IS to family   作:ハナのTV

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ステージは開幕される

変化は唐突に訪れた。あれから、一週間ほど経ち、織斑千冬の人質となったと思いきや、今度は亡国のゲストとして迎えられた俺達は今は奇妙な事態に陥っている。存在すら知らなかった地下へと案内され言った俺達は長い長い階段を下りて、エレベーターを何度も用いて、地下一キロ以上はある地の底へと送られた。

 

その道中で目にしたのは膨大な数のスパコン、無数の軍用装甲で形作られた通路、所々に点在する研究室の様な物と驚くべきものばかりだった。

 

そして、俺達の中に新たなゲストとして織斑千冬に一夏たち、あの場にはいなかったシャルロット、それだけではなく、スレートと呼ばれていた男と篠ノ之博士、そして白い雪の様な髪色の少女が加わっている。

 

周りを亡国の戦闘員に囲まれている以上は反抗は不可能だった。連中の得物は前衛がRインダストリー社製のパワードスーツ、ファットマンがミニガンを所持して控えており、すぐ後ろには水平二連のショットガンを所持した二人がいる。この二人の散弾銃はショットシェルが銃口から覗けるほど銃身を切り詰めており、この狭い空間に発射されれば、たとえISを持っていたとしても、向うの人差指の動き一つで仕留められることだろう。

 

限定空間では例のISモドキの威力は過剰すぎる。火器を使わないにせよ、強すぎる力で壁面を傷つけても仕方ないだろう。だが、ここがIS学園の施設の一部なのだとしたら、恐らくはそれ用の入り口があってもいいはずだ。

 

この施設を作るための資材を運ぶための搬入口、これだけの巨大さなら、かなりのトンネルがどこかにあるはずだ、と俺は睨みチャンスをうかがうことにした。今は黙るのが最善の策だ。

 

「おい、何か喋れよ」

 

沈黙が嫌いなのか、後ろの一人がそんな事を言い出してきた。顔はニコリとほほ笑んでおり、この仕事が好きでたまらないようだった。

 

「何を話せと言うんだ?」

「そうだな、恋愛トークとかどうよ? 好きだろ? 男子高校生なら。ちなみに俺の初恋は中学生の時だ」

 

ロシア製のボディアーマーを着込んだ後衛の男が言うと、前衛が笑った。まるで緊張感のない戦闘員、リラックスした状態でありながらも、銃の引き金から指を離さず、狙いも正確にこちらを捉えたままだ。あのPMC達とは違う、スイッチのように切り替えているのではなく、これが彼らの本来の姿だと認識できた。

 

「黙れ、スケアクロウ」

 

千冬が地獄の底から出るような低い声を出したが、黄金の案山子、と呼ばれた男は口笛を一つ吹いて、千冬に顔を向けた。

 

「そんな怒るなって。小物臭いと生徒たちに嫌われるぜ」

「何ィ?」

「間違ったこと言ったか? なあツインテールの君」

 

鈴に問いかけて、反応を伺った。鈴は反抗心でぎらついた目で睨み、「知らない」と一言だけ言ってのけた。彼女がどちらにも怒りを示しているの見て明らかだった。スケアクロウは「冷たいなあ」と茶化して言って、千冬に言った。

 

「ふざけるのもいい加減に……」

「アンタがな。ボスになったんだろ? あの人形の山の中でさ」

 

沸き起こった冷笑に誰も反論しなかった。親友であるはずの束博士も顔を反らすだけで何も言わない。一夏も同じようにうつむいたままで、何も返さなかった。銃やISモドキが怖いからではない、実際にその通りで親友、姉の為に何かを言ってやりたくても何も言えない。そのやるせなさに二人は応えられないのだろう。

 

「あの銀細工は……福音と同じか?」

 

そこで、スレートが口を開いた。背が高く、砂漠用の野戦服に身を包んだ男が問うと、スケアクロウは意外な顔をして、答えた。

 

「おお、英雄様が口を利いたな。そうさ、アンタら兎さんチームが見た通り、あれは福音と同じ、ウィルスの一種さ」

「また、そんなものを……でもどうやって? あれはコアに細工してあったから感染したはず……今回そんなものは」

 

束博士がその言葉に反応した。科学者、開発者として疑問に思ったのだろう。しかし、亡国員ははぐらかして答えなかった。その反応に束は苦虫をかみつぶしたような顔をした。

階段を下りて行くと、光が漏れて来た。どうやら目的地とやらに着いたようだ。俺達の目の前に現れた巨大なゲートが開いていき、その場の光景が広がった。そこには人型の石像に、豪奢な食事に一人一人に行き渡るように置かれたワイングラス、蝋燭立てすらも乗せられた長テーブル、その奥には例の金髪女性が座っており、その顔を先ほどとは違ってハッキリと見ることが出来た。

 

その顔を見て俺は学園祭の時に出会ったことがあると思い出し、俺は驚きに目を見開いた。彼女はあのとき、大胆にも俺と言う戦闘単位の一人に直接コンタクトを取って来ていたのだ。

 

「ようこそ、IS学園の地下へ。ささやかだけど、食事も用意してるわ。いかが?」

 

俺達は誰も動かなかった。戦闘員が近づいて、拘束を解いた跡でも誰一人動くことが出来なかった。すると、女性が手を顔にやってクスリと穏やかにほほ笑んだ。

 

「ごめんなさいね。自己紹介がまだだったわね。初めまして、私はスコール・ミューゼル、ご覧のとおり、亡国を指揮しているわ……貴方は久しぶり、かしら?」

 

スコールが俺を見てそう言うと、皆が俺を見た。敵の親玉と顔見知りと知れば、確かにその反応は仕方ない。俺は一歩だけ近づいて答えた。

 

「学園祭で……いくつか話しただけだ。アンタがここのボスってのは思わなかったな」

「プライベートで行ったもの。仕事柄がわかるような事はしないわ。テロリストも忙しいのよ? 特に隠れるのが苦手な私にとって、は」

 

自身の長い金髪をなびかせて、彼女は言った。それは傲慢とも取れる言い草だった。彼女は自分の存在があまりに目立つと言っているのだ。ルックス、オーラ、仕草全てが彼女を高貴で得難いものへと昇華させているのは事実で、彼女もソレを自覚していた。

 

「言っておくけど、私の組織は極めて仕事が好きなステキな人たちの集まりよ。私もその一人。もっとも、仕事と言うより、趣味と言った方がいいかもしれないわね」

「趣味で戦争を起こすのか?」

「その過程で戦争が起こっただけの事よ、勘違いをなさらないで、ミス大場」

 

大場先生がぎりぎりと歯を軋ませた。その過程で巻き込まれた死者の数は一体いくつになると言うのか、それは想像もできない。

 

「そう、過程で何人も死ぬなんて、軍人に近い貴女ならわかるでしょ? コラテラルダメージ。必要な犠牲よ、そしてソレはイーグルも同じ」

 

その言葉に俺達、インダストリー組は反応した。俺達によって生まれた犠牲や、事件がまだあると言う彼女にアカネが問い詰めた。

 

「犠牲とは何のことですか? 候補生、それともIS関連企業の事ですか?」

 

彼女は思いつくばかりの組織や役職を上げていった。俺も同じことを想像し、それ以外に何があるのかが想像できなかった。すると、スコールは赤ワインの入ったグラスを揺らして、その色と香りを楽しみつつ、その問いに答えた。

 

「世界よ」

「……どういう意味ですか?」

 

訳がわからず、問い返すと、スコールは空中に映像を投影させた。そこには世界中のニュース番組、ネットの記事、新聞などあらゆる情報が載っていた。そして、その文面に俺達は目を疑った。

 

第二の天安門、中国での大規模テロ、暴動。チェチェン、ウクライナ、モスクワでの爆破テロ、ワシントンDCでのデモ、38度線での砲撃戦。

 

俺達の知らない間に世界は激変していた。大混乱の渦中になった全世界での惨劇、混沌の様子に俺達全員が息を呑んだ。なぜ、こうも変わっているのか、想像もできない何かが働いたかのような衝撃、現実なのに、現実と認識が出来ない。

 

「全てはこの一連の事件が起こした事態よ。貴方方は現実を見ているようで、実は理想主義者だったのよ」

「どういう意味だ?」

「イーグルさえ出れば、世界が改善されると、思い込んでいたのではないの?」

 

俺達の中で何かが起こった。目には見えない小さな悪魔が心をチクチクと刺すかのように、胸に何かが湧き起こってくる。図星、自分でも気づかない胸の内を言い当てられ、ヴィンセントもアカネも言葉に詰まった。そして、胸に詰まるものが不快感と罪悪感、と気づいたのはスコールの話す言葉を聞いてからだ。

 

「だけど、それは違う。IS神話は消えなかった。イーグルが出現の時に倒したのは候補生、つまり卵もわれてないヒヨコと言えば、どうにか言い訳もできなくもなかった。それでも世界は男女分け隔てなく使えるイーグルを求めた」

 

スコールの台詞はゆっくりと、確実に俺達に響いていた。

 

「私達が未熟だと言うのですの?」

「だから、この事態になったのよ。世界中で候補生をカットしだしたのは、未熟な精神のまま、高い地位を与えることに前々から議論になっていた。学園での出来事を見れば、それは分かるでしょう?」

 

記憶をたどり、考えてみると、確かにその通りだ。セシリアの不用意な発言、ラウラ、簪の暴走。高い地位には見合わない幼い精神性。本来なら耐えがたい訓練とそれなり以上の経験を持って得られる物を手に入れられたのは間違いなくISのせいだ。それを危惧した結果であり、妬んだ結果が起こったという訳だ。

 

「そして、イーグルは都合のよいことにIS適性が高いものほど、使いにくい仕様……イーグルがISにとって代わるという事は即ち、今いるIS適性者が無用になることになる。だから、イーグルはISの敵にしかならない」

 

それは真実、どこから知り得たのかは分からないが、イーグルにはIS適性が高いほど、イーグルの適性が低いと言う点が存在する。

 

だから、ラウラの部隊がイーグルとして再編ができなかったのだ。無論、彼女の年齢、性別を考えての行動もあるには違いない。軍隊とは昔から男根主義なのだから、彼女を認める者は少ないことだろう。

 

「貴方達はイーグルを出せば、昔の秩序が回復する、と思い込んでいた。その時に起こる変化に指して目を置いていなかったのよ。貴方達もまた、ロマンチストだったという事。周りの大人がこぞっていい人過ぎたのね、それが貴方達の判断を狂わせた。大衆は基本的に愚か、だと知らなかった」

 

彼女の言う通りであった。マイク、ロイ、大場先生、山田先生、イヴァナ先生、PMC達、皆がいい大人であった。俺達は汚い大人を知ったつもりであった。

 

アルフレッドは確かに汚い大人の一人だが、思慮が深く、俺達への一定の理解も示していた。俺達はむしろ、無思慮な大人を知るべきだったのだ。それがスコールの言う大衆の姿だったのだ。

 

俺の親がそうだったかもしれない、と言われて初めて気づいた。だが、俺は長らくソレを忘れていたのだ。この事態になるまで、思いつかないとは、自己嫌悪の渦に入り込んで、俺は自分を恥じた。

 

口達者のヴィンセントでさえも、この時は完全に言い負かされていた。彼は固く拳を握りしめ、スコールを視線で殺す勢いで見ていた。

 

「IS神話の総崩れは避けるべきだった。知っての通り、世界中はISによって大規模な軍縮を行った。通常兵器の削減、膨れ上がる軍事費を縮小するにはうってつけだった。しかし、それが破られれば、どうなるか」

 

IS神話の消失、それは例えるなら核の傘が消えるのと同じだ。軍を、職を追われた者達を押さえつけるための道具、周辺に力をアピールできる道具、そしてISは数の少なさゆえに第三世界、発展途上国には存在しない。また、地方に置けるような手軽な存在でもない。

 

ソレが千冬の行動によって、枷が外された時、何が起こるか。それが俺達の前に展開された情報であろう。言ってしまえば、俺達は世界の混乱に一役買ってしまったという事になる。それが予測不能な事態によって起こされたとしても。

 

「俺達が、この事態を起こしたって言いたいのか?」

「元をたどれば、織斑千冬に着き、そして私達に繋がるわ。でも、貴方達の行動はいい意味で私たちにとって都合がよかった」

 

彼女の毒が確実にしみだしてくるのを実感した。世の中をよくするつもりで、懐かしいあの頃へ、と思ってした行動すべてが、逆の効果をもたらしている。それが俺たち以外の手があったにせよ、それは事実だった。

 

「扇動とデマゴーグはテロリストの基本。貴方達の作り出した状況をさらに混乱させるだけの準備はとっくの昔に済ませているわ。自衛隊、米国IS委員会、私達はどこにでも根を張っているもの」

 

横のつながりが強い、彼女はそう言いたいのだろう。この事態を作るために着々と準備をしてきたのと言うのだ。

 

嵌められた。怒り、敗北感、そしてこの事態を起こした一人としての罪を俺は今背負った。何が、現実を考えている、だ。スコールの言う通り、俺達もまた現実を見ていなかったのではないか。

 

俺達はIS神話にヒビを入れ、混乱させただけなのか。神話にヒビを入れ、亡国がハワイ事変でとどめを刺した。

 

そして織斑千冬の行動で、ISが居なくなったことで、いよいよもって人々が噴火したのだ。不安、怒り、恐怖、全てが働き、暴走を起こした。

 

「無論すべてが予定通りだったわけではないわ。でも、織斑千冬がこういった行動に出るのは知っていた。だから、修正したの」

「……ちーちゃんの行動?」

「最初から、コレは仕組まれてたのよ。篠ノ之博士」

 

束博士の頭脳をもってしても理解できないのか、彼女は酸欠した金魚のように口をパクパクと開いていた。その傍らの少女は彼女を気遣って腕を掴んでいる。

 

「簡単に言うとね、私達は悪役で、織斑一夏は白馬の王子様なのよ。我々はいとも簡単に倒されるはずの存在で、白騎士となった織斑一夏が倒すことで、彼をヒーローとし、女尊男卑を彼が終わらせる。そう言うストーリーだったのよ」

「そんなの」

 

声を上げたのは癒子だった。レジスタンスとしてあの場にいた事で、此処にいる彼女が至極もっともな反論を述べた。

 

「織斑君が拒否したら、それこそご破算じゃない! そんな計画なんて」

「可能よ。何故なら、一夏君は特殊なのだから」

 

特殊、という言葉が出て、俺達は何のことか分からなかった、しかし、千冬が途端に顔色を青ざめだしたのを見て、ただ事ではないと理解できた。そして当の本人の一夏はスコールを見て、それを否定する。

 

「俺が特殊? 俺はいたって普通の……」

「なら、どうして貴方は福音の時、死者が居ないと信じれたのかしら? どうして、守るという事に固執するのかしら?」

 

一夏がその時、呆然とした顔になった。そして、セシリア達はスコールと一夏を交互に見て、冷汗を流している。俺も信じられずにいた。そんな馬鹿なことがあるわけがない、と。しかし、癒子は小さく、「あの時の」と言ったのを聞き逃さなかった。

 

「貴方、他の人間と見ている現実にズレがあるのではなくて? 貴方の事実は織斑千冬の一言で上書きされていると思うのだけど」

「そんなことない!」

 

一夏は大声で否定した。しかし、俺はある一つの情景を呼び覚ました。福音事件の後の一夏のあの発言、あれは少なくとも、俺達の様を見ていれば、決して言えない発言だったはずだ。

 

一夏とのズレは、俺が変わっていたからではなく、最初から違っていたからという事なのか。一夏の必死の自己防衛は終わることなく、一夏はスコールの言葉を否定しようとする。

 

「じゃあ、どこから嘘だっていうんだよ! 千冬姉を傷つけて、ISに乗れなくしたお前の言う事なんか……」

 

しかし、そこでスコールは蛇の舌なめずりのようにゆっくりと千冬を見た後で、こう述べた。

 

「確かにあの場で彼女を倒したわ。でも、それ以降の事はしていない。だって、そうじゃないと、ドイツで教官もやれないし、ましてIS学園に居れる訳がないでしょう?」

 

一夏の動きが止まった。ゼンマイが切れた玩具のように、ピタリと動かなくなってしまった。俺には彼女が何を言っているのか、いまいち理解が出来ない、だが一夏には何かとても大切な事であったらしく、その顔が呆けた物へと変わっていき、そしてその場にへたり込んだ。

 

「一夏!」

 

箒たちが駆け寄って、どうにか倒れずに済んだが、一夏の瞳からは光が消えていた。これも、俺の責なのだろうか。

 

「かくして、様々な願いや怨恨、エゴが混ざり合ったおかげで、まず第一目標の恥の世紀は大分完成したわ。たった一つの発明品によって狂わされた人々と踊らされた人々によってね」

「そうまでして、何がしたい? 何が目的だ?!」

 

俺が問うと、彼女は唯一言語った。

 

「歴史の創造、世界史と言う風化しないストーリーで最高のエンターテイメントを作る、それだけの事よ」

 

それはおぞましいほど、歪んだ欲望だった。蛇ではなく、龍の様な血の色の様な赤い瞳はぎらついて俺達を射抜いた。

 

ただ、歴史が残りたいならNPOでもすればいい。ノーベル平和賞でも、何でも目指せばいい。だが、彼女はそうしなかった。それどころか。より多く血が出る物を選択し、それを誇ろうと言うのだ。

 

だが、同時にそれは人類に強烈に刻み付くことになるのを俺は理解した。彼女が先ほど言った、恥の世紀、そこには数多の意味が隠されているのだ。たった一つ、ISという機械に翻弄された十年、織斑千冬のエゴによって振り回された世界、イーグルと言う願いすら歪ませる人々、そして亡国と言う組織に大量の出血をすることになった経緯、全てが後世の人間が目を覆うような出来事だろう。

 

だからこそ、その世の中で動いた人々が鮮明に映る。イーグルを駆って、再び立ち上がった古強者、亡国に組み入り、世界を引っ掻き回した構成員、そしてIS学園でもがき続けた少女、少年。

 

それは第二次大戦と同じだ。ホロコースト、植民地、帝国主義に共産主義、核兵器の投下、それら愚かしい時代でありながら、戦い続けた者達がより映える。エースパイロットから、指導者、艦船の乗組員、激戦の中で己を強く見せた者が得られる、いわば偉人伝。

 

 

スコールはそれらも含めて、全てを劇場、エンターテイメントと表現しているのだ。彼女は自分の作った脚本を世界に残す気なのだ。無論、そのキャストも含めて。

 

「そんな事の為に……?!」

「そんな事? 心外ね。では織斑一夏が英雄になったところで何だと言うのかしら?ソレが正しい世なのかしら?」

 

スコールは熱弁をふるった。その帯びた熱は静かだが、全てを焦がすほどの熱を帯びていた。

 

「たった一丁の突撃銃で仲間を助けに行った兵士が無名の内に死に、誰よりも強く、深い愛を持つ女を誰も覚えない。仲間を守るために100人の敵を倒した狙撃手を人殺しとだけ非難のみをする。そして、戦った事実すら忘れられる」

 

俺は言葉に詰まった。かつて、俺も織斑千冬に対して、そう非難したことがあった。俺達の戦いを労うことすらしない彼女に怒った事実を想いだし、俺は自分にソレを非難する資格は無いように思えた。

 

「それで、残るものが、下らない姉弟の出来レース? そんな物こそ要らない、要らないのよ。人がそんなものを賛美する世の中こそあってはならない。それは今まで、激動の中を生きて来た人間全てへの侮辱で、これからの人間への愚弄よ」

 

侮辱、それは今までの経験から理解できた。たった12人程度の同胞から、国を作り上げた男達、戦場に衛星概念を作り、大勢の人間を救った者、誰もが現実で、都合のよい助けなどない場から歴史と伝説を作った。この流れに織斑を入れることを彼女は拒み、ついでソレを否定しないであろう大勢の人間を粛正する気なのだ。

 

「何様のつもりよ!?」

「神を名乗る気はないわよ」

 

鈴が噛みつくように叫び、走って飛びかかろうとした。しかし、その途中で構成員の一人が発砲し、彼女の頬を掠めた。その反動でよろめいた鈴を二人目が押さえつける。

 

「勇猛果敢ね」

「黙りなさいよ! アンタの企みなんかで、何人死んだと思ってるの?! そして、後何人苦しめる気よ?!」

 

スコールは首を傾げて、言葉を放った。

 

「少なくとも、次のステップには進むことは確かよ、鈴音さん。あの銀細工がいい仕事をしてくれるわ」

 

銀細工、その言葉に反応したのは束博士だった。彼女はスコールを絶対零度の視線で刺し、彼女に問うた。

 

「やっぱり、あれは福音の時と同じか、それ以上のモノなんだね、でも、どうやって……コアそのものに細工しない限り……」

「必要ないよ~」

 

そこへ聞こえたのは間延びした声、その声の持ち主は悪魔のような少女だ。束博士の目の前に粒子が集まり、その姿を晒した。IS学園の制服姿で現れた彼女は相変わらず、ニコニコと無邪気そうに笑っている。

 

「量子変換?!……生体ISなの!?」

「私、それとその子が答えだよ~ハカセ」

 

彼女が差したのは白い髪の毛の少女だった。少女は驚きの表情をして、本音を見た。

 

「クロエが?」

「だって私と同じだもん~。 他人のコアを通じて、夢を覗ける、でしょ~」

 

スレートと束がクロエと呼ばれた少女の前に立ち、盾のようになった。そして、本音はコアを通じて夢を見れると言った。それがどういう意味なのか、俺には分からなかった。

 

「貴女は私と同じなのですか?」

「ちょっと違うかな~。貴女は夢を作れる、私は見ることしか叶わないけどね……ISコアへの干渉、できるんだよね?」

 

本音はそのコアへの干渉、それは魔法の鍵ともいえるソレを説明した。ISコアのネットワークに侵入するのは事実上、同じISコアを用いなければ、不可能。故にあの福音のウイルスは一度敵を撃破しなければ、ウイルスをまき散らせなかった。相手コアの抵抗もあるからだそうだ。

 

人の手が絡む以上、コアの方が異常を感知してしまうためだ。伸びて来た根をたどれば、必ず、人の意志が存在する以上、感知されないのは不可能だ。だから、コアは事実上ブラックボックスと化している。深く入り込もうとすると、コアが伸びて来た根を断ち切ってしまうのだ。

 

ウイルスも同様で、深く根を張るにはコアそのものに細工をして、誰かがドアを開いてくれるのを待つ以外にない。ちょうど、束博士がコアに入り込もうとするときなど、機会を待たなくてはならない。

 

しかし、クロエと本音は違う。まるでハッキングのようにスルリと相手コアへの干渉が可能なのだ。彼女そのものがIS,と言えるため、他のISコアはいつも通りコアネットワークでつながったままだ。同じ人の意志が介在しないIS同士と誤認し、セキリュテイは皆無。

 

つまり、彼女たちはISコア深く潜り込める魔法の鍵なのだ。本音の言うクロエの夢を作ると言うのは、コアの所持者などの精神に干渉し、その人物の望みを夢という形で作るという物。それこそが、コアへの干渉そのものだった。

 

「つまり、本音を通してウイルスをばらまいた?」

「仕掛けは学園祭の時に済ませたのよ。オータム達を陽動にしてね。後は半径一キロ弱にISが集まって、その場に本音がいるだけで、パンデミックの完成よ」

 

周到に準備された計画、織斑千冬が行動を起こすと言う確信が無ければ、絶対に起こせない作戦だ。いや、仮にそうならなかったとしても、問題はない。

 

学園そのものを攻め落とすなり示威行動を起こしてISをおびき寄せることでも可能な作戦だ。本音と言う裏口がある以上、いくらでもやれるのだから。

 

「しかし、だからと言って完全に確信が行く作戦じゃないはずだ。一歩間違えれば貴重な人員を失うことになる」

 

ユーリの指摘は正しかった。それでも、何か決定的な裏打ちが無ければ、実行するのは難しい。それに対して答えたのは、本音だった。

 

ちっち、と舌を鳴らして、人差指を左右に振った。

 

「だから~。言ったじゃない。私は夢を覗くことはできる、って」

 

その言葉にユーリと楯無、簪が反応した。彼女の言葉に何か電撃が走ったようだった。

 

「じゃあ、貴女が言っていた皆を幸せに、って……」

「大正解~お嬢様!」

「人の望み、それそのものを覗いていたという事か」

 

本音は人の望みがわかる。では、千冬の夢を知ったのはいつか、問題はそこであった。

 

「いつから、知っていた?」

 

千冬が手を震わせて聞くと、本音はニコリと笑って応えた。

 

「ヒミツかな~」

 

無邪気な笑いがこの場に響いた。嘲笑の欠片すら感じない笑いだが、一部の人には屈辱的なのは間違いなかった。天使のような悪魔、それこそが彼女の本性なのか。

 

そこで、本音に対して鈴が口を開いた。

 

「ふざけないでよ、夢だけでアタシ達の事を知った気でなっていたなんて、ふざけるのも大概にしなさいよ。それだけの能力があるなら、今の簪の気持ちを知りなさいよ!」

 

鈴がそう叫んだ。簪は本音を見て、涙を目じりにためていた。それを見た本音はピタリと笑顔を一瞬だけ止めて、小さくつぶやいた。

 

「ごめんね、かんちゃん」

 

その反応に一瞬虚を突かれたが、すぐに元に戻って、その場から消えた。後に残された俺達は、どうすることもできず、その場にとどまるのみだ。

 

「さて、これで我が亡国の使える戦力に400機近くISが加わったという事。そして、誰もが正義の使者ではない。だけど、その前に色々と知りたいことがある」

 

スコールがテーブルから立ち上がり、自らの疑問点を上げていった。

この女でも知りえない情報とはいったい何があると言うのだろうか。

 

「まず、なぜ織斑千冬が親友の束を欺くようなマネに出たのか。第二に、クロエ・クロニクルの正体とは、そして、第三に」

 

その第三の疑問は至極簡単な事だった。いや、今まで誰もが一度は思った疑問、この一連の事件でターニングポイントにもなったかもしれない、イレギュラーな事態。それはあまりに身近な問題だった。

 

「どうして、五反田弾がISを使えるようになっているのか」

 

その疑問の正体は俺自身だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ようやく、回収できたフラグに伏線。
正直、頭がおかしくなりそうです。

トンでも理論だらけですが、楽しんでもらえると嬉しいです。
感想欄にあった疑問点もいくつか書いたので、見てもらえると幸いです。
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