IS to family   作:ハナのTV

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変化点

ハワイ事変の23時間前

 

 

 

 

がらんどう、とした格納庫を抜けて、目的の部屋に食材を詰めたエコバッグ片手に歩いて行く。数週間前までは火花の閃光と金属の焼きついた匂いに油の匂いが立ち込めていた第五格納庫も今やゴーストタウンの如き、静けさだ。

 

弾薬が詰まったケースを台車で押す整備員連中もいなければ、太鼓腹をさすりながら、ノートパソコンとにらめっこをするマイクもいない。

 

イーグルの発表以来学園が取り決めたRインダストリー組の退学処分、それはどうにもしようがないものだ。何せ、彼らは受験資格を偽って入学し、あまつさえISの存在を脅かすものとして此処にきていたのだから。

 

薄々、ISらしくはない、と思っていたことはあった。無人機襲撃時にヴィンセントのグレイイーグルの機構を見た時、おかしな点が多いことに気付いていた。

 

軽量化に傾倒しているIS開発のトレンドを無視して全身装甲にし、さらに絶対防御がある中インナーフレームと呼ばれる二重の装甲を仕込む徹底ぶり。

 

カメラを通しての戦闘もハイパーセンサー等を有するISにとっては本来なら必要でない。確かに彼らはISではなかった。でも、今はそんな事はどうでもいい。

 

問題なのはソレが原因でアイツらがここから出て行くことになり、そしてアタシがソレを望んでいないという事だ。

 

部屋の前に立って、ドアノブに手をかけて思う。こんな事をしても自己満足や無聊の慰めにしかならない。帰ってアイツに負担を強いる結果となるかもしれない。お互いにお上の命令には逆らいにくい立場だ。前の夏休みのように会うことを禁じられているかもしれない。

 

でも、それでも、アタシはこのまま終わるのは嫌だ。意を決してドアノブを回し、扉を開いた。

 

 

男が使う部屋だけあってインテリアもこっていない簡素な家具が梱包されてる中、ソファで一人タブレットとにらめっこしているヴィンセントがコチラを振り向いた。

 

瞬きをしてアタシだと認識したのか微笑みを作って言葉を放った。

 

「やあ、君か」

「……意外と元気そうね?」

 

腰に手をやって訊いてみると、彼は立ち上がりつつ、「そうでもないさ」と答えた。彼の服装はIS学園の白を基調とした制服ではなく、スラックスとYシャツの完全にこの学園の部外者の格好だった。

 

ソレが妙に寂しく思えたが、それを振り払ってエコバッグの中から下ごしらえした豚肉や野菜を見せる。

 

「それは?」

「酢豚の材料よ。まだ一回もご馳走したことなかったでしょ? まだ電機は通ってる?」

「通ってるよ……そう言えばまだ食べたこと無かったかもね」

 

ヴィンセントは顎に手をやって記憶をたどっていき、その結論に至ったようだ。思えば、私も急に思い立ったことだった。思えば、何故今までこの発想に至らなかったのだろう。

 

「で、食べたい?」

「是非とも」

 

にこやかにほほ笑んで答えるヴィンセントに満足しつつ、私は早速調理に取り掛かることにした。エプロンをつけて、クッキングヒーターの電源をつける。

 

その隣でまな板を取り出して野菜を包丁で切っていくのをヴィンセントが見てほう、と感心するように言った。

 

「手際がいいもんだね。中華はそれでも作れるものなのかい?」

「ホントはガスコンロとかの方が火力合っていいんだけどね、でも、十分に美味しく作れるわ」

「勉強になるな」

 

他愛のない会話をしているだけで、楽しかった。最近やたらと雰囲気が暗い学園だけど、この時間はそんな事は微塵もなかった。熱したフライパンに油を引いて、野菜を加えていく。油のいい香りが部屋全体に充満する。

 

「僕はてっきり……もう来てくれないんじゃないかって思ってたよ」

 

そこへ、ヴィンセントの声がよく響いた。一瞬菜箸を動かす手がピタリと止まった、何故そう言うのか、わからなかった。彼はアタシが来たことを喜んでいたようだったので、そんな言葉を言うのが心外だった。

 

「……どうして?」

 

料理しながら訊くと彼は一つ大きく息を吐いて、その理由を語るまえに、一つクイズを私に寄越してきた。

 

「イーグルを発表して早数週間。僕達Rインダストリーは一体何機売っていくら儲けたと思う?」

「分からないけど…百機は売れたんじゃない?」

 

ヴィンセントは一拍間をあけて、クイズの答えを述べた。

 

「答えは120機。儲けは日本円にして24兆円。もろもろ差し引いても、莫大な金の量さ」

 

短期間での販売奇数としてはかなりの物で、それも一機当たり2000億と言う高価な兵器に世界は惜しげもなく予算を使ったという事になる。

 

「世界って言うのは……僕達の予想をはるかに超えるスピードで変化した。それは危険なほど、よく感じられる」

 

今後ISへの費用が縮小されるのと、この十年間での軍縮での予算の余裕が生み出した結果なのか。いや、それ以上に世界があまりに幼稚になった気がする。新しい玩具に食いついて、お小遣いを散財する子供と変わりがない。

 

「そして、この短期間で国家代表候補生を減らし始めた。急激に、だ。僕らは完全に君たちIS乗りの敵という訳だ。だから」

 

ヴィンセントは一歩アタシの方に歩み寄った。アタシは気づかないふりをして、豚肉をフライパンに投下し、酢豚を作り上げていく。

 

「君も……同じ目にあっていたらって不安だった。正直、そうなったら僕はどうしていいかわからなくなる」

「……アンタでも心配してくれるのね」

「……他でもない君だからさ」

 

間をあけて放った気障な台詞にクスリと人知れずに小さく微笑んだ。

素材に味をつけて、完成させて皿に盛る。我ながら良い出来だと感心していた。しかし、胸に感じる温かな思いはそれが原因ではない。

 

「ハイッ完成。 熱いうちに食べてね」

 

皿によそって、ヴィンセントに手渡すと、視界に入った彼がフッと笑っていた。

 

「顔が赤いぞ」

「中華料理は熱いからよ」

 

料理で出た熱のせいだ、と言い張って誤魔化す。そして、心中で少し自己嫌悪に陥った。もう少しだけ素直になれたら、と思う。照れ隠しばかりしていても、何も変わらないのはとうの昔に知っているのに、だ。

 

湯気の立つ酢豚をヴィンセントは箸を使って口に運ぶ。味わうようにゆっくりと食べて飲み込んで、その感想を素直に述べた。

 

「美味い」

「気に入って貰えて、何よりだわ」

 

手を後ろで組んで、彼の様子を眺める。プラチナブロンドの十五歳の男子の容貌は世間一般的に見ても中々のものだろう。でも、今のアタシにとってはそれ以上の輝きがあった。

 

出来れば、こんな風にもっと長い時間を過ごしたい、と願う。自慢の料理を美味しい、と言ってくれるだけでも、アタシは嬉しい。

 

「もっと早く、頼めばよかったよ」

「気づくのが遅かったわね。偶になら作ってあげたのに」

 

そこで、唇をキュッと閉めた。言うべきだと強調する自分が胸の内に存在した。ほんの少し、たった一歩分、踏み込んで自分の意志を伝えるべきだと主張するのだ。

 

でも、言ったところで、もし拒絶されたら、もし気付いてくれなかったら、と想い手先が震える。福音の時も、無人機の時も震えなかった手はこんな命のやり取りもない事で震えだすのだ。

 

でも、このままでいい訳がない。ヴィンセントはもうそんな長い時間がかからないうちに米国へと飛んでしまう。

 

そうなってからでは遅い。IS学園と言う唯一のつながりを失えば、会う機会はほとんどなくなってしまう。中国政府のIS乗りと米国大企業の御曹司。お国柄で言えば、水と油でありながら、どちらも利益で人を扱うという点では一致している。

 

そんな二つの組織のアタシ達がこの学園と言う結びつきを失えば、利益を得ることも情報すら手に入らない。用済みの関係、上はこちらの意志を無視して、否、そもそも考慮の範疇にすらないまま立ち切れと命令するだろう。

 

「あ、あのさ」

 

掠れた声で話しかけると彼が片眉を吊り上げてこちらを見た。アタシはまともに顔が合せられなくて、視線を下げた。両手でエプロンの裾を掴んで、もう一度視線を彼と合わせた。

 

「なんだったら、毎日食べさせてあげてもいいのよ? その、酢豚をさ……」

 

意を決して出た言葉は自分でも訳が分からなかった。こんな言葉を言いに来たわけではないのに、口から出た言葉の羅列はまたしても、素直ではないものだった。照れ隠しか、それとも自分が傷つかないための逃げ、なのか、ともかく思ったものとは違うのは確かで、自己嫌悪に陥った。

 

まともに顔を見られなくなってソッポを向いた。ツインテールの髪の毛が揺れて、毛先をいじりだす。そして、その言葉を聞いたヴィンセントが唸るような声を出して、私の背中に向かって言い出した。

 

「僕もソレを望むよ」

「え……」

 

ヴィンセントの言葉に声を漏らした。振り返ってみてみると、彼は酢豚を完食し終えた皿をキッチンへと置き、何故か洗い物をしている。

 

時折見える横顔が赤く見えたのを見て、アタシは意外に思った。この男でも、こんな顔をする時があったのだな、と。いつも気障なセリフを吐いて、余裕があるような態度を見せるヴィンセントが照れ隠しをしていた。

 

「何、別に不思議な事じゃないだろう? 君は賢いし、見かけも良い。それに度胸がある。その上に料理が上手いと来れば、そんな事ありえない、なんてことが有り得ないだろう?」

「はい?」

 

疑問符をつけた私にヴィンセントが一回咳き込んで話す。

 

「つまり、だ。組織云々を除いても……君は魅力があるってことでさ」

 

早口で、損得勘定を鑑みての発言だと誤魔化しているように見えた。どことなく手つきも落ち着きが見られない。お皿がしきりにかちゃかちゃと音を立てているからだ。そんな彼の様子から、アタシは一つの確信を得た。

 

彼もまた意地っ張りなのだと。つまり、自分と同じことを考えているのだと。

そう思うと、何故だか、ある好奇心が出来てきた。アタシはその猫の様な心に従って妙に口の回る彼に訊きだした。

 

「きっかけは?」

「君との初試合。プライドだけじゃない。本当の強さを僕に見せた時、興味がわいた」

 

記憶をたどって思い出した。あの試合の最後の事だ。あの時、嘗められたことと守られたことが悔しくてせめてもの姿を見せつけた。

 

銃口を掴んで自分に向かせたことを思い出し、アレがきっかけだと思うと少し可笑しかった。

 

「でも、アタシはアンタが嫌いだって言ったじゃない?」

「だが、君は僕を認めた。その後で何回か食事に行ったりしたろう?」

 

イタリアンレストランや食堂での事を思い出した。パスタの肉や麺を取り合って争ったものだ。声を出して笑って、その時を語る。

 

「アンタ、意外といやしんぼだったわね?」

「君が取り過ぎなんだよ」

 

ヴィンセントも笑っているのを見て、更に私は問いかけた。

 

「タッグを組んだわよね?」

「ああ、君の腕と君自身は信頼できた。あの短期間で背中を預けられると信じれたのは君が初めてかもしれない……君は?」

「アタシもよ」

 

彼が気づいているのか、わからないが皿をもう何回も洗っているのを知っているだろうか。それとも、わざとなのか。

 

「何より、君は僕を助けてくれた。福音の時も、夏休みの、あのロケットがよく見える店の上でも、君の言葉は良く響いたよ」

「感謝しなさい」

「してるよ。感謝しても、しきれないくらいに」

 

皿を流し台に置いて、彼は振り返った。その顔は優しく微笑んでいた。ただ笑いを見せただけでは惚れるアタシではないが、この時は少し違った。それまでの体験があったからだ。その顔を見てアタシも微笑み返した。

 

しかして、天使の時間はいつの間にか過ぎ去ってしまうもの事を思い出して表情を曇らせた。人間とは憎らしいことに悲しいときや辛いときは時間が過ぎ去るのが遅く、楽しいときに限って時間が早く感じられてしまうのだ。

 

「でも、もう会えないかもしれないのね……」

 

自然と声に寂しさが籠ってしまった。それでも、と思って笑顔を心がけるが、上手くいっているかは分からなかった。

 

「心配ないさ」

 

ヴィンセントは二カリと笑って応えてくれた。

 

「君さえよければ、迎えに行くよ。 大統領になってもね」

「本当に?」

「本当に」

 

アタシはそれを聞いて、右手の小指を彼に出した。胸を張って、精一杯の元気を見せて、ヴィンセントに言いつけた。

 

「約束」

 

そして、そこでアタシ達は約束をした。ささやかな約束だけど、アタシにとっては大きかった。涙はアタシたちに似合わなかった。そんなものを蹴飛ばすぐらいがちょうどいい。

 

ただ、お互いに笑いあってみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ハワイ事変より4日後

 

 

 

 

 

 

いつだって世界は突然だった。私の更識が消えてなくなったのも、ユーリが帰って来てくれたのも、イーグルと言うISによく似た兵器の登場、そしてそれに続くユーリ達の退学、どれもが唐突に起こった。

 

そして三日前におこったハワイでの襲撃事件。ニュースによると式典に参加したISとイーグルは一機も残さずに壊滅。駐留していた艦隊、および陸戦兵器の一つに至るまで破壊されつくされているらしい。

 

話によると、襲撃したのは亡国機業でひとしきりの破壊を楽しんだ後にフォード島でいくつかの品を奪って籠城をしていると言う話だ。そのせいでユーリが此処にもう少しだけ留まることになったのは僥倖と言うべきか。

 

劇的に変わる世界で、私は戸惑いを隠せなかった。今、私とユーリは学園生徒会室に来ていた。その道中で怯える者も居たり、死んだような目をして天井を仰ぎ見ている先輩たちが見えた。

 

彼女たちはイーグルによって行き場を失った人達だった。ISという物に人々が急激に関心を示さなくなった結果であると言えた。

 

そして、近々ソレが自分の身にも起こるような気がしてならない。だからといって、ユーリ達を責める気にはなれなかったけど。

 

元々、姉に見直させるためと、更識の命令に従ってやったもので、候補生自体の資格にはそこまでの関心は無い。唯一の懸念と言えば、愛機である打鉄弐式が返却しなくてはならないという事態だけだ。

 

だから、彼女たちに同情する気はあっても、同調はしなかった。

 

そんな彼女たちの事を想いつつも、私は目の前に出された紅茶を一口飲んで、姉さんと視線を合わせた。

 

「それで、どうして私達を呼んだの?」

「話が早いわね」

 

姉さんは紅茶のカップを机に置いて、私達を交互に見た。ユーリの表情は変わらず、紅茶にも手を付けずに睨み付けている。

 

「簪ちゃんもせっかちね。もう少しお茶を楽しんだらいいのに。 貴方も」

「俺には必要ない」

 

仏頂面のまま言うユーリに姉さんはため息を吐きつつ、「そう」とだけ答えて、私たち二人に呼んだ理由を述べだした。

 

「話をするとね。この間のハワイ事変にも関与してるかもしれないの。さっき、ロシアのIS担当官から妙な連絡があったの」

「妙な連絡?」

 

私が姉さんに聞くと、彼女は頷いて見せて自らのISミステリアスレイディのデータを空中に投影した。そこには何らかの暗号を示す数字の羅列があった。

 

「その担当官が言うには、国内で確認できるISにこんなような数列か、何かの暗号と思われる何かが入っていたの。後々調べたら私のレイディの中にもいつの間にか入っていたわ」

 

私はそれを見て、自分のも確認した。すると、私の機体の中にも似たような物が入っていた。数日前までは入っていなかった物だ。いつの間に入っていたコレは何なのか、その場で判断はできなかった。

 

「簪ちゃんのにも入っているようね」

「……姉さんのにも?」

「ええ、さっきのがそうよ」

 

ユーリはその数列を覗き見て、眉をひそめた。彼の機体はISではないので、当然入っていなかった。その為、私が表示した物を見ている。

 

「解析は?」

 

ユーリが問うと姉さんは淡々と答えた。

 

「解析した物はまだ送られてないわ。ここでの施設を使おうにも、それらの権限は私にはないのよ。だから、貴方達を呼んだの」

「どういう事?」

 

姉さんはその訳を説明した。まず、軍事的、特に諜報任務において経験が深いのはユーリのみ。五反田君は半年前までは一般人と変わらないし、ヴィンセントやアカネも戦闘に置いてはともかく、そちらの方面では長けていない。

 

大場先生は自衛隊ではあるが、情報部ではない彼女、まして少し前まで精神が不安定だった彼女に協力を仰ぐのは得策ではない。

 

次に複雑なデータを解読、解析できる高度な演算機能を持った機体、コレは打鉄弐式の持ち主である私という事だ。つまり有り合わせの戦力でコレの解析をしようと言うのだ。

 

「でも、それって勝手な行動なんじゃ?」

 

私は自らの疑問を述べた。暗号の解読は下手をすれば藪をつついて蛇を出すの結果になりかねない。自ら火に手を突っ込み、火傷を負うようなマネをすべきではない、と思考したが姉さんはこう続けた。

 

「そうも言ってられないのよ、簪ちゃん。どうもこの暗号は日本から来ているらしいのよ」

「日本って……まさか」

 

姉さんはゆっくりと頷いて、その先を述べた。

 

「そうよ。ここから発信されている可能性が高いの」

「そんな、まさか」

 

有り得ない、と笑おうとしたが、ユーリはピクリとも笑わずに、それが非現実的ではないと述べる

 

「成程な。ここはIS学園。コアネットワークを介しての大規模な発信も不可能ではない、という事か」

「そうよ」

 

姉さんは扇子を広げて見せた。そこには大当たり、と書かれていた。

だとしても、一体の何のためにそんな事をする必要があるのか、私には理解だ及ばなかった。何となく不安になって手の震えを感じ取った。

 

悪い予感が私に起こった。

 

「だから、少し手を貸してくれないかしら? ハワイ事変の後にこんな事が起こるのはハッキリ言って好ましくないわ。不安は取り除いた方がいい」

 

そう真剣な顔で、いっさいのふざけた雰囲気も無く姉さんは言った。何時以来かはわからないけど、姉さんが私に頼みごとをするのは久々な気がした。

 

「簪……ここは」

 

ユーリがその先を言う前に私は決断をして、メガネを掛けなおし、言葉を送った。

 

「……わかった。協力、する」

「ありがとうね。簪ちゃん」

 

姉さんは一言礼を言ってくれた。これもまた、新鮮な感覚だった。思えば、この数年間はまともに会話すらしなかったのに、今はこうして会話が出来ていた。

 

自信がついたおかげなのか、それとも隣にユーリと言う心強い存在がいるからだろうか、どちらかは判別がつかない。

 

何故だろうか、と疑問に思ったが、今はそんな場合ではない、と思ってデータを解析に移した。ディスプレイを起動して、キーボードを展開し、操作していく。

 

そう作業をしていると姉さんが私とユーリに話しかけて来た。その顔は微笑んでいた。

 

「貴方達は強いのね」

「急になんだ?」

 

ユーリが尋ねると姉さんは答えた。

 

「一時期は敵対するほどだったはずよ。正直、自分でも今回の事で協力を仰ぐのは虫がいいと思ったわ。でも……」

「互いに自分の意志に従っただけだ」

 

ユーリが一言返してみせた。学園と私を守りたいと願った姉とユーリを返せと叫んだ私、そしてその二つの意志に反応したユーリ、誰もが意思に従った結果だと言うのは真だった。

 

「お前には俺を恨む権利もあった。だが、あの日から今日という日まで俺はお前に何かされた覚えはない。それで充分だ」

「……簪ちゃんは?」

 

質問の矛先が私に向けられた。姉さんは前と違って私に話しかけた。彼女は私をちゃんと見てくれている。いや、実はずっと前から守ってくれていたことを思えば、私が気づかなかっただけとも言えた。

 

『貴女は……簪ちゃんだけは守る!そう決めたのよ! 更識を継いだのは、貴女に見せびらかすためじゃない! 貴女に部下を死なせる悲しみも、自分が死ぬかもしれない恐怖も要らないのよ! そんなものは私が全部受け止めるから!』

 

あの時の言葉、それを聞きだすだけで、どれ程道を違えただろうか。

 

確かにユーリの件での姉さんの行動は強引だった、でも、それが私と学園を守る義務のためと思える今、あの時のように怨嗟に燃えることはもうなかった。

 

姉さんはもう、私とユーリを一緒に居させてくれている。それだけで、もう姉に負の艦上は無かった。

 

「私は……姉さんに謝らなきゃいけない。いくらなんでも、あれは勝手が過ぎた。今まで見守ってくれていたのに、無視して来た。だから」

 

一拍間をあけて私は姉さんに言葉を伝えた。作業中のため、画面から目を離すことが出来ないのが少し恨めしかった。

 

「今まで、ありがとう。そして、あの時はごめんなさい……こんな言葉だけじゃ、許されることじゃないけど……」

 

私は言葉だけの謝罪とせめてもの協力でしか、自分の意志を姉に伝えられなかった。解析を進めていく手を止めることなく、進んでいると私の頭に姉さんの手が触れられた。

 

優しく髪の毛をとかすように、懐かしい感触が頭から伝わった。

 

「……それだけで充分よ」

 

私もその言葉と手つきだけで充分だった。数年間にわたってできた氷の壁が今融解した気がした。

 

「貴方にも礼を言うわ」

「……気にするな」

 

ユーリに頭を下げて礼を言った姉を横目でチラリとみて、少し嬉しく思えた。そうしていると、解析が完了したらしく、打鉄二式の画面にコンプリートの文字が浮かび上がった。

 

解析したデータは一種の音声ファイルだと明らかになった。さっきほどまでの空気とは一転して硬直した。私達三人はその音声が何なのか確かめる必要があった。

 

一体如何な情報が入っているのか。何らかの命令、もしくは福音の時の様なウイルスにも似た催眠効果のあるものなのか、不安がよぎる中、姉さんの指示で私は再生を愛機に指示した。

 

再生をされた時、流れたのは驚きの物だった。

 

『全てのIS乗りに伝える。今や世界は、変わってしまった。イーグルと言う代替え品が出回り、私達の正義が崩された。亡国機業と名乗る組織がハワイ島を襲撃し、最早世界を救えるのはイーグルではなく、我々だけだ。だが、世界は愚かにも我々を切り捨てようとしている。その現状を許していいのか?! IS学園に召集しろ! 世界を元の正常なる物へと戻すのだ!』

 

その音声ファイルを開いた時、私達は頭が真っ白になった気がした。まるで理解が及ばない物だった。それは檄文であったが、あまりにも理解が及ばない物だった。

 

普通に考えれば、こんなものは一笑に付すものだ。誰がどう考えても子供の悪戯にしか思えない。

 

だが、それを笑えなくしたのが、二つの要素だった。一つ、この暗号通信はドイツの機密暗号に使われるものだと判明したこと。二つ、コレを話している者が、あろうことか、織斑先生だったということだ。

 

「……こんな事が?」

 

そう述べた時、姉さんとユーリが何かを察知したのか、機体を展開して叫んだ。

 

「伏せろ!」

「伏せて!」

 

その言葉を合図として、生徒会室に何かが壁を破って侵入して来た。私もとっさに弐式を完全に展開して、索敵を行った。

 

すると、信じられないことが判明したのだ。

 

「コア反応が……150?!」

 

驚きに目を見開いている内に私達は大量のISに取り囲まれていた。その機体や乗り手を見ると、東欧、米国、アジア系と各地のISだと言う事がはっきりと分かった。

 

此処まで接近に気付かなかったのはIS学園の索敵機能そのものが機能していなかったことに他ならない。

 

一体何が起こっているのか、まるで理解が及ばない。何か神の力でも働いたとでも言うのか、私達は50を超えるロックオン警報を聞きつつ、背中合わせになっていた。

 

 

 

 

 

その日、世界で大異変が起こった。世界中のISと学園に駐在する機体すべて合わせて およそ415機がIS学園に集った。

イーグルの出現、亡国の行動に反抗した物だと彼女らは言った。世界がおかしくて、我々が真の正義を、と語った。

 

私はその時、ユーリと手を握り合った。これから起こる何かに恐れを抱いて。

 




この展開まで長かったです。
ようやく、此処まで来れました。

頑張ってここから怒涛の展開にしていきたいです。
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