IS to family   作:ハナのTV

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決別、宣戦

「そう、五反田弾こそ一番の謎。何故、彼がISを使えるのか、それが私には考え着かなかった。でもその前にいくつか話さないとならない」

 

スコールの甘いソプラノの声が一面に響いた。確かに、彼女の言う通り、俺は何故動かせるかが全く分からなかった。誰も不思議に思わなかった。織斑一夏が使える偶然があるなら、五反田弾、つまり俺が使える偶然があってもおかしくはない。

 

しかし、スコールの今までの話、織斑千冬の行動を鑑みれば、一夏が動かせるのは必然になるのだ。

 

「俺についてはどうなんだ?」

 

スレートがスコールに問いかけた。彼もまたISが使えると言うのか。それに関して束が答えた。

 

「ジャンクラビットは番外コア、通常のコアの制約は関係ないんだよ、スー君……それももう知っているんでしょ?」

「ええ、通常のコアはロックを掛けられているけど、ラビットは掛けられていない。スレートのコアが特殊と言うだけ」

 

スレートのIS,そんなものがあるとは、何故福音時に参戦しなかったのはさておき、彼女の言う疑問が気になるのは俺たちも同じだった。

 

「織斑千冬が行動しだしたのは、白騎士事件より前の事だったのは私達は良く知っているわ、彼女と共犯になり、後に倒されるはずの都合のよい敵役としての契約があった」

 

スコールは前置きとして、事の真相を細かく語りだした。千冬は睨み、束博士は悲しそうに頭をたれて堪えているようだ。

 

「だけど、私達はそれを果たす義理もない。でも、問題は織無一夏が殺せないことにあった。彼のIS、堕ちた白騎士が彼を選ぶ以上は」

「どういう意味だ?」

 

マイクが問うとスコールは彼に視線を写し、龍の様な瞳で彼を写した。マイクは一瞬後ずさった。

 

「それはISコアの話になるわね。ISコアが467個の理由、それは白騎士と言う巨大な原石からカットした小さな宝石だからなのよ。今の白騎士は元々あった出力を発揮することなんて到底不可能。でも、基礎機能は生きたまま」

 

知らされたコアの数の秘密はヴェールを無くしてしまえば簡単な話だった。という事はISはどう逆立ちしても、白騎士になることはできない、という訳だ。俺の予測ではあるが世界がこの事実を知れば、混乱を起こすに違いないだろう。

 

自分たちが偶像として祭り上げた兵器が実は張りぼての騎士様であったなどと知られれば、今までのISに傾いていた数々の政策が無意味と変わるのだから。

 

そして、その白騎士の本体コアが一夏の白式だと言うのだ。

 

「そこの所、どうかしら束さん?」

「……白騎士は束さん達の傑作。中央のコアさえ生きてれば、昨日は幾分か生きる。ちーちゃんは勘違いをしていた。ソフトウェアでしかない白式を白騎士そのものだと誤解したんだ」

 

マイクは科学者ではなく、技術者として反応し、束の言葉を紡いだ。

 

「だが、ハードウェアであるコアを分散させちまったのが運のツキってか。アンタはコレを知ったときから、千冬の事を嗤ってたことか。奴の計画は最初から叶うはずがなかった。そして」

 

千冬が苦悶の声を上げだす中で、スコールは結論を述べた。

 

「そう、一夏君の為に作られた状況は全てが無意味。彼を世界で唯一ISを使えるようにしたことも、全てね。まして、そこに五反田弾が入ってくることが想定外すぎた。彼女はドン・キホーテの騎士そのもの。道化という事」

 

スコールが千冬を鼻で笑った。亡国員もつられて、冷たい笑いを発した。だが、千冬の怒りの矛先は彼らではなく、束に向けられた。

 

「束……お前、最初から知っていたのか?」

「ちーちゃん」

 

束博士の声が寂しく響いた。だが、千冬の声は怒りの色を益々濃くさせて怒鳴る。

 

「お前は……いつだって、そうだ。いつも私にない物を持っていた」

 

千冬は胸の内を語りだした。その言葉に一夏も含めて俺達、レジスタンス達も皆がその目で彼女を見た。

 

「お前には頭脳があった。故に私の父から愛されていた。そして、お前には人との接し方が分からなかった。感情を知ることが出来ない。わかるか? お前は私達から父を奪った!」

「……私はちーちゃんの友達じゃないの?」

 

友達、それは彼女にとって掛け替えのないものであるのだろう。束はコミュニケーション能力が著しく低いと聞く。あの頭脳が災いとなって彼女に人格を形成したに違いない。

しかし、今の彼女はそんな風には見えなかった。前に見た時より、ずっと柔らかく感じる。

だが、千冬の告白はそんな彼女から確実に奪っていた。親愛という、感情を。

 

「そうだな。お前は親友だった。だが、お前さえいなければ、私達は歪まなかったはずだ! お前が現れて父は、あの男はいつもお前ばかり、それどころか実の娘を放りだして、私そっくりの娘を作り出した! 貴様さえ……!」

 

流れる呪詛の言葉に束博士は千冬から顔を背けて、涙を流した。ロングヘアーの陰に隠れた顔は一体どれほどの悲しみを見せていることだろうか。

 

「……だから、束さん達のISを使ったの?」

「そうだ。父とお前に対しての仕返しだ。そして、一夏を守れるために、私は動いた。ただそれだけだ」

 

そこまで言った時、一人の男が千冬の前に立ち、彼女の頬を平手打ちした。頬を抑えた彼女の目の前に巨人のように立ったのはスレートだった。

 

「大暴露ありがとうよ。だが、お前の感情や事情なんて、知るかよ。お前は結局スコールにいいように踊らされただけだ。愛されなかっただけだ。道化芝居で束に涙させるな」

 

スレートはそれだけ言って、スコールへと振り返り、訊いた。

 

「コイツが裏切りの理由だそうだぜ、スコール。だが、真の黒幕はお前だろう?」

「当時の私にそこまでの権力は無いわ。あれは亡国の内乱の末に千冬が属した側にいたというだけ」

 

スコールはスレートと向き合って話し、その経緯を語った。

 

「その後、千冬は表社会で名誉を得るため奔走していた隙に奪ったのよ。貴方が消えた後すぐにね。千冬は踊っていただけ。でも彼女の準備は周到な方だった。だからこそ、五反田弾が使える理由がますますわからない」

 

それもそうだろう、と俺は納得していた。一方で、彼女が俺をまるで、異邦人、言い方によってはエイリアンでも見るかのような好奇心と一種の不気味さを感じている目は納得がいかなかった。

 

だが、彼女の言は正しく、千冬の準備は確かに周到だった、一夏のみにISを使えるようにし、世界中にISをばら撒いたのも彼女だ。確かに、亡国と俺達が表に出てくるまですべて成功していたのだから。

 

「俺が異常だとでも言いたいのか?」

「そうでない、という方が異常よ……私は福音以来ずっと貴方の事を調べたわ。でも、結果は定食屋の息子という以外は何もなし。戸籍やIDに偽造の形跡はないし、染色体の異常も無し。まさに奇跡なのよ、貴方」

 

一体いつ調べたのか、疑問に感じたが彼女は横のつながりが強いと自分で言った。それに本音は彼女らに通じていたことから見て、俺の髪の毛や皮膚組織を取るのはそう難しい話ではないだろう。

 

だが、俺に執着を見せるには単にそれだけではない。彼女は織斑千冬と一夏の反応を楽しんでいた。そして、大衆という人々を見下して、アリのように見ている。

 

彼女の言うエンターテイナーが歴史だと言うのなら、俺達は登場人物。その物語の中のキャラクターのお気に入りが俺ということだ。

 

 

「……アンタが俺の事を気にしているのはそれだけじゃないだろ?」

 

俺は学園祭の時の彼女を思い出して、スコールのそのイカレ具合を思い出す。自らの組織が襲撃する場に単身現れて、敵である俺との会話を楽しむ。そんな事は部下でも何でも任せればいいことを自分で来た。

 

その手間、危険、リスクを考えない無鉄砲さと大胆さ。顔すら隠さない潜入をするのは誰がどう見てもイカレた者以外はしない。

 

「アンタは直接俺に話しに来た。しかも、どうでもいい会話を、だ。鼻っから利益だとかに興味を示していない、ただ趣味と好奇心で来た、何が気に入ったっていうんだ?」

 

スコールが待ってましたと言わんばかりにニコリとさらに笑った。俺と話すのを心待ちにでも、していたのか。

 

「貴方がそう言う反応を見せるから、よ。どこにでもいる凡人、必然か偶然か、で手に入れた力に溺れず、一人前の戦士になった特異な例。夢を追いつつも、その夢で変わる自分を嫌悪する、矛盾の塊」

 

スコールは蝋燭盾に灯った火のきらめきが彼女の瞳に映り、妖艶さを引き立てた。俺はこの場にいる女性の姿を思い起こし、その誰にも見いだせなかったオーラをスコールから感じ取った。スコールは口を動かすたびに、蛇の舌なめずりを連想し、鳥肌が立つ。

 

「経歴が平凡なくせに特殊、偶然で手に入れた力、私の思う大衆の典型の中で貴方は特異な輝きを見せる……気になって仕方ないのよ、この先どう生きて、どう死ぬのか」

「俺がアンタの計画や夢の邪魔になるとは思わないのか?」

「想わないわ。貴方なら、きっと私に抗う。それが、どうして私の夢の邪魔になるのかしら?」

 

エンターテイメント、見世物、劇場で俺が動けば動くほど、彼女としては好ましい、アドリブを期待して止まないと言う所か。

 

スコールは瞬きをして、次の瞬間には拡張領域に仕舞っていたのか、黄金のワルサ―PPKを取り出した。それはヴィンセントのガバメント同様に彫刻が入っており、彼女のセンスによって成金趣味には見えないと言う豪華な代物だった。

 

スライドを引き初弾を装填し、銃口を俺に向けた。何を考えての行動なのか、俺はまだ分からなかった。アカネが隣で身構えているのを横目で見つつ俺は彼女に訊いた。

 

「何の真似だよ?」

「あら? 逃げないのね」

「調べたならわかるだろ? 何度銃口の奥を覗いたと思ってる?」

 

銃口の奥の薬室、そこに装填された弾丸はキラリと光った。そして、スコールはフッと笑って、照準を俺から、アカネへと移し、人差指に力を込めた。

 

俺は反射的に彼女を突き飛ばし、その射線へと入った。32ACP弾の軽い発砲音が鳴り響き、薬きょうが床に落ちて甲高い音を鳴らす前に俺の左肩の骨を少し削り取った。

 

衝撃が体に伝わり、鋭い痛みを近くして俺はその場に倒れた。アカネの呼ぶ声が聞こえて、鈴とヴィンセントが睨み付け、ユーリが駆けだそうとするのを、亡国のメンバーが各々の小火器で制する。

 

「大丈夫ですか?!」

「大丈夫って言いたいけどキツイな……」

 

スコールは人差指で器用にPPKをガンスピンして遊び、テーブルに置いて口を開いた。

 

「やはり、変わってるわ。半年だけの経験だけで此処までの行動が出来ると言うのは」

「お前……さっき、アカネの頭を狙ったろ?」

「彼女も好きよ。クラッシックな精神を持ったいい兵士……死んだら、どうしようと思ったわ」

 

悪戯っぽく笑うスコール、俺とアカネ、いやこの場にいる皆は一斉にスコールへの嫌悪感をつのらせた。

 

「貴方のそう言う勇敢な所、大好きよ。だから、大場二尉を再起させ、一般生徒の彼女たちまで立たせた。本当に貴方はどこから来たの?」

「定食屋から来たって言ってんだろ? 今度、アンタの胃袋に鉛玉をご馳走してやるよ」

 

不愉快きわまる。他人からの興味にこれほど、悪感情を覚えたのはこれが初めてだ。俺が何故かISが使えるという事から、発展して個人的興味に結び付き、そこから更に広がりアカネ、ヴィンセント達にまで目をつけている。そして、この女は人の人生を楽しんでいる。

 

「ユーモアは欠けているようね」

「……アンタほどじゃない。偶然だろうが、何だろうが、どうだっていいだろ? 俺を楽しむのなら楽しんでおけ、そのニヤケ面を吹き飛ばす」

 

死のうが生きようが、どうでもいい。ただ歴史という物語を彩るなら、美醜含めて楽しむ。織斑千冬が散々道化を晒しているのを楽しんでいると思えば、今度は俺達が戦場で転がったり、喜怒哀楽を見せるのも同様に楽しむ。

 

「そうでなくては」

 

恐れを一切感じさせずに彼女は言う。やはり、彼女は異常者だ。

 

「さてさて、もう一人の特異例を忘れてはいけない。クロエ・クロニクル……こちらは弾君と違って経歴自体はハッキリしている」

 

スコールは話題を変えて、クロエと言う白い髪の女の子に移した。名指しされた彼女は唇をキュッと閉めて、スコールと向き合った。その彼女の前にスレートと束が立って、スコールの盾となった。

 

PPKか、ISを警戒しての行動だろうが、丸腰のままでは非常に危険だ。それでも前に出るのは二人にとって大事な人だからだろう。

 

「アドヴァンスド、ドイツの非人道的な兵士の創造、ラウラ・ボーデヴィッヒの姉にあたり、その失敗作……しかし、その後が謎、一体どういう経緯で能力を獲得したか」

「それは……私が恒常性を維持できないから、コアを束様に頂いた副作用にすぎません。そんな事が、重要なのですか?」

 

クロエの問いにスコールは優しく応える。女性と男性、相手に合わせて話し方をこうまで変えれるものなのか。

 

「本音と違う進化の仕方をしているからよ。本音は自信の量子変換、短距離でのワープ、対する貴方はコアを通じて人の夢を作り、しかも束とスレートと行動を共にしている」

「束様とスレートさんと行動するのがおかしい、と?」

 

俺達と同年代ながらも大人びた口調で話していたクロエがそのセリフを聞いたとたんに語気を少し荒げた。彼女の問い詰めにスコールは至極もっともな意見を口にした。

 

「そう、貴方は俗世の善悪を超えたところで判断ができる。いくら世間に疎いと言ってもテロリストにしか囲まれたことのない世界からの脱却を望まなかった。家庭で優しい、と言っても人殺しをするテロリストに貴方は事情があるから、と言って、断罪しない」

 

スコールがまたしても情報を空中に投影して、彼女の軌跡を映し出した。ドイツの実験台から、中東、ブラックアフリカ、東欧と紛争地の見本市を飛び回っている。

 

「貴女は最悪の環境下で最高の対話能力を獲得した。弾君とは違い、環境に適応したのではない、むしろ超えたのよ」

 

しかも、束とスレートと言う通常からは考えも及ばない組み合わせの二人の間で生活していたのだ。だが、彼女の人格に少しも異変など感じられない。それがスコールの好奇心を刺激しているのだ。

 

「本音が戦闘向きだとすれば、貴方は対話向き。その差が知りたいのよ」

「私は……」

 

クロエが両手を合わせて、握った。その様子をラウラが、見ていた。自分と同類である彼女が出す結論に注目した。

 

「私は最悪の環境になどいませんでした。スレートさんも束様も、白骨都市の人たちも皆優しかった。ただ、それだけです……それ以上の事はありません。コアの能力も偶然に過ぎないでしょう」

 

その言葉は簡単そうに見えて難しいものだ。誰しも役職の偏見無しに接することは難しい。彼女はそれが出来ていた。その時、クロエは目を開いて言った。そこに見えた黄金の瞳に黒い眼球は彼女が世界のエゴの被害者であると同時に、彼女の今の感性を作り上げた原因でもあった。

 

「私の目を見てください。この目が見せるのは私が人ではない証です。しかし、この瞳を醜いと言わなかった人たちが確かにいるんです。能力なんて関係ない、その人たちのおかげで私がいるだけです」

「……素晴らしい」

 

スコールたちが拍手を送り、クロエを称えた。自分の家族を邪悪と呼んだスコールに果敢に反論した彼女は苛烈だった。そして、それは皮肉でもあった。

 

一見環境がまともではない者が彼女のメガネに適ったと言う結果は笑えるものでない。抗えば、抗うほど、彼女の興味を引き、状況が悪化していく。何のために抗うのかすら忘れるほどの闇が今俺達に立ちはだかっているのだ。

 

「お話が長すぎたわね。では、謎解きを再開しましょうか」

「どうやって?」

 

束は一瞬考えて答えにたどり着いたのか、ハッとした顔になって、俺とクロエの両方を見た。俺は彼女の行動に疑問符を覚えたが、近くに亡国員が近づき、俺とクロエの腕を引っ張った。

 

「止めろ!」

 

スレートとユーリが立ちはだかったが、銃床で叩き伏せられて、ファットマンのミニガンの回転銃身を向けられる。

 

「クロエは完ぺきなコアへの干渉ができる。五反田弾はISに乗れる。条件はクリアしている」

 

亡国員の一人、女性と思われる者が、口笛を吹きつつ俺にコアを持たせた。脳内に情報が入っていき、その機体がスラスターもパワーアシストもない、ただのコアだと判明し、同時にクロエの手が触れられる。

 

俺もおそばせながら気づいた。

 

「さあ、クロエ。やって見せてくれるわね? ついでに貴女の過去も見せてくれると嬉しいのだけれど、まあ、いたいけな少女に無理強いは良くないわね……お願いね」

 

クロエは目を開いて、スレートの方を見た。ミニガンのモーターが空回りする音を聞かせて彼女に脅しをかける亡国員の姿を捉えて、その能力を俺に使った。

 

「パージ……開始」

 

そして、俺の視界は暗転した。邪悪な好奇心が呼んだ夢の中へと落ちて行った。

 

 

 

 

 

目を開ければ、何が写ったか。そこに映ったのは、俺の過去ではなかった。映画の様な隠された過去では無かった。視界に入ったのは戦場だった。何かの研究施設だろうか、白衣に身を包んだ肢体が点々と転がっており、そのどれもが銃痕を体に残していた。

 

燃え盛る炎に断末魔の合唱、それに続く9㎜弾の連射。無抵抗な人間を駆る、マンハントの現場、むせかえるような匂いも、炎の熱気もないのに、リアルを感じさせる幻の中で俺はその場にいない、感知されないゴーストとしてそこに立っていた。

 

俺をすり抜けるように人が逃げ、それを誰かが追う。襲撃、スコールの言っていたISに関する過去打倒するなら、此処はそのための場所なのだろう。

 

「……こっちです」

 

そこにもう一人のゴーストが現れた。クロエだった。彼女は俺を手招きして、突いてくるように言う。俺は彼女の言う通りに従う以外に道を知らず、付いて行った。

 

歩くたびに、俺は周りが奇妙なカプセルが多くあることに気付いた。その中にはISコアが入っており、既に白騎士が解体されたことを示していた。

 

「これは、どういうことだ?」

 

俺がクロエに訊くと、彼女は答えた。

 

「この映像は……コアたちの記憶です。バラバラになったコアのデータを基に作ったものです」

「コアは……千冬の元に行く前にバラされていたのか」

 

「そのようです」とクロエは答えた。だから、千冬が後ろ盾の組織を利用して、コアをばら撒けたのだ。そこで、あの致命的な勘違いが生じたのだろう。白騎士に準ずるコアが400以上はある、と。

 

「コアたちの記憶と言ったな。意志でもあるって言うのか?」

「一応は、あります。所詮はプログラムの作り出したものですが、自己進化で疑似的な人格を持つことも不可能ではありません、しかし」

「しかし?」

 

クロエは歩きながら、それを説明し、その結論を悲しそうに言った。

 

「兵器として求められたISはその性能の安定性を求めるために搭乗者が変わるか、都合の悪い方向へと進化した時、初期化される。この学園の訓練機がそうと聞きましたが」

 

訓練機、そう言われてみれば、訓練機は使われる度にデータを消去されていた。兵器は誰が使っても確実な性能を出せるものが求められる。ワンオフなのはF1などの個人の裁量に任せる物のみだ。

 

水泳選手が自分専用の水着を作ったものを他の物が来ても効果は無い。むしろ逆効果ですらあるだろう。ISもまた然り、意志を確実にする前に記憶が消されてしまうのだ。

 

「なら、何故この映像が残っているんだ?」

「白騎士の記憶がある白式と同じです。根本に眠るもの。基礎機能として組まれた物は残り続ける……刷り込み、でしょうか」

 

刷り込み、だが俺は本能に思えた。自分の親たちの最後を記憶し、残し続けた。コアに明確な意思が宿れば、人類を恨むかもしれない、など俺は思った。

 

そうして、進んでいくと、俺達の前に白衣の脇腹から血を流しながら、コンソールを操作する一人の男がいた。痛覚をカットしているのか、凄まじい集中力で画面に食い入っている

 

「彼は?」

 

俺は誰か分からなかったが、その横顔を見て、その人物が一夏ソックリの顔立ちをしているのに気付いた。一夏の父親、それが俺の直感が導き出した答えだった。他人のそら似とは到底信じられなかった。

 

「おい、そこのお前! 状況分かってんのか? さっさと逃げろ」

 

そこへ、現れたのは痩せこけた顔をしていたが、その眼房には見覚えがあった。スレート、最悪のテロリストと呼ばれた男が今より若く、そして目の下に派手なクマを作った姿を見せていた。手に握るグロック17拳銃はホールドオープンしたままであり、主兵装となる突撃銃や短機関銃の類もない事を見ると、弾薬が尽きたようだった。

 

そんなスレートの忠告を邪険に扱うように、「まだ、ダメだ」と素っ気なく言って、作業に集中しようとする。その男の肩を掴んで、スレートはもう一度彼に提言した。

 

「怪我したまま、何を言ってやがる。オタクの趣味に付き合っている気はない、早くしろ」

「そんな場合じゃない!」

 

この状況下で言うには不適切なセリフを吐き、男はスレートに対して、猛然と語りだした。

 

「いいか、コレは人類の未来がかかっているかもしれないんだ! ISが今の世に流れ、利用されれば、テクノロジーについていけない人類に重大な問題が発生するんだぞ?!乳飲み子にマグナム銃を持たせるようなものなんだ!」

 

その表現はいささか、上手いと言えなかったが、現実俺達の世で既に問題は起こっていた。この男の言葉は正しかったという事になる。

 

「何言っているか分かんねえよ くたばりたいのか?」

「分からなくていい! 糞、参ったな。今の僕のセキュリテイ権限じゃあ、プログラム全体にアクセスできない……どうしたら……」

 

そこで、男はハッと何かを思いついたのか、スレートの体を掴んで揺らした。その度に血が白衣ににじむのだが、感じていないようで、見ている俺とクロエは顔を少ししかめた。

 

「そうだ! あったぞ方法が!」

 

男は思いついて、コンソールに再び向き直って操作しだした。俺はゴーストとして、コアの感じ取った情報を読み取っていった。彼が何をしようとしているのか、知りたくなった。なぜ、俺にISが使えるようになったか、この奇妙な運命の始まりを知りたかった。

 

そして、コアに流れて来た情報に俺はその訳を知った。

 

「これが、理由?」

 

それは言ってみれば、バックドアの生成だった。織斑一夏が使えると言う条件づけに彼はバグを作り出していたのだ。ISの特性、持ち主との密接な関係を作り出す、という特性を利用した方法、実に簡単な方法だった。

 

それは一夏の記憶をISがダウンロードすることだった。コアはいわば、持ち主の心や記憶の鏡だとスコールは言った。本音はそれを見れることが出来るために千冬の目的を知ることが出来、皆の幸せを知った気でいる。ISコアが人の記憶を知ることが出来るのは不可能ではない。

 

その一夏の記憶から、同年代の同性を選び出させ、その一夏にのみ許された同じ権限をその者にも与えると言う仕組みだった。

 

何故、これがバックドアと言えるのか。それは俺の権限が織斑家を通して行われているからだ。パソコンのユーザ認証と同じだ。コアに対する決定を行えるものは何人かに権限があると思われる。

 

束博士にもそれがある通り、旧亡国のメンバーに与えられたであろう特権、しかし旧亡国は内部抗争とスコールの動きでほとんどが消えている。権利に序列があるらしいことは男の言葉からわかる。

 

男は未来を予知していた。いずれ、この特権を持つものが減り、本来の権利の序列が変化することを。そして、一夏の権利は高い位置になっていたのだ。その一夏が無意識に認証したユーザー、それが俺だった。

 

それは言ってみれば、絶妙なカムフラージュだった。何せ、織斑千冬以外の誰かがどれだけ俺を調べようと、俺単体では意味がない。俺の体組織をいくら分解し調査しても、俺の権限に至る根拠はそこに存在しない。

 

だから、俺だけでなく、コアに干渉できるクロエか、または技術者であり、権限をもつ束がいなければならないのだ。

 

さらに言えば、それを調べられる人物が彼女ら以外に今の時代にほとんど残っていないのが、これを助けた。事の主犯格である織斑千冬は優秀な乗り手であっても、優秀な技術者ではない。権限があっても、使うだけの能力が無い。

 

他人、組織に頼もうにも、それでは自分がISの開発に関わり、女しか乗れない奇妙な現状を作り出した、と自白するような物。それでは、一夏の特別が消えるばかりか、最悪全世界を敵に回してしまう。

 

もしかしたら現亡国に依頼したのかもしれないが、彼らは俺単体を調べることに固執し発見できなかったし、発見したとして、スコールがソレを素直に伝えるだろうかは疑問符が付く。

 

コレは今後の亡国がどんな道をたどるか、また一夏の権利がどの程度まで高くなるかを予測しなければ、選択できない。だが、何故コレをすることでISの未来を、ひいては世界の未来を守ることになるのか、甚だ疑問だ。

 

「それと、君! コイツを託す!」

 

そう考えていると、目の前の状況に変化が現れた。男がスレートに何かを渡した。おそらくアレがスレートの持つ機体なのだろう。

 

「何のつもりだ?」

「いいか、約束してほしい。コイツが示す人物に託すまで、守ってくれ」

「……俺にそんな義理は」

 

顔に陰りを見せるスレート、それは責任から逃れようとする子供の表情そっくりだった。守る、その言葉に無意識に拒否反応を示していると言う所か。だが、男の勢いは止まらず、話し続ける。

 

「頼む!私達の夢を壊してはいけないんだ、壊されれば、世界も壊れる! もう一人のISの男性操縦者さえ出れば、奴はきっと動く。後は君が届ければ、希望はある!」

「わかった、わかったから、受け取ってやるから早く来い!」

 

奴とは誰の事か、男の言葉に引っかかりを覚えつつ、その後を見ようとした、しかし、映像が乱れ始めて、クロエが頭を苦しそうに抑えだした。呼吸が荒くなり、声だけ聞けば艶がかかったものだが、その様子からそんな事に構っている暇は無かった。

 

「おい、大丈夫か?」

「……パージ終了」

 

そう一言だけ告げて、俺はまたしても視界の風景を変えられて、衝撃が体を揺らした。スレートと男の姿が消え、ヴィンセントやアカネ達が視界に入った。現実に戻ったことを知覚し、俺は汗を滝のように流して、周りを見て息を切らせた。

 

「戻って来た……」

「弾?」

「俺の謎は……ただの偶然だった」

 

そして、現実に戻って思考をよりクリアにさせて、さっきの映像を思考でまとめた。

俺のこの力は一夏の父親のギャンブルの結果、いや特製の宝くじの当選結果という訳だ。ただの偶然、俺が一夏と遊んだというだけで、偶々選ばれたと言うだけだった。

 

言ってみれば、呆気ないものだ。味気ない、ともいえる。俺の権限は一夏が生きている限り、発揮されるだけ。一夏の友人、そんな事だけで俺は選ばれ、そして数奇な人生を歩む結果となっただけだ。

 

しかし、全てが偶然なのだろうか。あの男が言っていた奴と言う言葉、それが誰を指しているのか。なぜ、その奴が重要になるのか、それがどう世界を救うという結果になるのか、凡人である俺には天才の胸の内にできたわだかまりに不快感を覚えていると、拍手と品良い笑い声が響いた。

 

その声の主は言うまでもなく、彼女だった。スコールが俺とクロエの見せた真実にスタンディングオベレーションをして、称えていた。

 

「良かったわぁ! 貴方が特別な生まれだったら、と思ったらどうしようかと思ったわ。こうでなくてはならないわ」

「俺が……あくまで、唯の人間ってことに拘っているのか?」

「そうよ。状況に適応し、大衆の枠組みを抜け出した男、偶然が作り上げた運命に翻弄されずに強く生きる。これが理想でしょう?」

 

隣で息を切らせて座り込むクロエを束とスレートが介抱する中、彼女は高らかに俺達を語った。

 

「作られた英雄、反社会の英雄、再起を誓った群雄、少年、少女たち、全てが完ぺきなキャストよ。そして、その中心は今弾君、君になった。偶然から生まれたイレギュラー。発想の外からの来訪者、貴方はこの時代を刺激したのよ」

 

 

原点は織斑千冬、そして俺は起爆薬だった。亡国の望む敵と世界を想像させたトリガー。Rインダストリーが練り上げた計画の最後のピースとなることで、千冬の計算を狂わせ、亡国の夢を叶えさせた、と言えなくもない。

 

「それは戦いの中で生きられる純粋な本能を持って生まれたことの証明よ。それをわかりなさい、イレギュラー」

 

それともコレが男の言う世界を救う道とやら、なのか。俺には分からないが、スコールの言葉に賛同するわけにはいかない。

 

「俺はイレギュラーじゃねえ! たとえ、そうだとして何を望む?!」

「私と来なさい」

 

明確に彼女は俺に勧誘を行った。

 

「翻弄された人生を恨むわけでもなく、個を確立した貴方こそ亡国にふさわしい。大衆に迎合することも無く、私と歴史を作りなさい」

「断る!」

「歴史は、大衆は貴方達を受け入れないわ。たとえ私達を倒そうと貴方の戦いは無に帰される。それでも、貴方は拒否するのかしら?」

 

俺はスコールの誘いを断った。彼女の誘いは魅力的かもしれない。今までの戦いを俺達の意志のモノとで戦った記憶を消されれば、誰だって怒りを覚えるだろう。

 

だが、スコールとて容認はできないのだ。

 

俺達の夢は壊されるべきでない。俺達の夢を逆手に取った彼女を許してはならない。あの男は救い、と言った。たとえ、偶然で選ばれたにすぎない俺でもそれを破るのはご法度だ。

 

何より、俺はこの女が気に食わない。アカネを撃った彼女と迎合するなど真っ平だ。

 

「ああ、断る! アンタは人の夢を踏みにじった! 俺たちの願いを消してしまうアンタは敵だ! 俺達は戦いに夢を求めない! 俺達はその先に夢を求めているんだ!俺とアンタはまじりあうことは無い!」

 

ヴィンセントもアカネも、その先にある世界を望んだ。レジスタンス達は平和の中での夢を追う、ユーリは戦いの中で夢を拾い、それを求める。

 

簪が戦うのはユーリのため、鈴が戦うのは仲間と意志を守るため、一夏は仲間のため、誰も戦いの為に戦ってなどいない。

 

戦いの、闘争の歴史を作り、自分たちの名を刻もうとする彼女たちは戦いの為に戦う。闘争の名誉と快楽、死んでもなお、続く自分たちの生きざまの記憶を永遠とする彼女らこそが邪悪だ。戦いを肯定する世を作り出す元、それだけは断ち切らなくてはならないのだ。

 

「アンタに、尻尾は、振らない!」

 

そう宣言した。

 

「なら、私達の闘争の糧となりなさい」

 

そこへ、スコールが取った行動は驚きの物だった。手を高々と振り上げて、部下たちに指示を出した。亡国員はあのISモドキを展開し、そして、俺達に小さなものを投げつけた。

 

ソレが何なのか、手に取った瞬間に俺達は理解し、行動した。

 

「来いよ! ラプター!」

 

身にまとうは猛禽の名を冠した現代の甲冑。ツインアイを光らせて、ウィングスラスターを開く。その俺に続くようにハヤブサ、ラファール、打鉄、グレイイーグル、と機体が姿を現していく。

 

 

俺達は全員、機体を装着した。スコールがしたのは処刑ではなかったのだ。

 

決闘、手袋を投げつけたのだ。彼女らが求めるのは戦いの歴史。俺達を歴史にするつもりなのだ。

 

「踊りましょう? 戦いの歴史は終わらないワルツこそが相応しい」

「ほざくなあ!」

 

砲声。銃声、戦闘は唐突に始まった。

 

 




急な展開で申し訳ありません。
それと理由づけが何だかあやふやな感じですいません。

しかし、コレが限界でした。楽しんでいただければ幸いです
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