砲声と共に大鐘楼の鐘が鳴るような音が滑走路の上で木霊した。そこにぽっかりと空いた穴の先には亡国が駆るEOSハスタティが腰だめでXC-1チャレンジャーライフルを持っており、その砲口からは陽炎がゆらゆらと立ちめいている
巨大な120mm砲の空薬きょうがコンクリートの大地に転がって、ドラム缶を叩いたような音が木霊して、撃ち抜かれた最後のイーグルがその場に仰向けになって倒れた。
イーグルが一瞬倒れまい、と踏ん張ったが遂に力尽きて煤で汚れた薬きょうの金属の黄金の海の中に沈んだ。子気味の良い音が響いて、死者の魂を天国へと送る鐘の代わりになっていた。
「手こずらせやがって」
構成員コットンマウスが言葉は口汚くののしりつつも、この地に赴いたRインダストリーのPMCの敢闘に称賛を込めて言った。
件のPMCの駆っていた機体の両手にはLMGが握られており、いくつかのISの脱出の殿をつとめて、12機のEOS相手に地の利と即席のトラップを用いて、壮絶なラストスタンドを見せつけて、今ようやく死に絶えた。
これが十年間、寝ても覚めてもIS打倒誓った兵士崩れの息つく先だと思うと、体に電撃が走るかのような興奮を覚えざるを得ない。
いつか、彼らと相対するときどのような戦闘になるだろうか、期待に胸を膨らませる。
気が付けば夕日が昇っており、空と大地が茜色に染まった頃だ。ハワイ島における戦力は完全に沈黙していた。海にはオイルと赤い血が流れており、この地に停泊していたイージス艦に巡洋艦が胴体に軋みを上げて底へと沈んでいく。
地上では、滑走路にから飛び立てなかった航空機が無残な姿を晒しており、銀色に輝く主翼が欠片となって散らばっている様は哀れの一言だ。その周辺にハどうにか飛び立とうとした勇敢な男たちの亡骸が横たわっており、愛機と運命を共にしている。
これら、今時の無知なマスコミに時代遅れ、と言わしめた旧式兵器であったが、新型もデカい顔をできるほどの活躍はしていなかった。
むしろ、今現在聞こえている散発的な銃声が示すように、こちらとしては旧世代の小銃が大いに役立っている。
残党の始末と、降伏した敵兵の処理によく働いており、それらに比べれば新兵器たちの働きぶりは殆どがお粗末なものだ。
ISモドキではある、EOSハスタティの奇襲に対応できたのは連携という言葉も知らないISと全くと言っていいほど練度がないイーグルのみであった。
しかし、結果は酷いものだ。最初の一撃で乱されたIS群であり、一番最初に体勢を取り戻したが、彼女たちの多くが実戦を知らない者だった。
この言葉には語弊があり、ここでいう実戦とは戦争という意味であった。ISでの戦闘は基本、一対一、もしくは二対二程度であり、集団での戦闘はあまり行われない。
元々の数が少なすぎて、国によっては十機単位での戦闘も難しいと言うありさまだ。ましてアラスカ条約で戦地に赴くこともほとんどなし。非公式の部隊を除けば、皆無と言っていい。
つまり、連携を取ろうにも訓練も少なく、また椅子の少なさからくる対抗心や、嫉妬などもあって、勝手に孤立化し各個撃破の的となったわけで、その甲斐あって、今はハンガーの中に死体を積み上げられて、亡国員のフェイスブックのネタとして活躍している。
「見てよ、この娘の時計。私のより高い奴よ、コレ」
「あ? おお、こりゃ値打ち物だったなぁ……もう動かないけど」
他には腕時計の値踏みや、第三世代の武装のチェックなど多種多様な楽しみ方をしている。共通しているのは死人に興味なしということだけだった。
「ハイ、笑って」
今、キティが姉妹と共に携帯で記念撮影をしており、女子高生の如く写真にスタンプや文字を書いて楽しんでいる。
彼女らの様な親密な仲を作れば、理想的だったがそうはいかなかった。
そもそもの話、今のISは全く兵器には適していない。第二世代型のラファールや打鉄と違い、乗り手を選び、ひたすら互換性もなく、扱いに苦労する特殊武装にばかり作って、ぶっつけ本番で連携を求められても無意味だ。
そんな事を考えていると、後ろから声をかけられた。振り返ってみると瓶ビールの箱を持って歩くトカレフの姿だった。
「姉御、何湿気た顔をしてるんですか?」
「別に……あそこで山になった連中を憐れんでいただけさ」
トカレフは口をへの字にして答えた。
「そりゃ慈悲深いことだ」
「だろ? あんな死に方だけはしたくねぇな」
私はトカレフの持っている箱から瓶を一本取りだして、腰に下げたナイフで王冠を弾き飛ばし、中身を口にした。
前に日本に来た時に飲んだモノとは違って、水っぽく感じもした。恐らくはコメやスターチなどの原料の問題だろうが、少し不満を覚えた。
「薄いなコレ。しかも、あまり冷えてないだろ、トカレフ」
「仕方ないでしょ? ナパームで焼いた跡地から無事なのをかき集めてきたんだ。これでも頑張って冷やしたんですぜ?」
「努力不足だよ」
温く、薄い瓶ビールを投げて、不満を露わにすると、周りの連中も集まって冷えていないビールや酒に文句を垂らし出し、ブーイングの嵐となった。
口を開かないのは横たわって動ない者だけで、生者たちは皆が口をそろえて自分たちの下に会わない飲み物しか集められなかったトカレフを罵る。
「もうちょい、マシなの持って来い馬鹿野郎」
「ノーナシ! 根性なし! ロクデナシ!」
「うるせえ!」
男も女も揃いに揃って、戦闘を終わらせたものがその後の祝いの会を求めて、酒と食い物を要求する。
しかし、肉と言っても、立ち込める焼き肉の香りはどう考えてもジューシーな物とは程遠く、ウェルダンというには焦げすぎており、しかも食うような肉ではない。流石の亡国も食い物だけはまともな物を選ぶ。
酒もほとんどが容器ごと炭化してるか、僅かに残った者も、冬に飲むようなココアの如き、ホットドリンクと化している。
私は長い髪の毛をたなびかせて、部下や同僚の要求を受け止めて考え込み、レーションの空き缶やら、紙コップを投げつけられるトカレフに代わり、全員に話しかけた。
「よし、なら仕方ないな。酒屋に行くぞ」
「売ってくれるかな、オータム?」
背の低いキティが子供のように無垢な声を出して聞いて、私はアラクネの拡張領域に仕舞っておいたPSO1スコープを乗せたAK103を取り出して、初弾を装填し、その音を響かせることで答えた。
「ああ、売らなきゃブチコロってパターンね」
「いつも通りだな」
各々が好き勝手に銃器の初弾を装填し、元の場所へとしまい込む。その後くじ引きを作り、誰が買い出しに行くかを決めていく。
日本式に割り箸に似せた木の破片を使ってくじを引いて行き、買い出しリーダーとなった私はフウ、と息を吐いた。仕事に娯楽と次から次へと忙しく、楽しむ彼らの元気さに少し呆れすら覚える。
最も、制圧して三日とこの場に居られないのを考えれば、今日一日のわがままに付き合うのも上司役としての努めだろうと思い、この場では彼らの手助けついでに楽しむことを考える。
「さっさと、行くぞ。酒屋の場所は?」
「今、検索してますよ。オータムもエビスとか飲みたいでしょ?」
「まあな」
そうして、検索の結果行く場所はちょうど、第二の目的の場所の近くであった。
日本人の観光客に合わせて、日本のビールをわざわざ取り寄せている数少ない店と聞いて、周りの連中が胸を躍らせた。
場所はフォード島付近、我々が回収予定の物がある近くに店を構えているのだから、これはもう運命的と言えた。
そうとわかり、私はアラクネの外部音声出力を最大にして、全員に声を送った。
『此処にいる全ての亡国に告ぐ! パーティ会場は変更! 場所はアリゾナメモリアルの偉大なる艦船の甲板上だ! 時刻は18時きっかり! 遅れずにな! 』
上がる歓声に、銃声。クラッカーの代わりに銃を撃つ馬鹿も現れたが、今日は大目に見てやった。
そう声を周りに響かせていると後ろから視線を感じ取った。正確には敵意と殺意だった。私をじっと見つめていることから、狙いは私だという事がわかった。
中腰に構えて、右ももに手を添えて、背中を見せつけたままにし、感じ取った誰かの呼吸が最も整えられた瞬間、瞬時に振り返って拡張領域からマカロフを取り出し、勘に任せてダブルタップの二連射。
マカロフの乾いた銃声の後に送れて、m16系統の銃声が轟き、僅かに私の頭部を外した。223高速弾が空を切った音を残して、過ぎ去っていくのを知覚した。
そして、女の苦悶の声が耳に届いた。命中したが、致命傷には至らなかったようで、舌打ちをして悔しがった。
『それと、処理は確実にやれ! ネズミは一匹も残すんじゃねえ!』
後ろでは拍手が沸き起こって、私の早撃ちを誰もがたたえた。内心では、距離が遠いとはいえ、スレートほどの正確さに負けている、と思い不満だったが、褒められて悪い気はしなかった。
そんなことに微笑みを作りつつ、アラクネを展開し、酒屋へと急いだ。
上空へと昇り、音速に近い速度で飛行し、ハワイ島を一望する。かつて、この地を奇襲した旧日本軍が見たであろう景色とはこうであったのかもしれない。
空から見下ろすこの島は確かに、攻撃の対象とは胸躍るものだと、頷きつつ酒屋へと飛んでいく。
お空を飛んで数分、フォード島付近の目的地へとたどり着く。機体の速度をゼロにし、その場に滞空し、ゆっくりとその場へと降り立つ。追随して来たトカレフとロゼの二人も同じように着地し、機体を解除し、シャッターの閉じた店を睨み付けた。
「店閉じてるじゃない」
ロゼが文句を言うとトカレフが下を鳴らして首を左右に振った。
「不逞な店だな。酒屋は24時間営業だろうが」
店の看板にはパシフィックと筆記体をもじった文字が書かれており、サメと人魚の電飾が飾られていた。
時計を見てみれば、時間は17時半。店じまいには程遠いはずの時間だった。そのことに憤慨したトカレフがどこから持ってきたのか、拡声器を取り出して店に向かって抗議を行った。
「こらぁ! 今何時だとおもってるんだ? せっかくの客を放ってどうしようってんだよ?!」
そう叫ぶと、次の瞬間拡声器が炸裂した。虚を突かれつつも、トカレフが機体を展開し、ロゼがトカレフのハスタティを遮蔽物代わりにして、店の2階の窓にガリルACEの銃口を向ける。
私は拡声器の壊れ具合を見て、散弾によって破壊されたことを知った。店の中の誰かは果敢にも私達に一発お見舞いしたのだ。
「すぐに失せろ! テロリストが! トレンチガンの餌食にしてやるぞ!」
聞こえてきたのはしがわれた老人の男の声だった。迫力のある低い声に口笛を吹くと、弐発目をトカレフに浴びせかけた。散弾の一部がアラクネにも飛んできたが、対人用の12ゲージでは何の効果もない。
「よせよ、爺さん! 度胸は買ってやるが、次はこっちの30mm弾の食らうか?! 俺達は酒を買いに来ただけだ!」
「酒だと?!」
「そうだ。お宅の酒を買うだけ買って後は帰る! こっちのセンサーでとらえたが、孫とかもいるんじゃねえのか? ここは一つ穏便に行こうや!」
トカレフの脅しも含めた交渉を行うと、向うの窓から声がしなくなった。センサーで調べると、確かに彼の言う通り、もう一人存在が確認できた。
爺の弱点は年下の身内とは言ったものだ。かのスパルタクも僧の通りだったのを考えれば、トカレフの策は上々だろう。向うとて、機体を展開されれば。勝てるとは思っていないだろう。
「大人しくなると思う?」
ロゼが私に聞いてきたのに、私は肩をすくめて、わからない、とジェスチャーを送る。こうしている間にも私たち三人の銃器は店の方へと、向いたままだ。
正直な話、爺を殺して酒を奪った方が楽なのだが、そうしないのには理由があった。殺す理由があまりに小さいという事だ。酒代をケチって殺したとあっては、スコールも良い顔はしないだろう。
それに秘蔵の酒もあることを考えれば、主人には生きてもらった方が得だ。それに、どうせなら私達に対する感想のひとつやふたつを聞くのも一興だと考えた。
そんな風に思考を巡らせていると、シャッターが開かれて、かなりの高齢で中から小太りでメガネを掛けた老人とその傍らに孫娘と思わしき女子中学生が祖父の背中に隠れて私達を不安そうに見ている。
短い髪の毛の女子を守る老人は誰よりも勇敢なナイトに見えた。
老人の目は鋭く、利き手には骨董品クラスのウインチェスターm1897を携えている。
「本当に酒だけが目的なんだな?」
「ああ、約束する」
トカレフが機体を解除して、老店主に微笑みかけた。老店主は不機嫌そうに鼻を鳴らして、
私達を睨み付けた。
「……何が欲しい?」
「冷えたビールにラム、ウオッカ、ジン、とにかく何でもだ。日本のビールもあるよな?」
私が上機嫌に聞くと更に顔を険しくして、店の奥を指さした。石造りの床の古びた内装の店だった。
「……そこに積んである。さっさと持っていけ」
「おう、サンキューな。ちなみにお代も置いておくぜ」
財布からベンジャミンの束を取り出して、カウンターに置く。
ロゼが老人に照準を合わせて見張り、私とトカレフで酒をチョイスしていく。多種多様なアルコールの入ったドリンクが揃っており、品ぞろえの良さに感嘆の声を漏らしつつ、ケースごと機体の拡張領域へと仕舞っていく。
IS様様だ。拡張領域に仕舞えば、瓶もかさばることは無いし、持ち運びにはうってつけだった。この点は束に感謝してもいいと言える。
高いウイスキーを見つけて酒瓶にキスをして、老人に私は質問した。
「爺さん、質問いいか?」
憮然とした表情をしたご老体は私の背中を見て答えた。
「何だ?」
「私達のことどう思うよ?」
「ただのテロリストだ。それ以下でもそれ以上でもない。屑はどうあがいても屑だ」
「お爺ちゃん!」
私は振り返って、老人をニヤリと笑ってみた。孫娘が祖父を諌めようとするが、老人の態度は全く変わらないのを見て、私はこの主人がこういった状況に慣れているか、それ以上の物を見てきた、と確信した。
「そう言わずにさ。お前、元兵士だろ? その観点から何かあるだろう、感想とか。ちなみにいつ、どこで戦った兵隊さんなんだ?」
老主人は一瞬黙り込んで、メガネを掛けなおし、私の問いに答えた。
「……第一海兵師団、ペリリューだ。小娘」
「そいつは相当なツワモノだな」
第二次大戦、日米の熾烈な戦闘の経験者と語る老人に拍手と敬意を表して褒め称えると、老人は私達を一望して、その感想を述べた。
「俺は、もう何十年も前の戦争で戦った。あの場所で戦った日本兵は祖国を守ると信じて、俺達より質の悪いライフル銃と銃剣で向かって来た。恐ろしくもあったが、その意志は俺達と同じだった」
最初に語ったのはペリリューでの日本兵との戦いでの感想だった。狂信的な突撃すらかます忠勇な日本兵に対する彼の言葉には一定の尊敬が宿っていた。
「国を守る、家族を守る。最近の男も女もやれ、ISだの、個人主義だの唱えるが、俺はコイツ以外にデカい正義は知らねえ。その為なら何人切り刻もうが、泥啜ろうが、俺はそれを正しいと思う……だが、お前たちは別だ」
熱を帯びた口調はとどまることを知らず、私に指さした。にやける私の顔を真っ直ぐ見据えて、彼は毅然とした態度で非難した。
「お前らには国もねえ。家族だっているかどうか怪しい。それにな、戦争終わった後に、ピクニックに行くアホな大学生共のごとく酒を買いに来やがる。不真面目で、戦争を楽しむ最低のイカレ野郎どもだ。この店を開いて40年たつが最低の客だよ」
その言葉にロゼが微笑み、トカレフが噴き出した。私は自分で一体どんな顔をしていたのかは分からないが、老人の目が笑っていないのを見て、何となく予想がついた。
確かに、私達の今の姿は大学生のお泊り会か、ピクニックだ。それに戦争にも正義があって、その正義の元に戦う者は悪と言い切れないと言うのはわからないでもない。
特に第二次世界大戦のような、国家総動員の戦争において国家元首の思惑はともかくとして、そのもとで戦った兵士には正義があったのは間違いない。
敵同士で尊敬の念を持つ、そんな騎士道とも取れる精神を持って戦えた者がいた最後の戦争ともいえ、英雄がいた最後の戦争かもしれないのだから。
だが、勘違いしてはいけない事が一つある。それはピクニックはもっと真面目に行うもので、戦争とは違うという事だ。
「そりゃご挨拶だな。流石は先達だ」
「ほほう」
褒め言葉に意外だと感じたのか、老人は感心半分と軽蔑半分の意を込めて言葉を放った。
私は近くのビールケースの上に座り込んでショットガンをこちらに向けたままの老人をまっすぐ見据えた。
「だが、そりゃ国家と国民がアンタらに感謝していた時だけの話さ。今は違う。まるっきりな」
今の時代を見てみれば、わかるが最早ロマンなど欠片もない。戦略の変化、兵器の進化、思考の変遷はいつしか、戦場からエースパイロットや英雄を無くした。
大衆とやらの国民は自分たちが送り出した兵士を焚きつけ帰ってくれば、罵声を浴びせかけるだけの存在だ。
戦争を賛美しない世の中と言えば、聞こえはいいが、やってることは明らかな偽善だ。容易く情報操作によって操られる彼らは世界をやがて食い尽くす。
「アンタだって見たろう? 兵士に罵倒を浴びせかける市民ってやつを。必死に泥まみれ、血みどろになって帰って来ても、誰も迎えたりしない。ISって発明に踊らされて、兵士をさらに捨て去る連中を見て、アンタはまだ、{あの頃の正義}があるって言えるか?」
ISを受け入れた結果もその延長線上だ。誰もが便利な道具を受け入れ、社会をよくした気でいる。警鐘を唱える者を時代遅れと非難し、自分たちは未来を見ていると主張して止まない。
IS適性ごときに大金を払う政府に、子供を出汁に名声や富を卑しく求める大勢の連中、しかも自分たちが選択した未来に不満を持ち、そこにイーグルという新しい玩具が着た途端、彼らは一斉に古い皮を脱ぎ捨てた。
大日本帝国を非難する日本、ベトナム戦争を悪とするアメリカ、ソ連のアフガン帰りを悪腫としたロシア、今の大衆とやらは移り気すぎて、無責任だ。その時選択した自分たちを完全に忘れさるのだから。
「イーグルが出た途端、アンタだって思ったはずだ。ISの世で、今まで何の抵抗もしなかった軟な男が牙を剥きだした。流れに乗るしか能のない男に女。これをぶっ潰して何が悪い?」
今までの世界は誤りだった、これからは新しいイーグルの元で正しい社会を作ろうと、戯言を並べ立てる人間を一人殺して何が悪いのか。それが百人だろうと、一億だろうと変わりはない。
「だが、お前らを肯定する理由にはならん。遊びで殺すような連中を肯定などできるモノか。それなら俺はまだ腑抜けた今の連中をマシだと言う」
「本音が出たな、爺さん」
老人は反論したが、そこに本音が混じっていた。腑抜けた連中、と言った以上、私の主張が間違ってはいないという事の証だった。
老人は顔をうつむかせたが、すぐに元の状態に戻った。流石は、修羅場をかいくぐっただけはある。
「そうだ、今は腑抜けた時代だ。白騎士の女一人にいいようにされる世だ。たった一人の女子中学生の発想に媚を売る世の中だ。だから、私達は変えたいのさ」
鋭い眼光を見せて、老人の前に立って、握り拳を作り、頭上へと掲げる。織斑千冬の作る世界でもなければ、Rインダストリーの思惑が作る世界でもない。その発想を胸にして、老人に言って見せる。
「ほんの一瞬でいい、自分たちの世界で、自分たちの意志で戦う。表舞台で大見得きって、スポットライト当たる場所で、輝きたいのさ」
歴史に隠匿されることのない戦い。それこそが目的と言えた。それを起こすのは簡単だ。誰の目にも留まる大事件を起こせばいい。
その為の前哨戦がコレだ。ハワイでの戦闘、これだけの殺戮を隠滅できるものならしてみるがいい、とすら思う。ISを撃墜し、ハワイにおける海軍も、全て破壊したのは誰か。その目に焼き付けたものは多く、全員の口を閉じさせるのは不可能だ。
「私達は歴史に残るぜ、爺さん。この時代は恥の世紀だって誰もが思わざるを得なくなるのさ」
「そうか」
老人は顎に手をやって頷きつつも私達から目を離さなかった。私が語ったことに対して、彼は脂汗一つ流さずに言葉を返して見せた。
「お前たちの言い分は分かった。だが俺は言ってやる。お前たちの世界が一秒でも早くこの世から消えることを願うってな」
「そうなると思うか?」
「なるさ。今の俺には力はねえが、いつの時代だって骨のある奴はいるからな」
骨のあるやつ。そう訊いて、連想したのは学園祭襲撃の際のある機体の持ち主だった。ツインアイにレーザーソードを振りかざすラプターの名を持つあの機体の男の名を。
その時、時計のアラームが鳴った。いつの間にか約束の時間になっており、長話をしていたことに気付かされた。もう少し語りたかったが、仕方ないのでケースから降りて、立ち去ることにした。
「……悪いな、爺さん。もう時間だ。酒はありがとうな。いい店だ。いつかまた来たいよ」
背中を見せて立ち去ろうとすると、老人が「待て」と呼びかけた。
「税金分だ。一ドルだせ」
ため息を吐き、財布の中を見ると、驚くべきことに変わったコインを見つけた。普段ならただの1ドル硬貨だったが、この時は運命的な物を感じ取った。
私はそのコインに願掛けの意を込めて、コイントスをした。一ドル硬貨は放物線を描いて老人を通り越し、床に落ちた。
表なら吉。裏なら凶としてみたが、答えは神の悪戯を感じさせるものだった。石と石の間にコインが挟まって、どちらにも倒れなかった。
一枚のサカガウィア・ダラーの金色の空を雄々しく飛ぶ鷲が私にその雄姿を見せつけていた。
フッと笑って私は偉大なる英雄と孫娘に手を振り、フォード島に浮かぶもう一人の英雄に会うべく先を急いだ。
更新遅れて申し訳ありません。
次回からは学園に戻り、簪、鈴と描写し、いよいよストーリーを動かしていきます。
無駄話の多い作品ですが、無駄な話を書きたいため、ご容赦を