パルスライフルの系譜
ハヤブサ式(ボルトアクション、m1903)→ラプター式→(クリップ式 セミオート m1ガーランド)→バルドイーグルⅠ(フルオート可能突撃銃 G3)→バルドイーグルⅡ(小口径化 M16)
適当な素人考えですが、実はこうしております。
アカネのDMR9がマズルフラッシュを焚き、ユーリがヒートナイフで赤い閃光を描き、ヴィンセントがグレイイーグルの機関砲を発砲する。その後ろでは、生身である整備課の女子とマイク、それに束博士たちを守るように教師陣とレンジスタンスたちが円陣を組んで、カバーする。
「先生!」
「イヴァナ先生と山田先生はポイントマン、前面を警戒! 静寐たちは中央でマイクや束博士を守れ! 殿は私と楯無がする!」
教師と教え子が隊形を作り、試しに大場先生が一発ライフルを放って壁面の強度が十分すぎるほどあるに違いない事を確認した。
「全員、火器のセイフティを解除し撤退! ズラかれぇ!」
襲い掛かる亡国の機体に十機近いISがセミオート射撃による正確な弾幕を形成しつつ元来た道へと後退していく。ISの部分展開を使い、あの狭い通路でシールドを前面に出すことで鉄壁の守りを作ろうと言う、現代版ファランクス戦法をとるつもりなのだ。
「五反田君! 早くこっちに!」
山田先生が呼びかけて、撤退を促すが俺達は無視をした。通信機に先生たちの呼びかけが何度も聞こえる中、目の前の女一人の素首を叩き落とすために俺達は血眼になっていた。
「馬鹿野郎!」と大場先生のハスキーボイスの罵り声に耳を傾けつつ、俺達は彼女らの時間稼ぎを名目にして、銃床を握り、刀剣の目釘をしめる。
「さっきよりかは限定空間じゃないんだ! 目一杯ぶちこめ!」
ヴィンセントの叫びが聞こえ、俺達は駆けた。その後ろで、簪と鈴がもう一組の男女を守るように前に立つ。セシリア、ラウラが箒が何とかISを展開する中、一夏は展開したまま、棒立ちしているのだ。
一夏はぶつぶつ、と何かを呟き、他の者の声が聞こえていない。今彼は現実を現実と信じることが出来ないでいた。レシーバーから聞こえる呪詛の声はかなしく、虚無を感じさせた。
「一夏、しっかりしろ!」
箒が叫んでも彼が動くことは無い。呟く言葉に「これはどっちだ?」と聞こえる。今までの体験が幻だと言われ、それを真実だと知らされた彼のショックは戦場になった今でも続いている。
「ゴメン、ヴィンセント! 一夏たちを退避させる! それまで……」
「それまでに片づけるさ!」
叫ぶ鈴に奇声をあげて、ISモドキが小刀を振り、後退しながらの戦意が始まった。退避、大将戦の二つの戦いが起きる。赤いホーミングレーザーと龍砲をスピンで華麗に避ける亡国員達に彼女らは果敢に防衛戦を行う。
横目で映る限りの状況を見定めつつも、俺達インダストリー組はたった一人のターゲットに得物を放つ。先手必勝、狙う首は大将首。75mm弾と35mm弾が交差し、その間隙を縫うようにして、俺とユーリが両翼から、青と赤に光る刃を喉に突き立てようと脚部の跳躍で飛びつく。
瞬間的に音速に限りなく近い速度へと達し、赤いドレスを纏うスコールを一回の瞬きの合間に粉みじんにできるはずだ。弾丸が彼女に到達し、俺とユーリが確かな手ごたえをその手に感じ、命中したことを確信した。
取った、俺は確かな感触を得て、頬を緩ませた。
「悪くないわ」
だが、聞こえるはずのない声が聞こえ、目の前に眉の様な物に包まれたISが姿を現したことでソレは間違いだと気づかされた。
黄金の神々しさを一身に施しつつも巨大なサソリを思わせる尾を持つIS、それが彼女の今にふさわしいドレスコードなのか。とても戦闘用に思えない程、煌びやかで、かつ危険な香りをまき散らす彼女の機体は俺達の一撃を全て受け止めたのだ。
彼女がその場でふわりと回った。俺は動物的勘に従って、後退した。払われた手刀が俺の元居た空間を切り裂き、否、焼き払われた。
ラプターのHMDが叩きだした結果によると、3000度近い手刀が行われたことが示されており、その切れ味は如何なる軍用装甲もバターのように切り裂くに違いない。
「弾!」
同じように後退したユーリが援護のためにショートカービンを腰だめでフルオートで薙ぎ払ったが、スコールは弾道が見えているのか、スルリと抜けてヴィンセントとアカネの元に飛んだ。
距離にして20mもない距離を詰められ、ヴィンセントが前に出た。リボルバーを四発連射し、マチェットを振るい、アカネの後退を支援し、アカネのハヤブサが宙を舞ってDMR9を構えた。
「今だ!」
グレイイーグルのマチェットが受け止められた時、俺はパルスライフルの照準を合わせ、ユーリがリーパーパックを発動して、ECMを作動する。直後にFCSに不備が生じるが、DMR9はm14に、ラプターのライフルはガーランドに似せて作っている、肉眼でサイトを覗いて捉えた先に奴の命がある。
「くたばれえ!」
そう叫んで、引き金を押した時、パルスライフルが突然爆発し、ユーリが吹き飛ばされた。
衝撃に、驚愕が脳を揺さぶり、ラプターは地下の壁面へと押し付けられた。
「何?!」
スコールの機体の尻尾が伸縮し、尾の先からブレードをのぞがせていた。彼女は機器に頼らずに俺たち二人を叩きつけ、掌底でグレイイーグルのマチェットを叩き折って、指でっぽうを作り、グレイイーグルに向けた。
「ハートに火をつけて」
直後に火球が生成されて、グレイイーグルの正面装甲を抉った。ヴィンセントは何とか身をよじって、直撃を回避したが、インナーフレームまで黒く焦がした火球の威力に自身もダメージを負い、苦悶の声を上げた。
「貴様!」
ハヤブサがDMR9をフルオートで放ち、75mmの巨大な質量の砲弾が降り注ぐが、バレエダンサーの如く華麗に舞うスコールにかすりもしない。ステップを繰り返し、脚部のハイヒールがリズムを刻む。
挑発と受け取ったアカネがDMR9を仕舞い、パルスライフルを構えて、音速の域をはるかに超越した青い閃光をダンスの拍手代わりに送った。巨大な発射音が響き渡り、生身の何人かの聴覚を痛めた。青白いパルス光の矢をスコールの赤い目が捉えた時、彼女がしたことは唯一つだった。格を見せつける、ただそれであった。
「一撃必中ね」
いつの間にか、ヴィンセントから奪い取ったリボルバーを腰だめに、クイックドローで抜き、シングルアクションで撃った。そして、アカネのパルスライフル弾が、真っ直ぐスコールの頭部を狙ったはずの弾丸が、すぐ近くの足場を大きくえぐり取り、一発に聞こえた銃声は二発分で、アカネのパルスライフルのボルト部分を破壊し、機関部を吹き飛ばした。
ソレは神業だった。発射された弾丸を弾丸をぶつけて、逸らす。コミックの中だけの芸当を彼女は今この場でやってのけたのだ。一体、如何なるセンスと訓練をすれば、そのような技が出来ると言うのだろうか。
弾丸を切り裂くのはまだ、許されるだろう。相手がどこを狙うのかすらわかればできなくはない。しかし、飛来する弾丸を、それもパルスライフル弾を叩き落とすと言うのはあまりに非現実的な技だった。
質量のあるマグナム弾を射出するグレイイーグルのリボルバーをくすねていたところを見ると、最初からアカネがこう出ると分かっていたのか。
「馬鹿な……!?」
「この近距離ならば見えるのよ、アカネさん」
俺は陽動と、自らを奮い立たせるために、咆哮を上げてレーザーソードを抜き放ち、スコールの背に切りかかった。いかなる盾すら貫く暴力の光刃をスコールはマニュピレータで掴み、受け止めた。
「糞!」
左手にナイフを持って横に薙ぎ、スコールが二歩分、俺から遠ざかって人差指でもっと来いと挑発する。それは俺をなめているのか、はたまた、深謀遠慮のさきの策略に一つなのか、どちらでもかまわない。俺は叫び、突貫する。
銀と赤、二つの刃を振るって、スコールの柔肌を斬り付けんとラプターの機動性を駆使する。瞬時加速ですれ違いざまに二本を振るい、防がれるのを横目でとらえつつ、腰を捻り、再び切りかかる。尾と手刀によって、本体にまで刃が届かない。二度、三度、四度と試し、時にはウイングスラスターの翼をブレーキ代わりにして、旋回半径を小さくし、急襲する。
なびく金髪に触れることすら叶わずに奥歯を噛みしめつつも、何度も突貫を繰り返していく。金属がぶつかり合って、甲高い音を放ち、その度に複合装甲とフレームが軋みだす。スラスターの発する噴射炎が尾を引いて、スコールを中心に∞の形を描き出す。
「堕ちろ!」
またしても、骨にもショックを与える衝撃が走りる。しかし、スコールには届かない。
「堕ちろ!」
ハヤブサが急下降をして、DMRの先につけた銃剣をスコールの頭上から突き刺そうと動く、半歩動いて避けるスコールはニヤリと笑って、さらに煽る。激昂する俺とアカネ。アカネのハヤブサが距離を取り、75mm弾を放ち、その間隙を埋めるように俺が突貫を繰り返す。
変化が無い、無駄にすら思える攻撃の連続、しかして唐突に変化は訪れた。
それが十五度目の突貫を数えた時、スコールはすれ違いざまの俺を羽交い絞めにして、人間で言う所のレバーの部分を正拳突きし、俺の脳を揺らした。意識が消えかかり、視界が点滅することで俺は体をがくりと崩し、力が入らなくなった。
「弾!」
俺を肉盾にして、スコールはアカネに向けて、指鉄砲を向ける。絵面だけなら間抜けもいい所だが、その指先からは絶対的な死が送られることを俺達は知っていた。
互いに向き合う二人の女性、それを援護しようとヴィンセント達が動こうとしたが、増援の亡国のISモドキが出現し、注意を引きつけられていた。
「Face to Face。決断の時よ、アカネ。このまま顔を見合わせたまま撃ち合うのはいかが?」
「貴女は……どこまで私達をコケにする気なんだ?!」
DMR9を構えたハヤブサの腕に震えはなく、その銃口は俺とスコールに向けられている
だが、ハヤブサのモノアイがしきりに動いており、アカネの焦りと状況を収集すべくカメラアイを動かしているのがわかった。
「アカネ、撃て!」
「言われなくとも!」
直後に発せられる銃声、75mm弾がスコールのISの頭部を掠めた。DMR9はストッピングパワーに優れたライフル砲によってスコールの姿勢がぐらつき、その瞬間を狙って俺は復帰した頭をフルに活用し、肘鉄で彼女からの拘束を解いて居合切りのように胴体を陰に隠したヒートナイフの一撃をお見舞いした。
互いの信頼あっての連携。俺とアカネにこの手は通用しない
「ヒュウ!」
狙いやすい胴体を狙った斬撃は紙一重で避けられ、口笛を吹きつつ後退するスコールが左方向に例の指鉄砲を放った。火球が形成されてとんだ先に潜んでいたユーリがおり、奇襲を見破られた。
俺はすぐさまアカネの隣に後退、彼女の機体からサブマシンガンを受け取って、スコールを狙う。IS用の拳銃弾が勢いよく受講から飛び出し、彼女の体を食いちぎろうと飛んでいく。タンゴを踊るように回転し、回避して見せる彼女は巨大な尻尾を床に突き立てて、宙へと飛び上り、戦う四人を見渡し、あの竜の様な目を輝かせ、口角が吊り上がった。
「贈り物よ、受け取りなさい」
悪魔からの「火」という贈り物、それこそが動物が本能的に感じる恐怖なのか、俺は背筋をゾクリと凍らせた。
直観的に俺は彼女が牙を剥きだした、と知覚した。眠っていたはずの竜が目覚め、羽を羽ばたかせ、その威容を見せつける。人の手に負えない怪物、それを打ち倒すつもりでいた俺達は勇猛な騎士と言ったところだが、同時に愚かな四人でもあったことに今更気づかされた。
「なで斬りよ」
瞬間、ラプターの前面装甲に深い切れ込が入った。猛烈な熱と痛みが胴体に伝わり、インナーフレームが辛うじて防いだことが災いし地獄の苦しみが精神を介して頭部に伝わった。
絶叫して、俺はのたうち回った。たった一撃で、装甲を溶断され戦意から何から何まで奪われた。ハヤブサもマーダーもグレイイーグルも一切の例外なく、溶断された装甲をさらけ出し、その場に跪き激痛に叫んだ。
火器はレシーバーからして溶けたチョコレートのように液体となって原型をとどめず、床に残る後を見て、俺達を何が襲ったのかを警告音を発し続けるラプターのHMDがご丁寧にも教えてくれた。
レーザーソードでもレーザー銃でもない。それに限りなく近い、プラズマ炎の熱線。通常のISでは考えられない程のエネルギーを一度に放出されており、太陽の表面温度にも近い、炎が俺達を切り裂いたのだ。モーション、予備動作が一切ない状態からの一撃必殺、我が身を焼いたのはドラゴンブレスとも言いかえれる最悪の攻撃だった。危機を感じて半歩下がらなければ、胴体は泣き別れになっていたであろう。
「糞! 糞! 痛ぇ!」
大声で痛みを紛らわせたら、どれ程楽な事だろう。叫んだところで何も意味はない事を知っていても、それ以外に堪え切れない痛覚に抗う術を持たない。息一つするだけで灼熱の感覚が走る。スコール、土砂降りとは言ったもので、もたらすのは天からの恵み、雨などでは決してなかった。
「お前なんかに!」
必死に後ずさり、軽機関銃をコールしぼやける視界の中、スコールに向けて乱射する。パワーアシストがうまく機能せず、また構えも片手で出鱈目に放つ弾丸を前に彼女は瞬時加速で近づき、最後の火器を蹴飛ばした。
床に転がり、ベルトが弾けて、未使用の弾丸がそこら辺に転がった。そして、視界の先に映る人差指が正確に俺の胸を指していた。
その意味はたった一つ、絶望だった。
「チェック。私を倒そうとする気概、姿勢は評価するわ。センスもいい、動きもよく訓練されている」
敵からの評価、称賛。試合なら素直に喜んだだろうが、此処は戦争。故にそれは屈辱的だったが今の俺は指先一つ動かせない身、対する向うが人差指一本を気まぐれに動かせば、俺の命を無情の内に消せるのだ。垂れる金髪がラプターの頭部にかかり、彼女は微笑みかける
「しかし、まだ貴方には想いが足りない。一刹那の恨みだけでは私を超えることはできやしないわ」
「アンタが……何故そんなセリフを?」
「愛、かしら?」
芝居がかった口調、戦場、時代、謀略の場、これら全てを一つの劇場のように歩く彼女の愛とは何に対しての愛なのか。誰かを愛しているとでも言うのだろうか。
「スパルタクの言った言葉聞いているでしょう? 想いこそが人の力だと。そして、私はさっき、チェックと言った」
チェック、チェックメイトではない。詰みではなく、王手だと彼女は言った。スコールは俺に、俺達にもっと抵抗しろ、と言っているのだ。止めを刺すのはいつでもできる。そこからの逆転を俺達に期待しているのだ。
「踊って貰わないと……先にイかれても困るもの。踊りなさいな」
踊りはパートナーが居なければ、成立しない。それは戦闘も同じこと。もっと、踊れと囃し立てる彼女はやはり戦闘員ではなく趣味人なのだ。獲物を前にしての愉悦、例えるなら猟銃を持った狩人だ。キツネを駆るのが目的ではない、キツネがどう出るかを見て、その上で殺すのだ。
では、俺達のすべきことは何か、狩られるか? 逃げるのか? 答えはもう既に出ている。俺達の夢を潰しに来たご機嫌な狩人を狩るのだ。キツネとて、時には狩人に飛びかかる、弱者が強者を屠るのはいつだってあった。
絵本だってそうだ。魔女の悪いドラゴンを倒すのは、良き魔女から力を授かった人間の王子様だ。俺はそんな高貴な生まれではないが、強者に抗うことはできる。
「踊れ!」
「上等!」
答えたのは俺ではなく、ユーリだった。いち早く、痛みから抜け出した彼のマーダーがスコールの横から飛び出し、左手にショートカービンを持ち、右手にヒートナイフをかざしてソレを彼女に突き立てた。
金属がぶつかった。巨大な尾がユーリの一撃を防ぎ、赤熱した刃がカチカチと音を鳴らして、尾の装甲を焦がすが直ぐに尻尾で払われ、長い魅力的な脚が追い打ちをかけた。
「弾!」
吹き飛ばされつつ、カービンを投げて、俺は受け取ってスコールに至近距離からカービンのフルオート射撃を放った。激烈な銃声が続き彼女の機体を穿つべく引き金を引き続けた。
例の繭を作り、カービン弾を防ぐが、俺は気力で立ち上がって、項垂れるハヤブサに肩をかして、後退する。グレイイーグルも膝をつきつつ、グレネードシェルの詰まったショットガンを眉へと連射し、雨あられと榴弾を降らして行動を封じようと動く。
「くたばれ、くたばっちまえ! 貴様に利用されていた、なんて認めるかよ! ここで消えろ!」
弾倉が空になったショットガンをかなぐり捨て、パンツァーファウストに似た大口径のロケットを取り出し、スコールに放つ。空を切り、安定欲が飛び出た弾頭が繭へと突き刺さり、大爆発を起こす。衝撃波と熱波がふき起こり、地下施設という事を完全に無視したヴィンセントの無謀な火力の集中攻撃が彼女に注ぎ込まれる。
口汚いFワードを連発し、普段の冷静さを欠くヴィンセントをユーリと俺が止めつつ、さらに下がるが、彼の怒声は止まらない。
「ふざけるなよ! 僕達の望みを歪ませたのは貴様らだ!何が、エンターテイメントだ!そんな下らない事に付き合わせやがって! 殺してやる! 殺してやるぞ!」
怒りと、スコールと言う絶対的な強者に抗おうと、彼は叫び撃ちつづける。夢の為に犠牲を払い、汚名を着て来た彼の怒りは痛いほどわかった。怒りで震える声の中に彼が三年以上持っていた思いが籠っていた。いつか、いつかと願っていた望みをぶち壊しにされた一人の少年は全火力を持ってぶつけていた。
爆炎の中から再び熱戦が飛び出し、グレイイーグルの脚部を削いだ。その場に倒れるのをどうにか防ぎ、俺とユーリが彼を引っ張る。グレイイーグルは鎖骨部分から7.62mm弾のバルカンまで取り出して反撃する。超至近距離以外では何の効果もない攻撃すら、行い彼はスコールに殺意を向け続ける。
俺も耐えかねてカービンを構えたが、ユーリがその銃口を掴み、言った。
「……撤退するぞ!」
スモークとフラッシュバンを発射し、辺りの索敵を無力化した。ヴィンセントも俺もそれに対して激しく反論する。
「ふざけるな! いつから、臆病者のイワンになりやがった!? この場であの女を殺すんだ!」
「ユーリ! 大将首はそこに居るんだぞ! これで全てが!」
そこへ、一発の砲声が轟き、繭のあった方向に大口径のAP弾が着弾した。その砲声に俺達はハッとなって見ると、壁面の一部に大穴があいて、そこから山田先生とイヴァナ先生が現れた。
「良かった! 生きてるわ!」
「皆さん! 早くこっちに!」
二人の教師がやって来て、俺達に退路を開いてくれた。例の搬入路だろう。しかし、俺はこの場から去ることを拒む。もう少し火力を集中すれば、きっとあの女を屠れると思ったからだ。
「邪魔するな! もう少しで!」
「許しません、早く撤退を!」
「黙れ!」
食い下がる山田先生に対して俺とヴィンセントは舌打ちし、火器をスコールの方へと向けようとする。その銃身をマニュピレータ―で掴み、イヴァナ先生が前に出る。
「撤退だって言ってるでしょう!」
「アイツを仕留めるんだ! 邪魔立ては許さねえぞ!」
教師に敬語も無しに反論して、カービンを向けるがそこへ飛んできたのは銃弾でもなければ、スコールの熱線でもなかった。頬に伝わる感触、山田先生に平手打ちをかまされた、と知覚したのは半秒遅れての事だった。
「撤退です! これ以上の反論は許しません! 生きて逃げる以外に選択肢なんてあると思うんですか?! 聞かないなら無理やりにでも連れて行きます! 早く来なさい!」
強い口調、反抗を許さないその命令に俺達は一瞬虚を突かれた。普段とのギャップがあまりに強かったせいか、怒りに染め上がり、テールライトの赤いランプのように真っ赤になった頭が少しだが冷めた。
生徒の意志を尊重し、誰よりも優しい慈母の様な彼女が見せた表情は涙目であったが、顔は大場先生の迫力に劣らない意志が存在していた。今までの弱気な彼女がそこに居ない、それが俺達に僅かばかりに冷静さを取り戻させた。
「山田先生の……言う通りです」
「アカネ!」
アカネが復帰し、機体を立たせた。モノアイカメラが弱々しく発光し、声にも力が無いがその分、彼女は冷静さを持っていた。
「武器が無い、こちらももう限界です……悔しいですが、此処は退きましょう」
「しかし!」
食い下がった俺の首もとを掴み、心の底から声を絞り出して、彼女は怒りを封じ込めたまま言葉を放つ
「……借りは返します、必ず!」
アカネの声に涙がにじんでいるのか、微かに嗚咽が聞こえていた。殺したいのに、殺せない。無力な自分を認めざるを得ない状況にただ悔し涙を呑んで、逃げる以外方法が無いというのは耐えがたい物があった。
戦略的撤退、勝利のための転進、どれほど言葉を取り繕うと俺達の敗北に変わりがない。俺は言葉にすらない叫びを口元で抑え込み、悪態を心の中で10ダース以上を述べる。
逃げなくてならない、一分一秒でも早く、決断し再起を図る以外になす術がないのだ。
「畜生がァ!」
怒れる思いをせめてもの叫び声に変えて、俺達は先生に従った。ヴィンセントは最後まで銃弾を撃ち込み続けて、全弾役を消費しきってようやく撤退を開始した。
その日、世界、夢、戦闘、俺達はそのどれでも彼女らに敗北した。弾薬も機体も全力を尽くしても届かなかった相手、その絶対的な敵を背にして敗走した。
四機の猛禽たちが逃げていくのを見て、私は鼻を鳴らした。
「地下でも容赦なしね」
熱線の繭を解いて、自身の機体の状況をチェックし、搬入路を塞いでいた哀れな装甲版の姿を見て、ニコリとほほ笑んだ。スモークとフラッシュで索敵が効かない中でも行先は分かりきっている。Rインダストリーの少年、少女の機体はすでに戦闘能力は半減されたと言っていいが、援軍が来ない可能性は無いとは言えない
一週間、この地下施設の構造を完全に把握し、例の銀細工の人形たちを調整するのに時間がかかった。その間に五反田弾について、この学園にある施設のデータをもう一度洗いざらいに調べたのも要因の一つだ。
今は学園そのものが要塞と化しており、学園内にまだ少数の生徒も残っている以上、彼らが取る行動は外との連絡、そして脱出だ。あの教師たちは生徒を見捨てる気はない。それが大きな足かせになると知りつつも、彼女たちはそう動くに違いないのだ。むしろ、そうでなくては困る。ただ利己的に、保身のために逃げるのなら地の底まで追い詰めて殺してやる。
道化役はもう間に合っているのだ。劇場に挙げたのだから、それ相応の立ち回りをしてくれるのを期待しているのだ。期待を裏切られると、流石の私も少し怒ってしまう。
愛機ゴールデンドーンのハイヒールタイプの脚部で靴音を鳴らして、スモークの立ち込めるなか自分の存在を強調してやる。先ほどから姿をさらけ出さない鼠が隠れているのは分かっている。
その鼠の機体も石化していたはずだったが、どうやら解凍されているようだ。全く以て度し難いが、舞台をきれいに整えるのも私の役割なのだろう。背部で音がする。コソコソと機会を伺っているのがわかる。
「今更ね」
錆びついた刀で一体何を斬ろうと言うのか。曲がってしまった道を直す術などもうありはしない。かつての名声など武器になることない。刀の震えが聞こえてくる。
怒りに震えれば、震えるほどよく聞こえる。
感じる殺気は拙い。スパルタクのように研ぎ澄まされた殺意ではない。
「さて来なさいな」
人差指にプラズマ炎をため込んで、一つの刃を形作る。EOSハスタティに積まれた核融合炉を搭載することで、火器と機体そのもの推進、FCS等のエネルギーを分けることで、ISの兵器としての側面をより強化する。
乗り手の精神と体力の続く限り、永遠と戦える機体の作成によって、完成した第三世代ゴールデンドーン。
暮れた桜などに隠せるほど、太陽の光は弱くはない。だが、桜を散らすのは彼女の役目だ。
『よし、よ。マドカ。許可するわ、貴女の望み』
更新遅れて申し訳ありません。
今回は戦闘回、次回から、また色々書くのでストーリが中々進みませんが、よろしくお願いします