IS to family   作:ハナのTV

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織斑マドカに花束を

目的となる搬入路の先へと急ぐ。愛機サイレントゼフィルスを駆り、目的地へと近づくたびに私の記憶が巻き戻っていく。シャルロットの物から始まり、織斑千冬への復讐を誓ったあの日まで。

 

無為では無かった日々、だからこそ遂にこの日が来た、と思える。この手で姉さんを葬れる日が来たのだ。もし今日が人生最後の日だろうと、この最良の日の内に死ねるなら本望かもしれない。

 

だが、今日死ぬにせよ、生きるにせよ。必要な事は織斑千冬の死、だ。それだけは完遂しなくてはならない。その為の腕がある。サイレントゼフィルスのマニュピレータ―ごしにスターブレイカーを握りしめる。使い慣れたライフルを死神の鎌として、私は飛ぶのだ。

 

今日という日はヘッドギアのバイザーを外し、この目で直接その最期をみとるのだ。

 

そんな思いにふけっていると、ハイパーセンサーに幾つかの機体の反応が捉えられた。数機のISの反応、ライフルを構えてスコープを双眼鏡代わりに敵機の集団を捉えた。敵の戦闘の二機のラファールもマークスマンライフルと思わしき銃器と戦車砲を構えて警戒に入った。

 

その後ろに控える機体も臨戦態勢に入ったのを視界の端に捉えるが後方の機体群は損傷が大きいようで、まともな武器を持っているのは二機のみだ。装甲が溶断されているのを見て、恐らくスコールと交戦していたのがわかった。あの跡は彼女のゴールデンドーン以外で再現するのは難しいからだ。

 

だが、このタイミングで来るとは何とも間が悪い。私は先制攻撃を仕掛けようとトリガーに力を込めようとした。しかし、そこで敵のマークスマンライフルを持つラファールがいつまでも発砲をしないのに気付いた。

 

「何?」

 

疑問の言葉を口にした。思えば距離にして一キロもない。もう500mまで来ている中で一度も撃ってこないのはあまりに不自然に思えた。この後の戦闘を気にしての物か、それとも

私の顔にまつわるモノなのか。

 

距離が狭まり、200,150と縮んて行く。だが、一発の砲声も上がらず私達は互いに構えたままだった。スコープに映るメガネの女性は額に汗をかき、息を落ち着かせようと必死の表情を浮かべている。もう一人は声を張り上げて「撃つべき」としきりに主張しているが、その割に発砲する気配がない。

 

そして、距離が5mになった。目の前に彼女らの姿が入る。ライフルの銃身がぶつかり合った。コン、と小さな金属の綺麗な音が鳴って、私と彼女は互いに表情を読み合った。互いにこんな所で小競り合いをしている暇はない、奇妙な連帯感を感じ取った。

 

銃口は相手の頭を捉えており、この距離ならゼフィルスの出力なら一機は確実に戦闘不能に追い込める。だが、それをしなかったのは互いに別の目的があると知り、この刹那の間に一種の馴れ合いを演じたからだ。

 

甘い、と言わればそうだが、この場はその甘さに従った。

 

再び距離を離して、彼方の向こうに飛んでいった。後衛の黒い小型の一機は最後まで短いカービン銃を向けていたが最後までマズルフラッシュを焚くことはしなかった。

 

私はその一行を少しの間だけ見つめていた。光へと向かって飛んでいく、彼ら。地の底の闇へと突き進む私、その違いに一体どれほどの差があるだろうか、と。

結局のところ、此処を抜けようと、彼らに待っているのは地獄しかありえないのだ。

 

あそこも地獄、こっちも地獄。救いのない世の中だ。男も女もいつだって戦いの中でしか生きられないのだろう。その中でシャルロットは生きられるだろうか・

 

「どうしたの~? マドッち」

 

本音の声が聞こえたが、私は無視した。そんな事を考えるな、と言い聞かせ、人生は戦い、ならばこそ抗って見せろと奮起させる。その為の復讐だ。私と同じ顔も父の仇である姉さんもどちらも私の人生を作る上で死んでもらわなくてはならない。

 

一時期は迷いすらしたこともあった。私の周りの大人たちは私の目的を笑っていた。そんなツマラナイモノ、と言うのが大勢だった。復讐は後に続かない、それを追って叶えたところで残るのは虚無だけ、虚無には楽しみも嬉しさもない、と彼らの多くは言った。

 

シャルロットも何故そんなことを問いかけて来た。思えば、変わった女だ。完全に自由になったのに、未だに過去に囚われているところは私と同じなのだから。

 

選択肢はいくつもあった。亡国に染まり織斑千冬を忘れる。スレートに付いていくのもアリだったかもしれない。普通の少女は無理でも、どこかの変わった少女にはなれたかもしれない。

 

いくつもの枝分かれする人生、私はその中で一つだけ選択した。

 

織斑千冬は殺す。たとえ、シャルロットに言われようとこれだけは譲れないのだ。スコールが言う後世の人々とやらが私を見るなら、同情なり、悲しむなりするがいい。だが、泣き寝入りも忘却するのも私にとっては逃げなのだ。目的地へと躍り出た。舞台はいよいよ幕が上がったのだ。ここから、本当の私の人生が始まり、この日のうちに終わるだろう。

 

織斑マドカが終わる。もし生き残れれば、マドカとしての人生が始まり約束を果たす。ただそれだけだ

 

 

 

 

 

 

 

私の人生の開幕、スコープに入ったつばぜり合いをする織斑千冬とスコールを捉え、嬉々としてトリガーを引き絞った。青い暴力の奔流が薬室から勢いよく発射され、射線に居た二人へと閃光を走らせる。

 

回避するスコールにブレードで受け止める姉さんを捉えて、もう一発放つ。レティクルを胴体から足場に移しての射撃、鼻に香るイオンの香りに酔いしれつつ、姉さんの足場を崩す。

 

「ようやく来たわね、マドカ。待ちくたびれたわ」

 

スコールの音色とも取れる美声を耳に捉えつつ、私は意識を目の前のターゲットに集中させていた。後退しようとする彼女に向けビットを放ち、退路を断とうとする。ゼフィルスは私の意志を汲んだのか、いつもより早く動いてくれる。

 

「会いたかったぞ、姉さん! 初めまして、そして、死ね!」

「貴様まで!」

「待ちに待った殺し合いだ! そうだろう?! 姉さん!」

 

聞こえた声はあの時と変わらない。もっというと私の声によく似ている。その声を一秒でも早く断つためにゼフィルスのビットから閃光を放ち、頭を抑えようとする。しかし、

流石はブリュンヒルデ、ブレード一本で情報から襲い掛かるレーザーを斬り、脚力による跳躍で飛び、二機のビットを瞬きする間に切断した。

 

その隙を狙い、スターライトを二連射する。第一弾は頭部を掠め、第二弾はひらりと身をフル変えして回避される。こちらの銃口を読んでいる、そう直感した次の瞬間には瞬時加速で私を間合いに捉え、ブレードを横薙ぎに一閃する。五歩分、大目にバックステップでコレをよけ、続く刺突をライフルストックでずらす。

 

頭部を狙った雪片一式の切っ先が空を切り、私の黒髪を何本か切り取っていく。咄嗟にサブとして備えていたリボルバーを左手に引き抜き、ダブルアクションのまま引き金を二度絞る。

 

「遅い!」

 

だが、マグナム弾が躍り出た頃には織斑千冬はその空間にはおらず、いつの間にか後方へと回っているのをセンサーでとらえる。三度目の斬撃ががら空きの背中にぶつかる寸前に私はゼフィルスのスラスターの一機をパージし、そのブレードの盾として使った。

 

ブレードがスラスターを両断すると同時に強烈な熱と閃光が起こり、二機の間に爆発が生じる。爆風で前に飛ばされるのを利用し、残るスラスターも使い距離を離す。頭を床の方へ向けてさかさまのまま、ライフルを構え、レティクルの十字線に捉えた仇に引き金を引く。

 

呼吸、息を止め、意識が集中させる、スリーアクションを流れるように行った一撃は正確に織斑千冬の胴体に一発命中させた。ISスーツに直撃したレーザーは絶対防御によって槓子しなかったが大きなダメージを与えたのには間違いない。

 

織斑千冬が苦痛に顔を歪ませ、怒りにさらに歪ませる。その顔が見たかった、と私は口角を吊り上げて、嗤う。

 

「貴様ァ!」

 

織斑千冬はブリュンヒルデ、当時最強だったのは言うまでもない、しかし、あれから数年経ち、教師として仕事をし、この一年も他の教師や専用機持ちに任せっきりでは流石に腕も鈍る。

 

感覚はあの頃でも体は違う。アスリートや楽器演奏者が昨日を今日という日に繋げるために鍛錬を忘れないのはそのためだ。織斑千冬を倒すのは不可能ではない、困難であっても絶対にありえないことは無いのだ。

 

「スモーク!」

 

スモークディスチャージャーから煙幕弾を発射させ、視界を遮る。第二の勝機はここだ。コレは試合ではないという事。単純な殺し合いだ。その為にはいかなる手段も使うのも認可されている、一発エネルギーを奪えば終わりの決闘ごっことは訳が違う。

 

そして、装備もだ。ハイパーセンサーが優れていようと、万能ではない。感覚の延長、視覚と聴覚を限りなく高め、レーダーとして使おうと、妨害する方法はいくらでもある。

 

向うの暮桜は織斑千冬専用機、機動性も反応性も他のISと比べても高水準、第三世代以上とも取れる。だが、ブレード一本にしか頼らない操縦者の機体に一体どんな索敵装置があると言うのか。

 

残った二機のビットを忍ばせて、私は軍用として改良されたゼフィルスにサーマルを起動させる。ミラージュマントに身を包み、視覚から消え、機体の動きを最小限に音を小さくする。

 

静かに、ただし鋭さを失なわないように、自身を一振りのナイフとし織斑千冬を殺すその時までジッと待つ。磨いた殺しの技術は伊達ではない。聞いてきた大人たちの言葉に真実を見出し糧にしてきた。

 

レティクルに織斑千冬の影が映る。居合抜きでもする気なのか刀を両手に持ち水平に構える。じっと動かないその姿を見つめ、私は引き金を引くのをやめて思考する。撃つべきか、撃たないべきか。

この状況下でああも落ち着いているには何か訳があるに違いない。

 

コチラが二重三重と策を葉栗目成さなければならない相手だ。正面での戦いなら、間違いなく勝てないのは知っている。たとえ、腕を鈍らせようと光速の弾丸を弾くのだ、油断すればこちらが斬られる。

 

保険はあっても、それは最後の手段だ。まだ使う時ではない。何を狙っているのか、私は頭の神経回路を働かせる。脳内に分泌されるアドレナリンなどの神経物質の分泌を押さえつけてクールにさせる。

 

状況は私に有利だ。ロクな索敵機能もない暮桜にこのスモークとミラージュマント、さらに静止状態のゼフィルスを発見するには私の初弾を受け止めるか、回避することで、その位置を発見する以外ないはずだ。

 

だが、こちらにはフェイクのためのビットを二機、所定のポイントに待機させている。ビットに食いつき、刀剣を振るえば必ず隙ができるはずだ。距離にしても、そう遠くないとは言えセミオートマチックに近いゼフィルスのスターブレイカーならば、二発目を撃つ時間は十分にある。

 

何を迷う必要がある。いくら策を練ろうと奴にできることは限られているはずだ。

なら、私が取るべき行動は一つ、囮のビットを使い、初撃を外させたところを狙い撃つ。

保険をかけた一撃、コレが最善の手のはずだ。

 

「……もらったぞ」

 

口元だけを動かして、ゼフィルスに指示を与えビットに発射させる。ビットの光線がきらめき、織斑千冬へと伸びていき、命中した。予想とは違い直撃し、暮桜がよろめいた。そのスキは絶好の機会、いよいよ、この織斑マドカの人生に決着をつけれるときが来た。

 

私はトリガーを引き絞って、必殺の一撃を手向けの花として彼女に飛ばした。銃身から飛び出す破壊の閃光が織斑千冬の頭部に真っ直ぐ進み、私はその瞬間までスコープを覗く。

 

その死神の望遠鏡から見えたのは光弾が呆気なくブレードで弾かれ、こちらに猛進してくる織斑千冬の姿だった。

 

「何!?」

 

驚愕の声を出し、次弾を撃つより前にスターブレイカー、星砕きは銃身からレシーバーまで二枚に下ろされ、帰す刀がゼフィルスの装甲を突き破って、胸へと突き刺さった。

 

胸に伝わる痛み、喉の奥から鉄の匂いが込み上げて、その液体を口から吐き出した。肺を貫かれたのか、呼吸がしにくく、一回息を吸って吐くだけで途轍もない激痛が脳を介して全身に伝わる。

 

酸素を求めて呼吸を繰り返し、浅く荒い息をする。何故、と疑問が浮かぶ私はゼフィルスの脚部を頼りに踏ん張って倒れないよう踏ん張る。

 

「馬鹿な……確かに貴様には私の姿は……」

 

マニュピレータ―で刀剣を掴み、見下すような視線を向ける千冬にそんな疑問の言葉を口に出す。

 

「違うな、見えていた。貴様は浅はかだ」

「何?」

「スコープのレンズの反射を忘れていたな」

 

私は驚きのあまり、目を見開いた。そんな馬鹿なことがあり得るはずがない。スコープの光の反射など初心者のミスだ。ライフルはマントで覆われており、光など反射しないはずだ。ましてここは地下施設、照明も先の戦闘で破壊され、大分暗い中で一体何の光を反射させたと言うのか。

 

「分からないのなら、教えてやろう。貴様は最初にビットのレーザーを放ったな? アレの光を貴様は計算に入れていなかったのだ。レーザーの輝きはISのセンサーで見れば大したことは無いが、実際は違う」

 

保険のための一撃、アレが原因と言われ、私はその光景を思い出していた。だから、千冬はあれをわざと受けたのだ。肉を切らせて骨を切る、剣の道に携わる彼女らしい方法という訳か。

 

「いかにマントで覆うともスコープと銃口は露出される。一さえつかめば、遅れなど取りはしない。大方ハイパーセンサーしかないコイツを見くびっていたのだろうが、私はお前のようなガキとは違う」

 

あの一瞬の輝きでこちらの位置を特定した、それは称賛に価した技術だが、屈辱的だった。憎き相手に勝たれる教鞭など誰がありがたみを覚えるものか。しかし、胸から流れる赤い血潮が止まらず意識が暗くなり、思考もかすむ。

 

「貴様の小細工など、通用しない……これでようやく自分と同じ顔の人間を消せる。貴様も分かるだろう、同じ顔が、同じDNAを持つものがもう一人いることの気色の悪さを」

 

語られる言葉は勝者だけが持つ余裕なのか。既に倒したと思われている私に織斑千冬は持論を語る。口元を真っ赤に染めた私はその織斑千冬を睨みんだ。その視界の端に映るスコールの楽しそうな顔も同じように睨む。

 

「よそ見などするな」

 

ブレードがより深く差し込まれて、さらに痛みが走り、血がさらに流れていく。私の血潮が流れる、もう命が切れるのだろうか。それまで、織斑千冬は話すつもりだろう。

 

「父はお前を作った。お前を私の代替え品としてな。コレがどれ程気持ち悪く、そして恐ろしい事か分かるか? 父は私達二人を捨てて、人形に愛を求めた! 束も、お前も私達から父を奪ったのだ!」

「……奪ったのはお前の方だ」

「黙れ!」

 

私の父を奪ったのも彼女だと告げたが、彼女は目を血走らせて、反論を許さない。拳を握りしめても、織斑千冬を倒すに必要なものが手元にない。ゼフィルスのエネルギーも生命維持に回されて、拡張領域から武器を取り出すことができない。それどころか、意識がそちらに上手く回らない。

 

「お前たちは私達姉弟から何もかも盗人のようにかすめ取った。お前は復讐と言ったそうだが、私達の方がその権利がある。……お前はこのまま死ぬべきだ。私と同じ顔は二つと要らないのだ」

 

このまま、死んでいく。それは避けねばならない。手に力を込めて、ブレードを掴み苦悶の声を出し、どうしようもない今に叫ぶ。痛みと現実を拒否しようと咆哮を上げる。握りしめたマニュピレータ―がスパークをまき散らす。

 

「……死ねない」

 

下らないものを見るかのような目で見る千冬に左手を伸ばす。此処まで来て、何もできない。何もなしたわけでもないのに、私は死んでいくのか。

血が止まらない、意識が消えて行く、命が流れて行ってしまう。

まだ、死ねない。目の前の女の息の根を止めるまでは死ねない。ほんの少しでいい、血が流れるのが止まれば、意識を集中できればいい。手が届くなら、殺すことだってまだ可能のはずだ。

 

「死にたくない……!」

 

私は死にたくない。まだ為していないことがあるのだ。あと少しで、叶う。復讐の後の虚無とて知らないまま死ねない。

 

シャルロットとの約束が守れない。

 

「シャルロット……?」

 

何故、その名前が出たのだろうか。疑問が浮かんだ。顔を見上げて千冬の顔を覗く。そこにまぎれもなく太陽のような女の子がいた。シャルロットの笑顔が見れた。

死ぬ間際なのか、痛みが引いて行き、体が凍り付いていく。幻覚が走り、そこに見えたのは父でもなければ、スレートでもない。彼女だった。

 

そうだ、と私は気づいた。私はさっき生きたいと願った。織斑千冬を殺す為ではなく、浮かんだたった一人の少女の顔を思い出して、だ。何という矛盾、だろうか。

 

何が復讐のために生きる、だろうか。そうだ、私は確かにその為に行き、それを目的としていて、それは今も変わらない。

 

でも、私はほんの少し前に約束した。私は忘れるところだった。私は未来をいつの間にか求めていたのだ。虚無を求めていたのではない、織斑千冬を殺して、それまでの私をリセットしようとしていたのだ。

 

いつの間にか目的が変わっていた。私は未来を望んでしまった。そんな甘い夢を思い描いてしまっていた。だが、今それこそが私を立たせている原動力だった。

 

いつかスパルタクが言っていた。恋だの愛嬢だの、と下らない感情が時として人に力を生むと。今の私がそうだと言うのか。ならば、それでいい。

 

崩れかけた脚にもう一度力を籠め、引き抜かれようとされている刀をもう一度掴む。今度は渾身以上の力でしっかりと。力を込めれば込めるほど、血の流れが早くなっていくが、気にしなかった。引き抜こうとする織斑千冬の顔を見て、私は言葉を放った。

 

「復讐の、権利と言ったな?」

「それが何だ?」

 

私は冷たい視線を射抜いてくれる、遺伝子上最も近い人間に向けて、笑みを見せた。意識がハッキリとしてきた。ランナーズハイのように、死ぬ間際の一瞬の回復、それが私に訪れた最後の機会だった。

 

「その権利ならくれてやる。ただし!」

 

最期の力を振り絞り、拡張利領域から一つの兵器を呼び出す。およそ、織斑千冬に使うことなどできないであろう、その兵器の発動条件は一つ。ただそれを相手のISに直接つけるだけ、という単純明快で最も難しいものだ。

 

「生きる権利は渡さない!」

 

復讐と未来、織斑千冬とシャルロット、二つの異なるモノを見て、私はその兵器、リムーバーを暮桜に取り付けた。

 

射撃屋である私がブリュンヒルデの彼女にこれを使う機械はこんな時しかない。スナイパーが一矢報いるための最後の手段、リムーバーを密着させた状態で起動させた。迸る雷のようなスパークの嵐とエネルギーが放出されて強烈な熱を作り出す。

 

恐ろしいほど怖い形相をする千冬を見て私は嗤い、私と彼女のISが消えていく。自分の愛機であるサイレントゼフィルスに乱暴な扱いを謝罪する間もなく、生身となる前に私は最後の呼び出しを行った。

 

リムーバーが起こした嵐にISは消えた。オーバーヒートとなった二人のISが待機状態へと戻ってしまい、胸に刺さっていたブレードも一緒に消え堕ちた。

 

そして、私は両手で一丁のリボルバーを千冬に向けた。ゼフィルスの、愛しの蝶が最後に運んできた銃器を素手で持ち、その引き金に手をかけた。

 

初めて人を殺した時と同じ、ずしりと来る重さ。千冬の表情が驚愕の物へと変わる。そんな表情を私は目に焼き付けながら、引き金を絞った。激烈な反動と砲声に体を吹き飛ばし、私は宙に浮いた。

 

フワフワとした感覚が襲い掛かり、世の全てが急に遅く感じた。痛みもない、音すらもない世界に私は放り投げられた。叶った夢と叶わなかった夢、双方を思い出して、私は笑い涙した。

 

そこに虚無は無かった。ただ、一つの達成感があった。織斑マドカの人生が終わり、マドカの人生が始まる。生まれ変われるような気持ち。ほんの数秒だけ味わえたこの気持ちに嘘はない。

 

終わった、ならば今すぐシャルロットの元へ行こう。そんな事を何故か思ってしまいつつ、意識を失った。すう、と眠りにつくような心地よい眠りに私は入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず、この後すぐに弾達に戻ります。
何だか、疲れているのか。前と比べて話がうまく作れませんが、
とりあえず更新していきます。

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