを茶番で汚してはならないし、そんな世の中で生きようとは思わないのだ。

 

私達は今から、それを作ろうと言うのだ。破壊的な快楽を求め続けた先にできる未来は確かに存在しているのだ。

 

世界最悪の災厄を持って、全てをひっくり返すのだ。

 

その始まりの呼び声か、アラクネのHMDが目的地まで50kmを切ったことを示す。現地ではISが列をなしてその威を誇っているらしく、候補生から代表まで勢ぞろいしている。

 

『目標まで43km。各員、ウェポンフリーだ。刃を砥げ、初弾を薬室へと送れ、目の前に映る者すべて、燃やしつくせ』

 

セイフテイが解除されて、初弾を装填する者に、ワイヤーブレードを煌めかせて、これからの流血劇を想像して甘い声を漏らす者。

 

バックパックからガンベルトを引き抜き、MG42を連想させる機関砲へと込める、スラリと長い白刃を覗かせ、目釘を閉める者もいる。装甲厚200mmのプロテクトギアを拡張僚機から呼びだして、速度を低下させつつも、追随する機体もいる。

 

短機関銃、ライフル、超電磁砲からレーザー兵器、果ては大口径の火砲とそろえた私達の姿はこれからのパーテイに必要な衣装と言える。

 

皆が待ちに待ったこの日の為にそろえた正装を見せつけて、式典へと駆ける。ドレスコードを守った我ら亡国機業を歓迎しないはずはない。

 

きっと、おびただしい数の銃弾とミサイルが出迎え、果ては原始的な刀剣や銃先の銃剣で互いの肉を食い合うことになるだろう。

 

そこに理性なんて存在しない。子供も大人も老人も揃って等しくなるのだ。権力すら無意味となる戦場で求めるのは唯一つ。この手に納める生と言う名の勝利の証のほかにならない。

 

それこそが私達の存在を知らしめる唯一絶対の方法。亡国と言う日陰者のテロリストである私達がついに日の目を見ることとなる。

 

『私達は今まで声を殺し、牙を砥いできた。狐にも劣る畜生共の情けない声を聞きながら、待っていた』

 

飛ばず檄に誰もが答える。カメラアイを発光させて、その戦闘意志の高さを無言の内に語る。

 

アラクネの右手に持つのは特殊兵装ソリッドシューターである。スコールが駆るISゴールデンドーンが誇る超高熱火球のソリッドフレアを発射するためのカタパルトランチャーの一種だ。

 

三本のレール内で作られたプラズマ火球を亜音速で打ち出す兵装はまさしく、始まりにこそふさわしい武器だ。なぜなら、この一撃こそが私達の夜明けを示すのだから。

 

「だが、そいつも終わりだ。夜はもう終わった! 今日という日にしなくてはならないのは何だ?!」

「存在の証明! 最高のエンターテイメント!」

 

全員が叫ぶ。スコールと言うかがり火に集まった皆が望む夢も終わり方もバラバラだが、この一点については誰もが共通している。スパルタクもユーリと言う兵士の創造によって自身の正しさを証明して見せた。かの姿を我も彼に続かんとする者こそが私達、亡国だ。

 

レイルが回転しだし超高熱のプラズマ火球が生成されていく、その唸りこそが今までの私達で、引き金を引くことが私達の第一声であった。

 

「なら、魅せつけろ! 今日は、今日からは大声で叫べ!」

 

絞られた引き金が作動し、高電圧によって作られた加速力が火球に伝わった。後ろを押し出されて、亜音速まで一気に加速をした火球が甲高い声を上げた。

 

発射の反動によって海が波立ち、大気が揺れる。プラズマによって焦がされた大気の香りが鼻孔にと伝わり、戦場の風を演出する。

 

尾を引いて飛んでいく一個の火の玉が向うと飛んでいった時、息を呑んだ。これから始まる最高のショーに体がぶるっと震えた。それは武者震いでもあり、興奮をしめす絶頂でもあった。

 

そして、ソリッドシューターが目的地へと着弾し、同時にハワイ諸島全域で爆破が起こった。軍事、民間問わず通信網をずたずたにし、式典会場は恐らく生身の人間は声を上げる暇すらなく蒸発したことだろう。

 

それを疑わせないのは、まるで地上にできた太陽のように輝きを見せる火の塊だった。黄金色に輝く地獄の鎌の炎が私達の夜明け、ゴールデンドーンを伝える。

 

『全機! 細かい指示は無しだ! Kill them all! 好きにしろ!』

 

後続のハスタティがMLRSを発射し、多連装ロケットによる弾雨を形成する。200発を超えるロケット弾が空へと駆け上がり、数秒もしないうちに弾着し、ハワイ島の大地に火柱を立てた。

 

戦闘速度へと上げて、スラスターの出力を上げて、我先にと突貫する。使用済みとなったソリッドシューターを投棄し、身軽になった愛機をマッハ2近くまで加速し、会場へとたどり着く。

 

すると爆炎の中から飛び出てくるISの群れを見て、舌なめずりをする。

 

はぐれた不慣れな機体を見て、アラクネの装甲脚を連結させて巨大なエネルギーブレードを作り出す。完全な暴力を伝えるべくして出来た光刃を振り上げて、その一機に向けて飛びかかる

 

「一番乗りィ!」

 

乗り手であるツインテールの少女がこちらに気付いた時には既に遅い。頭上へと振り下ろしたエネルギーの塊になす術もなく、その身を両断される。

 

ソリッドシューターによってかなりのダメージを受けていたのか、絶対防御が発生してもエネルギーが完全に防御するには足りず、不運な事にスラスターにも引火してその場で爆発した。

 

黒煙と機体の欠片が吹き飛ぶ中を切り裂き、アラクネの姿を敵に魅せつける。見せつけるのではなく、魅せるのだ。第二世代のISである愛機と私が発揮する力と、そ威容を

 

鉄とタンパク質の焼ける香りが漂ったのを感じ取って、私は一人つぶやく

 

「まずは一人」

 

続いて、両手にサブマシンガンを握り、左右の敵機へと照準をつけずに勘で射撃する。右の機体は急降下で避けたが、左の機体は回避しきれずに被弾を許した。

 

腕部に被弾してパワーアシストが下がったその一機はアサルトライフルの構えを重さで耐えきれずに解いてしまい、焦りつつ片手に持ち替えようとする、その僅かな時間の間、容赦すべき理由など見当たらない私は装甲脚を射撃に切り替えて、レーザーの雨をその一機に浴びせかける。

 

赤い光の土砂降りをモロにうけ苦痛にもだえる中、ライフルを持ち反撃するのを、急降下で避ける。被弾した一機が後ろに着き、まだ無傷の機体も援護に回り、二機からの射撃を受ける。

 

頬や体を掠める曳光弾の光が視界に映るたびに、アドレナリンが溢れ出てくるのを感じ、神経が昂る。沸騰気味の頭にもっと引き寄せろ、と指示をして三秒の間振り返らずに惹きつける。好機と見た二機が左右に分かれ挟み込もうと動く。

 

「いい子だ……!」

 

射線を同じにしないように細心の注意を払い、距離を詰めてくる二機、センサーが捉える二機の距離が100に近くなった時、私はアラクネのスラスターの向きを変えて、急激に減速する。

 

「健気すぎるんだよ!」

 

二機の視界から一瞬消えたことを確認し、どうじに右側に瞬時加速をかけて減速からのトップスピードへの加速を行う。回転を加えた機体でもう一度巨大なブレードを作り出し、右側の損傷が無い機体を切り裂く。

 

悲鳴を上げて失速する一機が墜落するより前に機体の後方に組み付いて、ミートシールドにして、もう一機と相対する。

 

「離せ……!」

「やだね!」

 

力のこもらない乗り手の言葉を無視して、そいつの持っているライフルを握り、もう一機に徹甲弾を連射する。哀れな事に、マガジン一つ分20発の鉛玉をその身に浴びて、PICが破壊されて、降下していく。

 

盾にした機体のレシーバーから助けを求める声が聞こえて、乗り手の女が必死に涙ぐんで助けてくれと懇願するが、降下していく機体にロゼのEOSのワイヤブレードが飛びつき、意志を持ったブレードに締め付けられて、次の瞬間には引き裂かれて空に赤い花を咲かせていた。

 

乗り手が絶叫し、憎しみの瞳を向けたが、私はその彼女にゼロ距離で光弾を浴びせかけてやった。

 

「……三つめ!」

 

愉悦に笑う顔のまま、陸地へと降下しようとすると、そこへ通信が入った。音声だけでなく、60年代の古いロックミュージックも一緒に流れており、トカレフの声がそれに続く。

 

『聞こえるか? 全機、降下するのは少し待ってくれ。一つ余興をしてやる』

「トカレフか。 何をするつもりだ?」

 

東の空を見やるとトカレフのEOSとそれに付き従う二機の僚機が見えた。隊列を組んで米軍基地上空を旋回する。やかましい音量で流れる音楽を周囲に騒音としてまき散らしつつ、トカレフたちは愉快そうに笑う。

 

『今日の裏方はグエンだったな! ベトナム生まれなら、これだろう?! ブロークンアロー!』

 

三機が背部に備え付けた背部ユニットの後部ハッチを開き、進入コースへと入る。周囲のISや残った僅かな対空砲火が三機に集中するが、何が起こるのか見たい同胞たちはここぞとばかりに腕前を披露し、これらの妨害を抑える。

 

そしてトカレフの機体から弾頭が投下されて地面に着弾した時、炎熱地獄がその場に起こり、建物から施設、残っていたISも含めて炎に包み込んだ。

 

1300度の炎の中、耐えられるのはISと対炎熱装甲を持った僅かな者だけだろう。それ以外は良くて一酸化中毒か、窒息。悪ければローストだろう。

 

各機体がその炎を見て、嬌声に絶叫を上げて、このショーに身を震わせた。

そしてソレに悪乗りした連中がベルト給弾の軽機関銃を空中から地上で動くもの全てに放っていく。

 

金色の薬きょうが空中で飛び散り、怒涛の勢いで消費される弾薬は毎分2000発で、それを惜しげもなく使う。28mmの機関砲弾の咢が地面を食い破り、人型の機動兵器と装甲車などもついでにと食らう。

 

「Get Some!Get Some!」

「逃げない奴から撃てよぉ! よく訓練されてるぜ、きっと!」

 

哄笑を上げて、次々にターゲットを変えて射撃していく。連携を乱され、制空権すら取れないISと米軍。今回導入したはずのイーグルのほとんどはあまりに練度が不足しており、精々が壁役にしかならないでいる。

 

「ハワイ島にタッチダウンよ! アタシに続けぇ!」

 

その中で私や何名かが地に降り立って、これらの掃討に入る。残念なことに着地一番乗りは取れなかったが、撃破の方は取ったので譲ってやることにした。

 

「踊れ! 踊れよ! 三千世界のカラスも歌っているぞ!」

 

最早何を言っているのか自分も分からないまま、各EOSが得物へと飛びかかっていく。

散弾銃と突撃銃で壁に追いやったISを処刑スタイルで穴あきにし、ワイヤーで首を縛り付けて、黒こげの街灯に吊し上げる。

 

三十を超えるナイフやブレードをイーグルの装甲に突き立てて、黒ひげの様なオブジェを作る。赤黒いオイルにまみれつつも銀色に輝く刃に感じるのは一種の芸術性だろう、

 

ひび割れたアスファルトを埋め尽くさんばかりに、空薬きょうで黄金色に染めて、その中央でフルオートの乱射を繰り返す。

 

戦争を否定する、かの有名なロックミュージックが鳴りだし、その音楽に合わせて120mm砲をリズムよく撃ちだし、歌う。

 

男も女も、皆が揃って、その生を謳歌していた。他人の命を奪い、生の尊さとエクスタシーを感じ、尚も引き金を引き、白刃を朱に染める。

 

アラクネを操って、一機、また一機と屠っていき、煤と血液で愛機を赤黒く染め上げていくのに快感を覚えていく。

 

三機纏まった場所の中央に飛び込み、後ろ足で一機目をハンガーへと蹴り飛ばし、その場で飛び上って、振り返った二機目の頭部をブレードで兜割の要領でぶった切る。

 

「遅え!」

 

三機目がパルスライフルを連射するが、撃破した二機目の装甲に阻まれて無駄撃ちに気づく。そうして、気付いて反省する暇さえ与えずに、両腕に鹵獲したグレネードランチャーを持ち、12発のHE弾を浴びせかけて、後退させる。

 

「六機目だぜ、見てるか?! スコールゥ?!」

 

空中でドッグファイトを繰り広げるIS二機とEOSを見上げる。追われて戦闘するISがオープン回線のまま通話している。悲鳴と助けを求めて逃げる一機とその一機を逃がそうと健闘する一機の二機はEOSの動きに翻弄されて、弾薬を無駄に消費するのみで、手に平の中にあるのに気付いていない。

 

そして、弾薬が切れて、絶望の最後の言葉を遺し、二機は短くカットされた狙撃砲の轟きの前に撃墜された。

 

だが、二機がソレに満足して帰還することは無い。次の戦闘を求めて、戦場の空を自由に飛ぶ。

 

誰かが命乞いをした。それでも、銃声は止むことは知らない。祭りは始まったばかりだ。ここからは止まることは無い。

 

溜まった鬱憤に待ち焦がれた機会、むき出しの暴力性を見せる私達が満足するためには、夕暮れでなくとも、海は朱に染まる、それを見るころになれば、終わるかもしれない。

 

だが、私達の事だ。今度は空を赤くしようと言うに違いない。

 




帰って来た亡国回です
ハワイ襲撃、次回にも続きます。

そして、この後もいくつかのエピソードを作りつつ、物語を加速させていきます。

出来れば、今年中には完結させたいですね
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